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K Á R Y Y N

Avant PopBjorkElectronica

K Á R Y Y N

The Quanta Series

Mute/トラフィック

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野田努   Mar 19,2019 UP

 ラビットが出てきたとき、ビョークは彼の音楽を「いわば21世紀型のテクノね」などと呼んでいるが、そのビョークも認めた才能というわけで、〈ミュート〉が肝いりでデビューさせるこのカーリーンも「いわば21世紀型のテクノね」である。アルメニアとシリアをルーツに持ち、アメリカで生まれ育った彼女は、ロンサジェルスで活動をはじめ、やがてNYに移住し、ベルリンにも滞在しながらIDM系の作品を作っている──なんてたしかに21世紀っぽい。プロモ用の写真では、仏教と『スターウォーズ』に影響を受けた衣装を着ているらしい。インターネットのおかげで趣味が地球規模になってきているのだ。
 音楽的にみて、FKAツイッグスやホリー・ハーンドンあたりがカーリーンと似たもの同士ってことになるのだろうけれど、彼女のデビュー・アルバム『ザ・クアンタ・シリーズ』はビョークの『ヴェスパタイン』とも繫がっている。レイキャビックで公演されたオペラに出演中のカーリーンを見てビョークが賞賛したという話だが、そもそもカーリーンがビョークに似ている。その感情のこもった歌い方とエレクトロニクスの実験とのバランスにうえに成り立っているという意味において。
 
 1曲目の“EVER”にはポップのセンスも注がれている。この曲は多分にR&Bからの影響が出ているのだが、しかし、カーリーンの歌声は、ソウルというよりもコクトー・ツインズのエリザベス・フレイザーに近い。いわゆるエーテル系、彼女のエレクトロニック・ミュージックにおいては彼女自身の声が音のパーツのひとつとして使われている。声はこの作品の聴き所なので、注意深く聴いて欲しい。彼女のちょっとしたアイデアが随所で楽しめる。
 カーリーンのメロディラインには、おそらくはアルメニア人である父親の影響が大きいと思われる。西欧でも東洋でもブラックでもない。独特の節回しがところどころで聴ける。まあこれはつまり、グローバル・ミュージックである。
 そして『ザ・クアンタ・シリーズ』にはメランコリーが充満している。シリア内戦の悲劇を歌っている曲もある。これはとても重たいテーマだ。ほかのいくつかの曲でも悲しみが歌われているし、最後の曲などはレクイエムと言ってもいいだろう。と同時に、これはちょっと面白かったのだが、彼女の歌詞にはコンピュータに関する単語がときおり出てくるし、サウンドのところどころからはある種機械へのフェティシムズムも感じなくもない。彼女が歌う「二進法で愛して」という言葉の意味はぼくにはよくわからないけれど、ひょっとしたら彼女は人間に絶望しているのかもしれない。それこそフィリップ・K・ディックの世界で、アンドロイドのほうがよほど人間らしいやという逆説である。しかしまあ、それと同時に、恋人への思いが綴られているわけで、恋物語のアルバムとしても聴ける。かなり風変わりな。

 それではいったいこのアルバムはいつ聴いたら良いんだろうかという問題がある。ぼくは真夜中に聴くことをオススメする。ちなみに彼女のもっとも素晴らしい瞬間は、2曲目の“YAJNA”という曲にある。これは最高に格好いいです。

野田努