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Home >  Interviews > interview with Black Midi - ロンドンの新世代ロック・バンド、クラシックについて語る

interview with Black Midi

interview with Black Midi

ロンドンの新世代ロック・バンド、クラシックについて語る

──ブラック・ミディ、インタヴュー

序文・質問:天野龍太郎    通訳:青木絵美   Jun 16,2021 UP

アルバムをもう1枚作るのには、じゅうぶんな数の曲ができている。2時間分の音楽があるよ。この数か月でサード・アルバムのレコーディングができると思う。そして来年の3月ごろまでにはリリースできていると嬉しいね。

話は戻りますが、弦楽器のアレンジメントについて教えてください。“John L”などでのストリングスは、どこか不協和な響きを持っています。こういった緊張感のある響かせかた、アレンジのしかたは、どのようにして生まれたのでしょうか?

GG:“John L”はフリースタイルでできたんだ。ロンドンのアーティストで俺たちの友人でもあるジャースキン・フェンドリクス(Jerskin Fendrix)を呼んで、“John L”の基本的なリフや曲のパートを教えたんだけど、あとは彼が自由にバイオリンを演奏しながら、一緒に曲を作っていった。“Ascending Forth”のストリングスは、ジャースキンがヴァイオリンを演奏して、別の友人のブロッサム(・カルダロン、Blossom Caldarone)がチェロを演奏したんだけど、曲のなかでストリングスを入れたいところでトラックを止めて、俺がピアノでそのパートを弾いて、「じゃあ、これを演奏してくれ」と彼らに頼んで、彼らが演奏するのを録音した。そしてまた別のセクションにトラックを進めて停止させて、「次はこれを演奏してくれ」と俺がピアノで指示を出す……という作業をずっとやっていた。3時間くらいかかったよ。“Marlene Dietrich”のチェロのアレンジメントも俺が作曲をして、ブロッサムに演奏してもらった。

それに関連して、楽器の音の美しいハーモニーとノイジーに重なるタイミングと両方が共存している様子が今回のアルバムは特に印象的でした。作曲やアレンジ、演奏における音の調和と不協和について、どんなことを考えていますか?

GG:調和と不協和は対になっているというか、どちらか一方が欠けても成り立たないと思う。不協和ばかりだと意味のない不協和になってしまうし、すべてが調和していたらベタな感傷主義になってしまう。だから、常に調和と不協和の両方が必要だ。不協和の脅威があるからこそ、調和という息抜きがある。そういうところにおもしろみを感じるんだ。
 俺たちは、常に緊張感がギリギリのところで漂っている音楽を作りたい。でも、そういう緊張感があるからこそ、その後に来る脱力感や穏やかな感じが引き立つ。だから、その両方が必要なんだ。

そういった点では、ブラック・ミディの緊張感やダイナミック感はすばらしいですよね! すごく刺激的で、ユニークな音楽だと思います。

GG:ありがとう!

さきほど言及した『Stereogum』のインタヴューでは、イーゴリ・ストラヴィンスキーの“カンタータ”とオリヴィエ・メシアンのオペラ“アッシジの聖フランチェスコ”を挙げていましたよね。そういったコンテンポラリーなクラシカル・ミュージックからは具体的にどんなインスピレーションを得られるのでしょうか? 

GG:俺が10歳くらいのとき、地域の学校の生徒全員が行くというコンサートがあって、それに行ったんだ。子どもたちにクラシック音楽に興味を持ってもらおう、という学校の行事だ。それで、ロンドンにあるバービカン(・センター)というコンサート・ホールに行った。そのときの観客はみんな生徒だから子どもで、オーケストラは様々な作曲家による曲を10〜15曲くらい演奏していた。クラシックの歴史を学ぶ、みたいな感じで。それを聴いたときには衝撃を受けたよ。でも、そのときは学校の行事だったから、俺は「つまらねえ音楽だよな」なんて他の子どもたちと言いあっていたけど、内面では「なんてかっこいい音楽なんだ!」と思っていたんだ。そのコンサートで演奏されていた音楽は、すごくよかったよ。具体的なものは思い出せないけど、ひとつ覚えているのは、チャールズ・アイヴズの「答えのない質問」。これを聴いたとき、俺はこの曲はあんまり好きじゃないなと思ったけれど、どうして好きじゃないのかという具体的な理由を説明できなかった。でも、この音楽には、聴き続けていたいと思わせるなにかがあった。そういう体験をしたのは、それが初めてだったな。そういう感覚を自分の音楽でも喚起させたい、という気持ちがある。
 ストラヴィンスキーに関しては、俺の父親と母親は色々な音楽を聴く人で、ストラヴィンスキーの音楽もよく聴いていた。ストラヴィンスキーは、『スター・ウォーズ』のような、クレイジーな映画音楽の祖先みたいなものだ。だから、そういう映画を観てきた人がストラヴィンスキーの音楽を聴いても、あまり異常なものや、異世界のもののように感じることがなく、自然に受け入れられる。それはリズムがベースになっているからなんだ。
 俺が12歳か13歳のころ、学校の音楽の先生で、すごく好きな先生がいた。すごく親しくなって、昼休みにはよくその先生のクラスに行って、俺は彼と音楽の話を一緒にしていたんだ。その先生が学校を去っていったあと、別の先生が来た。この先生はかなり歳がいっている人で、昔ながらの伝統を好む人だった。誰も新しい先生のことが好きじゃなくて、俺も同じだった。こいつはイケてないし、おもしろくもないと思っていた。俺はその先生と1年くらい過ごして音楽について話したり、音楽の課題を一緒にやったりしていたから、じょじょにこの先生も悪くないな、と思いはじめていた。まだ彼のことは尊敬していなかったけどね。普通にいい付き合いはできていた。ある日、彼はストラヴィンスキーの“春の祭典”を聴かせてくれたんだ。そのときに俺は、先生がどれだけやばい人かに気づいた。先生は「この作品は史上最高の楽曲です」と言って、スピーカーから大音量でかけたんだ。俺は先生に向かって「はいはい、先生はおかしいよ」と言っていた。先生の前では平然を装っていたんだけど、内面では「これはまじでクレイジーな音楽だな!」と思っていたんだ。

では、実際にはいい音楽だと思っていたんですね。

GG:まあね。でも先生には「そんな風に思う先生は変だよ。これは全然良い音楽じゃない」って言っていた。俺と先生は10分くらい曲を聴いていたんだけど、そのときに彼はこう言ったんだ。「この音楽を初めて聴く瞬間に戻れるなら、私は何だってしますよ」って。それには心を打たれたね。俺はいま、その瞬間を実際に体験していて、それを当然の権利のように感じていたから。俺はそのときは、「先生の言うことはでたらめで、あの老いぼれは馬鹿げている」と思っていて、その場はそれで終わったんだけど、“春の祭典”は常に俺の頭の片隅にあった。その6か月後くらいにまた聴いてみて、それ以来、何度も繰り返して聴いてみた。もう何年もそうやって聴いてきている。ストラヴィンスキーの音楽も全部聴いたし、バッハの音楽もたくさん聴いたし、メシアンの音楽も、ブラームスやベートーヴェンの音楽も聴いてきた。非常に楽しめる音楽だよ。

クラシックから、それほどの影響を受けていたとは思いませんでした。話は変わりますが、今回のアルバムにおけるジョーディさんの歌について教えてください。ヴォーカリゼーションが以前よりもシアトリカルなふうに変化したように感じました。これは、「三人称のストーリーを重視した」という楽曲ごとのテーマから生じたものなのでしょうか?

GG:そうかもしれない。主な理由としては、俺が好きな音楽や歌手の多くが、おおげさだったり、度を超えた感じの歌いかたをしているからだと思う。でも、今回のアルバムの曲でヴォーカルを歌っているときはある特定の歌手を意識したり、まねたりしているという感じではなくて、ある特定の感情や風変わりな映画や演劇などをイメージしながら歌っていたんだ。確かに今回のアルバムでは全体的に名作のおおげさでドラマチックな、メロドラマに近い雰囲気を体現しようとした。マルセル・オフュルスの映画や、マイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガーが監督した『赤い靴』みたいな。おおげさなドラマや、奇妙なくらいおおげさな感じ。あまりやりすぎてもだめだけど、ドラマティックさを体現することも必要だと思う。
 最近の音楽を聴くと、おおげさにならないように、感情的になりすぎないようにと意識し過ぎている人ばかりだと思うんだ。まるで、そういう表現が意図的に禁止されてしまったかのように。すべては控えめにしないといけないかのように。それはそれでいいんだけど、俺はあのシアトリカルな感じも好きなんだ。だから、そういう表現方法をたまにはしても悪くないんじゃないかと思って。今回はやりすぎたかもしれないけど、どうだろう。サード・アルバムで、次はどうなるかな、というところだね。

さきほどからサード・アルバムについて言及していますよね。どんな内容になるんですか?

GG:アルバムをもう1枚作るのには、じゅうぶんな数の曲ができている。2時間分の音楽があるよ。この数か月でサード・アルバムのレコーディングができると思う。そして来年の3月ごろまでにはリリースできていると嬉しいね。音楽制作は、音楽が完成していてもリリースまでに時間がかかるときもある。だからリリースのタイミングを遅らせることなく、なるべく早くリリースできたらいいと思っている。

ものすごい創作意欲ですね。たのしみです。最後に、たびたび共演しているブラック・カントリー・ニュー・ロードについてお聞きしたいです。彼らの音楽について感じていること、彼らとブラック・ミディが共有していることと、あるいは両者の相違点について教えてください。

GG:ブラック・カントリー・ニュー・ロードはメンバーもみんないい奴ばかりだし、バンドとしても最高だ。演奏も素晴らしいし、ライヴも観ていて爽快感がある。音には重みが感じられるけど、繊細に感じるときもある。彼らの新曲の多くは、バンドの微妙なニュアンスが感じられるものになっているよ。演奏も上手だから、クリスマスの時期に彼らと共演できたのはとても楽しかった。
 相違点については、これは彼らも同じことを言うと思うけれど、ブラック・ミディとブラック・カントリー・ニュー・ロードは、似たようなところからはじまったけれど、そこからちがう方向へと枝分かれしていった。彼らが最近作っている音楽は、ボブ・ディランに近い感じで、軽音楽というわけではないけれど、よりシンプルで、ひたむきな感じなんだ。それはそれでクールだと思うけど、ブラック・ミディがやるような音楽ではない。ブラック・カントリー、ニュー・ロードの音楽を聴くと、俺は「すごくいいね。俺たちだったら絶対にやらないけど」と思う。ブラック・カントリー・ニュー・ロードが俺たちの音楽を聴いても、「最高だね。俺たちはけっしてそういう音楽は作らないけど」と言うと思うよ。でもその状態が気に入っている。お互い、友好的なライバル関係で競争心もあるけれど、同じ領域・分野にいるわけではない。隣の芝生はいつも青い、ってことだよ。

序文・質問:天野龍太郎(2021年6月16日)

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Profile

天野龍太郎天野龍太郎
1989年生まれ。東京都出身。音楽についての編集、ライティング。

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