「Nothing」と一致するもの

The KLF──ストリーミング開始 - ele-king

 1992年の活動休止宣言以来、すべての音源を廃盤としていたザ・KLF(ザ・JAMs、ザ・タイムローズ、ジャスティファイド・エンシェンツ・オブ・ムー・ムー)が、ついにストリーミング・サーヴィスを開始すると、これが2021年元旦のニュースとして世界に流れたことは、すでにご存じの方も多いことと思います。遅ればせながら、ele-kingでも取り上げておきます。

 ちなみにこのニュースは、最初はロンドンの鉄道橋下に貼られたポスターや落書きによってアナウンスされたようです。まあ、俺たちは俺たちのやり方をいまでもやっているんだぜってことでしょう。大晦日にはジミー・コーティのガールフレンドがその落書き現場の写真をインスタにアップしたことも話題になっているし。……しかし、いい歳なのにすごいなぁ。。。

 ストリーミングのシリーズ名は、「 Solid State Logik」。まずは「1」なので、この後、いろいろ続くのでしょうな。
 なお、懐かしのヴィデオはこちらまで(https://www.youtube.com/channel/UCbsEHtpoQxyWVibIPerXhug)。


Time Cow - ele-king

 ダンスホールに新時代を切り開いたイキノックスからタイム・カウことジョーダン・チャンによるソロ1作目。これがまたダンスホールをさらに未来へと、それもかなり遠く未来へ突き進めるものになっている。アルバム・タイトルの「Live Prog」はリアルタイムでプログラミングを行なったという方法論と「生成発展し続けている」という意味を掛け合わせたものなのだろう。「From Home」はもちろんジャマイカのこと。この変化はイギリスではなく、ジャマイカで起きたことだとタイム・カウは告げ知らせている。レゲエ文化はそのすべてをイギリスに奪われてしまったわけではないと彼は言いたいのだろう。ラヴァーズ・ロックもドラムン・ベースもイギリスで生まれた。しかし、ダンスホールはあくまでもジャマイカで「生成発展」しているレゲエの本流なのだと。

 このアルバムには前日譚がある。イキノックスの2人がバーミンガムのMC、RTカル(RTKal)にジャマイカの首都キングストンで人気のエアーBnBに招かれた時のこと。カルが街の騒音をシャット・アウトしようとしていたのを見て、改装中で使えなかったスタジオの代わりにバーに機材を設置させてもらおうと2人は考えた。3人は2018年にフォックスらを加えて総勢6人で“Jump To The Bar”というオールド・スタイルのダンスホールをリリースしていたこともあり(これはブルージーなフォックスのデビュー・アルバム『Juice Flow』として結実)、夜になるとバーでダンスホールの話で盛り上がり、とりわけ2000年代初めに活躍したエレファント・マンの話になると勢いは増した。3人はエレファント・マンがパロディ文化を広めたことに最も意義があるという点で考えが一致し、言ってみれば彼はグレース・ジョーンズとリー・ペリーがバスタ・ライムスと出会ったジギー(イケてる)なミクスチャーだと。その時に勢いで録音したのが、以下の“Elephant Man”。

 最初はたしかにバーで行われたディスカッションの延長上にある曲に思える。しかし、早々にエレファント・マンがどうしたというMCが途切れ、簡素なビートとひらひらとしたメロディだけになってからは僕はむしろホーリーな気分に満たされ、どちらかというとプランク&メビウス『Rastakraut Pasta』を思い出していた。彼ら自身が「ゴースト」と表現するシンセサイザーの雰囲気も桃源郷を思わせる恍惚としたそれであり、クラウトロックに特有の鉱物的なムードが強い。正直なところ、エレファント・マン云々というエピソードはこの曲のリスナーを限定してしまう気がしてもったいないと思うほどである。『Time Cow’s Live Prog Dancehall From Home』も明らかに“Elephant Man”のそうした側面を拡大してできたアルバムで、もしかすると、勢いでできてしまった“Elephant Man”をもう一度再現しようとしてつくり始めた側面があるのかもしれない。いずれにしろ同作はアルバム・タイトルに「Dancehall」と入っていなければミニマル・ミュージックとして認識するリスナーの方が多いかもしれず、ダンスホールとの連続性は作家性の内面に大きく依存するものではある。ダンスホールとは思えないほど抽象化したビートに「ひらひらとしたメロディ」は同じフレーズの繰り返しに置き換えられ、全体的にはアカデミックな印象もなくはない。聴けば聴くほどタイム・カウというプロデューサーのバックボーンが謎めいていく。

 『Time Cow’s Live Prog Dancehall From Home』に収められているのは“Part1”と”Part2”の2パターン。淀みなく伸び伸びとした“Part1”に対して”Part2”は少しダークな変奏が加えられ、イキノックスの作品では大きな比重を占めるダブ・テクノとの境界も取り払われていく。“Elephant Man”が醸し出していたホーリーなムードが抑制されているのはちょっと残念だけれど、ダンスホールの可能性をここまで押し広げたものに文句を言うのはさすがにおこがましい。名義もタイム・カウだし、丑年というだけですべてを受け入れてしまおう。

- ele-king

 あけましておめでとうございます。今月からコラムを書かせていただくことになりました、小山田米呂です。普段は学生の身分を利用して得た時間で音楽を作ったり、たまに頼まれたら文章を書いたりしています。
 ここ3年くらい海外の学校に行ってたのですが、なぜかはわからないのですが、オンライン授業に移行したこともあり、久しぶりに東京で生活しております。僕は自己紹介が苦手なので僕のことは追々、少しずつ書いてみたいと思います。
 僕が最近聴いた音楽、買ったレコードのなかからにとくによかったもの、皆さんとシェアしたいものを紹介します(予定)。
 せっかくの機会なので、ele-king読者の聴かなそうなものもを紹介していければと思います。

1. Shitkid - 20/20 Shitkid

 スウェーデンはストックホルム、PNKSLM Recordingsから、ガレージ・ポップ?バンド、Shitkidのアルバムです。Shitkidは Åsa Söderqvistという女性のプロジェクト。僕が彼女を知ったのは2019年の『DENENTION』というアルバムからですが、2016年から活動していて’17年にファースト・アルバムを出していてコンスタントにリリースしています。'17年リリースのデビュー・アルバム『Fish』は割れたボーカル、歪んだギターとディケイのかかった乾いたドラムとシンプルでDIYなサウンド。

ShitKid - "Sugar Town" (Official Video)

みんな大好き長い黒髪と赤リップ
ShitKid - "RoMaNcE" (OFFICIAL VIDEO)

 ミュージック・ヴィデオの手作り感がフロントマンの Åsaをものすごく映えさせている。お金かけてヴィジュアル作ったり外注しても、ここまで彼女を強く、セクシーに写せない、それを自覚しているであろう眼力。ミュージック・ヴィデオはRoMaNcEにも出演したりライヴではベースやシンセを担当したり、かつてはÅsaのルームメイトでもあった相方的存在、Linda Hedströmが作っているそう。 何より星条旗のビキニとライフルがよく似合ってる!!
 過去のインタヴューで彼女はエレクトロニック・ミュージックに対してあまり興味がないようなことを言っていたが、今作は割とエレクトロニカ・テイストを凝らしていて、格段に音質が良くなり、いままでの荒削りな雰囲気より安定感のある印象の曲が多く、Shitkid第二章とでもいうような洗練を感じる。でもローテンションで割れたヴォーカルは相変わらず。自分のいいとこわかってる。
 こういう音楽が好きだと、時を経るごと上手になってきたり、露出が増えて注目されはじめると“普通”になっていっちゃって曲は良いんだけどなんだか寂しいな〜……なんて思いを何度もしているのですが、今作『20/20 Shitkid』はまだまだ僕のなかに巣食うShitkid(クソガキ)を唸らせる。
 パンクでもロックでも、才能でたまたま生まれちゃう名盤よりも、自分の才能に自覚的だったり、もしくは自分に才能がないのがわかっていながらもストラテジックに、少し無理して作られた物のほうが僕はグッとくるのかも。


 2020年、僕もほとんどの人と同じくいつもと変わった1年を過ごしたわけですが、多くの人と違ったのは僕が今年20歳になったということ。いままで何度行きたいイヴェントの会場の前でセキュリティにごねたことか。このご時世、未成年は深夜イヴェントやクラブに出ているアーティストの一番のファンであったとしてもヴェニューは入れられないのです。
 そしてようやっと20歳になったと思ったら誰も来ないし何もやってないじゃないか! 話が違う!
 とはいえ悪いのはヴェニューでもなく、インターネットの余計なお世話でも相互監視社会でもなくコロナウイルスなのです。多くの人から奪われた掛け替えのない時間の代わりに僕らに与えられたのは美しい孤独。

2. Skullcrusher - Skullcrusher

 アメリカインディレーベル〈Secretly Canadian〉からHelen Ballentineのソロプロジェクト、Skullcrusherのデビュー・シングル。アメリカの田舎の湖畔の情景が浮かびます。ニューヨーク北部出身でロサンゼルス在住でこの曲は長い失業中の孤独の中で書いたそう。だいぶノスタルジーとホームシックにやられてるな。しかし僕らも今年家にいる孤独のなかで少年少女時代の豊かな記憶に思いを馳せ現状を憂いたのは一度や二度ではないはず。ただ目まぐるしく世界が動く慌ただしいこの世のなかに飽き飽きしていた人にとってコロナが与えた孤独はなんと優雅で慈悲深く美しい時間であったことでしょうか。このEPはおそらく去年作られたのでしょうが、きっと彼女はその孤独のなかでこの儚いEPを作り上げたのでしょう。目新しく独創的なでは無いけど、繊細で柔らかな声と胸の痛くなるような問いかけをする歌詞は涙ものです。

Skullcrusher - Places/Plans

3. caroline - Dark blue

〈Rough Trade Records〉からロンドンの8人組バンドcaroline。全くやる気の感じられない名前。ほぼインストのバンドで曲もだらだらと長いのですが8人もいるから手数豊富で飽きない。いまの段階ではギター、パーカッション、ヴァイオリンにベースとドラムという編成ですが、元々3人で出入りを繰り返して8人で落ち着いたらしい。派手ではないけどセンス抜群で気持ちの良いタイミングで聞きたい音が入ってくる。さすが天下の〈RoughTrade〉、Black MidiやSOAKなど話題性のあるアーティストも輩出しつつこういうバンドももれなく拾う懐の深さ。

caroline | Pool #1 - Dark blue

4. Daniel Lopatin - Uncut Gems-Original Motion Picture Soundtrack

〈Warp Records〉から言わずと知れた巨人、OPNことダニエル・ロパティン。OPNのニュー・アルバムはすでにele-kingでもその他多くのメディアでも取り上げられていますがこちらも聴いて欲しい……。映画『Good Time』でもダニエルとタッグを組んでいたJoshua and Benjamin Safdie兄弟監督の映画『Uncut Gems』(邦題:アンカット・ダイヤモンド)のサントラです。アダム・サンドラー演じる主人公、宝石商のハワードはギャンブルにより多額の借金を背負っており、ある日手に入れた超デカイオパールを使って一攫千金を狙い、家族に愛人、借金取り果てにはNBA選手も巻き込みどんどんドツボに嵌っていくという映画だが、アダム・サンドラーがいつもの調子のマシンガントークで借金取りをケムに巻こうと幕しているので状況は切迫し、悪化する一方なのにどこか笑っちゃう。だが音楽はどんどんテンポが上がり不安を掻き立て、ハワードの借金は増えて後がなくなっていく。
 なんだか映画のレヴューみたいになっちゃったけど、サフディー兄弟の写す宝石とダニエルのシンセは双方壮大でギラッギラで最高なので映画もサントラもぜひ。

『アンカット・ダイヤモンド』予告編 - Netflix

Behind the Soundtrack: 'Uncut Gems' with Daniel Lopatin (DOCUMENTARY)

5. 坂本慎太郎 - 好きっていう気持ち/おぼろげナイトクラブ

〈zelone recordsから坂本慎太郎のシングル。僕は日本のアーティストってあまり聴かないのですが、その理由のひとつは歌詞が直接入ってきすぎて嫌なんです。僕は音楽は歌詞よりも音色が心地よかったりよくなかったり、リズムが気持ち良かったり悪かったりが優先されるべきで、音自体がより本質的だと思っているのですが、坂本慎太郎の歌詞は言葉や詩というよりも楽器的で言葉遊びの延長に感じてファニーだしとにかく気持がいい。

The Feeling Of Love / Shintaro Sakamoto (Official Audio)


 ele-king読者の知らなそうなと冒頭に書いておきながら割とみんなすでに聴いていそうな曲ばっか紹介しております。レヴューという形をとっているので仕方ないですが僕がとやかく言っているのを読む前に一度聴いて欲しい……聴いてから読んで欲しい……
 年末に書き出したのにダラダラしてたら年が明けちゃった。今年から、今年も、よろしくお願いします。
 音楽も作っているのでで自己紹介代わりに僕の曲も是非聴いてください。

filifjonkan by milo - Listen to music

Shades Of Blue by milo - Listen to music

 「いや、あのさ、書くことがないんだよね」、昨晩、つまり12月30日の夜である、ぼくは小林に弱音を吐いた。「だってさ、コロナや日本のボンクラ総理のことを書いたって気が滅入るだけだし、かといって、自分から取材をしたいと言いながら(テープ起こしを編集でやったにも関わらず)原稿を落とした某ライターのことをここで愚痴っても自分の気持ちが荒むだけだし、なんかこう、年末だしさ、ちっとは希望が見えるようなことを書きたいんだけど、そのひとつは、アレかな、アンダーグラウンドで思い切りディープな音楽を作っている人たちは、いま、配信によって毎月そこそこ稼げるようになっているってことかな。これは90年代にはなかったことだよ。国内でCDを売ってもせいぜい三桁しかいかなかったような作品が、いまではその音楽に独創性と魅力があれば、フィジカルに頼らなくても、ある程度は金になる。ことエレクトロニック・ミュージックを作っている人たちには夢がある時代だよな」
 それからぼくは小林に、90年代の日本のテクノ(とくにダンス系)の音楽的な拙さがどれほど重要だったかを説明した。何故かと言えば、ちょうど紙エレ年末号でその手の特集があり、ぼくは92〜93年ぐらいのUKのテクノと同時に日本の90年代も聴いていたのだけれど、いや、「俺たち何もわかっちゃいなかったんだな」ということをあらためて認識していたというか、そしてその「何もわかっちゃいなかった」がゆえのパワーというものもあらためて確認したばかりでもあったのだ。技巧的によくできただけの音楽になんてどれほどの価値があろうか。少なくとも10代のガキどもを踊らせるほどの、有無を言わせぬ求心力というものは、ただ上手い/洗煉されている/独創性に富むだけの音楽では不充分だった。再評価や再発見というアプローチはもちろん重要だし、敬意を払うべく過去があることも知っている。当時はさほど騒がれなかったが、自分の意志を貫いたがゆえあとから評価されることは僥倖などではない、しかるべきときが来たということにほかならないだろう。だが、と同時に、歳月のなかで色褪せようとも、その瞬間において強烈なパワーを放っていた音楽のことも忘れてはならいということだ。それは若さの特権である。
 だがな、小林、スリーフォード・モッズは若くない、40過ぎのオヤジがやっているからこそ意味があるんだぞ。ジェイソンが若くて昔のポール・ウェラーみたいな二枚目だったりしたら、スリーフォード・モッズの意味は変わってくる。わかるか、スリーフォード・モッズは緊縮財政にも資本主義にも人種差別にも階級社会にもエリートにも怒っているが、アンチエイジングやルッキズムにもむかついているんだよ。
 小林に唯一無二の点があるとしたら、スリーフォード・モッズがいかに素晴らしいのかを日本でもっとも聞かされているということが挙げられるだろう。あのな小林、スリーフォード・モッズが『オーステリティ・ドッグス』を出したとき、UKのあるメディアは「政治家たちの虐殺ショー」とまで評したんだぞ。俺に言わせればな、いまスリーフォード・モッズを聴かないのは、90年前後にザ・KLFを聴かなかったに等しいんだ。UKの知性派/論客たちがどれほどシリアスに彼らを論じてきたか、ぜんぶ訳して紹介したいくらいだ。あれは、いわば進化したタイマーズのようなものだ。こうした言葉を小林は、この半年だけでも最低10回は聞いているはずである。不憫な男よのぉ。

 「今年大変な世の中になり、皆さんの生活のなかでサッカーが本当に必要なのか、エスパルスは本当に必要なのかという状況になったと思います」、これは清水エスパルスの最終戦における、チームキャプテンである竹内涼選手の試合後の挨拶の冒頭の言葉である。同じことが音楽にも言えるだろう。経済的な窮地にある企業の後ろ盾のない個人経営のライヴハウスやクラブ、リハーサル・スタジオの現場スタッフの心中は、察するにあまりある。だが、巨視的に見れば、このパンデミックは「生活のなかで音楽が本当に必要なのか」という問いも突きつけている。とくに新しい音楽はそうだ。それはいまこの瞬間において強烈なパワーを放っていなければならない。Saultやスピーカー・ミュージックがそうだったように、オウテカの新譜がそうだったように。もちろん同様の問いは我ら音楽メディアにも向けられている。「生活のなかで音楽メディアが本当に必要なのか」

 がんばらないとな、続けられているうちは。これは小林ではなく、自分に言い聞かせている。2021年もよろしくお願い申し上げます。

野田努

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 冷徹なループが頭のなかをかけめぐっている。スリーフォード・モッズがいかにすばらしいか、この半年だけでも最低10回は聞かされている。犯人たる工場長同様、コロナをめぐるあれこれについては書かない。うんざりするだけだろうし、みなさんもいまさらそんなこと読みたくないでしょう。

 2020年は、かつてないくらいの勢いで音楽のレジェンドたちが旅立っていった。この追悼ページをざっと眺めるだけでも、ペースがものすごいことになっているのがわかる。個人的にいちばんショックだったのはアンディ・ウェザオールだが、彼については年末号で追悼特集を組んでいるので、ぜひご一読いただければ幸いです。
 そしてもうひとり、音楽家ではなく人類学者だけれど、デヴィッド・グレーバーとの別れ。ぼくの力量不足のせいで彼の追悼文を掲載できなかったことは、2020年最大の心残りだ。精進するしかない。
 ところで彼はよく「ケア」ということばを用いていた。それは「想像」のことだと、ぼくは解釈している。他人へのケアがないこと、想像が及ばないこと、それはこの未曾有の一年を振り返るとき、ひとつ貫徹するものとして抽出できる要素ではないだろうか。
 日本政府だけではない。音楽だってそうだ。たとえば海外の動向、SNS主導(?)の日本とは異なる観点からの批評、それらを見向きもしないこと、それもケア=想像の欠如だと思う。冷徹なループが頭のなかをかけめぐっている。スリーフォード・モッズがなぜすばらしいのか、しっかり日本で語っているひとがどれほどいるというのか? メディアとして ele-king は、ちゃんとそういう「内輪」の外からの視点も提供できるようにしていきたい。

 2020年、ele-king books は27冊の本を刊行した。昨年とおなじ話になってしまうが、どの本も時流を見すえつつ、独自の視点やアティテュードを呈示できるようつくっているつもりだ。来る2021年もいろんな企画が控えている。なので、楽しみに待っていてください。

 それでは、良いお年を。

小林拓音

音楽が聴けなくなる日 - ele-king

 ぎょっとするタイトルだ。音楽が聴けなくなる日。それはストリーミングなる形態がはらんでいる大きな問題のひとつで、グローバル企業なりレコード会社なりがひとたび「これは消す」と判断してしまえば、あるいはその運営主体が消滅してしまえば、ぼくたちは音楽を聴くことができなくなる。2019年3月13日のあの日、フィジカル盤を持っておくことの重要性に気づいたひとは少なくなかったのではないだろうか。
 社会学者の宮台真司、永田夏希、音楽研究家のかがりはるきによる共著『音楽が聴けなくなる日』は、ピエール瀧の逮捕後に起こったソニーによる電気グルーヴ作品の出荷停止や在庫回収、配信停止に触発されて書かれた本で、その背景や経緯を知るのみならず、「自粛」の奇妙さ・不気味さに気づくためのヒントに満ちあふれている。

 いちばん読みやすいのはかがりによる第二章「歴史と証言から振り返る「自粛」」だ。アーティストがパクられたときにその作品などを「自粛」する慣習がいつからはじまったのか、時系列で確認できるようになっている。興味深いのは、起点のひとつが89年の BUCK-TICK に設定され、もうひとつの起点が99年のマッキーに置かれているところ。ご存じのように、89年は昭和天皇が「崩御」した年であり、99年は平成天皇の即位10周年を祝う式典が催された年だ。電グル騒動が発生した2019年もまさに代替わりの年にあたるわけで、「自粛」運動が天皇制とリンクしている可能性をあぶりだしたことは、本書の慧眼のひとつと言える。
 その電グル騒動を具体的に追ったのが永田による第一章「音楽が聴けなくなった日」だ。「自粛」運動がとくにポリシーにもとづいて為されたものではないこと、たんに機械的に前例を踏襲しただけのものであること、すなわち思考停止の結果であること、たちの悪い「ことなかれ主義」であることが、社会学の知見を用いつつ丁寧に解き明かされていく。暴力的にまとめてしまえば、ようするにみんな他者の目線を気にしすぎでしょうよ、という話だ。そしてそれこそがいまの日本社会ないしは「(液状化した)近代」(バウマン)の性格でもあるだろう、と。
 この章でひとつだけ気になったのが、何度かエクスキューズ的に挿入される「法令を守るのは当たり前のこと」という記述だ。そう書いてしまうと、法令で決まっていることはなんでもかんでも正しいとみなす、現代日本社会のそれこそ「ことなかれ主義」を追認してしまうことになりかねないのではないかしら、とちょっと心配になったのだけれど、その伏線は第三章でしっかり回収されることになる。

 先日 Zoomgals のMVへの出演で話題をさらった宮台真司、彼による第三章「アートこそが社会の基本だ」こそ本書の核を為している。法なんてものは統治の必要から制定されているにすぎず、したがって「仕方なく」しぶしぶ従うものであり、間違っても道徳などではない。それに、人間や人間が生み出す芸術や表現はもっと大きなもので、法なんかにはとうていおさまりきらない──ゆえに、悪影響があるとか犯罪者だからといった理由で作品を封印する措置に、合理性は1ミリもない、という話。
 と、これまた強引にまとめてしまったが、やはり宮台節──論理展開とそのスピード感──それじたいも、この章の醍醐味だろう。たとえば、作者と作品の関係性について。「作者と作品は別物」というのはよく言われることだけれど、その根拠を彼は、人間が必ずしも主体ではない点にもとめている。表現とは「降りかかってくる」ものであって主体がつくったものではない、ゆえにその主体に貼られたラベルは作品と関係がない──というロジックで、まさしくこれはシュルレアリスムの「オートマティスム」からロラン・バルトの「プンクトゥム」まで、数々の文学的思考によって実践されてきたことだ。
 浩瀚な知識と卓越した整理──なんて書くと凡庸なコピーみたくなっちゃうけど、じっさい電グルを出発点に、1万年以上まえの人間の営みまで参照されるからおそろしい。『負債論』にせよ『サピエンス全史』にせよ、ここ10年ほど巨視的な観点から現在の状況をとらえ返す書物が目立つが、宮台もまたその流れに乗っているとも言える。ミクロに考えることに慣れすぎてしまうと見えてこないものは、たしかにある。

 正直、彼の天皇主義者的な部分や安倍支持・トランプ支持にはまったく賛同できない。でも、彼が「このクソみたいな社会を変えたい」と本気で思っていることは間違いない。端的に、情熱がある。彼のことをなんとなくのイメージで毛嫌いしているひとはかなり多いと思われるが、しかし宮台はシニカルでもなければニヒルでもない。ストレートに、かなりアツい人間なのだ。地に足がついているというか、研究室で仮説を組み上げるのではなく(いやそれもやってるんだろうけど)、「そんなことまで?」と驚くほど多くの地道な作業を積み重ね、クソに抗おうと奮闘している(電グル騒動にいちはやく反応したのもそうだし、Zoomgals のMVへの出演だってその一例かもしれない)。そしてなにより彼は、その思考を一般に向けて開こうとしている。頭がいいだけの連中ならいくらでもいる。だが閉じないひとはそう多くない。そういう意味で彼は、かつて主流ではなかったテクノを一般の人びとへと開いた電気グルーヴと、共振しているとも言えるだろう。
 音楽が聴けなくなる日──彼のような存在がいるかぎり、あるいはあなたがそのような知的営みに手を伸ばすかぎり、けっしてそんな日は訪れないのかもしれない。

Theo Parrish - ele-king

 セオ・パリッシュが6年ぶりにアルバムをリリースした。6年という月日は随分と待たせたなと思うかもしれないが、個人的にはあまりそう待った感覚はしなかった。前作『American Intelligence』もなかなかの衝撃的な内容だったし、何より曲数も多かったのもあって……消化するのにかなり時間がかかった記憶がある。
 14年以降は自身が追求していたライヴ・バンド「The Unit」のプロジェクトも一段落したが、拠点であるデトロイトのアーティストをフィーチャーした「Gentrified Love」シリーズで彼のミュージシャンやプロデューサーとのいわゆる「コラボレーション熱」がより一層加速しているように思えたし、レーベルも個人のリリースよりも後輩や仲間のリリースが目立った印象だ。ジオロジー「Moon Circuitry」やバイロン・ジ・アクエリアス「High Life EP」は彼らのキャリア出世作になったし、UKのベテラン、ディーゴ&カイディ、そしてシカゴの同胞スペクターのアルバムも手がける姿を見ると、自身が先陣を切ってシーンの成長を後押ししているような動きも感じられるくらいだった。

 さて、満を辞してリリースされたアルバム『Wuddaji』。とにかく目を引くのはこの不思議なアートワークだろう。何か等高線のようなものが切り貼りされたアートワークはセオ・パリッシュ自身がコラージュしたもの。LPの中に1枚のインサートが入っておりアートワークについても脚注があるのだが、どうやら「Idlewild(アイドルワイルド)」という地図を用いているのだ。
 脚注の中でこの場所はデトロイトから北西部に300キロほど、シカゴからは北東に450キロほど離れたミシガン湖に近い避暑地のような場所で、1912年以降「アフリカ系アメリカ人(African Americans)」の憩いの場として親しまれ、自然観察やスポーツ・レジャーだけでなく、アレサ・フランクリンやフォー・トップスらがライヴを行なったとも記されている。1964年にアメリカで起きた「公民権運動」の影響で一時利用が禁止される時期があったなどしたが、先祖代々この場所での思い出や記憶を語り継ぐ事で第五、第六世代になった家族たちが現在もこの地でヴァケーションを楽しんでいると綴られている。
 おそらくインサートに記されたアイドルワイルドはまさしくハウス・ミュージックのメタファー(比喩表現)だと推測できる。多くの「アフリカ系アメリカ人」にとって精神的、肉体的な癒しの存在であったり、そこで行なわれてきた様々なクリエイション、そして世代を超えても忘れ去られることなく脈々と紡がれる文脈も非常にシンパシーを感じるところがある。「歴史」とは? 「伝承」とは? 過去から現在まで続くストーリーをセオ・パリッシュ自身はこのアルバムを通してとても丁寧に伝えている。

 アルバム全9曲(E1. “Who Knew Kung Fu” はアナログのみ)を通して基本的に全曲「四つ打ち」をベースとした5分から10分のストイックで全く隙のないロング・トラックがびっしりと並んでいる。アートワークのコンセプトに引っ張られてか少し開放的でオーガニックな雰囲気を随所に感じつつも、相変わらずのセオ・パリッシュ節が随所で炸裂している。
 エレクトリック・ピアノの美しい旋律と共に淡々とトラックが進むA1. “Hambone Cappuccino”にはじまり、アルバムに先駆けて先行でリリースされたB. “This Is For You” ではアルバム唯一のヴォーカル・トラックとしてデトロイトのソウル・シンガー、モーリサ・ローズが力強くもどこか妖艶に歌い上げている。

 タイトル・トラックにもなっているC1. “Wuddaji” では激しいリズム・セッションを披露したかと思えば、続くC2. “Hennyweed Buckdance” ではジャジーなギターリフのようなサウンドがアルバムの音楽性をグッと高めているなど、どの曲も非常にミニマルで渋さもありつつも、サンプリング主体のトラックメイクから本格的なバンド制作や数多くのプロデューサーとのコラボレーションを経て進化~深化したセオ・パリッシュがプロデューサーとして新たなステージに到達した証拠だろう。

 アナログから、CD、カセットテープ、ストリーミングまで全てのフォーマットで積極的にリスナーに届ける気概も含め、アルバム全体のコンセプトやパッケージングまでディテールに拘っている部分はさすがの完成度。ハウスの偉大な先生が2020年に見せてくれた「プライド」に背筋がピンと伸びる。

Common - ele-king

 4年前、2016年のアメリカ大統領選挙直前に通算11枚目となるアルバム『Black America Again』を発表した Common だが、今回の選挙でも投票の4日前に本作『A Beautiful Revolution (Pt 1)』をリリースした。本作はアルバムではなくEP、あるいはミニ・アルバムという位置付けのようであるが、『Black America Again』および昨年(2019年)リリースのアルバム『Let Love』と同じく Karriem Riggins がメイン・プロデューサーを務めており、さらに Common、Karriem Riggins とのスーパーユニット=August Greene の一員でもある Robert Glasper も参加するなど、ここ数年の Common 作品と同じ流れにある。ヒップホップとジャズを軸にしながら、優れたミュージシャンたちと共に高い音楽性を実現すると同時に、人種差別など様々な社会的な問題に対して自らの姿勢を表明し、そして聞く人々を励まし、気持ちを鼓舞する。

 アルバムの核となっているのが先行シングルでもある “Say Peace” だ。エッジの効いたアフロビートのトラックに乗った Common と Black Thought によるマイクリレーが凄まじい格好良さで、平和を勝ち取るための彼らの「美しき革命」がポエティックな表現によって綴られている。Common 自ら「黒いダライ・ラマ」をラップしているように、彼らの戦い方はあくまでも平和的な姿勢が貫かれていて、それは女性シンガー、PJ(Paris Jones)のコーラスにある「Say peace, we don't really want no trouble」という一節にも表れている。その一方で Capleton、Super Cat、Shabba Ranks といったレゲエ・アーティストの声がスクラッチで挿入されるパートは実に戦闘的でもあり、アフロビートの本質が強く引き出された一曲となっている。

 Black Thought 以外にも、デトロイトの詩人 Jessica Care Moore など、多数のゲスト・アーティストが参加している。たとえば Lenny Kravitz が参加した “A Riot In My Mind” は、ロックの要素が強いこの曲のテイストに Lenny Kravitz のコーラスが見事にマッチしている。さらにインパクトが強いのが、Stevie Wonder が参加した “Courageous” だろう。タイトルが示す通り、「勇気とは何か?」ということを問うこの曲であるが、最初のヴァースで「It's like a lyric by Stevie Wonder」という一節を挟んだ上で、曲の最後の最後で Stevie Wonder の吹くハーモニカが登場するという構成が実に見事で、ハーモニカを手にした Stevie Wonder の姿が見えてくるような生々しく美しいメロディに心打たれる。

 『A Beautiful Revolution (Pt 1)』というタイトルから察するに、本作はシリーズとして今後も続いていく可能性が高いが、この「美しき革命」という言葉は今現在の Common が行なっている表現活動そのものとも非常にマッチするし、本作の示す方向性を見事に表している。Common による「美しき革命」がアメリカ社会はもちろんのこと、音楽シーンに対しても少なからず影響を与えることを期待したい。

Pole - ele-king

 ポールことステファン・ベトケ、5年ぶりとなるニュー・アルバムが届きました。これが絶妙な作品です。フワフワと消えては浮かぶウワモノ、淡々と進むのっぺりしたリズム隊。音響感覚にしても、ダブのミニマリズムをさらに突き進めたような、各音の配置が緻密に配慮された、どこまでも淡い存在感。アルバム1枚を再生すると、一筋の空気がゆっくりと流れていく様、それを音楽化したような、実体がなさそうな、幽霊のようなサウンドが通り抜けていきます。しかし、それでいて「鳴っている」存在感はそこにある、という、なんとも絶妙な塩梅でじわりと魅力を放ち、スルメのように……いやスルメのような濃厚な「味」や「香り」があるわけではないのですが、モヤモヤと霧が立ちこめるラスト・トラック “Fading” まで、自己主張の強すぎないそのサウンドが通り過ぎる様を幾度となく確かめたくなる。そんなアルバムとなっています。

 ポール、前作からこの5年の間のディスコグラフィーとしては、クラウトロックの奇才、故コンラッド・シュニッツラーのリ “コン” ストラクト・プロジェクト『Con-Struct』に2017年に参加というのがありました(本作と連続性を感じさせる作品で、コンラッド・シュニッツラーのミニマリズムからの本作への影響はあるかも)。こちらはエレクトロニカ~サウンド・アート系のアーティストがそれぞれアルバム1枚分リコンストラクト作品をリリースするプロジェクトでありました。またもうひとつの動きとしては、ダブ・エレクトロニカの金字塔にして、自身の初期連作『1~3』のリマスタリング再・再発をリリースしています。

 さて、ご存じのように、彼の本業というか、その出自はマスタリング・エンジニア。本作も彼のそんな出自とそこからくるアーティストのスタンスが結実した作品と言えるでしょう。

 現在も大量の作品にマスタリング・エンジニアとしてクレジットされています。もともとはベーシック・チャンネルが設立した〈ダブプレート&マスタリング〉というカッティング/マスタリング・スタジオの技師としてキャリアをスタートさせ、2000年代に入ると独立、ヤン・イェリネックとともにレーベル〈~スケープ〉を、そして自身のマスタリング・スタジオも設立しました。レーベルではバーント・フリードマンやデッドビートらの作品もリリースし、自身の作品も含めて、エレクトロニカ世代におけるベーシック・チャンネル・フォロワーというかエレクトロニック・ダブのひとつの領域を形成します。初期三部作に代表されるそのサウンドはもちろんですが、そのエンジニアとしての「腕」も、シーンに大きな影響を与えたというのは間違いない事実でしょう。それらの音楽性の肝となる、むっちりとした低音再生やエレクトロニカ特有の高い解像度の音像を、最適に製品として成立させるというところで、彼のマスタリング・エンジニアとしての才覚は少なからずシーン形成に一役買ったのではないでしょうか。

 そして彼のサウンドとして思い出すのはやはり初期三部作のグリッジ・ノイズを効果的に使った音響的発明でしょう。特に『3』で顕在化した技法ですが、それまでリスニングにおいて邪魔者でしかなかったレコ―ドのクラックル・ノイズを、微細な電子音のグリッジ・ノイズに置き換えて、その音響効果を音楽的要素として聴かせてしまったということです。その手法は、その後、それを再現するプラグインが作られたり、さまざまなアーティストも表現として援用するにいたりました。有名なところではマーク・フィッシャーがその著作でも言及したベリアルザ・ケアテイカーの作品あたりでしょうか。この手法は、その名義の由来になった4ポール・フィルターが発するノイズ、そこから着想を経たという話になっていますが、デトロイトのプレス工場〈NSC〉でプレスされていた、少々粗めの盤面を持った初期プレスのベーシック・チャンルの作品を再生したときの感覚をふと思い出すサウンドでもあります。

 こうした音響的な「ノイズ」を、テクニカルな解釈と再現をもって、ひとつの音楽性として成立させてしまう姿勢、そのあたりはエンジニアならではという感じもします。というか、彼のアーティストとしてのスタイル、根本がそのあたりにあるのではないかと。直系のベーシック・チャンネル・フォロワーでありながら、本家の「謎」と「神秘」すらまとった孤高のサウンドを、エンジニアとして、その技術力でもって解明(もしくはソフトウェアの進化で代替)し、表現として外に開いた存在という印象もあります。技術の民主化というと大げさですがその後大量に発生するベーチャン・フォロアーに道を開いたアーティストという側面は間違いなくあるかと思います。ちょっと話はそれましたが、とにかく彼のアーティストとしての表現に、エンジニアとしての姿勢がかかせないということは確かではないでしょうか。

 さて、前置きが長くなりましたが、本作『Fading』は、彼のそんなエンジニア的で、ある音響的要素をアートとして昇華させる姿勢がモロに現れたサウンドではないかと思います。ちなみにプレス資料を引用したとおぼしきレコード店のコメントによれば、本作は彼の母君が煩った認知症、記憶を失いいく、その状況に着想を得て作った作品らしいのですが、それが強固にサウンドのコンセプトになっているわけではないそうです。本作のスタイルは強い表現をすれば、簡素なテクノやダウンテンポのスタイルといったところでしょう。そこにフォーマティヴなミニマル・ダブ的な要素はすでにほとんどありません。音は淡泊なのに視聴後に「なにかがあった、はず」と強烈な印象が残ります。「アレはなんだったのか」という感覚。ある種の不安感がふと好奇心になって、感情をくすぐる音楽という感じでしょうか。それ自体の印象のないことが印象的でもある。だからこそ、再度聴いてしまう、そういうアルバムです。それはあえてさまざまな要素をより簡素に、よりミニマルな要素にしても音楽として成立する、そんなエンジニアリングの方法がとられている、それが本作の肝なのでしょう。

 例えば前作『Wald』はリズム・パターンも多彩だったりで、まだどこか「音楽的要素で楽しませてやろう」というリッチな感覚があります。が、本作はそうではありません。また、いままでの作品にあったレゲエ的なベースラインのミニマルな動きと低音の音響的快楽という要素もほとんど本作では使われていない印象があります。ベースラインと言えば、例えば3曲目 “Erinnerung”、4曲目 “Traum”、もしくは7曲目 “Nebelkrähe” あたりで聴けますが、どこかグルーヴを放棄したような、ただその存在を示すだけのような朴訥した表情の音がブーンと「鳴っている」だけ、パーカッションも「鳴っている」だけで、とにかく全体的にサウンドのマナーは平坦な感覚が支配しています。2曲目の “Tangente” あたりが、それでもレゲエ的なミニマルなベースラインを宿していますが、むしろ全体としてはその重心の低さに異質さすら感じます。とはいえ、不思議なことに、アルバム全体にはどこかレゲエ~ダブの存在感は亡霊のように取り憑いていて、これまた聴き返してしまう余韻を生む「謎」の要素とも言えます(とこかコニー・プランクとクラスター、メビウスによるストレンジ・レゲエの名盤『Rastakraut Pasta』を想起させもします)。

 思えば初期の『3』は、グリッジ・ノイズを援用し、ミニマル・ダブの亡霊とでも言えそうな、実体を取り除いた、残り香だけの音楽を「聴かす」ことに成功しました。ある意味でエンジニア的な手法の追求による音楽的な価値観の転倒がおこなわれました。本作では、その姿勢がより精密になり、さらに進むことによって「聴かす」ことを可能にしているのではないでしょうか。もはや彼にとってミニマル・ダブのクリシェはおろか、ちょっとしたフックとなるリフも本作では必要ないといった感覚すらあります。彼のエンジニアリングが高次元に結実し、音響の「塩梅」によって、その淡い音楽性を成り立たせている絶妙なサウンド、それが本作の魅力ではないでしょうか。この「なにもなさ」の成立には裏があるのです。

Tokyo Dub Attack 2020 - ele-king

 毎年年末になるとやって来る〈Tokyo Dub Attack 〉。今年も開催するとのことです。ただし、ホント、マジな話、いまのコロナの感染状況を鑑みるに、くれぐれも油断は禁物です。最高のダブを全身で浴びたい方は充分過ぎる感染予防をしたうえで、かならずルールを守ってお楽しみください。場所は恵比寿ガーデンルーム。入場者数は150人限定。なお、ご自宅で楽しみたい方のために有料配信もあるので、そちらもご検討下さいね。

2020/12/30 (水)
Open 16:00-21:00
*配信は18:00-21:00

Tokyo Dub Attack 2020
At 恵比寿 The Garden Room

-Line ups-
Scorcher Hi Fi with Soundsystem
Riddim Chango Showcase with eastaudio Soundystem
(Bim One Production, Night Scoops (Dub Kazman & Element) from Osaka

CHARGE :
Adv 3,500yen / Door 4,000yen (共にドリンク代別) / LIVE STREAMING (有料配信) 1,500yen
※再入場不可
※小学生以上有料/未就学児童無料(保護者同伴の場合に限る)
※本公演は、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室のガイドラインに従って収容人数を50%以下(150名)として開催いたします。

-TICKET-
>>一般販売 : 12/5(SAT) on sale
ローソン 0570-084-003 [L] 70842
e+ https://eplus.jp

>>LIVE STREAMING (有料配信)
Tokyo Dub Attack 電子チケット(ZAIKO)https://tokyodubattck.zaiko.io/e/TDA2020

「考えるひと」のためのワークウエア - ele-king

 パンク、モッズ、グラムにパンク、エスニックなヒッピールックやグランジのドレスダウン――ことほどさようにファッションは音楽とわかちがたい、というより文化そのものなのに、ここ最近はお買い得か転売できるかばかり気にして文化もへったくれもあったものではない。そのようにお嘆きの向きには ele-king books 創設当初から現在にいたるまで多くの書籍のアートディレクションを手がけてきた渡辺光子が新たにたちあげた SUBTROPISC がおすすめです。
 日本語で「亜熱帯」を意味する「SUBTROPICS」はグラフィックウェア~グッズを中心とするごくごく小さな服飾レーベルで、熱帯と温帯の緩衝地帯に由来するブランド名のとおり、マイノリティやオルタナティヴといった社会における外縁的な存在に多くの示唆を受けながら、ユニセックスなデザインをとおして着るひとたちのあいだに連帯を生み出すことを狙いとしています。
 ボディはヘヴィデューティな着回しにもこたえる United Athle を採用するなど、グラフィックのみならず服作りにも繊細なこだわりをみせる「SUBTROPICS」のウェアは、労働者と資本家とを問わず、バケットハットの流行を報じるネットニュースに、すわギタリストのバケットヘッドがリヴァイヴァルしたものかやといろめきたった壮年と、バケットヘッドのデビュー当時、コーネリアスがそんなような帽子をかぶっていた(当時はサファリハットいってました)ことさえ遠い歴史のひとコマにすぎない若者とを問わず、着る楽しさをとおし、ともに考えるよろこびをもたらします。
 最新作は「I can't stand it anymore」トートバッグ。アナログ・レコードもゆうゆう収まる大ぶりなつくりで手にされた方の「もうがまんできない」気持ちを代弁します。
 詳細は以下でご確認ください。

https://subtropics.stores.jp/



アイキャントスタンディットトートバッグ

貧困や女性、子どもへの暴力などにたいし「I can't stand it anymore(もうがまんできない)」と訴えるトートバッグ。売上の10%が特定非営利活動法人性暴力救援センター・東京(SARCサーク東京)に寄付されます。

アンプロダクティヴスウェット
「UNPRODUCTIVE(非生産的)」のロゴと空集合を反転したマークをプリントしたスウェット。

テクノクラートビッグシルエットポケット付Tシャツ
前面に「TECHNOCRAT(技術官僚)」、背面には「KARTELL(談合)」、袖にマン・レイの1921年の作品「GIFT」をプリントしたビッグシルエットTシャツ。


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