ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Flying Lotus ──フライング・ロータスが新作EPをリリース
  2. shotahirama ──東京のグリッチ・プロデューサー、ラスト・アルバムをリリース
  3. Shintaro Sakamoto ——坂本慎太郎LIVE2026 “Yoo-hoo” ツアー決定!
  4. IO ──ファースト・アルバム『Soul Long』10周年新装版が登場
  5. interview with Shinichiro Watanabe カマシ・ワシントン、ボノボ、フローティング・ポインツに声をかけた理由
  6. CoH & Wladimir Schall - COVERS | コー、ウラジミール・シャール
  7. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  8. ele-king presents HIP HOP 2025-26
  9. 別冊ele-king 坂本慎太郎の世界
  10. Thundercat ──サンダーキャットがニュー・アルバムをリリース、来日公演も決定
  11. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  12. 坂本慎太郎 - ヤッホー
  13. Columns 1月のジャズ Jazz in January 2026
  14. KEIHIN - Chaos and Order
  15. Nightmares On Wax × Adrian Sherwood ──ナイトメアズ・オン・ワックスの2006年作をエイドリアン・シャーウッドが再構築
  16. 「土」の本
  17. Meitei ——来る4月、冥丁が清水寺での「奉納演奏」
  18. interview with Sleaford Mods 「ムカついているのは君だけじゃないんだよ、ダーリン」 | スリーフォード・モッズ、インタヴュー
  19. 『ユーザーズ・ヴォイス』〜VINYLVERSE愛用者と本音で語るレコード・トーク〜 第四回 ユーザーネーム kanako__714 / KANAKO さん
  20. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定

Home >  Reviews >  Album Reviews > Kaitlyn Aurelia Smith- The Kid

Kaitlyn Aurelia Smith

AmbientElectronic

Kaitlyn Aurelia Smith

The Kid

Western Vinyl

bandcamp Tower HMV Amazon iTunes

デンシノオト   Oct 30,2017 UP

 これは電子音楽で鳴らされる21世紀のフォークロア・ミュージックではないか。このアルバムには、シンセサイザーによる幻想的なトラディショナルなムードが横溢している。見知らぬ地のコドモたちの祝祭の音楽のようでもあるし、16世紀の画家、ヒエロニムス・ボスの絵画のようでもある。

 米国はワシントンの北西部にあるオーカス島出身の電子音楽家ケイトリン・オーレリア・スミスの最新作『ザ・キッド』は、これまでどおり「ブックラ100」(Buchla)などのヴィンデージ・シンセサイザーを駆使したサウンドでありながら、その音楽性はさらに色彩豊かに変貌をとげている。
 2016年にリリースされた前作『イヤーズ』(『EARS』)もエクスペリメンタル・ミュージック/電子音楽の領域で高い評価を獲得したが、本作はそれをもこえる完成度といえよう。マーク・プリチャード(Mark Pritchard)のリミックスやアニマル・コレクティヴ(Animal Collective)との競演でも知られているケイトリンだが、本作においてはより広範囲なリスナーを獲得することになるのではないか。ようするに傑作なのだ。

 アナログな電子楽器によるサウンドスケープはこれまでどおりだが、「声」を多用したポップ・ミュージック的なコンポジションも、さらにさえわたっている。ニューエイジ・リヴァイヴァルと交錯しつつも、独自のファンタジック/オーガニックな電子音楽を展開するのだ。シンセサイザーの魅力が横溢した電子音楽もあれば、アンビエントなサウンドもある。ヴォイスとリズムが絡み合うトラックもある。カラフルでドリーミーな絵画を観ているような電子音楽集なのである。民族音楽的なトライバルなリズムとシンセサイザー・サウンドを融合させ、「OPN以降の現代の音楽」を成立させている点は、ローレル・ヘイロー(Laurel Halo)の新作『ダスト』(『Dust』)にもつうじる。

 オープニングの“アイ・アム・ア・ソート(I Am A Thought)”のスペイシーな電子音楽を経由し、エスニックな旋律のヴォーカル・トラック“アン・インテンション(An Intention)”が始まったとき、これまでの彼女のアルバムとはどこか一線を画すポップネスを感じたものだ。
 さらに3曲め“ア・キッド(A Kid)”のトライバルなリズムは、たんなるポップ・ミュージックには収まらない自由な感性の発露にも思われた。つづく鳥の鳴き声のようなイントロからトラディショナルなヴォーカル・メロディへと移行する“イン・ザ・ワールド(In The World)”をへて、アルバムは中盤から後半にかけて、その世界感は、次第にディープになってくる。別世界へのサイケデリック・トラベルのように。
 ラスト2曲“アイ・ウィル・メイク・ルーム・フォー・ユー(I Will Make Room For You)”と“トゥー・フィール・ユア・ベスト(To Feel Your Best)”において、「声」と「アンビエンス」の交錯は、さらに深遠な領域にいたる。声が電子音の波をよびよせ、電子音が声と身体と世界の深いところで響きあう、とでもいうべきか。感覚的で、オーガニックな電子音の横溢である。しかも、音楽自体にむずしさはない。ジョイフルであり、創意工夫にとんでおり、聴きやすくポップである。

 まさに「ポップさ」と「オーガニックさ」にふりきった本作だが、この変貌には、ケイトリンが2016年にリリースした1970年代から活動する電子音楽家スザンヌ・チアーニ(Suzanne Ciani)とのコラボレーション・アルバム『サナジー』の影響もあるのではないか。

 むろん『ザ・キッド』と、ロングトラックなニューエイジ・電子音アンビエント『サナジー』では音楽性は異なる。しかし、『サナジー』で展開した世界の神羅万象をナチュラルかつオーガニックに受け入れていく姿勢は、『ザ・キッド』(『The Kid』)のオープンな音楽の精神(形式ではない)へと大きなフィードバックを与えているような気がしてならない。この『ザ・キッド』でケイトリンの素晴らしい電子音楽に初めて触れた方は、ぜひともソロ『ユークリッド』(『Euclid』)(2015)、『イヤーズ』だけでなく、『サナジー』も聴いていただきたい。現代的ナチュラル/オーガニックな電子音楽(それはフェイクであってもいい。そもそもわれわれ現代人自体はすでにフェイクなのだから……)が、世代を超えて継承されていくさまが、より深く伝わってくるはずである。

 今、という時代においては、電子音楽もまた「継承」され、「受け継がれていく」フォークロア・ミュージックとしての歴史を積み重ねつつある。本作『ザ・キッド』も、その「継承」の成果ではないか。ジョイフルで、エクスペリメンタルで、伝統的で、ストレンジ。そのうえ不思議とナチュアルで、奇妙にオーガニック。そう、心と体に「効く」電子音楽なのだ。

デンシノオト