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RIP

R.I.P. Steve Cropper

R.I.P. Steve Cropper

追悼:スティーヴ・クロッパー

文:文屋章 Dec 27,2025 UP

 2025年12月3日、晩年を過ごしたナッシュヴィルでギタリストのスティーヴ・クロッパーが逝った。享年84歳。ミズーリ州で生まれ、幼少期にメンフィスヘ移住。この地にはB.B. キングやルーファス・トーマスがDJを務める黒人向けのラジオ局WDIAがあった。それまでカントリーに親しんでいたクロッパーは街の中心地から電波に乗って押し寄せるブルースやR&Bにたちまち心奪われていった。ハイ・スクール時代に生涯の友となるギターに出会い、この世を去るまで第一線に留まって演奏を続けることになるのだが、そのキャリアを紐解くにはサザン・ソウルの源となる〈スタックス・レコード〉での活動を追わなければならない。

 ‘59年、銀行マンのジム・スチュワートと教師だった姉のエステル・アクストンはメンフィスにレコード・ショップを併設した録音スタジオをオープンした。そこに集い、ショップで流行りのレコードに耳を傾けた若者の中にクロッパーや永年の相棒となるベース弾きのドナルド・ダック・ダン、ホーン・プレイヤーのパッキー・アクストン(エステルの息子)、ウェイン・ジャクスン、ドン・ニックスらが居た。この白人たちはロイヤル・スペイズなるバンドを結成し、近隣のクラブで腕を磨いていく。レコード・デビューはすぐ目の前にあった。バンドにフロイド・ニューマン、カーティス・グリーンら黒人も加わり、スタックス・スタジオであれこれ試行錯誤して半年ほどの期間を経て完成したのが“Last Night”だ。バンド名をマーキーズと変え、スタックスの前身サテライト・レーベルから’61年にリリースされた。エイト・ビートのブルース進行、主役はホーン・リフとスムーチー・スミスのオルガンでクロッパーのパートは目立たぬものだが、R&Bチャート#2に上がる大ヒットを記録。こうしてキャリアは華々しく幕を開けた。

 近隣の高校に通っていたブッカー・T・ジョーンズ、既にメンフィスのミュージック・ボス、ウィリー・ミッチェルのバンドでビートを刻んだアル・ジャクスン・ジュニア、マーキーズのメンバー、ルイス・スタインバーグ、そしてクロッパーが揃い、〈スタックス〉のハウス・バンドとして名高いMG’sが始動する。シンガーのバッキングを務める合間、スタジオで何気なくジャムっていたインストがいけそうだ、ということになりブッカー・T&ザ・MG’s単独で急遽シングルをリリース。“Green Onion”で聴けるオルガン・テーマの隙間に切り込む豪胆なリック、タイトなリフにクロッパーの真価が示される。当初はB面に配されていたというこの曲が何とR&Bチャート#1を記録。ブルース・コードとルーズなシャッフルが生み出す簡素なMG’sのグルーヴは後のR&Bインストに大きな影響を与えることになる。盟友ダック・ダンは’64年終わりにルイスと交代してMG’sに加入した。テレキャスターを愛用したクロッパーは1~2弦は一般のギタリストより細い弦を好み、伴奏では主に1~4弦を弾いたという。それはホーン・セクションの音域を邪魔しないようにという配慮だったと語る。歌手の背後では瞬発力あるトーンで間合いを埋め、ソロ・パートに転ずれば無駄のない手数でフレーズを組立てた。

 ‘62年にオーティス・レディングが、’65年にはサム&デイヴがスタックス・スタジオで録音を開始する。ジャンプ・ナンバーではザクザクとコードを刻んでソウルの熱気度を高め、オーティスの“Pain In My Heart”、サム&デイヴの“I Got Everything I Need”のようなバラードでは優しく寄り添って哀感を高める。もう絶品というしかない。また激情的なブルース・ギターはルーファス・トーマスの“Did You Ever Love a Woman”でたっぷり聴ける。60年代の〈スタックス〉黄金期、スタジオ・ワーク以外でもプロデュース、作曲などでサザン・ソウルの発展に貢献した。ウィルスン・ピケットの“In the Midnight Hour”、エディ・フロイドの“Knock on Wood”など書き残した楽曲は数あるが、中でも特筆すべきはオーティスと共作した“Dock of the Bay”だろう。’67年の暮れに飛行機事故で亡くなる3日前に録音されたこの曲にはシンガー・ソング・ライターの世界に通ずる内省的な感触があり、ゴツゴツとしたいつものスタックス・サウンドは見当たらない。もしオーティスが生きていればクロッパーと共に次なるソウルを提示したのでは、なんて夢想してみたり。

 〈スタックス〉は〈アトランティック・レコード〉に全米配給権を委託してヒットを量産してきたが、その契約はオーティスの死と同じ時期に終わりを告げる。’68年にスタックスはパラマウントに売却されて活動を継続するが、公民権運動の指導者キング牧師の暗殺事件は白人黒人協同で仕事をしてきた〈スタックス〉に暗い影を落し、デトロイトから大物プロデューサー、ドン・デイヴィスを迎える頃には創業期の家族的な態勢は崩れていった。そんな状況にブッカー・Tは去り、クロッパーも’70年には〈スタックス〉を離れて独立。TMIスタジオとレコード会社をメンフィスに立ち上げ、地元シンガーやブルーアイド・ソウルのロイ・ヘッドを録音して〈TMI〉レーベルをスタートさせた。これまで身を置いてきたサザン・ソウルは70年代を迎えるとニュー・ソウル、ファンク、スウィート・ソウルの台頭で衰退しつつあった。しかしスタックスで培った実力と功績はジャンルレスでミュージシャンを魅き寄せる。新設スタジオではタワー・オブ・パワー、ジェフ・ベック・グループらがレコーディングを行い、クロッパーはミキシングやプロデュースを担当してアルバムを仕上げている。’77年にはザ・バンドのリヴォン・ヘルム率いるRCOオールスターズへ参加するなどロック・サイドとの交流は広がっていった。

 さらに活躍の場を広げたのはブルース・ブラザース・バンドへの加入だ。NBCのTV番組『Saturday Night Live』でジョン・ベルーシ、ダン・エイクロイドが精鋭ミュージシャンを集め、往年のソウル、ブルースを初めて演奏したのは’78年4月のこと。これが大評判となり、やがてデビュー・コンサートがライヴ・アルバムとなり、勢いそのままに映画制作、サントラ盤の発表へと続く。ベルーシ、エイクロイドのコンビによる活動は短期間だったがソウル、ブルースの魅力を若者へ伝える影響力は強大だった。これらの過程でクロッパーの認知度も上り、’80年代には2枚のソロ・アルバムを〈MCA〉で出した。しかしながらアーバン調の洒落た音作りは平凡で初めて挑戦したヴォーカルも弱く褒められた作品ではない。2008年に元ラスカルズのフェリックス・キャバリエとアルバムを作り、2011年には敬愛して止まないギタリスト、ファイヴ・ロイヤルズのロウマン・ポウリングに捧げた『Dedicated – A Salute to the 5 Royals』を発表。彼のルーツであるR&B魂を深く刻む、面目躍如の素晴らしい内容であった。また2021年の『Fire It Up』に続き2024年には思い出の名曲 “”Midnight Hour ” をバンド名に据え、ZZ Topのビリー・ギボンズ、クイーンのブライアン・メイを迎えて遺作となった『Friendlytown』を発表。まだまだ元気な姿を見せてくれていた。

 日本のファンにとって忘れがたいのは忌野清志郎との共演に尽きる。クロッパー、ダック・ダン、ブッカー・Tの元MG’sと一緒にメンフィスで’91年に録音されたアルバム、その名も『Memphis』。スタックス・ソウルを敬愛する清志郎にとってどれだけ幸せなひとときであったことか。2023年の暮れにアナログ盤で再発されており、それに針を落としてみればMG’sとメンフィス・ホーンズの強烈な音圧に包まれ、嬉々として歌う清志郎の声が蘇る。クロッパーさん、メンフィス・ソウル最高だよ!

文:文屋章

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