ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Vladislav Delay Quintet - Vd5 | ヴラディスラフ・ディレイ
  2. interview with Loraine James ロレイン・ジェイムズの“ポップ”な冒険 | ——来日直前インタヴュー
  3. UKインディ・ロック入門──ポスト・パンク、ギター・ポップ、スカとダブ編
  4. Columns Boards of Canada ボーズ・オブ・カナダの帰還  | ──その軌跡、その影響、そして13年ぶりの新作『Inferno』をめぐって
  5. Columns Boards of Canada ボーズ・オブ・カナダの帰還 | ──その軌跡、その影響、そして13年ぶりの新作『Inferno』をめぐって(後編)
  6. Columns Jeff Parker ジェフ・パーカー・ETAカルテットの挑戦 | ──原雅明と蓮沼執太による対話
  7. Brian Jackson - Now More Than Ever | ブライアン・ジャクソン
  8. FESTIVAL FRUEZINHO 2026 ──気軽に行ける音楽フェスが今年も開催、マーク・リーボウ、〈Nyege Nyege〉のアーセナル・ミケベ、岡田拓郎が出演
  9. R.I.P. 横田進  | Susumu Yokota / ススム・ヨコタ
  10. interview with Mouse on Mars 僕たちはダブを、ジャンルではなく社会的なものとして捉えたい | ——リー・ペリーとの共作を発表したマウス・オン・マーズ、インタヴュー
  11. Cornelius ——コーネリアスのライヴ・ドキュメンタリー映像「“Dream in Dream” Tour Document Episode 1」公開
  12. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  13. Tocago、恵比寿KATAにて待望のワンマン・ライヴ開催を決定
  14. DJ Stingray 313 ──デトロイト・エレクトロの至宝、DJスティングレイが来日
  15. Loraine James - Detached from the Rest of You | ロレイン・ジェイムズ
  16. EACH STORY -THE CAMP- 2026 ──自然のなかで「深く聴く体験」を追求するイベントが今年も開催
  17. world's end girlfriend ──6月に『抵抗と祝福の夜 2026』が開催
  18. The Leaf Library - After the Rain, Strange Seeds | ザ・リーフ・ライブラリー
  19. HIKASHU ——「実は最高傑作かも」と名高い、前衛時代のヒカシューの作品集『1978』が待望の初アナログ化
  20. DREAMING IN THE NIGHTMARE

Home >  Reviews >  Album Reviews > Sigh- Scenes From Hell

Sigh

Sigh

Scenes From Hell

The End Records

Amazon iTunes

春日正信   Feb 18,2010 UP

 アジア・南米・中東のメタル・シーンを取材したドキュメンタリー映画『グローバル・メタル』を観た人なら、日本のチャプターに登場する、異彩を放つ日本人を覚えているだろう。サイの川嶋未来とDr.ミカンニバルである。

 「日本のブラック・メタル・バンド」と聞いて、あなたはどんなイメージをもつだろうか? 正直にいうと、私が最初に抱いた印象は、「冗談でしょ」というものだった。そもそもアンチ・キリストとサタニズム、古代宗教を背景にもつ北欧生まれのブラック・メタルが、文化も宗教も異なる日本でできるはずがない。やったとしても、パロディやお遊戯になってしまうのが関の山だろう。

 ところがある日、ふと目についた『Infidel Art』(97年)を聴いて、私はそんな自分の思い込みを大いに恥じることになる。ありていにいえば、度肝を抜かれた。

 サイの音楽性は非常にユニークだ。ものすごく大雑把なくくり、つまり、彼らが敬愛するヴェノムがブラック・メタルの始祖である、という意味合いでいえばブラック・メタルなのだが、クラシックやプログレッシヴ・ロックの影響に加えてジャズや民族音楽の要素もかいま見え、ときには歌謡曲チックなメロディもいとわない。要するに音楽的に非常に豊かなのだが、サイがひときわユニークなのは、ふつうメタルの世界では一定の様式美を完成させるために刈り込んだりフィルタリングしたりする「雑味」の要素を多分に含んでいるところにある。

 デス/ブラックにつきもののダミ声ヴォーカル、ブラスト・ビート、歪んだギター・リフなど、用いられるイディオムはきわめてメタルなのだ。にもかかわらず、聴いた後には、なにかメタルならざる、キマイラのような、鵺(ぬえ)のような、えたいのしれないものに触れてしまった手ざわりが残る。

 日本のメタル・マニアには勤勉な人が多い。ブルータル・デス、メロディック・デス、テクニカル・デス、サタニック・ブラック、シンフォニック・ブラック、デスラッシュといった数々のサブジャンルを、勤勉に几帳面にカテゴライズして消費する。そんな人がサイを聴くと、おさまりの悪い印象を抱くかもしれない。だが、いつまでもそんなに羊のようにお行儀よく隷属していていいのか?

 「信仰する宗教は?」と聞かれると「無宗教です」と答えるが、じつは相互監視と同調圧力を是とするいわゆる「日本教」を無意識に信仰する日本人。クリスマスとバレンタインデーで盛り上がる、おたくとヴィジュアル系の国から生まれた「ブラック・メタル=異教徒の音楽」。さまざまな音楽の要素が渾然一体となったカオスを肯定し、地獄の暗闇と炎を荒々しい雄叫びとともに高らかに賛美するサイは、ほかではありえない、「日本のブラック・メタル・バンド」としての個性を獲得している。

 暗闇の住人、川嶋未来は語りかける。「こっちは相変わらずの地獄絵図だぜ。そっちはどうだい?」

春日正信