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interview with Hiatus Kaiyote (Simon Marvin & Perrin Moss) 向かって左から、今回取材に応じてくれたとペリン・モス(ドラムス)とサイモン・マーヴィン(キーボード)のふたり。つづいて右がネイ・パーム(ヴォーカル)とポール・ベンダー(ベース)。

interview with Hiatus Kaiyote (Simon Marvin & Perrin Moss)

ネオ・ソウル・バンド、ハイエイタス・カイヨーテの新たな一面

小川充    通訳:青木絵美
Photo by ROCKET WEIJERS  
Jun 21,2024 UP

気がついたら、自分自身でもその曲のはじまりとはまったく違った世界にいるわけで、それこそがバンドとしての美徳だと思うし、正しいことだと思うんだ。複雑なアルゴリズムであり、僕たちはできればその正解には辿り着きたくないとさえ思っているんだ。(マーヴィン)

ところで、“Make Friends” のように人間関係について描いた作品があります。一方、“How To Meet Yourself” は自己について掘り下げたと思われる作品で、そうした自他の意識が『Love Heart Cheat Code』にはさまざまな形で表現されているのではないかと類推しますが、いかがでしょう?

PM:その質問は僕たち向けではないな~、歌詞はネイが書いているからね。でも、わかる部分だけで話すね。先週ネイと一緒にインタヴューを受けたんだけど、そのときに彼女が言っていたことに合点がいったんだ。これまでの彼女は、どうやって言葉に落とし込めばいいかわからないものを抱いていたんだけど、いまの彼女は自分自身について以前よりもリラックスしていて、自分自身と向き合うことや、さまざまなことに対して心地良く感じているそうなんだ。前作は、ネイがこれまでに経験してきたよりパーソナルな事象を歌っていたから、歌詞には彼女が感じた痛みが色濃く投影されていた。彼女がいかにしてその痛みを克服する術を学んだかということもね。今作は、サイモンもそうだと思うけど、僕たちみんながそういうものをすくい上げて昇華させた感じになっていると思うんだ。バンド自体がより軽やかになっていったことで、歌詞自体もより軽やかになったとでも言うのかな。彼女自身も軽さや明るさを感じていたと思う。彼女の言葉を肩代わりするつもりも、彼女が言わんとしていたことを誤解したくもないんだけど……つまりはそういうことを言っていたんだじゃないかと思うよ。結局は、違うフェーズに入ったということなんじゃないかな。時期が違えば、歌詞は違うものに感じるだろうし、感傷的に感じる部分も違ってくるだろうから。このアルバムは、僕には感覚的にはちょっと『Choose Your Weapon』とか、『Tawk Tomahawk』に近い感じがするんだ。そうだね、ファースト・アルバムの『Tawk Tomahawk』により近い感じかな。どのアルバムも違ったテイストの曲が収録されているけど、全体を通してまとまりのある雰囲気に仕上がっていると思うんだ。でも、今作はその点においてファーストにより近くて。『Mood Valiant』はいろんなテイストの曲が1枚のレコードに収められているけど、全体を通してひとつのテイストにまとめることに重きを置いたレコードだった。一方、『Choose Your Weapon』はとにかく何でもかんでも詰め込んだ感じの作りになっている。今作との共通点を感じるよ。今作はとても短いアルバムになっているけど、その中にヘヴィなものがあったり、ソフトなものがあったり、すごく振り幅の大きい作品になっているからね。サウンド的には、どの曲も全部違う雰囲気になっていると思うんだ。まあ、ネイに成り代わって話をするのは気が引けるからさ。僕が言えるのはそんなところだね。

わかりました。歌詞の世界観については改めてネイに訊くチャンスを待つことにしますね。では、先ほど“Cinnamon Temple”の話が出ましたが、この曲のタイトルはなかなか変わっていますよね。これはどういった曲なのでしょう? ライヴなどでも昔から演奏していますね。

PM:うん、長いこと演奏しているね。

SM:なぜこのタイトルになったかというと……おそらく、アシッドが見せた幻影みたいなイメージなんじゃないかな。演奏しているときに、そういうイメージが頭の中に浮かんだんだ。ベンダーが強烈なリード・ラインを思いついて、それに突き動かされるようにひとつの楽曲として形づくられた曲なんだよね。最初はインストゥルメンタルだったんだけど、後からそこにネイが歌詞を乗せて完成した曲だね。まあ、説明するのが難しい曲ではあるよ。というのも、この曲はもう6年くらい必ずライヴのレパートリーに加えられてきたから、それこそかなりの回数に渡って演奏しているし。他に言うこともないくらい(笑)。

彼(ショスタコーヴィチ)は戦争に従軍したことがあるんだけど、そのときに頭に弾片を浴びたらしいんだ。戦争から戻って来たら、頭の中で無調性のメロディが聞こえるようになったらしいんだよ。頭を傾けるとメロディが聞こえていたという伝説なんだけど。(マーヴィン)

そうなんですね。では、“White Rabbit”はジェファーソン・エアプレーンのカヴァーですよね。アメリカ西海岸のサイケデリック・カルチャー時代の1966年に作られた古い曲で、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』をモチーフにしていて、映画やフィルム作品などでも用いられたり、いろいろなアーティストによってカヴァーされてきた名曲でもあるのですが、今回はどうしてカヴァーしたのですか? また、エアプレーンのリード・シンガーだったグレース・スリックが作詞・作曲をしているのですが、それに対してネイ・パームはどのようなイメージで臨んだのでしょうか?

PM:この曲はジャム・セッションの中から生まれたものだったよね。サイモンとベンダーの昔のスタジオで。

SM:スタジオにはアリスとかっていう名前のミキシング・デスクがあって、そこに小さな白いウサギが乗っていて。ベンダーが曲の土台のようなものを作っているときにデスクを見たら小さな白いウサギがいて、それでこの土台を基に “White Rabbit” の歌を乗せたんだ。それで、突然曲ができたという感じ。その土台を基に組み立てていったら、ひとつの曲に仕上がったんだ。

PM:この曲にハーモニー的なリファレンスは存在しないということだね。この曲は導入部分がすべてで、そこからすべてがはじまっているとでも言うのかな。風変わりなディストーションのサウンドがあって、ネイがそれに合わせて歌うことで、この曲が組み立てられていったという感じだから、ハーモニーの面から引用したわけじゃないというか。デモがあって、たまたまそれに合わせて “White Rabbit” を歌って、その骨組みを支える部分を作ったりしてひとつの曲になったんだ。すごくゆっくり、少しずつピースを足したり、手を入れたり放っておいたりしながら時間をかけて完成した曲なんだけど。でも突然曲として成立したから、じゃあこの曲もアルバムに入れようということになって。そこから僕がさらに少し何か足したりして、完成させたんだよ。で、いまのこの形になったというわけ。

SM:そうだね。形になりはじめたのは、ハーモニー的な部分にサビを入れた頃じゃなかったかな。なんというか、ドビュッシー的な進行というか、なんかプレイしているうちにそういう感じになっていって、バラバラだったものをひとつにまとめたら、「おぉ、なんかやっと全体像が見えてきたぞ」という。最初の頃は野性味溢れるというか非常に荒削りというか、それでいてすごく良い感じのもので、それが段々と曲としてのまとまりを見せて行ったんだよね。この曲はアルバムの中でも僕のお気に入りのひとつなんだ。普段僕たちがやっていることとはかなりかけ離れているけれどね。加算を重ねていくうちに最終的に形を成していったん曲なんだ。

仰ったように “Cinnamon Temple” はかなりヘヴィなギターがフィーチャーされ、いままでになくロックのイメージが強い楽曲です。また、同じく “White Rabbit” にもかなりハードコアで混沌としたフレーズがあります。出世曲の “Nakamarra” などはネオ・ソウル的でポップなイメージが強かったわけですが、それとはかなり異なるタイプの曲で、あなたたちのイメージを覆すものと言えます。どうしてこうしたタイプの曲を入れたのですか? 意図的にこうしたタイプの曲を入れたのでしょうか。

PM:そのとおりだよ。それが僕たちだから。僕たちは膨大な量のインスピレーションを本当にいろいろなところから得ているからね。言ってみれば僕たちの作品はアートだから、そこに過剰な意味合いを持たせるつもりはないよ。アートスクールではひとつの絵画を細かく分析しようとするけど、僕にしてみたら「ただこの色たちを組み合わせたかっただけなんだけどな」って感じ。だから、僕は自分たちの作品を素描画や絵画のように感じているし、「この作品の真意は?」と訊かれても、「わからない」としか言えないんだ。分析して翻訳できるようなものではないからね。音楽は主観的なものだから、これを聴いた人が好きに受け取ってくれたらいいし。

SM:そのとおりだね。聴き手が考えるよりも、もっとずっとシンプルなものだと思うよ。僕たちが好きかどうか、基本的にはその感覚だけでやっているから。

PM:それだね。僕たちは自分たちが好きではないものを取り入れたことは一度もないから。もちろん、メンバーのひとりがちょっと目立たない後方に回るようなことはあるけど、基本的にはみんなで一緒になって楽しんで作る感じだよ。それと、ハイエイタスにはもうひとつとても重要な要素があって、それがライヴでのパフォーマンスなんだ。ライヴで演奏すると最高の気分になれるのに、いざレコーディングするとライヴほどのエネルギーを感じなくなってしまう曲もあったりするけど、それでもずっとライヴでやってきた曲をレコーディングしてみんなに届けたいという思いもあるし。その逆もまたしかりでね。レコーディングしたものもとても良かったけど、ライヴで演奏してみたらレコーディングしたときには想像もしなかったほど良くなったりする曲もあるんだ。そのどちらもがお互いに良い作用をもたらすと思う。もしリリースする前に演奏したとすると、これからどんなふうにプロデュースして完成させればいいか、その方向性を示してくれることもある。一方で、最近ではリリース前に演奏することはしないようにもしているんだよね。興味深いいきさつではあるんだけど、ここのところはそういうことにしていて。レコーディングしたものをどんなふうに演奏するかすごく考えるし、僕たちにとってはまたレコーディングとは違った大きな挑戦だけど、すごく楽しいよ。バンドにとってとても重要な要素のひとつだし、そのことについて僕たちは本当に真剣に向き合っているんだ。レコードとパフォーマンスを同列に並べることは良いことだと思っているからね。それと同時に、それぞれを異なるものとしても扱っているんだ。実際のところ違う感覚もあるしね。ただ、その背後にある実際の思考というものは、残念ながらそれほど深い意味を持っていないんだよ。

SM:そうだね。僕たちはこれまで、好んでジャンルに縛られようと思ったことは一度もないからね。

PM:「どんな音楽をプレイしているんだ?」と訊かれても答えに窮するよね。すべてが僕たちのサウンドで、僕たちはあらゆるジャンルからいろいろなものを採り入れているんだ。それって本当に大事なことだと思うし、僕たち全員が音楽的に頑固……良い意味でとても頑固なんだ。個々それぞれが自分たちのアイデアを主張しつつも、バンドとしてひとつのまとまりあるサウンドを創ろうとしているんだよ。そうすることをお互いに許し合っている関係なんだ。僕がとある曲を思いついて作りはじめたとしても、最終的にでき上がったものは僕が自分の頭の中で聴いていたものとけして同じにはならない。必ず違ったものになる。それは誰にとっても同じで、僕たちがほかのメンバーに100パーセントのクリエイティヴな自由を与え合っているからなんだよ。もし僕が「これはさすがにやり過ぎじゃないか?」と感じたら、誰かが「オーケー、少し引き算をしよう」ってうまくまとめてくれる。「これはどう?」「こうしたらいいんじゃない?」って、僕のアイデアに寄り添うような案をいろいろ出して、当初のアイデアを最大限に活かしてくれる。どの曲についても、誰もが自分の意見をためらわずに言える環境だからこそ、でき上がった曲は伝えたいメッセージを届けることができるものになるんだ。

SM:それだけたくさんの声が入ってきて、もともとの作曲の道筋を変えてしまうんだから、ジャンルを定義するのはとても難しいよね。気がついたら、自分自身でもその曲のはじまりとはまったく違った世界にいるわけで、それこそがバンドとしての美徳だと思うし、正しいことだと思うんだ。複雑なアルゴリズムであり、僕たちはできればその正解には辿り着きたくないとさえ思っているんだ。

PM:そのとおりだよ。その瞬間こそが最大であり最高のものだと思う。『Choose Your Weapon』は僕たちにとっても重要な時期だった。僕たちはまだまだ一緒に曲作りをすることに慣れていなかったから、たとえばサイモンやベンダーが何かフレーズを弾いたとして、僕にはそれが彼らの聴いているものとは全く違ったものに聞こえていたんだ。そこで僕がすごくソリッドでハードなビートを刻んだら、意味がわからないという顔をするわけだよ。それで、「ああ、これは彼らが意図していたものじゃないんだな」って知ることになる。それで、慌てて「こんな感じかな? これだったらどうかな?」っていろいろやってみるんだけど、彼らは「いやいや、好きなように続けて。ただ好きなようにやってみればいいんだよ。後でどういうふうにまとめられるか考えるからさ」ってね。で、結局めちゃくちゃロッキンなサウンドの曲になったりして。最初にイメージしていたものとはまったく違うものになるわけだけど、みんなが同じ考え方をして、同じ方向に向かっていたらつまらないサウンドしか生まれないと思う。だからこそ、僕たちはお互いの背中を押し合って切磋琢磨しているんだ。ただ、僕たちはそれぞれ違う人間だけど、そこには絶対的なスピリットがあって、似通った感じ方や感性を共有していると思う。誰かを型にはめるようなことはしたくないけど、特に僕とネイは同じような感性を持っていると思うな。僕たちの作るものは、ちょっと荒削りというか。これは僕個人の意見に過ぎないけど、逆にサイモンとベンダーはなめらかな手触りに仕上げてくれるような気がする。スムーズに全体をまとめてくれて、すごく心地好いものにしてくれるんだ。ネイと僕は散らかったアイデアが四方八方から湧いてくる感じなんだけど、それをみんなは理解しようと努めてくれて、最終的にひとつの曲にきちんとまとめてくれるんだよね。そうだね。僕たちはただ、気持ち良いと思えるものを演っているだけなんだ。おかしな話だけど、とても素敵なことなんじゃないかと思ってるよ。

愛というものは容易に、人生における隠しコマンドになる可能性があるという受け取り方もあるかもね。愛があれば、その愛と共に人生を前進させることができる。そこから、その隠しコマンドが人生における成功や幸福をもたらしてくれるんだ。(モス)

よくわかりました。では、他の楽曲についても訊かせてください。“Dreamboat” には美しいオーケストレーションがフィーチャーされます。このアレンジは『Choose Your Weapon』で共演したミゲル・アットウッド・ファーガソン、もしくは『Mood Valiant』で共演したアルトゥール・ヴェロカイによるものですか?

SM:ええ……覚えてないな(笑)。

PM:(爆笑)僕も覚えてないよ。サイモンかベンダーが覚えてるはずだろ。

SM:いや。全部自分たちでやったんじゃないかな。最近は以前に比べてベンダーがチェロを弾くこともかなり増えたし、チェロをいろいろな部分に散りばめているんだ。素晴らしいトランペット奏者……とてもクリエイティヴな、ジミー・ボウマンというメルボルンのミュージシャンが参加してくれて、管楽器のセクションがとても充実したしね。僕はメロトロンやシンセを弾いて、ハープ奏者のメリーナに参加してもらって……というふうに、自分たちで素材を作ってそれをひとつにまとめた感じだね。もともとはオーケストラと一緒にライヴ演奏するためのアレンジがあったけど、このアルバムに向けて自分たちで全部やることにしたんだよね。

PM:この曲はもともとサイモンが書いた曲で、オーケストラ向けに作曲したものなんだ。オリジナルもすごくクールだけど、このアルバムに収録されているものほどグラマラスな感じではないというか……でも、オーケストラで演奏するのにぴったりのヴァージョンだったんだ。

SM:僕はこの曲がハイエイタスの曲になることは全然想定していなかったんだよ。よくあることなんだけどね。『Mood Valiant』の “Stone Or Lavender” にしてもそうだったよ。曲を書いた時点ではハイエイタスの曲になることは考えていなかったんだ。ただこの曲をプレイしたら、ネイが「それ何?」って興味を示して、次の日に歌詞を書いてきたんだよ(笑)。それで、「ああ、オーケー、これはハイエイタスの曲になるんだね」って。そういう面白いことがときどき起きるんだよね。でもすごく新鮮な感じだった。

他にも “Dimitri” や “BMO is Beautiful” などは注釈が必要な曲に思いますが、どんな曲ですか?

SM:たぶん合ってると思うけど、“Dimitri” はショスタコーヴィチについての曲だよね? 彼はロシアの作曲家でありピアニストである人物なんだけど、彼に関する伝説みたいな話があってね。彼は戦争に従軍したことがあるんだけど、そのときに頭に弾片を浴びたらしいんだ。戦争から戻って来たら、頭の中で無調性のメロディが聞こえるようになったらしいんだよ。頭を傾けるとメロディが聞こえていたという伝説なんだけど。この曲はベンダーが土台の部分を書いたから、全編を通してベース・コードが鳴っているんだけど、そこからベンダーとネイが曲に仕上げていったんだ。ネイは曲を書くのが本当に速くて。異常なくらいひとつの曲として成立させるのが速いんだよね。それが彼女の持つたくさんの才能のひとつでもあるんだけど。僕が知らないうちに素晴らしい “Dimitri” の基礎ができ上がっていたから、僕とペリンは自分たちのパートをそれに乗せれば良かったという感じだよ。この曲では僕がベースを弾いているんだけど、ペリンがコードのある楽器を弾きたがっていたから、そっちのパートをお願いして……「君にコードはお願いして、僕はベースを弾こうかな」ってね(笑)。まあそれはそれで良かったんだけど。

PM:(笑)次のアルバムでは、ドラムを叩きながら歌でも歌おうかな。

SM:一方、“BMO is Beautiful” では僕はベースを弾いていなくて、ベンダーがベースを弾いている曲だよ。この曲は次の “Everything’s Beautiful” へのイントロみたいな曲で、僕たちのお気に入りのアニメ・キャラクターがフィーチャーされているんだ。『Adventure Time』のビーモだよ。実はビーモ役の女優のニキ・ヤングがレコーディングに参加してくれて、とてもラッキーだったね。ちょっとキュートな間奏曲という感じで、楽しんで制作したよ。

“Longcat” についてはいかがでしょうか? ネットで話題になった日本の白い猫のことを指しているのですか?

SM:ベンダーがベースのヘッドに小さなぬいぐるみをぶら下げてて、そこから取ったタイトルなんだ。多分日本で買ったもので細長い猫だから、きっとその日本の猫と同じものかもしれないね。

では、「Love Heart Cheat Code」というタイトルについてお訊きします。「Cheat Code」はゲーム用語の隠しコマンドのようですが、そうしたゲームとかメタバース的なものも関係しているのでしょうか?

PM:そのタイトルについての解釈は自由だよ。アルバムのタイトルとしても、曲のタイトルとしてもね。受け手に自由に解釈してもらえたらと思ってるんだ。ただ、愛というものは容易に、人生における隠しコマンドになる可能性があるという受け取り方もあるかもね。愛があれば、その愛と共に人生を前進させることができる。そこから、その隠しコマンドが人生における成功や幸福をもたらしてくれるんだ。もちろん、いろいろな解釈や見方があると思うけどね。もし君がゲーマーで、ゲーム的な受け取り方をするんだったらそれはそれで良いと思うし。人生の頂点に達することが何を意味するのか? そこまで掘り下げてもいいんだ。とにかく、解釈はいつだって自由なものなのさ。

わかりました。それでは、毎回個性的で面白いアートワークをフィーチャーしたアルバム・ジャケットで、それもまたハイエイタス・カイヨーテの魅力のひとつになっているのですが、今回のアートワークについて説明してもらえますか?

PM:ネイの友だちのアーティストだったよね? ラジニ・ペレラというアーティストが書いた絵画だけど、ある晩にこのアートワークを見せてもらって、僕たち全員がすごく深く共鳴した感じがしたよ。このアートワークをアルバム・ジャケットにしようと決めるのは、本当に簡単だった。以前の作品のときは、それこそジャケットを決めるのに本当に苦心したんだけど、今回はすごくスムーズに決まったね。とても良い作品だと思ったし、このアルバムにぴったりだと思ったよ。

SM:そうだね。完璧な作品だと思う。

では最後に、『Love Heart Cheat Code』についてリスナーへのメッセージをお願いします。

SM:このニュー・アルバムを聴いてくれる人たちが楽しんでくれることを心から願っているよ。このアルバムを作るのは本当に楽しかったし、11月に来日するときにはライヴで演奏できるのをとても楽しみにしているよ。2公演が予定されているんだけど、それまでにしっかり仕上げておくからね。日本公演は世界ツアーの最後の方だから、それまでにはかなりウォーミングアップされているはずだよ。

PM:めちゃくちゃ演奏がうまくなって、全部の曲を2倍速でプレイするかもね(笑)。

通訳:時間的には短いけれど、濃厚なショーになりそうですね(笑)。

PM:20分くらいのショーになったりして(笑)。

質問・序文:小川充(2024年6月21日)

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Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

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