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Magic Mountain High

Magic Mountain High

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E王

三田 格   Dec 25,2013 UP

 91年にデビューしたヨケム・パアプ(スピーディー・J)と07年にデビューしたルーシーによるツァイトゲーバーと同じく、昨年、「ワークショップXX」でいきなりデビュー・ヒットを飾ったマジック・マウンテン・ハイも92年から活動を続けるムーヴ・Dことデヴィッド・ムーファンと05年にデビューしたジュジュ&ジョーダッシュによる「年の差」ユニットである。ファクトリー・フロアがカーター・トゥッティやピーター・ゴーダンを訪ねたり、パークがE・ノイバウテンと組むのとは違って、同じテクノというタームのなかで年齢差を感じさせるわけだから、レイヴも長く続いたよなーと(『テクノ・ディフィニティヴ』が売り切れちゃうわけだよね……)。

 初期にはアース・トゥ・インフィニティやディープ・スペース・ネットワークの名義でアンビエント寄りの作風を重ねていたムーヴ・Dはすぐにも故ピート・ナムルックとタッグを組むようになり、さらにジョナ・シャープ(スペースタイム・コンティニウム)と組んだリアゲンツや、ハイアー・インテリジェンス・エイジェンシーとのジョイント・アルバムでもアンビエント風のアプローチは揺るがなかったものの、ゼロ年代に入るとベンジャミン・ブルンと組んだディープ・ハウスのユニットや、ソロでもハウスの要素が強くなっていく。一方、リジー・ドークスのサイコステイシスからデビューしたジュジュ&ジョーダッシュはイスラエルからアムステルダムに移ったふたり組で、「ザ・ハッシュEP」(05)を筆頭にトリップ性の高いディープ・ハウスを追求し、ヴァクラのリミックスを手掛けたり、ジャスーエドやシュティフィのミックスCDにフィーチャーされるなど、この5年ほどで建て直しが進んだディープ・ハウス・リヴァイヴァルの一翼を担っていた存在だといえる。

 この両者がどのようにして出会ったのか……は知らない。マンガのように出合ったのかもしれないし、ありきたりにSNSでつながったのかもしれない。いずれにしろ「ハウスがあれば年の差なんて」どこかで超えられることになり、マジック・マウンテン・ハイは結成される。そして、「ハッシュ」を思わせるデビュー・シングル「ワークショップXX」がハードワックス傘下のワークショップからリリースされ、これがまず大人気を呼ぶ。

 続いて、今年の夏にセカンド・シングル「ライヴ・アット・フリーローテイション」がリリースされたと思ったら、これが両サイド合わせて30分を越すロング・ジャーニーとなり、ファースト・アルバムはさらにその完全版である63分17秒のライヴ・ドキュメントとなった。まったく途切れることなく続くディープ・ハウスの波状攻撃である。攻撃……というか、とても優しい波に揺られ続け、ときにアシッドに、あるいは、しっとりとした情感に揺られ続けるだけ。目新しいものは何もない。気持ちい……としか書きようがない。

 「マジック・マウンテン」というのはトーマス・マンの『魔の山』のことで、妻がユダヤ人だったトーマス・マンは逸早くアメリカ西海岸に逃げ出し、ナチスが敗退してもすぐにドイツには戻らずに、マリファナばかり吸いまくっていたらしいので「ハイ」と名付けた……かどうかはわからないけれど、教養と娯楽がないまぜになった上手いネーミングではある。ヴァクラというのもウクライナの小説家の名前だそうで、ゲットー・ミュージックもいいけれど、こういった楽しみもやはり捨てがたいことはたしか。ちなみに村上春樹『ノルウェイの森』の元ネタとも言われている『魔の山』のストーリーはむしろ堀辰雄『風立ちぬ』に酷似していて、『魔の山』の主人公であるハンス・カストロプが宮崎アニメ版にも登場し、軽井沢のホテルをなぜか「魔の山」と呼んだりw。

 スタンリー・キューブリック監督『シャイニング』の謎を解く『ROOM237』(1月公開)を観ていたら、ここでもハンス・W・ガイセンデルファー監督による『魔の山』の映画版が使われていた。5つの仮説を中心に謎解きが進められていく『ROOM237』は半分は凄まじい妄想だけれど(それはそれで楽しい)、ひとつは大正解ではないかと思わせるものがあった。『魔の山』とナチスを結びつける下りはともかく、エレベーター・ホールに血があふれる理由は非常に納得がいくし、マニアというのは、しかし、ホテルの壁にかかっていた絵から何からよく観てるものだなーと(タイプライターの色が変わるなんて、まったく気がつかなかった)。サウンドトラックはしかも、元V/Vmのケアテイカーで、前後して〈モダーン・ラヴ〉からザ・ストレンジャーの名義では3作目となる『ウォッチング・デッド・エンパイア・イン・ディケイ』がリリースされたばかり。

 ケアテイカーの諸作よりもデムダイク・ステアやアンディ・ストットに近いものとして聴こえてしまうのは、やはり先入観のせいだろうか。インダストリアル・ガムランのような“ソー・ペイル~”、同じくトライバル・リズムを使った“スパイラル・オブ・デクライン”、そして、ビートルズ“グッド・ナイト”をノイズ化したような甘ったるい“プロヴィデンス・オブ・フェイト”や“ウェアー・アー・アワ・モンスター・ナウ~?”が、あー、もう、たまらない。『崩壊していく「死んだ帝国」を眺めながら』というタイトルにこめた思いがどんなものであれ、結果的に出てくる音がこのように甘美で優雅なものになってしまう精神状態というのは一体どのようなものなのだろうか。そして、どれだけUSアンダーグラウンドのポテンシャルが高いとしても、このような歴史の果てにある感覚はそう容易に生み出せるものではない。ネガティヴの年輪が違う。

三田 格