「Nothing」と一致するもの

SPARTA - ele-king

 新しい音楽に出会ったときのわくわく感がある。

 実を言うと、トラップ以降に登場したオートチューンをかけて歌うフロウのラップが苦手だった。もちろんなかには好きな曲もある。ただ自分がなんでしっくりこないのかずっとわからなくて、「俺は時代に付いて行けてないのか」、なんなら「本当はヒップホップ好きじゃないんじゃないか」というレベルで悩んでいた。

 最近 SPARTA のライヴを観る機会があった。新型コロナウイルスの感染拡大予防対策で、観客は声出し禁止の公演だったので、演者からするとやりづらさもあったはず。だがその状況で SPARTA は音楽でコミュニケーションをとりながら素晴らしいパフォーマンスをしていた。彼は KOHH からの影響を公言していて、いわゆるトラップ以降の歌うフロウを多用する。だけどめっちゃ好きだった。なにせ彼は歌がうまいのだ。声量もしっかりあって、オートチューンを使いこなしてる感じがあった。

 そこから仙人掌鎮座DOPENESSMoment Joon とマイクリレーした Red Bull RASEN、さらに ISSUGI、SANTAWORLDVIEW との “POSSIBLE” を見て「間違いなく好き」と確信した。

 じゃあ SPARTA は何が違うのかと『兆し』もがっつり聴いてみると、とにかくメロディーが多彩なのだ。特に自分はもともとUKロックが大好きで、USのグランジ・ムーヴメントの時期に青春を過ごしたから、感覚的に音楽の好き嫌いをメロディーで決めている節があることに気づいた。トラップの歌はメロディーというよりあくまでリズム重視のフロウで、ラップほど角がなく、聴いていてバラエティに欠ける気がしてしまい、それが自分のなかの違和感につながっていた。

『兆し』は SPARTA のメロディー・センスがさらに際立つ作品だ。トラックもメロディアスだが、そこに引っ張られすぎない。SPARTA のアプローチが独特で、ラップと歌の引き出しも多い。だが奇をてらっている感はなく、全体的な印象はあくまでオーセンティック。だから新しい音楽に出会ったときのわくわく感がある。

 個人的に好きな曲はまず “One By One”。同じくメロディー・センスに定評のあるプロデューサー・KM との相性の良さを感じさせる。単語単位で押韻していく「でかいでかい舞台 狭い世界向かい 深く誓い/願う未来 偉大 偉大 未開 開き 明るい兆しと朝日が登るよう」というラインが特に好きだ。CM曲に起用されればいいのに。次の “Jungle feat. anddy toy store” も四つ打ちのヒップホップ好きとしてはたまらない。プロデューサーの Mizukami はアルバムの前半3曲を手がける No Beer Team のメンバーでもある。客演の anddy toy store とスイッチする場所も面白い。

 いちばんのお気に入りは、これまた KM トラックになるが先行曲 “Stay Humble” だ。トラックと SPARTA の個性が絡み合い、複雑なメロディーとグルーヴを作り出している。音楽へのひたむきさをポジティヴに表現した強力なフック「Gold chain Money n Bitchで?/見てる先はその上/まだまだ足りないって/お金でも買えない/誰も教えない/俺ならできるはず」もいい。力が出る。「辞めちゃいけない人生を」というラインに説得力を持たせる。

 メロディーやラップのアプローチは複雑でユニークだが楽曲としてはキャッチー。しかもリリックのステイトメントはポジティヴ。背伸びしない自分の言葉をラップにしているのもいい。こういう人を “センスがいい” と言うのだと思った。

 まずは1曲目 “Narrow Road” を聴いてみてほしい。ニコラス・ジャーによる憂いを含んだヴォーカルがエディットされ、デイヴ・ハリントンによる蠱惑的なギターが空間を引き裂いている。グリッチと、いくつかの細やかな具体音。アンビエントの要素もある。シングル曲 “The Limit” やサイケデリックな “I'm The Echo” で聴かれるジャーの高い声のある部分はどこかボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンを想起させ、“The Question Is To See It All” ではハリントンがロック・ギターの種々のパターンを披露、“Inside Is Out There” では感傷的なピアノが曲全体の強烈なサイケデリアを中和している。あるいは、アルバムの随所で顔をのぞかせる、中期カンの即興性。本作にはじつにさまざまな音楽のアイディアが凝縮されている。
 ダークサイドは、ふたりがソロではできないことをぶつけあい、美しく結晶化させるプロジェクトだ。ジャーの側から眺めればこれは、『Space Is Only Noise』をバンド・サウンドと衝突させた作品であり、ハリントンの側から眺めればこれは、即興のダイナミズムを編集によって制御し、電子音響の氷室へと封じこめた作品である。このアルバムではカンのように、セッションとエディット双方のすばらしいマジックが発動している。
 だれかひとり圧倒的なスターがいて、そいつが180度世界を塗り変える──物語としてはわかりやすいが、現実はそうではない。ポップ・ミュージックは組み合わせであり、幾多の先人たちの試みを後進が継承し、新たな創意工夫をもって前進させていく。ダークサイドは、そんなポップ・ミュージックの本質そのものを表現しているようだ。

 デイヴ・ハリントンについて補足しておこう。マルチ・インストゥルメンタリストの彼はNYのインディ・ロック・バンド、アームズの元メンバーとしても知られているが、もともとはジャズに入れこみ、ビル・フリゼールやジョン・ゾーンから影響を受け、ニッティング・ファクトリーでプレイするなど、当地の即興シーンで活躍していたギタリストだ。
 ダークサイドでの成功のあとも即興演奏家として活動をつづける一方、2018年にはバロウズ作品に登場する「ドリーム・マシーン」なる装置を具現化するコンサートを企画、ザ・マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカ、イギー・ポップ、ジェネシス・P=オリッジオリヴァー・コーツ、ジーナ・パーキンス、グレッグ・フォックス、〈PAN〉のビル・クーリガスら、そうそうたる顔ぶれに召集をかけてもいる。
 ダークサイドが最初に注目を集めたのは2011年の「Darkside EP」。その後2013年に彼らはダフトサイド名義でダフト・パンクのアルバム『Random Access Memories』をまるごとリミックス、オリジナルとは似ても似つかぬ特異なサウンドへとつくり変えている。同年にはファースト・アルバム『Psychic』もリリースされ、サイド・プロジェクトの域を超える高評価を獲得するに至った。ツアーも精力的にこなし、2014年におこなわれたライヴは2020年に音盤化されている。それから8年のときを経て届けられたのが、今回の新作『Spiral』だ。
 録音は2018年だという。なぜこのタイミングで? 『Spiral』の魅力はサウンドだけではない。たとえば “Lawmaker” のリリック。「彼は必要な治療法を知っている/人びとは喜び笑う/これまでどれほど大変だったか/でもそれも楽になる、と人びとは口にする」「彼は白衣を着ていた/だがその手には議員の指輪」。この背筋が凍る歌詞からは、2020年以降のパンデミック下における政治的なあれこれを連想せずにはいられない。きわめてタイムリーだ。
 注目の新作について、ジャーとハリントン、双方がメールで質問に答えてくれた。

俺たちは音楽制作を、内側から外側へとおこなっている。そして俺は個人的には、音楽がつくられているときには、なるべく、いま現在のその瞬間をたいせつにしたいと思っている。(ハリントン)

まずはダークサイドの基本的なことからお聞かせください。スタートは2011年のようですが、このプロジェクトはどういう経緯で、どういう意図のもとはじまったものなのでしょう?

デイヴ・ハリントン(Dave Harrington、以下DH):2010年に、ニコがアルバム『Space is Only Noise』のツアー・バンドを結成するというときに、ウィル・エプスタイン(ニコラス・ジャーのライヴ・バンドのメンバー)からニコを紹介されたんだ。俺はそのバンドの一員となり、一緒に練習をしたり、即興演奏をしたりして、2011年の初めからツアーを開始した。 その年の夏、ニコと俺はツアーのオフの日に、ホテルの部屋で一緒にジャムをはじめて、それが結果として俺たちのファーストEPになった。それ以来、俺たちは一緒に演奏をして、音楽をつくり、実験的なことや即興的なことをやっていたというわけさ。

ニコラス・ジャー(Nicolás Jaar、以下NJ):デイヴが答えてくれたね :)

ニコラスさんによれば、ダークサイドは「ジャム・バンド」で「休みの日にやること」とのことですが、つまりこのプロジェクトにはある種の気軽さがあるということでしょうか?

NJ:そう、ダークサイドはデイヴと一緒に音楽をつくるという美しい体験がもとになっているんだ。そのプロセスは、穏やかで、長い視点を持っている。彼と一緒にいるとき、自分は2021年に向けて音楽をつくっているという感覚がないんだ。俺たちは、どんな場所にでも、いつの時代にも存在していられるという感覚がある。

デイヴさんはダークサイドを「ぼくらが一緒に音楽をつくるときにあらわれる、部屋のなかの三番めの存在」と説明していますが、三番めの存在ということは、たんに1+1ではなく、ふたりで為しえること以上のなにかがこのプロジェクトにはある、ということでしょうか?

DH:俺たちが一緒にこのプロジェクトをやるときは、普段とはちがうことをしていて、アプローチも普段と異なったり、アイディアも普段とはべつのものを使うようにしている。ダークサイドらしいと感じられるアイディアを追求する余白をつくるようにしているんだ。もちろん、そういうアイディアは俺たち個人の嗜好や探求心から来ている部分もあると思うけれど、俺たちがダークサイドとして音楽をつくるときは、基本的ななにかを共有しているという実感があるんだ。

俺たちは鏡をのぞいて正直にならなければいけなかった。ごまかしなどいっさいせずに。でも俺たちは未来を見据えることもできなかった。すべては、現在という瞬間に感じる直感を原動力にするのが狙いだった。(ジャー)

「ダークサイド」という名前にしたのはなぜですか? おふたりそれぞれの活動では出せないダークな部分を出そうということ?

NJ:最初は冗談でつけたんだけど、それが定着したんだ。ありえないほど壮大な名前だよね、いろいろな意味で大きすぎる! でも、こういうのって一度選んでしまうと変えるのが難しいから、俺たちはダークサイドのままなんだよ!

レーベルが〈マタドール〉になったのはどういう経緯で?

NJ:〈マタドール〉から連絡が来て、〈マタドール〉からリリースするのが合っていると思ったから。ちょうどそのときに俺とデイヴは、『PsychicPsychic』の収録曲となったダークサイドの音楽をつくっていたからね。

〈マタドール〉のカタログでいちばん好きなアルバムを教えてください。

DH:ワオ。〈Matador〉の歴史は長いから、好きな作品はほんとうにたくさんあるよ。選ぶのが難しいけど、〈Matador〉の新譜でいちばん好きなのは、すばらしいエムドゥ・モクターの『Afrique Victime』だね。 あのレコードは最高だよ。

NJ:キャット・パワーのアルバムは、俺の青年時代にすごく大事なものだった!

今年はダフト・パンクが解散しました。彼らについてコメントをください。

NJ:最高なバンド。

ニコラスさんはここ数年のあいだ、アゲンスト・アール・ロジックとしての作品やFKAツイッグスのプロデュース、自身のソロ作など活動が多岐に渡っていますが、そのなかで大きな転機となる仕事はありましたか?

NJ:とくにこれという瞬間があるわけじゃない。でも、『SIRENS』のツアーが終わったときに、人生のちょっとした転機が訪れた。俺はニューヨークを離れてヨーロッパに移り、酒やタバコ、その他もろもろをやめた。2017年以降、すべてのことが俺にとっては違うように感じられたけれど、それは外から見てもわからないかもしれないね :)

デイヴさんは、デイヴ・ハリントン・グループやライツ・フルアレセント(Lights Fluorescent)としての作品がある一方、Chris Forsyth たちとのセッション盤もリリースされていますが、ご自身のなかではそれぞれどういう位置づけなのでしょう?

DH:俺は即興演奏が大好きでね。即興演奏のような音楽の練習の仕方をしていると、刺戟的で驚くようなコラボレイションにつながっていく。自分にその気さえあればね。俺はそういうコラボレイションにすごく興味を持っている。俺が興味を持っている音楽にはさまざまなモードやギアがたくさんあるんだ。そういったさまざまな音楽──たとえそれらが根本的に異なる音楽であるとしても──を追求することを自分にとっての練習の一部として認めれば認めるほど、さまざまな状況のなかで挑戦することができ、さまざまな音楽のシナリオに貢献できるということがわかった。 多様性はインスピレイションにつながるということ。

デイヴさんは、チボ・マットの羽鳥美保ともカセットを出していたようですね。どういう経緯で彼女とセッションすることに? また、たったの35本限定だったようですが、いつかわれわれ一般のリスナーが聴くチャンスは訪れるのでしょうか?

DH:ミホはほんとうにすばらしいミュージシャンだよ! 最後に会ったのはもう2年近く前だから、また彼女と一緒に演奏したい。彼女に電話して、あのカセットのことを聞いてみようかな。いつかちゃんとリリースできたら嬉しいからね。ミホと俺は、ニューヨークの即興/ジャズ界のミュージシャンのネットワークを通じて知り合った。俺の記憶が正しければ、ふたりとも大規模なアンサンブルの即興コンサートに招待されたんだけど、そのときに意気投合して、その大人数のバンドのなかでも、ふたりのあいだにおもしろい瞬間があった。その後、彼女は俺のバンドであるメリー・プランクスターズと一緒に何度かライヴに参加してくれた。俺と彼女は即興演奏にたいするアプローチがとても似ているから、その後も一緒に音楽をつくろうと思ったのは自然な流れだったね。

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俺にとってこの2枚のレコードは、ある瞬間の記録であり、イメージであると同時に、それらはつねに未完成であり、人びとがこの2枚を聴き、俺たちがこの2枚に収録されている曲を演奏し、探求していくなかで、この音楽は生き続け、変化していく。(ハリントン)

前作『Psychic』は高い評価を得ました。今回、それがプレッシャーになることはありましたか?

DH:俺が(ニコラスと)ふたたび一緒に音楽をつくりはじめ、『Spiral』の制作に取り組んだのは、ニコと一緒に音楽をつくりたいと思ったからだった。またふたりで音楽をやりはじめたら楽しくて、刺戟的で、作曲のプロセスは自然に勢いを増していった。俺たちは音楽制作を、内側から外側へとおこなっている。そして俺は個人的には、音楽がつくられているときには、なるべく、いま現在のその瞬間をたいせつにしたいと思っている。いろいろと外部要因について考えすぎても気が散漫してしまうから、その音楽でその瞬間に起こっていることに集中するほうが気分的にも良い感じがする。だからつねにそういう姿勢でいたいと思っているんだ。

NJ:俺たちはプレッシャーを感じていたとは思うけど、なにかをつくりたいなら、そういうプレッシャーのことはまったく気にしないほうがいいってことをわかっていたんだ。

制作はどういうプロセスで進められるのでしょう? 今回はふたりでニュージャージーはフレミントンのスタジオにこもったそうですが、役割分担のようなものはあるのでしょうか?

DH:今回はじつは、ニュージャージー州に家を借りてそこに滞在していて、そこに小さな、持ち運び可能なレコーディング機材を設置していたんだ。家で料理したり、裏庭に座って話をしたりしながら仕事をするのは素敵だった。俺たちの役割としては、歌うのはいつもニコで、ギターを弾くのはいつも俺だけど、それ以外はふたりともその瞬間の感じによってなんでもやるよ。

NJ:制作プロセスはすごく楽しかった。デイヴと一緒に音楽をつくっていく過程がすごく楽しいんだよ。デイヴと一緒にいると、音楽制作は独自の世界なんだと感じる。アルバムのアートワークに写っているオーブみたいな。その世界のなかでは、独自の方法ですべてが屈折されたり、維持されたりする。デイヴと一緒に音楽をつくっていると、俺はすぐべつの世界に迷いこむ。それは喜びであり、俺自身の仕事からの休暇でもあるんだ。

録音時期は2018年とのことですが、今作をつくるにあたりインスパイアされたものはありますか? 音楽でも、音楽以外のもの/出来事でも。

DH:インスピレイションは、ふたりが「一緒にジャムをしたい」「また一緒に音楽をつくりたい」という想いからはじまり、そこからすべてが流れていった。

“The Limit” は前作収録曲 “Golden Arrow” にたいする自分たち自身からの応答のようにも聞こえます。そのような意識はありましたか?

NJ:それはなかったね :) でも、そういうふうに捉えてくれてすごく嬉しい :)) !

今回の新作『Spiral』と前作『Psychic』との最大のちがいはどこにあると思いますか?

DH:俺はこの2枚のレコードのなかに存在していて、そのときの感情がどんなものであるかを知っている。レコーディング過程の記憶やイメージもあるし、俺たちがそのとき、どんな世界にいて、どんな生活をしていたのかということを覚えているから、これについて話すのは難しい。俺にはちがいや対照というものは見えないし、類似点も見られない。俺にとってこの2枚のレコードは、ある瞬間の記録であり、イメージであると同時に、それらはつねに未完成であり、人びとがこの2枚を聴き、俺たちがこの2枚に収録されている曲を演奏し、探求していくなかで、この音楽は生き続け、変化していくものだと考えている。

NJ:『Psychic』のときの俺たちはもっと野心的な心境にあった。『Spiral』においては、俺たちの原動力は野心からくるべきじゃないと考えていた。俺たちは鏡をのぞいて正直にならなければいけなかった。ごまかしなどいっさいせずに。でも俺たちは未来を見据えることもできなかった。すべては、現在という瞬間に感じる直感を原動力にするのが狙いだった。

“Lawmaker” のリリックは、奇しくも2020年以降のパンデミック下における政治を連想させます。録音時は、どのような状況をイメージしてリリックを書いていたのですか?

NJ:たしかにこの曲の歌詞は、いまとなっては奇妙な響きがあるよね。でも俺たちはアルバムのすべてを2018年に作曲したんだ。俺たちが語ろうとしていたのは、ある種の人間(男性)についての物語で、俺たちはそういう人間から成長して卒業したいと思っている。つまり、周囲の人たちにたいして規則や条件を課すような人間のこと。人びとを癒すのではなく、締めつけるような法律の社会に生きている人間。その法律は、共感や思いやり、あるいは愛と呼ばれるものを生み出すのではなく、分離や孤立を主な目的としている。

俺たちが抜け出そうとしている軸は、野心、キャリア、お金、仕事かもしれない。それ以前には、宗教や君主制が、多くの物事が動く軸になっていたようだ。俺たちの世界にとって次なる軸とはなんだと思う?(ジャー)

アルバム・タイトルの『Spiral』にはどのような意味がこめられているのでしょう?

NJ:『Spiral』という名前は、俺たちの新曲に使われている言葉なんだ。これがその歌詞だよ──「もしそれが螺旋を巻いたら、方向に関係なく、きみの顔をそこに見た(And If It Went Into A Spiral, Regardless Of Direction, There I Saw Your Face)」。これは最愛のひとの顔について歌っている。地面の位置が不明瞭でも、そのひとの顔は正しいほうを向いている、ということ。螺旋は、俺たちの時代の状況をあらわしていて、それは自分のなかへと入っていく動き(そこにはナルシシズムの意味合いももちろんある)。だけど、もっとポジティヴな意味合いとして、物事を複数の視点から見るという可能性でもあり、螺旋は軸のまわりに沿った複数の視点を提供してくれる。その軸はまだ定義されていない。俺たちが抜け出そうとしている軸は、野心、キャリア、お金、仕事かもしれない。それ以前には、宗教や君主制が、多くの物事が動く軸になっていたようだ。俺たちの世界にとって次なる軸とはなんだと思う?

報道によれば、ニューヨーク州ではワクチン接種率が70%に達したため、ほぼすべての制限が解除されたそうですね。日本は政府がほぼなにも有効なことをしないため、まだまだパンデミックの真っ最中です。にもかかわらず一ヶ月後にはオリンピックが強行開催される予定になっています。『Spiral』のリリース日は、ちょうど開会式の日にあたります。そんな状況でこのアルバムを聴くリスナーにメッセージをお願いします。

DH:世の中には、俺たちの音楽を聴くという選択をしてくれるひとたちがいることを知って、いつも謙虚な気持ちになる。俺たちがつくった音楽が、どんな小さな形であれ、だれかの人生の一部になれるということは、とても光栄なことだと思う。このような形で俺たちと時間を共有してくれるすべてのひとたちに感謝しています。

NJ:日本の現状(2021年7月8日現在)を見ると、日本ではまだひどい緊急事態の状況なんだね。オリンピックは、他の多くの団体と同様に、「通常通りの営業」を継続することを第一に考える、金目的の団体だ。俺たちが生きているこの時代では奇妙なことが起こっていて、世界の一部では通常の生活に戻りつつある一方で、他の地域では危機が残酷な形で進行している。これはとても重要なことで、俺たちはオリンピックを見ながら、このことについて考えなくてはいけないと思う。俺たちは、豊かで、主に「西洋」の国々の視点からでは、この世界をほんとうに見たり理解することはできないのだと。

R.I.P. Biz Markie - ele-king

 ヒップホップ・シーンの中でも唯一無二なユーモアあふれるキャラクターで、多くのファンから愛されていたラッパー、Biz Markie (本名:Marcel Theo Hall)が7月16日、メリーランド州ボルチモアの病院にて亡くなった。享年57歳。妻である Tara Hall に看取られながら、息を引き取ったという。
 死因は発表されていないが、一部では糖尿病による合併症と報じられている。Biz Markie は2010年に2型糖尿病と診断され、昨年には糖尿病治療の入院中に脳卒中になり、一時は昏睡状態になっていたとも伝えられていた。その後、意識は回復していたものの闘病生活は続き、今年7月頭には Biz Markie が亡くなったという噂がインターネット上で広まり、代理人が否定のコメントを発表するという騒ぎも起きていた。

 1964年にニューヨーク・ハーレムにて生まれ、その後、ロングアイランドにて育ったという Biz Markie。ちなみに同じくラッパーの Diamond Shell は彼の実兄であり、Biz Markie のバックDJを務めていた Cool V は彼の従兄弟にあたる。
 10代半ばからラップをはじめた Biz Markie は80年代初期にはハウス・パーティや学校のパーティにてマイクを握り、徐々に活躍の場を広げていき、その後、クイーンズを拠点とするロデューサー/DJの Marley Marl 率いる Juice Crew の正式メンバーとなる。Juice Crew 加入当初は当時、人気アーティストであった MC Shan や Roxanne Shante のライヴのサポート・メンバーとしてステージに立ち、ヒューマンビートボックスを披露。1986年にリリースされた Roxanne Shante のシングル「The Def Fresh Crew/Biz Beat」にも Biz Markie のヒューマンビートボックスが使用されており、このシングルは彼にとって最初のリリース作品となった。
 Biz Markie 自身がデビューを飾ったのが、同じく1986年にリリースされた 1st シングル「Make The Music With Your Mouth, Biz」で、Marley Marl がプロデュースを務めているが、Biz Markie 自身も曲の制作に深く関わっており、お得意のヒューマンビートボックスも披露している。また、このシングルも含めて、Biz Markie の初期の作品のリリックのいくつかを彼の盟友でもある Big Daddy Kane が手がけていたこともファンの間では有名な話だろう(Biz Markie が曲のテーマやコンセプトを伝えて、それを Big Daddy Kane がリリックにしていた)。
 1988年には 1st アルバム『Goin' Off』、翌年には 2nd アルバム『The Biz Never Sleeps』をリリースし、この 2nd アルバムからシングルカットされた “Just A Friend” はビルボードの総合シングル・チャートで最高9位に入るなど、Biz Markie 自身にとっても最大のヒット曲になった。一方、1991年にリリースされた 3rd アルバム『I Need a Haircut』では、収録曲 “Alone Again” における Gilbert O'Sullivan (ギルバート・オサリヴァン)の楽曲からのサンプリングが著作権侵害にあたるとして訴えられ、アルバムは一時販売停止に。これまでヒップホップ作品のサンプリングに関してはグレーゾーンの扱いであったが、この件以降、メジャー・レーベルではサンプリングに関して著作権所有者に事前に確認することが一般化していくことになる。
 心機一転を図った、1993年リリースの 4th アルバム『All Samples Cleared!』(このタイトルも最高!)からは、ディスコ時代の大ヒット曲である McFadden & Whitehead “Ain't No Stoppin' Us Now” をバックにヘタウマな歌を炸裂させた “Let Me Turn You On” が大ヒットして、Biz Markie の健在っぷりを強く印象づけた。そして、2003年には結果的にラスト・アルバムとなってしまった『Weekend Warrior』を発表している。

 その愛されるキャラクターによって、広く音楽シーンから支持されていた Biz Markie は様々なアーティストの作品にフィーチャリングされており、同じ Juice Crew の Big Daddy Kane や Kool G Rap & DJ Polo を筆頭に、Beastie Boys、De La Soul、Beatnuts、Princ Paul、Cut Chemist といったヒップホップ勢に加えて、Usher や Nick Cannon といったR&Bシンガーの作品にもゲスト参加。さらに1997年にリリースされた The Rolling Stones のシングル「Anybody Seen My Baby」にて、前出の 1st シングル「Make The Music With Your Mouth, Biz」のカップリング曲 “One Two” がサンプリングされたことも大きなニュースとなった。さらに彼のキャラクターは音楽シーンを飛び越えて、人気子供番組『Yo Gabba Gabba!』への出演でも話題を呼び、映画『Men In Black II』ではヒューマンビートボックスをする宇宙人役での出演も果たしている。

 最後に日本との繋がりを記して終わりたい。日本にも数多くのファンを持つ Biz Markie だが、90年代半ばにはすでに初来日を果たしており、その後、ライヴやDJなどで何度も日本を訪れている。2015年にはヒップホップ・フェス《SOUL CAMP》に出演し、その2年後の2017年の来日公演が最後となった。さらに日本のヒップホップ・シーンからも人気の高かった彼は、テイ・トウワ(TOWA TEI)、dj honda、DJ HASEBE、NIGO といった日本人プロデューサー/DJの作品にもゲスト参加している。

 “Make The Music With Your Mouth, Biz”、“Just A Friend”、“Let Me Turn You On” 以外にも “Nobody Beats the Biz”、“Vapors”、“Spring Again” といった数々のヒップホップ・クラシックを残し、さらに “Picking Boogers” や “Toilet Stool Rap” のようないままでのヒップホップの楽曲にはなかったユーモアあふれる歌詞の世界観でヒップホップの可能性を広げてきた Biz Markie。これからも彼の楽曲は愛され続けるであろうし、誰も Biz Markie を倒すことはできない。

interview with 食品まつり a.k.a foodman - ele-king

 早口である。食品まつりはとにかく早口である。同じ副詞を繰り返しながら異なる内容に切り替わっていくしゃべりはさながらジュークにも等しい。ジュークみたいにしゃべるからジュークをつくるようになったのか。それともジュークをやっているうちに話し方もジュークみたいになったのか。副詞を多用せず、主語と述語の結びつきをもう少し明確にすれば黒柳徹子のようなしゃべり方になるのかもしれないけれど、そのようにする必要は感じられない。黒柳徹子のようにしゃべると音楽性が変わってしまう気がするということもあるけれど、慌てたようにしゃべり、人と話をするときに焦りがちな食品まつりが、今回のように「やすらぎ」というコンセプトを掲げることには自然と説得力を感じるからである。ジュークなのに「やすらぎ」。このような矛盾した命題をクリアーしていく、その特異な音楽性。あるいは変革の予感。そして、何よりも食品まつりはいま、日本のアンダーグラウンドから世界に向けて独自の音楽的ヴィジョンを発信し、日本からオリジナルな音楽が生まれるという実績を積み重ねている最中なので、黒柳徹子にかまけているヒマはないのである。サン・アロウのレーベルからリリースされた『ARU OTOKO NO DENSETSU』から2年10ヶ月、〈ハイパーダブ〉から新作をリリースした食品まつりに換気のいい部屋で話を訊いた。

コロナになって、ライヴもあまりできなくなって〔……〕深い意味もなくて、アジフライをSNSにアップしたりして、そういう日常の楽しみの比重が大きくなってきたというかな。身の回りの楽しみというか。

チャレンジャーですよねー。

食品まつり(以下、食まつ):そう言っていただけると。

真価がわかるのは2~3年後かなという気がするぐらい、戸惑いもあります。

食まつ:ああ、そんな。

こんなに変えちゃうものかなという……思い切りが良すぎて。

食まつ:はい。

これは制作期間は? 『ARU OTOKO NO DENSETSU』が終わってから?

食まつ:そうですね。『ARU OTOKO』が終わって、制作をはじめたのが去年の7月ぐらいからなんですけど、だいたい1ヶ月ちょいぐらい。

早いんですね。『EZ MINZOKU』はコンセプトを決めてつくり込んだもので、『ARU OTOKO』は何も決めないで思いつくままにつくったということでしたけど、今回は?

食まつ:今回はコンセプトがあって、まず音的な面は、自分が20代前半にギターとパーカッションで友だちと名古屋の路上で演奏していた時期がけっこうあったんですけど、友だちがギターをじゃかじゃか鳴らして、僕がそれに合わせてパーカッションというか、小さなタイコを合わすみたいな。そんな感じでやっていて、たまに自作の曲もやったりして、あんま考えもナシに路上で遊んでただけなんですけど、お酒を飲みながらやっているとセッションみたいになって、パカパカやってると通りすがりの酔っ払いも入ってきたりして。

(笑)。

食まつ:それが楽しかったという記憶があって。そんな大して上手くもないんですけど、やっているうちにトランス感が産まれる気がして。

トランスということは、人が聞いてるとかじゃなくて……

食まつ:自分たちがただ楽しくなって。上昇していく感じになって。それが面白いなって。で、これを打ち込みでやったら面白いんじゃないかなというアイディアはけっこう前からあったんです。そういうのがボンヤリとあって。それがひとつ。で、コロナになって、ライヴもあまりできなくなって、最初はちょくちょく名古屋のクラブには遊びに行っていたんですけど、そういう機会もなくなって。

うん。

食まつ:で、家の周りとかしか行くところがなくなって、自分は名古屋の外れに住んでるんですけど、その辺をうろうろしてたら、高速道路の入口があって、パーキング・エリアに裏から入れるというのを発見したんですね。「裏から入れるじゃん」と思ってパって入って、で、食堂があったんで、ちょっと入ってみようと思って、なんとなく頼んだのがアジフライで……

あー、ツイッターであげまくってましたね。

食まつ:「アジフライ、美味しい」ってなって、そこからハマっちゃって。週5ぐらいの勢いでパーキング・エリアに行っちゃって。

週5(笑)。

食まつ:そう。で、まあ、深い意味もなくて、アジフライをSNSにアップしたりして、そういう日常の楽しみの比重が大きくなってきたというかな。身の回りの楽しみというか。

今回のアルバムで意識したのは全曲同じように聞こえるということなんですよ。〔……〕自分の好きなアルバムというのは、似た感じの曲が並んでるのが多いなというのがあって。ベーシック・チャンネルとか。

なるほどコロナの影響なんですね。

食まつ:そうですね。そっから入っていって、そんなことやってるうちに、やっぱアルバムをつくんなきゃいけないなってなって。なんとなくボンヤリと自分の中で2~3年に1枚つくんなきゃいけないかなというのがあって。

けっこう空きましたもんね。

食まつ:そうなんですよ。それでパーカッションとギターのアイディアと、今回、いろいろと日常で経験した楽しいことを合わせた感じは面白いかなって。

20代前半に感じたことを振り返るというノスタルジーではなく?

食まつ:そうですね。ギターとパーカッションを使うということだけ決めて。

確かに “Yasuragi” “Shiboritate” “Parking Area” “Minsyuku” といったあたりはギターありきの曲だと思いました。

食まつ:そうですね、ギターのじゃかじゃかした感じやパキパキした感じで。

自分で弾いて?

食まつ:いや、プラグ・インとサンプリングを分解して組み替える、みたいな。自分ではぜんぜん弾けないので(笑)。押尾コータロー、ヤバいなとかも思ってたりしたので。バカテクの。

全部、リズム・ギターですよね。リズム・ギターに対する強い関心が?

食まつ:そうですね。まさにリズム・ギターですね。

『ARU OTOKO』がすごくいいと思っていたので、最初は「え?」と思ったんですけど……

食まつ:(笑)。

一番違うのはなんだろうと思ったら、メロディがなくなってるんですね。シンセが入ってなくて、そのせいなのか、シュールな感じがしないと思ったんですよ。『ARU OTOKO』にあった凄みがなくなって、即物的になってるんだと。音だけが置かれていて、精神的な部分を膨らませる気がないなって(笑)。

食まつ:かもしれないですね。音自体はフィーリングでつくってるだけだったんですけど、今回のアルバムで意識したのは全曲同じように聞こえるということなんですよ。

全部同じ? そうだったかなあ(笑)。

食まつ:そういうイメージだったんですよ(笑)。

自分ではそうなんだ? “Sanbashi” はまったく違うと思うけど。

食まつ:ああ、あれはそうですね(笑)。自分の好きなアルバムというのは、似た感じの曲が並んでるのが多いなというのがあって。ベーシック・チャンネルとか。大体、似た感じじゃないですか。

一堂:(笑)

パラノイアックにやりたいんだ?

食まつ:今回は統一感を持たせたくて。『ARU OTOKO』がいろんな世界に行ってたんで、つくってる期間も今回は短めだったし、夏だったので、汗かきながらいろんな場所に行って集中してつくっていたということもあるのかなって。記憶としては曲をつくってるというより汗だくになって自転車で走ってるという記憶の方が残ってるんですよ。めちゃくちゃ日焼けして。曲つくってるのに、肌が黒いっていう。

一堂:(爆笑)

食まつ:「どういうこと?」っていう。

いいじゃないですか(笑)。

食まつ:体も引き締まってきて(笑)。つくりながら面白いなって思ってて。

コロナっぽくないですねー。

食まつ:そうですね。健康的になって。

僕は、今回はコンセプトがあるとしたら日本の伝統的なリズムをテーマにしたのかなと思ったんですよ。

食まつ:それに関してはなんも考えてなくて。

そうなんだー。“Michi No Eki” がお経を読むときのリズムに聞こえたり、“Numachi” はまた三三七拍子やってるなーとか、“Food Court” は聴くたびに印象が変わるんだけど、チンドン屋っぽく聞こえたりね、〈ハイパーダブ〉からリリースするにあたって日本のリズムを海外のリスナーに意識させてやろうと考えたのかなって。

食まつ:無意識に出たのかもしれないですけど、手癖というか、自分がよく使うパターンというか、あと、けっこう、間(ま)を意識したところはあったかもしれないです。

日本のリスナーよりもイギリスの人にはどう聞こえるのか興味あるというか。

食まつ:ああ、確かに。

コロナで困ってるミュージシャンは多いと思うんですけど、ユーチューブで楽器の弾き方や解説をはじめた人がたくさんいて、そのなかでロサンジェルスに住んでる日本人のジャズ・ドラマーの人が日本のリズムについて解説していた動画あったんですよ。

食まつ:はい。

いろんな国から来てる人たちと演奏する機会が多いから、みんな自分の国のリズムについて話すのに自分だけ日本のリズムがわかっていなかったと。悩んじゃったらしいんですよ、「お前の国のリズムは?」と訊かれて。

食まつ:なるほど。

それで、その人が見つけたのが千葉県のお寺でお経を読んでいる動画で、言われてみるとヘンなリズムなんですね。カカッカッカッ……みたいな。

一堂:(笑)

確かに面白いリズムなんですよ。西洋のリズムではないしね。食品さんもジュークから入って、洋楽のリズムでスタートを切ってるわけだから、日本のリズムを意識すると、今回の作品みたいになるのかなあと思って。

食まつ:ああ。そう言われるとそんな気もして来ますねえ。

でも、意識的ではなかったんですね。

食まつ:そうですね。日本のビートを意識したのは三三七拍子だけでした。つーか、あんまり意識してしまうと、そのままになってしまうというか。

パラパラとか阿波踊り的な。そこが日本的だなって。上半身だけで踊る感じ。

食まつ:そうかもしれないですね。

ベースを入れないせいもあると思うんだけど、そのことにはアンビヴァレンツな感情もあるんですけど(笑)。

食まつ:このアルバムをつくる前にUKの CAFE OTO っていうヴェニューがあって、ロックダウンで困っているミュージシャンを救済する意味もあるんですけど、そこがやってる〈タクロク〉というレーベルから去年、僕も「SHIKAKU」というEPを出していて。それがちょっと今回のアルバムの青写真的な意味もあって、カクカクとしたビートをつくりたいというコンセプトで。全体にカクカクしてて(笑)。それをつくったことがアルバムに影響してるなあと自分でも思うんですけど。

うん。「ODOODO」みたいなEPとはぜんぜん違いますよね。よくこんなにつくり分けられるなって。

食まつ:あれは〈マッド・ディセント〉から出てるし、もうちょい広い層に聞いてもらいたいなというものなので。あんまりやってなかったような曲もやってみたりして。ハウスとか。実験で。

そうでしたね。

食まつ:いままで聞いてなかった人からも「よかったよ」って声かけられたんですよ。

広がりがあったんだ。最後に入ってた “Colosseum” というのは何かのサンプリングなんですか。あのメロディは個人的にツボだったので。

食まつ:あれはサンプルを細かく切って並べる感じです。

ああ。じゃあ、ああいうメロディの曲があるわけじゃないんだ。

食まつ:そうですね。

でも、今回は『YASURAGI LAND』から完全にメロディをなくすと。それは初めから決めてたんですね。

食まつ:あんまり意識してなかったですけど、言われてみると確かにメロディはあんまりないか……

まったくないですよ。意識していないなんてスゴいなー。

食まつ:言われてみるとそうですね。

一堂:(笑)

食まつ:自転車で走ってたのが必死だったという記憶の方が濃くて。

一堂:(笑)

そうかもしれないけど、最後に家でトラック・ダウンとかするわけですよね。そのときに物足りないとは思わなかったと。

食まつ:そうですよね(笑)。

満足してるんですよね(笑)。

食まつ:そうすね(笑)。

一堂:(笑)

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「休んで下さい」という感じですね。座敷とかで寝転んでお茶でも飲んで……みたいな。

タイトルが「やすらぎ」じゃないですか。いま、脳内物質はドーパミンじゃなくてオキシトシン志向だというトレンドというか、傾向がありますけど……

食まつ:いや、なんか、「やすらぎランド」とかありそうじゃないですか。地方には。

東京以外の雰囲気は僕はぜんぜんわからないんだけど、そうなんだ?

食まつ:ありそうなんですよ。「やすらぎランド」って響きもいいし、あとまあ、ゆったりした曲もあるし。だったら『YASURAGI LAND』かなあって。

実際に「やすらぎランド」を建てちゃったらいいんじゃない?

食まつ:そうすね(笑)。

僕の印象だと東京の中心よりも、その周辺の方がシャレた名前を店につける気もするんだけど。「シャトレーゼ」とか。

食まつ:ああ、地方とか田舎の方ががんばっちゃうのかもしれないですね。

東京の方がダサい名前が多いような……名古屋だとなんのイメージもないんだけど。

食まつ:ああ。わけのわかんない名前の店もいっぱいありますよ(笑)。

まあ、でも、そのタイトルにするということは、「ここに来て安らいで下さい」ということなんですよね。

食まつ:「休んで下さい」という感じですね。座敷とかで寝転んでお茶でも飲んで……みたいな。

最初、タイトルだけ見たときに、『ARU OTOKO』からシンセが醸し出す雰囲気が受け継がれてるのかなと予想したんですよ。アンビエントっぽいような。でも、実際にはリズムがチャカポコ来たなっていう(笑)。

食まつ:確かにそうすね(笑)。

まあ、でも、それが和風のリズムに聞こえたところで、まったく違うアルバムだなと思って。それこそYMOが出てきたときに「テクノお神楽」と評されたことがあったんですよ。それに倣うと「ジュークお神楽」みたいだなあというか。実際にはどこもお神楽じゃないんだけど。

食まつ:ああ、なるほどー。

まあ、日本っぽいニュアンスがあるということですよ。でも、それで「ジューク感」があるのがスゴいというか。

食まつ:今回は割にあるかもしれないですね。

意識しなくても「和風が滲み出るのはいい」と、コムアイさんも理想のように言ってたけど。

食まつ:そうですね、意識的に出すんじゃなくて、やっているうちに自然に出るみたいなものはあるのかもしれないですね。そこの部分のコントロールは自分でも意識してるところで、無理に出そうとするとよくないから。

無理に出さないということは、日本の伝統的なリズムの音楽も聞いたりはしてるということ?

食まつ:詳しくはないですけど、割と好きで聴いたりはしてます。津軽三味線とか。

ああ、聞くんですね。“Michi No Eki” でフィーチャーされている Taigen Kawabe(ボー・ニンゲン)のヴォーカルも祝詞っぽく聞こえたりね。あれも偶然?

食まつ:歌い方はこちらから少し指示させてもらったりしたんですけど、メロディとかは自由にやってもらいました。あれは、歌が入ってからトラックはつくりかえたんですよ。

あ、そうなんだ。

食まつ:毎回、そうなんですよ。歌もの系は、歌に合わせてトラックは変えちゃうんです。

へー、そういうもんなんだ。

食まつ:毎回、そうすね。

細かいんですね。ちなみに物足りない面があるとすれば、全体にダイナミズムがもうちょっとあってもよかったかなというのはありますね。

食まつ:あー、海外のレヴューでは「ライト」とか「フュージョン」という風に書かれていたので、そういう風に聞こえるのかなとは思いました。「ジャズ・フュージョン」に聞こえるとか。

YMOに近づきましたね。

食まつ:(笑)確かに。最初にコード9にデモを送った段階で坂本龍一の『エスペラント』の雰囲気があると言われて。

ああ、それは素晴らしい。坂本龍一がやりきったと言ってたアルバムですね。あれはいい。

食まつ:それと、映画のサントラで、なんちゃらスカイ……

『リキッド・スカイ』?

食まつ:あ、そう、そう。そのふたつのフィーリングがあると彼は言っていて。

『リキッド・スカイ』ねー。なるほどね。

食まつ:『エスペラント』も聴いてみたらなるほどと思ったし、『リキッド・スカイ』もめちゃくちゃシンパシーを感じる音でしたね。ヘンな音がずっと鳴っていて。

わかる、わかる。映画は観ました?

食まつ:いや、観てないです。

映画も面白いよー。ロードショーで観たんだけど、監督が音楽もやっていて、これはヘンと思ってサントラを探したんですよ。コード9も面白い聞き方しているなあ。そもそも〈ハイパーダブ〉から出ることになった経緯は?

食まつ:デモを送ったっていう。ジュークをつくりはじめたきっかけが〈ハイパーダブ〉のDJラシャドだったし、ジェシー・ランザのリミックスをやったりして多少の交流もあったので。で、メールで送ったら、これいいじゃんていうことになったという。返事が早かったんですよ。

なるほど。どこにもない音をつくったという感じもあるし。

食まつ:いや、いや。

そういう野心はあるわけでしょ。

食まつ:毎回、それはそのつもりです。「これが自分です」という感じでつくろうと思ってて。

仲間がいない感じって、どんな気分?

食まつ:ほかにないものをつくりたいという気持ちは最初からずっとあるので……ずっと同じことをやっているというか。

アルバムはそうしようということですよね?

食まつ:そうです、そうです。

「ODOODO」や「DOKUTSU」といったEPはそこまでじゃないというか。

食まつ:そうですね。あの辺はライヴでやって反応が良かった曲を録音してる感じですね。ライヴでやる曲はあんまりアルバムに入れなかったりして。リズムがバシバシというか、ライヴとアルバムの印象は変えてるかもしれないです。

それだけアルバムは特別視してるということですよね。

食まつ:めちゃくちゃしてますね。洋服のブランドみたいに、コレクションというか、何年から何年までの方向性をアルバムが決めるという意味で自分のなかではいちばん重要ですね。

やっぱり陽気な要素もありつつ気持ち悪いというのがけっこう好きというか。ユーモアがあって、シリアスになりすぎないのが好きですね。

もう次に考えてることはあるんですか?

食まつ:やっぱりアフリカですかね。〈ニゲ・ニゲ〉の人たちも聴いてくれてるみたいなので。シンゲリのセットをやったこともあるんですよ。やっぱり陽気な要素もありつつ気持ち悪いというのがけっこう好きというか。ユーモアがあって、シリアスになりすぎないのが好きですね。

『YASURAGI LAND』を誰かにリミックスしてもらうとしたらどの辺が?

食まつ:ああー。考えてなかったなあ。誰だろう? 今まで自分の曲をリミックスしてもらうという経験が……

ない?

食まつ:1回だけありますかね。2012年に広島の CRZKNY(クレイジーケニー)さんていうジュークをやっている方が1曲だけやってくれたことがあって。

それだけですか? じゃあ、コード9にやってもらおう!

食まつ:そうですね。踊れる感じにしてもらうとか。

ぜんぜん違う感じの人がいいですよね。昨日の夜、それを考えていてオールタイチとか名前が浮かんじゃって、それじゃ同じになっちゃうなって。

食まつ:(笑)ちょっといま、思ったんですけど、ベースとかキックが入っているのを想像して聴いてもらうのもいいかなって。

頭で音を足す?

食まつ:そういう聞き方もできるかなって。そうすればいくらでも頭のなかでヴァリエーションがつくれるというか。やっぱり想像の余地を残したいなっていうのがあるんですよ。

70年代に、数寄屋橋に日立ローディープラザというライヴハウスというか、音楽教室みたいなハコがあって。

食まつ:ええ。

バンドが目の前で演奏するんですけど、聴いている人には全員、卓があって、自分の好きなミックスでそのライヴを録音してカセットで持って帰れたんですよ。ベースをカットしたい人はベースのメモリはゼロにしてしまうみたいな。

食まつ:へえー。

パンタ&HALの演奏を録音した覚えがあるんだけど、最初にひとりずつ楽器の音を鳴らしてくれるので、ギターとかドラムを自分の好きな音量に調節してね。誰も真剣にバンドを見ないから、演奏している人たちはやりにくかったらしいんだけど。オーディエンスはずっと卓と格闘してて。

食まつ:(笑)。

そういう感じで好きな感じで聴いて欲しいと。ちょっと違うか。

食まつ:すごいですね、それ。自分で揚げれる揚げ物屋さんみたい。

“Aji Fly” に繋げたな。

食まつ:それぐらい自由に聴いて欲しいのはありますね。こんだけスカスカなんで、ベースとキックを入れるだけですべての曲の印象が変わると思うんですよ。

そうですよね。最後に、課外活動が多くてぜんぜん追いきれてないんですけど、課外活動でやった自信作はなんですか?

食まつ:いろいろあるんですけど、アイドルで金子理江さんの、2017年に出た trolleattroll 名義のやつなんですけど、相対性理論の真部(脩一、現・集団行動)さんと一緒にやった “lost”(https://www.youtube.com/watch?v=qcTBIw8ux00 )ですかね。パーカッシヴな曲で、いま聴くと『YASURAGI LAND』に繋がるなって。メロディは真部さんなんですけど。あと、去年、釜山ビエンナーレっていう芸術祭があって、コロナの時期でもなんとか開催されて、10人のミュージシャンが曲を提供したんですけど、僕も参加して、それはけっこう好きですね。

そこでしか聴けない曲?

食まつ:レコードにもなってるんですけど、韓国語なんですよ。

調べてみます(……と言ったものの、さっぱりわからず)。

〈Hyperdub〉からの最新作『Yasuragi Land』発売を記念したリリース・パーティー
“Local World x Foodman - Yasuragi Land - Tokyo 2021”の開催が決定!

昼のコンサート(8月8日開催)とサウナと水風呂の2フロアに別れた夜のクラブ・ナイト(9月11日開催)の2部構成

名古屋在住のエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー、食品まつり a.k.a foodman。〈Hyperdub〉より最新作『Yasuragi Land』を発売したことを記念し、リリース・パーティーの開催が決定! 今回のイベントはクラブ&モードなアドベンチャー・パーティ Local World と SPREAD での共同開催となる。土着、素朴、憂いをテーマに南は長崎、北は北海道、Foodman に纏わるアーティスト含む全国各地からフレッシュな全20組が集まる昼のコンサート(8月8日開催)とサウナと水風呂の2フロアに別れた夜のクラブ・ナイト(9月11日開催)の2部構成、2021年の湿度と共に夏のボルテージを上げるサマー・イベント。

Local World x Foodman - Yasuragi Land - Tokyo 2021

SUN 8 AUG Day Concert 16:00 at SPREAD
ADV ¥3,300+1D@RA *LTD70 / Club Night DOOR ¥1,000 OFF

LIVE:

7FO
cotto center
Foodman
machìna
NTsKi
Taigen Kawabe - Acoustic set -

DJ: noripi - Yasuragi set -

SAT 11 SEP Club Night 22:00 at SPREAD + Hanare
ADV ¥2,500+1D@RA *LTD150 / DOOR ¥3,000+1D / U23 ¥2,000+1D

- 70人限定 / Limited to 70 people
- 再入場可 ※再入場毎にドリンク・チケット代として¥600頂きます / 1 drink ticket ¥600 charged at every re-enter

・サウナフロア@SPREAD

LIVE:
Foodman
JUMADIBA & ykah
NEXTMAN
Power DNA
ued

DJ:
Baby Loci [ether]
D.J.Fulltono
HARETSU
Midori (the hatch)

・水風呂フロア@Hanare*

LIVE:
hakobune [Tobira Records]
Yamaan
徳利

DJ:
Akie
Takao
荒井優作

artwork: ssaliva

- Hanare *東京都世田谷区北沢2-18-5 NeビルB1F / B1F Ne BLDG 2-18-5 Kitazawa Setagaya-ku Tokyo
- 150人限定 / Limited to 150 people
- 再入場可 ※再入場毎にドリンク・チケット代として¥600頂きます / 1 drink ticket ¥600 charged at every re-enter

食品まつり a.k.a foodman

名古屋出身の電子音楽家。2012年にNYの〈Orange Milk〉よりリリースしたデビュー作『Shokuhin』を皮切りに、〈Mad decent〉や〈Palto Flats〉など国内外の様々なレーベルからリリースを重ね、2016年の『Ez Minzoku』は、海外は Pitchfork のエクスペリメンタル部門、FACT Magazine、Tiny Mix Tapes などの年間ベスト、国内では Music Magazine のダンス部門の年間ベストにも選出された。その後 Unsound、Boiler Room、Low End Theory に出演。2021年7月にUKのレーベル〈Hyperdub〉から最新アルバム『Yasuragi land』をリリース。Bo Ningen の Taigen Kawabe とのユニット「KISEKI」、中原昌也とのユニット「食中毒センター」としても活動。独自の土着性を下地にジューク/フットワーク、エレクトロニクス、アンビエント、ノイズ、ハウスにまで及ぶ多様の作品を発表している。

Local World

2016年より渋谷WWWをホームに世界各地のコンテンポラリーなエレクトロニック/ダンス・ミュージックのローカルとグローバルな潮流が交わる地点を世界観としながら、多様なリズムとテキスチャやクラブにおける最新のモードにフォーカスし、これまでに25回を開催。

Local 1 World EQUIKNOXX
Local 2 World Chino Amobi
Local 3 World RP Boo
Local 4 World Elysia Crampton
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox
Local 6 World Klein
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H.
Local 8 World Pan Daijing
Local 9 World TRAXMAN
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom
Local DX World Nídia & Howie Lee
Local X1 World DJ Marfox
Local X2 World 南蛮渡来 w/ coucou chloe & shygirl
Local X3 World Lee Gamble
Local X4 World 南蛮渡来 -外伝- w/ Machine Girl
Local X5 World Tzusing & Nkisi
Local X6 World Lotic - halloween nuts -
Local X7 World Discwoman
Local X8 World Rian Treanor VS TYO GQOM
Local X9 World Hyperdub 15th
Local XX World Neoplasia3 w/ Yves Tumor
Local XX0 World - Reload -
Local XXMAS World - UK Club Cheers -
Local World x ether

https://localworld.tokyo

イベント詳細はこちら
Day Concert: https://jp.ra.co/events/1452674
Club Night: https://jp.ra.co/events/1452675

UNKNOWN ME - ele-king

 毎日こうも過酷な暑さがつづくと、あの涼しかった音空間が猛烈に恋しくなってくる。

 今春、LAの〈Not Not Fun〉から初のLP『BISHINTAI』を発表した UNKNOWN ME。ユニットとしての知名度はまだそれほどないかもしれないが、やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHI の3人と、ヴィジュアル担当の大澤悠大からなるアンビエント・プロジェクトである。ヴィジブル・クロークス以降のアンビエント/ニューエイジの流れとリンクしつつ、その更新を試みているグループと言っていいだろう。6月27日、アルバムのリリース・パーティが開催されるというので足を運んできた。場所は神宮前 Galaxy。食品まつり a.k.a foodmansatomimagae、Chee Shimizu と、かなり豪華な面子がそろった。

 階段をくだり地下のエントランスを抜けると、ひんやりと冷えた空気が漂っている。すでに satomimagae のパフォーマンスははじまっていた。30~40人ほど集まっていただろうか、にもかかわらず、下手したら空調の音まで聞こえかねないほど会場は静まりかえっている。耳に浸透するかなしげなギターの音と、澄んだ satomimagae のヴォーカル。〈RVNG〉から出たすばらしい新作でも独自の静けさを表現していた彼女だが、ライヴでは一層そのサイレンスが際立って聞こえる。音が鳴っているのに、サイレンス。おかしな話だが、ほんとうにそうとしか形容のできない体験なのだ。
 最後の曲が終わると、一気に会場が談話に包まれる。つなぎDJは Chee Shimizu。おとなしすぎず、主張しすぎず、絶妙なあんばいのアンビエントやオブスキュアなトラック群が空間を彩っていく。

 ふた組めは、〈Hyperdub〉からの新作を控える食品まつり。ここでオーディエンスが50人くらいまで増える。アンビエントでスタートしたセットはほぼ低音を用いることなく、ちゃかぽこした上モノで引っぱっていく感じで、これまたどこか涼しげなサウンド。じょじょに実験性が高まっていき、後半になるとダンサブルな反復が飛び出しパーカッションの饗宴を迎えるが、最後はやはり静けさを強調した電子音で〆。「聴きこむ/踊る」という二項対立を宙吊りにするかのようなセットは、この満足には踊れない時代、身体はどう音に反応すべきなのかという問いを提起しているかのようだった。やはり食品まつり、あなどれない。

 ふたたびつなぎDJをはさんで、いよいよ主役の UNKNOWN ME。4人全員がワイシャツとネクタイを着用して登場、ずらっと横一列に並ぶ。きれいなシンセ音、水やひぐらしなどの具体音が入れかわり立ちかわり登場し、白昼夢のごとき音空間が生成されていく。これは、涼しい。基本的にアルバム収録曲が演奏されていたはずで、ほとんどがノンビートなのだが、ビートはなくともリズムはあり、ここでもコロナ時代における身体性について考えさせられることになる。
 ヴィジュアルも手がこんでいて、東京タワーや駅などのランドマークと、山や川での釣りの風景などが代わるがわる映し出されていく。文明と自然、都市的なものとロハス的なもの、それらの共存なのか対比なのかはわからないが、やはりなにかを投げかけてくる映像表現だった。
 最後はアルバムにも参加していた MC.sirafu、中川理沙、食品まつりも加わり大団円……手ちがいにより、食品まつりが2曲のあいだほぼなにもできず棒立ち状態に陥るアクシデントはあったものの、うまい具合に電子ノイズの即興でイヴェントは幕を下ろした。

 こちらがそういう構えでいたからかもしれないが、3組ともそれぞれのやり方でコロナ禍におけるひとの集合のあり方、身体性の新しいかたちを探っているように感じられた。大声で騒ぐのではなく、といって孤独にストイックに音に没入するのでもない、そのはざまを探るようなライヴ。
 このときは「まん防」だった。その後四度めの非常事態宣言が発せられ、醜悪にもオリンピックが強行開催されようとしているいま思い返してみると、この日は地獄のなかにさっと吹きこむ、一陣の涼風のようなイヴェントだった。

 いま、フロアに行くことは難しい状況だけど、そんなときでも素敵なダンス・ミュージックはたくさんリリースされている。セレクトしたものはすべてフロアを志向しているのと同時に、できるだけリスニング視点もあるサウンドを取り上げるよう留意した。なので、家で聴くのにも楽しめるセレクトになっていると思う。
 また、〈Defected〉や〈PARLOPHONE〉などの巨大レーベルは別として、そのほかはレーベルという視点で切り取ってみても面白いものばかりなので、気に入ったならそこから掘ってみるのもいいと思う。とくに〈Shall Not Fade〉からはふたつも取り上げているが、このレーベルは好リリースを連発している。UKのアンダーグラウンドなハウス~UKガラージはこれからもっと活況を見せるに違いない(という願望)ので、とくにこのレーベルの動向はよくチェックしておくべきだ。
 自分が普段よく聴いているお気に入りのダンス・ミュージックたちです。ここからみなさんの生活にささやかな広がりをもたらせたら嬉しいです。


Barry Can’t Swim - Amor Fati EP Shall Not Fade

 こういうディープでジャジーなハウス・ミュージックは、踊れる要素がありつつ家聴きにも適している、と僕は思っている。EPのなかでは、ジョー・サンプルの “Black Is the Color” をサンプリングした “Jazz Club After Hours” がいちばん心地よく、僕はこれをぼうっとしながら部屋で何度も聴いている。が、「家聴き」とは言いつつ、このEPには夏を憧れるような雰囲気が同時にあり、確かに “El Layali” におけるまばゆいピアノは、カラッと乾いた太陽の下にいるかのような気分にさせるし、“Rah That’s a Mad Question” におけるフィルターの抜き差し、ピアノとリヴァーブのかかったギターの組み合わせは、メロウな夕立の海で聴きたくなってしまう。
 今年も夏は来るのだろうか、自由で開放的なあの空間はあるのだろうか。そんな外への憧れが家のなかでふつふつと湧き上がってきたら、このEPのヴァイブスはさぞや期待に応えてくれるだろう。


Lxury - Smart Digital Life EP Shall Not Fade

 ラグジュアリーを初めて知ったのはたしか……ディスクロージャーの BBC Essential Mix をアホみたいに聴きまくってた高校生のころ、そのトラックリストで名前を見つけたときだった気がする。そこからずいぶんと時間が経ち、〈Shall Not Fade〉から、ついにEPをリリース。僕が彼を発見した “J.A.W.S” (ディスクロージャーがプロデュース)から較べると、より様々なサウンドを吸収しながら、すべてに渡ってきらびやかなシンセを展開した、モダンなハウス・ミュージックに仕上がっている。オープナーの “1722” における、大胆なクラップやピッチの操作されたヴォーカル・サンプルを聴くと過去の音を想起しかけるが、続いて “Spin” や “When I Wake Up” を聴いてみると、そのプロダクション・スキルが時を経てあきらかに飛躍しているのだと確信させられる。


Elvin T - Get Close EP ReGraded

 ダンス・ミュージックが好きで「ミッドランドのシークレット・ウェポン」という触れ込みに興味を引かれないひとはいるのだろうか? ロンドンのプロデューサーであるミッドランドの主宰する〈ReGraded〉からの最後のリリースは、過去3年間において、ミッドランドが数々のヴェニューのピークタイムでスピンしていたという、エルヴィンTの “Get Close” に決まった。ギターとストリングスのサンプリングが四つ打ちに乗りながらじょじょに展開していき、やがて「I wanna touch you」と繰り返しのヴォーカルがあらわれる……高揚感あふれるリッチなディスコ・ハウスに仕上がっており、たくさんのひとがトラックIDを探し求めたのも納得のクオリティだ。EPにはいわゆる「Radio Edit」ヴァージョンが収録されているが、これは絶対に「Extended」ヴァージョンで聴かなければならないやつ。


Todd Edwards - “Can’t You Believe?” Defected

 およそ150にも及ぶトッド・エドワーズのカタログが、このたびデジタル/ストリーミング配信された。スマホの画面からのぞかせる、無骨なブラックラベルのジャケットはとっても味気なく思えたけれど、つぶさに聴くとやはりUKガラージは最高だと思わせてくれる。ニューヨークのガラージ・ハウスからロンドンのUKガラージへ、その過程における重要人物のひとりがトッド・エドワーズなのだ。それらの素晴らしい仕事が一挙にアクセス可能になったのだから、聴かないわけにはいかないだろう。BBC Radio1 にて、ジョイ・オービソンが序盤に “Can’t You Believe?” をスピンしていたことは、このアメリカ人DJがUKのダンス・シーンにおいていかにリスペクトされているかを如実に示している。ハウスの反復的な四つ打ちが退屈になったら聴いてみてみよう。まさに「JESUS LOVES UK GARAGE」を感じるサウンドであふれている。


PinkPantheress – Passion PARLOPHONE

 ウィンドウズのスクリーンセーバーを模したジャケに、2分程度の尺、そしてささやくかのような気だるいヴォーカル。これらの要素はいかにも現代的なポップ・ソングであるし、そんな音楽がTik Tokから出現した20歳の女の子によるものだというのは、想像に難しくない。しかし、突如としてジャングルのリズムが展開されるそのプロダクションには、ほかのありがちなポップ・ソングでは感じない違和感がある。彼女はほかにもUKガラージのバンガーから、あるいはドラムンベースのクラシックなどから拝借しており、つまり、20歳の女の子がネット上で気軽に作った音楽と90~00年代のダンス・トラックが出会うことで、ちぐはぐではあるが面白いサウンドが生まれている。これで踊るのはあまりに短すぎるものの、彼女のサウンドがどういう展開を見せるか気になるので、取り上げてみました。


Unknown Artist - Ghost Phone 004 Ghost Phone

 もしレコード屋で、このカートゥーンのキャラクター(ポー○ー・ピッグ?!)をあしらった12インチを発見したら、迷わず買ったほうがいい。カタログすべてが連番のシンプルなタイトルに「Unknown Artist」表記。ヴァイナル・オンリーの謎めいたレーベルで、僕が知っている情報は、ブリストルのショーン・ケリーが主宰していること、〈Honest Jon’s〉がディストリビューションで関わっていること、そしてカタログすべてがめちゃくちゃかっこいいこと、その3つだけだ。ドレイクの大ヒット “Passionfruit” (元ネタはムーディマンのライヴ)からのサンプリングや SZA のリエディット、あるいはトラップ、ダブステップ、ベースなど、一定のフォームに束縛されない実験的なサウンドを提供している。今作「Ghost Phone 004」も、ときにメロウなR&B、ときに2ステップなリズムと常に飽きさせない。自分の足で歩かなければ買えない素敵な音楽もあるということで、たまにはレコード屋にも出かけよう。

Goldie - ele-king

 ベリアルが “Inner City Life” をリミックスしたり、スケプタとのコラボ曲 “Upstart” が話題を集めたりしたのが2017年。後進にも大きな影響を与えているゴールディーだが、このたび1995年のアルバム『Timless』の25周年記念盤がリリースされている。ゴールディー本人監修によるリマスターが施されており、レア曲やリミックスを収めたボーナス・ディスク付きのCD3枚組仕様。未聴の方は、ぜひこの機に。

ドラムンベースの金字塔作品が25周年を記念してリマスター復刻

4ヒーローの『Parallel Universe』と双璧をなすゴールディーによるドラムンベース初期の金字塔『Timeless』が発売25周年を記念してアニバーサリー・エディションとして未発表発掘&リマスター復刻! ソリッドなビートとフューチャリスティックな流線形サウンドをミックスしてアンダーグラウンドなクラブ・サウンドをネクストレヴェルへと引き上げたシーンのマイルストーン的な一枚。いま聞いても全く色あせることのない、まさに「タイムレス」なマスターピース。


アーティスト名:GOLDIE(ゴールディー)
アルバム・タイトル:Timeless - 25 Year Anniversary Edition(タイムレス 25周年記念盤)
商品番号:RTMCD-1480
税抜定価:2,700円
レーベル:London Records
発売日:2021年7月18日
直輸入盤・帯/英文解説日本語対訳付

◆ドラムンベースというイギリス独自のジャンルを4・ヒーローやロニ・サイズらと共に開拓し発展させ、00年代以降のベース・ミュージックのシーンにも大きな影響を残したUKクラブ・シーンの生ける伝説ゴールディー。

◆その名声を決定づけたデビュー・アルバム『Timeless』の発売25周年を記念した再発企画(オリジナル発売は1995年、ロンドン・レコード/FFRRからのリリース)。

◆ダイアン・シャーラメインのボーカルをフィーチャーしたリード・シングルの「Inner City Life」は、UKチャートのトップ40へと躍進し、ドラムンベースという音楽ジャンルが、アンダーグラウンドなクラブ・シーンから飛び出し広く一般的な注目を集める最初のきっかけとなった、歴史的にも重要な90年代クラシックス。

◆壮大なシンフォニーの「Timeless」、盟友ロブ・プレイフォードとの問答無用な直球ドラムン「Saint Angel」、メイズのベース・ラインが炸裂した「A Sense Of Rage」、意表を突くイーノのシンセが異郷トリップを誘う「Sea Of Tears」、生ドラムでレイドバックした「State Of Mind」、クリーヴランド・ワトキスのジャジーなチルアウト曲「Adrift」などなど、バラエティに富んだ楽曲群が、ゴールディーのアルバム・アーティストとしての新たな側面を、見事にあぶり出しております。まさに「タイムレス」なマスターピース。

◆本人監修によるリマスター、レア曲やリミックスを収めたボーナス・ディスク付きの3枚組。

◆クラフトワークやテクノのガイド本などの著作もあるジャーナリストのティム・バーによる解説の日本語対訳を添付予定。

[収録楽曲]

CD1
1-1a Inner City Life
1-1b Pressure
1-1c Jah
1-2 Saint Angel
1-3 State Of Mind
1-4 This Is A Bad
1-5 Sea Of Tears
1-6 Jah The Seventh Seal

CD2
2-1 A Sense Of Rage (Sensual V.I.P. Mix)
2-2 Still Life
2-3 Angel
2-4 Adrift
2-5 Kemistry
2-6 You & Me

CD3
3-1 Timeless [Instrumental]
3-2 Kemistry (VIP Mix)
3-3 Angel (Grooverider Re-edit)
3-4 State Of Mind (VIP Mix)
3-5 Still Life (VIP Mix) [The Latino Dego In Me]
3-6 Saint Darkie
3-7 Inner City Life [4 Hero's Part 2 'Leave the planet mix')
3-8 [re:jazz] - Inner City Life
3-9 Sensual

Island People - ele-king

 〈raster-noton〉が、バイトーン(オラフ・ベンダー)の〈raster〉と、アルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)の〈noton〉に分裂し、それぞれの道を歩みはじめたことは、10年代の先端的な電子音響音楽において重要なトピックだった。電子音響、エレクトロニカを牽引していたレーベルが終わりを迎えたからだ。
 その〈raster〉が始動後(再起動後とでもいうべきか)に最初にリリースしたアルバムがアイランド・ピープル『Island people』(2017)である。彼らのアルバムをレーベルのファースト・リリースとしたところに〈raster〉=オラフ・ベンダーの意志を感じたものだ。つまり高品質なエクスペリメンタル・エレクトロニック・ミュージックを送り出していくという意志だ。じじつ〈raster〉は、この4年のあいだ流行に左右されずに、質の高いエレクトロニカをコンスタントに送りだしてした。その原点にアイランド・ピープルがあったのだとは言い過ぎだろうか。しかしわたしが彼らのサウンドが忘れられなかったことは事実だ。折に触れ何度も繰り返し聴き続けた。

 アイランド・ピープルはスコットランド・アイルランド出身の4人の音楽家/サウンド・デザイナーによるグループである。ダフト・パンクやジェフ・ミルズ、リカルド・ヴィラロボスやカール・クレイクなどを手掛けた人気のマスタリング・エンジニアのコナー・ダルトン、グラミー賞受賞プロデューサーのデイヴ・ドナルドソン、シリコン・ソウルのグレアム・リーディー、ギタリストのイアン・マクレナンがメンバーである。先にグループと書いたが、「バンド」といってもいいかもしれない。それほどまでに4人の個性が交錯しているサウンドに聴こえるのだ。
 プロデューサーとエンジニアが在籍するアイランド・ピープルのサウンドは高品質なアンビエンス/アンビエントを実現していた。まるで映画のサウンドトラックを思わせるようなムードである。その音は緻密かつ繊細に設計され、美しくも深淵な音響空間を実現していた。どこかアンドレイ・タルコフスキーのSF映画『惑星ソラリス』を思わせもする。その意味で同じく2017年リリースの坂本龍一『async』との親和性も感じられた。

 前作『Island people』から4年の月日を経て送り出された新作が本作『II』である。待ちに待ったというより、不意に届けられたという印象で、一聴すると基本的に『Island people』のサウンドを継承しているように感じられた。しかしその音は以前よりダークであった。何か世界の変容を捉えようとするように、サウンドの移り変わりは、ゆったりとした映画の長いワンシーン・ワンショットのカメラワークを思わせた。レーベルは「初期のアントニオーニ映画のロング・トラッキング・ショットのように展開され、時間が止まっているようで、その瞬間を巡っている」と書いているが(https://raster-raster.bandcamp.com/album/ii)、まさに言い得て妙である。

 つまり前作に比べて、どこか暗く沈んだムードのアルバムなのだ。しかしそれが不快ではない。流行や時間の流れを超越したかのようなサウンドであり、その静かで、不穏で、「人がいない世界」のような音響空間には心を鎮静するような力すらある。特にドラマチックな流れのサウンドを展開する1曲目 “His Illusion” からインナースペースへと沈み込んでいくような3曲目 “Loneliness Has A Purpose” までの展開には孤独のアトモスフィアがうっすらと漂っていた。アルバムはそんなムードを反復するように展開していく。
 環境音と電子音が深海と廃墟の中で交錯するような4曲目 “Far From Shore” と5曲目 “Ten Green Bottles”、ギターのアルペジオが映画音楽的なムードを彩る6曲目 “Idyll”、緊張感に満ちたアンビエントを展開する8曲目 “Stillness”、環境音楽的なシンセサイザーに濃厚な音色のギターを聴かせる9曲目 “Luna” まで、まるでひとけのない都市を彷徨するような音世界だ。その映画音楽的なサウンドに聴きいっているとコロナ禍でロックダウンされた都市の音響のように聴こえたほどだ。加えて、ヴォーカリストのアリス・ヒル・ウッズを招いたヴォーカル曲 “Stalling”(10曲目)が収録されたことも重要なトピックだろう。アルバム・ラストの12曲目 “Traffic” では、スペイシーな電子音響アンビエントを展開し、地球を俯瞰するようなムードになり、アルバムは幕を閉じる……。

 全12曲、アイランド・ピープルは流行り廃りを超えた普遍的な電子音楽を構築しようとしているのではないか? と感じられた。尖端から深淵へ。流行から普遍へ。モードからスタイルへ。10年代まで切り拓かれてきた電子音響音楽の世界は、いま、聴き手の心に作用するアトモスフィアを得ようとしている。それこそがこのアルバムが獲得した不思議なリアリティの正体なのかもしれない、と思うのだ。

食品まつり a.k.a foodman - ele-king

〈Hyperdub〉からニュー・アルバム『Yasuragi Land』を送り出したばかりの食品まつり。同作の発売を記念し、リリース・パーティが開催されることになった。昼の部(8月8日開催)と、「サウナ」「水風呂」の2フロアにわかれた夜の部(9月11日開催)の2部構成という、ユニークな開催方式です。食品まつりとゆかりのあるアーティストを含む全20組がかけつける……これは行きたい!

Local World x Foodman - Yasuragi Land - Tokyo 2021

世界で最もピースな電子音楽家FoodmanによるUKの名門〈Hyperdub〉からの最新アルバム『Yasuragi Land』のリリパがクラブ&モードなアドベンチャー・パーティLocal WorldとSPREADにて共同開催!

土着、素朴、憂いをテーマに南は長崎、北は北海道、Foodmanに纏わるアーティスト含む全国各地からフレッシュな全20組が集まる昼のコンサートとサウナと水風呂の2フロアに別れた夜のクラブ・ナイトの2部構成、2021年の湿度と共に夏のボルテージを上げるサマー・イベント。

■SUN 8 AUG Day Concert 16:00 at SPREAD

ADV ¥3,300+1D@RA *LTD70 / Club Night DOOR ¥1,000 OFF

LIVE:
7FO
cotto center
Foodman
machìna
NTsKi
Taigen Kawabe - Acoustic set -

DJ: noripi - Yasuragi set -

・70人限定 / Limited to 70 people
・デイ・コンサートの前売チケットで9/11クラブ・ナイトのドア料金が1000円割り引かれます / Advance tickets for the day concert will get you 1000 yen off the door price for the club night on 11th Sep
・再入場可 ※再入場毎にドリンク・チケット代として¥600頂きます / 1 drink ticket ¥600 charged at every re-enter


■SAT 11 SEP Club Night 22:00 at SPREAD + Hanare

ADV ¥2,500+1D@RA *LTD150 / DOOR ¥3,000+1D / U23 ¥2,000+1D

サウナフロア@SPREAD

LIVE:
Foodman
JUMADIBA & ykah
NEXTMAN
Power DNA
ued

DJ:
Baby Loci [ether]
D.J.Fulltono
HARETSU
Midori (the hatch)

水風呂フロア@Hanare*

LIVE:
hakobune [tobira records]
Yamaan
徳利

DJ:
Akie
Takao
荒井優作

artwork: ssaliva

・Hanare *東京都世田谷区北沢2-18-5 NeビルB1F / B1F Ne BLDG 2-18-5 Kitazawa Setagaya-ku Tokyo
・150人限定 / Limited to 150 people
・再入場可 ※再入場毎にドリンク・チケット代として¥600頂きます / 1 drink ticket ¥600 charged at every re-enter

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EVENT PLAYLIST
https://soundcloud.com/meltingbot/sets/local-world-x-foodman-yasuragiland

前売リンク
Day Concert https://jp.ra.co/events/1452674
Club Night https://jp.ra.co/events/1452675

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食品まつり a.k.a foodman

名古屋出身の電子音楽家。2012年にNYの〈Orange Milk〉よりリリースしたデビュー作『Shokuhin』を皮切りに、〈Mad decent〉や〈Palto Flats〉など国内外の様々なレーベルからリリースを重ね、2016年の『Ez Minzoku』は、海外はPitchforkのエクスペリメンタル部門、FACT Magazine、Tiny Mix Tapesなどの年間ベスト、国内ではMusic Magazineのダンス部門の年間ベストにも選出された。その後Unsound、Boiler Room、Low End Theoryに出演。2021年7月にUKのレーベル〈Hyperdub〉から最新アルバム『Yasuragi land』をリリース。Bo NingenのTaigen Kawabeとのユニット「KISEKI」、中原昌也とのユニット「食中毒センター」としても活動。独自の土着性を下地にジューク/フットワーク、エレクトロニクス、アンビエント、ノイズ、ハウスにまで及ぶ多様の作品を発表している。

[最新作リリース情報]
食品まつり a.k.a foodman - Yasuragi land [Hyperdub / Beatink]
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11814

Local World
2016年より渋谷WWWをホームに世界各地のコンテンポラリーなエレクトロニック/ダンス・ミュージックのローカルとグローバルな潮流が交わる地点を世界観としながら、多様なリズムとテキスチャ、クラブにおける最新のモードにフォーカスし、これまでに25回を開催。

Local 1 World EQUIKNOXX
Local 2 World Chino Amobi
Local 3 World RP Boo
Local 4 World Elysia Crampton
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox
Local 6 World Klein
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H.
Local 8 World Pan Daijing
Local 9 World TRAXMAN
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom
Local DX World Nídia & Howie Lee
Local X1 World DJ Marfox
Local X2 World 南蛮渡来 w/ coucou chloe & shygirl
Local X3 World Lee Gamble
Local X4 World 南蛮渡来 -外伝- w/ Machine Girl
Local X5 World Tzusing & Nkisi
Local X6 World Lotic - halloween nuts -
Local X7 World Discwoman
Local X8 World Rian Treanor VS TYO GQOM
Local X9 World Hyperdub 15th
Local XX World Neoplasia3 w/ Yves Tumor
Local XX0 World - Reload -
Local XXMAS World - UK Club Cheers -
Local World x ether

https://localworld.tokyo

label: BEAT RECORDS / Hyperdub
artist: 食品まつり a.k.a foodman
title: Yasuragi Land
release date: 2021/07/09 ON SALE
* 輸入盤LPは8月中旬発売

国内盤特典:ボーナストラック追加収録 / 解説書封入
CD予約: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11814
LP予約: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11815

downstairs J - ele-king

 思わず、「ちょうど良い」という言葉をひさびさに口走ってしまった downstairs J なるアーティストのLP『basement, etc...』。いわゆるダウンテンポというよりかはテクノで、しかしリズムは強すぎず多様に躍動していて、クリアな音質も相まって初期オウテカあたりをマイルドにしたようなそんな印象を覚える作品です。リリースはアンソニー・ネイプルズと写真家でもあるジェニー・スラッテリー(Jenny Slattery)によるニューヨークのレーベル〈Incienso〉から。

 アンソニーは〈Proibito〉を閉じた後に、この〈Incienso〉を、さまざまな才能をフックアップする、そんなレーベルにしている模様(自身の作品は〈ANS〉から)。もちろんアンソニーという現在のハウス、テクノ・シーンの重要人物のレーベルというのもあるんですが、本レーベルに関していえば、やはりDJパイソンの1st『Dulce Compañia』でその名前を記憶している方も多いでしょう。その他の作品も最高で、ダウンテンポやアートコア・ジャングルなどの絶妙な配合でモダンなテクノの柔軟な音楽性を豊かに提示して見せたベータ・リブレ(Beta Librae)の傑作アルバムや、現在、NYとともにやはりすばらしいアンダーグラウンド・アクトを輩出しまくっているメルボルンの、スリープ・Dの作品、そして本作とほぼ同時期にリリースした、こちらもメルボルンからの新生、ブレイクビーツとディープ・ハウス、テクノの折衷様式がすばらしいビッグ・エヴァー(ex コップ・エンヴィー)のシングルもありました。コール・スーパー、あとは工藤キキの驚きのシングルもこちらのレーベルからでした。どちらかと言うと、そこまでリリースの多いレーベルではありませんが「いま思い返せば」、いつでもそのサウンドがその先の未来(つまるところ現在のシーンの動き)とともに思い出せるようなそんなサウンドをキープしているレーベルといった印象です。つまりセンス良すぎる。アンソニー・ネイプルズは、言われなくてもという感じだと思いますが、〈Proibito〉時代のフエアコ・エスのフックアップとかも含めて、とにかくいい感じなんですね。

 おっと横道にそれてしまいましたが『basement, etc...』にもどると、こちら downstairs J、本名義では初となる作品で、ジョシュ・アブラモビッチというアーティストによる名義。このジョシュはグライフィック・デザイナーのようで、DJパイソンのアルバム2nd『Mas Amable』なんかも手がけています。音楽面では snacs というノスタルジックなエキゾチック・アンビエント〜ダウンテンポを(実は本原稿での下調べで一番の発見だったかも……)、VOSE 106という名義では1作、ドープなビートダウン・ディープ・ハウスをリリース。どちらも Bandcamp を探すと出てきますがなかなか楽しめる作品ですのでぜひ。

 アルバムはテクノ・インフルエンスなヒップホップ・ビートからスタート、2曲目はスキッと爽やかで軽やか、涼やかなテクノ “Solid Air City”、ダブ・ブレイクビーツ的な “Soft Tissue”、アシッドなロウ・ビート “Lab Rat Boogie”、ポコポコとアンダーウォーターなダブ感が心地よい “Adjust”、フローティングでマイルドなダンスホール “Viewing Space”、エキゾチックなダウンテンポ “Wired” と、7曲。と、文字だけだとなんだか1990年代とか2000年代の、すごく凡庸なダウンテンポ・アルバムの原稿を書いているようでげんなりなんですが、でもそこに立ち上がってくるのはモダンでアップデーテッドなテクノの音響的なミックスの音質、そこはかとないダブ感、フローティンなメロディととにかく聴けば聴くほど、その楽曲の素晴らしさがにじみ出てきます。初期オウテカ、もしくはデトロイト・エスカレーター・カンパニー、あのあたりのテクノのチル感を彷彿とさせます。もうちょっと抽象的な言葉で言ってしまえば、IDMなグリッチでも、ドープなスモーカーズ・デライトでもないクリアなチル感といってもいいのではないでしょうか、そうした要素が抽出されていて、それでいて今様な、という。ダンス方面でも1990年代テクノのいわゆるインテリジェンス・テクノ、ないしはエレクトロニック・リスニング・ミュージックと呼ばれる音楽の復古というのがありましたが、当時の音源、いわゆるアンビエント・テクノが一部がトリップホップ的な方向へと舵を切ったあたりのサウンド、だけどドープなブレイクビーツには行っていないあのあたりの感覚がいま顕在化しているんではという感覚もあります。

 で、しかもレーベルが明らかにもう少しフロア寄りのサウンドで、シングルとしてリリースしている前述のビッグ・エヴァーのシングル「Otto EP」での、多様なIDM的なリズムを内包したハウス・トラックとは少なからず本作の音楽は共鳴しています。このあたり、なにか顕在化しつつある動き、単なるトリップホップの、IDMの、リヴァイヴァルと言ってはもったないような動きではないかと妄想が膨らんでしまうような音楽です。もちろんコロナ禍の影響もあるのかもしれませんが、この惹きつけられる感じは、なにかの未来をつかまているそんな作品であるような気がしてなりません。

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