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DJ Shadow

Endtroducing....ExperimentalHip Hop

DJ Shadow

The Mountain Will Fall

Mass Appeal, Liquid Amber/ホステス

Amazon

文:岩佐浩樹   Sep 15,2016 UP

 DJシャドウが彼のデビュー作『Endtroducing.....』(1996年)を出した頃には「トリップ・ホップ」であるとか「アブストラクト・ヒップホップ」といった言葉がふわふわとその周りを取り巻いていた。あれから20年くらい経って今年、新作『The Mountein will Fall』(メルト・ユアセルフ・ダウンがやはり今年に出した『Last Evenings on Earth』とジャケットが妙に“同じ”)を出したシャドウの音は果たして何と呼ばれるのか、正味のところはよく判らない。その場限りでも(キーワードさえ憶えていられれば)誰に訊かなくても情報に辿り着けてしまう世のなかになり、「ジャンル」というのはもはや「好きな音楽は何ですか」「えっと、ロックとか」などといったやる気のない会話の取っ掛かりでしか無いのかもしれない。

 『Endtroducing.....』前後に〈Mo’ Wax〉で発表された彼の音を初めて耳にした時の、何というか鼻づまりが一気に抜けたときのような感覚はいまだに自分のなかにある。透明度の低いガラス戸を1枚隔てた向こう側で得体の知れない音が鳴っているのに気づいてしまった経験、とでも言ったらいいのか、ラジオのチューニングが合ったり合わなかったりするじれったさに似た磁力がそこにはあり、「ラップ……ねぇ、でも何言ってんのか判んないからまあいいか」程度の認識しかなかった自分の耳に「(これも)ヒップホップだけど」と届いたシャドウの音は「ヒップホップ=ラップ(ヤングな不良の与太話)」という自分の認識を解説抜きに打ち砕いてくれた。そういった経験を無くして20年の間、常にその名前が自分の意識に残り続けることは(とりわけ情報と作品の触りだけが濁流のように流れていく現在では)もう無理だろう、と思っている。

 デビュー作が必要以上に「マスターピース」だの「金字塔」だのという言葉を冠して流通してしまっている事態の不自由さは、シャドウのセカンド・アルバム『The Private Press』以降のアルバムよりも時折ふと届けられる(DJとしての)ミックス音源がの方が遥かに伸び伸びと音を鳴らしている辺りからも窺えたし、彼自身もそんなことをインタヴューで言及していたように思いますが今作『The Mountein will Fall』からは何故かふと、そこから逃れたかのような音が断続的に聞こえてくる。

 しかし(個人的な知り合いであればまだしも)聴き手にとっては作り手のそんな「オレとの闘い」は本来どうでもいいものであるし、そのときに聴いた音の何かに引っ掛かるかどうか、が全てではありますが、あらためて過去から現在までの音源を通して聴いてみれば、自分が毎回シャドウに引っ掛けられるのは「声」の使い方で、この人はいつも一体どっから持ってきたんだか(ナレーションなのかテレビドラマの台詞なんだかドラムの教則ヴィデオなんだか)由来不明な「非音楽的な声」をここぞというポイントで「音楽」に嵌め込んでしまうのですがそれが一番のフック、と言うことが判る。これは「歌(要はヴォーカル)が無い音楽は売れない」といった類いのわかったようなわからんような見識(まあ処世術、とでも言いますか)とは相当ずれた地点で組み上げられた音楽なのである。

 正直に白状すれば、往年のファンとしてはデビュー作で聴かせてくれたあの音の感触が嬉しい、と言うことでもあるのですが、ただそれはそんな「固定客」に向けたサービスでは全くなくて、今年このアルバムで初めてシャドウの音楽に触れる誰かのためにこんな感じでチューンナップしてみたけど、どう? ということなのだろうと思う。最初の頃から聴いていた人間にとっては「またコレか……(悪くないけど)」程度であるかも知れないものも、別の誰かにとっては「うわ何だコレ」になり得ることを知っている音楽家にとって「必要なのは、常に新しい聴き手(耳)」という正解に辿り着くための方法はひとつでは無いからだ。

 そして初めてDJシャドウを知った幸運な誰かがこの国の何処かにいるとすれば、ひとつ遡って2012年に出たベスト盤『Reconstructed』を聴いてみるのもいいかもしれない。このアルバムで初収録された『Listen Feat. Terry Reid』は映像も含めてちょっと物凄い。


文:岩佐浩樹