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The National

Indie Rock

The National

Sleep Well Beast

4AD/ビート

Tower HMV Amazon

大久保祐子   Oct 04,2017 UP

 ザ・ナショナルの4年ぶり7枚目のアルバム『Sleep Well Beast』を手にした瞬間、暗い……と思った。とにかく2017年によく聴いたアルバムは、何故かこのようにどれもこれもジャケットが暗い。発売直後のレコード屋の店頭ではこのザ・ナショナルの7枚目のアルバムの横に、同時期に発売された白々しいほど真っ青な空を写した明るいジャケットのLCD サウンドシステムの復活作『American Dream』が並べられ、対比的なフロムアメリカの音楽の表情の違いにひとり笑ってしまいそうになったが、どちらも実は絶望しているという点では同じことなのかもしれない。

 『Sleep Well Beast』というアルバムは、この世ではないどこか別の場所で鳴らしているような“Nobody Else Will Be There”の重いピアノの音色からゆっくりとはじまる。予想通り、闇のように暗い。しかし2曲目の「Day I Die」。「僕が死ぬ日、僕が死ぬ日、僕らはどこにいるんだろう?」と先の見えないいまの世のなかに問いかけるかのように繰り返される痛々しい言葉。それとは裏腹に、高まる鼓動のように早く鳴り続けるリズムの力強さと、重なり合う美しいギターのフレーズ、突き抜けるメロディの高揚感が混ざり合い、死を意識しているというのに恐ろしいまでに生命力に溢れたパフォーマンスを叩きつけられる。キャリアを積み重ねてきたバンドの底力を感じるような曲の凄さに、ここでまず身震いする。
 その後も、感情的なギターフレーズにやられる4曲目の“The System Only Dreams In Total Darkness”や、荒々しい6曲目の“Turtleneck”、機械と人力の両方のリズムを使って登りつめていく8曲目“I 'll Still Destroy You"から、先行配信されていた9曲目の“Guilty Party”に続き、それを繋ぐように挟まれたピアノの穏やかな曲で抑揚を効かせて、終わりへとどんどん向かっていく。メロディアスなコード進行と、寡黙なリズムと、静かに爆発する美学。作品を覆う全体のトーンは一貫していて、まあ素晴らしいこと。

 2015年に発表されたヴォーカルのマット・バーニンガーがメノメナのブレント・ノップフと組んだサイド・プロジェクトEL VYのユルくておかしなアルバム『Return To The Moon』を気に入ってよく聴いていたので、『Sleep Well Beast』のマットの歌声を久々に耳にして、曲調によってこんなに印象が変わるものかと驚いてしまった。ザ・ナショナルに戻った瞬間、本領発揮と言わんばかりに影を作りだす力は一体どこに隠していたのだろう。地を這うような低い歌声はさらに深みを増している。それぞれがギターやキーボード、サウンド・プロデュースなどを担当するデスナー兄弟は、バンドの活動から離れたところでクラシックや映画音楽に関わっていると聞いているし、年齢とともにじょじょに実験的な音楽に変貌を遂げてもおかしくはないのに、それなのにザ・ナショナルときたら、エレクトロニックな音をところどころに使いながらも淡々とエネルギーを燃やすように、奇をてらわずに、真っ当なロックをいまだ奏でるなんて、敵わない。弱音や皮肉や諦めを乗せた歌詞を優しく包み込むエモーショナルな音を前にすると、枯れて朽ち果てていく肉体にも感情はあり、ちゃんと生暖かい血が流れていることに気付く。これは何回か聴いて1ヶ月後には忘れ去られてしまうようなアルバムとは明らかに違うということ。そして聴き終えた後に、誰かに伝えたくなるような使命感をもたらすもの。暫くザ・ナショナルから離れていた人や、いままで出会う機会がなかった人のところにもちゃんと届けばいいと祈っている。

 『Sleep Well Beast』は暗い。けれどもう一度ジャケットを見てほしい。弱いながらも光はあり、そこには誰かがいる。真夜中に窓の外を眺めて、遠くの方に知らない家の窓の灯りを確認できたら、今日のところは黙って毛布にくるまり、穏やかに眠りにつこう。

 よくお眠り、獣よ、君もね。

大久保祐子