ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  2. ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代──あるDJの証言
  3. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  4. Arab Strap - Half-Told Tales | アラブ・ストラップ
  5. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  6. interview with Adrian Sherwood and Nightmares On Wax UKダブ・“トーク”・セッション | ――エイドリアン・シャーウッド×ナイトメアズ・オン・ワックス特別対談
  7. Protomartyr - Hotel Usona | プロトマーター
  8. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  9. Marcellus Pittman ──デトロイト・ハウス珠玉の逸材、マーセラス・ピットマンの来日ツアーが開催
  10. Helen - Linda's Head | ヘレン
  11. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  12. METHOD MOTEL - @名古屋・栄CENTRAL
  13. ゲーセン波乱万丈の100年史
  14. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  15. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  16. The Alchemist ──現代USヒップホップのキーパースン、ジ・アルケミストが来日
  17. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  18. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  19. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  20. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum

Home >  Interviews > interview with James Ellis Ford - シミアン・モバイル・ディスコの1/2、初のソロ・アルバムにかける想い

interview with James Ellis Ford

interview with James Ellis Ford

シミアン・モバイル・ディスコの1/2、初のソロ・アルバムにかける想い

──ジェイムズ・エリス・フォード、インタヴュー

質問・序文:木津毅    通訳:中村明子 photo by Pip Bourdillon   May 18,2023 UP

コラボレーションしないという実験だったんだよね。なぜならコラボレーションは毎日のようにやっているから。何が起こるのかを知りたくなったのかもしれない。自分以外の人間が誰も関わらなかった場合に何が出てくるのか。

■『The Hum』は多楽器による音色の多彩さが魅力です。あれだけ多くの楽器を演奏できるようになるのは大変だと思うのですが、ほかのプレイヤーに頼るのではなく、自分自身で楽器を弾けるようになりたいというモチベーションはどこから来るのでしょうか?

JEF:新しい楽器を演奏するのが大好きなんだ。じつはバスクラリネットをeBayでかなり安く買ったことがきっかけでこのアルバムが始まったんだ。子どもの頃フルートを習っていたから多少は知っていたし。とにかくバスクラリネットの音が大好きだから取りあえず買ってみようと。クラシックのコンサートで素晴らしい演奏ができるわけではないけれど、メロディを奏でることならできるから。すごく刺激になるんだ。このスタジオには日本のシンセもあって、もちろん全部僕が理解できない言葉で書かれていて音階もちょっと違ったりするけれど、そういうちょっと違うものだったり、少し難しかったりするものが大好きなんだ。たぶんモジュラーシンセが好きなのもそれが理由だと思う。そのチャレンジにおいては普段やらないようなことをしたり、通常とは異なる判断をしたり、いつもとは違う場所へと追いこまれたりする。それはアイデアを生み出し、音楽に対する熱意や興奮を呼び覚ますのにいいと思う。パソコンで音楽を作ろうとすることもあるけれど、あまりにも簡単にできてしまったりするから、面白くするためには難しくする必要があるんだよ。

■先ほどもお話しにありましたが、『The Hum』はいろいろな音楽的要素があるなかで、ロバート・ワイアットなどのいわゆるカンタベリー・ロックの要素をわたしは強く感じました。音楽家として、カンタベリー・ロックからの影響はもともと強かったのでしょうか?

JEF:そうなんだよ。父がそういったレコードを大量に持っていて……ジェントル・ジャイアント、キャラヴァンといったバンドがひと通りあって、それを聴いて育ったという背景がまずあった。10代の頃はあまり好きじゃなかったけど、年を取るにつれてある意味父親の趣味に回帰するというか。

■そのカンタベリー・ロックもそうですが、雑食的な要素からブリティッシュ・ポップの系譜を感じさせるアルバムだとわたしは感じました。このようにくくることには語弊があるかもしれませんが、ポップ・ミュージックにおけるいわゆる「ブリティッシュネス」というか、英国から生まれる音楽の特色について考えることはありますか? そうだとすると、あなたの視点でポップスにおける「ブリティッシュネス」をどのようにとらえていますか?

JEF:僕も「ブリティッシュネス」が好きだよ。たとえばロバート・ワイアットの声は僕にとって非常にブリティッシュで、ほかのどこからも出てきようがないものだと思う。説明が難しいけれど、簡素というか何というか、若干控えめな感じというか、そこが本当に好きだね。それが不思議なほどエモーショナルなものに感じられるというか。過剰に歌いあげず、ドラマチックになりすぎない。僕はアイヴァー・カトラーの大ファンで、まあ彼はスコットランド人だけど、それと少し似ていて、そういうすごく独特な静かさが大好きなんだよね。とにかく僕もイギリス人だし、今作にも間違いなくブリティッシュネスはあると思う。

■いっぽうで、“The Yips” でのパレスチナの音楽の要素も面白いですね。パレスチナの音楽のどのようなところに魅力を感じますか?

JEF:ロックダウン直前に旅行でパレスチナへ行ったんだ。もともと非西欧音楽はすごく好きで、日本にも素晴らしいものがたくさんあるし、いわゆる民謡と呼ばれるもの、インドの民謡やアラビア音楽だったり、その多くが西洋の12音階からは少し外れた音階やチューニングなんだよね。そこにものすごく惹かれるんだ。パレスチナに行ったとき、幸運にも現地のミュージシャンたちに会うことができて、オーケストラの演奏を聴きに行ったんだけど、その演奏に本当に胸が熱くなったし信じられないくらい素晴らしかった。だからたぶんそれも自分のなかに残っていたし、それから僕が大好きな〈Habibi Funk〉というレーベル(註:ベルリン拠点のアラブ音楽を発掘するレーベル)があって、そこは60年代、70年代の音楽を扱っていて、あの辺の地域の人びとがたとえばジェイムズ・ブラウンを真似していたり、でも音階が奇妙だったり、荒削りだったりするっていう。その辺のものが大好きなんだよ。あの曲を作りながら僕の頭にあったのはそういう感じのもの。

パソコンで音楽を作ろうとすることもあるけれど、あまりにも簡単にできてしまったりするから、面白くするためには難しくする必要があるんだよ。

■『The Hum』の親しみやすさには、サウンドのユーモラスな感覚によるところも大きいように感じます。“Emptiness” のようなややビターな曲でもどこかファニーな感性があるように思うのですが、だとすると、あなたのユーモア感覚はどのようなものから影響を受けたものですか?

JEF:昔から少しユーモアがあるものが好きだったし、ユーモアと音楽には奇妙な関係があると思う。あまりにもシリアスすぎるものは好きじゃないかな。まあバランスが大事だと思う。同じように、あまりに綺麗すぎたりハッピーすぎるっていうのもね。僕にとっては最高の曲ってどれもメランコリックで、そこに悲しさがあり、明るさもあるというもので。そのふたつの間のバランスというのが興味深い部分なんだよ。さっき言ったアイヴァー・カトラーもそうで、彼の楽曲って僕的には本当に面白くて、完全にシュールで笑えて、ああいったユーモアが大好きだね。それから偉大な作詞家の多く、たとえばレナード・コーエンなんかもそうだけど、彼らの歌詞の下には、つねに小さなユーモアの輝きがあるんだ。

■『The Hum』というアルバムで、ミュージシャンとしてあなたが達成した最大のことは何でしょうか?

JEF:これを作ったこと、完成させたこと自体が、もうそうかな。自分自身を乗り越えるというか。僕はこれまでプロデューサーとして、たくさんのひとにたくさんのことを要求したり、自分自身をさらけ出すように言ってきた。だから自分の作品を完成させること、ひとつのプロジェクトを終わらせること、全部が達成だよ。とくにひとりの場合は、誰かが知恵を貸してくれるわけでも背中を押してくれるわけでもないから大変なんだ。自分自身の意思の力で、自信を持って、何かを終わらせて世に送り出すこと自体が大きなチャレンジだったね。でも、常日頃自分がほかのひとにそういうことをやれって言ってることに気づけてよかったよ(笑)。だからやっぱり一番誇りに思うのはそこだね、作ったぞっていうさ。

質問・序文:木津毅(2023年5月18日)

12

Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

INTERVIEWS