ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 菊地雅章 - 六大(地・水・火・風・空・識)
  2. KENNY DOPE JAPAN TOUR 2026 ——ケニー・ドープ、9年ぶりの来日決定です
  3. ぼくはこんな音楽を聴いて育った - 大友良英
  4. Moemiki - Amaharashi
  5. Nondi_ - Nondi... | ノンディ
  6. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  7. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  8. R.I.P. 菊地雅章
  9. Interview with Tomoro Taguchi パンクって……何をやったらいいかわからない人、若い人たちにヒントと引き金を与えてくれた音楽であり、考えさせる音でしたね。
  10. 真舟とわ - 海を抱いて眠る | Towa Mafune
  11. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  12. Leila Bordreuil + Kali Malone - Music for Intersecting Planes | レイラ・ボルドルイユ、カリ・マローン
  13. Felix Kubin ——ドイツ電子音楽界における鬼才のなかの鬼才、フェリックス・クービンの若き日の記録がリイシュー
  14. MODE ——来る6月、Moinが初来日ライヴを披露することが決定
  15. butaji - Thoughts of You
  16. interview with Autechre 来日したオウテカ──カラオケと日本、ハイパーポップとリイシュー作品、AI等々について話す
  17. Columns Introduction to P-VINE CLASSICS 50
  18. FESTIVAL FRUEZINHO 2026 ──気軽に行ける音楽フェスが今年も開催、マーク・リーボウ、〈Nyege Nyege〉のアーセナル・ミケベ、岡田拓郎が出演
  19. Columns 3月のジャズ Jazz in March 2026
  20. アンビエント/ジャズ マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜

Home >  Reviews >  Album Reviews > The Rapture- In The Grace Of Your Love

The Rapture

The Rapture

In The Grace Of Your Love

DFA/ユニヴァーサル インターナショナル

Amazon iTunes

木津 毅   Oct 04,2011 UP

 そのシングル、"ハウス・オブ・ジェラス・ラヴァース"を初めて聴いたのはいつだったか......はっきり思い出せないが、僕の場合、たしか2003年に入ってからだったと思う。まだYouTubeもなかったので、ネット上ではなく、たぶん何かのイヴェントで聴いて、そして彼らのデビュー・アルバム『エコーズ』が出る頃にはそれを聴く度にバカみたいに奇声を上げる10代になっていた。ニューヨークに〈DFA〉という理想主義そのもののようなレーベルが生まれたこと、そしてそこを中心にディスコ・パンクという、ネーミングそのままの、しかしその相容れなかったはずのふたつの音楽を交配させた新しいダンス・ミュージックが発生したこと――後に知ったそれらの情報は、その興奮に拍車をかけた。当然僕だけではなかった。それから数年はインディ・ロック系のイヴェントでは"ジェラス・ラヴァース"は必ずといっていいほどスピンされ、その1曲はロック・キッズをギターをあくまで持たせたままでダンスフロアに向かわせるのに十分だった。実際、僕と同い年で「ディスコ・パンクが契機で洋楽を本当に聴くようになった」という友人がいて、彼はいま楽しそうにダブステップを追いかけている。
 "ハウス・オブ・ジェラス・ラヴァース"はいま聴くとたしかに「かつてのディスコ・パンクの音」だが、それでも生々しい興奮の記憶が残っている。〈DFA〉らしいパーカッションのイキのいい響きと、パンキッシュに荒々しいギター・サウンドとどこかぎこちないグルーヴ。それはパンク・キッズががむしゃらに鳴らし叫んだダンス・サウンドであり、LCDサウンドシステムが音楽マニアの中年の哀愁をその音にブレンドしていたのに対して言えば、ザ・ラプチャーは自分たちの未熟さや勢いを偽ることなく詰め込んでいた。

 セカンド・アルバム『ピーセズ・オブ・ピープル・ウィ・ラヴ』から5年の沈黙の末、ザ・ラプチャーが〈DFA〉に帰ってくる――しかも、LCDが活動を休止したこの2011年に――というニュースは、かつて"ジェラス・ラヴァース"で踊ったキッズのすべてが興奮したに違いない。リード・シングルとなった"ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ?"はすぐにネット上で聴けたが、その膨らんだ期待に大いに応えるものだった。バンド・サウンドではあるがパンクの要素はかなり後退し、シカゴ・ハウス調のピアノのリフと4つ打ちのバスドラムで幕を開ける、よりオーセンティックなディスコ・ナンバー。何と言っても4分辺りで加わり吹き荒れるサックスのソロと、それと対抗するように「君の愛はどれぐらい深い?」と狂おしく歌い上げるルーク・ジェナーのヴォーカルだ。そのエモーショナルな熱は、はっきりとザ・ラプチャーの帰還を告げていた。
 と言っても、本作『イン・ザ・グレイス・オブ・ユア・ラヴ』はかつてのディスコ・パンクではない。この新作のサウンドを特徴付けているのはシンセの煌びやかな音色であり、サックスのふくよかな響きと多重コーラスが醸すソウルフルさ、である。アッパーなシンセ・ディスコ・ポップ"セイル・アウェイ"で幕を開ける本作だが、まるで東欧の舞踏音楽とベース・ミュージックが合体したかのような"カム・バック・トゥ・ミー"、ぎくしゃくしたファンク・トラック"ネヴァー・ダイ・アゲイン"、"キャン・ユー・ファインド・ア・ウェイ?"など、曲ごとのスタイルは多彩だ。〈DFA〉と言ってもプロデュースはジェームズ・マーフィ&ティム・ゴールズワージーではなく、カシアスのフィリップ・ズダールということもあり、全体的に派手なプロダクションが目立つ。パンキッシュなギターの音色であったり高音のパーカッションであったりする、かつてのラプチャー的な記号であったサウンドはかなり抑えられている。

 このアルバムが8年前のように、新たな時代を呼び覚ますようなことはたぶんもうないだろう。それでも本質的なザ・ラプチャーの魅力が何も変わっていないと思えるのは、ルークの不安定に音程が揺れるヴォーカルが歌うメロウなメロディのせいだろうか。そしてそれは、本作でもっとも開放されている。前作で幼児言葉を使っていたように、あるいは本作の"カム・バック・トゥ・ミー"で「僕らはみな、子供ではないの?」と繰り返すように、ザ・ラプチャーの歌にあるぎこちなさや不安定さ、頼りなさはどこか子どもの叫びを思わせる。"ジェラス・ラヴァース"において彼らがダンス・ミュージックに持ち込んだのは、そしてロック・キッズの心を動かしたのは、思春期の危うさを孕んだものではなかったか。もっともメランコリックなメロディを持つタイトル・トラックでは「きみの愛に見守られ」と繰り返しながら、「どうか僕を否定しないで」ととても心細そうに吐き出している。
 本作における最大の驚きは、"チルドレン"と題されたナンバーで訪れる。振り切れたようにポップでアンセミックなシンセ・ディスコで......眩い光が降り注ぐような多幸感に満ち溢れている。「待ってくれ/たった一人の息子/きみの姿が見える/空の上から」という歌い出しは、ルークが4年前に母親を自殺で亡くしていることも関係しているのかもしれない。「子どもたちが呼吸する/子どもたちが離れゆく/僕には見える/きみと僕の姿が」......そこに、温かいコーラスが舞い降りてくる。「子どもたち」を無条件に肯定するかのように。子どもたちの踊る姿が見えてくる。
 アルバムは感情的なアップダウンを経ながら、やはり山場となっている"ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ?"のあと、ピアノのループがとてもスウィートだが、歌はどこか頼りなげなソウル・ナンバー"イット・テイクス・タイム・トゥ・ビー・ア・マン"で幕を閉じる。欲しいものはきっと手に入れられはず、カモン、ベイビー、やってごらん......そして"ハレルヤ"のコーラスとサックスが響き渡る。不安や心細さはいつもある。だがたしかにザ・ラプチャーはディスコのグルーヴで踊っていて、頼りない子どもであることをそのまま肯定するかのように、ソウルフルな歌を懸命に歌っている。

木津 毅