「Nothing」と一致するもの

角銅真実 - ele-king

 遡ることおよそ三年前の2017年4月15日に、水道橋のCDショップ兼イベント・スペース「Ftarri」にて、英国のサウンド・アーティスト/即興演奏家デイヴィッド・トゥープの来日公演が開催された。トゥープ含め全三組のアーティストがライヴを繰り広げた同イベントで、一セットめに出演した角銅真実のソロ・パフォーマンスがいまだに忘れられない。スピーカーから音を出力することのないキーボードを叩きながらハミングを披露し、カタカタという乾いた打鍵の響きとなんらかの楽曲らしき歌のようなものが聴こえてくる。しばらくすると会場にばらまかれた無線ラジオにつながれたイヤホンから微かに伴奏が漏れ聴こえ、その後ピアノで演奏することで楽曲のサウンドの全体像が明らかになる。さらに、ポータブル・カセット・プレーヤーから同じ楽曲の録音が再生され、キーボードを介した音のない行為と録音された音だけのサウンド、さらに眼前でピアノを介して歌われる音楽という、少なくとも三種類の楽曲のありようが観ること/聴くことの経験のうちに相互に記憶のなかで関係し合い、パフォーマンスにおいてわたしたちがなにを音楽として受け取っているのかということについてあらためて考えさせられる機会となった。そしてこのようなある種コンセプチュアルな試みでありながら、概念が先行する硬直性とは無縁の、行為そのものの楽しさと悦びにあふれていたことがなによりも印象に残っている。

 cero のサポートやドラマー石若駿による Songbook Trio をはじめ、網守将平率いる「バクテリアコレクティヴ」のメンバーとして、あるいは台湾のアーティスト王虹凱(ワン・ホンカイ)による共同制作プロセスを作品化した「サザン・クレアオーディエンス」のリアライズや、坪口昌恭ら気鋭のジャズ・ミュージシャンとともにアンソニー・ブラクストンの楽曲を演奏するプロジェクト、さらにはアジアン・ミーティング・フェスティバル2019への参加まで、打楽器奏者/シンガーソングライターの角銅真実の活動は驚くほど多岐にわたっている。むろん彼女自身のソロ・パフォーマンスやインスタレーション作品、あるいはアンサンブル・ユニット「タコマンションオーケストラ」も見落とすことはできないものの、単にジャンル横断的というよりも、どんな領域でも違和感なく共存できてしまう柔軟性が彼女にはあるように感じられる。サウンド・アーティストの大城真によるレーベル〈Basic Function〉から2017年にファースト・アルバム『時間の上に夢が飛んでいる』を、翌2018年には〈Apollo Sounds〉からセカンド・アルバム『Ya Chaika』をリリースしてきた彼女が、このたびメジャー・デビュー作としてサード・アルバム『oar』を発表することとなった。

 ヴォイスを楽器の一部であるかのように音響素材の一つとして駆使したファーストから、実験的/即興的な感触を残しつつ歌の比重が増したセカンドを経て、サード・アルバムでは歌が全面的に披露されている。大幅なアレンジが施されているものの、浅川マキの “わたしの金曜日” やフィッシュマンズの “いかれたBaby” のカヴァーも収録されており、彼女のこれまでの作品のなかでもっとも「音楽」に近づいたアルバムだと言っていいだろう。洗練された都会的なコード進行や憂いを帯びながらも力強い歌声、あるいは流麗なストリングス・アレンジなどは、ポップ・ソングと呼んでもよい完成度を誇っているものの、そうしたなかでたとえば1曲め “December 13” の冒頭から聴こえてくるイルカの鳴き声と電子音響が混じり合った大和田俊によるサウンド、あるいは雨だれのように物音が乱れ飛ぶ7曲め “Slice of Time” など、節々に音楽というよりも音そのものに対する興味がうかがえるところが、単なるポップ・シンガーというくくりには収めることのできない彼女の広範なバックグラウンドを示しているようにも思う。

 角銅真実が出演するライヴに行くたびに、客層がガラリと変わることにいつも奇妙な違和感を覚えてきた。ノン・ジャンルを標榜するミュージシャンは無数に存在しており、いまの時代にジャンルを越境/横断することそれ自体に特別な価値があるとも思えない。だがたとえば、リスナーがある音楽をポップス/ジャズ/サウンド・アート/エクスペリメンタル/即興……等々に区分することで自らの耳を閉ざしているのに対して、作り手はそうした分断をよそに交流と制作を繰り返していく。もちろんリスナーはどんな音楽に対しても等しく共感する必要はない。しかし同時に、どんな音楽でもこの世界に存在することは認められなければならない。『oar』のオフィシャル・インタヴューで角銅が「本当の真実ってないし、本当に分かち合えることってない。でも、分かり合えない人たちが一緒にいる状況はおもしろい」と語っていたように、異なる人々が異なるままに共感とは別のあり方で共存すること。それはおそらく、彼女の活動を追い続けることで、実体験として感得できる「おもしろさ」であるとともに、音楽のみならず社会の蛸壺化が進行するなかで、他者とともに同時代を生きる術でもあるのではないだろうか。

Dirty Projectors - ele-king

 一昨年『Lamp Lit Prose』で高らかに生を謳歌したNYインディ・シーンの希望の星、ダーティ・プロジェクターズが1年半ぶりとなる新曲 “Overlord” をリリースしている。耳に残る主旋律とDPらしいコーラスが印象的な1曲だけど、はてさて、これは次なるアルバムへの布石なのかしらん? なお、ヴィデオはデイヴ・ロングストレスみずからが監督を務めているとのこと。

[3月26日追記]
 新情報! 先日公開された新曲は、EPへの布石だったようです。明日3月27日、ダーティ・プロジェクターズの最新EP「Windows Open」がリリースされます。新たに “Search For Life” も公開。楽しみだー。

Dirty Projectors
デイヴ・ロングストレス率いるダーティー・プロジェクターズが
最新EP「Windows Open」を3月27日にリリース!
新曲 “Search For Life” のリリックビデオを公開!

デイヴ・ロングストレス率いるブルックリン出身のバンド、ダーティー・プロジェクターズ。先月1年半ぶりの新曲 “Overlord” を、デイヴ自身が監督として手掛けたミュージック・ビデオと共にリリースし、シーンに戻ってきた彼らが、3月27日に最新EP「Windows Open」をリリースすることを発表! 新章のスタートとなる本作には、『Lamp Lit Prose』ツアーで参加したメンバーが参加し、レイドバックで詩的な魅力に溢れる4曲を収録。その中から新たに “Search For Life” が解禁され、リリック・ビデオが公開された。オリヴァー・ヒルによるストリングスのアレンジが見事なバラードとなっており、今世界を巻き込んでいる危機的な状況の中、本楽曲はより深い響きを放っている。

Search For Life (Official Lyric Video)
https://youtu.be/Oi-iUpec_6M

「Windows Open」ではマイア・フリードマンが全曲でリード・ヴォーカルを務め、作曲、プロデュース、ミックスのすべてをデイヴ・ロングストレスが担当。歌詞はデイヴとマイアが共同で担当し、レコーディングはロサンゼルスで行われた。

label: DOMINO
artist: Dirty Projectors
title: Windows Open
release date: 2020/03/27 FRI ON SALE

TRACKLITSING
01. On The Breeze
02. Overlord
03. Search For Life
04. Guarding The Baby

Dirty Projectors
ブルックリン出身、独創的かつハート・ウォーミングなサウンドで
人気を集めるバンド、ダーティー・プロジェクターズが1年半ぶりとなる
新曲 “Overlord” をMVと共にリリース!

デイヴ・ロングストレス率いるブルックリン出身のバンド、ダーティー・プロジェクターズ。〈Domino〉移籍後、初めて発表した2009年の5作目『Bitte Orca』が、その年の年間チャートを総なめにし、本格的にブレイク。その後もビョークとのチャリティー・コラボ作品のリリース、朝霧ジャムのヘッドライナーとしての出演、そして前作『Lamp Lit Prose』を提げてフジロック・フェスティバルへの出演も果たすなど着実にステップアップを遂げてきた彼らが、前作より1年半ぶりの新曲 “Overlord” をリリース! 同時にデイヴ自身が監督として手掛けたミュージックビデオを公開!

Dirty Projectors - Overlord (Official Music Video)
https://youtu.be/LzHGYtIqLig

監視資本主義への皮肉? 混乱ばかりを生む世界のリーダーたちへの批判? テクノロジーへの盲目的な過信への警告? アンチ・ファシズムのマニフェスト? そんなことは誰も知る由もないが、“Overlord” はジョニ・ミッチェル “Both Sides Now” の現代版と言っても過言ではない。アコースティックギター、コントラバス、コンガ、ドラム、3部合唱によって紡ぎ出されるリラックスした暖かいサウンドは紛れもなく、アルバム『Swing Lo Magellan』以降のダーティー・プロジェクターズのサウンドとなっている。楽曲中、ギタリストのマイア・フリードマンがリードボーカルを担当し、プロデューサーであるデイヴと共に作詞を行った。他にもフェリシア・ダグラスとクリスティン・スリップがコーラス、ナット・ボールドウィンがコントラバス、マウロ・レフォスコがコンゴとして参加している。

label: BEAT RECORDS / DOMINO
artist: Dirty Projectors
title: Overlord
release date: NOW ON SALE

 即興音楽とはなにか、との問いにジョン・コルベットは本書のまえがきで「即興演奏(improvisation)でつくられた音楽」と端的に答えている。おっしゃるとおり至極単純。それらをさしてひとは、あるいはメディアはフリー・インプロヴィゼーション、フリー・ミュージック、スポンタニアス・ミュージック、はたまたインスタント・コンポジションなどと呼びならわすが、本書のあつかう即興音楽は即興演奏だけでできた音楽、それのみをさす。すなわちまじりっけなし、純度100パーセントの即興でできた音楽──というときの「即興」というものは、ではなにかという疑問に、コルベットは事前のとりきめなく、曲を憶えることもなく、演奏の進行と同時にできていく音楽なのだという、その点では音楽の分野を問わず遍在する即興という行為の多様性からその核にあるものをうかびあがらせようとするデレク・ベイリーの主著にして、この分野の書物の古典中の古典である『インプロヴィゼーション──即興演奏の彼方へ』とは射程は異にするものの、コルベットはそもそもベイリーのむこうを張るかのごときだいそれたことは考えていないとも言明している。なんとなれば、この小ぶりな本は題名どおり『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』であるのだからして。
 そもそもなぜ即興音楽に「聴取の手引き」が必要なのか。そうおっしゃる読者はおそらく即興音楽になじみがうすい。というのも、即興音楽に真剣にむきあおうにも、どう聴いていいのかわからない事態に直面した音楽ファンもすくなくないであろうから。なぜならそこには通常の意味でのメロディがない、明晰なリズムもハーモニーもなければ楽曲の構造をほのめかす形式もなく、それに沿って展開する(ときに弁証法的な)物語性も、あたかも蒸発したかのようで言語化しがたい。このようなないないづくしは一見、即興音楽の制約であるかにみえる。ところが私たちがふだん耳にする音楽におぼえる美的興奮こそ、ルールの枠に則ったものにすぎず、即興とはその枠組みの外の新雪のような余白に(危険をかえりみず)踏みだしていく行為であり、演奏や作品は既存の文脈になじまないだけで、美学的かつ批評的な水準も存在する。すばらしいものとそんなにすばらしくはないものがあるが、そのちがいを理解するには時間と経験がいる。ちょっとの軍資金も必要かもしれない。思えば遠い道のりだった。そうひとりごち、私はレコード棚をふりかえると夥しい数の即興音楽の音盤の背が手招きする。私はいまにも頬ずりせんばかりにレコード棚ににじりよる。一枚一枚に思い出も思い入れもある。私はついさっき、即興音楽には(も)出来不出来があると述べた。棚の音盤を眺めるとたしかにそのとおりだと確信を深めもするが、しかしそうみなす理由はなんなのだろう。即興音楽を判断する基準みたいなものがあるのだろうか。その基準は私という個人に固有のものだろうか、それともプラトンのいうイデアみたいなものでもあるのか。じつは愛好家や評論家諸氏はフィギュアスケートのように即興に点数をつけているのだとして、はたしてなにをもって何点とするのか。そもそも原理的に無限といえるほど多種多様なあらわれ方をする即興音楽全体にあてはまる基準など存在するのか、またそれをだれが把握できるのか。とはいえ即興音楽も音楽であるからにはかならずや、演ること以上に聴く側にだって方法論がいる。
 ポップスやロック、ジャズやクラシックでも、形式が確立した分野の作品なら、数をこなせば自分なりの聴き方が身につけられる。おそらく多くの音楽リスナーはそのようにしてあらゆる音楽をふるいにかけながら聴き方を学んでいく、その一方で既存の音楽の枠組みの外を視野に入れる即興音楽にとって形式は土台というより制約にちかい。したがってリスナーも作品や演奏ごとに新たな聴き方をたちあげる──べきなのだが、聴くたびにふりだしに戻っていてはなかなか厄介である。記憶(の獲得ないし喪失)と即興のかねあいはこの分野をつきつめる課程でおりにふれて顔を出す重要な命題だが、『聴取の手引き』はそのような考える楽しみのちょっと手前で、まずは聴くことの楽しみの発見を手助けしようとする。
 全体は大きく基礎編と発展編にわかれ、音盤や人名リストが付録としてつく構成をとっている。コルベットがまえがきで即興音楽の定義を述べていることはすでに述べたが、それをもとに基礎編以降はじっさいに音楽を聴く段階にはいっていく。おもしろいのはふつうならここで、即興音楽の聴きどころをあげていくものなのにコルベットは聴くにあたってのハードルを列挙するところ。すなわち「リズム(がない)」「時間(が読めない)」「誰がなにをしているのか(わからない)」という、先述の即興音楽の「NAI-NAI 16」をクリアする手立てに紙幅を割く、その懇切丁寧な筆の運びをいささか乱暴に要約すると、私たちがふだんよく耳にする音楽では韻律的(メトリカル)なリズムが方眼(グリッド)の役目をはたし音楽を定量化するが、即興音楽ではドラムやベースなど、一般的な合奏形態内で時間(タイム)をキープし、ビートないしグルーヴを生み出す役割を担うパートも期待どおりに機能しない。機能していけないわけではないのだが、そうなったらなっただけ因習的な形態にちかづくから既知感もます。そもそもたえざる変化を旨とする即興音楽において反復は両立不能な命題ともいえる(むろん戦略的な反復ないし形態の模倣は選択肢として排除しないとして)のだが、演奏にじっくり耳を澄ませると周期性のないなかにも変化は感じられる(反復していないのだからむしろ変化しかないともいえる)。とはいえその変化はパターン化できるようなものではなく、終わりもみえない。この演奏はいったいいつまでつづくのだろうという疑問(不安)は下世話なようでいて、即興演奏にはじめてふれる聴き手には死活問題である。なにせひとの集中力はそんなにはつづかない。有限の集中力を適切にふりわけるには演奏の見取り図があると便利だが、即興音楽はクラシックみたくプログラムノートもない。とはいえ演奏者がラ・モンテ・ヤングでもなければ、即興演奏とてほとんど常識的な時間内に終了する。常識的というのは、1曲(セット)20~30分で、2セットやったとして1時間とちょっと。ときおりノンストップの長大な即興をくりひろげるライヴもあるが、すくなくとも1時間半のうちには親切なお店の方の出すビールにありつけるというコルベットの見立てには私もおおむね同意する。むろんそれ以前でも、あなたには自由に席を立つ権利がある。とはいえせっかくなので演奏は最後まで楽しみたい、そうすると音楽全体が体感できる。ただしそこで起こるすべてを理解する必要はない──そもそもそんなことは人間にはほとんど不可能かもしれない──が、演奏の空間で起こる出来事の残像みたいなものは認識できないともかぎらない。その輪郭を記憶にとどめたりメモをとったりすると、あなたの手のなかの地図は音楽を比較、検討するときに役立つかもしれない。すくなくとも理解の目安にはなりますよね。
「そうそう、出来事といえば、さっきのライヴではサックス奏者が牽かれていく牛のような嘶きを発したのに呼応するかのようにドラムスとベースがドナドナっぽくなったのは圧巻でした」
「とてもいい目のつけどころです、即興音楽の出来事とは演奏者どうしの『相互作用のダイナミクス』からできているのですから」
「相互作用のダイナミクス?」
 そうです。即興はいっさいのとりきめがないことはご存じですよね。とはいえ複数の演奏が参加する場合、演奏者どうしに関係性のようなものが生まれ、それらは(1)調和、(2)補足、(3)対比の3種で特徴づけられ、そのさいの音楽的エネルギ—は(1)集中、(2)拡散のどちらかをとるとコルベットは述べています。それらをパラメータにした演奏者どうしの関係性が「相互作用のダイナミックス」であり、著者は作中で代表的な7パターン(と派生的な数パターン)をとりあげていいます。この一連のながれはレーベルを運営する熟達の聴き手にして演奏家でもある著書の経験を多面的に動員した本書の読みどころのひとつ。詳細は読者諸兄ご自身の目でたしかめられたいが、一例だけあげると、「サポート/ステップアップ」と名づけた関係性では、ある演奏者があたかも即興(合奏)の前景に歩みでるかのように、それまでの演奏と異なる音楽的言明をおこない、状況が相対化(し場面が転換する)ことを意味するが、意見の一致/不一致などの単純に論争的なダイナミクスの外の思弁的な重層性を明記したのはみのがせない。このように、即時的な丁々発止 インタープレイ)におさまらない即興音楽特有の(非)協働性は音楽的時(空)間の屈曲を招き、変化をきたす時間の幅が狭まれば、やがてシュトックハウゼンいうところのモメント(瞬間)形式に漸近するという説など、コルベットの見立てにはこみいった概念や記述を端折ったがゆえの陥穽もある(それもまた本書の性格に由来するとも思うのだ)が、その真摯な語り口にのぼる即興の諸相に虚心にむきあえば、私たちは演奏家が事前の計画も予備的なスケッチもなくおこなった演奏を、「聴く」という全的行為と記憶をたよりに溯及的に構造化するまでになる。このとき、(宿命的に)音楽のいちぶである演奏家にはけっしてとどかない聴取者の特権、無数の解釈にひらかれた、音楽を聴くことの不意のゆたかさがあなたを撃つのである。
 入門者の好奇心をくすぐりながら中級者の共感を呼び、すれっからしの微笑をさそう──根幹となる基礎編をへて状況論にも目配せする後半部で本書はいよいよ発展編にはいっていく。とはいえ『手引き』たるもの、いたずらに小難しかったり高尚になっては立つ瀬がない。そこで著者は具体的な事例をまじえつつ、レコードリストも掲げながら、一貫する機知で即興音楽の原理を浮きぼりにする。
 なかでも「情熱点火」と題した作品リストは端的で趣意に富んでいる。あがっているのは20枚だが、ポール・ラザフォードの『The Gentle Harm Of The Bourgeoisie』にはじまるセレクトは即興の旨味を凝縮している。また同時に、コルベットの即興観の根底にはおそらく(というか当然)ジャズがあり、聴取のポイントとしては個々の音楽家の語法のたしかさと、それらの合奏における働き方を重視していることをうかがわせる。そう考えるのは作品の中身もさることながら、それらがソロからデュオ、トリオからオーケストラまでを網羅しているのでもわかる。即興にとって編成は喫緊の課題である。このことについて著者は数ページあとに「3の法則」として一節とって述べている。いわく、ソロとデュオ、トリオとそれ以上では即興の関係性(ダイナミクス)のあり方がちがう。その見立てに則って、さきのリストでもソロからオーケストラまで形態のちがう作品を、コルベットは選出していたのだが、これにより意図したのはオススメのフォーマットがあるとかではなく、異なる編成それぞれに特徴があり、おそらくコルベットはその階調の広がりに即興音楽の魅力をみている。そのことは、ハシ休め風の「極端な仮説に挟まれ踊る」にもあらわれている。この節で著者は以下の思考実験をもちだしてくる。すなわち(1)すべてが即興である、(2)なにも即興ではない。このふたつの命題は、たとえば譜面の再現を前提とするクラシックの演奏家にも解釈の自由があるようにあらゆる音楽には即興的な側面が存在し、他方で、ライプニッツではないが即興音楽の錦のミハタである自由なるものもじつはけっこう予定調和ちゃうん!? ということなのだが、結論からいえば、コルベット自身は両方を極論として退けている。つまるところすべての音楽は即興の面ではそのふたつを両端としてのその線分上のどこかにある、と述べて、それこそが「メッセージの明瞭さと整然たる解決ということ以外の(引用者注:即興音楽の)価値」といいたがっているかに私にはみえる。いうなれば「聴く人を宙吊りにしておくやもしれぬ音楽のプロセス」でありつづけることが即興音楽の即興音楽たるゆえんであるということである。むろんそれが原理主義に収斂しては元も子もないのであって、即興音楽の「道徳的優位性」をもちだす信奉者にしっかりクギをさす著者の即興観なるものを『手引き』の本文を借りて述べれば「フリー・インプロヴィゼーションは音楽をつくりだす一方法であって、独立した価値や特質ではありません」ということになるだろうか。むろんその「方法」がおそるべき深みをもっているのはそこかしこにほのめかしてあるし、巻末の人名リスト、さらに付録として掲載した細田成嗣作成によるブックガイドと録音作品リストは欧米が主軸の本書に、日本と近隣諸国から届けられた重要作を補い『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』の有用性を高めている。その一方で、細田が指摘する「魅力的な即興の世界が無数にある」という可能態は選ばれた演奏家や作品の記名性と抵触するおそれもある、というこの問いは『手引き』たる本書の圏域外だとしても、即興音楽の門のむこうにはそのようにきわめて人間的で思弁的な領野が広がっているのがわかる。みなさんはいままさにそのとば口に立っているというわけです。
 ようこそ即興音楽の世界へ。

Jaga Jazzist - ele-king

 こいつは電撃的なニュースだ。これまで〈Smalltown Supersound〉や〈Ninja Tune〉からリリースを重ねてきたジャズもロックも呑みこむノルウェーの野心的音楽集団=ジャガ・ジャジストが、なんと〈Brainfeeder〉に移籍! そして、じつに5年ぶりの新作を4月24日にリリースする!! トンスベリの異能とLAの異端との邂逅……これはバンドとレーベル、双方にとって転機になる出来事だろう。なお、きたるニュー・アルバムには冨田勲やフェラ・クティへのトリビュートも含まれているらしい。昨年のアムガラ・テンプルの来日公演も良かったし、今回はいったいどんな演奏を聞かせてくれるのか。アルバムめっちゃ楽しみや~。


ノルウェーを代表する異能音楽集団、ジャガ・ジャジストが
フライング・ロータス率いる〈Brainfeeder〉に電撃移籍!
冨田勲に敬意を表し、フェラ・クティに想いを馳せた
初のセルフプロデュース・アルバム『Pyramid』が4月24日にリリース決定!
新曲 “Spiral Era” 本日公開!

1994年に結成され、現代音楽からプログレッシヴ・ロック、ジャズ、エレクトロニカまで様々なスタイルを取り入れながら活動をしているノルウェーが誇る異能音楽集団、ジャガ・ジャジストが、2015年の前作『Starfire』以来となる最新アルバム『Pyramid』を、フライング・ロータス主宰レーベル〈Brainfeeder〉より4月24日(金)にリリース決定! 同時に新曲 “Spiral Era” を公開した。

Jaga Jazzist - Spiral Era
https://www.youtube.com/watch?v=HnLUe4MMraY


バンドの核であり、すべての作曲を手がけるラーシュ・ホーントヴェット率いるジャガ・ジャジストは、本作『Pyramid』で、また新しいコズミック・サウンドを手に入れた。電子音を駆使した80年代のジャズ・バンドや、ノルウェーにおけるシンセ・ミュージックの第一人者ストーレ・ストールロッケンから、現代のテーム・インパラ、トッド・テリエ、ジョン・ホプキンスといったアーティストに敬意を表している。アルバムは4曲の長尺トラックで構成されており、丁寧に練られた楽章に沿って進行し、鮮やかな色彩の糸を紡ぎ出している。

ジャガ・ジャジストにとって初めてのセルフプロデュース・アルバムとなる『Pyramid』。彼らの制作工程は、これまでの環境から大きく変化した。多くのアイデアを自由に出すことができた一方で、どのアイデアを採用するかを、自分たち自身で決断することが必要だった。ドラマーのマーティン・ホーントヴェットは「大変だったけれど、自分たちで作業するのが自然だと感じた。メンバーのうち5人はプロデューサーだし、生業としてレコードを作っているわけだから」と語る。その結果、今までにないほどメンバーの団結力を感じられる作品が誕生した。

彼らは『Pyramid』をコンセプト・アルバムとは形容しないが、各楽曲のタイトルをコンセプチュアルなスタート地点と位置付けており、聴き手は楽曲からどんな物語も描きだすことができる。“Tomita” は、日本人の作曲家でシンセ奏者の冨田勲に捧げられており、“The Shrine” は、フェラ・クティが活動拠点としたライヴ・ハウスに由来する。

このアルバムは、これ自体が一つの交響曲だと思っていて、それぞれのパートに余白を持たせ、自由に広がっていくようにしているんだ。 - Lars Horntveth

ジャガ・ジャジスト待望の最新作は4月24日(金)にリリース! 国内盤CDにはボーナストラックが収録され、解説が封入される。また、輸入盤LPはクリスタル・クリア・ヴァイナル仕様となっている。

label: BRAINFEEDER/BEAT RECORDS
artist: JAGA JAZZIST
title: Pyramid
release date: 2020/04/24 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-636 ¥2,200+税
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説書封入

BEATINK: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10879
Apple Music: https://apple.co/380lgwr
iTunes Store: https://apple.co/2VooeIu

Trinitron - ele-king

 東京にこんな音楽があったなんて! トリニトロンは2010年から2012年にかけて活動していた〈Call And Response〉の4人組バンドである。今回リマスターされた限定CD-Rには、高円寺のベッドルームでつくられたというニューウェイヴ、ポストパンク、シンセポップの数々がめいっぱい詰め込まれている。ブラック・サバスやキャンディーズ、パフュームなどのカヴァーも収録されているが、“Liquidi Liquids” や “One Great Year in Tsukuba” あたりはテクノ耳で聴いてもかっこいいし、“My Boring Feelings” のドキッとさせられるリリックは音楽好きなら必聴かも。レーベルによればブライアン・イーノやDAF、デペッシュ・モードやトーキング・ヘッズ、ステレオラブが好きなひとはぜひ、とのこと。チェック。

artisit: Trinitron
title: make.believe - All of Trinitron
label: Call And Response
catalog #: CAR-51
release date: February 25th, 2020

tracklist:

01. Music to Watch Boys By
02. Heart no Ace ga Detekonai (Candies cover)
03. 10,000 Euros
04. Monday Club
05. Comment is Free
06. Democracy
07. Paranoid (Black Sabbath cover)
08. Liquidi Liquids
09. My Boring Feelings
10. Edge (Perfume cover)
11. The Pure Light of True Love
12. Match no Hono (Mir cover)
13. Namida wo Misenaide (Moulin Rouge/Wink cover)
14. One Great Year in Tsukuba
15. Killer Wave
16. Aus with the Ausgang
17. Polo Shirts Girl
18. Sweet Blue Flowers
19. Kids and Girls

https://callandresponse.jimdofree.com/releases/trinitron-make-believe-all-of-trinitron/

Jeff Parker & The New Breed - ele-king

 トータス、アイソトープ217、シカゴ・アンダーグラウンドなどで活躍し、そもそもはシカゴ音響派~ポスト・ロックの文脈から登場してきたギタリストのジェフ・パーカー。先日もトータスのメンバーとして来日公演をおこなっていたが、そんなジェフにとって2016年の『ザ・ニュー・ブリード』はヒップホップとジャズの関係を探ったアルバムだった。彼にとってヒップホップとはプロデューサーが作る音楽、ポスト・プロダクションによって再構築された音楽であり、『ザ・ニュー・ブリード』はたとえばJ・ディラあたりから影響を受けたヒップホップ的なビートとジャズ・ギターのインプロヴィゼイションを融合し、トータルなバンド・サウンドとして展開していた。ニューヨーク・タイムズやロサンゼルス・タイムズなど、さまざまなメディアで2016年の年間ベストに選出されたこのアルバムによって、ジェフ・パーカーはソロ・アーティストとしての確固たる地位を築いたが、それから4年ぶりのニュー・アルバムが『スイート・フォー・マックス・ブラウン』である。

 『スイート・フォー・マックス・ブラウン』は『ザ・ニュー・ブリード』の姉妹作というような位置づけで、『ザ・ニュー・ブリード』がジェフの亡き父親に捧げられていたのに対し、存命の母親に捧げたものとなっている(マックス・ブラウンは母親の旧姓で、アルバムのジャケットは若いときの彼女の写真である)。制作メンバーも『ザ・ニュー・ブリード』を引き継ぐ形となり、ジェフとポール・ブライアン(ベース)の共同プロデュースのもと、ジョシュ・ジョンソン(サックス、ピアノ)、ジャマイア・ウィリアムズ(ドラムス)というザ・ニュー・ブリード・バンドが演奏の核となる。ジェフはギターのほかにピアノ、シンセ、ドラムなどをマルチに操り、ヴォーカルやサンプラーも担当している。『ザ・ニュー・ブリード』にはトータスのジョン・マッケンタイアがゲスト参加していたが、今回はシカゴ・アンダーグラウンドやアイソトープ217での盟友のロブ・マズレク(ピッコロ・トランペット)、〈インターナショナル・アンセム〉のレーベル・メイトであるマカヤ・マクレイヴン(ドラムス、サンプラー)、『ザ・ニュー・ブリード』にも参加していたジェイ・ベルローズ(ドラムス)のほか、ネイト・ウォルコット(トランペット)、カティンカ・クレイン(チェロ)が参加している。『ザ・ニュー・ブリード』に続いて、ジェフの娘であるルビー・パーカーも “ビルド・ア・ネスト” という曲でヴォーカルを披露している。

 前回はボビー・ハッチャーソンの “ヴィジョンズ” をカヴァーしていたが、今回はジョン・コルトレーンの “アフター・ザ・レイン” (1963年の『インプレッションズ』収録曲)を演奏するほか、ジョー・ヘンダーソンの “ブラック・ナルキッソス” (1969年の『パワー・トゥ・ザ・ピープル』収録で、1976年の同名アルバムでも再演)をもとにした “グナルシス” を作るなど、往年のジャズの巨星たちの作品を取り上げている。その “アフター・ザ・レイン” はレイドバックした雰囲気の漂う演奏で、バレアリックなスピリチュアル・ジャズとでも言おうか。現在はロサンゼルスを拠点としているジェフだが、同じ地域のミゲル・アットウッド・ファーガソンやカルロス・ニーニョあたりの空気に通じるものを感じさせる。“グナルシス” はループ感のあるヒップホップ・ビートに乗せて、演奏そのものもエディットやサンプリングを交えて再構築し、『ザ・ニュー・ブリード』での方法論をそのまま推し進めたものとなっている。ここでのドラムはマカヤ・マクレイヴンだが、同じくマカヤがドラムを叩く “ゴー・アウェイ” はシカゴやデトロイト的なゲットー・フィーリング溢れるもので、言うなればセオ・パリッシュやムーディーマンのジャズ版とでも言えるだろうか。全体的にミニマルな演奏で、ハンド・クラップを交えたビートもハウスとジャズ・ファンクを混ぜたような感じだ。“フュージョン・スワール” の前半部はこの別ヴァージョン的なトラックで、ドラム・ビートとベースのループにハンド・クラップや掛け声を混ぜ込み、初期シカゴ・ハウスからデトロイト・テクノ的なニュアンスを感じさせる。この曲はジェフがひとりでギターやベース、パーカッションからサンプラー、ヴォーカルを駆使して作っているが、カール・クレイグのインナーゾーン・オーケストラによる “バグズ・イン・ザ・ベースビン” とか、今田勝をサンプリングしたパトリック・パルシンガーの “シティライツ” を連想させる。この “ゴー・アウェイ” や “フュージョン・スワール” を聴く限り、『スイート・フォー・マックス・ブラウン』ではヒップホップからさらに発展した幅広いビートの探求をおこなっていることがわかる。

 『ザ・ニュー・ブリード』のリリース後のインタヴューでは、影響を受けたジャズ・ギタリストの中にジム・ホールやケニー・バレルなどトラディッショナルなプレイヤーの名前も挙げていて意外だなと思ったのだが、“3・フォー・L” はそんな大御所たちから受け継いだブルージーな味わいが光るナンバー。“ビルド・ア・ネスト” もノスタルジックな味わいで、ブルースやゴスペルなど古き良き時代の黒人音楽が持つムードを感じさせる。ちょうどアルバム・ジャケットのマックス・ブラウンのセピア色の写真にピッタリのナンバーで、この曲をジェフの娘のルビー・パーカーが歌っているというのも親子孫3代に渡る絆や歴史を感じさせる。母の名前をタイトルにした “マックス・ブラウン” は10分を超える大作で、ミニマルでシンプルなクラップ・ビートに始まって、ジェフやジョシュ・ジョンソン、ネイト・ウォルコットらがじっくりとそれぞれのソロを展開するという構成。比較的淡々と演奏が進んでいくが、後半にいくにつれてジャマイア・ウィリアムズのドラムが次第にインパクトを広げ、終盤はジェフのギターのフィードバックがループしていくという、トータスあたりの演奏に繋がる曲だ。こうした楽曲の間をさまざまな小曲やインタールード風ナンバーが埋めていくのだが、その中の “カモン・ナウ” や “メタモルフォーシズ” はまったくギターを用いずにサンプラーやシーケンサーなどで作り上げたもの。曲間やスペースをビートのループやアンビントなレイヤーで埋めていき、ジェフのサウンド・プロデューサーぶりにますます拍車が掛かっている。

Darkstar - ele-king

 去る2月19日、ダークスターが新曲 “Wolf” をデジタル・オンリーでリリースしている。細やかな音響、相変わらず哀愁を帯びた旋律……いやおうなく感情が揺さぶられます。「不吉なものの接近」がテーマになっているらしいので、なるほど最近のホラー映画あたりが念頭に置かれているのかな、なんて想像をめぐらせてみたけれど、彼ら自身が例としてあげているのはなんと、請求書! た、たしかにそれは不吉だわ。

Darkstar
UKアンダーグラウンド・シーンが産んだ唯一無二のエレクトロニック・ポップ・ミュージックを作り出すユニット、ダークスターが新曲 “Wolf” をリリース!

2010年のデビュー以来、唯一無二な音楽性を有したエレクトロニック・ポップ・ミュージックを作り上げてきたダークスター。アクトレス、ワイルド・ビースツ、ゾンビーらとのコラボレーションを行い、ジョン・ホプキンスやフォー・テットとも交友のある彼らが、新曲 “Wolf” をリリース!

Darkstar – Wolf (Official Audio)
https://youtu.be/V0kzgU0eQTk

“Wolf” は何か不吉なものが迫ってくることに関する曲なんだ。請求書だったり、悪者だったりするね。図々しい感じのリリックとソウルフルなトラックの対比で遊びたかったんだ。 ──Darkstar

UKのトレンドとプログレ、アンビエント、テクノ、ヒップホップ、グライムといったUK音楽史の普遍的なコンテンツを融合することで新しい音楽を提案してきたダークスターは2015年にリリースしたアルバム『Foam Island』以来、スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンとの共作でも話題となった世界屈指のオルガン奏者ジェイムズ・マクヴィニーやエンプレス・オブ、そしてガイカといった面々とのコラボレーションを行い、常にフレッシュな環境で音楽を作り出してきた。また、セントポール室内管弦楽団との共演や移民のコミュニティと一緒にインスタレーションやパフォーマンスを行い、アート寄りな活動も行うなど幅広い活躍を見せている。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Darkstar
title: Wolf
release: NOW ON SALE

当世ハウス事情 - ele-king

 ハウスといえば12インチだけれど、この激動のネット時代、やはりSNSの影響は大きく、いろいろと状況が変化してきているようだ。世代交代が進む一方で、ヴェテランの復活も目立つようになってきている。UKジャズとの接点、世代を超えたコラボ、90年代リヴァイヴァル、ヴォーカルものの復権、ひそかにうねりを生み出すフランス……などなど、紙エレ年末号でジャンル別コラムの「ハウス」を担当してくれたDJ/プロデューサーの Midori Aoyama、現在 TSUBAKI FM の2周年記念ツアー真っ最中の彼に、近年のシーンの動向について語ってもらった。

イメージを気にせず、世代も関係なくヴェテランと若いひとがやったり、ハウスとかヒップホップとかジャズがクロスオーヴァーしていくのが可視化されてきた感じはある。

まずは謝っておかないといけないことがあります。Midori さんには紙エレ最新号で、2019年のハウスを総括する記事を執筆していただいているんですが(120頁)、冒頭の「ラブル・アンダーソンのトリビュート楽曲」という箇所は、正しくは「2019年はポール・トラブル・アンダーソンのトリビュート楽曲」でした。編集部のミスです。申し訳ありません。

Midori Aoyama(以下、MA):いえいえ。

それで、その原稿はここ数年のゴスペル・ハウス・リヴァイヴァルの話からはじまっています。まずはその流れについてお聞きしたいですね。

MA:5年くらいまえから生音に回帰する流れがあって、所謂テクノからまたハウスへという流れを感じてて。2007年ころは、マイアミでウィンター・ミュージック・カンファレンスがあったりしてハウスが盛り上がっていたけど、2010年から2015年ころはベルリンが世界の中心というか、ベルグハインとかがすごくメインストリームになっていたし、テクノが流行っていた。でもそれからみんながテクノに飽きてきて、またハウスを聴くようになってきている。それが5年まえくらい。たとえばベルグハインのとなりのパノラマバーでサダー・バハーのようなシカゴのDJがやったり、NYのソウルフルなハウスとかアメリカのヴォーカル・ハウスみたいなものがリヴァイヴァルするということがあった。
 そのハウスの流れにゴスペルが入ってきた。たとえば最近カニエ・ウェストがゴスペルのアルバムを出したけど、もともと曲が出るまえにゴスペルをやる「サンデー・サーヴィス」というイヴェントを日曜日にキム・カーダシアンと一緒にやっていたんだよね。そういうのもあって、若い人がゴスペルを聴く流れができているのかなという気がします。

ポール・トラブル・アンダーソンはどういうポジションのひとなんでしょう? Kiss FM の初期メンバーですよね。

MA:ずっとロンドンの Kiss FM でやっていて、そのあとも Mi-Soul という老舗のラジオでずっとパーソナリティをやっていた。フェスとかのソウル・ブースでもロンドンのローカルなDJを紹介したり。だから、2018年に亡くなったときはUKでは大きなニュースになった。彼は、“Oh Happy Day” というエドウィン・ホーキンスの曲のカヴァーを BPM128 くらいのハウスでプロデュースしていて、〈BBE〉がそのトリビュート楽曲を2019年の1月にリリースした。SNSでもみんなポールのことを書いていたし、個人的にはそれが思い出になっている。ポールに限らず、そのころからまたソウルフルなハウスとか生音が来ている感じはしますね。

リエディットやリイシューはいっぱいあったけれど、いわゆるマスターピースが出なかった年だったとも書いてありましたね。

MA:2019年で印象に残ったのは、UKジャズの切り口でいうと、ジョー・アーモン・ジョーンズだったり、もともとソロでディープ・ハウスをつくっていたニュー・グラフィック・アンサンブルだったり。あとはメルボルンのハーヴィー・サザーランドヌビア・ガルシアをフィーチャーしたり、そういう流れが強かった。ハウスのプロデューサーはあまり出てこなかったかなという印象。
 ちょっと話がそれるけど、いまってデジタルでも年々曲が売れなくなってきてて……。特にハウスとかのダンス・ミュージックが。例えば Spotify で聴くときも、みんなだいたいスロウなミュージックだったりするし、聴くシチュエーションも朝起きたときとか寝るまえとか、あるいは通勤・通学のときとか。だからクラブ・ミュージックを聴きたくなるのは、もともとかなりテクノやハウスが好きだったとか、ドライヴのときに気分を上げるためとか、シチュエーションが限定されてくる。だからつくり手も、クラブ・ミュージックをつくる機会がどんどん少なくなってきていると思う。むかしは曲の長さが10分とかざらにあったけど、いまのEDMのようなメジャーなダンス・ミュージックの曲って2~3分のものが多いし。

いわゆるレディオ・エディットですよね。フルレングスは12インチに入っているという。

MA:でもそれでもう満足しちゃうというか。レコードも以前は数千枚とか売れていたけど、いまは数百枚だし。そうなると、むかしは曲をつくるときはスタジオを借りてミュージシャンを集めてレコーディングしてミキシングして、っていうのが普通だったけど、そういうことができなくなったから、自宅で篭ってつくって、もともとある素材をサンプリングしたりして、うまく生音っぽく整えてリリースする。アーティストが時間やお金をかけて曲をつくることが難しくなったのが、そういうふうになった原因なのかな。

そんな状況のなか、唯一マスターピースと呼べそうなのが、ベン・ウェストビーチとコンによるザ・ヴィジョンだと。

MA:“Heaven” という曲です。オリジナルは〈Defected〉から出ていて、それをダニー・クリヴィットがオフィシャルでエディットして、それがバズった。 “Reachin', Searchin'” というロバート・ワトソンの1978年の有名なネタをサンプリングしているんですが、ジャイルス・ピーターソンもそれを知っていて、そういうネタがどうこうっていう話題や、あとジョー(・クラウゼル)がこの曲を Boiler Room でプレイした動画もあって、SNSが人気の追い風になった。

アンドレア・トリアナを起用したことがいちばん評価に値するとも書いていますね。それは、どういう意味で?

MA:単純に、ゴスペル・ハウスって現役のシンガーの平均年齢が高いと思う。ケニー・ボビアンとかジョシュ・ミランとか、若くても50代。ソウルフルなブラックのハウスって、若くて強烈なシンガーがいまの時代に出にくい印象。有名なシンガーはどうしてもヒップホップやポップスに走っちゃうし。そんななか、彼女のようなシンガーにソウルフルなハウス・トラックでクラシカルなスタイルで歌わせるという、ベンとコンの起用法がすばらしい。でもサンプルはむかしのもので、フレッシュな部分とむかしながらの部分がうまく融合されている。

アンドレア・トリアナというと、ぼくなんかはフライング・ロータスの印象が強いんですよね。あと〈Ninja Tune〉周辺でよくフィーチャーされているシンガーだなというイメージで。そういうひとがいまハウスの文脈につながっている。原稿ではアレックス・アティアスの盤も挙がっていますが、そこに客演しているジョージア・アン・マルドロウも、いまおなじように多彩な動きをみせているシンガーなのかなと思いました。16FLIP とやったり

MA:ジョー・アーモン・ジョーンズの “Yellow Dandelion” もそう。ジャンルをまたいでコラボレイトすることは、声を売っているひとたちからすると、自分のイメージを気にするひとも少なくないと思うんだよね。でもそういうのを気にせず、世代も関係なくヴェテランと若いひとがやったり、ハウスとかヒップホップとかジャズがクロスオーヴァーしていくのが可視化されてきた感じはある。自然とそういう流れができているんじゃないかな。数年前に比べてヴォーカル・ハウスのリリースが増えたと思う。

それはなぜ?

MA:世の中的なこともあると思う。世界情勢とか。暗いムード、バッドなムードのときは明るい音楽とかが求められるのかなと。ポジティヴなメッセージとか、ポジティヴなヴァイブスを届けようってひとが増えてきてる気がするし。そういうメッセージを受け取りたいリスナーも増えてきている。あとやっぱり、一周して90’sリヴァイヴァルが来ているのが大きい。今回の号(ダブ特集)もそうですよね。それ自体はずっとまえからあったけど、たとえば Mars89 さんたちの音楽を20代や10代が聴いて、「おもしろい、ダブってなんだろう」ってなっているんだと思う。ハウスも90’sとか、00年代前半ころにおもしろかったサウンドやカタログが、また再評価されているんじゃないかなと思うんだよね。

テクノもそうですしね。

MA:ただ、単純にリヴァイヴァルすればいいということではなくて、アップデイトしていく作業がすごく大事だと思う。たとえば、いまルイ・ヴェガがエレメンツ・オブ・ライフ(ELO)を復活させているんだけど、自分のファミリーだったジョシュ・ミランとかアナーネとかルイシート・キンテーロみたいなひとを引き続きフィーチャーしつつ、他方でちゃんと新しいシンガーとかキーボーディストを招いているのはおもしろい。いまは、そういう動きをしているプロデューサーとかDJが評価されていると思う。原稿では「流れに乗り遅れた者が居場所を失っていく」って書いたけど、補足するとそういうこと。しかもルイは今度、ヘンリー・ウーと一緒に曲をつくるのね。年内に〈BBE〉から出すらしい。そういう流れもすごくいいと思う。

へえ! NYのラテン・カルチャーといまのサウス・ロンドンがつながるって画期的ですよ。

MA:ルイはUKのレーベルからのリリースもあるし、もともとイギリスのフュージョンの影響も少なからず受けていたはず。もちろんNYの影響も間違いなくあるけど、ソウルとかサルサに加えてヨーロッパのインフルエンスも間違いなく受けていたと思う。

しかも世代を超えて。

MA:ハウスの分野では世代交代が進んでいて、世界のトップ・クラブとかトップ・フェスとか主要なレーベルでやっているひとたちって、いま30代が中心。僕をフランスのフェスにブッキングしてくれるクルーもそれくらいだし、ダニー・クリヴィットの後輩で「LOVE INJECTION」っていうフリーペイパーを出しているメンバーも世代が近い。ジョー・アーモン・ジョーンズもまだ20代後半。他方で、いまルイだったり、アレックス・アティアスのようなヴェテランがカムバックしてきて、若いひとたちと組んでやっているのはおもしろいよね。松浦(俊夫)さんもそうだし。僕ら世代の良いところは、ヴェテランと若者世代のどちらも繋がっているところ。それこそ可能性で言えば50代の人と10代の人を繋げたプロジェクトだってできる。それができるのは僕らしかいないから。それがいまいちばん求められていることなんじゃないかなと感じている。

僕ら世代の良いところは、ヴェテランと若者世代のどちらも繋がっているところ。それこそ可能性で言えば50代の人と10代の人を繋げたプロジェクトだってできる。それができるのは僕らしかいない。

なるほど。ちなみに原稿では「ジャジー」と「テッキー」という分け方をしていましたよね。ここまでの話がおおよそ「ジャジー」側の話だとすると、「テッキー」側はどういう感じなんでしょう?

MA:「テッキー」をいちばん体現しているのはブラック・コーヒーやペギー・グーかな。彼らはフェスをメインの戦場にしていて、フェス以外のとき、ふだんはどこでやっているのかというと、イビサでやっている。イビサのトレンドって、すこしまえはリカルド・ヴィラロボスとかリッチー・ホウティンとかだったけど、いまはブラック・コーヒーがレジデントだったり。それこそルイ・ヴィトンのディレクターを務めてるヴァージル・アブローと一緒にプレイもしている。そういうハイ・ファッションな流れ。オシャレに感度の高い若いデザイナーが、そういう音楽をやろうよという空気になってきているよね。こないだホアン・アトキンスのサイボトロンがルイ・ヴィトンのランウェイでパフォーマンスしたり。やっぱりヴァージル・アブローの存在が大きいんだと思う。そういう状況を10代のキッズとか、20代のファッショニスタとかデザイナーとかモデルとかが見て、かっこいいと思ったり。そういう流れができているのを実際に肌で感じる。そしてその流れに追随しようとしているハウスのDJやプロデューサーがいて、それがイビサという島を起点に、ドイツやオランダやアメリカに広がっているなと。

あと原稿を読んで、いまフランスがキイになっているのかなとも思いました。

MA:フランスってもともと植民地を持っていた背景があるから、アフリカからの移民もすごく多くて、アフリカ大陸のサウンド、ブラック・ミュージックが好きな人も多い。ニュー・グラフィック・アンサンブルもフランス人で、原稿に書いたリロイ・バージェスの “Work It Out” で一緒にやっていたセイヴィング・ココもフランス人。リリース元の〈Favourite〉もフランスのレーベルだし。以前リロイはハーヴィー・サザーランドと一緒に歌って、そのときはメルボルンのバンドだったんだけど、今回の新曲はリロイ以外全員フランス出身。あと、フローティング・ポインツの〈Melodies International〉って知ってますか?

激レアなソウルとかをリイシューしまくっている。

MA:うんうん。あれもフローティング・ポインツと一緒にやっているのはフランス人だしね。あと彼らは日本の音楽もディグっていて、和モノのリイシューとかもけっこうフランス人がやっていたり。オタク気質というか、掘りはじめるとすごいんだよ。

テクノ~エクスペリメンタル方面でも、いまフランスの〈Latency〉っていうレーベルがおもしろいんですよ。あと年末号でインタヴューしたダンスホールのロウ・ジャックもフランス人だった。

MA:テクノの Concrete っていうクラブができはじめたくらいから流れが変わってきたのかな。10年くらいまえまではみんな幹線道路の外で、郊外でパーティをやっていた。でもいまは幹線道路の中でもできるようになってきていて。若い人が集まって曲をつくったり、パーティをしたり、クラブを作ったり、フェスをしたり、どんどんそういうおもしろいプロジェクトをやりはじめている。それがひとつの大きなうねりになってきている。
 あと、彼らには地元のスターをみんなで応援しようという意識が強い。10年くらいまえに一度だけイビザに遊びに行ったことがあるんだけど、客がフランス人ばっかりで(笑)。日本でも、たとえばガルニエが来日するとフランス人がいっぱい来る。僕がフランス人のDJをブッキングするときも、応援に来るし。「地元のやつだから応援する」みたいな理屈があるというか。そういう気質が、いまのローカルをサポートする草の根的なあり方と合っているんだと思う。だから僕のまわりはいまフランス人に囲まれているかもね(笑)。

Ratgrave - ele-king

 UKジャズ・シーンにおける重要人物、年末にはルイ・ヴェガとのコラボも控えるヘンリー・ウーことカマール・ウィリアムス主宰の〈Black Focus〉から、新たにアツいタレントの登場だ。彼らの名はラットグレイヴ。〈Ninja Tune〉からもリリースのあるマックス・グレーフと、ベーシストのユリウス・コンラッドから成る2人組である。先行公開された2曲を聴くかぎり、いろんな要素の折衷されたファンクネスあふれる作品に仕上がっている模様。
 ちなみに〈Black Focus〉は2018年にマンスール・ブラウンのアルバムをリリース、つい最近ではヴェテラン、スティーヴ・スペイセックの新作も送り出している。

Ratgrave
モダン・エレクトロニック・フュージョン!
カマール・ウィリアムスことヘンリー・ウー率いる〈Black Focus〉より、マックス・グレーフとベーシストのユリウス・コンラッドによるデュオ、
ラットグレイヴの最新作『Rock』が3月20日(金)リリース決定!
収録曲 “Instant Toothpaste” “Theme From Metronome” を公開!

グレン・アストロとのコラボレーションで名門〈Ninja Tune〉からアルバム・リリースをしているマックス・グレーフとベーシストのユリウス・コンラッドによるデュオ、ラットグレイヴの最新作『Rock』が、サウス・ロンドンのジャズとハウスが疾走する猥雑な交差点にしてすでに高いプロップスを獲得している、カマール・ウィリアムスことヘンリー・ウー率いるロンドンの重要レーベル〈Black Focus〉より3月20日(金)リリース決定! 収録曲 “Instant Toothpaste” “Theme From Metronome” を公開!

Ratgrave - Instant Toothpaste (Official Audio)
https://youtu.be/gUtwFgfwcXI

Ratgrave - Theme From Metronome (Official Audio)
https://youtu.be/01X2uSKhAts

フローティング・ポインツが見出した鬼才、ファンキンイーブン率いる〈Apron Records〉からリリースし、高評価を得たデビューアルバム『Ratgrave』に続く今作は、2人のマルチプレイヤーが80年代のファンク、ソウル、ロック、そしてエレクトロニック・ミュージックからの影響を現代の感覚をもって昇華したサウンドとなっている。時にまだ見ぬマップ・オブ・アフリカの新譜を聴いているような、時にスライ&ロビーとパット・メセニーが人力ハウスを披露したら? など音楽好きにはたまらない甘い妄想へと誘う快作!

『Rock』は異なる音楽のジャンルから感じ取ったエネルギーやヴァイブスの本質を捉えて表現したものだ。好きなものを全て繋げて出来たものっていう感じだね。アルバムをレコーディングしているときは常にその事を意識していたよ。生々しくて荒々しいジャズ・ロックのエネルギーも入っているし、たくさんのビデオゲームの要素も入ってる、ギターポップやサイケデリックな音楽の影響もある。レコーディングの時は Blue Cheer、Black Sabbath、Frank Zappa、Jimi Hendrix といったヘビーな音楽も聴いていた。そして、作曲をしている時に静かな曲の中でもそういったヘビーな音楽の影響がいかに大きかということに気付かされた。だから、P-Funk やスピリチュアル・ジャズ、そして色んなポップ・ミュージックなどが入ったアルバムだけど『Rock』というタイトルが相応しいと思ったんだ。 ──Ratgrave

待望の最新作『Rock』は3月20日に国内流通仕様盤、輸入盤CD/LP、デジタルでリリース! 国内流通仕様盤には解説が封入される。

label: Black Focus / Beat Records
artist: Ratgrave
title: Rock
release: 2020.3.20

CD / Digital tracklisting:
01. Escobar
02. Theme From Metronome
03. World Aid
04. Instant Toothpaste
05. Eternal Breeze
06. Yurok
07. 4 Benz
08. Dibidai
09. Rock
10. Bleeding To Death
11. Sturf
12. Alright
13. Mutti Hat Gekocht

Vinyl tracklisting:
Side A
A1. Escobar
A2. Theme From Metronome
A3. World Aid
A4. Instant Toothpaste
A5. Eternal Breeze
A6. Yurok
A7. 4 Benz
Side B
B1. Dibidai
B2. Rock
B3. Bleeding To Death
B4. Sturf
B5. Alright
B6. Mutti Hat Gekocht


 DSZ is Back!
 先日亡くなった飯島直樹さんのレコード店、Disc Shop Zeroが3月~4月のみオープンする。
 お店に行ってレコードを買おう。
 3/1(日)ー 4月末頃まで

 14:00-21:00 土日
 17:00-21:00 月火

 カード決済不可、現金のみ
 通販なし、店頭販売のみ
 https://bs0.stoa.jp/dsz/

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