「Nothing」と一致するもの

Cornelius - ele-king

 コーネリアスの “Audio Architecture”という曲には「Quiet!」という合図とともに静寂が訪れる瞬間がある。10秒ほどのその沈黙は自宅のステレオでかけ流していればさほど長くは感じない程度なのだが、ライヴで披露される際に目の前で音が止まった演奏をじっと眺めているとものすごく長く感じる。昨年夏のオリンピック開会式音楽担当の辞任騒動を受けてすべての活動を自粛していた小山田圭吾が、1年越しのフジ・ロック・フェスティバルのステージで復帰を果たしたことについて、その1年を早いと感じる人もいれば、長いと感じる人もいるだろう。少なくともこの日に苗場のホワイト・ステージ前に集まった人びとや、配信の開始を心待ちにしていた人びとにとっては、とてつもなく長く、厳しい1年だったはずだ。

 “Mic Check”からライヴははじまった。「あ、あ、あ、マイク・チェック、マイク・チェック、聞こえますか? 聞こえますか?」 。ユーモアに富んでいながら極めて内向的で孤立した『Fantasma』という作品を象徴するお馴染みのこの挨拶は、25年の時を経て、今夜はステージを覆う白い幕の向こうで待つ人びとへ呼びかけるための言葉に変わった。実は前回2020年1月にZepp Divercity Tokyoで行われたイベントに出演した際にもこの曲からはじまっているので、感情を上乗せしなければまったくいつも通りのコーネリアスの登場だったのかもしれない。それでも久しぶりのステージの1曲目を自身の代表作のオープニングを飾る曲でスタートさせたことで、基本に立ち返るような心意気と感じたのと同時に、開かないままの白い幕に映し出されるリニューアルされた映像は、新しい未来のはじまりを期待させるような高揚感に満ち溢れていた。4人のシルエットが浮かび上がり、頭上に現れた「CORNELIUS Thanksful To Be Here FUJI ROCK FESTIVAL」の文字を指差す。その動作を合図にカラフルで幻想的な照明と映像が音に合わせてぐるぐる交差して消えていくさまは、コーネリアスの音楽の魅力をこれ以上ないほど引き立てる素晴らしい演出だった。

 2曲目の“Point Of View Point”のイントロで、もしかすると今日は姿を見せずにこのままシルエットのみを照らし出した状態で演奏するのではないか? というこちらの不安を遮るかのようにサッと幕が開いて、コーネリアス・バンドが現れた。やっと現れた、と思うくらいその3分程度のオープニングが長く感じたのは、今まで待ち続けた時間の長さが加算されていたのかもしれない。久しぶりに姿を見せたコーネリアスは、いつものようにそのまま何も喋らずに“いつか/どこか”や“Drop”など、ライヴの定番曲を立て続けに披露していった。映像と音をシンクロさせた、無駄のないクールな演奏をしっかりと貫いていた。止まっていた時計がまた動き出すような感覚を肌で感じられた。

 いつもと同じクオリティ、何も衰えていない演奏を保っていたからこそ、サプライズが生きた。1度目は7月22日に配信リリースされたばかりの「変わる消える(feat.mei ehara)」を自ら歌ったこと。元々この曲は、昨年の7月7日にAmazon Musicのプロジェクトである短編映画の主題歌として限定配信されたもので、今回新たにコーネリアスの新曲として再配信している。「変わる 変わる 好きなものあるなら早く言わなきゃ 消える消える 好きな人いるなら会いに行かなきゃ 今 すぐ 早く 早く」。2021年にはすでに完成していたはずなのに2022年現在の閉鎖的な空気や喪失感を捉えるような、まるで予言めいた坂本慎太郎の歌詞が、どこをどう切ってもコーネリアスでしかない緻密なサウンド・デザインに新たな命を吹き込むように言葉を与え、メロディを動かしていく。mei eharaの心地よい歌声ももちろん素晴らしいけれど、この曲を小山田圭吾にも歌ってほしい、と密かに願っていた人は多かったはずだ。
 2番目のサプライズは、終盤にMETAFIVEの“環境と心理”を披露したことだった。METAFIVEは基本的に高橋幸宏とLEO今井がヴォーカルを取っていて、小山田圭吾はギタリストに徹していたが、2020年にリリースされた本人作のこの曲で初めてワンコーラスを歌っている。ただ、ライヴでは2020年の年越し配信ライヴ「KEEP ON FUJI ROCKIN' Ⅱ」と、昨年7月の騒動渦中に行われたMETAFIVEの無観客配信でしかまだ披露されていなかったため、人前で歌ったの今回が初めてだった。長らく発売中止のままだった2ndアルバム『METAATEM』がやっと今年9月に正式にリリースされることが決まったものの、残念ながらラスト・アルバムと発表されていることや、METAFIVEの一員としても出演予定だった昨年のフジロックのこのホワイト・ステージにて、メンバーの砂原良徳とLEO今井が特別編成でこの曲を含めたパフォーマンスをやりきったこと、それらを汲み取ったうえでの選曲だったのかもしれない。観客の期待に応えながら、やり残していたことを自らきちんと回収していく姿は、さすがプロフェッショナルだと感じた。

 それでもやはりいつもと違う部分はあった。序盤の歌声は以前より弱々しく、細く聴こえた。代わりにサポート・メンバーの3人がこの日は本当に頼もしかった。シンセと生のベースを使い分けるマルチプレーヤーの大野由美子は抜群のグルーヴを保ちつつ、コーラスでも時折歌を引っ張る場面があったし、飄々とした出で立ちのキーボードの堀江博久は、恒例の“Beep It”のカウベルタイムで強めに叩きすぎて腕を痛がる素振りを交えながら観客を笑わせる余裕を見せ、ドラムのあらきゆうこはさらにパワフルさを増しながら、曲に合わせて複雑でしなやかなリズムを築きあげている。サプライズの2曲以外は一見代わり映えのないセットリストに見えるけれど、曲によっては映像が大幅にリニューアルされ、アレンジにも細かい変化をつけていた。そしてサングラスの下の表情がずっと見えなかった小山田圭吾が、中盤の“Another View Point”から“Count Five or Six”、そして“I Hate Hate”へと繋がる、ほとんど歌の乗らないゴリゴリのバンド・サウンドの連続でギターに専念した瞬間、目に見えて生き生きとしはじめた様子がわかった。そこから次の曲に進むにつれて、声も少しずつ大きくなっていく。もしかするとこんなふうにライヴ感を出すコーネリアスを観たのは初めてかもしれない。いつどこで観ても一寸の狂いもなく完璧で、ショーと呼ぶにふさわしい近年のあの演奏にはない静かな熱を帯びていた。音楽に突き動かされながら演奏する、小山田圭吾という生身の人間の本来の姿をそこで垣間見た気がして、心を大きく揺さぶられた。

 世の中には言葉にならない感情を別のものや何かを動かすエネルギーに変換して人に与えられる才能を持った人がいて、コーネリアスは間違いなくその才能に長けた音楽家だと思う。最後に演奏した“あなたがいるなら”は、これまで何度も観てきたなかでもいちばん優しく、あたたかく響いていた。気のせいだとしてもいい。この日の復活までの長い時間を見守り、支え続けてきた大勢の人びとのすべての思いがたしかにその場所にあった。誰もがそれを見届けた特別な夜だった。

Ebi Soda - ele-king

 UKジャズの中心はロンドンで、ほかにマンチェスターやブリストルにもシーンは存在しているが、それら以外の都市からも面白いアーティストが登場している。そのひとつがブライトン出身のエビ・ソーダだ。ブライトンは英国の南部海岸沿いの街で、産業都市というよりもリゾート地として有名なのだが、そうした土地柄もあって昔から陽気なパーティー・ミュージックが盛んで、ナイトクラブも多い。トロピカルな南国調の音楽も根付いていて、レゲエやダブなども人気だ。ロンドンやマンチェスターをはじめ、UKの音楽には一般的にダークでシリアスなものが多いのだが、それらとは一線を画すムードがあるのがブライトンである。レーベルでは〈トゥルー・ソウツ〉が有名だろう。現在の〈トゥルー・ソウツ〉はムーンチャイルドをリリースするなどUK以外のアーティストも扱っているのだが、レーベル初期はボノボクアンティックという地元ブライトン出身アーティストが看板だった。中でもクアンティックはラテンやレゲエなどを取り入れた音楽性で、ブライトンらしいアーティストだったと言えよう。

 エビ・ソーダはブライトン出身の5人組で、リーダー格のヴィルヘルムことウィル・イートン(トロンボーン)ほか、コナー・ナイト(ギター)、ハリ・リー・イートン(ベース)、ルイス・ジェンキンス(キーボード)、サム・シュリック・デイヴィス(ドラムス)というメンバーに、楽曲によってサックスやトランペットなどが加わる。2019年にデビューした若いバンドで、これまでに『エビ・ソーダ』と『ベッドルーム・テープス』という2枚のEPや数枚のシングル、2020年にはファースト・アルバムとなる『アーグ』をリリースしている。デビュー作の『エビ・ソーダ』を聴いた印象では、ジャズ・ファンクをベースとしたソリッドなビートを刻むリズム・セクションは、ヒップホップやドラムンベースをはじめとしたクラブ・ミュージックの影響下にあるもので、南ロンドンの新世代ジャズと同じ地平にあるものだ。そうした中でトロンボーンが前面に出てきた演奏はレゲエやダブ、アフロ・ジャズの影響も感じさせ、南ロンドン勢で言うとサンズ・オブ・ケメットにも近いところがあるようだ。

 ファースト・アルバムやEPはロンドンのレーベルの〈ソーラ・テラ〉からのリリースで、ライヴ活動もロンドンで積極的におこなってきたエビ・ソーダだが、この度リリースしたセカンド・アルバム『ホンク・イフ・ユー・アー・サッド』は地元の〈トゥルー・ソウツ〉からとなる。『アーグ』では男女ヴォーカリストをフィーチャーしたよりクラブ・ミュージック寄りの作品もやっていたが、『ホンク・イフ・ユー・アー・サッド』はそもそもの原点であるインスト・バンドに立ち返ると同時に、厚みのあるホーン・セクションやチェロなども交え、全体的に深みを増した演奏を展開している。ゲストではヤズ・アーメッドの参加が目を引くところだ。

 そのヤズ・アーメッドが参加する “チャンドラー” は、重低音の効いたリズム・セクションとホーン群の情熱的な演奏にエレクトロニクスを交え、全体的にはダビーな空間構成がなされている。ダブの影響下にあると共に、クルアンビンとかテーム・インパラあたりに通じるサイケデリックな風味もまとった楽曲だ。“セウドクリーム” もダビーでサイケデリックな空間構築と、ジャズ・ファンクともクラウトロックともニューウェイヴともつかないミクスチャーな演奏が融合した楽曲。ココロコバッドバッドナットグッドローニン・アーケストラなど同時代のアーティストと共に、カン、ラウンジ・リザーズ、ザ・フォールなど過去のアーティストも影響減に挙げるエビ・ソーダならではの楽曲だ。“クリスマス・ライツ・イン・ジューン” は人力ドラムンベースや人力ダブステップ的なビートの楽曲で、ルーツ・レゲエやラスタファリズムに通じるミステリアスな音色をホーン・アンサンブルが奏でていく。ブライトンをベースとするエビ・ソーダの個性が前面に出た楽曲と言えるだろう。

Lianne Hall - ele-king

 『エナジー・フラッシュバック』——このタイトルに反応してしまう人は、真性のダンス好きか、さもなければ90年代前半の週末のほとんどをダンスフロアで過ごしていた人たちなのだろう。が、しかしこれはテクノのアルバムではなく、フォーク&インディ・ポップのアルバムだ。リアン・ホールというシンガーが、若い頃に経験したレイヴ・カルチャーの思い出をコンセプトにひとつのアルバムを作ったと知っては、これはもう絶対に聴かなければならない、使命である——なんてことを書いているが、ぼくはリアン・ホールというSSWが何者なのかをよくわかっていなかったりする。だから、つまりその、『エナジー・フラッシュバック』というタイトルが面白いじゃんと、それで彼女の音楽を初めて聴いた次第なのだ。

 この作品は、ある意味おそろしいタイムマシンだ。アルバムの1曲目の表題曲“エナジー・フラッシュバック”、「909 on 303〜」という歌い出しの、ドラムマシンの名称からはじまるメロウなフォーク・ソングは、しかも、曲の要所要所で、90年代初頭のレイヴ・カルチャーのアンセムのフレーズが繰り返される(その曲がなんなのかはすぐわかるので、自分で聴いてたしかめてください)。「エクスタシーというささやき声が〜」——思わず笑ってしまったが、目を閉じて聴いていると、いろいろなことを思い出してしまう。
 自分が夏を好きなのは、それが冒険の季節で、思い出がたくさんあるからというのもある。それはもう、少年時代からずっといろいろとあるが、ひとりのダンス・ミュージック・ファンとしては野外レイヴや野外音楽フェスティヴァルの数々の記憶には特別なものをいまでも感じる。それは、ステージの上で演奏していた有名な誰かの記憶ではない。レイヴ・カルチャーは、主役は自分たちリスナーだとオーディエンスを改心させたムーヴメントだったので、クラブやライヴハウスでは経験できないアクシデントや偶然性によって生まれる、たとえばそこで出会った見知らぬ誰かとの物語が面白かったりするのだ。リアン・ホールの『エナジー・フラッシュバック』には、そうした“我らの”親密さが横溢している。
 
 とはいえ、この『エナジー・フラッシュバック』は、レイヴ・カルチャーを体験していないリスナーが聴いても楽しめるだろう。ブライトン出身で現在ベルリン在住らしいこのシンガーは、すでにキャリアがあり、かのジョン・ピールが「偉大なるイングリッシュ・ヴォイスのひとり」と評したほどのチャーミングな声の持ち主だ。アコースティックとエレクトロニクスが絶妙に混じり合うその音楽は、初期のラフトレード系の手作り感(DIY感)を彷彿させるし、ピアノやヴァイオリンも良い感じで鳴っている。こじんまりとしているが、だからこそ良く、大物になることにはなんの興味もない音楽家が持ち得る愛らしさでいっぱいなのだ。
 

  
 昔、七尾旅人が電気グルーヴの“虹”をアコースティック・ギターでカヴァーしたことがあって、それは涙が出たほど感動的だったし、そういえば旅人とやけのはらの“Rollin' Rollin'”も、ダンス・カルチャーを叙情的に捉えた名曲のひとつだ。レイヴ・カルチャーの延長線上で聴いた曲としては、フィッシュマンズの“ナイト・クルージング”なんかもそう。ぼくのなかでは、暑くも甘ったるいあの時代にリンクする歌モノはこんな感じでいくつかあるにはある。が、『エナジー・フラッシュバック』は、アンダーグラウンドなダンスフロアや野外レイヴをがちで経験してきた人間が、完全に終わってしまった季節に対して歌っているという意味において、じつに胸が痛い作品だったりする。いや〜、これは切ない。ブリアルのレクイエム・フォー・ザ・レイヴ・カルチャーなんかよりも、当事者の愛情がこもっている分、本質的にはずっと切ないのだけれど、作品名がそうであるように、賢明なリアン・ホールはそれをユーモアで包んでくれているし、創意工夫をもった彼女のサウンドのいろんな引き出しが楽しさをもたらしてもくれる。まあ、このカセットテープのデザインからして、面白がっている感じが出ている。
 『エナジー・フラッシュバック』の最後の曲は“あなたはテクノでもう踊らない(U Don't Dans To Tekno Anymore)”。「ストロボライトの下であなたとは会えない‏‏‏/あなたはシカゴとデトロイトにさよならを言う‏‏‏‏/あなたはテクノでもう踊らない」——あれから30年以上も経っているのだ。変わっていく人もいれば変わらない人もいて、自分はいったい何をしているんだろうかと気を失いそうになることもあるけれど、とりあえずがんばってます(笑)。 

Pan American - ele-king

 いやしかし暑いですな。本当に暑い。少し外に出ただけで汗が噴き出るし、夜も寝苦しい。でも、それでもぼくは夏が好きなんですよ。夏の空、入道雲、蝉の声、ヒマワリや朝顔、これだけでも気持ちが上がる。毎週通っている区民プールも夏休みの子供たちでいっぱいで、騒がしいけれどそのほうがいい。夏最高。
 と、そんな書き出しではじめながら、今年の2月にリリースされた、冬の木枯らしの荒涼とした写真をしつらえたアートワークに包まれているアルバムを紹介しよう。ビールを飲みながら聴いていると至福の時間が流れること請け合いだ。
 
 マーク・ネルソンによるパン・アメリカンは、ポスト・ロックなるジャンルがざわめきたった90年代後半に、シーンのいちアーティストとして脚光を浴びたベテランで、その前はラブラドフォードなるバンドのメンバーだった。ちなみに、同バンドの1stアルバム(1993年)こそシカゴの〈クランキー〉の第一弾であり、このレーベルの名盤の1枚にも数えられている。それに、スペースメン3やループといった80年代UKのモダン・サイケに影響された彼らのサウンドは、のちのレーベルの方向性(ロスシル、ディアハンター、ウィンディ&カール、スターズ・オブ・ザ・リッド、グルーパーティム・ヘッカー、そしてロウやGY!BEまで)としっかり符合もしている。つまり彼らが志向した音楽は、初期のシーフィールとも似た、アンビエントやドローン(ないしはクラウトロック)の要素を吸収した静寂のサイケデリア。パン・アメリカンは、ラブラドフォードで試みたポスト・ロックの青写真めいたサウンドから、アンビエントなギター・サウンドを抽出する格好でスタートしたネルソンのソロ・プロジェクトである。
 
 アンビエントを作る人のほとんどが使うのは、鍵盤の付いた電子楽器やコンピュータだが、ネルソンはギター演奏でそれを表現しようとする。パン・アメリカンとしては9枚目のアルバムとなる『ザ・ペイシェンス・フェイダー』もギター・インストゥルメンタルを集めた作品で、控えめなダブ処理はあるものの、エレクトロニクスには頼っていない。曲によってはハーモニカ(あるいはアコーディオンも?)も使っているようだが、ゆったりとした楽器の演奏による音色と旋律とその間(静けさ)によって彼のサウンドスケープは創造される。全編ビートレスで、どの曲も美しく、ブルージーだが、どの曲も夢見る響きを持っている。この繊細な音楽の素晴らしさは、なんといっても仕事をしたり、日々の心配事だったり、などといった毎日強制される時間感覚から解放されるという点にある。
 
 いま、『ヴァイナルの時代』という、レコードに関する本を編集している。ヴァイナル・レコードの魅力についての本で、社会学や哲学的なレヴェルまで掘り下げてレコード収集について述べられている本だ。レコードの魅力を語る上で、音質が良いという話がたびたび出てくるが、音質の善し悪しは聴き手の好みも入ってくるので主観的なことでもある。では、レコード・リスニングの魅力とは何かというときに、ひとつの理由として、それを聴いている体験は誰にもその履歴を追跡されないし、広告の入る余地もない、ただ自分のものとしてある、という話が同書には出てくる。これはCDでも、独立した再生機をアンプに通して聴く分には同じことになるが、重要なことだとぼくには思える。
 また他方では、レコードを聴くことは、時間感覚を変えるという旨も詳説されている。これもまた十分にうなずける話だ。一時期はぼくも流行に便乗して、電車に乗っているときもサブスクで音楽を聴いていた時期もあったが、ずいぶん前に止めてしまった。それはまるで、人間の持ち時間の隙あらばどんな時間帯でも消費活動に走らせる資本主義の一部のごときというか、生産性のない無駄な時間、何もしない時間がどんどん減っていっているような今日における、支配的なデジタル消費文化の一部に思えてしまうのだ(コンテンツなどという呼称は、それなしでは生きられないほど愛している人間や丁寧に聴かれることを望んでいる音楽にとっては侮辱的だろう)。個人として音楽を聴くことは、むしろそうした支配的な時間感覚から逃避することだったと思うし、ぼくにはいまでもそれが、音楽を聴くことを好んでいる理由のひとつだ。レコードを聴くということは、そのための時間を作ることでもあり、忙しい日々からいったん自分を切り離すことでもある。
 
 そんなわけで、地味な作品ではあるけれど、慌ただしい時間帯からの解放という点においては、パン・アメリカンの本作は良いセンいっている。ぜひレコードで……とは言いません。ただ、自分の部屋のなかで、すべての作業はいったん止めて、音だけに集中して無駄な時間を満喫しましょう。

black midi - ele-king

 聞いてくれ! といがらっぽい声でのたもうたのち、作中人物になりかわったジョーディ・グリープは月光のもと愛の甘いささきがながれ、オートバイが柔らかいエンジン音をたて、風土病がはびこり、緑のテーブルに土産物がのった赤い部屋のある歓楽街への上力をみとめ、戦争のなんたるかをのべる――ファースト・シングル“Welcome To Hell”のいささか、というかまいどながらシュルレアリスティックな舞台設定に伏在し、サウンドに共鳴し合うものが前作から1年というみじかいスパンでのリリースとなるブラック・ミディの3作目『Hellfire』の構えをさだめている。“Hellfire=地獄の業火”の表題はそこであたかも禍々しい阿鼻叫喚をくりひろげるようでいて、グリープはおそらく種々のハードコアやエクストリーム・ミュージックがむかいがちなリニアな志向性とは似て非なる多義的な含意をタイトルにこめている。むろん圧力は低くはない。1分半に満たない冒頭の表題曲から、サウンドは芝居気たっぷりで、和声の動かし方と情景の描き方とアコーディオンの使い方にはギリアムの『12モンキーズ』におけるピアソラを想起したが、タイムループのなかでもウイルスの蔓延を止められないあの映画以上に、2022年の現実世界は平然と閉塞し、また逼迫しつづけているのはまちがいない。ロックダウン下のロンドンで制作をすすめ、仕上げ段階で戦争の影をドーバー海峡のはるか向こうにみとめたにちがいない2022年にあって“Hellfire”の名づけは、ややもすると状況のメタファとして機能するがゆえに記号化し空洞化するおそれもなくはない。もっともそのような象徴世界に出自をもつブラック・ミディの面々なのだからネット社会の機制はおりこみずみであろう。
 そのことはこの3年の3作に克明に刻んである。2019年の『Schlagenheim』から2021年の『Cavalcade』を経て本作へいたる、その足跡を深々とふりかえることは本稿はさしひかえるが、セカンドの濃密さとざっくばらんな多彩さはその年のベストに選出したほど新鮮だった。プログレにせよノイズ・ロックやマス・ロックせよ、ジャズやフォークや70年代の歌謡曲でも、思いあたるふしがあればこその興味ではあったが、彼らの数式は私が学校で習った四則演算にはなかった要素をどうやらもっているらしいのだ。『Cavalcade』の折衷主義を前にしたとき、私はそのように考え、前作からの飛躍とも落差ともつかない変化の度合いに可能性をみたのである。
『Hellfire』はおおまかにはその延長線上に位置するものの、前作で主題にすえていた(音楽の)形式的なあり方はいくらか後退し、観念的な側面がせりだしている。切片的なフレーズと、急転直下の展開は前作をひきつぐが、グリッド的な構築性といった方法的な行き方よりは作品性やドラマ性が勝っている。そのように考えてしまうのは海外メディアに載ったグリープのインタヴュー記事を目にしたせいだが、なかでも「The Quietus」でアルバムを13枚選出する企画は『Hellfire』の参考になるので機会あればご覧になられたいが、その前書きで著者はグリープの発言を引き、本作の歌詞は一人称をもちいていると記している。人称については小説=私小説と考えがちなわが国では歌詞の主語は歌手——シンガーソングライターであればなおのこと——そのものだと思いこみがちだが、そのような約束事はむろんどこにも存在しない。グリープのいう一人称は英語の「I」だろうが、そのすぐあとに彼はキャラクターを徹底的につくりこんだので聴いているあいだ彼(グリープ)の存在にはほとんど光はあたらないはずだとも述べている。彼は作中のキャラクターに扮しているのであって歌でなにかをつたえているのではない。私はあたりまえなことをいたずらにややこしくしているだけかもしれないが、音楽という身体の現働性をうちにふくむ形式は主体と虚構を接近させ聴き手の錯覚をまねくきらいがある。これは自作自演があたりまえになってSNSや動画共有サービスがアンプリファイアーと化した以降の主体の定位置だが、全人類が右にならう必要などないし、音楽の歴史ではそっちのほうがずっとみじかい――と、ローラ・ニーロからウィリー・ネルソンやトム・ウェイツ、マーヴィン・ゲイやアイザック・ヘイズ、レオ・フェレといったグリープのリストに登場する先達たちの顔ぶれに感じいったのである。
 グリープは歌というものを語りの境地でとらえなおしたかったのではないか。ウィリー・ネルソンのマーダー・フォークや、倒錯的で諧謔的なトム・ウェイツの詩性ように、歌の外に身を置きながら異形の世界を語り聞かせる。ドラマ性が勝るという『Hellfire』にたいする印象は楽曲における説話構造の強調にも由来する。そのような見地にたてば、冒頭に述べた “Welcome To Hell”の「聞いてくれ!」のいち語も作中人物の声であるとともに話者から聴き手への呼びかけともとれる(その場合“Welcome To Hell”は二人称となる)。
 語りの重層性により『Hellfrie』は前作との差異化を果たしたが、語り手としての主体の位置をなぞるようにミックスでは声はつねに音楽空間のわずか上方にあるように音の定位がなされている。いわばメタ=ヴォーカルとでもいいたなる位置に声を置くことで『Hellfire』の10曲はアルバムの引力圏につなぎとめられる。安易に演劇的などと誤解を招くやもしれぬことばづかいは慎むべきであろうが、『Hellfire』がシアトリカルな志向性をつよくもつのはまちがない。とはいえ本作は音楽であり、音楽は歌詞や作品の物語的な側面を一から十までわからないとおもしろくないわけではない。問うべきはむしろ、作品内で同時多発的になにが起こり、いかに時間が進行するかという論点であり、説話とはその運動の態様をさす。ブラック・ミディはアルバムという古典的な形態を借りてそのことに真剣にとりくんでいる。坂本慎太郎はもはやアルバムなんか聴くひとなどいないといわれ、曲順を考えることは徒労にすぎないと取材者にご助言いただいたというが、私は一定の構造と物理量がなければ表現できないことは絶対に存在すると『物語のように』や『Hellfire』を聴くたびに思う。長さが問題ではないのだ。給付金でもベルクソンでも持続が肝要なのである。
 持続とはすなわち継起する運動であり、要約できない全体である。その観点から『Hellfire』をふりかえると、“Hellfire”“Sugar/Tzu”“Eat Men Eat”から“Welcome To Hell”とたたみかける前半は息もつかせない。管や弦の使用は現在の彼らの通例であり、録音における無際限の選択肢を意味しているが、オーバーダビングという行為を自己解体とみなすスタンスはこれまで以上にきわだっており、めまぐるしさはジャズ・ロックよりのプログレ的でありながら、楚々とした叙情性はユーロックと呼ばれていたころのプログレであり、しからば王道のプログレかといえばそんなことはまるでない。ブラック・ミディの音楽には演奏家のきわめて2020年代的な身体性——ことにモーガンのタイム感とフレーズの組み立てはモダンドラムの典型——が働いており、再現や反復は必然的に飛躍をこうむるが、飛躍を倍加する速度を戦略の骨子とした点に彼らの特色がある。ここでいう速度はむろんテンポやBPMではなく、ましてはファスト映画のファストとかでもなく、解釈や判断におけるそれである。現在のブラック・ミディは結成当初のジャム・セッションへの志向性はうすらいだようだが、温存した即興の反射神経はおそらく制作の過程にいきている。『Hellfire』の持続の背後にはそのような力学があるが、ヘタをすれば空中分解しかねないブラック・ミディの方程式をなりたたせるのは、ゲーム的な遊戯性に身をまかせながら端々に近代性が顔をのぞかせる点にある。グリープはインタヴューでブルガーコフやバシェヴィス・シンガーにも言及しているが、「地獄」や「悪魔」といって彼らの小説をもちだす若者もめずらしい。なんとなればそれらの作品の旧約的な不条理さは、相対主義のはてに思想、信条、信仰が分断しカルト化する世界で根源的な思考をうながすからである。

Brian Eno - ele-king

 京都でのインスタレーション展「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」が大盛況のブライアン・イーノ。この絶好のタイミングで、新たなオリジナル・アルバム『FOREVERANDEVERNOMORE』のリリースがアナウンスされた。今回はなんと、05年の『Another Day on Earth』以来(数え方によっては2016年の『The Ship』以来)となる、ヴォーカル作品。レオ・エイブラハムズ、ジョン・ホプキンス、ピーター・チルヴァース、ロジャー・イーノといったおなじみの面々に加え、ふたりの娘セシリー&ダーラも参加している模様。テーマは、近年の彼の最大の関心事といっても過言ではない、気候危機。下掲のイーノのメッセージ、必読です。10月14日発売。

 なお、あわせて「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」の会期延長も発表されている。当初8月21日(日)で終了の予定だったが、9月3日(土)まで開催されるとのこと。まだの方はもちろん、もう行ったという方もこれを機にあらためて足を運んでみては。

BRIAN ENO

アンビエント・ミュージックの先駆者、ブライアン・イーノが
17年ぶりのヴォーカル・アルバム『FOREVERANDEVERNOMORE』を10月14日にリリース!

国内最大規模の大展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」は
大盛況につき会期延長決定!

音楽界のレジェンド、ブライアン・イーノの22枚目のアルバム『FOREVERANDEVERNOMORE』(フォーエヴァーアンドエヴァーノーモア)が10月14日にリリースされることが発表になった。

ミュージシャン、プロデューサーとして数々の名作を世に送り出しているイーノだが、ヴィジュアル・アートのパイオニアとしても知られており、現在、京都中央信用金庫 旧厚生センターでは、大規模個展「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」が開催中。幅広い世代から好評を博している。

今再びイーノの多岐にわたる活動に大きな注目が集まる中で発表された今作『FOREVERANDEVERNOMORE』は、ウエスト・ロンドンにあるイーノのプライベート・スタジオでレコーディングされた10曲が収録され、2005年のアルバム『Another Day On Earth』以来、イーノ自身がヴォーカルを担当した作品となっている。また、2021年8月に世界遺産であるギリシャのアクロポリスで行われた、11年ぶりのライヴ・パフォーマンスのためにイーノが作曲した “There Were Bells” と “Garden of Stars” のスタジオ録音と、環境問題への取り組みを目的にロンドンのサーペンタイン・ギャラリーで開催中の展示会「BACK TO EARTH」のために制作したオーディオ・インスタレーション作品に含まれる “Making Gardens Out of Silence” が収録されている。なお、今作はドルビーアトモス音源での配信も決定されている。

なお、本日より先行シングル “There Were Bells” の配信がスタート。2021年8月に弟のロジャー・イーノと共にアクロポリスで行ったコンサートの映像を使用したパフォーマンス・ビデオも公開となった。この曲は、現在の気候の非常事態を意識させるもので、このテーマはアルバム全体を通して取り上げられている。コンサート当日のアテネは気温45度にまで昇り、周辺部では山火事も発生した状況に、イーノは「我々はここ、西洋文明の発祥の地にいますが、おそらくその終わりを目撃していると思いました。」とコメントを残している。

Performance video 「There Were Bells」
https://www.youtube.com/watch?v=-gH-acWKpNY

さらに、今作は長年のコラボレーターであるギタリストのレオ・エイブラハムズ、音楽家兼ソフトウェア・デザイナーのピーター・チルヴァース、ヴォーカリストのクローダ・シモンズ、音楽家のジョン・ホプキンスに加え、弟で音楽家のロジャー・イーノ、娘のセシリー・イーノとダーラ・イーノが参加している。

なお、今作について、イーノは下記のようにコメントしている。

 皆さんと同じように(どうやら世界のほとんどの政府を除いて)、私は狭まっていく不安定な未来について考え、この音楽は、そのような考え、いえ、“感情” から生まれたものです。このような思いを共有する私たちは、世界が目まぐるしく変化し、その大部分が永遠に消え去ろうとしていることを理解しています……だから、このアルバムのタイトルにしたのです。

 このアルバムは、何を信じてどう行動すべきかを伝えるためのプロパガンダではありません。私自身が自分の “感情” を探求している証です。リスナーの皆さんとも、このような経験や探求を共有できればと願っています。

 私たちアーティストが、実は “感情の商人” であるという考えを受け入れるまで時間がかかりました。“感情” というものは主観的なのです。数値化したり比較したりするのが難しいので科学的には語られませんが、“感情” は思考の始まりで、なくてはならない存在でもあるのです。“感情” は、脳が意識している以上の広いレンズで、身体全体に影響を及ぼすものです。

 アートによって、私たちはその “感情” を知り、気づき、そこから学び、好き嫌いを知り、そこから “感情” を “行動” に変えていけるのです。子どもは遊びを通して学び、大人はアートを通して遊びます。アートは “感情” を持つ空間を与えてくれますが、本を閉じたりギャラリーから出るように、オフスイッチもついています。アートは、楽しいことも辛いことも、“感情” を経験する安全な場所です。 その “感情” は、私たちが切望するものであることもあれば、避けたいものでもあります。

 地球を救う唯一の希望は、私たちが地球に対して異なる “感情” を抱き始めることだと、私はますます確信しています。生命の驚くべきありえなさに再び魅了され、すでに失ったものに後悔や辱めを感じ、私たちが直面している挑戦と不透明な未来に爽快感を覚えるかもしれません。簡潔に言えば、私たちは自然、文明、そして未来への希望に、再び恋に落ちる必要があるのです。

アルバムのデジタル予約も本日スタート。同時に、デジタルキャンペーンもスタートした。iTunes でアルバム『FOREVERANDEVERNOMORE」をプレオーダーした方の中から抽選で10名様に「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」のチケットがプレゼントされる。
詳細・応募 https://www.universal-music.co.jp/brian-eno/news/2022-07-28/

商品情報
ブライアン・イーノ『FOREVERANDEVERNOMORE』
2022年10月14日(金)発売
視聴・ご予約はこちら:https://BrianEno.lnk.to/al_FOREVERANDEVERNOMOREPR

収録曲(デジタル配信楽曲)
01. Who Gives a Thought
02. We Let It In
03. Icarus or Bleriot
04. Garden of Stars
05. Inclusion
06. There Were Bells
07. Sherry
08. I’m Hardly Me
09. These Small Noises
10. Making Gardens Out of Silence

ブライアン・イーノ(ヴォーカル、プロデュース)
レオ・エイブラハムズ(ギター)[01, 03, 04, 06, 07, 09]
ダーラ・イーノ(ヴォーカル)[02, 08]
セシリー・イーノ(ヴォーカル)[04]
ロジャー・イーノ(アコーディオン)[04, 06]
ピーター・チルヴァース(キーボード)[04]
マリーナ・ムーア(ヴァイオリン、ヴィオラ)[05]
クローダ・シモンズ(ヴォーカル)[09]
ジョン・ホプキンス(キーボード)[09]
キョウコ・イナトメ(ヴォーカル)[10]

イベント情報
音と光の展覧会 BRIAN ENO AMBIENT KYOTO  開催中

ヴィジュアル・アートに革命をもたらした英国出身のアーティスト、ブライアン・イーノによる展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」は、京都を舞台に6月3日(金)に幕を開け、主要3作品と世界初公開作品が一堂に会する大展覧会とあって、連日大盛況となっている。その賑わいを受けて、当初8月21日(日)に閉幕の予定だった会期を、2週間延長して9月3日(土)まで開催することが決定。会期延長期間のチケットは、8月3日(水)正午12時よりオンラインにて販売が開始される。(延長後の会期:2022.6.3 - 2022.9.3)

BRIAN ENO プロフィール
ミュージシャン、プロデューサー、ヴィジュアル・アーティスト、アクティビスト。70年代初頭にイギリスのバンド、ロキシー・ミュージックの創設メンバーの一人として世界的に注目を集め、その後、一連のソロ作品や様々なコラボレーション作品を世に送り出している。プロデューサーとしては、トーキング・ヘッズ、ディーヴォ、U2、ローリー・アンダーソン、ジェイムス、ジェーン・シベリー、コールドプレイなどのアルバムを手がけ、デヴィッド・ボウイ、ジョン・ハッセル、ハロルド・バッド、ジョン・ケイル、デヴィッド・バーン、グレース・ジョーンズ、カール・ハイド、ジェイムス・ブレイク、そして実弟のロジャーとコラボレーションを行なっている。音楽活動と並行して、光や映像を使ったヴィジュアル・アートの創作活動を続け、世界中で展覧会やインスタレーションを行っている。 ロジャー・イーノとは、初の兄弟デュオ・アルバム『ミキシング・カラーズ』(2020年)をリリース。これまでに40枚以上のアルバムをリリースし、ヴェネツィア・ビエンナーレ、サンクトペテルブルクのマーブル・パレス、北京の日壇公園、リオデジャネイロのアルコス・ダ・ラパ、シドニー・オペラハウスなど、広範囲に渡ってアート・エキシビションを行なっている。長期に渡るスパンで文化的施設や機関の基盤となることを目的とする「Long Now Foundation」の創設メンバー、環境法慈善団体「ClientEarth」の評議員、人権慈善団体「Videre est Credere」の後援を務めている。2021年4月には「EarthPercent」を立ち上げ、音楽業界から資金を集めて、気候変動の緊急事態に取り組む最も影響力のある環境慈善団体への寄付を行っている。

Links

artist: BRIAN ENO
title: FOREVERANDEVERNOMORE
release: 2022.10.14

https://BrianEno.lnk.to/al_FOREVERANDEVERNOMOREPR

TRACKLISTING
01. Who Gives a Thought
02. We Let It In
03. Icarus or Bleriot
04. Garden of Stars
05. Inclusion
06. There Were Bells
07. Sherry
08. I’m Hardly Me
09. These Small Noises
10. Making Gardens Out of Silence

CAN - ele-king

 CANの未発表ライヴ音源シリーズ、第3弾の発売がアナウンスされている。かつてファンが録音した素材から高品質なものを厳選、イルミン・シュミットとルネ・ティナーが監修する同シリーズは、すでに『Live In Stuttgart 1975』と『Live In Brighton 1975』の2枚がリリース済み、今回でついに完結を迎える。
 収録されているのは1976年、ドイツ北部の海に面した都市クックスハーフェンでのパフォーマンス。76年といえば、大胆にディスコにアプローチしたシングル「I Want More」がヒットし、レゲエやアフロを取り入れたアルバム『Flow Motion』が発表された年だ。いったいライヴではどんな演奏が繰り広げられていたのか、気になってしかたがない。『Live in Cuxhaven 1976』は〈ミュート〉より10月14日に発売。

CAN、大好評の『CAN:ライヴ・シリーズ』第三弾を10/14に発売!
1976年、独クックスハーフェンでの歴史的ライヴ盤よりダイジェスト音源を公開!

「CANのライブはスタジオワークの延長ではなく、それ自体が作品であることは間違いない。そして、まだ発見することがたくさんあるのはとても幸運なことだ」──パスカル・ビューッシー(作家)

CANの伝説のライヴを、最先端技術を駆使してお届けする大好評の『CAN:ライヴ・シリーズ』、その第三弾となる『ライヴ・イン・クックスハーフェン1976』(LIVE IN CUXHAVEN 1976)が10月14日に発売される。1976年に独クックスハーフェンで行われたライヴの模様を収録したライヴ盤よりダイジェスト音源が公開された。

■ダイジェスト音源
https://youtu.be/ehC2jDWFQqE

■Listen + Pre-Order
https://lnk.to/CANLIVE3

本作のブックレットには、フランスの作家パスカル・ビュッシーが執筆したライナーノーツが掲載されている。彼の著書には、The Can Story(アンディ・ホールとの共著、1989)、Kraftwerk, Man, Machine, and Music(1993)がある。CANのライブについて、ビュッシーは次のように述べている。「CANのライブはスタジオワークの延長ではなく、それ自体が作品であることは間違いない。そして、まだ発見することがたくさんあるのはとても幸運なことだ」。

CAN は1968年にケルンのアンダーグラウンド・シーンに初めて登場し、初期の素材はほとんど残されていないかわりに、ファン・ベースが拡大した1972年以降は、ヨーロッパ(特にドイツ、フランス、UK)で精力的にツアーを行い、伝説が広がるにつれ、多くのブートレッガーが集まってきたのだ。『CAN:ライヴ・シリーズ』は、それらの音源の中から最高のものを厳選し、イルミン・シュミットとルネ・ティナーによる監修で、21世紀の技術を駆使して、重要な歴史的記録を最高の品質でお届けするプロジェクト。

このライヴ・シリーズは、英誌Uncutのリイシュー・オブ・ザ・イヤーで1位、MOJOで2位を獲得したライヴ盤『ライヴ・イン・シュトゥットガルト 1975』(LIVE IN STUTTGART 1975)と、『ライヴ・イン・ブライトン 1975』(LIVE IN BRIGHTON 1975)の2作が発売されている。

■オリジナル・アルバム概要
https://bit.ly/3mfeLxK

■商品概要
アーティスト:CAN (CAN)
タイトル:ライヴ・イン・クックスハーフェン 1976 (Live in Cuxhaven 1976)
発売日:2022年10月14日(金)
CD
品番:TRCP-305 / JAN:4571260592582
定価:2,400円(税抜)/ 紙ジャケット仕様
海外ライナーノーツ訳 / 解説: 松山晋也

Tracklist
1. Cuxhaven 76 Eins
2. Cuxhaven 76 Zwei
3. Cuxhaven 76 Drei
4. Cuxhaven 76 Vier


■プロフィール
CANはドイツのケルンで結成、1969年にデビュー・アルバムを発売。
20世紀のコンテンポラリーな音楽現象を全部一緒にしたらどうなるのか。現代音楽家の巨匠シュトックハウゼンの元で学んだイルミン・シュミットとホルガー・シューカイ、そしてジャズ・ドラマーのヤキ・リーベツァイト、ロック・ギタリストのミヒャエル・カローリの4人が中心となって創り出された革新的な作品の数々は、その後に起こったパンク、オルタナティヴ、エレクトロニックといったほぼ全ての音楽ムーヴメントに今なお大きな影響を与え続けている。ダモ鈴木は、ヴォーカリストとしてバンドの黄金期に大いに貢献した。2020年に全カタログの再発を行い大きな反響を呼んだ。2021年5月、ライヴ盤シリーズ第一弾『ライヴ・イン・シュトゥットガルト 1975』を発売。同年12月、シリーズ第二弾『ライヴ・イン・ブライトン 1975』を発売。2022年10月、シリーズ第三弾『ライヴ・イン・クックスハーフェン 1976』を発売。

https://www.mute.com/
https://www.spoonrecords.com/
https://www.irminschmidt.com/
https://www.gormenghastopera.com/

Nanao Tavito - ele-king

 七尾旅人が、2018年の『Stray Dogs』以来のアルバムをリリースすることが先週、本人のツイートによって発表された。タイトルは『Long Voyage』、全17曲、CD2枚組の大作で、そのスケールの大きさからいって、ファンのなかにはあの『911FANTASIA』を思い出す人も少なくないだろう。コロナ以降の2年間の七尾旅人がやってきたこと(対コロナ支援配信「LIFE HOUSE」や感染者家庭に食料を届ける「フードレスキュー」はいまも継続中)を思えば、それもむべなるかなで、期待は高まる。発売は9月14日、曲名や参加ミュージシャンなどアルバムの詳細は彼のホームページを参照してください

Stick In The Wheel - ele-king

 先日出た紙版エレキング「フォークの逆襲」号のディスク・ガイドのページでもちょこっと紹介したが、改めてレヴューしておこう。紙版まで手を伸ばさない読者も多いだろうし、何よりもスティック・イン・ザ・ホイール(SITW)こそは現在の英国フォーク・シーンにおける最重要バンドだから。

 と言いつつも、最近出たばかりの本作は、SITW名義の正式なニュー・アルバムとは言い難い。ヴェアリアス・プロダクションというダブステップ・バンドで活動していたイアン・カーターとニコラ・キアリーによって2015年にロンドン下町で結成されたSITWは、これまでにスタジオ録音フル・アルバムとしては『From Here』(2015)、『Follow Them True』(2017)、『Hold Fast』(2020)の3作品をリリースしてきたが、それ以外にも実験的アイデア(エレクトロニクスの使用その他)を試す「ミックス・テープ」シリーズとして『This And The Memory Of This』(2018)、『Against the Loathsome Beyond Mixtape』(2019)、『Tonebeds For Poetry』(2021)などを出し、更にプロデューサーとしても、英フォーク・シーンの新しい才能を集めたコンピレイション・シリーズ「English Folk Field Recordings」をキュレイトしてきた。3人のミュージシャンとコラボレイトした本作『Perspectives on Tradition』は「ミックス・テープ」シリーズの4枚目としてカウントすることができるが、しかし同シリーズの過去作品とはまた別立ての特別企画アルバムだったりもする。

 ここでのコンセプトは明快だ。ロンドンのセシル・シャープ・ハウスの民俗音楽ライブラリー(音源や映像のアーカイヴ)に眠る素材と今現在のフォークがどのようなつながりを持てるのか、その可能性を探ることである。セシル・シャープ(1859-1924)は20世紀初頭に英国民俗音楽の最初の復興運動を推進した民謡蒐集家/研究者/作曲家であり、彼が収集した素材は、50~60年代のトラッド・フォーク・リヴァイヴァル(イワン・マッコール、マーティン・カーシー他)の隆盛にも大きな貢献を果たした。1911年に彼が共同設立者となった「The English Folk Dance Society」は32年には「The English Folk Dance and Song Society」(EFDSS)に発展し、現在も伝統音楽の普及/教育機関として運営されている。その総本山たる建物のセシル・シャープ・ハウス内のヴォーン・ウィリアムズ記念図書館にあるのが、伝統音楽やダンスに関する44000枚ものレコードと58000以上のデジタル画像を収蔵する世界最大級の民俗音楽アーカイヴだ。民謡をめぐるセシル・シャープの活動に関しては、人種差別や性差別的スタンス、あるいは貴族主義的、帝国主義的視線が認められることもあって、SITWの2人は全面的に肯定しているわけではないと思われるが、そういった批評性も込みで、今回のプロジェクトにとりかかったようだ。

 SITWに誘われてプロジェクトに参加したのは、ジョンファースト(Jon1st)、ナビアー・イクバル(Nabihah Iqbal/別名Throwing Shade)、オルグベンガ(Olugbenga)の3人。ジョンファーストは英国を代表するターンテーブリスト/クラブDJであり、SITWのイアン・カーターとはゴールズ(Goals)なるエレクトロニク・ユニットもやっている。エレクトロニク系ミュージシャン/プロデューサーにしてアフリカ史の専門家でもあるナビアー・イクバルはBBCでも番組を持つなどラジオ・プレゼンターとしても有名だ。そして、ナイジェリアとケニアの血を引くラゴス出身ブライトン在住のオルグベンガはポップ・ロック・バンド、メトロノミーのベイシスト。デーモン・アルバーンのプロジェクト「アフリカ・エクスプレス」の一員でもある。英国フォーク/伝統音楽との接点がなく、出自も文化的背景も異なる、しかしエレクトロニク・ミュージックという共通分母を持った3人がセシル・シャープ・アーカイヴの中から何を見つけ出し、それを元にしたSITWとのコラボレイションによってどういう世界を描き出すのか。その実験を通して、現代英国人としての自分たちの歴史的連続性を検証し、同時に、伝統音楽の持つ意味と機能性を問い直してゆく──まさに『Perspectives on Tradition』なるタイトルどおり、伝統への視点を巡る冒険である。

 ペンタングルのデビュー・アルバム『The Pentangle』(68年)のオープニング曲としてよく知られ、アン・ブリッグスやシェラ・マクドナルド、ジューン・テイバーなどたくさんのトラッド系シンガーたちも歌ってきた5曲目 “Let No Man Steal Your Thyme” は、その起源を17世紀末にまでさかのぼれる有名なラヴ・ソングだが、霧の彼方から聴こえてくるようなリヴァーブたっぷりのニコラ・キアリーの歌唱はジョンファーストによるミニマル・テクノ風のビートと絡まりながら300年の時空を浮遊する。
 1曲目 “The Milkmaid” と3曲目 “Farewell He” で英国南部ドーセット州の民謡をアンビエント・テクノ・マナーでドリーミーに解釈したのはナビアー・イクバル。
 ケニアでのフィールド・レコーディング音源やナイジェリア民話を細かく接合して雄大なエレクトロニク・ワークに仕上げたオルグベンガによる4曲目 “Devil In The Well / Bright-Eyed Boy” も面白い。セシル・シャープが民謡の調査、採譜をおこなったのは英国と米国アパラチア地方だけだったはずだが、現在のアーカイヴには旧植民地の素材も収蔵されているということか。旧植民地の文化と現在の移民文化という英国の歴史全体を射程に入れているあたりにも、SITWの批評性を感じる。

 紙版エレキングに掲載したSITWのインタヴューの中で、イアンとニコラは「我々は、薔薇色に彩られた過去の景色を創ったり、観光客の理想のようなものを助長したいわけでもない。私たちにとってフォーク・ミュージックは、過去の人たちと人間対人間として関わることに他ならない。それはリアルで、具体的な人間同士の繋がりであり、本物になることを意味する」と語り、旧来のトラッド・フォーク・シーンを支えてきた “偽りのノスタルジア” を厳しく糾弾した。その実証例としての最新の回答が本作である。彼らの本邦初のインタヴューは実に力強く、多くの示唆に富んでいるので、是非読んでいただきたい。

Cornelius - ele-king

 コーネリアスが本日(7月22日)より“変わる消える (feat. mei ehara)”を配信している。これは2021年春に作詞作曲され同年5月にレコーディングされた曲で、ヴォーカルにはmei eharaをフィーチャー、作詞を担当したのは坂本慎太郎。昨年7月のリリース直後から配信停止状態が続いていたが、ようやく聴けるようになった。(リミックス・ヴァージョンでは、〈ストーンズ・スロー〉からの作品やソランジュの仕事で広く知られるLAの音楽家、John Carroll Kirbyがリミックスを担当)
 また、本日よりワーナーミュージック・ストアではリリースを記念したTシャツの販売も開始されている。


Dancer:Hiro Murata
Director/DoP/Animator:Koichi Iguchi
https://youtu.be/2Je4dhaRtmc

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