ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代──あるDJの証言
  2. Arab Strap - Half-Told Tales | アラブ・ストラップ
  3. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  4. METHOD MOTEL - @名古屋・栄CENTRAL
  5. Protomartyr - Hotel Usona | プロトマーター
  6. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  7. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  8. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  9. interview with Adrian Sherwood and Nightmares On Wax UKダブ・“トーク”・セッション | ――エイドリアン・シャーウッド×ナイトメアズ・オン・ワックス特別対談
  10. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  11. Helen - Linda's Head | ヘレン
  12. Boy Harsher - GET MEAN | ボーイ・ハーシャー
  13. The Alchemist ──現代USヒップホップのキーパースン、ジ・アルケミストが来日
  14. ゲーセン波乱万丈の100年史
  15. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  16. Marcellus Pittman ──デトロイト・ハウス珠玉の逸材、マーセラス・ピットマンの来日ツアーが開催
  17. Lambchop - Punching the Clown | ラムチョップ
  18. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  19. 野田 努
  20. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Autechre- Exai

Autechre

Autechre

Exai

Warp/ビート

Amazon iTunes

木津 毅 Feb 28,2013 UP
E王

 さすがにこの新作でオウテカにはじめて出会うというひとは少ないとは思う。だが、『エクサイ』はすべてのリスナーに、はじめて彼らの音と出会ったときのことを思い出させるだろう。

 僕の場合、リアルタイムでの出会いが01年の『コンフィールド』であり、ただ面食らった、そんな印象を覚えている。決定的だったのは翌年の『ガンツ・グラフ』で、そこで奔放に暴れまわる金属音の生み出す躍動を「ファンク」と呼ぶのなら、サウンドの実験は何かしかめ面のものではない、決まった枠組みからはみ出そうとする獰猛な力のためにこそあるのだと......気づかされ、そして勇気づけられた気分だった。
 もちろんその後の作品も順に追ってはいたのだが、僕が惹かれたのはむしろ、遡って聴いていった過去の作品群であった。『LP5』から『キアスティック・スライド』へ、『トライ・レペテー』から『アンバー』へ、そして『インキュナブラ』......そこにあった(そしてゼロ年代にはあまりなかった)アンビエンスや美が、オウテカの進歩への欲求によって姿を変えていった道程が逆算的に浮かび上がるようでスリリングだったし、何よりも時間を忘れて聴覚をすべて預けたくなるような快感がたまらなかった。そして、彼らが影響を公言するマントロニクスにも、その後ようやく出会うこととなった。
 当たり前の話だが、音の歴史はリスナーに対して不平等である。オウテカのように20年のキャリアを通してつねに前に進み続けてきたようなアーティストとは、いつ、どこで出会うかによって聴こえ方が変わってくることも大いにあるだろう。だが、それが少し覆されたように思えたのが前作『オーヴァーステップス』で、そこでは初期の彼らの美しい和音やメロディ、アンビエンスが、オウテカが長い時間をかけて歩んできた音を踏まえた上で合流しているように聞こえた。それまでの数作では頭ひとつ出た出来だったといまも感じるし、そこには何か、時間の蓄積がオウテカという究極の進歩主義者にも及ぼすものがあったのではないか......と勘ぐってみたくもなった。

 『エクサイ』は2枚組の2時間を超える超大作で、結果として、ここではリスナーにかなり平等に近い立場がはじめて与えられているのではないだろうか。ここには初期を思わせる美しいメロディがあり、あるいはアシッド・ハウスめいたトリップ感があり、インダストリアルなランダム・ビートがあり、エレクトロへの忠誠がある。図式的に大作イコール集大成、と言いたいわけではない。それらオウテカを象ってきた要素たちが順列組み合わせではなく接続されミックスされ、実に複雑な混合体として生み出されている。1枚目の2曲目"irlite(get 0)"に端的に表れているが、10分に及ぶ組曲めいた構成のなかでインダストリアルとアンビエントとノイズとファンクが重なり合いすれ違い、混淆する。それはまるで、時系列を無視してオウテカのディスコグラフィを行き来するかのような、そしてオウテカの持つ多面性と複雑さをさらに推し進めた形で味わうような体験だ。明言できる統一されたムードはない。BPMもムードも音色もバラバラ、非常に振れ幅の広いアルバムだ。比較的1枚目は曲ごとのカラーがはっきりとしているが、不穏なダウンテンポ・エレクトロ "bladelores"における余韻たっぷりの長音で1枚目が幕を閉じても、『エクサイ』は終わらない。そこから2枚目へと突入し、さらなるオウテカの深淵へと入り込んでいく。かなり進んだところで出くわす、通して13曲目の"spl9"などは『ガンツ・グラフ』を容赦なく鋭利にしたようなメタリックかつカオティックなファンクで、長旅を気楽に楽しむことなど出来やしない。
 さらに言えば『エクサイ』は、オウテカの歴史だけに留まる作品ではない。"T ess xi"のスペイシーな電子音にはデトロイト・テクノが遠景に見えるようだし、"jatevee C"にはたしかにかつてのレイヴのようなアシッディな感覚がある。もちろん、オールドスクールのエレクトロはもはや切り離せないほど深く根を張っている。新しい音好きのB-Boyだった彼らの出自の、その過去まで時空はワープする。いったい何度聴けば全貌を掴めるのだろうか。オウテカが交錯させてきた聴覚体験の道のり、その記憶と出会い直し続けるような濃密さがここにはある。

 けっして気楽に聴けるアルバムではないし、オウテカで2枚組という時点で尻込みしてしまう人間も少ないないだろう。けれども、これはアーティストがエゴによって理性を失った結果の作品ではない。2枚組にした理由を訊けば、ロブ・ブラウンははっきりとこう答えてくれた。「今の時代、どの音楽も短いものばかりだ。それとは対極にあるものを作った」
 その意味では、頑固なショーン・ブースとロブ・ブラウンのふたりはその精神性においてまったく変わっていない。『エクサイ』は、リスナーの音への探究心を挑発し、そして信頼してきた彼らの20年の結実である。険しい道のりを経てようやくたどり着く(ボーナス・トラックを除く)ラスト・トラックの"YJY UX"がはじまった瞬間の慄然とするほど美しさは『LP5』の幕を閉じる名曲"Drane2"を想起させ、しかしそこにノイズとファットなビートが合流することで、わたしたちがまだ知らない領域へと連れて行ってくれる。『エクサイ』は、消費主義を徹底的に拒絶する大がかりなトリップだ。膨大な過去が2時間のなかで行き交い、そしてオウテカは、さらなる音の冒険を進めることを迷わない。

木津 毅