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The Bug vs Ghost Dubs

DubIndustrialNoise

The Bug vs Ghost Dubs

Implosion

Pressure

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河村祐介 Dec 22,2025 UP

 UKデジタル・ニュールーツ・レゲエのステッパーの「速さ」でもって、コンラッド・パック~DJゴンズらがダブ・テクノの新たなスタイルを切り拓いたとすれば、ゴースト・ダブスは、2024年リリースの『Damaged』で、サウンドシステム体験に由来するダブのヘヴィネスをある種の「遅さ」でもって表現し、さらなる「重み」を引き出したことでダブ・テクノのまた別の新たな道を作り出したと言えるのではないだろうか(どちらもUKデジタル・ニュールーツのサウンドシステムにその着想のルーツがあるのが共通しているとも言える)。本作はゴースト・ダブスが、〈Pressure〉のドン、ケヴィン・マーティンことザ・バグとともに、その「重さ」に対する過剰なオブセッションをさらに追究した作品と言えるだろう。もちろんサウンドの「重さ」は、長年のケヴィン・マーティンの音楽表現の核となるサウンド・コンセプトでもある。

 ゴースト・ダブスはドイツはレーバウ生まれ。現在はドイツの南西部シュトゥットガルトを拠点に活動するマイケル・フィードラーによるプロジェクト。2000年代中頃からダブ・ダウンテンポな「トーキョー・タワー」なる名義で活動をしているようだが、おそらくゴースト・ダブスへの直接の関連としては、ジャー・シュルツ名義での活動が挙げられるだろう。同じくドイツのダブ・レーベル〈Basscomesaveme〉にて、2018年よりリリースし、2枚の『Dub Over Science』というシリーズがある。当レーベルは比較的UKデジタル・ニュールーツ的なサウンドシステムに根ざしたダブに軸足がありながら、べーチャン/リズム&サウンド由来のミニマル・ダブ的なサウンドの影響も感じさせるのが特徴で、ジャー・シュルツもまさにそうしたサウンドと言えるだろう。ニュールーツ・ステッパー的なリズムをピッチダウンすることで得ることができる「重さ」と、かのジャンルのシンフォニックな要素を排除し、テクスチャー的にはリズム&サウンド的なミニマル・ダブなサウンド感を取り入れている。そしてゴースト・ダブス名義は、ジャー・シュルツ名義の作品をさらにスクリューし、さらにベース音以外をストリップダウン、まさにその「重さ」のみを追求。すなわちサウドシステムでのあの低音体験以外のほとんどの音楽的要素を、名義が示すように「不在」にしてしまった、そんなサウンドを展開している。しかし、恐らくサウンドシステムの経験者ほど、逆説的にその「不在」によって、生々しい現地での圧倒的な空間を埋め尽くすベース体験を思い起こす、そんな作品だった。

 一方、ここ数年、ザ・バグの方は2023年より「The Machine」というシリーズで、同〈Pressure〉より作品をリリースしており、Bandcampでは自身の解説として「Slower, lower, hypnotic and basically dirty as f-ck/より遅く、より低く、催眠的で、基本的にはクソ汚い」と言い、一時期のダンスホール・スタイルをスクリューしたような、インダストリアなノイズにまみれたダブのシリーズをリリースしている。ちなみに〈Pressure〉はレーベル屋号でもあるが、自身が主宰するサウンドシステム・パーティの名前でもある(今回のジャケットもそのシステムのスタック・スタイルとも)。こうした音楽性の追求の下でジャー・シュルツのサウンドと共鳴し、ゴースト・ダブスの音源をリリース、そして今回のスプリット・アルバムへと結実したことは想像に容易い。

 少々本筋とはズレるが、ザ・バグことケヴィン・マーティンと言えば、もちろん数少ないベリアルとのコラボレーターでもあり、2003年の〈Rephlex〉からの早すぎたテクノ・ダンスホール・アルバム『Pressure』(ちなみにこちらはセカンドで、同名義でのデビューは最近スペクターの再発やらなにやら注目が集まりそうなNYの「イルビエント」レーベル〈WordSound〉から)のリリースなどその先鋭的なサウンドは後々驚かされることばかりでもある。またこれまでのコラボレーターや〈Pressure〉からのリリースの人選なども一癖も二癖もあるが、そのラインナップにUKのグライムMCからジャマイカン・ディージェイ、果てはインダストリアル・メタル方面からのJKフレッシュ(ゴッドフィッシュ/ナパーム・デス)、ストーナー・ロック方面のアル・シスネス(スリープ)、さらにベリアルを列べられるのは彼ぐらいのものだろう(この交点に彼の音楽性の核があるとも)。また〈Mo' Wax〉からの『Now Thing』(2001年)と、その続篇として2020年代のテクノ/ベース・ミュージック界隈からのダンスホール再評価として話題となった『Now Thing 2』(2021年)もあったが、その間を中継するコンピとしてケヴィンが選曲を半分担当した〈Soul Jazz〉からの、当時のベース・ミュージック的な目線でダンスホールを捉えた2011年のコンピ『Invasion Of The Mysteron Killer Sounds』も忘れてはならない(1990年代、〈Virgin〉のアンビエント・シリーズからリリースされた、彼がコンパイルした『Macro Dub』も、トリップホップやジャングルなどダンス・ミュージックのダブを横断するまさに『DUB入門』的には名盤だ)。と、なにが書きたかったかというと、そのセンスは先鋭的で、彼のやることには、あとあと「アレって早かった」と思うことがなにかと多い。おそらく本作も新たな文脈を作り出すのではないか、そんなことも考えてしまう。

 と、話は戻るがそんなザ・バグがゴースト・ダブスとともに今回『Implosion』と名付けたスプリット・アルバムは、さらに「より遅く、より低く、催眠的で、基本的にはクソ汚い」をこれまた体現したサウンドで、そのタイトルは強大な質量ゆえに光すらも脱出することができないブラックホールの内向きの強力な重力を想起させ、ここで展開される音はそれくらい重いということなのだろう。とにかく冷たく、不穏で重い、インダストリアルでノイジー、そんなダブ・サウンドが全体を覆い尽くしている。アルバムはそれぞれの楽曲が交互に収録され、いわばレゲエのサウンド・クラッシュのチェーン・フィ・チェーン・スタイルで展開していく。初回に聴いたときにはいわゆる純然たるコラボ楽曲かと思っていたがそうではなかった。マッシヴ・アタックの『Mezzanine』の冒頭 “Angel” のイントロを彷彿とさせる冷たく重いザ・バグの楽曲からスタートし、不穏な霧がかったエコーとスロウにピッチダウンされたミニマル・ダブ・サウンドのゴースト・ダブス、と交互に進んでいく。ザ・バグの方がノイジーで、ゴースト・ダブスの方は空間を生かしたダブ・ミックスが特徴のように思える。そしてザ・バグの “Burial Skank (Mass, Brixton)”、“Dread (The End, London)” やゴースト・ダブス “Into The Mystic” といった重量級のスロウ・ステッパーの合間に聞こえてくるノイズは、まるでサウンドシステム特有のホワイトノイズや耳鳴り、巨大な低音ゆえに建物の躯体が共振して生まれるノイズを追体験しているかのようでもある。もはやその低音は空気の暴力とも言えそうな物理的な圧迫感すらある。それでいて、そのサウンドの感触は、もはやストーナー・ドゥームのレコードの隣にあっても、そういうものだと思ってしまいそうなところもある。

 ノイズやドローン・メタルの轟音体験と、レゲエのサウンドシステムによるダブの轟音体験に同様のものを見出す、それを音像として体現してきたのがケヴィン・マーティンのある種の表現の核にあるように思える。そして本作では、まさにサウンドシステムの出音、轟音の低音体験をいかに音楽表現に変換し伝えるかというのがひとつコンセプトなのだろう。過剰なまでに増幅されたドローンにも似たベースライン、ノイズとエコーは物理的な現場の状況をシミュレートしているかのようで、サウンドシステムの轟音体験の記憶を生々しい音楽として顕現させている。ジャケットのモチーフ、サウンド・クラッシュのチェーン・フィ・チェーン・スタイル、さらにはザ・バグにいたっては、その曲名には、例えばジャー・シャカがサウンドシステムをよく開催していた〈Rockets〉など、UKレゲエ~サウンドシステム~ベース・ミュージックの重要なヴェニューや地域の名前がつけられている。まさにサウンドシステム・カルチャーに捧げられた1枚と言えるだろう。ある意味で目の前にヴァーチャルなサウンドシステム体験を顕現させようとするようなそんな作品でもある。もちろんそれなしでも楽しめる作品だが、サウンドシステムでのダブ体験、それがあって作品のディティールに触れることで、さらなる驚きと理解が生まれる作品でもあるだろう。


河村祐介