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interview with Kikagaku Moyo

interview with Kikagaku Moyo

無国籍ロウファイ・サイケデリア

──幾何学模様、インタヴュー

取材:松村正人    May 20,2022 UP

僕らが日本語にない響きと思っているものも、結局五十音からなる音でしか表現できなかったりするんです。喉をつかう音、フランス語のような発声にそもそも慣れていないから、デタラメな言葉であっても日本語訛りのデタラメな言葉なんですね。

カヴァー曲も収録していますね。エラズモ・カルロスの “Meu Mar”。この曲をとりあげた経緯を教えてください。

Go:“Meu Mar” はもともと〈Light In The Attics〉の企画で、マック・デマルコが細野さんの “Honey Moon” をカヴァーしたのと同じ7インチ・シリーズで指名されたときに “Meu Mar” を選んだんです。当初A面が原曲でB面がうちらのカヴァーでやることになっていたんですが、原曲の権利がクリアにならず、1年待って結局オクラ入りしそうだったから「勝手に使うよ」といって収録しました。ちょうどあと1~2曲つくろうか迷っていたタイミングだったときに “Meu Mar” の音源があったのでこれ入れちゃおうって。

「Meu Mar」は「My Sea」すなわち「私の海」ですから『Kumoyo Island』にピッタリでしたね。

Go:そうなんですよ。エラスモはすごく好きなんですけど、彼の曲をカヴァーするとなったときできるのがこの曲くらいしかなかったんですよ(笑)。

ブラジル音楽だからね。

Go:ドラムはもちろんギターのブラジルっぽいコードもわからない。あの曲くらいしかワン・コードの曲がないんですよ(笑)。

さっきから聞いていると、幾何学模様はネガティヴな状況をいい結果に導く能力が高いバンドだということになりますね。

Go:それしかないって感じで(笑)、それをやってどうおもしろくするかということですね。ほかに好きな曲もいっぱいあるんですけど、いろいろ聴いた結果 “Meu Mar” しかできなかったです。

エラズモ・カルロスはサイケ文脈でもとりあげられるようになりましたけど、トロピカリア的なものもリスナーとしておさえていましたか?

Go:バンドはじめたときにサイケデリックな音楽が世界中にあるとは思わなかったんですね。サイケは英米だけだと思っていました。それがだんだん聴きすすめるうちに、いろんな国に自分たちなりにサイケを解釈した音楽があると知って、オリジナリティを感じて掘っていた時期もありましたよ。トロピカリアとの出合いもそのときです。ああいう実験的な感じ、あとちょっとテキトーな感じ(笑)、独特な音の質感はいいなと思っていました。

レーベル〈Guruguru Brain〉の運営にも欧米圏にはない視点が活かされていると思います。

Go:ポピュラー音楽やロックにかんして、イギリスとアメリカの白人文化がもとにあったうえでほかの国の文化がつくられている──「世界に出よう」と考えたときに、白人の文化にたいして了承をもらうような流れをうちらの世代で変えていきたいとは思っています。海外に出るには英語をしゃべれなきゃいけない、歌詞も英語じゃないとわからない、ということではないと思うんですね。しゃべれないのが当たり前なんだからそれ以外のこと、言葉以外のコミュニケーションやコネクションを最大限に活用していきたいということです。

日本語の扱い方、たとえば “Yayoi Iyayoi” の歌詞は日本語で、幾何学模様にしては意味がとれる内容になっていますが、日本語についてはどう考えていますか。

Go:日本語の言葉の響きには独特な言い回しや粘っこさのようなものがありますよね。それはほかの国にはないものだと思います。ただそれをロックに応用すると、自分たちのなかにある「ロックとはこういうものだ」という価値基準に照らし合わせて違和感のようなものを感じることもある。それをどうやってかっこよくするかという課題はずっとありました。わかっちゃうダサさってあるじゃないですか。

わかっちゃうダサさ?

Go:「I Love You」は海外でふつうにつかえるのに日本語で「愛している」といったときになぜウッとなるのか。コンプレックスや固定観念が関係しているのかもしれないですが、はじめは日本語はイヤだったんですね。日本人だけがわかってほかの国の人には響きでしかないというヒエラルキーをつくるのがイヤだったんです。それが英語が母語じゃない僕からすると、英語の歌詞がそのまま理解できる人をうらやましいと感じる感覚に通じると思ったんです。僕はそういうのが(音楽を聴くときに)なければいいのに、と思っていたので、はじめは日本語の歌詞をなくして響きだけの言葉を使っていました。そうすると歌詞も音の追求になっていくんですよ。シュ、シ、シューとか、でも僕らが日本語にない響きと思っているものも、結局五十音からなる音でしか表現できなかったりするんです。喉をつかう音、フランス語のような発声にそもそも慣れていないから、デタラメな言葉であっても日本語訛りのデタラメな言葉なんですね。いつもTomoに、これインプロで歌ってというとすぐに出てきてそれがおもしろくてそういうやり方をしていたんですけど、だんだん適当さがパターン化してきたんですね。そうすると全体的に似たような感じになってくる、そう思ったとき、すでに日本語っぽいんだから日本語が知らないひとにしたら日本語に聞こえるから「Yayoi Iyayoi」なんかは日本語でやったらいいんじゃないかなと思ったのがいちばんのきかっけです。そこからTomoが適当に歌った音を聴いて、歌い出しが「さ」だったらその口のかたちが歌いやすいんだなと思ったので「さ」ではじまるメイクセンスする単語を探したり、ブックオフで日本の昔の季節の言葉が載っている本を買って言葉を拾ったりしました。

音に言葉をあてはめていったということですか。

Go:僕がブックオフにいって本2冊買ってきて、10分くらいで、適当に並べて、それで歌ってもらった結果、OKになりました(笑)。

言葉を選ぶとき意味やメッセージみたいなものはGoさんの念頭にはなかった?

Go:あまりなかったです。自分には歌詞がいいから音楽が響くと感じたことがあまりなかったから。それこそライターさんが書くようなバンドのおいたちみたいなものに、こういうことがあるんだ、と自分で解釈していくタイプだったので。

幾何学模様のレコードで “Meu Mar” や “Yayoi Iyayoi” のような日本語詞を聴くと、CANの『Tago Mago』の「Oh Yeah」でダモさんが日本語の歌詞になるときの印象に通じるものを感じます。

Go:あれハッとしますもんね、「あれっ!? わかる!」って(笑)。

それと作り方の適当さがかえって不可思議な感じにつながっていて、いい曲だと思いました。

Go:ありがとうございます。でも偶然の産物ですね(笑)。

もうちょっとできたかもしれないというエネルギーを今後どう活かすかという。おなかいっぱいになって終わるより、そうなって終わるほうが、ライヴでもなんでも僕はいいと思います。

ここ数枚のアルバムは「~Song」で終わっていましたが、今回 “Maison Silk Road” で幕を引くのはラスト・アルバムだからですか。

Go:これまでは、僕が曲をもってきてみんなでつくり上げる感じだったんですけど、僕とTomoがこっちに移住して東京に住んでいたメンバーも、そのうちのひとりが大阪に引っ越したりで、バラバラになったときがあって、バラバラの状態でやるうえでどこまでつくりこんでいけばいいんだろう、どこまでフリーにすればいいんだろう、どうやって大阪と東京とアムスにいながら全員が自分の作品だと、100%の個性をつぎこむにはどうしたらいいかと考えたとき、みんなの曲があればいいと思ったんです。今回のアルバムの最後に入っている「Maison Silk Road」はRyuの作品で、彼が新中野で住んでいたアパートの名前なんですよ(笑)。

すごい名前だね(笑)。

Go:アパートなのでメゾンでもないしシルクロードでもない(笑)。

島から西方へ旅立つことを暗示していると思ったんですが(笑)。

Go:足元に西方への道があった(笑)。日本のアパート名ってすごくおもしろいじゃないですか。海外でレーベルをやっていると、ときどき発送業者から、これどうやって書けばいいの、と訊かれることがあるんですよ。ローマ字か綴字どおりにするのか、メゾンを「Maison」と書くか「Mezon」と書くかということなんですが、すごく日本っぽいなと思ったんですね。

たしかに。

Go:そのおもしろさがあって、Ryuがひとりでつくった曲を聴いたときに、アンビエントっぽくて溶ける感じがあったので、高田馬場にはじまったサイケデリック・トリップからやっと目がさめた雰囲気があったんですよ。喧噪が聞こえてきて街に戻ってきた、いろんな国や街に行って、閉じた目が開いて現実に戻ってくる──みたいな感じがあったので最後の曲にしました。

Ryuさんひとりで仕上げた?

Go: ほかのメンバーはノータッチです。いいじゃん、入れようって。

そういう話を聞くと幾何学模様は誰が主導的な立場と決まっているわけではないのだとわかります。

Go:こうやって僕がインタヴューを受けてバンドの考えとか話したりするんですけど、ひとりが曲をつくっているスタイルだとほかのメンバーはそれをやるだけになってしまうとみんなでやっている感覚がなくなっちゃうので、みんなでやる感覚をどうやって失わずにつくれるのかはずっと考えていました。

その関係性は現在も崩れていませんか?

Go:崩れてはいませんが変わってはいます。みんな年をとっていろんなことを考えるようになっているので、変わったこと、変わるのが前提で、どうやってみんなで話し合ってコミュニケーションして、いまはこういうことをやりたいということをバンドにフィードバックするかということでした。

アートワークも、今回は写真ですね。

Go:もともといろんなアーティストを探していて、いままではイラストだったので平面なんですね。

はい。

Go:その平面をもうちょっとなんとかしたくて壁に描いてある絵を撮ったんですよ。いまちょっとおみせしますが(といってPCをもって部屋を出て階段をくだっていく)うちの壁なんですよ(といってPCカメラをむけると『Kumoyo Island』のジャケットと同じ絵柄が壁に描いてある)。

ほんとだ。

Go:ここに直接描いてもらったんですね。

誰が描いたの?

Go:オランダのアーティストです。それを写真に撮ると絵にみえるとよくみると写真だとわかる、奥行きを感じさせるジャケットがいいなと思ったんですね。

壁の前のソファとその下のオレンジにはどんな意味があるんですか。

Go:ソファはコンフォタブルな場所という意味です。このアルバムに入っている “Nap Song” や『Masana Temples』の “Blanket Song” のように温かい、つつまれるような感じがコンセプトにありました。アートのディレクションはTomoですが、Tomoとアーティストで話して、こういうイメージでとか、アルバムのなかの曲ごとのイメージを全部話して、色使いやモチーフや構図を指示をしたんだと思います。ジャケットの上の枠がオレンジじゃないですか、それでこのドットが落ちたようにみえたらおもしろいね、ということでそこからオレンジを置いたんだと思います。

5枚目が出て、ツアーも予定されているんですよね。

Go:5月からアメリカの西海岸がはじめで、ヨーロッパに戻って主要都市をまわるのが6月です。

最後に確認しますが、バンドを10年つづけてきて、演奏も達者になり、リレーションも充実しているなかのラスト・アルバムは返す返すもったいなくないですか。

Go:そのもったいなさがポテンシャルじゃないですか。もうちょっとできたかもしれないというエネルギーを今後どう活かすかという。おなかいっぱいになって終わるより、そうなって終わるほうが、ライヴでもなんでも僕はいいと思います。もうちょっと聴きたかったのに、というところで止められるともう一回いきたくなるような気持ちになる。バンド活動も、もうちょっとできたかも、と思う反面、自分たちでこれでいいでしょうと納得できたので、ここで! ということです。

日本でのライヴは予定されていますか。

Go:7月の終わりにFujiが決まりました。それと11月か12月に、最後に東京でやりたいですね。

やってください、ぜひ。

Go:家に帰ってきた感じで、最後にみんなでトリップからめざめたいです。


取材:松村正人(2022年5月20日)

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