「Nothing」と一致するもの

ダブステップ・シーンへ日本からの新風 - ele-king

 アリーナ級の会場を揺さぶりながら消費されてしまったサウンドとは別に、ダブステップは今もコンクリートで囲われた地下のダンスフロアで新しい血を受け入れながら進化を続けている。昨年、Dave Jenkinsが「UKダブステップ:復活の背景」というレポートのなかで「新世代のプロデューサーたちはこれまでとは異なるビートやベースに影響を受けながらユニークなトラックを生み出しており、ウェーブ・ミュージック、ガラージ、トラップ、ハーフタイム、グライムなどが、ダブステップのエナジーとフォーカスを活性化させている」と記していたことが、ここ日本の各地でも目に見えるようになってきた。

 この半年の間に、ダブステップの「復活」に大きな貢献を果たしている3つのレーベル、〈Gourmet Beats〉、〈Trusik Recordings〉、〈Subaltern Records〉からリリースを続けた日本人クリエイターを知っているだろうか。Goth-Trad率いるパーティBack To Chillを中心にDJとしての活動もしているCity1を紹介しよう。

 アメリカでラジオDJも務めダブステップ界ではレジェンド的存在のJoe Niceが主宰する、〈Gourmet Beats〉の21作目として4月にリリースされた「Tribal Connection EP」は、ダブステップのイメージを越え、よりニュールーツに寄ったダブや、ジャングル的な躍動感をテッキーに表現したような曲など、彼のバックグラウンドの幅広さを聴かせてくれた。
 ブログとして2010年にスタートし、多くのインタヴュー記事やテキストでダブステップをサポート、2015年からレーベルもスタートさせたTrusikからは、7月に『Buluu』をリリース。ヘヴィなビートとベースに、サイバーな音空間や神秘的なサウンドを編み込んだ。
 オンラインでベルリン〜ロンドン/ブリストル〜パリ〜ハンブルグで繋がるSubaltern Recordsからは、8月に『Speak Out EP』をリリース。この3作の中では最もダブステップの王道に近い3曲入りで、タイトル曲にはブリストルを中心に活躍するラッパーであり詩人Rider Shafique(11月に来日決定)が参加している。

 2011年に沖縄から上京し、国内コンピレーションやJ.A.K.A.Mのリミックス・アルバムに参加。ミュージシャンだった両親の影響で沖縄古典舞踊の太鼓を習い、トライバルへの憧れや低音に対する嗅覚を無意識に培ってきたというルーツを持ち、沖縄のチャンプルー文化を意識しながら独自のサウンドを模索してきたCity1。短期間に3つの海外レーベルからヴァイナルをリリースするのは単なる偶然か、それとも幸運なのか──City1に話を訊いてみた。

 「〈Gourmet Beats〉、〈Trusik〉、〈Subaltern〉以外にも、気になったレーベルには、5年くらい前からデモを送っていました。〈Trusik〉はレーベル側からSoundcloudや各国のDJがFMでプレイしてくれたダブを聴いてオファーが来たんです。ただ、当初から現場ではプレイしてくれてたのですが、具体的なリリースの話は特に無かったので、ちょっと諦めかけてた時期もあったのですが(苦笑)その後も、納得のいく曲を作っては送ってを繰り返していたら、昨年、各レーベルから『サインしたい』と一気にオファーをいただきました」という。
 ネットによくあるアドバイスで「デモは厳選した数曲に絞った方が良い」という点について、彼は「30曲くらい、納得いく曲をまとめて送りました」とあっさり答える。「好きなDJやレーベルに、Dropboxでまとめたリンクを送ると割とみんなチェックしてくれます。DJだとラジオで4〜5曲くらいプレイしてくれたりもするので、作曲は幅を意識しつつ」。また彼の場合は、Goth-Tradが海外でCity1の曲を何度もプレイしていることもアピールに繋がっているだろうと言う。「リリースが決まるまで、レーベルにはデモをしつこく何度も送りました(笑)。そのやり取りで特に感じたのは、打ち続けられる情熱があるか、スタミナを試されている雰囲気は常にありましたね。実際に会わずにサインすることになるので、本気の熱があるか無いかは試されている感じはしました」
 リリース時期は、各レーベルの進行状況をふまえつつ連携をとりながら適度な間隔を開けて決定したそうだが、3作での曲の割り振りはどのようになされたのかを質問すると「各レーベルの反応を見たかった事もあり、特に色分けはせずデモを全部送りましたが、リリースしたいという曲は被らなかったです。レーベルのセレクションを見て、逆に『なるほど』と感じたところです」
 チャンスを奪い合うわけでなく、自身のポリシーを頑に守りつつ互いのカラーを尊重して連携するのは、ダブステップ・シーンが今なお面白く、そして力強く続いている理由でもあるだろう。また、彼が各レーベルから「ユニークなサウンドだねと言われた」通り、bpm140前後でヘヴィなベースを土台にした“何でもあり”なダブステップの自由さが、この3作のリリースで証明されているように思う。
 連続リリースで注目を集め、現在では他レーベルからのオファーも格段に増えているという。この先は「あるアーティスト主宰レーベルのコンピレーションに参加するので、近々アナウンスがあると思います。アルバムも年内に仕上げられるよう進めていて、内容はダブステップではないのですが、それを通過したダイレクションにはなっているので、また別の一面を楽しんでいただければ」とのこと。

 また、日本のシーンについては「国内でも世界基準の動きをしているDayzeroとKarnageのレーベル〈Vomitspit〉や、Back To ChillクルーのHelktramやMøndaigai、そしてBS0xtraクルーなど、次世代のリリースや活動が活発化している状況に対して、ダブステップがメインのイヴェントが少ないと感じているので、各地とも連携して何か出来ないかと思案中」と、まずは日本国内の状況を活性化させることが重要だと強く話してくれた。それにはクリエイターやDJだけでない、シーンとなるべき全体でのサポートとユニティが必要だ。筆者のようなライター、メディア、イヴェンター、ヴェニュー、カメラマンやデザイナー、その裏方まで……。そして、これを読んでいるあなたの参加も希望したい。興味のある方はCity1にメッセージを送ってみてほしい。


CITY1
soundcloud : https://soundcloud.com/djcityone
bookings : city1dubstep@gmail.com
Instagram : https://www.instagram.com/city1dubstep/
Facebook : https://www.facebook.com/DJCITY1



City1 ‎
Buluu EP
Trusik Recordings


City1
Tribal Connection EP
Gourmet Beats


City1 feat. Rider Shafique
Speak Out EP
Subaltern Records

SATOL aka BeatLive × DJ SYUNSUKE - ele-king

 O.N.O のレーベル〈STRUCT〉や〈Pヴァイン〉からもアルバム『harmonize the differing interests』をリリースしているプロデューサー SATOL と、世界一のDJを決める大会 DMC の2018年度日本チャンピオンにして世界2位の DJ SYUNSUKE が、ともにツアーをおこなうことが発表された。10月から11月にかけて、九州と中国地方の6ヶ所をまわる。異色の組み合わせに注目、ジャンルレスな夜を堪能しよう。

こんなに混じりっけ無しの実力主義最強タッグが未だかつて存在したのだろうか……

"SATOL aka BeatLive + DJ SYUNSUKE [DMC 2018 JAPAN CHAMPION / DMC 2018 WORLD VICE CHAMPION]" JAPAN Tour

先鋭レーベル〈STRUCT (O.N.O / THA BLUE HERB 主宰レーベル)〉から第一弾リリースを果たし更に国内外の人気レーベル、〈P-VINE〉、〈Progressive Form〉、〈madberlin〉、〈Frigio Records〉、〈disk UNION〉からもリリースを果たした鬼才 "SATOL aka BeatLive"

- 毎年全国各地でおこなわれる膨大な数のライブを通して熱狂的なファンを増殖させ続けるビートライブの俊英が、あの世界一のDJを決定する大会 "DMC" で2018年度日本チャンピオン/世界2位を獲得した "DJ SYUNSUKE" とジャパン ツアーを10月から決行する - ゆくゆくは作品もリリースする予定

10/11 長崎/佐世保@Drop In Bar
10/13 山口/周南@RA
10/14 大分/豊後高田@チリン

11/22 島根/益田@sound bar I ROOTS!
11/23 隠岐の島@dj bar YULAYULA
11/24 広島/東広島@西条公会堂

and more!

Scrimshire - ele-king

 これまで浪人アーケストラジ・エクスパンジョンズをリリースしてきた南ロンドンの〈Albert's Favourites〉が、レーベル主宰者であるアダム・スクリムシャーのオリジナル・アルバムをリリースする。スクリムシャーは様々な楽器を弾きこなし、自ら歌うこともでき、プロデュースもDJもどんとこいという多彩な音楽家。今回のアルバムには、ジョージア・アン・マルドロウチップ・ウィッカム、トランペッターのエマ・ジーン・ザックレイらが参加しているとのこと。発売は10月9日。

Scrimshire
Listeners

“現代のニーナ・シモン”とも称される Georgia Anne Muldrow に、新世代UKジャズ期待のトランぺッター Emma-Jean Thackray も参加!!
注目のUKジャズ・レーベル〈Albert's Favourites〉の主宰者でもある Scrimshire が才能を遺憾なく発揮させたオリジナル・アルバムをリリース!!

Official HP: https://www.ringstokyo.com/scrimshire

ヴォーカリスト、マルチインストゥルメンタリスト、プロデューサー、そしてDJでもあるアダム・スクリムシャーは、アコースティック・ギターで弾き語りもすれば、数々の名リエディットでも知られる、マルチな才能に恵まれた真の音楽家。スクリムシャー名義でのソロ作はそんな彼の豊かな音楽的素養が遺憾なく発揮された素晴らしい内容です。rings で紹介したマーク・ド・クライヴ・ロウ、ジ・エクスパンジョンズやイル・コンシダードのメンバーも参加した間違いない一枚! (原 雅明 rings プロデューサー)

アーティスト : SCRIMSHIRE (スクリムシャー)
タイトル : Listeners (リスナーズ)
発売日 : 2019/10/9
価格 : 2,400円 + 税
レーベル/品番 : rings (RINC58)
フォーマット : CD

Tracklist :
1. Theme for Us (feat. Joshua Idehen & Chip Wickham)
2. The Socials (feat. Soothsayers)
3. Life Is Valuable (feat. James Alexander Bright)
4. Before
5. After (feat. And Is Phi)
6. I Never (feat. Madison McFerrin)
7. Won't Get Better (feat. Emma-Jean Thackray)
8. Don't Stop Here (feat. Ego Ella May)
9. Thru You (feat. Georgia Anne Muldrow)
& Bonus Track 2曲収録予定!!

φonon - ele-king

 勢いが増してきました。2018年にローンチした EP-4 の佐藤薫によるレーベル〈φonon(フォノン)〉が、きたる10月11日になんと、一挙に3タイトルを発売します。1枚は正体不明の歌手マダム・アノニモ、もう1枚はテンテンコ、そして A.Mizuki によるラヂオ・アンサンブル・アイーダの計3枚です。それぞれ強い個性を放つアーティストだけに(約1名ナゾですが)、どれもリリースが楽しみです。詳しくは下記をご覧ください。

〈φonon(フォノン)〉のニュー・リリース3タイトル
2019年10月11日(金)発売


●Madam Anonimo(マダム・アノニモ)
『il salone di Anonimo(サロン・アノニモ)』
(SPF-011・税別2,000円)

〈φonon〉初の歌モノ作品。70歳を超えるというソプラノ女性歌手、Madam Anonimo (アノニモ夫人)の「il salone di Anonimo (サロン・アノニモ)」だ。その名は匿名であり無名、そもそも名前は不要であり、アノニモは仮の名でしかない。60年代よりアングラ劇団などで歌っていたという彼女だが、その歌声による作品は半世紀を経ながら本作が初となる。アルバムは異形のカバー曲集となっており、東西の有名楽曲が14トラック収録されている。
〈φonon〉ではおなじみの楽士、森田潤が音楽プロデュースを担当。アノニモ本人による自録りに近いアカペラ音源を基に、モジュラー/電子自動演奏による一人集団即興を繰り広げ、アノニモの部屋を彩っている。シャンソン~カンツォーネ~オペラからアメリカン・ソングブック、そしてサイケロック~現代音楽から“革命的”軍歌まで、独自の解釈とパラフレーズが黒く輝いている。──アノニモ夫人とは何者なのか?

ライナーノーツ・佐々木敦、市田良彦
ジャケットデザイン・内山園壬
※初回プレス限定ボーナスCD付

試聴リンク
https://audiomack.com/artist/onon-1/


●Tentenko(テンテンコ)
『Deep & Moistures(ディープ&モイスチャーズ)』
(SPF-012・税別2,000円)

新時代のミュータント・ポップを体現するテンテンコ。自主レーベル〈テンテン・レコーズ〉から毎月発表してきたプライベート作品のCD-Rは、これまでに約50枚のコレクションを形成しているが、中でも15枚以上のシリーズとして人気の高い“Deep & Moistures”から選りすぐった13トラックに、未発表曲を加え全14トラックがコンパイルされたのが本アルバム。
鋭い重工業ビートで脳髄に切り込んでくるかと思えば、鼓膜をスルーしたノイズで内臓を刺激したり、人懐こくキャッチーなリフで急所をくすぐる……。歌メインのテンテンコ名義作品やライヴとは異なる趣の収録曲たちは、カシオトーン、リング・モジュレーター、オシレーター、サンプラー、ポータブル・シンセ──などの機材を自ら操って作られ、自宅スタジオで録りためたトラック、ライヴやイベントのために制作した作品などから構成されている。テンテンコの、宅録とライヴの現場というスペースを自由に往き来する活動スタイルと、アーティストとしての柔軟な姿勢が表現された“一家に一枚”の決定盤だ!

ライナーノーツ・伊東篤宏
ジャケットデザイン・Material

試聴リンク
https://audiomack.com/artist/onon-1/


●Radio ensembles Aiida(ラヂオ・アンサンブル・アイーダ)
『by chance ≒ by choice(バイ・チャンス ≒ バイ・チョイス)』
(SPF-013・税別2,000円)

A.Mizuki のソロ・ユニットであるラヂオ Ensembles アイーダ。これまでに発表された『IN A ROOM』と『From ASIA』の Radio Of The Day シリーズ2作に続くサード・アルバムが本作。前2作同様、BCLチューナー片手に訪れたタイ/アメリカ/日本──各地でのフィールド・レコーディング音源を素材としながらも、本作では、複数音源を恣意的にミックスしたり、サイコロをロールして出た数字による偶然の順番で並べてミックスしたりと、トラックごとに異なる脱々構築的な試みが成功している。
従来の手法を深化~発展させ、仕掛けられた偶然と意図的/恣意的な選択とが限りなくイコールに近づこうとする空間に、脱構築と構築がせめぎ合う不確定的コンポジションが奇跡的に成立し、不可思議な時空を表出させる。意図と恣意と選択、選択は仕掛けられた偶然、偶然は選択された必然──と、リスナーに“人が何に価値を見いだすのか?”を問う、価値への挑戦とも言える意欲作だ。なお、テンテンコ、佐藤薫、森田潤が参加し、時間指定された進行表でBCLラヂオを演奏した19年平成ラストデイ@DOMMUNEの“φonon Radio Orchestra”ライヴ演奏も収録している。

ライナーノーツ・中原昌也
ジャケットデザイン・河村康輔
マスタリング・noguchi taoru

試聴リンク
https://audiomack.com/artist/onon-1/

KANDYTOWN - ele-king

 いよいよ本体が動き出す。2016年のファースト・アルバム『KANDYTOWN』以来、RyohuGottzBSCIO にと、メンバーそれぞれが精力的に活動を続けてきた KANDYTOWN だけれど、ついにクルーとしてのセカンド・アルバム『ADVISORY』が10月23日にリリースされる。3年ぶりに総勢16名が再集結した新作は、いったいどんなサウンドを聴かせてくれるのか。まずは9月6日に先行配信される新曲“HND”を待とう。

KANDYTOWN
2019年10月23日(水)に2ndフル・アルバム『ADVISORY』リリース決定!
初回限定盤には O-EAST でのワンマンライヴ「LOCAL CONNECTION」の模様をおさめたDVDとスペシャルフォトブック!
そしてアルバムから新曲“HND”が9月6日(金)に先行配信決定。

ラッパー、DJ、トラックメイカー、アートディレクターなど総勢16名が所属する国内屈指のヒップホップ・クルー:KANDYTOWNが、メジャー1stフル・アルバム『KANDYTOWN』から3年振りとなる2ndフル・アルバム『ADVISORY』が10月23日(水)にリリースとなることが発表となった。クルーの活動と並行してそれぞれのソロ作品がリリースされる中、総勢16名が再び集結し制作されたアルバムは全15曲収録。前作同様、エンジニアは The Anticipation Illicit Tsuboi 氏が担当。なお、初回限定盤には5月3日(金祝)に O-EAST にて開催されたワンマンライヴ「LOCAL CONNECTION」の模様をおさめたDVDとスペシャルフォトブックが付属されている。

そして、数量限定の先着購入特典(通常盤・初回限定盤共通)として、TOWER RECORDS では“Harder”、Amazon では“Abstract”といった未発表楽曲1曲入のCDが決定したのでこの機会をお見逃しなく。

更に9月6日(金)にはアルバムから新曲“HND”が先行配信されることがアートワークとともに発表となった。
この楽曲は Neetz が手掛けたトラックに MUD、BSC、DIAN といった3人のMCが参加している。

そんな KANDYTOWN は東京・大阪での Zeppツアー開催を控えており、こちらの日程・チケット等詳細は後日発表予定とのことなので続報を待とう。

【Digital Single「HND」】
Title: HND
Words: MUD,BSC,DIAN
Music: Neetz
Release Date: 2019.09.06 (Fri)

【KANDYTOWN 2nd ALBUM「ADVISORY」】
Title: ADVISORY
Release Date: 2019.10.23 (Wed)

Track List
01. HND
 Rap: MUD, BSC, DIAN / Music: Neetz
02. Slide
 Rap: IO, Neetz, Gottz / Music: Neetz
03. Last Week
 Rap: IO, Gottz, MUD / Music: Neetz
04. Core
 Rap: KIKUMARU, Holly Q, DONY JOINT / Music: Neetz
05. Local Area
 Rap: Gottz, Neetz, KEIJU / Music: Neetz
06. Take It
 Rap: Gottz, KIKUMARU, MUD / Music: Neetz
07. Knot
 Rap: Ryohu, KEIJU / Music: Neetz
08. In Need
 Rap: KEIJU, Holly Q, KIKUMARU, Ryohu / Music: Ryohu
09. So Far
 Rap: Holly Q, Gottz, MASATO, BSC, DIAN / Music: Neetz
10. Legacy
 Rap: Holly Q, MUD, BSC, DIAN / Music: Neetz
11. Bustle
 Rap: Ryohu,Holly Q, Gottz, Neetz / Music: Neetz
12. Imperial
 Rap: Gottz, Neetz, Ryohu / Music: Ryohu
13. Winelight
 Rap: Ryohu, Gottz, IO / Music: Ryohu
14. Cruisin'
 Rap: Ryohu, MASATO, DONY JOINT / Music: Ryohu
15. Until The End Of Time
 Rap: DONY JOINT,Holly Q, IO / Music: Neetz

Produced by KANDYTOWN LIFE
Mixed by The Anticipation Illicit Tsuboi @ RDS Toritsudai

■TOWER RECORDS 限定 先着購入特典:「Harder」
■Amazon限定 先着購入特典:「Abstract」
■先着購入特典:オリジナルステッカー
※いずれも数量限定となります。
※ステッカーは TOWER RECORDS、Amazon 以外のチェーン/店舗が対象となります。
※一部店舗では対応していませんので事前に店舗へお問い合わせください。

【PROFILE】
東京出身の総勢16名のヒップホップ・クルー。
2014年 free mixtape 『KOLD TAPE』
2015年 street album 『BLAKK MOTEL』『Kruise』
2016年 major 1st full album 『KANDYTOWN』
2017年 digital single 『Few Colors』
2018年 digital single 『1TIME4EVER』
2019年 e.p. 『LOCAL SERVICE』, major 2nd full album『ADVISORY』

Taylor McFerrin - ele-king

 偉大なジャズ・シンガーのボビー・マクファーリンを父に持つシンガー兼プロデューサー/DJ/トラックメイカーのテイラー・マクファーリン。ブルックリン生まれでもともとヒューマン・ビートボクサーだったというテイラーだが、彼のソロ・アルバム『アーリー・ライザー』が〈ブレインフィーダー〉からリリースされたのは、もう5年も昔の2014年のこと。ロバート・グラスパー、サンダーキャット、マーカス・ギルモアらUS新世代ジャズ系ミュージシャンに、父のボビーやブラジルのセザール・マリアーノといったレジェンド級ミュージシャン、さらにハイエイタス・カイヨーテのネイ・パームやエミリー・キング、ライアットらシンガー陣が参加したこのアルバムは、その頃よりジャズへと接近していく〈ブレインフィーダー〉を象徴する一枚でもあった。音楽的にはジャズ、ソウル、ヒップホップ、LAのビート・ミュージック、ロンドン~NYのベース・ミュージックなどさまざまな要素が結びついたもので、後のジェイムスズーの『フール』(2016年)あたりにもその影響は伺える。2010年代半ばの傑作の一枚であったが、その後の作品リリースは途絶えてしまっていた。
 もともと寡作のアーティストで、2006年のデビューEP「ブロークン・ヴァイブズ」から『アーリー・ライザー』までも8年の月日を要していたので、テイラー本人としては至ってマイ・ペースでライヴ中心の活動をおこなっていたのだろう。そんなテイラーの久々のリリース情報が流れたのは2018年で、それはロバート・グラスパー、テラス・マーティン、クリスチャン・スコット、デリック・ホッジ、ジャスティン・タイソンと組んだ R+R=NOW というプロジェクトによる『コラジカリー・スピーキング』だった。2017年のSXSWフェスでこれらメンバーが集まり、そのセッションからアルバム制作まで発展していったわけだが、ジャズ畑の面々の中でテイラーもキーボードとヴォーカルを担当し、グループにおけるエレクトロニカやアンビエント的側面を打ち出すのが彼の役割でもあった。アルバム・リリース後は R+R=NOW のツアーのほか、カマシ・ワシントンやビッグ・ユキなどさまざまなジャズ・ミュージシャンとのライヴが続いていたが、『アーリー・ライザー』以来の待望のソロ・アルバム『ラヴズ・ラスト・チャンス』がようやく完成した。

 今回のリリースは〈ブレインフィーダー〉からではなく、〈フロム・ヒア・エンターテインメント〉という自主レーベルのようで、ミゲル・アトウッド・ファーガソンやソニームーンのアンナ・ワイズなど現在のテイラーが拠点とするロサンゼルスのミュージシャンのほか、クリスチャン・スコットの『ストレッチ・ミュージック』へのフィーチャリングで知られるシンガー兼フルート奏者のエレナ・ピンダーヒューズも参加している。
 『アーリー・ライザー』に比べて、全体的に『ラヴズ・ラスト・チャンス』はソウル/R&B寄りの内容と言え、よりソウル・シンガーとしての側面にフォーカスしているようだ。そうした中で、特にルーズ・エンズなどに象徴される1980年代のシンセ・サウンドやAORと結びついたソウル・グループを彷彿とさせる楽曲が目につく。“ナウ・ザット・ユー・ニード・ミー”や“メモリー・デジタル”がその代表で、現在のロサンゼルス・シーンであればジ・インターネットデイム・ファンクあたりとの相関性も見出せるようなシンセ・ブギーと言える。AOR色が強い“ソー・コールド・イン・ザ・サマー”にも表われるように、アルバム全体のトーンはメロウかつアンビエントなムードに包まれ、現在で言われるところの「クワイエット・ウェイヴ」に属する作品となっている。そして、一般的なR&Bシンガーにはないオルタナティヴな個性がテイラーの特徴でもあり、スローなワルツ曲の“アイ・ウッド・スティル”や、ブラッド・オレンジにも通じるソフト・サイケなムードの“アイ・キャント・ギヴ・ユア・タイム・バック”などは、ジャズを含めていろいろなタイプの音楽を通過してきたテイラーだからこそできる作品だと言える。

ロンドンで感じた熱いヴァイブス - ele-king

■ 2019年8月16日 午前7時

 トランジットのバンコクから12時間のフライトを経て、ヒースロー空港に到着した。バンコクの30度超えと高湿度から、ダウンが必要な寒さへ。寒暖差による疲労と、その前の中国ツアーの疲れもあって、空港ホテルで仮眠をとることにした。

 今回のメイン・イベントは、Bussey Building で開催されるサウンド・クラッシュだ。ジャンルを超えた異種格闘技のようなクラッシュに、日本からは Eastern Margins として Tohji、Taigen Kawabe (Bo Ningen / Ill Japonia) と僕が参加することになった。

 Whatsapp と LINE を使いながらサウンド・クラッシュについて連絡を取り合う。事前にオンラインでの打ち合わせのみだったものの、Double Clapperz の相方の UKD の制作と Taigen さんのアイディア、Tohji のラップが噛み合い、準備はなんとか間に合った。

 その日の午後には最終の打ち合わせのため、東ロンドンのダルストンに向かった。サウンド・クラッシュのヘッドライナーの Tohji とは、2年半ほど前にメールをもらって以来の付き合いだ。拠点としているのが西東京の近いエリアだとわかり、色々遊んだり制作したりしていた。また、Taigen Kawabe さんはこの機会で初めてお会いすることができた。


■ 2019年8月16日 午後5時


(左:てぃーやま、右:Yaona Sui)

 打ち合わせのためダルストンで Taigen さんと、Tohji と Tohji チームのてぃーやま(@k11080)と Yaona Sui(@llllllll.llllllll.llllllll)と合流。打ち合わせがひと段落したところで、Taigen さんからダルストンの移り変わりの激しさを聞いた。古くはレイヴの街として知られており、The Albi や Birthdays、Dance Tunnel といった小さなクラブも軒を連ねていたが、再開発等の理由で閉店してしまったという。確かに昨年訪れたときに比べて、新しい建物が増えて街並みのカラーが変わってきたなと感じた。

 その足で、NTS Radio のスタジオがある Gillet Square に向かった。NTS Radio はロンドンを拠点とした、アンダーグラウンドからメインストリームまで、さまざまなアーティスト、ミュージシャン、ラッパーに開かれたラジオ局だ。Aphex Twin が特別番組をやったり、Mixpak、Denzel Curry、Onra、Bone Soda などさまざまなジャンルのアーティストがレジデントを担当するなど、ロンドンの音楽シーンの中心的なラジオ局である。

 スタジオの目の前はスケートができる公園になっていて、オープンな場所になっている。公園でたむろする人びとを横目に、ロンドンに帰ってきたなと感じながらスタジオに入った。


(Photo from NTS Radio)

https://www.nts.live/shows/guests/episodes/tohji-16th-august-2019

 ラジオでは Tohji が制作にインスパイアを受けた曲や Twitter でファンが作ったマッシュアップ動画を紹介していた。いい意味で肩の力が抜けていて、ふざけながら放送をしていて、あっという間の時間だった。

 放送中なによりも驚いたのは、日本時間では深夜3時の放送にもかかわらず多くの日本のファンがリアルタイムで聴いていたことだ。彼が起こしている熱狂を感じた。

■ 2019年8月16日 午後11時

 ラジオが終わった足でそのままサウンド・クラッシュが開かれるペッカムに向かう。パーティを主催した Eastern Margins は、Lumi が主催するロンドンのレギュラー・パーティだ。以前紙版の ele-king コラムでも紹介させていただいたが、ロンドンに住むアジア系の人々に対してスペース・居場所を作るというコンセプトでスタートしている。今回はスペシャルな一晩としてサウンド・クラッシュが開催された。会場となった南ロンドンのペッカムの Bussey Building にはサウンド・クラッシュを楽しみにした約500人のお客さんが来場した。ロンドンの普通のクラブでない場所でおこなわれたイベントで、この規模はかなり驚きだ。


(Photo by @asiangirrlfriend

 お客さんの中にはアジア系を含め、セクシュアリティやエスニシティの多様なお客さんがいて、Eastern Margins が実践する「セーファー・スペース・ポリシー」に則って、みんなが居やすい場所となっていると感じた。以前ベルリンのクラブ OHM でプレイしたときの空気に近かった。

 クラッシュの内容は、TT (fka Tobago Tracks) がグライム・ベースラインをプレイし、ICEBOY VIOLET や M.I.C といったMCが口撃すると、〈Warp〉からデビューした Gaika が率いる The Spectacular Empire がクラシックなダンスホール・スタイルで応戦。Kamixlo 率いる Ángeles y Demonios はハードコアな4つ打ちで盛り上げるなど、ジャンルを超えたサウンド・クラッシュが熱を帯びた。お客さんもそれぞれのジャンルを受け入れつつ、ダブやMCに盛り上がっていった。


(Photo by @asiangirrlfriend

 Taigen Kawabe のソロ・プロジェクト ILL JAPONIA のラフなライヴと、Tohji のUKデビュー・ライヴでは満員のフロアの注目を集めた。Tohji の英語の「俺たちはモールからやってきた、わかるだろ、俺はモール時代のリーダーなんだよ」という言葉はお客さんにも刺さったように見えた。確かにショッピングモールは世界中のどこにでもあるし、そのバックグラウンドから生まれるヴァイブスは、国境を越えて共有できるものだ。シンプルな彼のメッセージが海を越えてロンドンの若者と共鳴している感じがした。

 3時間に及ぶサウンド・クラッシュを制したのはMCが入り乱れて盛り上げた地元のクルー TT。彼らの優勝をフロアが拍手で称えた。お互いを認め合う雰囲気が溢れた素晴らしい一晩だった。
 長い1日の疲労感と達成感を感じつつ、Uber を捕まえてホテルに帰ったのは朝の7時だった。

■ 2019年8月24日 午後5時

 サウンド・クラッシュで出会った M.I.C は、TT の一員としてエネルギー溢れるMCを披露していた。そんな彼が、Reprezent ラジオでのショーに招待してくれた。Reprezent ラジオは Brixton Pop という場所にある。蒸し暑い地下鉄を乗り継いで、Brixton に向かった。


(手前が KIBO (237 mob)、奥が M.I.C

 ジャマイカ系やアフリカ系のルーツを持つ人びとが多く暮らすこのエリアでは、翌日から開催予定のカーニヴァルを前にして賑わいにあふれていた。Reprezent Radio のラジオ局がある Brixton Pop でも屋台やサウンドシステムのステージが大盛況で、そんな街のエネルギーに押されてか、M.I.C と 237 mob の KIBO との2時間セッションも熱に溢れたセットとなった。ライヴセットやサイドMCで鍛えられたフリースタイルとふたりのエネルギーには感嘆するばかりだった。

 約1週間のロンドン滞在の端々で感じたのは、他のクルーに対するリスペクトだ。例えばセッションした M.I.C が「言葉はわからないけど Tohji は凄くよかったよ、(対戦相手ではなくて)お客さんとして見たかったよ」と言ってたように、お互いが違う生まれ育ち、違う言語を話すことをリスペクトして、言語や違いを超えたヴァイブスを共有するという姿勢が感じられた。

 言葉やバックグラウンドの違いを認め合い、それぞれをリスペクトした上で、共有できるヴァイブスを掴みにいく。インターネットで分断された時代に、感性を通じて繋がれる。そんなアイディアをロンドンで見つけたような気がした。

Yanis Varoufakis × Brian Eno - ele-king

 バイクで通勤し、皮ジャンで演説する大臣──そんな政治家が他にどれくらいいるだろう? 見た目も主張もユニークなギリシャの元財務大臣ヤニス・ヴァルファキスは、今年になって一気に邦訳が刊行されはじめたので、その存在が気になっている方も多いだろう。ダイヤモンド社の『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』と明石書店の『黒い匣 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命』はしょっちゅう本屋で見かけるし、何を隠そう、最近 ele-king books も彼の主著『わたしたちを救う経済学』(原題『And the Weak Suffer What They Must? (弱者は耐えるのみ?)』)を発売したばかりだ。ちょっとだけ宣伝しておくと、第二次世界大戦後の世界経済の流れを、物語を読むように俯瞰できる1冊で、なぜいまヨーロッパが大変なことになっているのか、その原因がわかりやすく記述されている。
 で、本題。そのヴァルファキスと、ご存じアンビエントのゴッドファーザー=ブライアン・イーノが、11月4日にロンドンで開催されるトーク・イヴェントに出演、互いに意見を交わすことになった。一見まったくちがう世界に属しているように見えるふたりだけれど、じつは彼らは「本当に民主的なEU」の創出を目指す運動「DiEM25(Democracy in Europe Movement 2025)」で共闘する仲で(イーノは DiEM25 のテーマ曲も担当)、すでに4年前に『ガーディアン』紙でも対談している。今回の議題は「カネと、権力と、ラディカルな変革への呼びかけ」だそうで、ごく僅かな人びとのみ豊かにし、残りの大多数を貧困に陥れるグローバルな金融システムが、いかにわたしたちの社会の首を絞めているかについて語られる模様。
 主催はロンドンのインテリジェンス・スクウェアードという、世界各地でトーク・イヴェントを展開している企業で、当日の司会はBBCのジャーナリスト、リテュラ・シャーが務める。会場はチェルシーのカドガン・ホール。現地在住の方、または渡英予定のある方はぜひご参加を。

https://www.intelligencesquared.com/events/yanis-varoufakis-and-brian-eno-on-money-power-and-the-need-for-radical-change/

Tohji - ele-king

 先日リリースされた初のミックステープ『angel』が話題の Tohji が、同作収録曲“Snowboarding”(prod. by MURVSAKI)のMVを公開した。監督を務めているのは、『angel』のアートワークを担当した Anton Reva で、Tohji の属する Mall Boyz のプロダクション・チームによって制作されており、ダークなトラックとリンクした独特の雰囲気を携えている。要チェックです。

Tohji による話題の 1st Mixtape 『angel』から、カバーアートを担当した Anton Reva ディレクションによる “Snowboarding” のミュージック・ビデオがリリース

8月7日にリリースされ、シーンを超えて大きな話題を呼んでいる Tohji の1st Mixtape 『angel』から、“Snowboarding” のミュージック・ビデオが9月1日19時に公開される。

Mixtape のティーザー時点から高い注目を集めていた、カバーアートを担当したアートディレクター Anton Reva によるディレクション、Mall Boyz のプロダクションチームによって本MVは制作。

日本を代表するトラックメーカーである MURVSAKI によって作られた、不気味ながらもハードなトラックに Tohji ならではのフローが加えられているこの楽曲。ミュージック・ビデオでは我々には馴染んだよくある景色がディレクター独自の解釈で切り取られ、Tohji の姿と共にデジタルとアナログ両方の手法で再構築されることにより、他のアーティストでは表現できない唯一無二の雰囲気を醸し出している。

ベトナム・ハノイを拠点とする気鋭の映像制作チーム、ANTIANTIART による「HI-CHEW」のミュージック・ビデオに続き、Post Malone や Rejjie Snow を手がけるロシア人アートディレクター Anton Reva による2つ目のビデオ公開となったが、この後も何曲か収録曲のビデオ公開が予定されているため、今後もグローバルにクリエイティビティの幅を広げ続ける Tohji と Mall Boyz の動きから目が離せない。

“Snowboarding” MV
https://youtu.be/oeZUDIRPl6M

クレジット
Director/Editor: Anton Reva https://www.instagram.com/savemymind
Producer: Keiichi Toyama
Production Assistant: Yaona Sui https://www.instagram.com/llllllll.llllllll.llllllll

Ellen Arkbro - ele-king

 これはドローンのハードコアとでもいうべきアルバムだ。静謐だが硬質。しかしまったく軟弱ではない。サウンドのコアというべき音が選び抜かれ、そして持続する。いわば21世紀的なミニマリズムの追求とでもいうべき楽曲たち。そう、エレン・アークブロの2年ぶりのアルバムのことである。

 エレン・アークブロ(Ellen Arkbro)は、スウェーデンはストックホルム出身のサウンドアーティスト/作曲家/パフォーマーである。彼女は主に楽器のドローンを基調とする音楽作品・楽曲を制作し、エンプティセットのアルバムなどで知られる〈Subtext〉からアルバム『For Organ And Brass』(2017)をリリースしている。パイプオルガン、コンピューター、ギターなどを演奏するマルチプレイヤーでもある。

 2017年のアルバム『For Organ And Brass』は名前のとおりオルガンと管楽器によるドローン作品だった。ミニマルな音階の変化も作曲され、牧歌的な雰囲気を醸し出していた。しかし決して軟弱な楽曲ではない。一切の余剰と雑味を排除したような音響は、楽器の特性の本質を抽出したような響きを放っており、聴覚の遠近法が拡張するような感覚を得ることができたのだ。ラ・モンテ・ヤングから影響を受けているということも納得の出来であった。

 前作から2年の歳月をかけてリリースされた新作アルバム『CHORDS』は、音楽の痕跡をさらに極限までミニマルに削ぎ落とした長尺のドローン/ミニマルな楽曲が2曲収録されている。今回、用いられた楽器はオルガンとギターのみで、それぞれの楽曲を聴くことができる。おそらくアルバム名どおり「コード」をテーマにしているのだろうが、2曲とも単に和音を演奏しているだけのような安易な真似はしていない。そうではなくて「コード」そのものを解体するような音響を作曲/構築していた。
 選び抜かれたトーンで構築されたドローン/楽曲は、前作に微かに残存していたモダン・クラシカルなムードも消し去られ、オルガンとギターの音響のコアを抽出したようなミニマルアート的な音響作品に仕上がっていた。

 1曲め“CHORDS for organ ”はオルガンをノイズ生成装置のように用いる。倍音も控えめであり、あらゆる感傷を排したオルガンが発するハードコアな持続音が鳴らされていく。聴き込んでいくにつれ響きのテクスチャーに耳が敏感になる。それゆえ不意に音が変化するときの響きの変化が耳に鮮烈な驚きを与えてくれもするのだ。
 2曲め“CHORDS for guitar”はギターのための楽曲だが、ここでもコードは分散和音的に解体される。“CHORDS for organ”とは異なり、ギター特有の豊かな倍音も鳴り響いており、その結果、分解されたコードのむこうに、透明なカーテンのような別の音の集合体が聴き取ることができた。この曲はそんなギターの音が17分弱ほど持続し反復する。時間の融解、分解、拡張。反復の極限としての持続とでもいうべきか。

 現代のドローン/エクスペリメンタル・シーンの重要作家カリ・マローン、サラ・ダヴァチー(Sarah Davachi)、エミリー・A・スプレイグ(Emily A. Sprague)、カテリーナ・バルビエリ(Caterina Barbieri)、フェリシア・アトキンソン(Felicia Atkinson)らは今年、揃って傑作アルバムをリリースしたが、どれも「時が溶けるような持続を持ちながらも、それでいて音じたいは明晰でもある」という極めて現代的な音響作品であった。
 この『CHORDS』も同様である。しかも彼女の音はそのなかでも、もっともミニマルな仕上がりだ。あまりにミニマルなドローンは苦手という方も、ぜひいちど雑念を払いのけるように、これらのサウンドに耳を全開にして、いわば無になって本作を聴いて(摂取?)してほしい。音の快楽が拡張するような新しい聴取体験が生まれるのではないかと思う。

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