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Melt Yourself Down

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Melt Yourself Down

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ブレイディみかこ   Jun 25,2013 UP

 セックス・ピストルズから脳天に風穴をぶち抜かれ、その後の人生でその穴を埋めようと必死で地道に生きて来たアラフィフのばばあが、過去10年間で最もやられた音楽は、Acoustic Ladylandというジャズ畑の人々のものだった。ということは、昨年末の紙エレキングでも書いたところで、彼らのサウンドを髣髴とさせるというそれだけの理由で、Trio VDの『Maze』を2012年私的ベスト10アルバムの1位に選んだのだったが、いよいよ本家本元のリーダーだったPete Warehamがシーンに帰還した。それも、Melt Yourself Downなどという大胆不敵な名前のバンドを引き連れて。
 己をメルトダウンさせろ。とは、また何ということを言うのだろう、この人たちは。いい大人が、メルトダウンなんかしちゃいけません。
 が、実際、このアルバムでは、さまざまのものがメルトダウンしている。だいたいこれ、ジャズなのか、ワールド・ミュージックなのか、ロック&ポップなのか、ダンスなのか、もうジャンルがさっぱりわからない。異種をかけ合わせて、ハイブリッドを作りました。とかいうようなレヴェルの話ではない。カテゴリーの境界線がぐにゃぐにゃになって溶解している。そもそも、レコード屋に行ったとき、何処に彼らのCDを探しに行けば良いのかわからない(ブライトンのレコ屋では、ジャズじゃなくてワールドのコーナーにあった)。
 「キャプテン・ビーフハートみたい」(野田さん)、「渋さ知らズを思い出した。高揚感ではNortec Collective」(habakari-cinema+recordsの岩佐さん)、「こっそりカン。&ジョン・ケイジも」(成人向け算数教室講師R)という、諸氏が連想したアーティストを並べるだけでも国籍が日本からメキシコまでバラバラだが、バンド自身は「1957年のカイロ。1972年のケルン。1978年のニューヨーク。2013年のロンドン」がキーワードだと語っている。国境のメルトダウンである。多国籍すぎて、無国籍。みたいな。中近東のクラブのDJみたいな煽り方をするヴォーカルのKushalは、モーリシャス出身なのでフランス語&クレオール語も混ざっており、勝手に自分で作った何語とも知れない言葉を叫んだりもしているそうで、もはや言語すら溶解している。

 Pete Wareham 率いるAcoustic Ladylandは、実は卓越したジャズ・ミュージシャンの集団(わたしにはこの道は全くわからんので、文献に卓越したと書かれていれば、そのまま書き写すしかない)であり、2005年のBBC ジャズ・アワードでベスト・バンドに選ばれている。彼らがパンク・ジャズ・サウンドを確立した2ndの『Last Chance Disco』は、英ジャズ誌「Jazzwise」の2005年ベスト・アルバムにも選ばれた。この頃はまだジャズと呼ばれていた彼らの音楽には、何か得体の知れない起爆力があった。で、その原因は各人が一流の音楽家であったからというか、素人耳にもめっちゃ巧いとわかる人々が、ぐわんぐわんにそれを破壊しようとしているというか、それは、楽器が弾けなくとも気合だけで音楽を奏でようとしたパンクとは真逆のルートでありながら、同様のエネルギーを噴出させていた。
 Acoustic LadylandのドラマーだったSeb Rochford率いるPolar Bearや、前述のTrio VDも含め、ここら辺のUKのジャズ界の人びとの音楽が、日本にあまり紹介されていないというのは、大変に残念なことである。小規模なハコでのギグなどに行くと、ちょっとやばいほど熱く盛り上がっているシーンだからだ。

 白いパンク・ジャズだったAcoustic Ladylandが、いきなりアフロになって、駱駝まで引きながら帰ってきたようなMelt Yourself Downは、それこそパンクからポストパンクへの流れを体現しているとも言える。Acoustic Ladylandがセックス・ピストルズだったとすれば、Melt Yourself Downはジャマイカ帰りのジョン・ライドンが結成したPILのようなものだ。36分のデビュー・アルバムは、激烈にダンサブルな"Fix Your Life"から怒涛のアラビアンナイト"Camel"まで、ジャズやワールド・ミュージックはわかりづらいと思っておられる方々も、このキャッチーで淫猥な音のライオットには驚くはずだ。
 ナショナリティーも、ランゲージも、カテゴリーも、コンセプトですらメルトダウンして、どろどろとマグマのように混ざり合いグルーヴしている彼らのサウンドは、レイシストとカウンターが街頭でぶつかり、世界各地で政府への抗議デモが拡大している2013年夏のテーマ・ミュージックに相応しい。排他。衝突。抑圧。抵抗。憎悪。闘争。を反復しながら、世界がやがて混沌とひとつに溶け合う方向に進んでいるのは誰にも止められない。LET'S MELT OURSELVES DOWN.

ブレイディみかこ