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Ty Segall

Ty Segall

Goodbye Bread

Drag City/P-ヴァイン

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橋元優歩 Jun 29,2011 UP

 ロックの「俺」問題というものを仮定してみよう。ロックは他ジャンルにくらべて、一人称との相性が非常によいのではないかと思う。他ならぬ「この俺」が表現の主体であることが大きく意味を持ったりする。それがなければ、少年がギターを手にする理由など10分の1くらいになるのではないだろうか。もちろん、そうでもない名盤だってたくさんある。ジョンとポールでラフに喩えれば、ジョンには「俺」問題が濃く、ポールには薄い。それはポールの表現にオリジナリティがないという意味ではけっしてなく(誰が聴いても「ポールっぽさ」は一発でわかる)、「俺」をめぐる存在論的な追求があるかないかといったようなことだ。ポールの曲はボカロに歌わせてもポールの曲だろう。また、彼なら超一級のボカロ・ソングをつくれるかもしれない。しかしジョンの曲はボカロでは成立しない。他の「俺」では代弁できない種類の「俺」を扱うからである。そういう差異を私はロックの「俺」問題と呼んでいる。

 アニマル・コレクティヴ以降は、時代の追い風を受けているとはいいがたくなってしまった「俺」問題型アーティストだが、タイ・セガールは最近めずらしい「俺」型ベッドルーム・ポッパーだ。単純に1曲中の「俺」使用率も高い。「ハロー、俺のこと見たことあるだろう/おまえにとって、俺は秋、俺は春/きらきら輝いて/草は伸びるのさ、俺のせいで」"マイ・ヘッド・エクスプローズ"
 この曲にも顕著だが、ヴァインズのいらだったディストーションを思い出させる重めの音に、ザ・フーやソニックスのようなヴィンテージな風合いのリヴァーブをめいっぱい効かせ、2分強で歌い上げる短いガレージ・ポップ。これがタイの代名詞的スタイルだ。もともとやっていたバンド、ザ・エプシロンズもヴァインズやホワイト・ストライプスなど2000年代ガレージといった佇まいのバンドだが、ソロの活動ではよりオールド・スクールなガレージ・マナーを身につけていて、2008年から現在までにじつに夥しい量のカセットや7"シングル、アルバムをリリースしている。しかしもちろん特筆すべきはその歌。ジョン・レノンのソロを、あるいはショーン・レノンのデビュー作を思わせる。とてもポップなフックを持ってはいるが、ひろく口ずさまれるためではなく、ごくパーソナルな感覚を掘り下げた結果生まれてきたメロディだ。「そのうち、俺はメロディになる」"マイ・ヘッド・エクスプローズ"
 ああ、そうだろうなと納得する。

 今作がとくによい。"コンフォタブル・ホーム"や終盤の曲のいくつかは、オブスキュアな雰囲気のガレージ・ナンバーだが、こうした傾向は彼の初期作に顕著なものだ。前作『メルティッド』では、そうしたレトロスペクティヴな音を通過してタイ自身のオリジナルなリヴァーブ・ポップが完成した印象である。そして本作は、より内省的に、より思索的に、2ミニット・ポップの単純さから一歩も二歩も踏み込んだ音になっている。ここでは歌やメロディがとても大切なものとして機能している。それが、よく比較されはするものの、ジー・オー・シーズや〈イン・ザ・レッド〉周辺のガレージ・サイケ、ブランク・ドッグスと〈キャプチャード・トラックス〉勢、ウェイヴスら西海岸ビーチ・ポップと彼とを分節する点である。
 しかし彼がとらえている「俺」は、けっして安定した「俺」ではない。彼の写真には、頭を振って顔を不鮮明にしているものが多い。アートワークも同様で、『レモンズ』は頭を振った自身の顔、『メルティッド』は自分とおぼしき怪物の顔、本作はくしゃくしゃの犬の顔だ。顔をめぐる表現がそのまま自己認識であるとはいわないが、そこに歪みや屈折があることはみてとれる。「お前の頭の重さを感じろ」。ヴァイオレントなドラムとファズのきいたギター・リフが印象的な、その名も"ホエア・ユア・ヘッド・ゴーズ"はそのように歌いはじめられる。少しネジがゆるんだようなサイケデリック・チューン。「頭の重さ」とは存在の重さのことだろうか。この曲のラストは「俺がいなくなっても覚えていてくれるかい?」で締めくくられる。キース・ムーンのような騒々しいドラミングと少しアイリッシュで軽快なイントロを持つ"ザ・フロア"では、「床の下」で眠るなにものかのおとずれが描写される。それが何であるのかは暗示されるに止まるが、「俺の脳みそのなかの指」。「俺」のなかのまだ活動していない何かを呼び覚まそうというようなことが歌われているようである。その何かと呼応するようにドラムはバタバタと、ギターはブルージーかつ饒舌に、歌い、跳ねる。若い人間のごくまっとうな葛藤だといえばそのとおりだが、それをこのように太く鮮やかな筆致で描く才能を軽んじる法はない。あとは彼が5分以上の曲を書いたらどうなるのか。そうしたアルバムにも挑戦してもらいたいものである。

 最後に付け加えになるが、彼は孤独な引きこもりというわけではなく、ノー・エイジが立ち上げに関わり、ミランダ・ジュライやエイブ・ヴィゴダ、ベスト・コーストらが活動することでも注目されているロサンゼルスのホットなアート・スペース、スメルへも出入りしているようだ。ローファイでD.I.Y.という彼らの気風を、なるほどタイ・セガールにも感じる。

橋元優歩