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オノマトペ大臣

オノマトペ大臣

街の踊り

Maltine / JET SET

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竹内正太郎   May 07,2012 UP

 日常における割り切り、葛藤、小さな喜び、ささやかな発見、あるいはベッドルームでのジレンマ、うんざりするようなナイーヴィティ、そしてダンス・フロアがもたらすキラキラの恍惚を詰め込んで......ポップ・ミュージックはやがて、マジックへと変貌する。これはその、社会的には何の役にも立たない魔法の一つである。さあ、何か新しいことをはじめよう。この眩しさが、誰かに終わらされてしまう前に――。

 サイダーの泡がはじけとんだら
 透き通る風が吹いた気がした
 キャッキャはしゃいで廻る子の声が
 蝉の音とぶつかり合う夏
 "サマースペシャル"

 エモーショナルなヴォコーダー・ソウル、"S.U.B.urban"で幕を開けるオノマトペ大臣(@onomatopedaijin)の『街の踊り』は、ウェブ・レーベル〈Maltine Records〉のカタログ・ナンバー「098」にラインナップされている。同レーベルの他のアップロードに、新世代によるフリー・フォームなビート・ミュージックが多いことを差っ引いても、一つのボーカル・ポップスとして、『街の踊り』はずば抜けて親密なヴァイブレーションを放っている。

 すでにアンセムとしての雰囲気が漂うシティ・ポップ"サマースペシャル"は、個人的にも100回以上聴いたニュー・クラシックだが、この国のアーバン・クラシックを速めに回すエアリーなディスコ・ビート、バルーンを飛ばすようなキュートな電子音、そのスムースな展開に一味加える元ネタのブラス・サンプル、そしてさりげないドゥーワップ・コーラスが4分間のマジック・ポップを賑やかに彩っている。オノマトペの少年期と青年期の境界をうろつくようなフロウ/歌にマッチした、この何とも絶妙なゆるふわトラックは、クレジットによればDJ CAROLIECUT(@tnhrk)による大金星で、大げさではなく、音楽業界の氷河期に産み落とされたゼロ円音楽が、少なくともそのポップ・ミュージックに対する愛情の深度において、メジャー・レーベル・ミュージックになんら劣るものではないことを証明している。ちなみに、DJ CAROLIECUTによる"水星"のリミックスも彼のSound Cloudで聴ける。

 一体何に誘われてここまで来たのか
 随分遠くに来ちまった
 だだっ広く 抜ける青空
 目的地も知らずに進む道
 "CITY SONG"

 そして、次なる決め手は、こちらもやはり100回以上聴いた"CITY SONG"だ。軽快なハンズ・クラップ、重量感のあるベースと鍵盤のループが大胆にリズムを刻むメランコリックなトラックは、盟友・トーフビーツ(@tofubeats)が手掛けるもので、シャウト気味の発声になった途端、青年の中で助けを待つ失われた少年のような、エモーショナルな雰囲気を急に帯びるオノマトペの独特のヴォーカリゼーションとは流石の相性を見せている。そして、照れや戸惑いなどなしに、どこまでも感情に流れていく実直な詩作も、そよ風のような軽さを見せた"サマースペシャル"とはまた違った、ブリリアントな魅力を備えている。ほぼすべてがパンチ・ラインだが、平日/昼の仕事、そして夜/週末の解放という二重生活、あるいはなぜ私たちが凝りもせずに音楽という夢に魅せられ続けているのか、その謎に捧げられた言葉として、兼業音楽家が珍しくないいまにおいて、極めて同時代的な、瑞々しくもスタンダードな想いを叫んでいる。

 さて、野田努が言うところの「歌詞マニア」、それをもう少し柔らかく「ヴォーカル・ポップの愛好家」と訳すのなら、そんな私を限りなく遠くまで連れ去るのは以上の2曲だが、しかし〈Maltine Records〉の総力は、むしろこの他の楽曲でこそ発揮されている。ラパン(Lapin)による、4/4ビートの上で激しい明滅を繰り返すような、エグいほどのエディットが利いた金属的なシンセ・ループが気持ちいい"FRIDAY NEW ONE"、そして、三毛猫ホームレスの柿本論理(@mochilon)がトラック・メイク/フィーチャリング・ヴォーカルも務めた、あらゆる楽観を頭から追い払うような悩ましいダウナー・ハウス"Sence of Wonder"と、23分というランニング・タイムながら、音は多様に遊びまわり、聴きごたえは十分だ。

 末筆となったが、2011年にダウンロード・リリースされたこのEPは、来たる5月中旬、〈JET SET〉からヴァイナル・リリースされることがすでに発表されている。グッド・ニュースだが、それだけじゃない。トーフビーツ"水星"のバズを祝う〈suisei is high〉を、私はUSTREAMを通じてしか見られなかったが、それはラップトップ越しに見ても、馬鹿みたいに感動的な光景だった。このEPで描かれているような、どこか「ここじゃない場所」に行きたい、でもなんら明確な目的地を持たない、それでいてそこに苦しさを感じることなく、今いる場所で思いっきり笑うことができる、そんなコミュニティを持った男たちの素晴らしい夜に見えた。当たり前の話、終わっていく音楽もあれば、始まっていく音楽もある。それを自分の目で見定めるには、いまは決して悪くはない時代だ。あなたが今、何歳であって、どこでどんな暮らしをしているかは関係ない。無論、業界のせいでもない。私が決めることでも、ない。ポップ・ミュージックは終わったのか? 音楽の魔法はもはや昔話なのか? それはいつだって、あなたの耳だけが決める。

 They wanna dance dance with dream.
 Fly me,Fly you to the new moon.
 "サマースペシャル"

竹内正太郎