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Theo Parrish & Maurissa Rose

Deep HouseExperimentalSoul

Theo Parrish & Maurissa Rose

Free Myself

Sound Signature

猪股恭哉 Jun 20,2023 UP
E王

 サンプリングで作られた〈KDJ〉からのデビュー・トラック “Lake Shore Drive” 以降、自らの音楽理論に基づき確信的な作品を生み出してきたセオ・パリッシュは今作でもその姿勢を失うことはない。シカゴのオリジナル・ハウス世代をリアルに体験しながら、異行のハウスを生み出し、ケニー・ディクソン・Jr とともに多くのフォロワーを世界中に生み出してきた彼は、ソウルやジャズといった “ブラック・ミュージック” の先達ジャンルへの敬愛も作品で強く表現してきた。オリジナルの作品を普通になぞるのではなく自らのフィルターを潜らせた上で。
 本作は初のシンガーとのコラボ・アルバムであり、セオ流のスピリチュアル・ジャズ作品と捉えることができる。
 相手のモーリサ・ローズはベテランのシンガーで、これまで〈サウンド・シグネチャ〉とは2017年のアルトン・ミラー「Bring Me Down」を皮切りに、セオとの初コラボ「This Is For You」、「It’s Out Of Your Control」を経て今回遂にアルバムへと至った。そのコラボ作品をざっと説明すると、〈サウンド・シグネチャ〉のカタログ史上最もソウルフルなヴォーカル・ハウスといえる “Bring Me Down” は、アルトン・ミラーによる心地よいジャジーなタッチのハウス・トラックとモーリサの歌声によるソウルフル・ハウスで、王道の歌モノ・ハウスの魅力に溢れた楽曲として幅広い層に受け入れられた。次作の “This Is For You” では、マイナーでアンニュイなキーボード・リフと4つ打ちの痕跡をアヴァンギャルドなリズム隊がなぞるセオ・パリッシュらしい実験性が散りばめられたトラックに、ほろ苦く切ないヴォーカルが合わさることで『Wuddaji』のハイライトとして記憶された。さらに2022年「It’s Out Of Your Control」では、ハイハットこそ裏打ちながらやはり実験的なドラム主体のトラックと、モーリサのコーラスのように歌い上げる酩酊感あふれるヴォーカルが独特のサイケデリック感を醸したディープなダンス・トラックとして、前2作とは異なるアプローチを表してみせた。
 さて、ここでモーリサ・ローズについても紹介しておくと、デトロイトを拠点とするベテランのシンガーで、わずか7歳でゴスペルのレジェンドであるビル・モスと妻であるエッシー・モスに認められ彼らの〈ビレース・レコード〉と契約し10才でレコード・デビューを果たして以降、メジャー〈EMI〉との契約、独立しレーベルを立ち上げ、自ら楽曲制作も始める、という幼いときより天才性を周囲に認められてきた人物。パフォーマーとしてもアニタ・ベイカーやチャカ・カーンともかつてステージを共にし、加えてブッキング・エージェンシーとしても活動、米国映画俳優組合・TV映画ラジオの芸術家協会である SAG/AFTRA のミシガン州役員も務めるなど、音楽都市デトロイトの音楽家として豊富な経験と、重要な役割を果たしてきたことがキャリアからうかがえる。
 そのような充分すぎるキャリアを重ねたデトロイトのベテラン・シンガーと、説明不要の個性を放ち続けるDJ/プロデューサーが10曲に渡ってコラボレーションをおこなったのが本作なのである。
 はたしてでき上がった作品は「Free Myself」のタイトルどおり、ふたりが枷を外し己を自由に解放させたタイトル通りの内容となった。先行EPとなった表題曲 “Free Myself” はモーリサの歌唱をじっくり染み渡らせるような、スロウで低い重心のダウンテンポ・ソウル。次の “The Truth” ではベスプレとして活動するデトロイトの若手アーティスト、ケイラン・ウォーターマンも加わり、ゴスペル・ソウルのようなビートダウンを聴かせてくれる(この2曲のみ7インチ・アナログとしてフィジカル化)。3曲目の “I’m Done” は、抑揚を効かせながら力強いイメージが残る歌唱がエキスペリメンタルなトラックを下敷きに訴えかける真夜中のソウル。続く “Spiral Staircase” でもモーリサの歌声が主旋律として響き、掴みどころのないドラムがビートを刻むなか、フリーキーなピアノやキーボードは後ろで控えめにある。ささやかなメランコリアを纏ったリフとベースラインの不穏さが押し寄せる “Purify Me” と、ミニマルなパーカッションのビートダウンにリフレインするヴォーカルの “Everything You Want” を経て、Duminie DePorres のファンキーなブルース・ギターとリズムを強く意識したモーリサの声によるデトロイト・ファンク “Snakes” が存在感を放つ。アルバム中最もセオのハウス・サイドが展開する “Surround The World”、“Once I Been Gone” の実験的でサイケデリックなアブストラクト・ハウス、“Spiral Staircase” のインストで幕を閉じる。
 初のヴォーカル・アルバムは過去最もジャズでアヴァンギャルドな作品となり、セオ・パリッシュは自らの革新性を改めて知らしめる。

猪股恭哉