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Nnamdï*

Avant PopHip HopR&B

Nnamdï*

Brat

Sooper Records

Bandcamp

三田格   Apr 06,2020 UP
E王

 2面性のある人は紹介の仕方が難しい。悲しいのか、おかしいのか。どちらでもあるし、どちらかが強調されていれば、どちらもとは思えないだろうし。たとえばンナムディ・オグボンナヤ(Nnamdi Ogbonnaya)の“Wasted”は「どんな音楽を聴きたいの?」「時間を無駄にはできないよ」「君の話が聞きたいな」「すべての耳はダンボのように閉じている」といった歌詞ながら、そこから想像できる雰囲気をヴィデオから感じ取ることはできない。

 どうだろう? エイフェックス・ツイン”Windowlicker”は曲だけ聴いていれば悲しいムードなのに、ヴィデオを観ると笑ってしまうのに似ていませんか? シカゴ(生まれはLA)のンナムディ・オグボンナヤはそれに加えてロックなのか、ヒップ・ホップなのかという難しさも加わってくる。どちらでもあるし、どちらかが突出していれば、どちらにも思えないだろうし。彼のキャリアはマス・ロックから始まっている。2006年にバトルズを思わせるマス・ロックのパラ・メディクス(The Para-medics)としてデビューしたオグボンナはインディ・ロックのアルバトロスやパンクのナーヴァス・パッセンジャー、ハードコアのリチャード・デフ&ザ・モス・プライオーズなど10以上のバンドを掛け持ち、現在のところメインのように見えるモノボディやイットー(Itto)ではドラムス、ナーヴァス・パッセンジャーやティーン・カルトではベースを担当しつつ、ンナムディズ・スーパー・ドゥーパー・シークレット・サイド・プロジェクトとスーパー・スワッグ・プロジェクトではラップをメインに活動してきた。さらにンナムディ・オグボンナヤ名義では音楽性にまったく囚われず、気ままにミクスチャー・サウンドを展開している。これがこのほど名義をンナムディと短くし、『BRAT(ガキ)』と題されたアルバムでは独特のポップを創出したといっていい境地を見せる。オープニングはしれっとアコギの弾き語り。「Flowers To My Demons(我が悪魔に花束を)」と題され、ゲイの立場から「僕はリル・Bを尊敬するバラ色のプリティ・ビッチ」「でも、この街が僕を必要としていないことは理解してる」「お前らのことが嫌いだ」「花を贈るよ」とチーフ・キーフやドリルではないかと思える勢力に対して違和感を吐き出し、「君が必要だ」「新しいものが必要だ」と何度も繰り返す。リル・Bというのは2010年にリリースした『Rain In England』でクラインやマイサに受け継がれたドローン・ラップを創始したMCで、最近のラップ・アルバムには1曲ぐらいはドローンをバックにラップする曲が収録されているほどいまだに影響力を持った存在。ちなみに『BRAT』にもドリルやトラップを断片的に感じさせる“Semantics(意味論)”のような曲も散見できる。

 ンナムディ・オグボンナヤが様々なサウンドをミックスするようになったのは高校生の頃にジャズ・バンドに入ったはいいけれど、練習するのが嫌いで、楽器は他人の演奏を「観る」ことで覚え、とくにゴスペルのドラムはなんでもアリなんだなと思えたからだという。モノボディでは時にスティーヴ・ライヒを思わせるような曲もあり、イットーではスラッシュにも邁進するなど、沢山のバンドを掛け持っているのはそもそもひとつのことばかりやりたくないからで、要するに音楽を始めてから『BRAT』までまっすぐ進んできたわけである。幸せな男である。白状すると僕はンナムディ・オグボンナヤの多面的なスタイルではなく、まずは笑いに耳が行ってしまった。『BRAT』というのは、しかし、恐ろしいアルバムで、最初は笑いを誘ったはずなのに、同じ曲を何度も聴いているうちに、だんだん悲しくしか聞こえなくなってしまう(と、この文章を読んでしまった人には先入観が芽生えて同じ体験は不可能かもしれないけれど)。ある時期からは、だから、ンナムディ・オグボンナヤの悲しみを反芻するような聴き方しかできなくなり、気がつくと彼の感情の波に飲み込まれていることがわかる(ここでもう一度、冒頭の“Wasted”を聴いてみてほしい)。以前の作品はそうではなかった。『West Coast Burger Voyage』(13)や『FECKIN WEIRDO』(14)は笑いは笑いでしかなかった。もしくは悲しい曲と楽しい曲は同じアルバムに同居はしていても役割は分かれていた。『BRAT』はそして、“Glass Cracker“のように悲しい曲は本当に悲しく染み渡る。そして、そうした曲から今度は予期せぬ優しさが滲み出してくる。なんということはない、様々な音楽をミックスした果てにあったものは非常にオーソドックスな「ポップ・ミュージック」だったのである。彼はおそらくゴスペルのドラムを「観ていた」時に音楽が伝える非常に本質的な魅力も理解していたのだろう。おそらくは彼が初めからオーソドックスなポップ・ミュージックを実践していたら、このような重層性はつくり出せなかった。「放蕩息子の帰還」とはよくいったものである。

三田格