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Toro Y Moi

Toro Y Moi

Underneath the Pine

Carpark Records/Hostess

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野田 努   Feb 11,2011 UP
E王

 チルウェイヴという、ある意味では70年代のディスコにも似たトゲのない享楽的な音楽が、それが共感であれ反感であれ、アーケイド・ファイヤーの政治性よりも多くの言葉を誘発していることは面白いとしか言いようがない。とはいえ、チルウェイヴからディスコのような確固たる文化背景が見えて来るわけでもない。いまのところは。
 ポップ史上初めての、特定の場所を持たないこのムーヴメントは、2009年にはじまっている。アメリカのいくつかの場所から発表された共通の感覚を有するいくつかの音楽――ジョージア州メイコンのウォッシュト・アウトをはじめ、ニューヨークのネオン・インディアン、ニュージャージのメモリー・テープス、ブルックリンのスモール・ブラック、そしてサウス・キャロライナ州コロンビアのトロ・イ・モアらの音を、それらを面白がったブロガー連中がチルウェイヴ(ないしは(グローファイ)と名付けたのだ。80年代的シンセとダンスビート、シューゲイザー的アトモスフィア、メロウなサンプリング・ループ――こうした要素がパンダ・ベアやアリエル・ピンクのサイケデリック・ポップと遠からず近からず接続しながら発展したものだと言えるだろう。言ってしまえば軟弱そうな、腰をくねっているようなこの音楽が、ある種のマッチョイズムを苛つかせるのだろう。ええい、はっきりせい! というわけだが、はっきりしたくないのだ。マッチョイズムが望むようには。

 トロ・イ・モアと名乗る、アフリカ系アメリカ人のチャズ・バンティックは、チルウェイヴにおけるエースのひとりである。彼が2010年に発表したファースト・アルバム『コーサーズ・オブ・ディス』は、ウォッシュト・アウトの「ライフ・オブ・レイジャー」とともに、チルウェイヴなる新用語を多くの音楽ファンに暗記させた張本人でもある。『アンダーニース・ザ・パイン』は彼のセカンド・アルバム、いまだアルバムを発表しないウォッシュト・アウトに比べるとハイペースで、実際、シーンにおいて先陣切っての2枚目となる。
 『コーサーズ・オブ・ディス』はフライング・ロータスの『ロサンジェルス』めいたグリッチ・サウンドを砂糖と生クリームでべったりと甘く展開したアルバムだったが、『アンダーニース・ザ・パイン』にグリッチ的な要素はない。より多くのオーディエンスとの出会いを求めてポップにアプローチしているようだ。もちろん、甘ったるいロマンスに満ちたポップである。"ニュー・ビート"や"スティル・サウンド"のようなメロウなディスコは、お望み通りのチルウェイヴといったところだろうけれど、新作を特徴づけるのは"ゴー・ウィズ・ユー"や"ディヴィナ"のようなソフト・ロック路線だ。マルコス・ヴァーリのようなラテン的エロティシズム、あるいは少年時代に観ながら性的な妄想を膨らませた『男と女』のサントラのような、とにかく目を見張るロマンスのてんこ盛りだ。"ビフォア・アイム・ドーン"や"ガット・ブラインドネス"にいたってはわが国の渋谷系が発掘したロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズである。多くの曲では甘々のコーラスが軽やかに駆け抜ける。そうしたソフト・ロック的な文法が、たとえば"スティル・サウンド"ではシンセ・ポップのなかにうまくデザインされている。

 『コーサーズ・オブ・ディス』はサマー・オブ・チルウェイヴである。恥じらいもなく恍惚に満たされている。"グッド・ホールド"~"エリス"へと続くアルバムの最後は、愛の気配のみに支配されたチルアウトである。あと2~3段、階段を上がればスエーニョ・ラティーノだ......というのはまあ大袈裟だけれど、しかし、いや、参った参った。チャズ・バンティックはチルウェイヴを拡張したばかりか、前作以上に甘味に磨きをかけてきたのだ。

野田 努