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interview with Floating Points

interview with Floating Points

物静かな熱意とジャズと

──フローティング・ポインツ、インタヴュー

野田 努    撮影:小原泰広   Nov 16,2015 UP

ひとつだけ明確な物語が表現されている曲があって、それがタイトル曲の“エレニア”です。冬になると南アメリカの中央へ向かって飛ぶ渡り鳥についての話で、その鳥の名前がエレニア。そういう夢を見ましてね……。夢って、あの寝ているときに見るやつですよ(笑)。


Floating Points
Elaenia
[ボーナストラック1曲収録 / 国内盤]

Luaka Bop/ビート

JazzAmbientElectronic

Amazon

■あなたの初期のレコードは〈プラネットμ〉と〈R2レコーズ〉から出ていますが、それは2009年で、当時はUKでダブステップがすごく強かった時期だったと思います。あなたの作品は日本ではハウスのDJがかけていて、時代はあなたにダブステップを作らせたかったんだろうけど、あなたはディープ・ハウスやテクノをすごく作りたかった、という印象を受けました。

FP:当時はロンドンに住んでいたんですが、プラスティック・ピープルで開催されていた〈FWD〉はダブステップの世界的なホームのような存在でした。ですが、ぼくは〈FWD〉に行った次の日には、同じ場所へセオ・パリッシュのプレイを聴きに行きました。当時から違ったジャンルを聴くことがぼくは大好きでしたね。聴くだけではなく、様々なスタイルの曲も作っていました。ときにクラシカルなもの、ハウス、ダブステップといった具合です。周りのプロデューサーがリリースしそうな音楽を作っていたことはたしかですね。でも、ダブステップを作ることを期待されていたときも、他のジャンルであっても作りたい曲を作っていました。

■あなたの〈エグロ〉のスリーヴ・アートは、デザインもそうですが紙の質までこだわっていて、すごく丁寧に作っています。それはいまのレーベルには珍しいというか。昔のレコード全盛期に対するあなたの特別な感情を感じるんですけど、その辺はいかかですか?

FP:お世辞でも嬉しいです(笑)。おっしゃる通り、かなり気を遣っています。ぼくはコレクターとしてたくさんレコードを買い集めてきました(1万枚のコレクションらしい)。〈ブルー・ノート〉の日本盤も買ったりしました。オリジナルの日本盤は、アメリカでプレスされたものよりも質が良いんですよ。紙も厚いですし、帯付きで中にはビニールのスリーヴやライナーが入っていて、細部へ注意が行き届いています。
 短い時間でレコードを量産しなければいけないシングルの市場では、そういった点が無視されがちですよね。でも、ちょっと時間をかければ紙もいろいろ試せて、同じ予算で質のいいレコードを作ることができるんです。ぼくはロンドンで、芸術を先攻している友だちといっしょに住んでいたので、アートワークに関する意見を出し合っていましたね。〈エグロ〉のアートワークは全部がその友だちによるものです。デザインだけではなく、なかには紙のサンプルを持っているひともいましたよ。

■じゃあ主にはレコードを買うんですか?

FP:どんなフォーマットでも買いはしますが、ほとんどはレコードです。実は、いま家にCDプレイヤーがないんですよね(笑)。

■あなたの世代だと相当な変わり者なんじゃないんですか?

FP:もちろん。ぼくの次の世代だと、完全にMP3ですよね。6、7歳若かったらぼくもレコードを買っていなかったかもしれませんね。

■あなただって十分若いですよ(笑)。

FP:いつからレコードを買ってるっけな……、たしか12歳のときからですね。

■それはどういう影響からなんですか?

FP:単純に安かったからです。ぼくはマンチェスター生まれなんですけど、当時はどの家庭でも親はCDを買っていました。ちょうどCDが出はじめたときで、値段がとても高かったんですよね。そのときぼくはクラシックにはまっていたんですが、例えばショスタコヴィッチの作品を新品でCDで買うとなると、60ポンドはしたんですが、中古レコード屋に行けば昔のヴァージョンが60ペンスで買えたんです。自分が必要とする音楽を聴くために、レコードを買うのが一番手っ取り早い方法でしたね。

■ショスタコヴィッチみたいな作曲家の名前が出てくるとこがあなたらしいですね。

FP:彼はひとつの例えですが、ぼくにとって大きな影響源のひとりですね。ぼくはピアノを習っていて、クラシックのトレーニングを受けていました。メシアンやショスタコヴィッチ、ストラヴィンスキー、武満徹がお気に入りです。いまでも彼らの音楽をよく聴いていますよ。それと同時に、ビル・エヴァンズ、ハービー・ハンコック、チック・コリア、ジョージ・デュークも好きです。彼らにはたくさんの共通点を感じるんです。それらをひとつの世界として見ていて、境目はありません。同じ世界にジャズとクラシックとエレクトリック・ミュージックが存在しているんです。
テクノやミュージック・コンクレートは全然詳しくなかったんですが、エイフェックス・ツインなどを初めて聴いたときは、以前から自分が聴いてきた音の文脈で十分に理解することができたんです。ハウスやディスコだって同様です。でも最初にテクノから聴きはじめていたら、クラシックを理解できなかったかもしれませんね。

■アーサー・ラッセルみたいですね。あのひとも現代音楽とディスコ、みたいな感じでしたから。でもあなたはジャズがあるからまた違うのかな。

FP:アーサー・ラッセルはぼくのヒーローです。彼とクラシックの間にも境界線はないと思います。

コンピュータ1台でアルバムを作った方がよかったかなと思います。アナログ機材をたくさん使ったぶん、故障が多くて大変だったんです(笑)。とってもイライラしました。せっかくストリングスを録音したのに、ミキサーが壊れていてたりとか……。これがコンピュータ上の作業だったら何の問題もないのになぁ、と(笑)。

■今回のアルバムっていうのは、すごく大きな曲が7曲あって、時間がかかったのもわかるんですけど、教えていただきたいのが、あなたが先ほど言いかけていた大きな物語というものですね。それから、このアルバムがどのような録音をされたのかということ。生の音とかを使いつつも、完全にあなたのなかでコントロールされて作られていると思いました。

FP:必ずしもプロットがある物語ではなく、抽象的なものですが、自分にとっては一貫性が感じられる作品が完成したと思っています。そのなかで、ひとつだけ明確な物語が表現されている曲があって、それがタイトル曲の“エレニア”です。冬になると南アメリカの中央へ向かって飛ぶ渡り鳥についての話で、その鳥の名前がエレニア。そういう夢を見ましてね……。夢って、あの寝ているときに見るやつですよ(笑)。
 イメージのなかで渡り鳥の群れが南へ向かって飛んでいるんですが、1羽だけはぐれてしまって冬の森へと落ちてしまう。そこで何が起きるかというと、森が鳥を助けようとようとその体を包み込みはじめるんです。風が吹いて、木々の枝が動いて……。意味わかんないですよね? まぁ、夢ですから(笑)。結局鳥は助からないんですが、森が命を吸収し、その生を森全体が引き継ぐんです。我ながら、なかなかポエティックですね(笑)。
 曲は電子音を背景にはじまって、ピアノによるメロディは鳥たちの歌声を表しています。曲が半分くらいまで進むんで森の場面になると、こんどはピアノがバックになって電子音がメロディを刻みはじめます。つまりここでは曲のパートそれぞれが、物語の要素を語っているんです。 

■それをアルバムのタイトルにしたのはなぜなんですか?

FP:この曲の持つ明確な物語が、アルバムの中核を成すように思えたからです。それに語感もとてもいい(笑)。

■録音は、どうやっておこなったのでしょうか? 

FP:ロンドンにある自作のスタジオで行いました。博士課程がはじまるときに作ったもので、大きさはこの部屋(8畳ぐらい?)の5倍ほどありますね。ロンドンのほぼ中心にあってロケーションも抜群で、その場所を見つけられて本当にラッキーだったと思います。作業は木材を切るところからはじめました。音楽を聴いたり作ったりするのと同じで、スタジオを作るのも趣味のひとつになっていました(笑)。頑張ったのでけっこうちゃんとしたスタジオになりましたよ。
 『エレニア』を録音したのはそのスタジオです。日本製のテープ・レコーダーのオタリMX-80を使っていますよ。すっごく大きいやつです(笑)。それとコンピュータ、シンセサイザー、マイク、大きいミキシング・デスクがあります。曲を作るときはまずスコアを書いて、それをプレイヤーに渡して演奏してもらいました。

■何人くらいのミュージシャンが参加したんですか?

FP:少しずつセッションを進めていったんですが、もっとも多いときで5人はスタジオにいましたね。10人くらい詰めようと思えばスタジオに入ります(笑)。ドラムとベース、ピアノとストリングスをいっしょに録音して、そこに電子音を加えていきました。メインのモジュラー・シンセサイザーはブクラ(Buchla)を使っています。パッチを組むのが複雑で大変でした。このシンセはノイズを作るのに役立つんですが、今回のアルバムではレコーディングの中心に据えて、ストリングスの音をブクラに通してエフェクトを掛けたりしています。それから、テープ・レコーダーは後から修正があまりできないので、正確に演奏し、目的の音を作るように心がけていましたね。

■今回のアルバムの制作を通して、あなたが得た番大きなものは何ですか?

FP:そうですね……。あんまり奇をてらわずに、ここはマジメに答えた方がいいですよね(笑)?

■別にジョークでも大丈夫ですよ(笑)。

FP:わかりました(笑)。振り返ってみると、コンピュータ1台でアルバムを作った方がよかったかなと思います。アナログ機材をたくさん使ったぶん、故障が多くて大変だったんです(笑)。とってもイライラしました。せっかくストリングスを録音したのに、ミキサーが壊れていてたりとか……。これがコンピュータ上の作業だったら何の問題もないのになぁ、と(笑)。
 ぼくが前に出した「シャドウズ」(2011年)のことを、みんなはEPと呼ぶんです。たしかに5曲しか入っていませんが、曲はけっこう長くて全部で40分くらいあるので、ぼくは「シャドウズ」をアルバムだと思っています。その経験から「アルバムって何だ?」と思うようになりました。ぼくにとって「シャドウズ」には一貫性があるので、楽曲群をひとつの音楽作品として捉えることができます。でも周りは「5曲しか入っていないから、やっぱりEPだよ」としか言わない。でも今作は「シャドウズ」より2分長いだけなんです。違いはそれしかないのに、『エレニア』はアルバムと呼ばれているわけです(笑)。

■それはいいことを聞きました。「シャドウズ」は、音楽的な繋がりという意味で今作と似ていると思っていたんですよ。あなたのは、もっとフロア向けのシングルもありますし。

FP:どうして「シャドウズ」の話をしたのかといえば、当時はスタジオを持っていなかったので、あの作品はエレクトロニクスで作られているんです。1日だけスタジオを使える日があったので、ちょっとだけストリングスが入っていますけどね。だけどいまはスタジオが完成して、毎日ストリングスの録音ができる(笑)。これからはもっと演奏を取り入れていきたいです。

■ちなみに「シャドウズ」のCDは出ていないですよね?

FP:出ていないですね。日本で海賊盤は出回っているかもしれない(笑)。CD化の話もしているんですけどね。

■出さなくていいです(笑)。でも、『エレニア』はCDで聴きます。

FP:はははは。『エレニア』はバンドで作った作品なので、そのメンバーでヨーロッパとアメリカをツアーをする予定です。11人の大所帯ですよ。ドラム、ベース、ギター、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノ、トロンボーン、サクソフォン、クラリネット、フルート。このメンバーでクロアチアでライヴを行いました。まだボイラー・ルームにアーカイヴが保存されていると思いますよ。ツアーで日本に来れたらいいですね!

取材:野田努(2015年11月16日)

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