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Home >  Reviews >  Album Reviews > François J. Bonnet & Stephen O’Malley- Cylene II

François J. Bonnet & Stephen O’Malley

AmbientDroneExperimental

François J. Bonnet & Stephen O’Malley

Cylene II

Drag City Records

デンシノオト Dec 18,2023 UP

 静謐な不穏。静かな殺気。何か押し殺したような迫力が、この持続音にはある。「何か」がそこに「いる」ような感覚とでもいうべきか。しかし何も「ない」。だが気配は「ある」。いや存在の気配は「ある」。確かに音は鳴っているのだから。
 いや、これは「音楽」のはずだ。確かに霧のような、風のような音は聴こえてくる。それは霞んだエレクトリック・ギターの音。静謐な電子音が鳴っている。ノイズも聴こえる。
 だが、「ここ」にあるのは、「音」だろうか。「ノイズ」だろうか。そもそも「音楽」だろうか。いや、それともそのすべてが「ここ」ではあてはまるとでもいうのだろうか。もちろん、これは音楽だ。『Cylene II』と名付けられたアルバムであり、音楽作品だ。
 しかし、私には、このアルバム『Cylene II』の音は、存在すると同時に存在しないように聴こえてならないのだ。いわば「幽霊の音」がここにある。

 GRM (Le Groupe de Recherches Musicales/フランス音楽研究グループ)の芸術監督であるフランソワ・J・ボネ(カッセル・イェーガー)と、サンO)))のスティーヴン・オマリーのデュオ作品、その二作目である。前作『Cylene』は2019年に〈Editions Mego〉からリリースされたが、本作『Cylene II』は、オルタナティヴ・ミュージック・レーベルの老舗〈Drag City〉からとなった。
  前作『Cylene』は楽吉左衛門=樂 直入による現代焼き物をアートワークに起用していたが、本作『Cylene II』では、前作で撮影を行なっていた Eléonore Huisseの霧に満ちた荒涼とした光景を捉えたような写真を用いている。
 そう、モノから霧ようなアトモスフィアへ。このアートワークの変化は、彼らの音の変化も表しているように感じられた。ちなみにマスタリングは前作『Cylene』ではDubplates & MasteringのRashad Beckerが手掛けていたが、本作『Cylene II』ではGiuseppe Ielasiによるマスタリングだ。録音は前作同様、 INA-GRMで行われた。

 このアルバム『Cylene II』を聴き終わったとき、私は「音の幽霊」というものをどこかに感じとってしまった。単なる妄想。単なる思い込みだろう。音はそこに「ある」のに、「存在しない」。そんな音を聴取したような聴き心地が残った。
 簡単に言えば、アルバム『Cylene II』を一聴したとき、とても不思議な音響だと思ったのだ。オマリーのギターも、ボネのシンセサイザーも、確かに鳴っているにも関わらず、そこにないように聴こえたのである。まるで時間が停滞する世界、もしくは冥界から聴こえてくるようなサウンドのようだ。
 彼らのソロやバンド作品とは違う音だ。さらにいえば彼らデュオの前作『Cylene』のサウンドスケープとも異なっていた。もちろん同じことを繰り返さないのもアーティストのサガとはいえ、『Cylene II』はそのようなこととは異なる何かがあった。何だろうか?

 アルバム『Cylene II』には全6曲が収められている。ギターとシンセサイザーによるドローン/アンビエントといえるが、心を沈静化してくれるような心地よさは希薄である。音はやや硬く、静謐だが微かな痛みを感じるような、現実と非現実が持続するような音響が続く。
 本作ではオマリーのギターの音がまず耳に残る。彼のギターは持続していても、どこか非持続的というか、持続が切断されるような緊張感がつねに横溢していた。
 そこにボネの幽玄なシンセサイザーによるドローンが絡みつく。二人の音の交錯は前作以上に生々しく、現実感を欠いた音響との対比が見事である。じっさいこのアルバムを聴き卯づけていると、音は存在するのにしかし存在しないという奇妙な感覚を持ってしまう。幽霊のようなノイズ/ドローン作品とでもいうべきか。私は、この『Cylene II』のオマリーのギターを聴いていると、不意にミカ・ヴァイニオのノイズのことを思い出した。持続されているにに途切れているような不可思議な切断の感覚を持ったドローンに、どこか近いものを感じたのだ。持続しているにも関わらず、持続が切れていくような音響。

 とくに4曲め“Ghosts of Precognition”に注目したい。この曲は11分44秒というアルバム中、もっとも長尺のトラックだ。オマリーのギターとボネのシンセ(電子音)の絡み合い、変化、浸透していくさまを聴き取ることができる。この曲は、本作中でももっとも音の変化がダイナミックに行われており、抽象的な音による交響曲のような趣さえある。この曲以降、この『Cylene II』にはある種の硬質なダイナミズムを獲得する。空間と空気を切り裂くような、まるで音の裂け目のようなサウンドを生成していくのだ。とくにオマリーとボネの音の交錯が実になまなましい。素晴らしいドローン楽曲だ。
 だが、あえていえば、アルバム前半の静謐なムードの方が、『Cylene II』ならではの幽霊のような音響に満ちていたともいえなくもない。特に2曲め“Rainbows”だ。曲名がもたらす色彩的なイメージが音響にはなく、どこか灰色の世界がここにはある。静謐で霧のような音響。「ある」のに「ない」という不思議な質感。そのようなノイズ、サウンドで構成されていたのだ。聴いても聴いても掴み切れない感覚とでもいうべきか。だからこそより強く耳を澄ますし、その音を感じ取ろうと感覚を全開にもする。それは「聴く」という行為に自覚的になる時間ともいえよう。

 前作『Cylene』から4年(ジム・オルークと池田亮司による再構築アルバム『Cylene Suisse Redux』から2年)、ついにリリースされたこのデュオの新作『Cylene II』は、音の不在と存在、持続と非持続、静謐さとダイナミズムという音響の両極を往復しながら、しかしどこか存在しないような夢のような、幽霊のような音響空間が実現されている。極めて独特の音響空間がここにある。

デンシノオト