「Nothing」と一致するもの

幾何学模様 - ele-king

 華やかだが割合落ち着いた色合いのジャケットからスリーヴを取り出し、ジャケットよりもわずかにぶ厚い、少しゴソっとした手触りのそれから、光沢のあるオレンジ色の盤を取り出す。盤を卓に載せて、針を落とす。分数はレコードAB面で48分。ぼくらはそのあいだ、スピーカーの前に「物理的に」釘付けになる──。多分、この作品の「体験」について描写をするなら、この書き出しが最も適切なのだと思う。

 今作、『クモヨ島』は幾何学模様の5作目のアルバムにして、活動休止を告げる最後の作品である。『クモヨ島』は、幾何学模様のいままでの作品で最も多彩なジャンルを横断するもので、日本民謡もインディー・ロックもアンビエントもスピリチュアル・ジャズもモーラムも、サイケデリック・ロックが持つ「なんでもあり精神」が縫い合わせていく。
 ただ面白いのは、A1 “Monaka”、A2 “Dancing Blue”、B1 “Cardboard Pile”、B5 “Yayoi,Iyayoi” などの幾何学模様流サイケデリック・ロックが聴ける楽曲のあいだには、A3 “Effe”、B3 “Daydream Soda”、B4 “Field of Tiger lilies” といった、まるでサイケデリックな演奏を少し遠くから眺めるような、どこか俯瞰した楽曲が挟まれていくことだ。アルバムを通してロック・バンドらしい熱狂は高まっていくよりも、絶えず横にずらされ、距離が取られる。それを最も象徴するのが、最終盤の展開だ。
 今作で最も熱いギター・プレイが堪能できるB5 “Yayoi,Iyayoi” の長くドラマチックなギター・ソロが作り出すクライマックス感は、イビキのようなサウンド・エフェクトが印象的なB6 “Nap Song” により煙に巻かれ、そして今作を締めくくるアンビエント・トラックB7 “Maison Silk Road” の、ここまでのアルバム展開をどこか懐かしむような、間延びした余韻が延々と続いていく。
 このアルバム構成は、ドラマチックな「終わり」を演出するより、むしろその「終わり」がうしろに、うしろにと、退却していくようなものに思える。この作品はジャンルの垣根を越えていると同時に、始まりがあって終わりがあるという、はっきりとした時間的な輪郭もぼやかしていく。

 それにしても、あらゆるジャンルを横断するのがもはや「マナー」ですらあるようないまの音楽シーンのなかで、この作品の横断性はどれほどの意味をもつのか、とも思う。だが、そうであるにしても、この作品の横断性には、「アジア的なもの」という縦糸が走っていることは見逃せない。特に冒頭1曲目の “Monaka” には、日本民謡的な歌メロのバックで、演歌テイストのエレキ・ギターと、タイのモーラム的なフレージングのシタールが交差する印象的な場面がある。それに──ぼくらはつい忘れてしまうが──ロック・ミュージックというのは欧米圏の民族音楽のヴァリアントのひとつなのである。そのことを思い出させるように、『クモヨ島』の横断線は、ロック・ミュージックをある地方の民族音楽のひとつと言わんばかりの軽やかさで通過していく。
 微妙に繰り返しになるが、その「軽やかさ」に「アジア的なもの」という地域的な重み付けがあることによって、『クモヨ島』の持つ多様さは、「民族音楽」や、「多文化」という、内実の欠如した抽象的な表現よりも一歩奥に進んでいるように思う。
 もちろん戦前の日本の蛮行を思えば、「アジア的なもの」という括りを使用することへの警戒感も忘れてはならないが、しかし、ここ数年で勢いを増した、あらゆる文化を包摂し、接続させようとする多文化主義的言説は、ただぼくらを「外」へ、あるいは「他者」へと、強迫神経症的に追い立てては五里霧中にしてしまうばかりで、そこで生み出された「横断」や「ハイブリッド」というマジック・ワードを通して、実際ぼくらはなにと、誰と親密になれたのだろうか。むしろ出会う必要がない文化やイデオロギー同士を無駄に衝突させ、他者を排除したいというバック・ラッシュを生み出したのがこの10年余りのあいだに起きたことではなかったか。
 少なくともぼくのような日本語話者にとって、『クモヨ島』という作品はドメスティックな輪郭の「外」に連れ出してくれる、というような単純なものではない。
 幾何学模様ははっきりとした歌詞を持たないバンドで、実際に歌詞が決まっていない楽曲がほとんどなわけだが、今作にはかなり多くの日本語の「切れ端」が散りばめられていて、それは何かしらの物語に発展していかないにしても、耳馴染みのある「日本っぽい」メロディとともに、「ここは親密な場所だ」という安心感を与えながら、しかしその日本語の「切れ端」にすぐさま意味の読み取れない音韻が挿入され、さらにサイケデリックなギターや、シタール、ベース、ドラムなどの楽器群がぶつかることで、まるで「内」に、ある「親密さ」に、もうひとまわりスケールが大きい厚みが与えられていくような、不思議な経験をもたらしてくれる。この作品のアートワークのメイン・モチーフが、「ソファ」という親密な領域に位置する家具だったことをあわせて考えると、このことは示唆的だ。

 確かに幾何学模様という作家自体、いまだに白人中心主義的な権威を引きずる「ロック・バンド」という形態のあり方を脱構築していく作家だったし、今作はあらゆるジャンルを水平方向に横断していくものだ。しかし、その「水平」はところどころでこぼこしていて、「手触り」があって、少しあやふやにしても、「アジア的なもの」という輪郭を持つ。「霧」を一挙に晴らしてしまう陰謀論や、構造的に言えばそれと大差ない数々のイデオロギーの代わりに、その「手触り」のわずかな確かさは、「霧」で覆われた「少し先」を照らし、歩く足がかりになるにではないか。
 それにこの地域的な軸を持つ横断性とは、こうした音楽的な意味での横断性とは別の次元でもいえることだ。幾何学模様は世界中を飛び回るツアー・バンドとして活動するかたわら、〈Guruguru Brain〉という自主レーベルを運営しており、自身らの作品のみならずアジア圏の作家の数々のリリースを手がけている。そしてバンドの活動休止発表後、その活動はむしろ加速し、次々と新しい作品のプレ・オーダーを募りはじめた。あるインタヴューでは、自分たちが埋めていたポストを空けることで、そこに別のアジア圏の作家が入っていけるようなサポートを今後はしていきたいとも彼ら自身語っており、幾何学模様の「終わり」は、そうした地域的横断性をより促進させ、文化的、経済的な循環を志向する一要素に過ぎないことが見えてくる。
 彼らはシーンのなかに屹立する「ロック・スター」になるよりも、ある共通性を持つ作家たちとともに、ひとつの圏域を形作る一要素になることを選んだ。その選択は『クモヨ島』のロック・バンド然としたプレイの後退とも関わることだろうし、今作の「終わり」のあやふやさともつながっているだろう。

 それにしても、世界中を飛び回っていた彼らが、最後に「島」の作品を残すというのはどういうことなのだろうか。もしかしたらそれは、『クモヨ島』という作品が、自身らが耽溺するサイケデリックな夢想だけではなく、その夢想が住まい、増え広がるための、エコノミー(生態系経済)にフォーカスを当てるものだからかもしれない。『クモヨ島』の、あるいは幾何学模様の、あやふやな「終わり」は多分未来につながっている。
 水平方向に進む横断線は、あらゆる「親密さ」を縫い合わせながら、通った先に微妙な「手触り」を残し、それは動物となり、鳥となり、植物となり、その「島」は育まれていく。そして、今作のメイン・イメージのソファに誰も座っていないことが示すように、その「島」を育むのは、〈Guruguru Brain〉を通して、この先彼らと共同していくアジア圏の作家たちでも良いし、当然、極東の島国で、『クモヨ島』に針を落とすだけのぼくらリスナーだっていい。

Koshiro Hino (goat & KAKUHAN) - ele-king

 バンドgoatを率いる一方、YPY名義でも電子音楽作品を発表している日野浩志郎。昨年は鼓童とのコラボ・プロジェクトがあったが、来る12月26日、大阪の枚方関西医大小ホールにて、goatとしては5年ぶりとなる国内公演が開催される。結成10周年を迎える2023年に向け、新作も準備中とのこと。
 そしてもうひとつニュース。日野がチェリストの中川裕貴と組むユニット「KAKUHAN」の初のアルバムが数日前にリリースされている。これが素晴らしい内容なのであらためてレヴューで紹介する予定ですが、そのKAKUHAN初の単独公演が今月の19日と20日、こちらは京都芸術センター講堂にて開催。
 年の瀬も押し迫るなか、日野浩志郎の動きから目が離せない。

日野浩志郎率いるバンド「goat」、約5年ぶりの国内公演開催が決定

電子音楽ソロプロジェクト「YPY」をはじめ、舞台作品「GEIST」や、太鼓芸能集団 鼓童とコラボレートした音楽映画「戦慄せしめよ/Shiver」(2021年公開、豊田利晃監督)などで知られる音楽家・作曲家の日野浩志郎を中心に活動を行うバンド「goat」が、今年の12月26日に大阪の枚方にて約5年ぶりとなる国内公演を行うことが決定した。

オリジナルメンバーの日野、田上敦巳、安藤暁彦に加え、MANISDRON、The Noupのドラマー岡田高史と、元鼓童の篠笛・パーカッション奏者である立石雷の5人編成で活動中の「goat」は、来年2023年の結成10周年に向け、約8年ぶりとなる新作アルバムを制作中だ。

今回の公演は、アルバム収録予定の新作楽曲を交えたおよそ60分ほどの演奏となる予定。

会場となるのは、昨年開館したばかりの枚方市総合文化芸術センター内にある関西医大小ホール。客席は約300席、内装壁面にレンガを採用し、豊かな響きと遮音性にも優れたホールとなっている。

宣伝美術は画家の五木田智央、音響は新作のレコーディングエンジニアでもある西川文章が担当。

公演に合わせて会場限定物販の販売や、北加賀屋 club daphniaでのアフターパーティーも予定している。

[公演概要]

goat 枚方関西医大小ホール公演

日時 12月26日(月)18:30開場 / 19:00開演
会場 枚方市総合文化芸術センター 関西医大小ホール(大阪府枚方市新町2-1-60)
チケット 前売り 4,000円 / 当日 4,500円 / U25 3,000円(https://goat-hirakata.peatix.com/)

出演 goat(日野浩志郎、田上敦巳、岡田高史、立石雷、安藤暁彦)
音響 西川文章
照明 渡辺敬之
宣伝美術 五木田智央(アートワーク)、真壁昂士(デザイン)
主催 株式会社鳥友会
文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業

[プロフィール]


goat

2013年に日野浩志郎を中心に結成したグループ。元はギター、サックス、ベース、ドラムの4人編成であるが、現在は楽曲によって楽器を持ち替えていく5人編成で活動している。極力楽器の持つ音階を無視し、発音させる際に生じるノイズ、ミュート音などから楽曲を制作。執拗な反復から生まれるトランスと疲労、12音階を外したハーモニクス音からなるメロディのようなものは都会(クラブ)的であると同時に民族的。
https://emrecords.bandcamp.com/album/new-games-rhythm-sound
https://goatjp.bandcamp.com/

《 goat after party 》
日時 12月26日(月)23:00開場
会場 club daphnia(大阪府大阪市住之江区北加賀屋5-5-1)
チケット 当日 2,500円+1drink *goat枚方公演参加者は1,500円+1drink

出演者:
YAMA
MITAYO



YukiNakagawa2022

KAKUHAN「musica s/tirring」

開催日時:
2022年11月19日(土)・20日(日)
開場 14:30
開演 15:00(17時終了予定)

会場:
京都芸術センター講堂/フリースペース

出演者・スタッフ・クレジット:
出演 KAKUHAN(日野浩志郎、中川裕貴)
音響 西川文章
音響プログラミング 古館健
照明 渡辺敬之
美術 OLEO
舞台監督 十河陽平
宣伝美術 白石晋一郎(写真)、清田優(デザイン)

主催 株式会社鳥友会、京都芸術センター、公益財団法人京都市芸術文化協会

チケット料金:
前売り 3,000円
当日 3,500円
U25 2,000円

予約:
peatix
https://musica-stirring.peatix.com

京都芸術センターウェブサイト
https://www.kac.or.jp/events/32818/

京都芸術センター 窓口 [10:00-20:00]
〒604-8156 京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
*窓口販売のみ。電話・FAXによる予約は不可。

アクセス:
京都芸術センター
604-8156 京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
Tel: 075-213-1000 Fax: 075-213-1004
E-mail: info@kac.or.jp URL: https://www.kac.or.jp/

地下鉄烏丸線「四条駅」、阪急京都線「烏丸駅」
22番・24番出口より徒歩5分。
駐車場はございません。公共交通機関をご利用ください。

日野浩志郎と中川裕貴によるユニット「KAKUHAN」初の単独公演「musica s/tirring」を開催します。
大阪と京都を拠点とし、国内外で活動する日野と中川はそれぞれ、ライブ演奏だけでなく、舞台や映画の音楽制作などの多様な活動を続けるなかで、既存の音楽の範疇を逸脱しながら、音楽がもつポテンシャルに対して深い思考/試行を巡らせてきました。そうした両者は、オーケストラ公演など、これまで様々な作品を共に制作して作ってきましたが、デュオという最小単位での制作は、本公演が初めての機会となります。
公演タイトルの「musica s/tirring」は、日野と中川の制作コンセプトから名づけられました。「撹拌」を意味する「stirring」。それにスラッシュが付されることで、「s/t」という「セルフタイトル」を意味する表記が形づくられています。そうした語を「musica(音楽)」と結び付けること。すなわち、日野と中川は、音楽を攪拌することと、音楽そのものであることを、時に重ね合わせ、時に両者の間を往還することで、制作を行ってきたのです。
本公演では、そのようにして両者が制作した楽曲を「負(OU)」と「角(KAK)」というふたつに分けて構成し、京都芸術センターの講堂とフリースペースにて演奏を行います。


KAKUHAN - Metal zone

KAKUHAN is
Koshiro Hino - electronics
Yuki Nakagawa - cello

A1. MT-DMZ
A2. MT-STM
A3. MT-ZN1
A4. MT-BZSR

B1. MT-SS1
B2. MT-AUTC
B3. MT-RWV
B4. MT-ZUC

NKD06
Mastered by Rashad Becker
Mixed by Bunsho Nishikawa
Lacquer Cut by Loop-O
Artwork by Shinichiro Shiraishi
Art coordination by Yusuke Nakano
Designed by Takashi Makabe
Published by Edition Golfen & Reiten / Freibank

Koshiro HinoとYuki NakagawaによるKAKUHANの1stアルバム「Metal Zone」は「電子音楽/弦楽」、「現代音楽/クラブミュージック」、「トラディショナル/コンテンポラリー」、「フィジカル/メタフィジカル」、「作曲/即興」など、様々な異なる要素がそのユニット名の通り「攪拌」されている。それは、チェロと電子音、ヒトとマシーン、アコースティックとエレクトロニクスによる別の「レフトフィールド」のかたちとも言えるのではないだろうか。
これまでEM records、Workshop、WhereToNow?、Nous、Acido、BLACK SMOKER RECORDSなどから作品をリリースしているKoshiro Hino。彼の主な作曲作品として、電子音楽とエレクトロニクスのハイブリッドオーケストラ「Virginal Variations」(2016)、Eli KeszlerやJoe Taliaなどをゲストに迎えて行ったシアターピース「GEIST」(2018-)、FUJI|||||||||||TAと共に作曲を行った「INTERDIFFUSION A tribute to Yoshi Wada」(2021-)がある。そしてそれら全ての作品にYuki Nakagawaはチェロプレイヤーとして参加してきた。
Yuki Nakagawaは京都を中心に活動するチェリスト、作曲家、演出家。彼は独学でチェロを学び、独自で生み出した様々な特殊奏法やチェロを使用したライブエレクトロニクス演奏に長年取り組んでいる。また近年では自作のチェロ弓を使用した演奏も行うなど、「チェロ」という楽器のもつポテンシャルを最大限に引き出すパフォーマンスを10年以上にわたり行ってきている。ただこれまで正式なリリース音源はほとんどなく、このKAKUHANの音源は彼の貴重な演奏記録ともなる。
このデュオ「KAKUHAN」の音楽制作が半ば偶発的にスタートした。「GEIST」の制作の為にスタジオに入った二人だったが、息抜き的に即興演奏をエレクトロニクスとチェロで録音したことが活動の始まりとなった。二人は単なるライブや音源作品だけでなく、舞台芸術やダンス、映画などの音楽制作など、それぞれにジャンルをまたぎ幅広く活動してきたが、特にコンセプトや目的等を設けず音楽制作を開始することから多くの発見や様々な音が生み出された。その後も2021年に複数回にわたりレコーディングセッションを行い、デュオでのライブ活動も開始。2022年にユニット名を「KAKUHAN」とし、この作品がデビューアルバムとなる。
今回のアルバムはアートワークとして、イギリスの映画監督、舞台デザイナー、作家、園芸家であるデレク・ジャーマンの庭を写真家Shinichiro Shiraishiが撮影したものが使用されている。このアートワークの中にみえる人工物/自然物、具象/抽象、動的/静的のイメージは、KAKUHANの音楽のかたちをビジュアルとして現すものだ。KAKUHANの音楽には、デレクジャーマンの庭がそうであったように、自然/人工の間にひそむ何か、また様々な音楽の「状態」が在る。
「Metal Zone」の奥から聴こえるストリングの音や声(チェロは人間の声に一番近い楽器である)、響くビートや電子音は、現代音楽/クラブミュージックがこれまで遂げてきた変貌の道の上にある。電子音とアコースティック楽器の融合、楽器の音を電子化する、電子化された音から聴覚を通じて何かを想像することは、これまでの実験音楽や現代音楽でも行われてきたものだが、KAKUHANのこのアルバムから聴こえるものは、それをさらに別のものへと転化させている。
音楽の中で無自覚に生み出され、放置された様々な「ゾーン」をKAKUHANは今、さらに攪拌する。

20世紀のもっとも気色悪い、混乱させる、
超越的な小説、映画、音楽を扱い、
『資本主義リアリズム』の著者の新作にふさわしく、
読み応えがあって明確な主張がある。
──『クワイエタス』書評(2017)より

それがなぜ「奇妙なもの」に見えるのか?
「奇妙なもの」と「ぞっとするもの」という混同されがちな感覚を識別しながら、
オルタナティヴな思考を模索する

H・P・ラヴクラフト、H・G・ウェルズ、フィリップ・K・ディック、M・R・ジェイムズ、
デヴィッド・リンチ、スタンリー・キューブリック、アンドレイ・タルコフスキー、
クリスタファー・ノーラン、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、
ザ・フォール、ブライアン・イーノ、ゲイリー・ニューマン……
思想家、政治理論家、文化評論家マーク・フィッシャーの冴えわたる考察がスリリングに展開する、
彼の生前最後の著作にして、もう一冊の代表作。

目次


奇妙なものとぞっとするもの(不気味なものを超えて)

奇妙なもの
時空から生じ、時空から切り取られ、時空の彼方にあるもの──ラヴクラフトと奇妙なもの
現世的なものに抗する奇妙なもの──H・G・ウェルズ
「身体は触手だらけ」、グロテスクなものと奇妙なもの──ザ・フォール
ウロボロスの輪にとらえられて──ティム・パワーズ
シミュレーションと非世界化──ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーとフィップ・K・ディック
カーテンと穴──デヴィッド・リンチ

ぞっとするもの
ぞっとするものへのアプローチ
何もないはずのところにある何か、何かあるはずのところにある無──ダフネ・デュ・モーリアとクリストファー・プリースト
消滅していく大地について──M・R・ジェイムズとイーノ
ぞっとするタナトス──ナイジェル・ニールとアラン・ガーナー
外のものを内へ、内のものを外へ──マーガレット・アトウッドとジョナサン・グレイザー
エイリアンの痕跡──スタンリー・キューブリック、アンドレイ・タルコフスキー、クリストファー・ノーラン
「……ぞっとするものは残りつづける」──ジョーン・リンジー

訳者あとがき
参考文献
索引

マーク・フィッシャー(Mark Fisher)
1968年生まれ。ハル大学で哲学の修士課程、ウォーリック大学で博士課程修了。ゴールドスミス大学で教鞭をとりながら自身のブログ「K-PUNK」で音楽論、文化論、社会批評を展開する。『ガーディアン』や『ファクト』、『ワイアー』に寄稿しながら、2009年に『資本主義リアリズム』(セバスチャン・ブロイ+河南瑠莉訳、堀之内出版、2018年)を発表。2014年に『わが人生の幽霊たち(五井健太郎訳、Pヴァイン、2019年)を、2016年に『奇妙なものとぞっとするもの』(五井健太郎訳、Pヴァイン、2022年)を上梓。2017年1月、48歳のときに自殺する。邦訳にはほかに、講義録『ポスト資本主義の欲望』(マット・コフーン編、大橋完太郎訳、左右社、2022年)がある。

五井健太郎(ごい けんたろう)
1984年生まれ。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はシュルレアリスム研究。訳書にマーク・フィッシャー『わが人生の幽霊たち──うつ病、憑在論、失われた未来(Pヴァイン、2019年)、ニック・ランド『暗黒の啓蒙書』(講談社、2020年)、『絶滅への渇望』(河出書房新社、2022年)、共著に『統べるもの/叛くもの──統治とキリスト教の異同をめぐって』(新教出版社、2019年)、『ヒップホップ・アナムネーシス──ラップ・ミュージックの救済』(新教出版社、2021年)など。

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
Yahoo!ショッピング
HMV
TOWER RECORDS
紀伊國屋書店
honto
e-hon
Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)

P-VINE OFFICIAL SHOP
SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
紀伊國屋書店
三省堂書店
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
旭屋書店
有隣堂
TSUTAYA
未来屋書店/アシーネ
くまざわ書店

------------

わが人生の幽霊たち』重版出来!
2022年12月2日以降順次全国の書店に入荷予定

Floating Points - ele-king

 先日は川崎の千鳥公園で開催された《Rainbow Disco Club》のスピンオフ・パーティ《Sound Horizon》への出演や、そのアフター・パーティとなる渋谷O-EASTでのロングセット、青山ZEROでのサプライズ・パーティなど、関東を沸かせたフローティング・ポインツ。興奮さめやらぬこのタイミングで新曲 “Someone Close” が公開されている。
 ビートレスで美しい同曲に加え、今年発表されたダンス・トラック3曲を収録する強力な12インチのリリースも決定。数量限定とのことなので、お早めに。

Floating Points

フローティング・ポインツ、新曲 “Someone Close” を公開
4曲を収録した最新12インチの発売も決定!

マンチェスターに生まれ、現在は作曲家/プロデューサー/DJとしてロンドンを拠点に活動するフローティング・ポインツ。昨年はファラオ・サンダース&ロンドン交響楽団とのコラボ作品『Promises』でThe Guardian (Contemporary)、TIME Magazine、The New York Times (Jazz)、Mojo、The Vinyl Factory他多数のメディアで年間ベストの1位を獲得、そして今年に入ってからは宇多田ヒカルの最新アルバム『BADモード』へプロデューサーとして参加し大きな話題を呼んだ。先日のRDC《Sound Horizon》やO-Eastでの日本初となるOPEN TO LASTのDJ SETを含むジャパン・ツアーも成功させた彼が新曲 “Someone Close” を公開!

Floating Points - Someone Close
https://floatingpoints.lnk.to/someone

また、今回公開された “Someone Close” に加えて、今年リリースされた “Grammar”、“Vocoder”、“Problems” を収録した4曲入り12インチを12月16日に数量限定で発売されることも明らかとなった。

“Grammar”、“Vocoder”、“Problems”は、PitchforkのBest New Trackを含む多くの称賛を受け、Resident Advisorは、シェパードを「エレクトロニック・ミュージックにおいて文句なしのMVPの一人」と評している。海外においてはGlastonbury、Coachella、Field Dayといったフェスティバルへの出演を経て、今後はクラブに戻っての活動を予定している。2023年の元旦には、ロンドンの新たな大型ヴェニューHEREでOPEN TO LASTのDJ SETを披露する。

待望の最新12インチは12月16日に数量限定で発売!


label: Ninja Tune
artist: Floating Points
title: 2022
release: 2022.12.16

商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13136

Vinyl tracklist:
A1. Someone Close
A2. Grammar
B1. Vocoder
B2. Problems

追悼:キース・レヴィン - ele-king

三田格

 P.i.L.の初来日にキース・レヴィンはいなかった。正規リリースされたライヴ盤『Paris Au Printemps(P.I.L.パリ・ライヴ)』やブートレグでは『Extra Issue, 26 December 1978』と『Profile』を重点的に聴いていた僕の耳に、あのシャープでクリアーなギターは響いてこなかった。来日直前にキース・レヴィンが脱退したことで、あからさまにジョン・ライドン・バンドでしかなくなったP.i.L.はこともあろうにレッド・ツェッペリンを思わせる演奏に変わり始め、ジョン・ライドンの歌い方が必要以上に演劇的に感じられたことをよく覚えている。いまから思えば元曲と演奏の雰囲気が合っていなかったからなのだろう。アンコールで“アナーキー・イン・ザ・UK”をやったのもサーヴィス精神とはまた別にジャー・ウォブルもキース・レヴィンもいなかったから反対するメンバーがいなかったとか、そういうことだったに違いない。あと半年早く来てくれればP.i.L.を体験することができたのに。あと半年早ければ『Paris Au Printemps』のようなオルタナティヴのピークに触れられたかもしれないのに。ちなみに初来日の模様を収録した『Live In Tokyo』に『Metal Box』の曲は“Death Disco”しか収録されていない。ジョン・ライドンからすればP.i.L.が生まれ変わらなければならないというプレッシャーを感じながらもがきにもがいてつくりあげたバンド・サウンドだったのだろう。そう、キース・レヴィンがいなくなるということは、ライドンにとってはかなりな難局だったのである。

 キース・レヴィンがP.i.L.を脱退したのは“This Is Not A Love Song”のミックスをやり直したかったレヴィンとその必要はないとしたライドンが修復できないほど悪い関係になったからとも、単にレヴィンのドラッグが原因だとも言われている。いずれにしろアルバムの半分が同じ曲で構成されたレヴィン・ヴァージョンの『Commercial Zone』が翌84年1月に、ライドン・ヴァージョンの『This Is What You Want... This Is What You Get』がそれから半年後にリリースされ、『Commercial Zone』がそれまでのP.i.L.と地続きの作品性を誇り、はるかに優れた内容であることは歴然としていた。『Commercial Zone』を『This Is What You Want... 』のデモ・テープ扱いしていた記事もいくつか見かけたけれど、一体何を聴いてきたんだと呆れるしかなく、『Commercial Zone』に収録されていた“Blue Water”が初来日のオープニングに流れていたことも思い出した。だから『Album』『Happy?』『9』と聴けば聴くほど情けなくなるジョン・ライドン・バンドに対してキース・レヴィンの活動に興味が湧くのは当然のことで、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのプロデュースを経て脱退から3年を待った『2011 - Back Too Black』や続く『Violent Opposition』を相次いで手に取るも『This Is What You Want... 』よりも完成度が微妙だった時はさすがに愕然としてしまった。それどころかレイヴ・カルチャーが勃興してきた頃にはP.i.L.の誰もが存在感を失っていた。

 キース・レヴィンはシド・ヴィシャスやスリッツ及びバンシーズのリズム隊とフラワーズ・オブ・ロマンスとしてバンド活動を始め、クラッシュの創設メンバーとしてはジョー・ストラマーをザ・101ナーズから引き抜いてクラッシュのヴォーカルに付かせたにもかかわらず、自身はデビュー前に脱退。次に音楽シーンに現れた時はP.i.L.のメンバーとしてだった。P.i.L.はライドンの性格を反映して最初から大胆不敵なサウンドを構築し、ジャー・ウォブルの不気味な下降ベースとパンクにありがちな荒々しさとは違う意味で耳障りなキース・レヴィンの金属的なギターはすぐにも彼らの特徴となり、デビュー・アルバムから約1年後にリリースされた『Metal Box』でさらなるサウンド的な飛躍を遂げることに。アブラクサスのレビューでも触れたけれど、“Radio 4”はキース・レヴィンがひとりで多重録音したもので、"Poptones" でもレヴィンはドラムを叩き、“Bad Boy”という曲名はレヴィンのニックネームに由来する。ジャー・ウォブルが脱退したこともあってサード・アルバム『The Flowers Of Romance』はほぼすべての楽器をレヴィンが演奏し、彼がいなければP.i.L.は成り立たなかったはずなのに、ライドンは『Commercial Zone』のどこが気に食わなかったというのだろうか。デヴィッド・ボウイ『Let’s Dance』に寄せすぎたということなのか。

 クリエイティヴィティのピークにいるミュージシャンは同時期に何をやってもいい仕事をしてしまうもので、キース・レヴィンの才能もP.i.L.在籍時に様々な花を咲かせている。ジャー・ウォブルと組んだスティール・レッグスVジ・エレクトリック・ドレッドはドン・レッツをフィーチャーしたレゲエ色の強いP.i.L.サウンドの楽観的変奏。『Metal Box』でドラムを叩いてもらったお返しなのかカウボーイ・インターナショナルにも1曲で参加し、エイドリアン・シャーウッド周辺だとヴィヴィアン・ゴールドマンやシンガーズ&プレイヤーズの諸作に客演、スリッツやリップ・リグ&パニックからメンバーが集まったニュー・エイジ・ステッパーズにも最初は正式メンバーとして参加していた。P.i.L.を脱退してゲーム・クリエイターに転身したというニュースが入ってからもダブ・シンディケート、バーミー・アーミー、ゲイリー・クレイルと〈On-U Sound〉との絆は強く、マーク・ステュワートのアルバムでも結構な量のギターを弾いている。2010年代になるとジャー・ウォブルとのコンビを復活させてジョイント・アルバム『Yin And Yang』(12)をリリースし、キャバレー・ヴォルテール風のオルタナティヴ・サウンドからインド風の瞑想的なギター・ソロまでなかなかの充実作となったサード・ソロ『Search 4 Absolute Zero』(13)と、クラウドファンディングで募った資金を元に『Commercial Zone』の完成形『CZ2014』(15)も自主制作。やはりそれだけ引っかかっていたのかと思うと、なんともいえない作品ではある。それで気が済んだということになってしまうのか、それから7年が経った2022年に肝臓ガンによる逝去の報が届き、第1報に続く「未亡人になってしまいました」という奥さんのツイートがとても悲しかった。

 キース・レヴィンは音楽に対して貪欲な人生を生き抜いたという例には当てはまらない。ビットコインはパンク・ロックだと主張し、晩年は暗号通貨にのめり込んでいたというし、果たしてもっと才能があったのか、それともこれで精一杯だったのかということもわからないままに生涯を閉じ、『Metal Box』や『Search 4 Absolute Zero』だけが目の前に残されている。P.i.L.や同時期のポスト・パンクが破壊だけでなく、その後に創造というプロセスを見せてくれたことは二十歳前後の僕にはとても重要なことだった。パンク・ムーヴメントは確かにインパクトがあった。でも、マネをするだけだったり、パンクにカブれてチンピラまがいのバンカラ野郎になっていくミュージシャンを僕はとても受けつけなかった。『Metal Box』のような変化をもたらし、ロック的な皮肉をパンクのファンにさえ向けることができると教えてくれただけでもキース・レヴィンには感謝しかない。R.I.P.
 


 

野田努

 三田格と同じく、キース・レヴィンとジャー・ウォブル抜きの(『Metal Box』のP.i.L.ではない)P.i.L.の初来日を複雑な心境で観に行ったひとりとして、若干の付け足しを。P.i.L.のもっともスリリングだった期間を、ファースト・アルバムから『The Flowers Of Romance』までの3枚+ライヴ・アルバム『パリ・ライヴ』とするなら、その時期の音楽性において重要な働きをしたのがウォブルとキース・レヴィンであることは疑いようがない。もともとプログレッシヴ・ロックが好きで、スティーヴ・ハウに憧れてイエスのローディーもしていたレヴィンは、ギタリストとしての技術も持っていた。しかしながら彼が素晴らしかったのは、その技術を、従来のギター・サウンドを否定するかのように使ったことだった。セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズの厚みのあるギターはハード・ロックの延長にあったが、レヴィンの耳障りな金属音のようなギターは、そうした伝統へのアンチだった。因習打破なその姿勢こそが、ポスト・パンクという創造性の扉を開いたのである。
 P.i.L.ファンの議論のひとつに『The Flowers Of Romance』を作ったのはレヴィンだったというのがあるように、ある時期から、彼の存在はジョン・ライドンの脇役以上のものだった。『The Flowers Of Romance』ではほとんどギターを弾かず、パーカッションやシンセサイザーを担当したレヴィンは、自分の楽器を演奏するためだけにその場にいるミュージシャンというよりも、あの作品の方向性を決めた音楽監督というに相応しかったのかもしれない。ゆえにジョン・ライドンと衝突し、彼は脱退した。その後は三田格が書いている通りである。
 リアルタイムで言えば、メディアはP.i.L.をジョン・ライドンのワンマンバンドのように紹介したが、初来日のP.i.L.はまさにライドンのバックバンドだった。ウォブル/レヴィン時代のP.i.L.がサウンド的には全否定したはずの“アナーキー・イン・ザ・UK”をそのバンドはやった。本当に、あと半年早く来てくれれば……である。そうしたら、ギターの革新者にしてポスト・パンク・サウンドの先導者、キース・レヴィンの演奏を直に聴くことができたのだろう。

現代メタルガイドブック - ele-king

「最新の先鋭的な音楽」としてのメタルを一望する「新しいメタルの教科書」!!

ジャズやポストロック、ヒップホップやエレクトロニック・ミュージックまで、
さまざまなジャンルを貪欲に取り入れた裾野の広さ
「激しさ」「過激さ」を極限まで追求してきたエクストリーム・メタル
そしてさまざまな形でメタルの影響を受けた最新のポピュラー音楽の数々

執筆:清家咲乃、村田恭基、脇田涼平、つやちゃん、西山瞳、川嶋未来、藤谷千明、梅ヶ谷雄太

目次

1 注目すべき10アーティスト

2 HR/HM(Hard Rock / Heavy Metal)
オリジネーター │ ハードロック │ NWOBHM │ ポップメタル、メロディアスハード │ メタル系テクニカルギタリスト(80~90年代) │ ヘヴィメタル/パワーメタル │ スラッシュメタル、クロスオーヴァー・スラッシュ │ スラッシュメタル、クロスオーヴァー・スラッシュ │ プログレッシヴ・ハード/プログレッシヴメタル

3 メタルの理解を深めるにあたって重要なジャンル外音楽①:90年代まで

4 エクストリーム・メタル
グラインドコア │ 初期デスメタル(OSDM) │ ブルータル・デスメタル │ プログレッシヴ・デスメタル │ テクニカル・デスメタル │ 1st wave of Black Metal │ 2nd wave of Black Metal │ ブラックメタルの広がり │ ヴァイキングメタル、フォークメタル

5 ポストHR/HM
グルーヴメタル │ インダストリアル・メタル │ オルタナティヴ・メタル │ メロディック・デスメタル │ メタリック・ハードコア │ メタルコア(ゼロ年代以降:メロデス通過後・現在に至る意味での)、スクリーモ │ デスコア │ プログレッシヴ・メタルコア/Djent │ ゴシックメタル │ ドゥームメタル、ストーナーロック、スラッジコア │ フューネラル・ドゥーム │ ドローン・ドゥーム、メタル隣接のアヴァンギャルド音楽 │ ポストメタル │ ポスト・ブラックメタル、ブラックゲイズ │ 上記全てを包含しうる境界例的なバンド

6 メタルの理解を深めるにあたって重要なジャンル外音楽②:00年代以降

7 2010年代以降のメタル
ポップミュージックのフィールドにおける活用 │ メタリック・ハードコアの発展 │ エレクトロニック・ミュージックとの接続 │ ジャズとメタルの交差関係 │ 不協和音デスメタル │ Roadburn Festival │ オールドスクールなスタイルの再評価を起点とした新たな広がり │ エピックメタル方面 │ 2022年の傑作群

8 日本のメタル周辺音楽
大きな影響をもたらした代表格 │ 日本のプレHR/HM │ 日本のHR/HM │ メタルに近いところにある日本のパンク/ハードコア │ 日本のエクストリーム・メタル │ 日本のポストHR/HM

COLUMN
ライフスタイルとしてのメタル
メタルと英語
近代・現代音楽とエクストリーム・メタル
メタルと声
Dave Grohl(Nirvana、Foo Fighters)の地下メタル愛
メタルとヒップホップの救い──逃避と革命の音楽
ヘヴィ・ミュージックの革新性と包括性、それを示す場としてのRoadburn Festival
メタルとヴィジュアル系

索引
プロフィール


オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
Yahoo!ショッピング
HMV
TOWER RECORDS
disk union
紀伊國屋書店
honto
e-hon
Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)

P-VINE OFFICIAL SHOP
SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
紀伊國屋書店
三省堂書店
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
旭屋書店
有隣堂
TSUTAYA
未来屋書店/アシーネ
くまざわ書店

interview with Mount Kimbie - ele-king

 安心した。マウント・キンビーの新作は、LAに暮らすドミニク・メイカーとロンドン在住のカイ・カンポス、それぞれのソロ作をカップリングしたものになる──そう最初に知ったとき、てっきりこのまま解散してしまうんじゃないかと不安に駆られた。仲たがいでもしたのかと気が気じゃなかった。
 大丈夫。海を隔てようとも、ロックダウンを経ようとも、ふたりの絆はいまだ健在だ。『MK 3.5』なるタイトルが示しているように、今回は4枚目のフル・アルバムにとりかかるまえのちょっとした寄り道のようなもので、「メインのプロジェクトとは少し違ったことを実験するチャンスだと捉えて」「自分たちの頭のなかにあるアイディアを、あまりプレッシャーを感じずに、自由に実験し、探求すること」が目的だったようだ。
 といっても手抜きなどではもちろんない。00年代末、ポスト・ダブステップの時代にボーズ・オブ・カナダの牧歌性を持ちこむところから出発し、2012年に〈Warp〉と契約してからは生楽器を導入、バンド・サウンドを試みていた彼らだが、『MK 3.5』はこれまでのどの作品とも異なる新境地を拓いている。

 メイカーによるディスク1「Die Cuts」はUSメジャー・シーンからの影響が大きく、トラップのスタイルにUKらしいメランコリーが組み合わせられている。ジェイムス・ブレイク作品におけるメイカーの貢献度がいかに高いか、あらためて確認させてくれる内容だ。一方、カンポスによるディスク2「City Planning」は、彼のDJ活動からのフィードバックが大きい。徹頭徹尾アンダーグラウンドのテクノを志向しており、クラブのサウンドシステムで聴きたいミニマルなトラックがずらりと並んでいる。喚起される、夜の都市。
 ほかの面でも両者は対照的だ。「Die Cuts」にはブレイク以外にもスロウタイダニー・ブラウンなど多数のゲストが参加。サンプリングも使用されており、多くの人間たちとのコラボレイション作品と呼ぶことができる。ひるがえって「City Planning」は1曲を除き、カンポスひとりの手で制作されている。あるいは「Die Cuts」にはことばがあるけれども、「City Planning」にはない──

 みごとに性格の異なる2枚を最初から最後まで通して聴くと、長時間電車で旅をしているような、そしていつの間にか国境を越えてしまっていることに気づくような、不思議な感覚に襲われる。こればかりは2枚を通しで聴かないと味わえない。ある一定以上のまとまった時間を体験することによってしかたどりつけない風景もあるのだと、マウント・キンビーは主張しているのかもしれない。多くのリスナーがアルバム単位での聴取を手放しつつある現在、これは挑戦でもある。


向かって左がドミニク・メイカー、右がカイ・カンポス

ぼくらは、今回のアルバム制作の機会を、互いがメインのプロジェクトとは少し違ったことを実験するチャンスだと捉えてアルバムをつくった。(カンポス)

ハードなビートだけでアルバムをつくるのはどうも気が進まないんだ。ぼくは、叩くようなビートをつくることよりも、感情を表現するためにどうビートを使うか、ということのほうを意識してる。(メイカー)

メイカーさんがLAへ移住したのは2015年ころですよね。前作『Love What Survives』(2017)リリース時のインタヴューでは、LAとUKを往復しつつ、ふたりで一緒に作業したと語っていました。新作『MK 3.5』は完全な分業ですが、分業自体はファーストセカンドのころもやっていたのでしょうか。

ドミニク・メイカー(以下DM):いや、ファーストとセカンドのときは、ふたりともロンドンにいたから、一緒につくっていたよ。で、『Love What Survives』のときは、ツアーもあったし、ぼくがけっこうヨーロッパにいたから、一緒につくる時間ができたんだ。

今回、初めて互いの作品を聴いたときの感想を教えてください。

DM:めちゃくちゃ気に入った(笑)。カイのヴィジョンが伝わってきて、すごくよかった。ぼくにとって、彼の頭のなかを見るのはつねに興味深いことなんだ。もちろん、彼とはもう何年も一緒に音楽をつくってきたけど、それでもまだ、互いに出しあってないものがあるし、それぞれの世界というものがある。それに、ふたりとも今回のレコードをつくるプロセスは山あり谷ありだったから、完成した互いの作品を聴いたときは、よくぞ頑張った! と思ったね(笑)。

カイ・カンポス(以下KC):ぼくも同じだな。今回は、ドムが言ったとおり、お互いけっこうつくるのに苦戦したんだ。どうやって完成させたらいいのかわからなくなるときもあったし、ストレスもあった。でも、レコード制作の最後の10%で、いろいろなものがパズルみたいにハマっていったんだ。そして、アルバムの半分であるカイの作品を聴いたとき、その作品が素晴らしくて、作品をつくりあげる要素の最後のピースを糊づけしたみたいに感じた。彼が頑張っていたのもわかっていたから、ふたりともが頑張ってつくった作品がうまく合わさってひとつの作品になったときは感動だったね。細かいことなんだけど、一曲一曲をバラバラに聴くのと、アルバム全体をひとつの作品として聴くのって、やっぱり感じるものが違うんだよ。

相手のアルバムで好きな曲と、その理由は?

DM:ぼくは、最近公開された “Zone 1 (24 Hours)” かな。あの曲は、聴けば聴くほど引きこまれていくから。聴くたびに、新しいレイヤーの重なりに気づくんだ。聴くたびに魅力が増すって最高だと思う。カイは先週末にロンドンのファブリックっていうヴェニューでライヴをやったんだけど、アルバムの曲をライヴで聴くのもすごくクールだった。曲が、アルバムで聴くのとは、また違うフィーリングを持ってるように感じたんだよね。

KC:ぼくも最近出た “f1 racer” を選ぶ。まず、あのキャッチーなメロディがすごくいいと思った。聴いたその日じゅう、気づいたらあのメロディを口ずさんでいたしね。それに、トラックの構成自体もすごく好きだった。あのヒップホップとポップが混ざったような感じが、すごくミニマルでいいなと思ったんだ。

自分が好きだと思わない音楽をつくる方向に進むひとたちもいるけど、ぼくらのなかには、自分たちが面白いと思える、喜びを感じられる音楽をつくりつづけたいという思いがいまだに残っているんだ。(カンポス)

そもそもおふたりが大学で初めて出会ったとき、互いの印象はどのようなものだったのでしょう?

DM:ぼくは、自分以外にあそこまで音楽好きなひとに会ったのはカイが初めてだったんだ。それに、ぼくの周りには音楽をつくっている人がひとりもいなかったから、会った瞬間に興奮したよ。このためにロンドンに越してきたんだ! と思ったね。

KC:ひと目惚れさ(笑)。ドムに会ったときは、おもしろいヤツだなと思った(笑)。

今回『MK 3.5』をそれぞれ個別に制作するうえで、これだけは決めておくというか、最低限のルールのようなものはありましたか?

KC:ルールはなかったね。それでもなぜか、バランスのいいものができた。ぼくのほうが15分くらい長かったらどうしようなんて心配もしてたんだけど(笑)。あと、どっちが早く仕上げられるか、みたいな暗黙の競争みたいなのもはじまってたな(笑)。最初はドムがすごく順調に見えて焦ったんだけど、幸運なことに彼も途中で壁にぶち当たって、おあいこになったんだ(笑)。

ちなみにアウトキャストの『Speakerboxxx/The Love Below』は意識しましたか?

KC:意識はしてなかったけど、もちろんフォーマット的に同じだから、比較はされて当然だと思う。でもぼくにとっては、ぼくらの今回のアルバムとその作品はちょっと違うんだ。ぼくらは、今回のアルバム制作の機会を、互いがメインのプロジェクトとは少し違ったことを実験するチャンスだと捉えてアルバムをつくったから。でもアウトキャストのアルバムのほうは、自分たちの10年に一度のベスト・レコードの1枚を作る姿勢でつくったんだと思う。でも、ぼくらの目的はそれではなかったんだよね。あのレコードは10点満点中10点のレコードだけど、それは今回のぼくたちの目標や意識ではなかったんだ(笑)。

メイカーさんの「Die Cuts」はトラップのスタイルをUK的なメランコリーが覆っています。現在の居住地と故郷とのあいだで気持ちが引き裂かれたことはありますか?

DM:そうだね。ホームやイギリスの音楽が恋しくなるときもたまにあるから、それがノスタルジックなサウンドとして映し出されているのかもしれない。あとは、最近のラップ・ミュージックのトレンドのひとつとして、トラップの要素を取り入れるという流れがあるけど、ぼくの場合、ハードなビートだけでアルバムをつくるのはどうも気が進まないんだ。ぼくは、叩くようなビートをつくることよりも、感情を表現するためにどうビートを使うか、ということのほうを意識してる。そういうちょっと外れた感じがメランコリーに聴こえるっていうのもあるのかもしれない。メランコリーを意識しているわけではないけど、それっぽく聴こえると言われたらたしかにそうかもと思う。でも、ぼくはそういう音楽を懐かしんでいるというよりは、いまも現役でそれを聴いてるんだよね。だからそれが自然に出てくるんだと思う。

[[SplitPage]]

(パンデミックについて)LAって極端でさ、最初のころはめちゃくちゃ厳しくて、みんな警戒してたんだけど、一度少し緩むと、誰も気にしなくなった(笑)。(メイカー)

前作のタイトル『Love What Survives』には、カンポスさんの解釈によれば、ファーストをつくったころの気持ちや勢い、動機が現在でも「生き残っている(survive)」、という思いが込められていました。いまも「survive」しているものはありますか?

KC:自分の数年前の発言を聞くのって、なんか心地わるいね(笑)。いまも生き残っているのは、面白い音楽をつくりたいという気持ち。音楽をつくるのと、音楽業界で仕事をするのって、まったく別物なときもある。なかには、音楽業界で働くことのほうが強くて、結果的に自分が好きだと思わない音楽をつくる方向に進むひとたちもいるけど、ぼくらのなかには、自分たちが面白いと思える、喜びを感じられる音楽をつくりつづけたいという思いがいまだに残っているんだ。高評価をもらったら、それをつくりつづけないといけないと感じるアーティストもいるかもしれないけど、ぼくらにとっては、昔と変わらず音楽づくりを楽しむということが最優先なんだよ。だからぼくたちは、いろいろなやり方で音楽をつくりつづけているんだ。いまも新作に取り掛かっているけど、そのサウンドも今回のアルバムとはまた違うしね。

通訳:もう次のアルバム制作にとりかかっているんですか?

KC:そうだよ。『3.5』は、1年以上前にはすでに仕上がっていた。で、そのあとすぐに次のアルバムをつくりはじめたんだ。

『MK 3.5』の「MK」はマウント・キンビーのことだと思いますが、「3.5」は何を意味しているのでしょう?

KC:3枚めと4枚めのあいだという意味だよ。

通訳:これは4枚めのアルバムではないということでしょうか?

KC:そう、違うね(笑)。

通訳:では、いまつくっているのが4枚めのアルバムということですね。どのようにつくっているのでしょう? バラバラに? それとも一緒に?

DM:ロンドンで一緒に作業してる。いい感じだよ。あと、ぼくらにはあとふたり、バンド・メンバーがいるんだけど、彼らも作業やソングライティングに参加してくれている。彼らが加わることで、いい意味でエナジーが変わるんだよね。集中力が高まるんだ。

『MK 3.5』が完全な分業形態になったことに、パンデミックの影響はありますか?

DM:多少はあったと思う。でも、ぼくはLAに住んでいて、カイはロンドンに住んでいるから、すでに分業形態ではあったんだよね。『Love What Survives』のツアーが終わったあとで、カイはDJ活動に集中して、ぼくはLAでプロダクション活動に集中していたから、パンデミックがなくても分業形態には自然となっていた気もする。まあそれに加えて、簡単に移動ができなくなったから、その状態が思ったより長くなったり多くなった、というのはあるかもね。

ちなみに昨秋出た限定シングル「Black Stone / Blue Liquid」は、今回の新作に連なるものというよりも、『Love What Survives』のアウトテイクだったのでしょうか?

KC:あれは、『Love What Survives』にもフィットせず、今後の作品にもフィットしなそうだったから、ああいう形でリリースしたんだ。ぼくたちがただインターネットでノイズをつくったようなトラックだったしね。ちゃんとできあがっていた曲だったから、シェアするためにはなにがベストだろうと思ってシングルにしたんだ。

ここ2年ほどのパンデミック中は、それぞれどのように過ごしていましたか? やはり家にこもっていることが多かったのでしょうか?

DM:ぼくらはふたりともラッキーで、パンデミックのあいだもスタジオに通えていたんだ。

KC:そうそう。ぼくのスタジオは、家から歩いてすぐのところにあってさ。みんな運動のために家の外に出ていいってことになってたんだけど、ぼくにとっての運動はスタジオに歩いていくことだったんだ(笑)。

DM:ぼくが家にこもっていたのは4週間くらい。あれはキツかったな(笑)。ヘッドフォンつけながら作業するのって好きじゃないんだ。でもそのあとは、スタジオに行けたからよかった。LAって極端でさ、最初のころはめちゃくちゃ厳しくて、みんな警戒してたんだけど、一度少し緩むと、誰も気にしなくなった(笑)。スタジオに入れない期間があったと思ったら、スタジオで大人数のセッションがすぐにはじまってさ(笑)。40人はいたんじゃないかな(笑)。しかもノー・マスクで(笑)。

「Die Cuts」は、ジェイムス・ブレイク作品におけるメイカーさんの貢献が非常に大きいことを確認させてくれるサウンドです。ブレイクの楽曲をプロデュースするときとはどのような違いがありましたか?

DM:違っていたのは、もちろんマインドセット。ジェイムス・ブレイクに限らず、自分以外のだれかをプロデュースするというのは、自分にコントロール権はない。でも今回のアルバムでは、自分のヴィジョンを自由に形にすることができた。ジェイムスの素晴らしいところは、カイも同じなんだけど、僕との合意点が必ずあるんだ。互いを評価しあって、最高のサウンドが生まれていく。でもやっぱり大きな違いは、タイムラインも含め、自分がコントロールを持っているかいないかだね。今回、自分がすべてのコントロールを持っている、というのを初めて経験したんだ。すごくユニークな経験だったし、その状況でどう作業していくか、かなり勉強になった。もちろん、だれかと一緒に作業すること、なにかをつくることも大好きだけど、クリエイティヴ・コントロールをすべて自分が持っているというのも、また気持ちがよかったね。

今回、自分がすべてのコントロールを持っている、というのを初めて経験したんだ。すごくユニークな経験だったし、その状況でどう作業していくか、かなり勉強になった。(メイカー)

“in your eyes” はスロウタイとダニー・ブラウンという、UKとUSのラッパーの組み合わせが興味深いです。メイカーさんはスロウタイの一昨年のシングルや昨年のアルバムにも参加していましたが、彼らふたりのラッパーの魅力はそれぞれどこにあると思いますか?

DM:スロウタイは、みんなが知っている以上に多芸多才なんだ。声だけでなく、彼のソングライティングもほんとうに素晴らしいんだよ。それに、ラップだけじゃなくて歌声も最高。あと、スロウタイとダニー・ブラウンという、イギリスとアメリカ、ふたつの異なる国のラッパーを迎えることができたのもよかった。彼らはそれぞれに独自のクレイジーなエナジーをもっているし、彼らがいると、周りにもそのエナジーが広がるんだよね。あの曲では、異なるラッパーのエナジーをつかって、いろいろと遊んでみたかったんだ。“in your eyes” は、曲自体は暗い感じだけど、ふたりが出てくることで、嵐のなかに太陽がのぼってくるような明るさが生まれる。あと、あの曲は、ふたりのショート・ストーリーがひとつの曲に入っているような感じだね。

カンポスさんの「City Planning」にはアクトレスを思わせる触感、音響性があります。じっさい、8月にアクトレスとの共作曲 “AZD SURF” が出ていますね。

KC:彼からはつねに影響を受けてる。ぼくらは、特定の時代の音楽への興味をシェアしてると思うんだ。いまって、エレクトロやダンス・ミュージックをノスタルジックな音楽と捉えてつくられているサウンドも多いよね。でも、そのなかには聴いていて面白くないものも多い。ぼくも90年代後半から2000年代のダンス・ミュージックは大好きだけど、最近つくられているものは、それをただつくりなおそうとしているものも多いと思うんだ。でもアクトレスは──それはぼくがやりたいと思っていることでもあるんだけど──ラップ・ミュージックをそういった音楽に取り入れて、ただのコピーでない新しいサウンドをつくってる。彼のそういう部分から影響を受けてるんだ。

“Satellite 9” などのエレクトロはドレクシアを、“Zone 1 (24 Hours)” などはジェフ・ミルズを想起させる部分があります。今回の制作にあたり、デトロイトの音楽を参照しましたか?

KC:デトロイト系はかなり聴いてたよ。あとは、当時のあのエリアの楽器の使い方にも影響を受けてる。でもさっきも言ったように、それをコピーしただけの、再現のようなサウンドはつくりたくなかった。それはぼくの専門分野でもないしね。でも、ぼくが好きなエリアだから、要素として取り入れたいと思った。アルバムのSFっぽさも、デトロイトの影響なんだ。

いまって、エレクトロやダンス・ミュージックをノスタルジックな音楽と捉えてつくられているサウンドも多いよね。でも、そのなかには聴いていて面白くないものも多い。(カンポス)

「Die Cuts」と「City Planning」は多くの点で対照的です。まったく異なる作品を、それぞれのソロとしてではなく、マウント・キンビーとして発表するのはなぜなのでしょうか?

KC:さっきも少し話したけど、今回のアルバムにかんしては、あまりアルバムをつくるという感覚はもっていなかったんだ。たぶん、ソロ・アルバムとして取り組もうとしていたら、もっと大変だったと思う(笑)。アルバムを意識せず、あまり構えなかったおかげで、今回のレコードでは、自分たちの頭のなかにあるアイディアを、あまりプレッシャーを感じずに、自由に実験し、探求することができたんだ。それに、ふたつの作品の対比がまた面白いとも思った。サウンドは違うけど、両方ともいまのぼくたち、つまりいまのマウント・キンビーがつくったサウンドであることに変わりはないしね。ぼくらの音楽の歴史の一部であることは変わりないから。

通訳:しかも、すでにもう、ふたりで共同作業をしながらアルバムをつくっているんですもんね。

KC:そうそう。今回の作品をつくって出したことは、次のアルバムのアプローチを定める助けにもなったしね。

通訳:次のアルバムの共同作業は、どんな感じでおこなわれているんですか?

KC:次のアルバムは、これまでのなかでいちばん共同作業が多いと言ってもいいかもしれない。アルバムを1年以上前に書きはじめたときは、ぼくがLAに行ってドムと一緒にデモをつくったし、そのあとは離れていたけど互いにアイディアを投げ合った。で、いまはドムがロンドンにいるんだ。今回は、リモートで曲を仕上げたことが一度もないんだよね。曲を仕上げるときは、かならず一緒にいるんだ。

『MK 3.5』を引っさげてツアーはしますか? その場合どのような形態になるのでしょう?

KC:まだわからないんだよね。2枚に分かれているから、それを一緒にやるとなるとどうしたらいいのかまだ考えていないんだ。ぼくはここ数年ひとりでDJをやってるんだけど、もしかしたらそういうヴェニューでぼくだけで自分の作品をパフォーマンスするのは考えてるんだよね。来年のはじめごろからやろうかと思ってる。で、来年の中盤くらいからまたマウント・キンビーでなにかやりはじめてもいいかなと。ドムがどう思ってるかは知らないけど(笑)。

DM:ぼくもDJセットは何回かやろうかなと思ってる。LAに戻ったら、またプロダクションの仕事で忙しくなるから、あまりパフォーマンスはできないかな。マウント・キンビーのアルバム制作もあるしね。

今回の『MK 3.5』のリミックス盤をつくるとしたら、参加してほしいひとはいますか?

KC:もうすでに、何人かのアーティストには頼んでいるんだ。でも、いまはまだ言えない。たくさんいるよ。発表されるのを待ってて。

通訳:以上です。ありがとうございました。

KC:ありがとう。ぼくは今年の末に日本に行く予定だから、もうすぐみんなに会えると思う。

DM:ぼくも、また日本に行けるのを楽しみにしているよ。ありがとう。

Babyfather - ele-king

 ティルザとDJ Escrowがフィーチャーされた、ディーン・ブラントのベイビーファーザー名義の新曲が公開された。すごく良い曲なので紹介します。リリースは彼のレーベル〈World Music〉(←ナイスなネーミングです)から。


https://open.spotify.com/album/6aazGhy1unBHW4nPE6uHlN?go=1&utm_source=embed_player_m&utm_medium=desktop&nd=1

Kazufumi Kodama & Undefined - ele-king

 空しい気持ちに包まれたとき、こだま和文の音楽はより親密に響いてくる。これほど空虚さに寄り添ってくれる音楽をぼくは知らない。彼がUndefinedと作り上げた『2 Years / 2 Years In Silence』は、いまのぼくにとって最良のサウンドトラックだ。打ちひしがれた空しい夜の友である。

 作品とは関係のない話をすることをお許し願いたい。1週間前の土曜日のことである、二度勝ち越しながら二度追いつかれたとき、哀しみではなく、空しさだけがぼくを包んだ。引き分けに終わったジュビロ磐田戦で、清水エスパルスのJ2降格を覚悟したとはいえ、一縷の望みがなかったわけでもなかった。が、しかしそれにしても、最終節のコンサドーレ札幌戦は劇的なまでにいまの清水を象徴する試合だった。「らしかったな」とひと言、静岡の高校時代の友人からメールが入った。金を使うばかりで、肝心なソウルの部分をおろそかにするからこんなことになるのだ。
 
 音楽ライターの原雅明が主宰するレーベル〈Rings〉からリリースされた『2 Years / 2 Years In Silence』は、前半4曲のダブ・ヴァージョン4曲が後半という構成になっている。後半はアンビエントを意識したということだが、アルバムでぼくがとくに注目したいのは、Undefinedのトラックだ。極論をいえば、こだま和文のトランペットが入っていないヴァージョンも聴いてみたくなるほど、この人たちのダブ・サウンドは傑出している。ベーシック・チャンネルの系譜を思わせるそのミニマリズムは、作品の後半においてよりラディカルに解体されているのだ。素晴らしい沈黙が創出されているそれら4曲は、ぼくが近年聴いたダブと形容される音楽においては、もっともクリエイティヴなもののひとつであることは間違いない。
 
 悲観論者として知られるこだま和文がいまどんな心境にあるかは、この音楽を聴かなくとも察するにあまりある。2022年は、あまりにも大きなことが起きた1年でもあった。CDのアートワークにあるささやかな美しさは、いまもミクロな次元では希望があるのだということを暗示している。思えばこだまの音楽はずっとそんな調子だ。最悪ななかにも小さな最善はあるのだ。それをみつけて今日を生き、明日を思う。彼はいま、数ヶ月前から立川でTHE DUB STATION BANDのライヴを再開しているが、そうした小さな場面では良きことは起きているし、音楽シーンや身近なところにはほかにもポジティヴなことはある。スペシャル・インタレストは「もうがまんできない」とは言わず、より現実主義的にこの厳しい時代を「耐えていこう」と言った。そうだ、小さな希望を見つけて耐えていこう、そして昔のように、まずは地元のサッカー少年少女が憧れるチームになって欲しい。
 
 ミュート・ビートの時代から、こだま和文の音楽を聴いているとその折々の自分を思い出す。『2 Years / 2 Years In Silence』は、戦争があって元首相が暗殺されて、清水エスパルスが降格した2022年のアルバムだったとぼくのなかでは記憶されだるろう。直感的な作品なのかもしれないが、ぼくにとっては、この音楽にはそのすべてのことが詰まっているのだ。

Gina Birch - ele-king

 ポスト・パンクの草分け、ザ・レインコーツのジーナ・バーチが来年の2月、ソロ・デビュー・アルバムをリリースすることを発表した。アルバムのタイトルは『I Play My Bass Loud』、レーベルはジャック・ホワイトの〈Third Man Records〉。「長年にわたる自分の音楽的、政治的、芸術的人生を抽出したもので、音と言葉の、楽しさと怒りのストーリーテリングによる個人的な日記になる」と彼女は声明を出している。
 なお、サーストン・ムーアをフィーチャーしたリードトラックが公開されている。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972