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ジャズ、ソウル、ヒップホップを軸にしたミュージシャン/アーティストを多数抱え、独自なスタンスを貫き通してきたレーベル/プロダクションである、〈origami PRODUCTIONS〉。特にライヴ・ミュージックというものにこだわりながら、彼らが長年やってきたことは、結果的に今の世界の音楽トレンドとも合致しており、その先見性には恐れ入る。そして、その〈origami PRODUCTIONS〉を象徴するアーティストが、Shingo Suzuki (ベース)、mabanua (ドラム)、関口シンゴ (ギター)という3人によるバンド、Ovall であり、彼らが4年間の活動休止期間などを経て、待望の3rdアルバムとしてリリースしたのが本作『Ovall』だ。
メンバー3人はそれぞれがソロ・アーティストとしても活動している Ovall だが、さらに様々なアーティストのサポート・ミュージシャン、そしてプロデューサーとしての活躍も非常に目覚しい。特に mabanua はプロデューサーとして Chara から RHYMESTER、藤原さくら、向井太一など、非常に幅広いメンツの楽曲を手がけ、さらに一昨年リリースしたソロ・アルバム『Blurred』でも非常に高い評価を得たのも記憶に新しい。そして、このバンドを立ち上げた張本人である Shingo Suzuki、そして関口シンゴもまた同様にソウルからヒップホップ、さらにポップスまで、メジャー、インディ含めて実に多彩なアーティストの作品にプロデューサーやミュージシャンとして参加している(その膨大な参加作品の詳細はオフィシャル・サイトを参照してください)。そして、彼ら3人が外仕事で積み重ねてきた豊かな経験が、6年ぶりのリリースとなった今回のアルバムにも大いに活きている。
これまで、2枚のアルバム『DON’T CARE WHO KNOWS THAT』、『DAWN』、さらにミニ・アルバムやシングルなども複数リリースしてきた Ovall であるが、改めてこれら過去の作品を聴いてみると、彼らの軸となっているジャズ、ソウル、ヒップホップといった要素を融合させながら、自分たちの音楽を作り上げようと大いに試行錯誤してきた様子が伺える。彼らがミュージシャンとして非常に優秀であることは間違いないが、彼らが理想としているサウンドやグルーヴ感に近づけていくのは決して容易なことではなかったはずだ。そして、ミュージシャンとしての高いアドバンテージは、逆に最先端のサウンドをバンドという形式で作り上げる中で、どこか足かせにもなっていた部分もあったようにも思う。ところが、今回の『Ovall』を聴くと、そこに迷いというものは一切感じられず、明確に Ovall としてのサウンドとグルーヴ感が提示されている。特にライヴ・ミュージックと打ち込みによるプロダクションとの絶妙なバランス感覚は、このアルバムの大きなポイントになっており、それこそが、おそらく彼らがこの6年間で習得してきたことの最大の成果であろう。バランス感覚という意味では、先行シングルともなった “Stargazer” などは一曲の中で見事に完成されているし、逆にライヴ感が前面に出た曲があれば、それを抑えた曲もあたったりと、アルバム全体でのバランス感覚も見事だ。ゲスト・シンガーとして唯一フィーチャされているのが、フィリピンのバンド、Up Dharma Down の Armi が参加した “Trascend” で、それ以外のヴォーカル曲は mabanua が歌う2曲(“Come Together”、“Paranoia”)だけで、あくまでも楽器が主役となっているのも新生 Ovall の姿勢というものが表れている。また、一昨年亡くなったロイ・ハーグローヴへのトリビュートとも言える “Dark Gold” など、彼らの音楽的なバックグランドを深く理解している人であれば、ニヤリとする仕掛けも随所に込められていたりと、聴けば聴くほどに引き込まれていくアルバムだ。
すでに海外への進出もスタートしている Ovall であるが、いずれは日本を代表するアーティストになるかもしれない彼らの、現時点での最高傑作をぜひ聴いて欲しい。
大前至