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Four Tet

Four Tet

There Is Love in You

Domino / Hostess

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野田 努 Feb 15,2010 UP
E王

 フォークトロニカを定義した2001年のセカンド・アルバム『ポーズ』は、よく聴いたものだった。上質なクリームのように甘くドリーミーなテクノ・サウンドは、あの時代が生んだ価値ある1枚のひとつである。

 この潔癖性的なエレクトロニカは、1990年代半ばのポスト・ロックを出自としている。フォー・テットを名乗るキエラン・ヘブデンは、元々はロンドンを拠点とするフリッジのメンバーで、いわばトータス・フォロワーだった。それは行き詰まりを見せていたダンス・カルチャーにおける新潮流で、結局のところ、ポスト・ロックにしてもエレクトロニカにしても、なかばの風俗と化したドロドロのダンスフロアに背を向けて「もうちょい品良くいこうぜ」ということだった。僕は当時のこうした気持ちを理解できる。ジャズとクラウトロックとアンビエントとの融合だとか、いろんなことが語られてきたが、大きな目で見れば、ポスト・ロックにしてもエレクトロニカにしても、これらは1990年代というディケイドにおけるチルアウトだったのだ。

 『ポーズ』も良かったし、サード・アルバムの『ラウンズ』(2003年)も愛聴した。彼のライヴにも行った(まあまあだった)。キエラン・ヘブデンはそれから、『ラウンズ』を最後に彼のフォークトロニカを止めてしまい、2005年の『エヴリシング・エクスタティック』ではビートを強調した。悪くないアプローチだった。『ポーズ』も『ラウンズ』もリズムという観点ではヒップホップの影響を取り込んでいるとは思えないほど凡庸なところがあった......が、『エヴリシング・エクスタティック』はその弱点と向き合った。ロマンティックな彼の音楽のなかにダンスの要素を取り入れようと試みた。それは結果として成功し、それからヘブデンは売れっ子リミキサーとなった。他方で彼は自分のフリー・ジャズ趣味を満足させるかのようにジャズ・ドラマーのスティーヴ・リードのプロジェクトにも参加した。サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンの『ファイヤー・エスケープ』では見事なプロデュース・ワークも見せた。

 ヘブデンは、そして2008年のシングル「リンガー」でミニマル・テクノに挑戦すると(それは決して出来が良いとは思えなかったが)、おそらくその延長としてブリアルとのスプリット・シングルを自身のレーベル〈テキスト〉から昨年発表した(こちらは素晴らしかった)。この流れで考えれば、5年ぶりのアルバムとなる『ゼア・イズ・ラヴ・イン・ユー』がミニマリズムの冒険になることは納得のいく話なのだろう。

 だとしても、新しいアルバムは4つ打ちを基調としている......などと書けば昔ながらのファンは懐疑的になるかもしれない。繰り返すが、フォー・テットとは10年前の4つ打ちの狂騒へのアンチテーゼだったのだ。が、ご心配は無用である。ヘブデンは今世紀のベルリンではなく1970年代のニューヨークもしくは1970年代のデュッセルドルフへと向かっている。スティーヴ・ライヒのミニマリズム(現代音楽における"陶酔")であり、クラウトロックにおけるアートのほうに。

 アルバムは女性の美しい声の反復とエディットによるミニマリズム"エンジェル・エコーズ"ではじまる。夢見るブレイクビートの"ラヴ・クライ"が再生され、そしてベスト・トラックのひとつ"サークリング"へと続く。スティーヴ・ライヒ的な音の重なりによって場面が変化しながら、絶妙にクラウトロックへとスライドする"サークリング"には、ヘブデンの音楽の良いところすべてが凝縮されている。ドリーミーで、ロマンティックで、つまり潔癖なトランスなのだ。

 それでもヘブデンは、興味深いことに、前作以上にダンスフロアを目指している。"シング"はコーネリアスがミニマル・テクノをやったようなユニークな曲で、リスナーはサイケデリックな遊園地のメリーゴーランドを楽しむことになる。『ゾビゾーゾー』の頃のクラスターをわかりやすく現代風にしたような"ディス・アンフォールズ"のユーモラスでキュートなエレクトロニカも魅力的だ。心地よいパーカッションと素朴な単音によるメロディがディレイで重なっていく"シー・ジャスト・ライクス・トゥ・ファイト"もまた素晴らしくラヴリーな曲で、このアルバムの最後に相応しい出来だと言える。

 時代の"チルアウト"から離れて、フォー・テットは彼のダンスフロアを練り上げた。危険なほど甘く、溶けてしまいそうなそこは、現実などクソ食らえと言わんばかりに妖しく発光している。

野田 努