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吉田ヨウヘイgroup

PopRock

吉田ヨウヘイgroup

paradise lost, it begins

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松村正人   Jun 19,2015 UP

「向こうからやってくる
あいつとは知り合いだっけ?
ああれ、分からない?
薄いブルーのシャツきてるよ」 “話を聞いたんだ”

 休みの日近所をブラつくと、特性のない男が向こうからやってくる。私はこのへんは休日ともなると人通りが多くてわずらわしいけれども、それも昼をまわってからで、いまはそうでもない。左手に区立の幼稚園と福祉施設がいっしょになった建物があり、反対側に古着屋が軒を並べるあいだの二車線ほどの道はゆるくカーブを描くが、歩道はふたりのひとがようやくすれちがえるほどしかない。私とその男はゆきかこうとしたとき、男はあっと声をあげた。
「先日はどうもありがとうございました! こんなところにもいらっしゃるんですね! やっぱり編集の仕事には日々のフィールドワークが大切なんですね!」
「いや、近所なんです」
 私はすわ、原理主義的な宗教かと警戒したが、勧誘でもひとちがいでもなさそうのは彼が私の仕事をごぞんじなのでわかる。そのとき私はとある雑誌の編集部につとめていて、ひとに会う機会がことのほか多く、もうしわけないが印象のうすい方はおぼえないこともある。私たちは数分のあいだ、穏当な話題を選び安全運転の会話をつづけ、やがて彼は「買い物にきたんですけど、ちょっとはやかったみたいです」といくらかふてくされ、ついで「もうちょっとこのへんをみてまわりますんでっ!」といって立ち去ったが、最後まで私はその男がだれなのか思い出せなかった。

 数日後、先日おこなった中途採用の面接の資料を総務担当者に返却としようと整理していたとき、履歴書のひとつに貼付した写真のなかで先日の彼が微笑んでいた。私は呆然とし、ついで「おまえなんて知らなーい」とザ・スターリン“虫”のフレーズを、ミチロウとデュオで心中で絶叫したのである。

 ことほどさように、吉田ヨウヘイの書く歌詞は記憶をよびさます。日常のひとこまをきりとったことばはなんの変哲もないが、凪いだ風情の光景は一点のゆらぎをもち、そこに共振する聴き手のうちにさざ波を立てる。もちろん歌唱も関係している。ブックレットをひっぱりだし歌詞だけつらつら眺めてもダメなんだな。独特のメロディラインに沿ったことばは促音を影のようにしたがえ、ときに急迫させる。たとえば“ユー・エフ・オー”、歌い出しの「そこで見たのは(中略)空を二つ」の文頭の「そ」が「そっ」に聞こえる音の乗せ方は譜面に記せない休符となり、歌は一瞬宙吊りになる。この曲はreddamのメイン・ヴォーカルの曲だが、男女混声の対比も『paradise lost, it begins』は見事である。若干のメンバーチェンジをへた本作では、TAMTAMのKuroがトランペットとコーラスで客演しており、コーラスは厚く彩りゆたかに前作よりその比重を増し、かけあうことでモノローグを対話劇に組みかえるが、シアトリカルといい演劇的と訳す、音楽に付される形容詞のほとんどが舞台の上の付帯的なで要素を指すようには吉田ヨウヘイgroupのそれは機能しない。ためらいと反問をふくむことばが歌になるとき、話者が分裂する、そのようになりたつ関係性を私は演劇的とさっきもうしあげたのである。

 関係の深まりは音にもあらわれている。ジョン・フルシアンテやエイドリアン・ブリューの亡霊(どっちも死んでないが)を背負った西田修大のギターはファンキーな刻みからブルージーなタメまで自在で、ついソロに耳をそばだててしまうが、西田修大の旨味はバッキングにあり、それは吉田ヨウヘイのもう一本のギターとのからみ、リズムとのからみ、管とのからみ、ようはアンサンブルのなかできわだってくる。というか、おそらくライヴと曲づくりとときの経過がバンドを成熟させたのだろう、管楽器やコーラスの入れ方など、バンド合奏ではお客さんになりがちなパートがこのアルバムでは前作以上にしっかり有機的に働いている。バスーンがなくなるとヘンリー・カウっぽさがなくなるのではと危惧したのだが、思えば彼らはさほどヘンリー・カウっぽくもなかった。それならば、ダーティ・プロジェクターズだが、それももうひきあいに出すこともないだろう。彼らは彼らそのものの声をもち、もちつづけるだろう。変わらないということではない。『Smart Citizen』と『paradise lost, it begins』をひきくらべて、あるいはそう思われる方もいるかもしれない。作品の視座と構成にはたしかに共通するものはあるにはちがいないが、延長線上にあることは退行を意味しない。それは私たちの日々が死ぬまで途切れないように途切れない。

松村正人