「Nothing」と一致するもの

FKA Twigs - ele-king

 2010年にデビューし、ブライアン・イーノパティ・スミス以来の逸材と絶賛されたアンナ・カルヴィは、4年後、「EP2」に収録されていたFKAトゥイッグスの“Papi Pacify”(https://www.youtube.com/watch?v=OydK91JjFOw)をカヴァーしている。カルヴィはなるほどパティ・スミスを思わせる堂々とした歌いっぷりで、カントリー色が強く、“Papi Pacify”もスケール感を持たせた仕上がりとなっている(https://www.youtube.com/watch?v=ljI6eLcGyzw)。トゥイッグスとカルヴィの“Papi Pacify”を聴き比べてみると、その違いは歴然で、密室的な響きを重視するトゥイッグスにはヨーロッパ的な美と官能が横溢し、カルヴィのそれは対照的にドライでパワフル、それこそアメリカ的な解放感そのものである。そこは見事に変換されている(トゥイッグスをアメリカ的な空間概念に放り込んだスパイク・ジョーンズのCM「ホームパッド」はまるでわかってねーなー)。「Pacify」には「宥める」という意味があり、トゥイッグスが触感でそれを達成しようとするのに対し、カルヴィにはまったく色気がなく、風に吹かれるなど自然の摂理として同じ効果を期待させているといえばいいだろうか(“Papi Pacify”のカヴァーが収録されたEP「Strange Weather」にはデヴィッド・ボウイとのデュエットやカヴァーも)。

 FKAトゥイッグスの美と官能は何に由来するのか。ひとつには彼女の音楽的バックボーンがインダストリアル・ミュージックと近しいことにあるだろう。これまで僕がトゥイッグスについて書いたことを簡単にまとめると、それは「スクリュードされた賛美歌」だということで、何度も書いてきたことだけれど、ショスターコヴィッチがインダストリアル・ミュージックの元祖だと思っている僕にとってインダストリアル・ミュージックもモダン・クラシカルもポピュラー・ミュージックの場面では大差なく(ポスト・クラシカルと呼ぶのは日本だけ)、大きくいえば拘束の美学に貫かれ、とくにインダストリアル・ミュージックは機械文明のなかで疎外された肉体を誇張して表現してきた歴史があり、官能性はまさにその中心をなす理念といえる。トゥイッグスのヴィデオから音を消してデムダイク・ステアエンプティセットを流してもまったく違和感がなく、トゥイッグスのヴィジュアル表現がインダストリアル・ミュージックそのものだということはすぐに理解できるだろう。インダストリアル・ミュージックが前衛や回顧も含めて2017年にピークに達したということはスロッビン・グリッスルの再発評でも書いた通りで、明らかに2010年代の音楽的な屋台骨をなし、様々に分岐していった一本の小枝がトゥイッグスだったのである(なんて)。とくにアルカとの関係は興味深く、アルカのサウンドを覆う表面的なインダストリアル・テイストではなく、その根底にあるアーサー・ラッセルのスタティックな音楽性はトゥイッグスとアルカをこれ以上ないというほど強く結びつけた感がある。『MAGDALENE』ではアルカはブルガリアン・ヴォイスをサンプリングした“Holy Terrain”のヴォーカルをいじり、プログラムを手掛けた以上の関係ではないけれど、『LP1』(14)で構築されたモードから大きく逸脱することはないという意味で、やはりアルカが与えた指標には大きなものがあるだろう。『MAGDALENE』をつくっていた時期にトゥイッグスがアーサー・ラッセルばかり聴いていたというのもアルカの向こう側にあるものに興味を持ったからではないかと僕は邪推する。“Holy Terrain”はまた、プロデュースでスクリレックスが関わっていることにも驚かされる。

 とはいえ、『MAGDALENE』を生み出す大きな立役者となったのはニコラス・ジャーだという。全体をコントロールしているのはトゥイッグスだけれど、彼女のなかにあったものを引っ張り出してくれたのはジャーの手腕によるところが大きいとトゥイッグスはオフィシャル・インタヴューで強調している。ジャーが関わっていないのは前出の“Holy Terrain”とダニエル・ロパティン(OPN)&モーション・グラフィックスとの“Daybed”だけで、プロデュースに参加していない曲でもジャーはドラムやパーカッションを叩くなど、なんらかのかたちでほとんどの曲に関わっている。ジャーによる2016年のサード・アルバム『Sirens』にはどことなく賛美歌めいた曲もあり、官能性からはほど遠いものの、「Pacify」という感覚を敷衍するという意味でモダン・クラシカルの文脈を共有することができたということなのだろう。ジャーにしても『MAGDALENE』は大きな飛躍を意味したに違いない。それはモダン・クラシカルが主に再生産している18世紀のロマン主義における両義性というものだったのでははないだろうか──彼の新作を聴いてみなければわからないけれど(“Papi Pacify”のカヴァーを含むアンナ・カルヴィのEP「Strange Weather」にはスーサイド“Ghost Rider”のカヴァーが収録され、『Sirens』にもこれに通じるような“Three Sides of Nazaret”だったり、なぜかロックンロールの痕跡が散りばめられている)。

 オフィシャル・インタヴューでトゥイッグスは気になることを語っている。18世紀のドレスとストリート・ファッションのミックスに興味があるというのである(これを聞いてのけぞらないパンク世代はいないだろう。パンク以降、ヴィヴィアン・ウエストウッドとマルカム・マクラーレンはバック・トゥー・ヴィクトリアに向かった前者とBボーイ・ファッションに入れ込んだ後者に分かれて敵対し、ウエストウッドは「Bボーイ・ファッションは低脳」とまで罵っていたのだから)。18世紀のドレスとモダン・クラシカルが掘り起こす18世紀のロマン主義。それらをヨーロッパにおける伝統回帰の範疇として捉え直すと、2010年代のもう一方のトレンドであるワールド・ミュージックの掘り起こしとは、ある意味、同じことを並行してやっているという印象を持ってしまう。ヨーロッパの伝統とアフリカの伝統。どちらにもアイデンティティが契機としてあり、悪くすれば移民排斥の原動力にもなりかねない(南アフリカでは周辺国からの移民が殺される事件が相次ぎ、移民が引き揚げていく現象が起きている)。それぞれの回帰作業を横断してしまうこと。これがトゥイッグスの音楽を特別なものにしているのではないだろうか。「スクリュードされた賛美歌」というのはそういう意味である。ボディ・ミュージックをファンクでねじ伏せたジェフ・ミルズと大枠でやっていることは同じというか。

 ロマン主義とはまた、神の不在が意識された時代でもある。タイトルの由来となった「マグダラのマリア」についてトゥイッグスは、これまで「罪深い女」だとされてきたマグダラのマリアの評価が変わってきたことをあげている。マグダラのマリアには子どもの頃から興味があり、とくに「罪深い女」であり「聖女」でもあるという二面性に惹かれてきたと彼女は続けている。これと同じことをマーティン・スコセッシが1988年に映画化した『最後の誘惑』の原作者ニコス・カザンザキスもイエス・キリストについて述べている。「極めて人間的なものと超人間的なものの両面性を持っていた。キリストのこの二元性は私にとって以前から尽きぬ謎であった」(映画字幕より)。『最後の誘惑』はそして、キリストが磔にならず、マグダラのマリアと結婚して幸せな家庭を営みかけるというアナザー・ストーリーを構築する。そうでなくともキリストを当時、イスラエルにはごろごろいた革命家のひとりとして荒くれ者のように描いた同作は、キリスト教右翼が勢力を伸ばしていたアメリカ各地でボイコットに会い、上映禁止に追い込まれてしまうものの、『聖書』にはマリアとイエスが「結婚していない」という記述は見つからず、少なからずの支持者を得た考え方となり、キリストとその信者の結びつきを考える上ではユニークなアプローチをなしていることは否めない。マグダラのマリアが同じように評価を変えているとしたら、例えば僕にはコージー・ファニ・トゥッティがストリップをやっていたことについて自伝で肯定的に語っていることや、チッチョリーナやサーシャ・グレイといったストリッパーたちが広い意味で文化的に、あるいは政治的にも活躍してきた時代背景との関連を考えずにはいられない。コージー・ファニ・トゥッティもそうだし、マドンナが『ワンダーラスト』(08)でポール・ダンスに寄せていた思いはとても複雑なものに感じられ、“Cellophane”のヴィデオ(https://www.youtube.com/watch?v=YkLjqFpBh84)でトゥイッグスがポール・ダンスを題材に選んだことは(彼女にはマドンナやムツミ・カナモリが性を売って乗り越えなければならなかったハードルはなかったはずだけれど)、そうした歴史の延長上にある表現だったといえるだろう。ジミー・ファロンの「レイト・ナイト・ショー」でトゥイッグスが踊るポール・ダンス(https://www.youtube.com/watch?v=yRyrvdB_3lQ)はまさに息を呑むような美しさであった(それにしても相当な腕の力ですよね、これは)。

 インダストリアル・ミュージックがダンスホールと結びつき、トゥイッグスの横断性に習ったのが2016年。あれから3年が経ち、イキノックスと結びついたロウ・ジャックがヴァチカン・シャドウにもダブをやらせてしまった(https://www.youtube.com/watch?v=BqiRpPZU7V4)。これをファッション・トレンドと呼ばずして何を?

Mall Boyz - ele-king

 この夏、初のミックステープ 『angel』をリリースし、NTSラジオにヘッドライナーとして出演するなど、もはや2019年の顔になりつつあるといっても過言ではない Tohji。その彼と gummyboy のふたりを核とするクルー Mall Boyz が、11月22日より全国ツアー《4XL Tour》を開催する。京都、広島、仙台、沖縄、北海道、茨城の6公演が予定されているとのことなので、近場の人はぜひ。

東京のユースを中心に熱狂的な支持を集める Mall Boyz が、全国ツアー「4XL Tour」を開催

既成概念を軽々と更新し続ける幅広い活動と、その圧倒的な存在感で同世代から強く支持される Tohji 率いる Mall Boyz が11月22日から約1ヶ月の全国ツアー「4XL Tour」を開催。

2019年を代表する楽曲となった“Higher”が収録されている『Mall Tape』のリリース後、勢い収まることないまま Tohji は 1st Mixtape 『angel』、gummyboy はEP「pearl drop」を立て続けに発表。Mixtape リリース直後 Tohji は渡英し、ロンドンのラジオ局で自主企画の放送やサウンドクラッシュにヘッドライナーとして出演するなど、その活躍はすでにグローバルレベルになりつつある。東京でも10月に行われた自主企画の「HYDRO」は2000を超える応募があり、先日の全感覚祭では超満員の O-East で1500人近くの観客をロック。その人気の拡大は止まることを知らない。

Tohji はファッション誌『Ollie』の表紙を10月に飾り、先月の東京ファッションウィークでは「LANDLORD NEW YORK」のランウェイに登場。gummyboy もダンスミュージックシーンで支持の厚い Masayoshi Iimori との楽曲をリリースするなど、メンバーはそれぞれ活躍の幅を広げ続けている。また Mall Boyz 名義でもロンドンのパーティークルーである Eastern Margins とコラボレーションパーティ『6 pac』を開催。海外のアーティスト招致だけでなく、全国から同世代のクリエイターを募集しフリーマーケットを開催するなど、これまでの音楽アーティストやクルーには見られなかった積極的な試みをいくつも行なっている。

いま東京でユースから圧倒的に支持されている Mall Boyz。彼らの作り出そうとしてる新しいムーブメントを肌で感じることのできるまたとない機会である今回の「4XL Tour」。近くの会場まで足を運んでも絶対に後悔はしないはずだ。

「4XL Tour」は11月22日の京都からスタートし、約1ヶ月で広島/仙台/沖縄/北海道/茨城の計6箇所での公演が予定されている。ツアー中には会場でしか購入できない限定のTシャツやグッズも発売されるとのこと。

チケットや開催時間等の問い合わせは各会場へ。

◆Tour info
11月22日(金)京都CHAMBERS(ナイト)
11月23日(土)広島CLUB L2(ナイト)
11月30日(土)仙台CLUB SHAFT(デイ)
12月07日(土)沖縄G+OKINAWA(デイ)
12月10日(火)北海道SOUND LAB MOLE(デイ)
12月14日(土)茨城CLUB GOLD(ナイト)

◆Artist info
Mall Boyz はラッパーの Tohji と gummyboy を中心としたクルー。2018年末にリリースした『Mall Tape』から“Higher”が大ヒット。8月にはそれぞれソロ名義で Tohji は 1st Mixtape 『angel』、gummyboy は新作EP「pearl drop」をリリース、圧倒的な存在感で同世代から強く支持されている。10月にはロンドンを中心に活動する Eastern Margins とのコラボレーション・パーティ『6 pac』を開催し、ファッション誌『Ollie』の表紙を飾るなど、インディペンデントに活動を続ける彼らの今後の動きは、音楽のみならずシーンの垣根を超えた注目を集めている。


Twitter:https://twitter.com/_tohji_
Instagram:https://www.instagram.com/_tohji_/


Twitter: https://twitter.com/8gummyboy8
Instagram: https://www.instagram.com/8gummyboy8/

Adrian Sherwood, Roots Of Beat & Exotico De Lago - ele-king

 いよいよ来週末に迫ったエイドリアン・シャーウッドの来日公演、その詳細が発表されました。いや、これがびっくりするほど濃い内容なのです。オーディオ・アクティヴおよびドライ&ヘヴィのメンバーからなる一夜限りのバンド ROOTS OF BEAT と、エイドリアンが惚れこんでいるという長久保寛之率いるバンド、エキゾティコ・デ・ラゴの出演が決定、彼らのライヴをその場でエイドリアンがダブ・ミックスします。エイドリアン本人はというと、リー・ペリーの素晴らしい新作およびこれまでの数々の名作をダブ・ミックス。こりゃもう最初から最後までずっとステージに張りつくしかないですな。11月22日、渋谷 WWW は深い深いダブの海へと沈む……!!

[11月14日追記]
 エイドリアン・シャーウッドが、今年4月にリリースされたリー・“スクラッチ”・ペリーのアルバム『Rainford』収録の“Makumba Rock”を、マルチトラック音源を用いて自身のスタジオでダブ・ミックス。その様子を捉えた映像がユーチューブで公開されています。ライヴではどんな感じになるのやら、楽しみですね。

ADRIAN SHERWOOD来日公演

ON-U SOUND、UKアンダーグラウンド・シーンの首領エイドリアン・シャーウッド来日公演開催間近!
オーディオ・アクティブ、ドライ&ヘビーのメンバーを中心に集結した一夜限りのスペシャルバンド “ROOTS OF BEAT” の出演も決定!
リー・スクラッチ・ペリーの名曲群をセッション&エイドリアンの生ダブMIX!!
狂気の音像を大爆音で体感せよ!

刺激的なダブミックスを武器にそのレフトフィールドなサウンドで、音楽シーンに多大な影響を及ぼして来た伝説的プロデューサー、エイドリアン・シャーウッドの来日公演がいよいよ来週金曜日、11月22日に迫る!

『Time Boom X The Upsetter Dub Sessions』と名付けられた今回のイベントでは、UKダブのゴッドファーザー:エイドリアン・シャーウッドが、オリジナルのマルチトラックやマスター音源を用いて、エイドリアンとリー・ペリーとの名盤『Time Boom X De Devil Dead』『From The Secret Laboratory』から『The Mighty Upsetter』『Dubsetter』『Rainford』 そして最新作『Heavy Rain』、さらにはリー・ペリーの伝説のスタジオ〈Upsetter Productions〉や〈Black Ark〉のアーカイブにまで潜り込み、ライブ・ダブ・ミックスを行う。さらに、エイドリアン自らの指名で、長久保寛之を中心にヴィンテージな質感とレイドバックした空気感、そして、ストレンジでムーディーなサウンドを展開するバンド、エキゾティコ・デ・ラゴも出演し、エイドリアンによるダブ・ミックスが行われることが決定している。そして新たに、〈ON-U SOUND〉の遺伝子を受け継ぎ日本のレゲエ/ダブ・シーンを牽引してきたオーディオ・アクティブ、ドライ&ヘビーのメンバーを中心に今回のために集結したスペシャル・バンド “ROOTS OF BEAT” の出演も決定! 珠玉のリー・ペリー・クラシックを生演奏し、エイドリアンがダブ・ミックスするという特別セットを披露!!

ダブに浸り、目の前で繰り広げられる仰天の神業ダブミックスに圧倒される夜。見逃せない体験となるだろう。来場者には、特典として、エイドリアン・シャーウッドが今回のために録り下ろした特典 MIX CD をプレゼント!

同日には今年4月にリリースされ各所から大絶賛されているリー・スクラッチ・ペリーのアルバム『Rainford』にブライアン・イーノやヴィン・ゴードンらゲストが加わり、エイドリアン・シャーウッドがダブ・ヴァージョンに再構築した『Heavy Rain』が日本先行リリース!

神業仰天生ダブMIX3本勝負!!

MIX 1 - EXOTICO DE LAGO - Live Dub Mixed by ADRIAN SHERWOOD
エイドリアンのお気に入り邦バンド、エキゾティコ・デ・ラゴの奇妙でムーディーなライブをダブミックス!

MIX 2 - ADRIAN SHERWOOD: Diving into Original Multi-Tracks
エイドリアンとリー・ペリーとの大名盤『Time Boom X De Devil Dead』『From The Secret Laboratory』から『The Mighty Upsetter』『Dubsetter』『Rainford』 そして最新作『Heavy Rain』まで、エイドリアンが手掛けた数々のリー・ペリー作品をマルチトラック音源を用いてダブミックス!

MIX 3 - ROOTS OF BEAT plays LEE ‘SCRATCH' PERRY Classics - Live Dub Mixed by ADRIAN SHERWOOD
オーディオ・アクティブやドライ&ヘビーのメンバーを中心に ROOTS OF BEAT としてこの日のためにスペシャル・バンドを結成! 珠玉のリー・ペリー・クラシックを、生演奏で再現! そしてエイドリアンのダブミックスが炸裂!
参加メンバー:七尾茂大、河西裕之、外池満広、Master PATA、ANNA OZAWA、ASSAN、Inatch

ADRIAN SHERWOOD
Time Boom X The Upsetter Dub Sessions

MIX 1 - EXOTICO DE LAGO - Live Dub Mixed by ADRIAN SHERWOOD
MIX 2 - ADRIAN SHERWOOD: Diving into Original Multi-Tracks
MIX 3 - ROOTS OF BEAT plays LEE ‘SCRATCH' PERRY Classics - Live Dub Mixed by ADRIAN SHERWOOD

2019.11.22 Fri WWW X
Ticket Adv.:¥5,800
Open 18:00 / Start 18:30

ADRIAN SHERWOOD
ポストパンク、ダブ、インダストリアル、パンキー・レゲエ、ファンク、エレクトロ……80年代から90年代にかけて確立したそのレフトフィールドなサウンドを通して、後の音楽史に多大な影響を及ぼした伝説的プロデューサー。マーク・スチュワート、ザ・スリッツ、マキシマム・ジョイ、ザ・フォール、アフリカン・ヘッド・チャージ、プライマル・スクリーム、ナイン・インチ・ネイルズ、ニュー・エイジ・ステッパーズ、デペッシュ・モード等々……時代やジャンルを跨ぎ様々なアーティストたちの楽曲を手掛け、同時にイギリスでもっとも先鋭的なレゲエ〜ダブを送り出してきたレーベル〈ON-U SOUND〉の総帥としてUKダブ・シーンを常に牽引、近年では〈Tectonic〉を主宰するピンチとのユニット、シャーウッド&ピンチとしても空間芸術と称されるサウンドを進化させている。

EXOTICO DE LAGO
2012年にアルバム『ROCKS "EXOTICA" STEADY』を発表した長久保寛之。その長久保を中心に、彼が選び抜いたメンバーと共に活動を開始したエキゾチカ・バンド。ヴィンテージな質感とレイドバックした空気感、そして、ストレンジでムーディーなサウンドで「ここではないどこか」を探し続ける音楽家たちが“EXOTICA”をキーワードに様々な音楽を飲み込んでゆく。

label: On-U Sound / Beat Records
artist: Lee "Scratch" Perry
title: Heavy Rain
release date: 2019.11.22 FRI ON SALE
日本先行リリース!

国内盤CD BRC-620 ¥2,400+税
国内盤CD+Tシャツ BRC-620T ¥5,500+税
限定盤LP(シルバーディスク) ONULP145X

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10538

TRACKLIST
01. Intro - Music Shall Echo
02. Here Come The Warm Dreads
03. Rattling Bones And Crowns
04. Mindworker
05. Enlightened
06. Hooligan Hank
07. Crickets In Moonlight
08. Space Craft
09. Dreams Come True
10. Above And Beyond
11. Heavy Rainford
12. Outro - Wisdom
13. Drown Satan (Bonus Track for Japan)

label: On-U Sound / Beat Records
artist: Lee "Scratch" Perry
title: Rainford
release date: 2019.04.26 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-596 ¥2,400+税
国内盤CD+Tシャツ BRC-596T ¥5,500+税
限定盤LP(ゴールドディスク) ONULP144X ¥OPEN

TRACKLISTING
01. Cricket on the Moon
02. Run Evil Spirit
03. Let it Rain
04. House Of Angels
05. Makumba Rock
06. African Starship
07. Kill Them Dreams Money Worshippers
08. Children Of The Light
09. Heaven and Hell (Bonus Track for Japan)
10. Autobiography Of The Upsetter

Hair Stylistics - ele-king

 祝15周年ということでしょう、2004年に細野晴臣の〈daisyworld discs〉からリリースされたヘア・スタイリスティックスのファースト・アルバム『Custom Cock Confused Death』(タイトルを略すと「CCCD」)が、なんと、初めてヴァイナルでリリースされます。紙エレ夏号の「エレキングが選ぶ邦楽100枚のアルバム」にも選出した名作ですが(同号には中原昌也のインタヴューも掲載)、今回アートワークも刷新され、グレイ・ヴァイナル&ゲイトフォールドという豪華な仕様になっている模様。発売は12月13日です。

Hair Stylistics による2004年の名作が、15年越しに数量限定で初アナログ化!

中原昌也(ex.暴力温泉芸者)によるソロ・ユニット Hair Stylistics のファースト・アルバム『Custom Cock Confused Death』がアートワークを一新し、グレイ・ヴァイナル、ゲートフォールド・ジャケットの豪華仕様で2LP化です!

2004年に細野晴臣主宰のレーベル〈daisyworld discs〉よりリリースされた、日本のアンダーグラウンド・シーンを象徴する怪盤が、15年の時を経てついにアナログ化です。

不穏なSEと呻き声に潰れたブギーなベースラインが絡む、“Juicy Fruit”を闇鍋で煮詰めたようなアブストラクト・サイケ・ダブ“UNDERHAIR WORLD”。野太く凶悪なブリブリのシンセ・ベースに動物の鳴き声や雑音が挿入される、熱帯雨林を抜けスラムに迷い込んだかのようなスカム/ミニマル・アシッド“KILL THE ANIMALS PROJECT”。チープなリズム・マシーンに反復するベースライン、脳髄に浸食するようなクニュクニュと鳴るシンセ、時折差し込まれるジャジーなギターが不思議とレイドバックした感覚を起こさせる、ルードでアヴァンギャルドなチル・ナンバー“TIRED”など、全21曲を収録。

ノイズ、アヴァンギャルド、ヒップホップ、ダブ、テクノなどあらゆる音楽的要素を溶解させ、猥雑かつ緻密に再構築した、クラブ・ミュージック的視点でも再評価されるべき名作です。今回のアナログ化にあたりアートワークを一新、国内外で活躍する写真家、赤木楠平が手掛けています。

■リリース情報
Hair Stylistics
Custom Cock Confused Death』(2LP)
発売日:2019年12月13日(金)
価格:3,900円+税
レーベル:TANG DENG Co.
品番:TDLP3993
形態:2LP

収録曲:

Side-A
1. THE EXCITING INTRODUCTION
2. UNDERHAIR WORLD
3. 3
4. DOOMED LOVE PARADE
5. ORGANIC ORGASM

Side-B
1. 6
2. WOMAN
3. 8
4. THE SPECIAL
5. 11

Side-C
1. 10
2. 12
3. SPANISH 808
4. 14
5. I LIKE PERCUSSION
6. 16

Side-D
1. KILL THE ANIMALS PROJECT
2. THE PERFECT BONGO SESSIONS
3. A TRAGEDY OF THE ESPRESSO MACHINE
4. 20
5. TIRED

■JET SET Online Shop にて予約受付中
https://www.jetsetrecords.net/814005682359/

Danny Brown - ele-king

 11月22日にリリースされるニュー・アルバム『uknowhatimsayin¿』の話題で持ちきりのダニー・ブラウンが、同作より新曲“Best Life”のMVを公開。トラックのプロデューサーは、アルバム全体のエグゼクティヴ・プロデューサーを務めるQティップで、ヴィデオのほうは映像作家のオーガスティン・ヴィータが手がけている。アルバムの詳細は下記より。

[11月14日追記]
 ダニー・ブラウンが上述“Best Life”をアメリカの人気TV番組『The Tonight Show with Jimmy Fallon』で披露しています。ユーチューブにて映像が公開中です。

[2020年2月4日追記]
 好評のアルバム『uknowhatimsayin¿』から、新たに“3 Tearz”のMVが公開されました。監督は、レディオヘッドやバトルズのMVを手がけるコリン・リード。ファンたちが撮影した映像をじつにスタイリッシュに仕上げ直しています。ちなみにフィーチャーされているのは、なぜか日本ではぜんぜん評価されていないラン・ザ・ジュエルズ。彼らの功績の一部についてはこちらの対談をぜひお読みください。また、ダニー・ブラウン新作のレヴューはこちらから。

DANNY BROWN
待望のNEWアルバム 『UKNOWHATIMSAYIN¿』から
Qティップ・プロデュース曲“BEST LIFE”の最新MVを公開!

異彩を放ち続ける人気ラッパー、ダニー・ブラウンが、11月22日発売の最新アルバム『uknowhatimsayin¿』から、アルバムのエグゼクティヴ・プロデューサーも務めるア・トライブ・コールド・クエストのQティップが手がけた楽曲“Best Life”のミュージック・ビデオが新たに解禁された。今やデトロイトのアイコンとなったダニー・ブラウンの魅力が詰まったビデオは、映像作家オーガスティン・ヴィータが手がけている。

Danny Brown - Best Life (Official Video)
https://youtu.be/Ov_0M5OxbZM

この10年で最も革新的なラップ・スタイルを確立させ、アグレッシヴで実験的なヨーロッパ寄りのダンス・ミュージックと、顔面をガツンとやられるようなUSのストリート・ラップを橋渡しできる唯一無二の存在として、ビートメイキングには人一倍こだわりを持つダニー・ブラウン。今作では超大物Qティップとタッグを組んでいる他、外部プロデューサーとして、フライング・ロータス、ジェイペグマフィア、スタンディング・オン・ザ・コーナー、そして長年のパートナーでもあるポール・ホワイトが名を連ねている。またゲストとしてラン・ザ・ジュエルズ、オーボンジェイアー、ジェイペグマフィア、ブラッド・オレンジがフィーチャーされるなど、今年最も注目を集めているヒップホップ作品として賞賛を浴びている。

ダニー・ブラウン待望の最新アルバム『uknowhatimsayin¿』は11月22日(金)にリリース! 国内盤には歌詞解説と解説書が封入される。また数量限定でオリジナルTシャツとのセット販売も決定。

『uknowhatimsayin¿』は、ブラウンのルーツに基づくヒーロー的存在感とドキュメンタリー作家としての繊細な感覚、悲劇と喜劇、虚勢と自己嘲笑の高度なバランス感覚を保つことに成功している。本作は彼の過去作品よりも短いが、誰もが真似できない領域に達している。5枚目のアルバムをリリースした今でも、少ない言葉で素晴らしいストーリーを語ることのできる類まれな存在であることを証明し続けている。 ──ROLLING STONE

ダニー・ブラウンは、この10年で最も偉大なラッパーの一人であり続け、彼の冒険的な耳と狂気に満ちたユーモアは、4枚のアルバムと参加曲で証明されてきた。彼の最新アルバムは、馴染みのテーマをまったく新しいアプローチで表現した傑作だ。 ──VIBE

今作は作家性の強いアルバムだ。刺激的なフレーズと、ゾッとする一瞬、そして最高に笑える瞬間に満ち溢れている。 ──WALL STREET JOURNAL

『uknowhatimsayin¿』はダニー・ブラウン史上最高のラップ作品だ。 ──COMPLEX

才能溢れるラッパーがどうでもいい話をし、ストーリーを語り、自身の才能を見せびらかしている。つまり、くだらない冗談のために、複雑に織り合わさったサウンドを追求し、ラップのサウンドスケープを誰よりも形作ってきた男による最高のラップ作品なのだ。 ──STEREOGUM

5枚目となるこのアルバムで、Qティップをエグゼクティヴ・プロデューサーに招き、ヒップホップの伝統を継承しつつ、今最も発明的で多角的なラッパーであることを証明している。 ──PITCHFORK

label: Warp Records / Beat Records
artist: Danny Brown
title: uknowhatimsayin¿
release date: 2019.11.22 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-617 ¥2,200+税
国内盤特典:歌詞対訳/解説書封入

国内盤CD+Tシャツ BRC-617T ¥5,500+税

TRACKLIST
01. Change Up
02. Theme Song
03. Dirty Laundry
04. 3 Tearz (feat. Run The Jewels)
05. Belly of The Beast (feat. Obongjayar)
06. Savage Nomad
07. Best Life
08. uknowhatimsayin¿ (feat. Obongjayar)
09. Negro Spiritual (feat. JPEGMAFIA)
10. Shine (feat. Blood Orange)
11. Combat

〈WARP〉30周年 WXAXRXP 特設サイトにて WXAXRXP DJS で即完したロゴTシャツ&パーカーの期間限定受注販売開始!
受付は11月30日まで。商品の発送は注文後約2週間後を予定している。また会場で販売されたアーティストグッズのオンライン販売も同時スタート!数量が限られているため、この機会をお見逃しなく。
https://www.beatink.com/wxaxrxp/

NITRODAY × betcover!! - ele-king

 昨年ファースト・アルバム『マシン・ザ・ヤング』をリリースし、去る10月にミニ・アルバム『少年たちの予感』を発売したばかりの新世代オルタナティヴ・ロック・バンド、ニトロデイが盟友 betcover!! とともにリリース・ツアーを開催。最終日となる11月21日(木)渋谷 WWW 公演には、『少年たちの予感』収録曲“ブラックホール”にフィーチャーされていた ninoheon がゲストとして参加する。平均年齢20歳だというニトロデイ、そのフレッシュな息吹を思うぞんぶん体感しよう。

Wool & The Pants - ele-king

 今年亡くなられた評論家・加藤典洋の、日本の音楽について著した『耳をふさいで、歌を聴く』には、次のような一文がある。「人に勧められ、促され、日本のロックを本格的に聴くようになり、聴くべきものを大量に送りつけられた時分、最初期に、これとこれを聴いてもらいたいと指定され、聴いたのが、この章で扱うじゃがたらと、フィッシュマンズであった」
 じゃがたらとフィッシュマンズの共通点でぱっと思い浮かぶのは、まあレゲエの影響とこだま和文の存在だろう。が、レゲエとはいえ、かたや寒々しい“Tango”、かたや胸きゅんな“ひこうき”。少なくとも表面的には、このふたつのバンドが重なるところはなかなか見いだせないというのが大方の印象じゃないだろうか。
 ところがである、最近になってぼくはフィッシュマンズがじゃがたらをカヴァーしたらこうなったのではないかと思える曲に出くわした。Wool & The Pantsの“Edo Akemi”という曲である。

 すでにインディ・シーンではここ1年話題になっている3人組のバンドで、“Edo Akemi”は1年前に出たアルバムの収録曲である。その1年前のアルバムが先日再プレスされたので(アナログ盤のみで、Spotifyでは聴けませんのよ〜。わりぃけど)、ぼくはレコード盤を買った。メディアとしてあるまじき遅さだが、自分たちが好きなものを好きなように書くのがエレキングの初心なので、まあ、許してちょ。
 それにしたってこの“Edo Akemi”、歌詞はじゃがたらの『南蛮渡来』に収録されている“でも・デモ・DEMO”だが、江戸アケミと同じ言葉を歌っていてもまったくそれとは別な回路をもって新鮮に響いている。ここには明らかに新しい解釈、新しい感性があり、その感性はじゃがたらの寒々しさをアクチュアルなサウンドによって継承されたなかにあり、しかもそれはフィッシュマンズの“Baby Blue”の切なさとは決して遠くはないところで鳴っている。奇跡のような曲である。

 せっこく生きてちょうだい
 せっこく生きてちょうだい
 見慣れた奴らにゃおさらばするのさ
 見慣れた奴らにゃおさらばするのさ

 これほど毒づいている言葉を、しかしWool & The Pantsはその抑揚のない歌(ルー・リードめいたぼそぼそとした歌)と絶妙なセンスのトラックによって、なにか新しい意味をリスナーの内部に誘発する。それがどういうことかというと、たとえば抗うこと、不機嫌なこと、場違いなこと、同調できないことを後押しすることで、逆説的に希望のようなものを立ち上げるということ、である。
 音楽性の面では、昨今の海外アーティストで言えば、King KruleやPuma Blueなんかとリンクするのだろうけれど、Wool & The Pantsはダブからの影響も色濃く、あたかもPuma Blueとマッシヴ・アタックの溝を埋めるかのようだ。つまり、ベースがでっかい。
 あるいはまた、“Bottom Of Tokyo”で聴ける、まるで冷凍室のディスコ・サウンドのごとき音響にも舌を巻いてしまう。深いフィルターのかかった“Kudo”ではBurialの領域にも接近し、「あんたの言葉、子供みたい〜」と歌う“Just Like A Baby Pt. 3”にいたってはドルッティ・コラムがトリップホップをやったかのようだ。さもなければ、ヤング・マーブル・ジャイアンツのジャズ/ファンク・ヴァージョンとでも言おうか、ファッション・インディとは一線を画す泥臭さも兼ね備えている。

 紙エレキングの「オルタナティヴ日本」特集でロスアプソンの山辺圭司とジェトセット下北店の中村義響のふたりが推薦していたので気にはなっていたのだが、ここまでキラーだとは思いませんでした。すいません。

Grischa Lichtenberger - ele-king

 グリシャ・リヒテンベルガーは2009年に名門〈Raster-Noton〉からシングル「~Treibgut」をリリースした。2年後の2011年にスヴレカ(Svreca)が主宰する〈Semantica Records〉からEP「Graviton - Cx (Rigid Transmission)」を発表。翌2012年には〈Raster-Noton〉よりアルバム『and IV [inertia]』をリリースする。3年を置いた2015年にセカンド・アルバム『La Demeure; Il Y A Péril En La Demeure』を発表し、翌2016年にはジェシー・オズボーン・ランティエとの競作による『 C S L M | Conversations Sur Lettres Mortes』をリリースした。同2016年には20世紀後半の歴史と思想をバックボーンにしたEP三部作をひとつのパッケージにしたトータル・アート作品的な傑作『Spielraum | Allgegenwart | Strahlung』を発表するに至る。
 本作『Re: Phgrp』は、ベルリンの電子音響作家グリシャ・リヒテンベルガー、待望の新作である。『La Demeure; Il Y A Péril En La Demeure』(2016)以来、実に4年ぶりのアルバムだ(EP三部作をまとめた『Spielraum | Allgegenwart | Strahlung』もカウントすれば3年ぶり)。

 グリシャ・リヒテンベルガーの音響音楽の特質はポスト・オウテカ的なグリッチ美学の応用にある。ノイズと音響の生成と構築によって律動を組み上げていくのだ。彼は思想から建築、科学まで援用・貫通しつつ聴覚の遠近法を拡張させる。私が彼の音楽に最初の衝撃を受けたのはご多分にもれず『and IV [inertia]』だったが、そのグリッチ・サウンドの中に、「音楽」以降の「音から思考」する意志を強く感じたものだ。リズムですらも解体されていくような感覚があった。いわばポスト・ポスト・テクノ/ポスト・ポスト・クラブ・ミュージック。リズムという無意識を冷静に解析する分析学者のようにすら思えたものである。
 新作『Re: Phgrp』も同様に感じた。いや、これまで以上に斬新ですらあった。本作では電子音響とジャズの融合を試みている。『Re: Phgrp』はアルバム名どおりドイツのサックス・プレイヤーにしてコンポーザーであるフィリップ・グロッパーによるフィリップ・グロッパーズ・フィルム(Philipp Gropper's Philm)『Consequences』(2019)のリワーク・アルバムなのである。しかしながら本作はいわゆるリミックス作品ではない。コラボレーションでもない。グリシャ・リヒテンベルガーのソロ・アルバムである。「リヒテンベルガーによる電子音響とジャズを交錯させるという実験報告のような作品」とでもすべきかもしれない。

 ジャズと電子音響をミックスした成功例はあまりないと思うのだが、それはジャズの音楽的構造が強固であり、ミニマルな構造と非楽音的なノイズとリズムを組み上げていく電子音響とでは食い合わせが良くないからだろう。だからこそジャズを音楽ではなく音響として「聴く」必要があった。本作の第一段階で、聴くことのジャズ聴取のパースペクティヴを変えていくモードがあったのではないかと想像する。そう、ジャズの演奏シークエンスを、大きな「音響体」として認識すること。それによってサウンドを解体すること。ジャズは豊かな和声を持った音楽だが、音響体としてジャズ音楽全体を認識したとき、細部からズームアウトするかのようにサウンドの総体は糸が解れるように解体してしまう。そして音楽が音響体へと変化する。「全体」への認識によって聴覚の遠近法が変わるのだ。ズタズタに切断されたジャズの音響体は、聴覚の遠近法の変化によってサウンドとして新たに息を吹き返すだろう。まるで新たな生命体に蘇生するかのように。

 フィリップ・グロッパーズ・フィルムの音楽性は2010年代的に高密度なインプロヴィゼーションとサウンドが交錯したポスト・フリージャズといってもいい端正かつ大胆なものだ。ジャズ・マナーに乗った上で音楽の内部からジャズを更新しようとする意志を感じた。

 グリシャ・リヒテンベルガーはいささかオーセンティックな彼らのサウンドから「律動」を抽出した。グリシャ・リヒテンベルガーが必要とするのは「ジャズの律動」エレメントだ。たしかにアルバム冒頭のトラックは、フレーズも旋律も和声も残存しているのだがアルバムが進むにつれ次第にジャズの残骸は電子ノイズの中に融解し、グリッチと律動へと変化させられていく(サウンド的にはこれまでの楽曲以上にビートの音色が強調されているのも律動への意志のためか)。
 だから本当のところ事態は反対なのだ。ジャズを解体し律動を抽出したのではない。ジャズの律動を抽出するためにジャズを解体したとすべきなのである。「律動」にジャズの本質を「聴く」こと。その律動のエレメントを抽出し音響化すること。そのときはじめてジャズが、オウテカ、カールステン・ニコライ、池田亮司、マーク・フェル以降ともえいえる先端的な電子音響/電子グリッチ・ノイズと融合可能になったとすべきではないか。本作はジャズ的律動とグリッチ的音響を交錯させる実験と実践なのである。

 その結果、『Re: Phgrp』からポストパンク的な切り裂くようなソリッドかつ重厚なリズムを感じ取ることができた。なぜか。もともとブルースを電気楽器と録音機器によって拡張に拡張を重ねたロックは、サイデリック・ムーヴメントを経て、プログレッシヴ・ロックやポストパンクへと極限的な変化を遂げたものである。ロックはブルースの解体の果てにある音楽(音響体)であり、それゆえ根無し草の音楽であった。同じように電子音響とジャズの解体/交錯が、新しい「ロック」(のようなものを)生成=蘇生させてしまった。和声も旋律も剥奪されたジャズのソリッドな律動は「ロック」のカミソリのようなリズム/ビートに共通する。私がこのアルバムにポストパンク的なものを感じた理由はここにある。

 確かに70年代以降、先端音楽としてのロックは終わった(ロック・エンド)。だが、その意志は、電子音響と尖端音楽に継承されていたのだ。『Re: Phgrp』はその証明ともいえる重要なアルバムである。

Local X9 World Hyperdub 15th - ele-king

 いろんな“周年”企画がひしめく2019年ですが、UKアンダーグラウンドの雄〈Hyperdub〉も今年で15周年を迎えます。つねに尖った試みを続けている同レーベルがなんと、これまた尖ったパーティを企画し続けている渋谷 WWW の《Local World》と手を組み、12月に来日ショウケースを開催します!
 ボスのコード9はもちろんのこと、彼とともに昨年ロンドンで加速主義がテーマのインスタレイションを展開したローレンス・レック(髙橋勇人による論考が『現代思想』6月号に掲載)、まもなく新作がリリースされるドゥーン・カンダことジェシー・カンダに、こちらもまもなく新作EPがリリースされるナザール(ベリアルとコード9のミックスにも収録されていましたね)など、計6組が一気にやってきます。これはスルー厳禁な案件です。

 なお、先日お伝えしたベリアルのコンピレイションですが、めでたく日本盤もリリースされることになりました。くわしくは下記より。

[11月27日追記]
 本日、同イヴェントのフル・ラインナップが発表されました。すでに決定していた6人に加え、日本から Quarta 330、Foodman、DJ Fulltono、Mars89 の4人が参加します。これは最高の面子です。ヤヴァい夜になりそうですね。

Hyperdub

Kode9 率いる〈Hyperdub〉の15周年パーティーが "Local X9 World Hyperdub 15th" として WWW にて12月7日(土)に開催決定!
また、孤高の天才 Burial が歩んだテン年代を網羅したコレクション・アルバムが国内流通仕様盤CDとして12月6日(金)に発売決定!

00年代初期よりサウス・ロンドン発祥のダブステップ/グライムに始まり、サウンドシステム・カルチャーに根付くUKベース・ミュージックの核“ダブ”を拡張し、オルタナティブなストリート・ミュージックを提案し続けて来た Kode9 主宰のロンドンのレーベル〈Hyperdub〉。本年15周年を迎える〈Hyperdub〉は、これまでに Burial、Laurel Halo、DJ Rashad らのヒット作を含む数々の作品をリリースし、今日のエレクトロニック・ミュージック・シーンの指標であり、同時に先鋭として飽くなき探求を続けるカッティング・エッジなレーベルとして健在している。今回のショーケースでもこれまでと同様に新世代のアーティストがラインナップされ、東京にて共振する WWW のレジデント・シリーズ〈Local World〉と共に2020年代へ向け多様な知性と肉体を宿した新たなるハイパー(越境)の領域へと踏み入れる。

Local X9 World Hyperdub 15th

2019/12/07 sat at WWW / WWWβ
OPEN / START 23:30
Early Bird ¥2,000@RA
ADV ¥2,800@RA / DOOR ¥3,500 / U23 ¥2,500

Kode9 x Lawrence Lek
Doon Kanda
Nazar
Shannen SP
Silvia Kastel

Quarta 330 [11/27追記]
Foodman [11/27追記]
DJ Fulltono [11/27追記]
Mars89 [11/27追記]

今回のショーケースでは、Kode9 がDJに加えシミュレーション・アーティスト Lawrence Lek とのコラボレーションとなる日本初のA/Vライブ・セットを披露。そして最新アルバム『Labyrinth』が11月下旬にリリースを控える Doon Kanda、デビュー・アルバムが来年初頭にリリース予定のアンゴラのアーティスト Nazar、そしてNTSラジオにて番組をホストする〈Hyperdub〉のレジデント Shannen SP とその友人でもあるイタリア人アーティスト Silvia Kastel の計6人が出演する。

BURIAL 『TUNES 2011-2019』

Burial の久しぶりのCDリリースとなる『TUNES 2011-2019』が帯・解説付きの国内流通仕様盤CDとしてイベント前日の12月6日にリリース決定!

2006年のデビュー・アルバム『Burial』、翌年のセカンド・アルバム『Untrue』というふたつの金字塔を打ち立て、未だにその正体や素性が不明ながらも、その圧倒的なまでにオリジナルなサウンドでUKガラージ、ダブステップ、ひいてはクラブ・ミュージックの範疇を超えてゼロ年代を代表するアーティストのひとりとして大きなインパクトを残したBurial。

沈黙を続けた天才は新たなディケイドに突入すると2011年にEP作品『Street Halo』で復活を果たし、サード・アルバム発表への期待が高まるもその後はEPやシングルのリリースを突発的に続け、『Untrue』以降の新たな表現を模索し続けた。本作はテン年代にブリアルが〈Hyperdub〉に残した足取りを網羅したコレクション・アルバムで、自ら築き上げたポスト・ダブステップの解体、トラックの尺や展開からの解放を求め、リスナーとともに未体験ゾーンへと歩を進めた初CD化音源6曲を含む全17曲150分を2枚組CDに収録。

性急な4/4ビートでディープなハウス・モードを提示した“Street Halo”や“Loner”から、自らの世界観をセルフ・コラージュした11分にも及ぶ“Kindred”、よりビートに縛られないエモーショナルなス トーリーを展開する“Rival Dealer”、史上屈指の陽光アンビエンスが降り注ぐ“Truant”、テン年代のブリアルを代表する人気曲“Come Down To Us”、そして最新シングル“State Forest”に代表される近年の埋葬系アンビエント・トラックまで孤高の天才による神出鬼没のピース達は意図ある曲順に並べ替えられ、ひとつの大きな抒情詩としてここに完結する。

label: BEAT RECORDS / HYPERDUB
artist: Burial
title: Tunes 2011-2019
release date: 2019.12.6 FRI

Tracklisting

Disc 1
01. State Forest
02. Beachfires
03. Subtemple
04. Young Death
05. Nightmarket
06. Hiders
07. Come Down To Us
08. Claustro
09. Rival Dealer

Disc 2
01. Kindred
02. Loner
03. Ashtray Wasp
04. Rough Sleeper
05. Truant
06. Street Halo
07. Stolen Dog
08. NYC

Nightmares On Wax - ele-king

 先日のプラッドに続き、またも吉報である。30周年を迎える〈Warp〉の連中、どうやら最後までわれわれをつかんで離さないつもりのようだ。レーベル最古参のダウンテンポ・マスター、ナイトメアズ・オン・ワックスが来日する。今年は最新作『Shape The Future』収録曲のリカルド・ヴィラロボスによるリミックス盤が話題になった彼だけれど、此度のDJセットがどのようなものになるのか、いまから楽しみだ。12月7日は VENT に集合!

ダウンテンポの巨匠、 Nightmares On Wax が、Ricardo Villalobos や Moodymann が手がけた大好評リミックス・シリーズで世間を賑わせている中、待望の来日!!

エレクトロニック・ミュージックのトップ・レーベルとして世界に君臨する名門レーベル〈Warp〉の最初期から参加し、今にかけても常にフレッシュな音楽を作り続けるアーティスト、Nightmares On Wax (ナイトメアーズ・オン・ワックス)が12月7日の VENT に登場!

太陽が降り注ぐようなダビーなソウルを味わった感覚、漠然と思い出す古き良き記憶の中の香り、のどかに年代物のソファに深々と座っている昔のスナップショットなど、Nightmares On Wax の音楽は不思議とこれらのことを思い起こさせる。Nightmares On Wax こと George Eveyln はオーディエンスの記憶に作用する特別な瞬間を音楽を通して作ってきた。

特出したプロデューサーとして、UKレイブのクラシックからチル・アウト/ダウンビートの原型とも言える音楽を90年代から今にかけて〈Warp〉から発表してきた。日本のリスナーにとっても Nightmares On Wax の音楽にはきっと良い思い出があるに違いない。時代と場所を超える魔法のような音楽をいつでも聞かせてくれているのだ。

DJとしてもその才能は素晴らしく、幅の広いジャンルの音楽から選びぬかれた珠玉のサウンドをシームレスに聞かせてくれるスキルは、一長一短で身につくものではない。過去の伝統を取り入れて何か新しいものへとアウトプットしていくのだ。きっとミラクルな瞬間を体験できる Nightmares On Wax による音楽の冒険旅行を VENT のフロアで体験してほしい!

Nightmares On Wax Boiler Room London DJ Set:https://youtu.be/Q692lHFaLVM

[イベント概要]
- Nightmares On Wax -
DATE : 12/7 (SAT)
OPEN : 23:00
DOOR : ¥3,600 / FB discount : ¥3,100
ADVANCED TICKET : ¥2,750
https://jp.residentadvisor.net/events/1344055

=ROOM1=
Nightmares On Wax - DJ Set -

And more

VENT:https://vent-tokyo.net/schedule/nightmares-on-wax/
Facebookイベントページ:https://www.facebook.com/events/427604411511506/

※ VENTでは、20歳未満の方や、写真付身分証明書をお持ちでない方のご入場はお断りさせて頂いております。ご来場の際は、必ず写真付身分証明書をお持ち下さいます様、宜しくお願い致します。尚、サンダル類でのご入場はお断りさせていただきます。予めご了承下さい。
※ Must be 20 or over with Photo ID to enter. Also, sandals are not accepted in any case. Thank you for your cooperation.

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