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The Comet Is Coming

CosmicElectronicJazz not Jazz

The Comet Is Coming

Trust In The Lifeforce Of The Deep Mystery

Impulse! / ユニバーサル ミュージック

Tower HMV Amazon iTunes

小川充   Apr 17,2019 UP

 エレキングの紙媒体で2018年の年間ベスト・アルバムのトップ2に輝いたのが、シャバカ・ハッチングスの参加するサンズ・オブ・ケメットの『ユア・クイーン・イズ・ア・レプタイル』だった。アフリカ系女性活動家たちの名前をそれぞれ曲名につけたこのアルバムは、アフリカをルーツとするディアスポラを立脚点に、音楽を通してアフロフューチャリズムを表現した作品だ。南ロンドンのジャズ・シーンを、コンピの『ウィ・アウト・ヒア』のプロデュースなどを通じて文字どおり引っ張るシャバカ・ハッチングスにとって、ディアスポラ的な視点やアフロフューチャリズムはたびたび作品に投影されてきたものであるが、サンズ・オブ・ケメットの音楽面や演奏面を見ると、ブラス・アンサンブルとアフロ・カリビアン・サウンドの融合ということがまずある。『ユア・クイーン・イズ・ア・レプタイル』については、そのカリビアン系の中でもジャマイカのサウンドシステム文化と結びついた点が顕著で、コンゴ・ナッティなどのラガマフィン~ジャングルMCを交えていた。ディル・ハリスのミキシングも通常のジャズのアルバムとは異なるレゲエ~ダブ的な録音スタイルで、個人的にはかつてのザ・クラッシュとかザ・ポップ・グループ、ピッグバッグやマッドネスあたりを想起させたわけだが、ジャズというよりもそうしたポストパンクとかニューウェイヴに近いアルバムだったと思う。シャバカが関わるユニットでは、メルト・ユアセルフ・ダウンもパンク~ノーウェイヴ色の強い演奏だが、彼のもうひとつのユニットであるザ・コメット・イズ・カミングの新作『トラスト・イン・ザ・ライフフォーズ・オブ・ザ・ディープ・ミステリー』は、もはやジャズという音楽的形式を完全に形骸化させてしまうような作品と言えるだろう。

 ザ・コメット・イズ・カミングはキング・シャバカを名乗るシャバカのほかに、シンセサイザー演奏やエレクトロニクスを操るダン・リーヴァーズ(ダナローグ)とドラマー兼ビートメイカーのマックスウェル・ホウレット(ベータマックス)がいる。ダナローグとベータマックスはもともとサッカー96というユニット名で、エレクトロ・ジャズ・ファンク~コズミック・シンセ・ブギーとでも形容すべき音楽をやっていたが、成り立ち的にはそのサッカー96とシャバカが合体したものと言える。プロデュースやアレンジはダナローグとベータマックスがだいたいおこなっていて、どちらかと言えば彼らふたりが主導権を握るユニットと言えそうだ。メルト・ユアセルフ・ダウンはポストパンクやノーウェイヴ的な演奏と述べたが、同じ〈リーフ〉からリリースとなるザ・コメット・イズ・カミングの方は、シンセやエレクトロニクスがサウンドの軸となっており、そのあたりが違いと言えるだろう。ファースト・アルバムは2016年の『チャンネル・ザ・スピリッツ』で、“ジャーニー・スルー・ジ・アステロイド・ベルト”や“スペース・カーニヴァル”といった楽曲名に示されるように、サン・ラーの精神を継承するようなエレクトリック・ジャズ・ファンク、サイケデリック・ジャズ・ロックを展開していた。スペイシーなSEとシンセによるアシッドなベース・ラインを持ち、シャバカ関連のユニットの中でもエレクトロニック度がひときわ強いので、クラブ~DJサウンドともっとも親和性が高いとも言える。2017年のEP「デス・トゥ・ザ・プラネット」に収録された“アセンション”という曲などは、デリック・メイによるスエノ・ラティーニョのジャズ版とでも言うような輝きを放っていた。

 『トラスト・イン・ザ・ライフフォーズ・オブ・ザ・ディープ・ミステリー』はその『デス・トゥ・ザ・プラネット』以来の新作となるセカンド・アルバムだが、サンズ・オブ・ケメットと同様にジャズの名門〈インパルス〉へ移籍してリリースしている。とは言っても『ユア・クイーン・イズ・ア・レプタイル』がそうだったように、一般的なジャズからはかなり乖離したものとなっている。録音は少し前の2017年2月と8月にトータル・リフレッシュメント・センターのスタジオでおこなわれ、〈ビッグ・ダダ〉からアルバムも出していたシンガー・ソングライターのケイト・テンペストがゲスト参加。そのほか面白い繋がりとして、ロウ・エンド・セオリーを主催していたダディ・ケヴがマスタリングをやっている。
 SF映画のサントラのようにアトモスフィアリックなビートレス・ナンバーの“ビコーズ・ジ・エンド・イズ・リアリー・ザ・ビギニング”でアルバムは幕を開け、続く“バース・オブ・クリエイション”もまるで異星人が奏でるようなスペイシーなダウンテンポ。このあたりはサン・ラー譲りのコズミックな感覚が支配しつつ、1960年代にディック・ハイマンとかピエール・アンリあたりがやっていたスペース・エイジ・ジャズの面影も感じられる。ここまではシャバカのテナー・サックス、もしくはバス・クラリネットも控えめだが、“サモン・ザ・ファイア”では曲名どおりに火を噴く。地響きのように不穏な唸りを上げるシンセ・ベースは、ベルギーのマルク・ムーランがテレックス以前にやっていた伝説のジャズ・ロック・バンド、プラシーボの“バレク”を彷彿とさせるもので、思いっきりエフェクトをかけたシャバカのサックスはまるでサイレン音のようだ。“スーパー・ゾディアック”はアンビエントな出だしながら、律動的なジャズ・ロックのビートへと変わる。グループ名どおりハレー彗星を思わせる曲で、シャバカのエモーショナルなサックスのブロウで終わる。そこから浮遊感に満ちた“アストラル・フライング”へという動と静の対比も見事だ。ベータマックスの変幻自在のドラミングが映える変則ブロークンビーツ調の“タイムウェイヴ・ゼロ”、ケイト・テンペストのスポークンワードをフィーチャーした重量級コズミック・ジャズ・ファンクの“ブラッド・オブ・ザ・パスト”、アフロ・リズムとアンビエントが出会ったニュー・エイジ的な“ユニティ”、そしてファラオ・サンダースを想起させるシャバカのサックスによる“ザ・ユニヴァース・ウェイクス・アップ”でアルバムは幕を閉じる。かつてアフリカ・バンバータがクラフトワークの影響を受けて“プラネット・ロック”を作り、ヒップホップとエレクトロの道を切り開いていったが、そうした異文化の衝突から新しいものが生み出されていく初期衝動に満ちたアルバムである。


小川充

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