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細田成嗣   Jul 14,2014 UP

 1988年生まれの山田光はもっとも若い世代に属するマルチリード奏者/即興演奏家であり、プリペアド・アルトサックスを用いた演奏を中心に活動を行ってきた。サックスの中に鉄塊を置き、それがマウスピースに取り付けた強力な磁石に反応することによって偶発的に生まれる倍音の響きをコントロールしようとしたものや、ベルの縁に金属板を被せることで「さわり」の効果を施したもの、あるいはマイクを差し入れることで、気息がサックスの音として成型される以前の、楽器それ自体のふるえと内部の気流を音楽の場へと連れ出そうとしたもの、等々。そうした先鋭的な──というのは常識から外れた先端を指すのではなく、つねに現在の常識に対して批判的な疑いを抱きつづけているという意味での鋭さ──音楽に携わってきた彼が、ヴォーカルを担当する穴迫楓とともに組んだポップ・ユニットの、本作品は初の全国流通盤である。ライヴでは白石美徳のドラムスを加えたトリオ編成で、山田はサックスやギターを用いた生演奏も行うものの、本盤においては全トラックがサンプリングのみを用いてつくられており、音盤ならではの音楽が展開されている。

 トラックはキーワードとなる言葉を含む楽曲だけを素材にするといったふうに、それぞれ特定のコンセプトのもとに生み出されている。たとえば7曲めの“Divide, Rule and Love”は、シカゴ音響派のグループであるタウン・アンド・カントリーの“Bookmobile”を基調にしながら、スウィングル・シンガーズの“The Well-Tempered Clavier Book 2”から抽出したコーラスがアップテンポ・スイングのリズムと絡み合うのが特徴的な楽曲だが、これは「book」という単語がキーワードであり、この言葉を含む楽曲だけがサンプリングの対象になっている。あるいはジョーイ・ネグロがリミックスしたアシュフォード&シンプソンの“Love Don't Make It Right”から取られたキックの配置のゆらぎがJ・ディラを思わせもする8曲めの“Don't Throw Themselves Away”は、「don't」という単語のつく楽曲だけを選んでサンプリングされている。そうした明確な主題がある一方で、再構築された音楽からは「book」や「don't」といった様相を聴き取ることができないことを鑑みれば、これらのテーマはあくまで楽曲を制作するための口実にすぎないのだろう。素材の選別をキーワードを含むかどうかという偶然性──それは多分に即興的である──にいちど委ねることによって、主体的な判断を弱めているのである。

 上に挙げた例にとどまらず、山田光は時代も場所も異なるあらゆる音楽をサンプリングする。ジャズ、ロック、ディスコ、アイドル、さらにはタンザニアのポップスや種々の民族音楽から入江陽という新しい才能まで。しかしその選択はキーワードとなる単語が含まれたすべての楽曲からなされているわけではない。ここでは山田光がどのような音楽を聴いていて、それをどのように「所有」してきたかといった履歴が基盤となっているからである。それは音楽が情報化した現代に生きる人間が時折抱く幻想への、あらゆる音はすでにそこにあり、つねに参照可能だという妄信への痛烈な批判となっている。聴取可能な音楽の量がどれほど増えようとも、ひとが体験できる量はたかが知れているのである。そこには接触の契機がなければならない。そしてこの点において、同じカットアップ・サンプリング・リミックスといった手法を用いたシミュレーショニズムが作者の名のもとに創られた作品からのアプロプリエーションに眼目があったのとは異なって、ここでは聴者の実存的な生が主眼となっているのである。山田光という固有の生を生きるライブラリーから、即興演奏家ならではの感覚をもって取り出された音素材を用いて、彼は極上のポップスを生み出している。

細田成嗣