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Stateless

Stateless

Matilda

Ninja Tune

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野田 努   Apr 05,2011 UP

 よく買いに行くレコード店に話を訊くと思ったよりも売り上げが落ちずにいるそうで、放射能汚染との共存を強いられてしまったわれわれの運命も今後どうなるのかわからないとはいえ、やはり人間にとって娯楽は重要なのだろう。たとえ財布の中身がさびしくても千円ちょい払えば新しい体験を楽しめる音楽となれば手を付けやすい。
 UKはリーズのバンド、ステイトレスによる〈ニンジャ・チューン〉からの最初のアルバムもこの3月に発売され、レコード店の壁に並べられている。アルバムなので2千円以上するのだが、ここでぽんと惜しみなくお金を出せる人は根っからのトリップホップ好きというか......、ゼロ年代に〈ニンジャ・チューン〉が押し進めてきたシネマティック・オーケストラ、あるいはボノボといった大人びたダウンテンポの路線が好きな人である。本サイトのアンカーソングのロンドン・レポートを読むと、UKにおいてクラブ・カルチャーを背景に持つトリップホップがこの10年でミュージックホールの音楽へと展開している様子がわかるが、なるほどそれはそれでひとつの発展の仕方である。

 ステイトレスは、2007年にベルリンの〈スタジオ!K7〉からデビュー・アルバムを発表しているが、ヴォーカルのクリス・ジェイムスはその前年のDJシャドウの『ジ・アウトサイダー』でフィーチャーされていた人で、メンバーのキッドケイニヴィルは地元リーズでヒップホップ・レーベルを主宰しているようなターンテーブリストであるから、それなりにキャリアのあるヒップホップ・コミュニティから生まれたバンドなのだろう。クリス・ジェイムスはネリーとトム・ヨークを足して割ったような悲しく甘いR&Bを歌い、バンドもDJクラッシュとレディオヘッドを足して割ったような音を得意としている。ゆえにステイトレスは、トリップホップのインディ・ロック・ヴァージョンとも形容されているほどだ。実際のところアルバムは始終スローに、あるいはUKらしくメランコリックに、暗く沈んでいくような展開を持っている。それぞれの楽曲の完成度ないしは演奏レヴェルも高く、曲ごとのアイデアもあり、きっと〈ニンジャ・チューン〉からの本作『マチルダ』によってさらに広く注目されることになるのではないかと思う。

 バンドのビートはヒップホップから来ているが、しかしステイトレスの音楽を特徴づけているのはメロディである。ストリングスのアレンジに関しては新古典主義に影響されたという話で、そういう意味でも作品からはヨーロッパの哀愁が滲み出ている。チェロはワルツを奏で、小刻みに震える物憂げな電子ピアノ、気難しいジャズ・ギター、そして淡々としたパーカッションのうえを憂鬱なソウルが歌われる。〈ハイパーダブ〉のダークスターを彷彿させるその暗いスタイルは、冷えた心臓に共振する。アルバムのなかでももっとも美しい曲、ギターのアルペジオをバックに"アイム・オン・ファイアー"でクリス・ジェイムスはこう歌っている。「残りの世界が消えたとしても、僕は気にもしない」......深夜になると毎晩やっている東電の(控えめ言っても腹が立つ)会見を見たあとでこの歌を聴いていると、本当にいま自分はこういう世界にいるのだと感じる。

野田 努