Home > News > ニュースからは見えない、いまアメリカで起きている文化戦争について知ろう - ——『アメリカ──すでに革命は起こっていたのか』刊行のお知らせ

今日、それがジャズであれブルースであれロックであれハウスであれラップであれ、「ポップ・ミュージック」と英語で括られてきた音楽とは、アメリカで生まれ(そしてイギリスとのキャッチボールのなかで)発展してきた音楽のことを指す。しかしながらアメリカとは、今日のトランプ政権を見れば一目瞭然だが、世界中に害悪をまき散らしてもいる。そう、そんなことはわかっている。ここで問題にしたいのは、そんな単純なことではない。
単なる暴君に見えるトランプと彼のチームだが、じつのところ、かつて極右に抗したカウンター・カルチャーの論法を極右のなかに取り込んでいるのである。そう、かつて反抗のシンボルだったビートニク的なドレスダウン、ヒッピー的なオーガニック志向、ポップ・アート的なキャッチーなセンス、ファッション的なトレンドをテック産業の起業家たちが取り入れているように。
悔しいけれどそうなのだ。で、彼らが解放した政治思想においては、もはや左派エリートの批判からもみずからを解放させている。彼らは民主主義を否定し、とにかく彼らの「自由」を手にしようとしている——これを専門用語で、「新反動(ネオ・リアクション)」と呼ぶ。カルトに思えるこんな考え方が、しかしホワイトハウスの頭脳を動かしている——事態は思っている以上にやっかいだ。なぜなら、自己批判能力を欠いた意識高い系が、ただただ彼らを批判し続けているあいだ、オルタ右翼は力をつけ、ヘタしたら私たちはガラス越しに彼らの革命を見ていただけだったのかもしれないのだから。
いまアメリカで起きていることが何なんか、そもそもアメリカとはいったいどんな国なのか、なんでアメリカからかくも世界中を魅了するブラック・ミュージックが生まれたのか、そして日本人にとってそれはどんな意味があるのか、TVやネットからは見えないアメリカがここにある。
これは文化戦争だ。「さよならアメリカ、さよならニッポン」……ではなく、これはあらためて「こんにちわアメリカ」なのだ。ふだんアメリカの音楽に親しんでいる読者のみなさん、より深く現在のアメリカを知っておこう、文化のなかの迷子にならないためにも。そんなわけで『アメリカ──すでに革命は起こっていたのか』、ためになるのでどうぞよろしくお願い申し上げます。

『別冊ele-king アメリカ──すでに革命は起こっていたのか 新反動主義の時代におけるカルチャーの可能性』
インタヴュー:
・基本をおさらい、アメリカのはじまりから現在トランプがしていることの意味まで ▶渡辺靖
・アメリカを知るために、まずは二つの大きな矛盾に気づこう ▶大澤真幸
・ブラック・カルチャーが超重要な理由 ▶酒井隆史
・直近、ここ半年ほどのアメリカの状況を押さえておこう ▶三牧聖子
・話題の「新反動主義」ってなに? ▶岡本裕一朗
・いま「カウンターエリート」と呼ばれる人たちが出てきている ▶石田健
コラム:
・試しにアメリカから生まれた音楽がいっさいなかった世界を想像してみると…… ▶イアン・F・マーティン
・歴代大統領が掲げたキャッチフレーズからヴォネガットを連想してみる ▶水越真紀
・ケンドリック・ラマーを単純に支持できない理由 ▶緊那羅:Desi La
・数々の映画からアメリカの深層心理を探ってみる ▶三田格
・アメリカでは自分たちが世界の中心だと教えられる ▶ジリアン・マーシャル
・ヒップホップとトランプの親和性はつねにあった、でもそれだけじゃなくて…… ▶二木信
・トランプ的なもののルーツは、じつはヨーロッパにあり? ▶土田修
・アメリカへの複雑な思い、ウィルコの音楽を聴きながら ▶木津毅
編者:ele-king編集部
菊判/192ページ
ISBN:978-4-910511-97-9
本体1,800円+税
2025年9月22日発売
https://www.ele-king.net/books/011912/
目次
序文──もしくは21世紀の文化戦争から(野田努)
■インタヴュー
渡辺靖 アメリカは再び求心力を取り戻すことができるのか──破壊者にして救世主、トランプがもたらした「分断」のゆくえ
石田健 リベラルを敵視する「カウンターエリート」たちが夢見る未来──トランプ政権に影響を与えたピーター・ティールとカーティス・ヤーヴィンの思想
大澤真幸 アメリカという国の特殊性──過剰な宗教性、根強い黒人差別、そして異様なまでの冷戦への情熱
三牧聖子 いまこそ本当のポピュリストが求められている──2025年、アメリカ合衆国の現在地
岡本裕一朗 新反動主義が共感を集めることができた理由──ピーター・ティールやカーティス・ヤーヴィンが登場してきた背景
酒井隆史 カウンター・カルチャーを再構築すること──ブラック・カルチャーからネオリベラリズムをとらえるとアメリカが見えてくる
■コラム
さよならアメリカ、さよなら日本(イアン・F・マーティン/江口理恵訳)
多様性の夢と包摂のパラドックス(水越真紀)
我が魂を引き裂くもの(緊那羅:デジ・ラ/野田努訳)
アメリカは「世界の終わり」を夢見ている(三田格)
国のない女──アメリカでアメリカ人として生まれ育つということは?(ジリアン・マーシャル/江口理恵訳)
ヒップホップの「抵抗」について考える──彼らはただ韻を踏んでいるだけではないのだ(二木信)
「米国第一主義」の源流はヨーロッパにあった?──欧州「極右」勢力の台頭とトランピズム(土田修)
アメリカを巡る曖昧な愛情(木津毅)
アメリカを知るためのブック・ガイド
(野田努、水越真紀、三田格、土田修、木津毅、二木信、小林拓音)