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Bibio

Bibio

Mind Bokeh

Warp/ビート

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野田 努   Mar 24,2011 UP

 スティーブン・ウィルキンソンによるビビオは、それまでも3枚のアルバムを発表していたが、2009年に〈ワープ〉が発見したことで、いまやエイフェックス・ツイン、そしてボーズ・オブ・カナダにつぐIDMの綺羅星の仲間入りを果たした。そのアルバム『アンヴィバレンス・アヴェニュー』を特徴づけているのは、ボーズ・オブ・カナダのファンタジーにフォークがブレンドされたいわば"フォーキー"なIDMサウンドだ。とくに人気の高かった"ハイケスク(ホエン・シー・ラフス)"と"ラヴァーズ・カーヴィングス"はその代表的な曲で、さらにもうひとつ彼の音楽を特徴づける牧歌性は"クライ!ベイビー!"に象徴される。そういう観点で言えば、ビビオはエイフェックス・ツインとアニマル・コレクティヴ(そしてまたトクマル・シューゴ)を近づける存在である。
 また、ジェイディラやフライング・ロータスといったビートの実験者たちからの影響は"ファイアー・アント"に表れている。あるいは、その音声処理はポスト・ダブステップとも連動している。こうして『アンヴィバレンス・アヴェニュー』は、ボーズ・オブ・カナダからマウント・キンビーの溝を埋める作品ともなった。2010年にブレイクしたノッティンガムのローンによる『エクスタシー&フレンズ』は、明らかにビビオ(そしてもちろんボーズ・オブ・カナダ)の影響下で展開したエレクトロニック・ミュージックである。......まあ、とにかく、彼の新作『マインド・ボケー』は、要するに彼の評価が決定的なものとなってからリリースされる最初のアルバムとなる。

 『マインド・ボケー』の評価は、リスナーがビビオに何を求めているのかにもよるだろう。1曲目の"プレテンティアス"は、ビビオの(おそらくはもっとも大きな)魅力であろう牧歌性とは異なる暗いシンセ・ポップをグリッチ・ホップを通してやったような曲である。そしてこの暗さは、もともと彼がクラウデッドのリリースなどで知られていたロサンジェルスの〈マッシュ〉からデビューしているというその出自を引っ張り出すと同時に、『アンヴィバレンス・アヴェニュー』に続いた編集盤『ジ・アップル・アンド・ザ・トゥース』でも見せたロックへのアプローチをも匂わせている。続く"アニシング・ニュー"も不吉なはじまりで、そのビートには彼のジェイディラやマッドリブへのシンパシーが顔をのぞかせている......が、しかし曲はIDMというよりは前作以上にポップへの情熱に導かれている。このように『マインド・ボケー』は、彼のトレードマークである"フォーキー"な牧歌性に背くようにはじまる。面白いのが、いくつかの収録曲のチルウェイヴとの近似性である。ビートを際だたせて、メロウな感覚が流れる"ライト・シープ"などはトロ・イ・モアのデビュー・アルバムを彷彿させる。だいたい、(おそらくある種のギャグとして)"アーティスツ・ヴェイリー"のようなディスコまでやっている!

 こうした自分に貼られたレッテルやファンの期待への裏切りは、アンビエントを求められたエイフェックス・ツインが『アイ・ケア・ビコーズ・ユー・ドゥ』をやったように、アーティストにとっては真価を問われる挑戦となる。ビビオは、かつてのエイフェックス・ツインのような無謀な冒険を選んではいないが(まあ、当たり前か)、確実に彼の音楽を拡張している。チョップド・ビートからはじまる3曲目の"ウェイク・アップ!"では、おそらく彼の音楽を好む多くのリスナーが求めているであろうピースな感覚がメロディアスに、心地よく、やわらかく展開している。タイトル曲の"マインド・ボケー"などは椅子から滑り落ちるほどポップだ。もっともこの楽天性は、震災からわずか1週間の東京の部屋ではまだどうにもしっくり来ないが、ユーモラスなIDMポップとしては出色の出来だ。こうした彼の新しい一歩は魅力的だが......"K・イズ・フォー・ケルソン"や"モア・イクスキューズ"が流れると、ああ、やっぱこの人は素直に『アンヴィバレンス・アヴェニュー』路線でもう1枚作るべきだったのではないかと思ってしまう。
 『マインド・ボケー』の最後の曲"セイント・クリストファー"ではマニュエル・ゲッチングめいた極楽のミニマリズムが展開される。この美しい曲をもっと素直に受け入れられる精神状態に早くなりたい。テレビを点けると最近はもう怒りがこみ上げてくる。日本も大変だが、ヨーロッパでは仏・米・英そのほか多国籍軍がリビアをミサイル攻撃か......。

野田 努