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Merzbow

Noise

Merzbow

Pulse Demon

Bludhoney Records

捨てアカウント   May 08,2018 UP Old & New

 ノイズ・ミュージックとVaporwaveの近似性については兼ねてから考えていたことだ。かつて秋田昌美が提唱した「スカム・カルチャー」という定義は、インターネットの下層に蓄積する消費社会の残滓に美学を見出したナードたちが、それを冗談半分にこねくり回すことで成立した初期Vaporwaveの意匠にも通ずる側面があるように思える。80~90年代のノイズ・ミュージック、そしてゼロ年代のVaporwave……。思想もスタイルも対極に位置していた両者がインターネット上で時代を超えて交わるとき、もはや縦の音楽史としてはあり得なかった文脈を経て、今年、Merzbowの『Pulse Demon』は再発を果たすこととなる。

 Merzbowといえば、80年代から現在に至るまで勢力的に活動を繰り広げているミュージシャンとして有名である。去年〈スローダウンRECORDS〉からリリースされたduenn、Nyantoraとのコラボレーションアルバム『3RENSA』、そのリミックス・プロジェクト『3RENSA_fb01』『3RENSA_fb02』『3RENSA_fb03』『3RENSA_fb04』が各所で大きな話題を呼んだことも記憶に新しい。そんな彼が1996年にリリースしたジャパノイズの金字塔『Pulse Demon』は、まさにMerzbowの代表作といっても差し支えないだろう。しかし、なぜいま、20年以上の時を経て『Pulse Demon』が再発に至ったのだろうか。

 この作品の再発を手掛けたのは、インダストリアルやノイズ・ミュージックに熱心なリスナーには耳馴染みのないであろう〈Bludhoney Records〉というアメリカのレーベルだ。それもそのはず。じつはレーベルのルーツを辿ってみると、意外にも行き着く先はVaporwaveである。レーベルのカタログナンバー1を飾る、OSCOB / Digital Sexの『OVERGROWTH』は、『ローリング・ストーン』でも取り上げられたVaporwaveの傑作、2814の『新しい日の誕生』をリリースしたことでも知られる〈Dream Catalogue〉のリイシューである。もともと〈Bludhoney Records〉はVaporwaveの美学に則ったカセットテープ・レーベルとして始動したのだ。

 〈Bludhoney Records〉は、日々先進的なエレクトロニック・ミュージックをリリースしているが、このレーベルのカタログに、Merzbowの『Pulse Demon』が加わったとしても、それは全く不思議なことではない。ここ近年、Vaporwaveシーン全体において、サンプリングを主体とした80年代から90年代の懐古趣味的な従来のスタイルからの脱却を図ろうとする動きが見て取れる。この数年で、ノスタルジアを標榜としたVaporwaveのベクトルは、夢想的な世界からフューチャー・リアリスティックな未来都市へと一気に移り変わってしまった。その鬱屈とした退廃的な未来都市のモチーフは、『ブレードランナー』や『攻殻機動隊』といったSF作品の世界を彷彿とさせる。Vaporwave特有のスクリューという技法が生み出した重厚なダブのようなビートは、のちに90年代のハードコアテクノと結びついたHardvapourというタームへと昇華し、サンプリングソースを執拗に引き伸ばすことで発生した無限にも続いていくような陶酔的アンビエンスは、陰鬱な都市の夜に響くかのような重厚なドローン、ダーク・アンビエントスタイルのアーティストを数多く輩出することに繋がった。Vaporwaveシーンは今、もっと先鋭的で刺激的なサウンドに飢えているのだ。そんな流れの中で、〈Bludhoney Records〉は、ASTROの名義やC.C.C.C.での活動でも知られる長谷川洋を迎えたスプリットアルバム『Saturnus Cursus』をリリースしている。

 ところで、1988年にドイツのユニット、Softwareがリリースした『Digital-Dance』は、YouTubeに無許可で転載された音源が「Vaporwaveっぽい」という理由から〈100% ELECTRONICA〉を主宰するESPRIT 空想ことGeorge Clantonの耳に止まり、リイシューを果たす結果となった。インターネットによって、あらゆる時代の音楽にアクセスできる現代、時系列に沿った縦の音楽史を語ることに、もはや意味などあるのだろうか。並列の点と点の偶発的な交わりこそが、新たな潮流を生み出すのだろう。それは偶然の連なりであり、必然でもある。『Pulse Demon』で繰り広げられる、曲間の切れ目なく押し寄せる冷徹なメタルパーカッションと、スペイシーなEMSヴィンテージ・シンセの衝突、まるで慟哭のような生命力に満ちたハーシュのうねりは、2018年のいま、時代がもっとも求める音色なのであろう。歪に捻じ曲げられた文脈を経て、パッケージも新たにカラーヴァイナル、カセットテープで再発がなされる本作。個人的にはCDとして手元に欲しかった作品でもあるが、〈Relapse Records〉のマスタリングによるあの暴力的な音圧が、アナログな音域でどのように鳴り響くのか楽しみである。

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