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interview with Jeff Mills + Rafael Leafar

interview with Jeff Mills + Rafael Leafar

我らは駆け抜ける、ジャズとテクノの向こう側へ

──ジェフ・ミルズ&ラファエル・リーファー、インタヴュー

取材:野田努    通訳:魚住洋子   Oct 15,2021 UP

音楽は人びとの心を自由にするものだということをつねに忘れてはいけない。そのプロセスにはさまざまなアプローチがある。『オーヴァーライド・スウィッチ』」はマインドをリセットして、何か目の前の障害に向かっていくというようなテーマだ。

いままでのジェフの作品とはリズムへのアプローチが違っていますよね。それはなぜですか? 今回のリズムのコンセプトについて教えてください。

ジェフ:ひとつは、トニー・アレンと共演して学んだことが今回のプロジェクトに反映されている。アコースティックのドラムスがエレクトリック・ドラムとマッチしたときに生まれる特別な感覚、アルバムにはそれがある。ストリングスやベース・ラインでも表現したいアイディアがあって、自分だけでスタジオで作業していたものもあった。とはいえ、ラファエルとは青写真があったわけではなかった。とくにディレクションもなしで、トラックをラファエルに送って、彼がどう感じるか、何をきっかけに次のレベルに進展させていくのかとても楽しみにしながら、制作は進行したんだよ。

お互いの音をなんども往復させたんですか?

ジェフ:だいたい2回往復だったかな。僕がトラックを送って、ラファエルがそれに音をかぶせて、それにさらに僕が音を足したりしてからミックスをして。エディットもだいぶした。音を省いたり、動かしたり。ポストプロダクションの作業はけっこうやったけど、ふたりのあいだのやり取りは2回だったと思う。

離れたところで音を加えながら、セッションしている空気感を出すのはなかなか難しいと思うのですが、その感じは出ていますよね。

ジェフ:そこはラッキーだった。ラファエルはスタジオを移動する最中で機材をいろいろと変えたりして、逆に音にヴァリエーションを持たせる結果になった。ラファエルはじつにたくさんのホーンのパーツを送ってきたから。多くの音源から選ぶことが可能だったし、送られてきた音を聞くだけで何時間もかかるような作業だった。そこから、どの音を残し、どの音を削るか、そしてどう楽曲を構築していくかを考えていった。パーカッションを加えたり、必要な要素を加えて、リズムやメロディをエディットした部分もあるけれど、大まかにはラファエルが演奏した段階で曲の構成は出来上がっていたと言っていい。空気感に関しては、最初からアルバムを制作する意図があったから、違和感のないように同じテクスチュアを持たせるように心がけた。もっとも、細かい計算をしたわけではなく、あくまでもフィーリングを大切にしたんだけどね。

ラファエルは出来上がった曲を聴いてどんな風に思いましたか?

ラファエル:すごく興奮したよ。ジェフがどういう風に自分の送ったホーンを料理するのかを楽しみにしていたから。じっさい、いまジェフが言ったように、ものすごい量のパーツを送ったからね。彫刻を作るような感じかな。ジェフが渡した素材を形づくって彫刻にしていくような。

出来上がった曲は想像していたようなものでしたか? それともまったく違った?

ラファエル:そうだな。想像と違ったというべきかな。最初に送られてきたのはドラムトラックのみだった。

2曲目の“Crashing”やそれに続く“Homage”、後半の“Soul Filters”にはサン・ラーやアフロ・フューチャリズムを感じたのですが、意識されました?

ジェフ:曲制作というのはストーリーテリングのようなものだ。その方法論はたくさんある。最初からはじめるものもあれば、話の途中からはじまるストーリーや終わりからはじまるものもある。そいう意味で自由に曲の構成を決めた。アフロ・フューチャリズムやフューチャリズムが好きな人たちが、このアルバムに興味を持ってもらうにはどのようにしたらいいか、何か特別な方法がないものかと思考したよ。圧倒的なホーンを中心に、その他のパーツの順序やアレンジを決めるのにかなり頭を使った。ラファエルはディープで重圧感のあるホーンをたくさん用意したから、それらを聴くというよりは体で感じるように集中して、たとえば重圧感が感じられるようなフリーケンシーを音のレアーの下の方に置いたりとか、ずいぶん工夫した。そうやることで、ストーリーがよりカラフルにヴィヴィッドになるからね。

サン・ラーの影響はありますか?

ジェフ: いや、サン・ラーよりはクラシック作曲家のグレゴリー(ジョルジュ)・リゲティの影響が大きい。彼の作品は次に何が起こるかわからない。突発的なものが次から次へと続いていく。ホーンを中心にそのような雰囲気で曲を作っていくのが面白いと今回は思った。“Sun King”がその良い例だ。長い楽曲で構成が定まらず流れに身をまかせるしかない。

ラファエル:ジェフが最初に言っていたことは同感だ。僕のリスペクトするアーティスト、ジョン・コルトレーンはかつて「私はときには曲の終わりから演奏をはじめる」と言ったことがある。コルトレーンの演奏は予想できないし、同じ曲でもまったく違って聞こえる。僕もそういったアプローチがつねに頭にある。
アフロ・フューチャリズムというのは、過去と未来に重点を置いて、過去の重圧、地球に根を張りつつも未来、宇宙との繋がりを考えるという思想だけれど、僕は未来を考えるには、いま現在も大切だと思っている。自分がソロ演奏するときにはいま、この瞬間を体現する必要がある。だから僕がアフロ・フューチャリズムを考える場合には過去からつながる現在を表現し、それが演奏中のインプロヴィゼーションになっていく。さまざまなホーンでいろいろな音を表現して。

アフロ・フューチャリズムとは、過去の思い出よりも未来の可能性にかける、というような意味合いもあると思います。このアルバムは、昨年盛り上がったBLMムーヴメント以降に制作されたアルバムなわけですが、そのようなサブジェクトが潜んでいるのでしょうか?

ジェフ:それは正しいと言える。つまり、いまの世のなかは間違ったことがあまりにも多いじゃないか。いま必要なのは、解決の糸口を探す合理的なアプローチなんだ。このアルバムで、いまあるものを超越できるということ、あるいは避けて通る方法はあるんだという希望を提案したかった。困難を乗り越えることができる精神状態を作れるよう自分に暗示をかけるみたいなもので、どんな苦しい状況にあっても進化への道筋は残されていると。誰が何をしようが、何を言おうが、振り回されない、前に進むための自信をつかむというか。それがこのアルバムの基本的な考えだ。こうした考えがフューチャリズムと同じとは言わないけれど、方法論として似たところもあると言えるんじゃないかな。違った考え方を啓蒙することで未来がより良くなるという、そういう思想。それは否定的な思想にもなりうるけれど、このアルバム『オーヴァーライド・スウィッチ』の場合はポジティヴな思考を主張している。僕らの音楽が少しでも人の役に立てればいいと思っているんだ。

ジョン・コルトレーンはかつて「私はときには曲の終わりから演奏をはじめる」と言ったことがある。コルトレーンの演奏は予想できないし、同じ曲でもまったく違って聞こえる。僕もそういったアプローチがつねに頭にある。

昨年世界中で盛り上がったBLM以降、何か状況の変化の兆しはありましたか? UKではDJネームを変えるような人たちもいたり(例:ジョーイ・ネグロ)、レーベル名を変えたりとか(例:ホワイティーズ)、変化がありますが。

ラファエル:BLMはあまりにも大きなテーマだな。そして黒人のなかにおいても、それをひとつのトライブと捉えていいのかという議論もある。世のなかにはさまざまの肌の色のさまざまな考えを持った美しい人たちがいて、僕がそれを代表して何かを言うことはできないと思っているし。でも、DJネームを変えるような些細なことはかえってムーヴメントの妨げになっていると思うよ。重要なのは、この400年のあいだ、黒人が何を成し遂げようとしてきたのかということで、まずはそのことを考えるべきなんだ。表層的な政治性は本当に必要な変革を達成するうえでは邪魔だと言える。

ジェフ:僕も同感だ。400年ものあいだ、黒人の生命はおもちゃのように扱われ、弾圧され続けて、ひどく破壊されてきた。BLMは400年に渡る制度的な拷問に対抗する闘いで、黒人家庭、黒人街、黒人教育などに対するすべての破壊と闘っている。これは、今後も継続していく戦いだ。BLMによって改善されたこともあるし、変化も起きた。一時的でないことを希望するよ。でもBLM以前より黒人の人生が良くなったと結論づけるのは難しいね。時間が教えてくれるだろうけれど、少なくともより多くの人の意識が高まったのは事実だ。そして結果を見る機会は再び訪れるだろうね。アメリカ国民がよりブラウン(非白人)になるにつれて、白人の恐怖感を見る機会は増えるかもしれない。白人はいままでよりいっそう内省的になるかもしれない。彼らはいままでには経験しなかった気持ち、かつてのように優遇されている状況ではないことをより意識するようになるかもしれない。それがBLMによる変化なのか、単なる偶然かはわからない。でも事実は変わらない。この国はかつてないスピードでブラウンが増え続けている。いまはこの変化に気づく最初の段階なのかもしれないね。アメリカはいつだって白人だけの国ではなかったし、黒人の人口比率は彼らが思っているほどに低くはない。もちろん黒人以外の非白人も増え続けているからね。

なるほど。それはそうと、ジェフはこのコロナ禍で『The Escape Velocity』というオンラインマガジンを創刊しました。今回の『オーヴァーライド・スウィッチ』もそうですが、何かから脱出したいというような気持ちがあるのでしょうか?

ジェフ:音楽は人びとの心を自由にするものだということをつねに忘れてはいけない。そのプロセスにはさまざまなアプローチがある。『オーヴァーライド・スウィッチ』はマインドをリセットして、何か目の前の障害に向かっていくというテーマだ。『The Escape Velocity』は瞬間、比率、A地点からB地点へ到達して自由になる過程をテーマにしている。ふたつのプロジェクトに類似性はあるけれど、どちらも結局は音楽が人を解放するという僕の基本概念に基づくものだ。無から何かをクリエイトすることはとてもパワフルなことだし、そこには自分の感情の延長が存在する。音楽を通して、言葉とは違う次元での会話が可能になる。

なるほど。最後にラファエルさん、最近のデトロイトの音楽コミュニテイはどんな感じしょうか?

ラファエル:若いミュージシャンがたくさんいるよ。デトロイトはいつだってミュージシャンの巣窟だ。素晴らしいジャズ、ゴスペル、ファンク、R&Bのミュージシャンなど多くの才能を輩出しているからね。デトロイトには、例えばロスアンジェルスとハリウッドのつながりのような、いわゆるプラットフォームがない。昔はモータウンがあったけれど。それに、ジェフもよく知っていると思うけれど、デトロイトの公立学校では音楽教育が廃止されてしまった。けれど、それでデトロイトの子供たちのクリエイティヴィティがなくなったわけではない。才能を止めることはできず、何かしら違う形で姿を現してくると思う。僕がデトロイトのシーンで素晴らしいと思うのは、すべてのジャンルがつながっていることだ。それがユニークなサウンドを生み出しているんだと思う。

ジェフ: 違うジャンルのミュージシャンの交流はあるの? ジャズとエレクトロニックとか、ヒップホップとか。

ラファエル:もちろん。とくに若い子たちのあいだでは。お互い何をしているかチェックしあっている。同時に才能ある者はデトロイトを出ていってしまい、他の都市のシーンを支えているという事実もある。ニューヨークに行けば、どんなジャンルでも必ずデトロイト出身のミュージシャンがいるよ。ロスにはたくさんのデトロイト出身のヒップホップ・プロデューサーがいる。例えばKarriem Riggins。ジャズとヒップホップをミックスした最初のプロデューサーのひとりだ。もちろんJ. Dillaも。ニューヨークにもデトロイト出身の偉大なジャズ・ミュージシャンが大勢いる。Gerald Cleaverとかね。

ジェフ:デトロイト・テクノとジャズのミュージシャンのあいだの交流は?

ラファエル:それはマイク・バンクスが長年やってることだよね。Shawn Jones、Jon Dixonといったアーティストはマイクが後押ししてきた。僕もそれに加担している。やらない理由がないだろう?

そうですよね。では、これからもデトロイトから面白い作品が出てくるのを期待しましょう。今日はありがとうございました。ところで、ジェフはDJのブッキングはこの先もけっこう入っているのですか?

ジェフ:じょじょに増えてきているよ。2022年はもうスケジュールがいっぱいになりつつある。いままではプロモーターも政府の要請がいろいろと変わって、なかなか前もってイベントを企画することができなかったけれど、状況が良くなってきて、ヴェニュー、アーティストなど事前にブッキングできるようになってきたので今後は元に戻っていくと思うよ。

(※)The Escape Velocityからのリリースが現在44作品(すべてジェフ以外のアーティスト)、Millsart名義のEvery Dogシリーズがvol.5~13 まで9作(すべてデジタルのみ2020年)、ソロ作品では『Clairvoyant』(アルバム)、「Think Again」 (Millsart名義)、Jeff Mills + Zanza21による「When The Time Is Right」。また、エレクトロニック・ジャズ系のリリースでは、ジェフ自身が関わったThe BeneficiariesとThe Paradoxをはじめ、Byron The Aquarius、Raffaele Attanasioといったアーティストの作品もリリースしている。

取材:野田努(2021年10月15日)

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