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野田 努 Mar 23,2017 UP

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(野田努)

 ブリアルの初期の作品ではR&Bサンプルが効果的に使われているが、彼がR&Bのコレクターというわけではない。その点が基本自分たちが好きなモノを使っているであろう『ブルー・ラインズ』におけるサンプリング・リストとは違っていて、また、コマーシャルなR&Bが真夜中の幽霊の歌声にもなるという実験はさすがのマッシヴ・アタックも手を付けていない。このブリアルのR&Bサンプリング・メソッドを継承したのが初期のジェイムス・ブレイクなわけだが、それから5~6年を経てからの、最近のフランク・オーシャンやソランジュといった“オルタナティヴR&B”は、音の開拓/実験にもぬかりはない。いまR&Bはアンダーグラウンド・ミュージックのカッティングエッジなセンスをティンバランドの時代よりも意欲的に取り入れているように見える。そのひとつの契機を探せば、ヒップホップのなかにパンクとチルウェイヴを混入したLAのオッド・フューチャーが思い当たる。オーシャン同様にそのメンバーのひとりで、そして当時はまだ10代だったのが彼女、シド・ザ・キッド(シドニー・ベネット)である。

 タイラー・ザ・クリエイターの『ゴブリン』(2011年)で歌い、最近ではコモンの『Black America Again』でも歌っている彼女は、スライ&ロビーやシャバ・ランクスとも共作しているほどのキャリアを持つジャマイカのプロデューサー、マイキー・ベネットを叔父に持ち、10代の頃からスタジオ・プロダクションを学んでいたという。オッド・フューチャーを去ったシドは、ジ・インターネットのヴォーカリストとして活動していたが、先日、最初のソロ・アルバムとなる『フィン』を発表。24歳となった彼女は、何人かのサポートを得ながらも、歌からプロダクションまでのほとんどを自分で手掛けている。

 『ブルー・ラインズ』がやがてトリッキーによるニアリー・ゴッドへと展開したように、『フィン』はより深く地下街を彷徨しながらも、そしてエロティックだ。ゲイの女性がセックスを題材にしていることも作品の特徴のひとつだという話だが、歌詞を理解せずともエロさは伝わってくる。が、注意しなければならないことは、彼女が旧来の世界が望むジェンダーを拒絶している(ジャケやブックレットの写真からもわかるように)、ということである。
 そして、アルバムにはなかなかの暗闇が広がっている。エッジの効かせ方とその甘美さにおいてFKAツイッグスと似ている側面もある。しかし、シドはさらに甘い。歯医者から甘い物は控えろと言われたとしても、1曲目の“Shake Em Off”の最初の4小節で彼女の世界に引きずり込まれるだろう。まあ、5曲目の“All About Me”までは完璧な流れで、トラップを崩した感じの“Know”、ベースとアトモスフェリックな電子音で構成される“Nothin To Somethin”など、次から次へとメロウかつ洗練されたミニマリズムが展開される。ネオソウル的でキャッチーな“Smile More”、6lackの瞑想的なライムをフィーチャーしたトラップの“Over”も悪くはないし、最後までベースだけで引っぱる“Body”は目玉の1曲である。
 R&Bにありがちな歌い上げてしまうところはない。紋切り型に陥ることなく低空飛行を最後まで貫き、その低さでもって魅了する。2016年のR&Bに顕著だった政治的なステイトメントは見あたらない。この1ヶ月、ひたすらよく聴いていたのがシドの『フィン』だった。

野田努

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