「Nothing」と一致するもの

Terry Riley - ele-king

 ミニマル・ミュージックの歴史的金字塔、「In C」。それが初演から60周年を祝して、京都で実演される。この曲をやるのは15年ぶりとのこと。しかも50名のミュージシャンとともに清水寺にて演奏。チケットは早めにね。

会場:⾳⽻⼭ 清⽔寺 本堂舞台
日程: 2024年7月21日(日)

テリー・ライリーより 開催に向けて

「In C」の曲(一部)が私の中に降りてきたのは、1964年の或る夜。その瞬間、私はバスに乗っていました。サンフランシスコのゴールドストリートにあるサルーンでラグタイム・ピアノを弾くピアノ弾きとして生計を立てていたのです。
 この曲は、まさに世界がその出現を待ち望んでいたイヴェントであったかの如く、非常に有名になり長年にわたって世界中で数えきれないほど演奏されてきました。
 2024年の今日、私は、今年60周年を迎えた「In C」を上演し、お祝いをしたいと思いつきました。言うなれば「歳をとった女の子」へのお誕生会です 。
 どの場所が良いだろうかと思案した結果、京都が良いだろうと思いました。街が纏うスピリチュアルな雰囲気は、「In C」という楽曲が狙う意図にも一致します。
 多くの演奏家に参加いただくことで、宇宙に捧げる歴史的な祝祭になるであろうと、胸を躍らせています。
 素晴らしく、そして京都にあって非常に重要な寺院・清水寺は、この祝祭にうってつけの場所でしょう。仮に雨に降られたとしても、それから守ってくれさえもします。
 2009年に行った、ニューヨークのカーネギーホールでの演奏の後、私はこの「In C」を演奏することからリタイアしていました。ですが、私は喜んでこの京都での祝祭を例外とするつもりです。
 このアイディアを実行に移してくれ、実現させるために助けてくれた全ての人に、特に清水寺の大西英玄氏、中村周市氏と宮本端氏に感謝を。最後に「In C」の60周年を祝うために駆け付けてくれた全ての演奏家の皆さんに感謝を。

2024年6月 テリー・ライリー

◉開催概要
タイトル:
In C-60th Birthday Full Moon Celebration at Kyoto Kiyomizu-dera Temple, July 21, 2024
〜「In C」誕生60年を祝う奉納演奏 〜

会場:⾳⽻⼭ 清⽔寺 本堂舞台
住所:京都市東山区清水1-294
www.kiyomizudera.or.jp/access.php
日程:2024年7月21日(日)
開場時間:20:00
開催時間:20:30(終演:21:30頃を予定)

チケット発売日時:2024年7月6日正午12時より
チケット発売サイト:inc60-kiyomizu-dera.peatix.com 
          *発売開始日時より有効となります。
奉納チケット料:10,000円(税込/限定記念グッズ付き)
※本奉納公演は商業目的ではありません

本公演に関する問い合わせ先:
メール terry.riley.info@gmail.com
電話 070-7488-0346
(電話の受付時間:13:00〜19:00)
※音羽山 清水寺へのお問い合わせはご遠慮ください。

出演:テリー・ライリー、SARA(宮本沙羅)他、梅津和時、永田砂知子、大野由美子(Buffalo Daughter)、ヨシダダイキチ、蓮沼執太、AYAら、50名程度を予定

企画・主催:テリー・ライリー
制作総指揮:しばし
協力:音羽山 清水寺
   「Feel Kiyomizudera」プロジェクトチーム

◉「In C」60周年記念グッズ

「In C」誕生60周年を記念して、限定グッズ(Tシャツ、ステッカー、トートバッグ)を販売します。全て、本人が新たに書き下ろした手書き譜面をあしらった、貴重なアイテム。
terryriley.base.shop

6月のジャズ - ele-king

 ここ数年来、南アフリカ共和国から良質なジャズ・ミュージシャンが輩出されているが、その筆頭がピアニストのンドゥドゥゾ・マカティーニである。


Nduduzo Makhathini
uNomkhubulwane

Blue Note Africa

 南アフリカ・ジャズが注目を集めるきっかけのひとつに、シャバカ・ハッチングスと共演したバンドのジ・アンセスターズがあるが、ンドゥドゥゾ・マカティーニはその中心人物のひとりで、2014年頃からリーダー作品を発表している。2020年には〈ブルーノート〉と契約を結んで『Modes Of Communication: Letters From The Underworlds』をリリース。2022年の『In The Spirit Of Ntu』は、〈ユニバーサル・アフリカ〉が〈ブルーノート〉と提携して設立した〈ブルーノート・アフリカ〉の第1弾作品となった。『Modes Of Communication: Letters From The Underworlds』はモード・ジャズや即興演奏を土台に、ベキ・ムセレク、モーゼス・タイワ・モレレクワ、アブドゥーラ・イブラヒムら南アフリカの先代のピアニストらの影響を見せる作品だった。『In The Spirit Of Ntu』はアフリカのバントゥー系民族に由来する人間という意味のズールー語の精神をタイトルとし、アフリカの大地に根付く祝祭性、呪術性に富むアルバムだった。ンドゥドゥゾは南アフリカ共和国のウムグングンドロヴ郡出身で、その地域に伝わる先住民族の儀式や音楽の影響を受け、音楽かであると同時に呪術師や祈祷師としての顔も持つ。そうしたンドゥドゥゾらしさが表われた作品と言えよう。

 新作の『uNomkhubulwane』はズールー土着信仰の女神の名前を示しており、「Libations」「Water Spirits」「Inner Attainment」というアフリカ民族であるヨルバ人の宇宙論で重視されていた「3」の数字に倣って楽曲を3パートに振り分けている。「作曲や何らかの概念的パラダイムを通じて意図を表現することが多かった。超自然的な声と交信する方法として音を使用している」とマカティーニは述べており、音楽家で祈祷家でもある彼の哲学的なヴィジョンや宗教観を示したものとなっている。録音はこれまでともにワールド・ツアーをおこなってきた南アフリカ出身のベーシストのズワラキ=ドゥマ・ベル・ル・ペルと、キューバ出身のドラマーのフランシスコ・メラとのトリオ編成。ヨルバ語で歌われる「Libations」の “Omnyama” は、清廉としたピアノと素朴なリズムによって紡がれる美しいアフロ・スピリチュアル・ジャズ。「Inner Attainment」の “Amanzi Ngobhoko” における祈りのような歌とモーダルなピアノ、土着的なドラムが導くメディテーショナルな世界は、マカティーニの真骨頂が表われたヒーリング・ミュージックと言えよう。


Malcolm Jiyane Tree-O
True Story

A New Soil / Mushroom Hour

 マルコム・ジヤネは南アフリカのハウテン州のヨハネスブルグにほど近いカトレホン出身で、若干13歳で音楽学校のブラ・ジョニーズ・アカデミーに進学したという早熟のトロンボーン奏者。ピアノなども演奏するマルチ奏者であり、これまでにンドゥドゥゾ・マカティーニや同じくジ・アンセスターズのトゥミ・モロゴシほか、ハービー・ツォアエリ、アヤンダ・シカデといった南アフリカの有望なミュージシャンらと共演してきた。2021年に自身のグループを率いて初リーダー作の『Umdali』を発表。グループはトゥリー・オーというもので、トリオよりももっと大人数から成る。ベースのアヤンダ・ザレキレ、ドラムスのルンギレ・クネネのほか、サックス、トランペット、ピアノなどを交え、マルコムはトロンボーンとヴォーカルを担当し、すべてマルコムの作曲による自作曲を演奏。全体に静穏なムードが漂い、ゆったりと時の流れるアフリカらしいジャズを演奏した。ツバツィ・ムフォ・モロイの清らかなヴォーカルをフィーチャーした “Moshe” は、同じ南アフリカ出身のタンディ・ントゥリなどに近い牧歌性に富むジャズだった。

 『Umdali』から3年ぶりとなるセカンド・アルバムの『True Story』は、アヤンダ・ザレキレ、ルンギレ・クネネ、ンコシナティ・マズンジュワ(ピアノ、キーボード)、ゴンツェ・マクヘネ(パーカッション)など、ほぼ前作のメンバーがそのまま参加する。『Umdali』と同じ時期の2020年から2021年にかけて数回のセッションを重ね、2023年に最終的なセッションを行って録音がおこなわれた。アルバムは詩人でソフィアタウンの住人である故ドン・マテラへのオマージュで、反戦的なメッセージの込められた “Memory Of Weapon” ではじまり、地球の悲惨さを哀悼する “Global Warning” や、ピーター・トッシュに捧げられたアフロ・ビートの “Peter’s Torch”、南アフリカの反アパルトヘイト運動にも参加したギタリストでシンガーの故フィリップ・タバネについての曲となる “Dr. Philip Tabane”、その名のとおり南アフリカにおけるジャム・セッションをスケッチした “South African Jam” などが収められる。マルコムのふくよかで哀愁に満ちたトロンボーンが奏でるアフロ・ジャズ “MaBrrrrrrrrr”、レオン・トーマスのようなヨーデル調のヴォーカルをフィーチャーしたスピリチュアル・ジャズの “I Play What I Like” など、全体的にゆったりとピースフルなムードに包まれた楽曲が印象的だ。


Julius Rodriguez
Evergreen

Verve / ユニバーサル

 ジュリアス・ロドリゲスはニョーヨークを拠点とするハイチ系黒人ミュージシャンで、ピアニスト兼ドラマー及び作曲家とマルチな才能を持つ。幼少期からクラシック・ピアノ、そしてジャズを学び、マンハッタン音楽院、ジュリアード音楽院に進んだ。音楽的ルーツはジャズ、即興音楽、ゴスペル、ヒップホップ、R&B、ポップ・ミュージックと多岐に渡り、オニキス・コレクティヴ、A$APロッキー、ブラストラックスなどと共演をしてきた。ジャズ方面ではミシェル・ンデゲオチェロ、カッサ・オーヴァーオールモーガン・ゲリンらと共演し、ジャズ・シンガーのカーメン・ランディによるグラミー・ノミネート作『Modern Ancestors』(2019年)ではピアノ伴奏者として高い評価を得た。ソロ・デビュー作は2022年の『Let Sound Tell All』で、オニキス・コレクティヴと繋がりの深いニック・ハキムやモーガン・ゲリンなどが参加。カッサ・オーヴァーオールの『I Think I’m Good』(2020年)や『Animals』(2023年)のミキシングを担当したダニエル・シュレットが制作に参加したということで、オーソドックな演奏を聴かせる一方で、即興演奏やソウル、ヒップホップ、エレクトロニック・ミュージックなどが融合した新世代ジャズ・ミュージシャンならではの作品だった。

 セカンド・アルバムとなる『Evergreen』は、キーヨン・ハロルド、ジョージア・アン・マルドロウ、ネイト・マーセローなどが参加し、ソランジュ、ホールジー、ビリー・アイリッシュらをプロデュースしてきたティム・アンダーソンとの共同プロデュースにより、デビュー・アルバムからさらにスケール・アップしたものとなっている。ジュリアス・ロドリゲスはピアノ。シンセ、オルガン、ローズ、エレキ・ギター、エレキ・ベース、アコースティック・ギター、クラリネット、ドラムス、パーカッション、ドラム・プログラミングを担当するマルチぶりを見せる。ドラムンベース調のリズム・プロダクションと美しいピアノやサックスのメロディが一体となったコズミック・ジャズの “Around The World”、ジョージア・アン・マルドロウの幻想的な歌声が繊細なピアノ・リフと相まり、途中からダイナミックなドラムが加わって深遠な世界を作り出す “Champion’s Call”。時を経ても色あせることのないエヴァーグリーンな音楽という意味を込めたこのアルバムは、ジャンルの枠や偏見にとらわれることなく、彼自身が内から自然にやりたいと思うサウンドを具現化したものである。


Ibelisse Guardia Ferragutti & Frank Rosaly
Mestizx

International Anthem Recording Company

 イベリッセ・グアルディア・フェハグッチはボリヴィア出身でアムステルダムを拠点に活動するシンガー。フランク・ロサリーはシカゴ出身のドラマーで、そんなふたりは結婚し、ともに音楽活動をおこなっている。

 シカゴ、アムステルダム、ボリヴィア、プエルト・リコでレコーディングがおこなわれた『Mestizx』は、ふたりのほかにベン・ラマー・ゲイ、ダニエル・ヴィジャレアルといったシカゴの〈インターナショナル・アンセム〉周辺のミュージシャンも参加する。そのダニエル・ヴィジャレアルの『Panamá 77』(2022年)や『Lados B』(2023年)同様に、フランク・ロサリーの作り出すリズムはパーカッシヴでラテンやアフリカの原初的な音楽を想起させる。そうしたサウンドとイベリッセ・グアルディア・フェハグッチのエキゾティックで飾り気のないヴォイスが一体となり、独特のミステリアスな世界を作り出す。“DESTEJER” はキューバの宗教儀式の音楽であるサンテリアを想起させ、イベイーなどに繋がる楽曲。“TURBULÊNCIA” はハモンド・オルガンを交えてクルアンビンのようなサイケ・ムードを出していく。“DESCEND” はシカゴらしい即興ジャズと実験的な音響、魔女のようなポエトリー・リーディングが融合する。

相互扶助論 - ele-king

 ECDさんは「大杉栄 日本で最も自由だった男」(道の手帖 河出書房新社)のなかで、自分は一端アナキストをやめると書いている。大震災から一年後の2012年当時、それまでさまざまなアナキズムの文献を読んでいたけれど、原発の再稼働を止めるためには国家という制度のなかで闘わなければいけないのだから、ただ「ぶちこわせ」と言うことはできないのだと書いている。律儀で江戸っ子なECDさんらしい物言いだと思う。それにしてもストリート・ワイズたるECDさんはきっと12年前の路上でアナキズムだけでよいのかという声を聞き取ったのではないか。そういう声がその時どこかに漂っていたのではないだろうか。

 ECDさんの文章から十年以上がたち、今年に入ってアナキズム関連の書籍が立て続けに出されている。アナキズムという言葉が社会に馴染んだのか、社会の方が近づいたのかわからないけれど、アナキズムという言葉を基とするような生き方がさまざまな場所で散見されるようにもなった。何にも拠らないような自由な生き方を試行する人たち。社会的弱者を救援するような活動に携わる人たち、ケア・教育という現場のなかで相互扶助的な思想を体現し始めた人たち。音楽のことを云えば、パンクというコミュニティを経てさまざまな自由で自律的な表現活動をはじめた人たちなど。

 もちろん日本には明治期以降、幸徳秋水・大杉栄以降のアナキズムの歴史があったが、それは基本的に自分を消してしまうような「無名」な運動であったためにマイナーな存在であり続けてきていて、どこかで一端途切れてなくなってしまったものが今年復活してしまったという現象ではなく、見えやすくなってきているというだけのことなのかもしれない。が、とにもかくにも現在本はたくさん出版されている。

 今年4月に新版として出されたクロポトキンの『相互扶助論』は、アナキズムという思想のでき上る時代、1902年が初出の重要な本である。地理学者(今で言うならば人類学者)だったクロポトキンはロシア、ヨーロッパの各地を踏査しながら、紀元前には確固としてあり、中世以前に色濃くあり、資本主義の登場以降にも連綿と受け継がれてきた、人間の考え方の中心にあった「相互扶助」という所与の感覚/思想を人類史という大きな歴史のなかで立ち上がらせた。政治や経済学の立場からマルクス主義とはまた違った立場で資本主義と対抗しようとしたアナキズムを人類学の立場から補強した。デヴィッド・グレーバー(彼は本書の序文も書いている)の『万物の黎明 人類史を根本からくつがえす』(光文社)やユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』(河出書房新社)など、現在も文化人類学者による人類史の本はベストセラーになっているが、百年前、資本主義が人間の生活を大きく変化させていく時代にこの本は書かれている。

 1924年、大正13年に大杉栄が本書を翻訳して紹介をしたが、以降現在新本として原典の補遺と注釈すべてを含めた形の新しい邦訳はなかった。大杉栄訳にしても、その後の大沢正道の翻訳にしても、アナキズムという思想を紹介するという役目が大きかったけれど、今般の新訳は一冊の古典学術書としての完訳がなされたといってよい。また文化人類学の百年以上の蓄積も翻訳者によって本書には活かされており、古典を現在の言葉に近い形で読む上で今までの翻訳よりも読みやすく作られている。500頁にわたる本を読むのは難儀をするだろうけれど、別に一気に読まなくたっていい。流行りの本ではないのだから、何年もかけてゆっくりと読んで人生に反映させるような大きな内容を持つ本だ。

 ダーウィンの進化論を資本主義にとって都合よく解釈し、弱肉強食・自然淘汰などという概念を人間の在り方として広く行き渡らせてきたのは、そうすることによって国家の権力を持つ者たちが国家の成員たちを馴致しやすくするためである。『相互扶助論』はダーウィン批判としても書かれているけれど、ダーウィンが間違っているとただ看破するのではなく、それを自らのために改謬するもの、その勢力、その人間の精神をこそ批判する。前回本の紹介文を書かせていただいた川口好美さんの批判の方法にも似て、クロポトキンがダーウィンを語るときのリスペクトの感覚はとても大切なものに思えてくる。

 あとがきに訳者によってクロポトキンの人生が描かれる。百年前に各地を踏査するとともに索引に並んでいる膨大な書籍を読み、さらに社会運動にもかかわったクロポトキンの生涯のスケールの大きさはやはりすごい。まるで生き字引のように文中にさまざまな学者の引用を散りばめながら自らの論を進めてゆく。むろん批判のための引用もあるけれど、それよりもさまざまな学者や市井の人の考えが接ぎ木のように反映されていき一体誰の書いたものなのかがわからなくなっていくような大きさを持つ本なのだ。

 そのような百年前の思考方法を感じることができることは、時に冗長な表現があったとしても(だからこそある種錯綜した書かれ方の「万物の黎明」が現在あるのではないか)、無駄なことなどではない。「現在の社会システムのもとで、同じ通りや近所の住民を結びつける絆はすべて分解してしまった」と本書には書かれているけれど、それよりもさらにさらに社会システムも人びとの心のなかも分断の進んでしまった現在、本書が有効なのかどうかを問うよりも、ロシア革命がおこる少し前、さまざまな不安が顕在化し第一次世界大戦が始まろうという少し前にこのような本が作られたということを知ることは大切なことだ。

 日々何の気なしに生きていて、ぼくらは資本主義以外の世界があると想像することすらできない。災害の最中、誰に命令されるでもなく金銭のためにでもなく身体が他者のために動いてしまうという心。ケアという行為のなかで相手・他者がしてほしいことをしてあげたいと思ってしまうことなど、「交換」というよりももう少しわけのわからない自律的な私たちの行いを、それが資本主義からまったくかけ離れて行われているものなのかどうかぼくには判断することはできないが、それらの瞬間をきっかけに今ここが資本と自分の行為の交換だけでは成り立っていないことが感覚できるのではないだろうか。『相互扶助論』はきっとその瞬間の強度を高めてくれるはずだ。厚い本だけれど、気後れしないでまずはあとがきから読み始めてほしい。

interview with bar italia - ele-king

 つい最近まで我々は彼らの名前すら知らなかったのに、どうしてこんなにも彼らに魅せられたのだろうか。

 ロンドンで最注目のバンドのひとつであるバー・イタリアは2020年にディーン・ブラント主宰のレーベル〈WORLD MUSIC〉からリリースし、顔も明かさぬまま世界中のコアな音楽ファンにリーチした。ザ・パステルズ、プリファブ・スプラウト、ジョン・ケイル、サイキック・TVなどをサンプリングし、オルタナティヴ・ロックを未知の領域に引き摺り込むディーン・ブラントとバー・イタリアのようなバンドとのクロスオーヴァーは必然と言えるだろう。数年間インタヴューや露出を限りなく避けたプロモーション(と言えるのか?)が成功したかはともかく、世界の片隅にいる私やあなたの心を掴んだはずだ。もちろん早耳なレコード・レーベルもここぞと跳び付いたに違いない。〈Matador Records〉から1年に2枚というハイペースでアルバムをリリース。両作とも素晴らしいが〈Matador〉からのファースト・アルバム『Tracy Denim』は図抜けた傑作。特異な温度感と脳の危ないところに効きそうな婀娜なサウンドが2010年と2020年代を繋ぐ。

 初アジアだった先日のライヴは本人たちも満足した様子だった。はじまる前から客席もかなりの緊張感でオーディエンスの心配と期待が伺えた。あのサウンドなら客が不安になるのも無理はない、僕も演奏にはそこまで期待していなかったが、その心配は杞憂だった。アルバムよりはるかにロックで前傾姿勢な演奏だが、照明演出全くなしなので淡々と進んでいるようにも感じられる──だが熱気は確実にどんどん上昇するというじつに不思議な体験だった。背中のガバッと開いたウェストコートでステージを妖艶に廻るニーナ・クリスタンテはじめ、3人の立ち姿はこの上なくアイコニックだった。

私は上の階に住んでて、ふたりはすでにダブル・ヴァーゴをやっていた。私もソロをやっていたけど誰かと一緒にプレイしたくて、私から誘った。(ニーナ・クリスタンテ)

ツアーはタイトそうですが日本は楽しめてますか?

ジェズミ・タリック・フェフミ(以下JTF):日本に来られてすごくラッキーだし、ツアーの中でもいい時間になっているよ。

アジアは初めて?

JTF:ライヴするのは初めてだね。

ニーナ・クリスタンテ(以下NC):私は一回だけ日本に来たことがある! 母が働いていたの。

『Tracy Denim』のリリースからツアーがかなり忙しそうですが、共演したバンドやフェスなどで面白いアーティストやライヴを見ましたか?

JTF:コーチェラで見たラナ・デル・レイだね! あのレヴェルのショーは流石に衝撃を受けたよ。狂気の沙汰だったね(笑)。

NC:プリマヴェーラでシェラックを見たね。R.I.P. スティーヴ(・アルビニ)。

ラナ・デル・レイのような大規模なショーもやりたい?

JTF:予算があればぜひやりたいね(笑)。

NC:ワイヤーで釣られながらギターを弾くふたりが見たいね(笑)。タイラー・ザ・クリエイターとかノー・ダウトも同じステージで見たけどセットが全く変わって違う三つの演劇のように変わってて面白かった。

JTF:フェニックスも見たね。僕の中のティーンが喜んでたよ(笑)。

昨日のライヴ(5月29日@渋谷WWWX)では照明を使わないスタイルがクールでした。どういう意図があったのでしょうか?

サム・フェントン(以下SF):服をよく見て欲しかったんだよ、僕らめちゃオシャレだからね(笑)。赤いライトとかでビカビカ照らされると色がわからなくなるだろ(笑)。

NC:それはサムの意見ね(笑)。私はただかっこいいから好き。

サムとジェズミは同じVictory AmpとOrangeのキャビネットを使っていますが理由は? ボードにも同じエフェクターが見えました。

JTF:Victoryはいいアンプだからね。レーベルが予算をつけてくれたからネットでめっちゃ探したよ。サムもよく使うね?

SF:うん、どこでも手に入るしね。Orangeもいいし。

NC:ふたりのペダルボードはギグをするにつれどんどん変わるの。

去年のツアーとドラマーが変わって、ライヴがパワフルになっていて驚きました。どういう経緯で?

JTF:前のドラマーのGuillemはもともと友だちでいいドラマーだったんだけど、彼のバンド(Eterna)のリリースがあったりで忙しくなったんだ。

NC:彼ができなくなってドラマーのオーディションをしたんだけど、3人の意見が一致するのに時間はかからなかったね。リアムはすごくパワフルなドラマーだけど “Nurse!”(『 Tracey Denim』収録)や “glory hunter”(『The Twits』収録)の繊細なタッチも叩けてダイナミクスもしっかりしてるし、ドラミングの中にメロディがあるから彼はとてもわたしたちに合ってると思う。

自分の中の悪魔が出てきたような感じだった。こき使われることに慣れきった人生と向き合って、認めてくれない世界に対して自分を証明するような作業なわけだし。(サム・フェントン)

3人の出会いやバンド初期について聞かせてください。

NC:私は上の階に住んでて、ふたりはすでにダブル・ヴァーゴをやっていた。私もソロをやっていたけど誰かと一緒にプレイしたくて、私から誘った。とりあえずトライしてみることになって、たぶん2回目くらいでうまくいったから、コロナでそんなにやることもなかったし、降りるだけだからしばらくつづけることにしたんだ。

すぐに手応えは感じましたか?

JTF:一緒にやるのは楽しかったけど、あんまりシリアスには考えてなかったかな。すぐに「アジア・ツアーができる!」とはならなかったね(笑)。

NC:お試しでやってた感じだったけど、かなりの時間を一緒に過ごしたよね。2020年の夏に『Quarrel』を作ってたときも、ヴィデオを見たりフットボールを見にいったり。

初期2作と『Tracy Denim』『The Twists』それぞれの制作、レコーディング環境に変化は?

SF:『Tracy Denim』のときに初めてスタジオを使うチャンスが来たんだ。いくつかのレーベルからサインしないかって打診が来ていて、その中のひとつのレーベルがスタジオに入ってレコーディングしないかって言ってきたんだ。でも契約云々の話はされてなかったから、本当にサインできるのかわからない状態だった。でもレコーディングはとても楽しかったよ。ロンドンに新しくできたスタジオで、面白い機材もたくさんあって。スタジオに入って書きはじめて2、3週間でできた曲からアルバムにしたんだ。すごくいい機会を貰えたから『Tracy Denim』を作ったときは刺激と期待に満ちていた感じだね。
作業が終わる頃〈Matador〉とサインして、すぐに『The Twist』の制作に入ったんだ。レコード・レーベルとサインしてギグの反応や露出も増えて、ある程度のことが起こりそうな予感があった。だから個人的には、『The Twist』にかけて気分が大きく違ったと思う。レコーディングの環境もあるだろうけどこのバンドが本当に実現するんだという責任感のようなものを感じるようになったことが大きいと思う。自分の中の悪魔が出てきたような感じだった。こき使われることに慣れきった人生と向き合って、認めてくれない世界に対して自分を証明するような作業なわけだし。みんなが同意するかわからないけど、たくさんの闇がこのアルバムに入ってると思う。ある種、僕らのやってきたことの象徴的なアルバムだね。

JTF:同感だね。『Tracy~』は楽観的で、『The Twist』には当時感じていた恐怖とかが含まれてる。

NC:『Tracy Denim』はちょっと章立てっぽいっていうか。10日スタジオにいて2週間休んで、また10日スタジオっていうスケジュールだったけど、『The Twist』はひと月で書いて、それを曲にするのにまた数週間って感じだったから、かなり密度が高かったね。

『Quarrel』『bedhead』はストリングスなどが入った曲もありましたが、『Tracy Denim』からはサウンドや楽器がまとまった印象です。〈Matador〉からのリリースやレコーディング環境のアップグレード、ライヴのことを考えてのことでしょうか? それとも自然に?

一同:全部だね(笑)。

JTF:最初は機材もなかったし何ができるかもよくわかってなかったから(笑)。

SF:皮肉みたいなものだよね(笑)。ファーストはジェズミの小さい部屋で限られた機材で録ったから逆にスケールは大きくて、機材を潤沢に使えるようになってきたらバンドのサウンドを良くしようみたいな(笑)。ギグのことも考えたね。

僕はバー・イタリアのドラムがすごく好きなのですが、メンバーの中にドラマーがいません。打ち込みや音色の選定などドラム・ワークはどうやっていますか?

NC:彼ら(サム/ジェズミ)はドラマーだよ!

SF&JTF:違うよ(笑)。

SF:ワンショットとかパーツは録るけど、訓練されたドラマーじゃないからね。

JTF:『Tracy Denim』と『The Twist』では前のドラマーのGuillemがレコーディングでは叩いてくれたんだ。

SF:ドラム・スタイルは気に入ってるんだけど、僕らだと叩けないフィルとかがあるからとても助かってるよ。

NC:彼らはとてもドラムに関してこだわりがあるから、誰かをスタジオに呼んで即興で叩かせたりはしない。私も彼らのドラミングに対する考えはとても好き。

“Nurse!” のドラム・ワークも特徴的でした。

SF:きちんとしたスタジオといいドラム・マイクで録音するのは初めてだったから大興奮でいろんな音を録ったよ! ライドのカップを音を止めながら叩いたんだ。

初期二作は打ち込みやドラムマシンで?

SF:何曲かでは、ジェズミが持ってたひどいドラムマシンも使った(笑)。

NC:“Skylinny”(『Quarrel』収録)で使ったけど特徴的なサウンドでよかったね。

『Tracy Tracy Denim』は楽観的で、『The Twist』には当時感じていた恐怖とかが含まれてる。(ジェズミ・タリック・フェフミ)

サムとジェズミはダブル・ヴァーゴを、ニーナはソロ活動もされていますが、バー・イタリアとの制作環境や意識の違いについて教えてください。

SF:適当にやってるわけじゃないから勘違いして欲しくないけど、バー・イタリアではやろうともしないようなことをやってるね。もっとカジュアルで冒涜的な、あるいは良くわからない方向に向かっていく感じで。

JTF:遊び場みたいに気の向くままできるしね。ニーナは?

NC:ギターは少しのあいだ習ってて、ピアノはちょっとはできるけど、私はほとんど楽器は演奏しない。最初に作った曲はたしかピアノだったけど、いまはギターサンプルとかを使うからパソコンとずっと睨めっこ。あんまり使い方わかってないんだけど(笑)。
あとはミュージシャンとコラボすることが多いね。知り合いのミュージシャンに来てもらって、考えてることを重ね合わせたり。詩はたくさん書くから、ヴァーカル・ワークに専念することが多いかも。ソロのときの録音からリリースまでのアジリティはとても大事にしていて、正式なバンドだと何ヶ月も待たなきゃいけないところが、ソロなら明日リリースと思えば誰にも文句言わせずにそうできるところが好きね。妥協しなくていいところも。でも、バー・イタリアが私の関わった中で一番だと思ってる!

最後に、原体験的なアルバムを一枚ずつ教えてください。

JTF:インターポールの『Turn On The Bright Lights』だね。他のどのアルバムより聴いたと思うよ。

SF:13歳くらいの頃、母親が安いレコード・プレーヤーを買ってくれたんだ。くれたときに母親が泣きながら、初めてレコードを聴いたときのことを話してくれて、そのときは自分の若い頃と僕を重ねてるんだろうと思ってあんまり響かなかったんだけどね。でも一年後くらいに古いニール・ヤングのレコードもくれたんだ。たしか『Harvest』だったと思うけど、あのアルバムは僕を形作るアルバムのひとつだね。

NC:私は、若い頃によく聴いていたので思い出すのはニルヴァーナの『Nevermind』!

 今年に入って、20数年ぶりに拙著『ブラック・マシン・ミュージック』を読み返す機会があった。近い将来文庫化されるというので、加筆修正のためではあったが、20年以上前に自分の書いたものを読むというのはなかなかの重苦だった。その痛みに身悶えしながら、書き足りていないと思ったのは、デトロイト・テクノにおけるプリンスの影響の箇所である。本のなかではエレクトリファイン・モジョのところで少しばかり触れているが、あまりに少しばかりだ。デトロイトにおけるプリンスの人気はすさまじく、言うなれば、70年代のブラック・デトロイトのエースがPファンクだとしたら80年代のその座はミネアポリス出身のプリンスだった。取材するのが困難だった80年代の人気絶頂期にプリンスが快くインタヴューに応じたのがエレクトリファイン・モジョのラジオ・ショーだった。『サイン・オブ・ザ・タイムズ』の前年には、彼の誕生パーティをデトロイトで開いたほどだ。これはこれで文化現象としていろんな深読みができるトピックだが、当時の原稿では、その程度の事実しか書いていない。
 デトロイト・テクノ第一世代は70年代後半に思春期を送っているので、最初の影響という点では圧倒的にPファンクだ。が、カール・クレイグやムーディーマンといったその下の世代になるとその影響は明らかになってくる。クレイグの初期作のエロティシズムおよびキュアーを愛したニューウェイヴ趣味もさることながら、ムーディーマンにいたっては(モジョのインタヴューまでサンプリングしているし)彼の身なりからも影響はあからさまだ。

 80年代の『ダーティ・マインド』から『ラヴセクシー』までのプリンスがあらゆる位相において、いま聴き直しても発見があるほどすばらしかったことは言うまでもない。ここでは、彼のディスコ/白人ニューウェイヴ趣味、そして、いまでは“先駆的だった”と各方面から評価されている露骨なクィア・センス(あるいは、レーガンの80年代に“If I was Your Girlfriend”を歌うこと)に着目したい。なにしろ、シカゴの野球場で大量のディスコのレコードが爆破されてから1年後の『ダーティ・マインド』なのだ。「ディスコとして知られる恐ろしい音楽病を根絶するための戦争」のピークのまだその翌年の話である、ブリーフ一丁でアルバムの1曲目からディスコ・ビート。80年代、「黒人らしくない」という批判(参照:ネルソン・ジョージ『リズム&ブルースの死』の最終章およびプリンス “コントラヴァーシー” の歌詞)を浴びていたプリンスは、ストレートなソウルやファンクをやらなかった、のではない。そもそもソウルやファンクには時代のモードこそあれ、スタイルは流動性にあることをこの黒人イノヴェイターは時間をかけて証明し、21世紀へと続く未来を切り拓いたのだった(例:ジャネル・モネイとフランク・オーシャン)。

グラムこそパンクである、歴史的にもコンセプトにおいても。
──マーク・フィッシャー

 にしても……である。彼とザ・レヴォリューションはハードコアだった。数年前に映画『サマー・オブ・ソウル』に登場する全盛期のスライ&ザ・ファミリー・ストーンの、黒人女性も白人女性もメンバーにした圧倒的なステージを見ると、ああなるほど、ザ・レヴォリューションの原型はここにあるのかと思ったものだが、ディスコもセクシャリティの攻撃的な発露は当然のことまだない。よく言われるように、ロックの性表現は、基本男根的で、男性優位のそれだった。対してディスコのエロティシズムは両性具有的、ないしは女性的だった(例:グレイス・ジョーンズの“I Need a Man”)。もちろんなかには、マッチョを強調したゲイ・ディスコもあったが(例:ヴィレッジ・ピープル)、「本物の男になれ」という時代にあっては、ディスコは野球場で爆破されるまでのなかば国民的な敵意を生んだというわけだ。

 Pファンクがディスコの時代にディスコを非難しながらディスコをやった話はよく知られている。彼らの数あるクレイジーな傑作のなかのひとつ、『Funkentelechy Vs. The Placebo Syndrome』(1977)がそれだ。その前年、Pファンカーたちは、ファンカデリックの“Undisco Kidd”(『Tales Of Kidd Funkadelic』収録)という曲においてディスコの性的な光景をコミカルに風刺した。「一面的なファンクや一面的なディスコは好きじゃない」とジョージ・クリントは言っているが、逆に言えば、一面的でなければ彼はディスコもやった。その最初の成果が消費主義社会を批判したくだんのアルバムに収録の、ヒット曲“Flash Light”だった。そして、そう、続いては、お馴染みの“One Nation Under a Groove”(1978)が待っている。これはファンク神秘主義と政治性が結合した励ましのディスコ・ソングであり、音楽的に見てもプリンスのディスコ・ビートがもうすぐ聞こえてきそうだ。
 ディスコは、(ロックもそうだったが、ロック以上に)黒人音楽のリズムを応用している。パーカッシヴな特質をより発展させ、簡素化しわかりやすくしているが、活かしているのだ。しかしながら映画『サタデー・ナイト・フィーバー』がヒットする1977年には、それは音楽産業にとって都合の良いブームとなった(参照:トム・ウルフ『そしてみんな軽くなった』)。庶民からの音楽ではなく、プロデューサー主導型の、庶民に供給され売りつけられる音楽となった。また、性的表現も、おおよそ男性目線のポルノグラフィーと化したことは、当時のレコード・ジャケットを見ても察せられよう。〈スタジオ54〉に代表されるセレブ趣味/金儲け主義が強調されたこと、その恍惚が個人主義の産物であったことは、さらにまた文化的見地からの批判を集めている。Pファンクが反論したのもこうした点だった。“One Nation Under a Groove”は、セレブ趣味の選民性から排除された人たちに呼びかけ、著述家でDJでもあるクリス・ニーズによれば「ディスコ本来の団結力をPファンクの桶のなかで再構築した」曲だった。
 ここでデトロイト・テクノのファンのためにもうひとつ、ホアン・アトキンスに影響を与えた曲を挙げておく。ヒップホップのファンにはお馴染みの1979年の“Knee Deep”だ。“Flash Light”、“One Nation Under a Groove”、そして“Knee Deep”、これをぼくはPファンク流ディスコ三部作と呼んでいるが、当初この原稿で書きたかったのは、さらにもう1曲のPファンク流ディスコのクラシック、1978年の“Aqua Boogie”のことだった。ふぅ。やっと本題だ。
 
 “Aqua Boogie”——“A Psychoalphadiscobetabioaquadoloop(サイコアルファディスコベータバイオアクアドゥループ)”なる副題が付いたこの曲も、人気曲のひとつで、そしてデトロイト・テクノのファンなら、ドレクシアの“アクアバーン(Aquabahn)”が、この曲とクラフトワークの“アウトバーン”との語呂合わせであることに気がつくだろう。「水」はいまなら、資本主義社会すなわち「うじ虫(magott)」が生きづらい社会というメタファーとして解釈できる。さすればおのずと、ドレクシア神話の意味もより複層化されるというもの、だ。そう、“Aqua Boogie”を擁する『Motor Booty Affair』は、Pファンクによる水中SF作品なのだ。

水は嫌いだ、俺を行かせてくれ、下ろしてくれ
ひゃぁぁあ、あんたら濡れてるじゃん! 溺れてたまるか

 梅雨の季節にも相応しく思えるこの曲は、いつものように脳天気を装いながらも、メッセージはじつにシリアスで、謎めいてもいる。「ああ、息が詰まりそうだ」とわめき立てる“Aqua Boogie”には、ジョージ・クリントならではのキラーなフレーズがある。「With the rhythm it takes to dance to what we have to live through. You can dance underwater and not get wet」(俺らが生き延びるべく踊るために必要なリズムをもってすれば、水のなかで踊っても濡れない)。ジョージ・クリントンはつまり、どんなに苦しい生活でも、苦しさに支配されないリズムがあると言っている。それなら水のなかでも踊っても濡れない。


 Pファンクを聴いてつくづく感服するのは……、まあ、しかもこの時期は、ブーツィー、バーニー、ジェローム・ブレイリー、フレッド・ウェズレーにメイシオ・パーカーらJ.B.難民たち、デビー・ライトやジャネット・ワシントン、マッドボーン・クーパー、ジュニー・モリソン、故ゲイリー・シャイダー……燦々と輝く黄金のメンバーが揃っているのでどの楽曲もたいてい魅力的なのだが、文化的なすごさを考えるに、ジョージ・クリントンの表現力の、白い社会(およびそれに憧れる日本)からは見えない奥深い面白さにはあらためて、ほんとうに舌を巻く。その昔デリック・メイが「それを俺たちは哲学として聴いた」と言ったのは、決して誇張ではない。政治的なメッセージを、高級化したリベラル層ではなく街の与太者たちに伝えるには、高度なストリート用語と黒人英語を駆使し、笑えるくらいの言い表しでなければならない。そのためには「ウジ虫」の目を通して宇宙を語り、タイトなブリーフどころか大きなオムツをはいて演奏することも必要だった。

どうせ社会の片隅に追いやられるのであれば、片隅の言葉で話せばいいじゃないか。
——イアン・ペンマン

 息もつけないほど苦しい時代のなかで生きていることを、あらためて説明するまでもないだろう。この私めは、先日、ベス・ギボンズのレヴューでうかつにも「小池vs蓮舫」で都知事選が面白くなったなどと軽口を叩いてしまったことを、公約を見てつくづく後悔している次第だ。「ウジ虫」の目を通して言えば、まったく面白くない! だから面白いことを考えよう。Pファンカーたちのことを考えてPファンクのレコードを聴こう。彼らのたくさんある狂った名曲のひとつに、“Give up the Funk (Tear the Roof off the Sucker)”がある。直訳すると「ファンクなんて止めちまえ(その建物の屋根を引っ剥がせ)」、意訳すれば「ファンクをよこせしやがれ(屋根を剥がすほど騒いでパーティしよう)」。Give up the Funk=Give us the Funk。「おまえがファンクを諦めてくれたらそのファンクは俺のもの(だからおまえはファンクを諦められない)」。この共有感覚はハウス・ミュージックの定義を言葉で表現したチャック・ロバーツの“In the Beginning (There was Jack)”を彷彿させる。「君のハウスは俺のハウス、だからこれは俺らのハウス」。しかもPファンクのリズムは、UKポスト・パンク(例:ザ・ポップ・グループ)へと伝染し、“One Nation Under a Groove”を経て人種的ステレオタイプを超越するプリンスの、たとえば “Let's Go Crazy”のような曲へと連なっているのであった。
 
 ジョージ・クリントは自伝『ファンクはつらいよ』のなかで、80年代に「最高に格好良かったのはプリンスだ」と言っている。「彼の曲をじっくり聴いてみると、俺たちがファンカデリックでやっていたことを、ロックやニューウェイヴでアップデートしていることがわかった」
 エレクトリファイン・モジョの耳は間違っていなかった。デトロイトがプリンスを愛し、プリンスもデトロイトを「第二の故郷」と呼ぶほど愛したのも、音楽的にも、社会的にも文化的にもなるべくしてなったことだった。それはそれで美しい話だが、問題なのはいま我々が水のなかにいるってことだ。だから、たとえ水のなかでも濡れない、そんなリズムを見つけよう。そして願わくば、永遠の課題である、我らの新しい片隅の言葉を。

※本稿を書くに当たって、Pファンクを愛するふたりのアフリカ系アメリカ人の友人、ニール・オリヴィエラとデ・ジラの助けがあったことを追記しておく。


Koshiro Hino + Shotaro Ikeda - ele-king

 昨年はバンドgoatの復活で注目を集めた音楽家、日野浩志郎が新たな試みをスタートさせる。詩人・池田昇太郎と組んだ、音と声の表現を探求するプロジェクトだ。3年がかりになるそうで、初年度にあたる今年は、大阪・名村造船所跡地のクリエイティブセンター大阪にて、新作公演「歌と逆に。歌に。」が発表される。
 テーマは戦前から活動していた大阪のアナキスト詩人、小野十三郎。かつて彼の見た街や道をめぐりつつ、彼がもとめた「新たな抒情」を独自に解釈した音楽公演になるとのこと。メンバーにはKAKUHANの中川裕貴、パーカッショニストの谷口かんな、goatの田上敦巳などこれまで日野と共演してきた面々に加え、朗読に坂井遥香、音楽家の白丸たくトが加わる。
 公演は8月16日(金)から18日(日)の4回。日野と池田による新しいチャレンジに注目しましょう。

新作音楽公演「歌と逆に。歌に。」
2024年8月16日〜18日、クリエイティブセンター大阪にて4公演開催。
音楽家・日野浩志郎と詩人・池田昇太郎による、
音と声の表現を探る、3カ年プロジェクトがスタート。

詩人・小野十三郎の書く「大阪」を巡り、
音と声による「歌」の可能性を探る

大阪を拠点とし、既存の奏法に捉われず音楽の新たな可能性を追求し続けてきた音楽家・日野浩志郎と詩人・池田昇太郎による、音と声の表現を探る3カ年プロジェクト「歌と逆に。歌に。」。
初年度は、大阪・名村造船所跡地のクリエイティブセンター大阪にて、新作公演を発表する。

本プロジェクトにおいて重要なテーマとなるのが、1903年に大阪で生まれ、戦前から戦後にかけて大阪の風景や土地の人々を眼差してきた詩人・小野十三郎だ。1936年〜52年、小野が大阪の重工業地帯を取材し、1953年に刊行された詩集『大阪』と、彼の詩論の柱である「歌と逆に。歌に。」を手がかりに、同詩集で描かれた地域や地名をフィールドワークとして辿る。

小野十三郎という詩人の作品に向き合うということは彼の生きた時代とその社会、彼の生まれた街、育った街、住んだ街、通った道、生活、彼の思想、友人や影響を受けた詩人を訪れることでもある。本作ではそうした街や道、風景を巡りながら、詩集『大阪』にて描かれる北加賀屋を舞台に、小野が試み、希求した「新たな抒情」を感受し、独自に解釈し、編み直し、それを音楽公演という時間と空間の中に試みる。

公演情報
新作音楽公演|「歌と逆に。歌に。」
日程:2024年8月16日(金)〜18日(日)
公演日時:
 ①8月16日(金)19:30-
 ②8月17日(土)14:30-
 ③8月17日(土)19:30-
 ④8月18日(日)14:30-
 ※開場は各開演の30分前を予定
会場:クリエイティブセンター大阪内 Black Chamber https://namura.cc/
料金:一般=4,000円、U25=3,000円、当日=5,000円
チケット取扱い:ZAIKOイベントページにて

関連イベント|オープンスタジオ
公演を前に、作品制作の現場を間近でご覧いただけます。
当日はリハーサルだけではなく、クリエーションやリサーチの進捗共有なども行う予定です。
日時:2024年7月7日(日)14:00-17:00
会場:音ビル(大阪府大阪市住之江区北加賀屋5-5-1)
料金:500円(要申込・途中入退場自由)
申込:Googleフォームにて

クレジット
作曲:日野浩志郎
詩・構成:池田昇太郎
出演:池田昇太郎、坂井遥香、白丸たくト、田上敦巳、谷口かんな、中川裕貴、日野浩志郎
舞台監督:小林勇陽
音響:西川文章
照明:中山奈美
美術:LOYALTY FLOWERS
宣伝美術:大槻智央
宣伝写真:Katja Stuke & Oliver Sieber
宣伝・記録編集:永江大
記録映像:Nishi Junnosuke
記録写真:井上嘉和、Richard James Dunn
制作:伴朱音

主催:株式会社鳥友会、日野浩志郎
共催:一般財団法人 おおさか創造千島財団「KCVセレクション」
助成:大阪市助成事業、全国税理士共栄会
協力:大阪文学学校、エル・ライブラリー
問合:utagyaku@gmail.com

コメント
日野浩志郎(作曲)|制作にあたって共同制作者へ向けたメッセージ

発端となったのは大阪北加賀屋を拠点とする「おおさか創造千島財団」から2年連続のシリーズ公演を提案されたことでした。声をテーマにした音楽公演を以前から模索していたのもあり、大阪で山本製菓というギャラリーを運営していた詩人の池田昇太郎くんに声をかけたところ、大阪の詩人である小野十三郎に焦点を当てた公演を行うのはどうかと提案してくれました。
 小野十三郎は戦前から活動を行ってきた詩人であり、アナーキズムに傾倒した詩集の出版等を経て、「短歌的抒情の否定」、つまり短歌(57577)の形式や感情的な表現を否定するという主張を行った詩人です。中でも1939年に出版された小野の代表的詩集「大阪」を読んでいると、詩の構造や感情的な表現へのカウンター/嫌悪感のようなものを感じると同時に、「硫酸」、「マグネシウム」、「ドブ」、「葦(植物のあし)」、のような冷たく虚無を感じる荒廃した言葉が際立ち、ポストパンクを聴いてるようなソリッドさに何度もゾクっとさせられました。詩集の中で大阪の様々な地名や川等が登場しますが、今回の会場である名村造船所周辺を含む工場地帯は詩集の中でも重要な場所であることが分かります。
 公演内容についてはこれからのクリエーションによって定めていきますが、現状では小野の代表的詩集「大阪」(1939)を中心に置き、小野の詩を読み取りながら音楽と昇太郎くんのテキストを制作していきます。一般化された短歌のような形式の否定というのは詩だけに留まらず、音楽に対しても同様に言及されているところがあり、音楽的常識に則ったものや直接感情的に訴えるような音楽は制作しない予定です。詩と音楽に対する関わり方も難しく、音楽を聴かせる為の詩でも、詩を聴かせるためのBGMでもない、必然的で詩と関係性の強い音楽を作ることが目標であると思っています。
 このプロジェクトは一旦3年を計画しています。最初の2年は大阪で公演を行った後、公演に関する音源作品と出版物をEU拠点の音楽レーベルから発売、そして3年目には海外公演を行うという目標で進めています。
 制作を始めてまだ間もないですが、取り上げた題材の強大さと責任の大きさを感じています。「詩と音楽」ということだけでも難しいですが、天邪鬼で尖った小野の美学に沿うには単にかっこいい表現というだけでは許してくれそうもありません。主に自分と昇太郎くんが表現の方向性の舵を切って進めていく予定ですが、各々でも小野の詩や思想に触れて解像度を上げてもらえると心強いです。どうぞよろしくお願いいたします。

2024.2.15 日野浩志郎

池田昇太郎(詩・構成)|小野十三郎という詩人と向き合うこと

小野十三郎という詩人の詩と詩論に向き合うことは彼の生きた時代とその社会、彼の生まれた街、育った街、住んだ街、通った道、生活、彼の思想、友人や影響を受けた詩人を訪れることでもある。
 翻って、それは私たちの生きる時代とその社会、私たちの生まれた街、育った街、住む街、通る道、生活、私たちの思想、つまり私たち自身を訪れることでもある。
その上で、詩集「大阪」を通して小野が試み、希求した「新たな抒情」を感受し、独自に解釈し、編み直し、それを音楽公演という時間と空間の中で再構成することを試みる。

 本作のタイトル「歌と逆に。歌に。」は小野十三郎の詩論の一節に基づくものだが、公演に用いたテキストでは、小野の詩や詩論を引用することを最低限にし、書き下ろしとすることにした。そのようにするしかなかった諸般の事情もあったが、詩人の遺した言葉から感銘を受けるに留まるのではなく、新たに言葉を紡ごうとする意義を問い直す必要があった。

 1936年から52年という時代の中で強固な意志を持って書き記された詩篇を読み解き、自らの創作言語にしていくことは並大抵ではなく、仮にあらゆる必然がそこにあったとしても、容易いことではない。
 小野の見つめた、ある時代の大阪。その時代のその街と風景以上に普遍的な目。土地から切り離された人々が、もう一度土地と結ばれるためではなく、その断絶の上で、大きな力に抗い続ける個としてあること。このアスファルトの下に流れる水が、流れ出る場所、浸み出す場所、それを吸って育つ葦、そして枯れる葦。その繰り返し。その見えない流れを捉えること。

2024.6.17 池田昇太郎

photo: Katja Stuke & Oliver Sieber

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プロフィール|出演者

photo: Dai Fujimura

日野浩志郎 / Koshiro Hino
音楽家、作曲家。1985年生まれ、島根県出身。現在は大阪を拠点に活動。メロディ楽器も打楽器として使い、複数拍子を組み合わせた作曲などをバンド編成で試みる「goat」や、そのノイズ/ハードコア的解釈のバンド「bonanzas」、電子音楽ソロプロジェクト「YPY」等を行っており、そのアウトプットの方向性はダンスミュージックや前衛的コラージュ/ノイズと多岐に渡る。これまでの主な作曲作品は、クラシック楽器や 電子音を融合させたハイブリッドオーケストラ「Virginal Variations」(2016)、多数のスピーカーや移動する演奏者を混じえた全身聴覚ライブ「GEIST(ガイスト)」(2018-)の他、サウンドアーティストFUJI|||||||||||TAと共に作曲・演奏した作品「INTERDIFFUSION A tribute to Yoshi Wada」(2021-)、古舘健や藤田正嘉らと共に作曲した「Phase Transition」(2023)、等。佐渡を拠点に活動する太鼓芸能集団 鼓童とは2019年以降コラボレーションを重ねており、中でも延べ1ヶ月に及ぶ佐渡島での滞在制作で映像化した音楽映画「戦慄せしめよ/Shiver」(2021、監督 豊田利晃)では全編の作曲を日野が担当し、その演奏を鼓童が行った。音楽家・演出家のカジワラトシオと舞踊家・振付家の東野祥子によって設立されたANTIBODIES Collectiveに所属する他、振付師Cindy Van Acker「Without References」、映画「The Invisible Fighit」(2024年公開、監督Rainer Sarnet)等の音楽制作を行う。

(C) tramminhduc

池田昇太郎 / Shotaro Ikeda
1991年大阪生まれ。詩人。詩的営為としての場の運営と並行して、特定の土地や出来事の痕跡、遺構から過去と現在を結ぶ営みの集積をリサーチ、フィールドワークし、それらを基にテクストやパフォーマンスを用いて作品を制作、あるいはプロジェクトを行なっている。廃屋を展覧会場として開くことの意味を視線と身体の運動からアプローチしたインスタレーション「さらされることのあらわれ」(奈良・町家の芸術祭はならぁと2021)、一見するとただの空き地である元市民農園を参加者と共に清掃しながら、その痕跡を辿り、かつての様子を無線越しに語るパフォーマンス「Only the Persiomon knows」(PARADE#25、2019)西成区天下茶屋にて元おかき工場の経過を廻るスペース⇆プロジェクト「山本製菓」(2015~)、「骨董と詩学 蛇韻律」(2019~)他。

坂井遥香 / Haruka Sakai
2014年野外劇で知られる大阪の劇団維新派に入団し、2017年解散までの作品に出演。2018年岩手県陸前高田市で滞在制作された映画『二重のまち/交代地のうたを編む』(監督:小森はるか+瀬尾夏美)に参加。近年の出演作に孤独の練習『Lost & Found』(音ビル, 2020)、許家維+張碩尹+鄭先喻『浪のしたにも都のさぶらふぞ』(YCAM)、梅田哲也『入船 23』、『梅田哲也展 wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ』(ワタリウム美術館)など。場所や土地と関わりを持ちながらつくる作品に縁・興味がある。

白丸たくト / Takuto Shiromaru
音楽家。1992年生まれ。兵庫県出身。茨城県大洗町在住。実感のなさや決して当事者にはなれない事柄を、社会・歴史・その土地に生きる人々との関わりから音楽を始めとする様々なメディアを用いて翻訳し、それらを読み解くための痕跡として制作を続けている。「詩人の声をうたに訳す」をコンセプトに行う弾き語り(2016〜)や、ラッパー達と都市を再考するプロジェクト「FREESTYLUS」(2021〜)等。

田上敦巳 / Atsumi Tagami
1985年生まれ。広島県出身。音楽家日野浩志郎を中心に結成されたリズムアンサンブル「goat」のベースを担当。バンド以外に不定形電子音ユニット「black root(s) crew」のメンバーとして黒いオパールと共に不定期に活動。2011年~2018年まで「BOREDOMS」のサポートを行う他、2022年からはダンサー東野洋子とカジワラトシオによるパフォーマンスグループ「ANTIBODIES Collective」に参加。

谷口かんな / Kanna Taniguchi
京都市立京都堀川音楽高校、京都市立芸術大学の打楽器科を卒業。在学時はライブパフォーマンスグループに所属し、美術家、パフォーマー等と共演、即興演奏の経験を積む。卒業後はフリーランスの音楽家として室内楽を中心に活動。卒業後も継続して他分野との即興演奏に取り組んでいる。これまでに、東京フィルハーモニー交響楽団、京都室内合奏団と共演。近年はヴィブラフォンでの演奏に最も力を入れており、2023年11月にヴィブラフォンソロを中心とした初のソロリサイタル「vib.」を京都芸術センターで開催。

中川裕貴 / Yuki Nakagawa
1986年生まれ。三重/京都在住の音楽家。チェロを独学で学び、そこから独自の作曲、演奏活動を行う。人間の「声」に最も近いとも言われる「チェロ」という楽器を使用しながら、同時にチェロを打楽器のように使用する特殊奏法や自作の弓を使用した演奏を行う。音楽以外の表現形式との交流も長く、様々な団体やアーティストへの音楽提供や共同パフォーマンスを継続して行っている。2022年からは音楽家・日野浩志郎とのDUOプロジェクト「KAKUHAN」がスタート。令和6年度京都市芸術文化特別奨励者。

Taylor Deupree - ele-king

 米国・NYで電子音響〜アンビエント・レーベル〈12k〉を主宰し、自らも静謐なサウンドスケープを展開するアンビエント・ミュージックを作り出している1971年生まれの電子音楽家テイラー・デュプリー。坂本龍一との共演でも知られる彼は、90年代から現代に至るまで、エレクトロニクス・ミュージックからグリッチを活用した電子音響作品、そして静謐なアンビエント/ドローンなどに作風を変化させつつも、すぐれた電子音楽作品を世に送り出してきたサウンド・アーティストである。その音はまさに「透明・静謐」という言葉がぴったりとくるものばかりだ。「もっとも静かなニューヨーカー」と呼ばれたことは伊達ではない音楽性といえよう。

 そのテイラー・デュプリーが2002年にリリースしたエレクトロニカ史上に残る『Stil.』を、弦楽器などのアコースティック楽器で再構築/リアライズしたアルバムが本作『Sti.ll』だ。そのアイデアも素敵だが、音の方も美麗というほかない見事な作品である。同時に、グリッチ以降の「00年代エレクトロニカ」の本質が、音のレイヤーと浮遊感、その反復にあったことも改めて教えれくれる音楽であった。00年代の電子音響空間が、新たな方法論と楽器(音色)と編曲によって生まれ変わったとでもいうべきだろうか。
 プロデュースと編曲を担当としたのはジョセフ・ブランシフォート(Joseph Branciforte)。1985年生まれの彼はグラミー賞受賞のレコーディング・エンジニアでもあり、セオ・ブレックマンとの共演作でも知られるミュージシャンでもある。ジョセフ・ブランシフォートは、本作でもエディット、ミックスも担当しているほか、1曲目、2曲目ではヴィブラフォンやラップハープなどの演奏にも参加。マスタリングはテイラー・デュプリー本人が手がけた。
 本作『Sti.ll』において、ジョセフ・ブランシフォートとテイラー・デュプリーはオリジナルにある「音の層」を楽器の演奏による「再演」を試みている。ふたりは、過度に「音楽的」にならないように(ポスト・クラシカル化しないように)、過度に「音響化」しないように(現代音楽的にならないように)、細心の注意をはらって楽曲を再構築する。

 アルバムには全4曲が収録されている。オリジナル『Stil.』と同じ曲数・構成だ。曲名も同じで、それぞれ担当する楽器名が記載されている点も注目である。では具体的にはどのように変化=アレンジメントされたのだろうか。一言で言えば電子音の「トーン」を楽器で「演奏」しているのである。1曲目 “Snow/Sand (For Clarinets, Vibraphone, Cello & Percussion)” を聴いてみるとよくわかる。オリジナル『Stil.』の1曲目 “Snow-Sand” は、高音域の電子音響のレイヤーによって成立している楽曲だが、『Sti.ll』ではチェロやクラリネット、ヴィブラフォンによって中音域をメインとしたサウンドスケープを形成している。そしてオリジナルにあった「持続音の周期」をミニマルな旋律に変換しているのである。ちなみにデュプリーはスネアドラムや紙の音、ベルなどを担当している。
 2曲目 “Recur (For Guitar, Cello, Double Bass, Flute, Lap Harp, & Percussion)” は、ギター、チェロ、ダブルベース、フルート、ラップハープとパーカッションのアンサンブルとなっている。アルバム中、もっとも大きな編成の曲だ。とはいえ楽曲・編曲に大袈裟さはまるでない。むしろ原曲の静謐な複雑さ=電子音響をアコースティック楽器で再現するために必要な楽器数といえる。デュプリーはグロッケンシュピールとラップハープを担当。
 3曲目 “Temper (For Clarinets & Shaker)” では、クラリネットとシェイカーによる演奏。ここからアルバムはややドローン色が強くなる(オリジナルもそう)。だがここでも原曲の電子音響を楽器で見事に再演していく。グリッチをシェイカーで表現するのは微笑ましくも可愛らしいアイデアだ。
 この3曲の差異を聴き比べると、『Sti.ll』がいかにして『Stil.』をリアライズしようとしていたのかわかってくる。要するにさまざまな小さな粒子のような電子音の折り重なりであるエレクトロニカの「レイヤー」を、アコースティック楽器の「アンサンブル」によって再現しようとしているのである。静謐な器楽曲へと変化させたというべきか。この試みはとても意欲的だと思う。現代音楽的に音の持続音やトーンをストイックに追い詰めるのではなく、ミニマルな旋律の折り重なりによってエレクトロニカを再演する試みなのだから。
 レイヤーからアンサンブルへ? いやというよりは「レイヤー/アンサンブル」の音楽とでもいうべきかもしれない。異なる層に鳴る電子音響の生成(00年代エレクトロニカ)に対して、音のレイヤー構造を守りつつ、それを楽器演奏で再現することで、音と音が互いに反応しつつも音楽の大きな輪を作り出すアンサンブルも構築しているのである。
 つまりテイラー・デュプリーが自らのエレクトロニカをアコースティック楽器による音楽作品として作り直した理由は、音のレイヤーとアンサンブルの境界線を溶かすことにあったのではないかと思うのだ。いちばん原曲に近いのはドローン主体の4曲目 “Stil. (For Vibraphone & Bass Drum)” だが、音の持っているトーンはまったく異質であることからもそれはわかる。

 全曲、柔らかい音色の弦楽などのアコースティック楽器が一定周期でループし、音楽を奏でている。そこにいくつかの楽器がさらに折り重なる。やがてエレクトロニカとクラシカルの境界線が揺らぎ、無化するだろう。その音のさまを聴き込んでいくと、どこかバロック音楽にも接近しているように感じられた。その意味では同じくバロック音楽的なアンビエントであったタシ・ワダの『What Is Not Strange?』とどこか雰囲気が近いようにも思えた(特に「似ている」というわけではない。音が醸し出す雰囲気が共通しているとでもいうべきか)。
 このように書き連ねると、いささか難解な音楽に感じるかもしれないが、実際に聴いてみるとわかるように、まったく難解な音楽ではない。それどころか誰が聴いても心身に効く、心地よい音楽なのである。エモーショナルでもあり、夢のような音楽であり、心を鎮静する音楽である。
 何かと気忙しい現代を生きる音楽聴取者によって、自身の感覚を、心身をチューニングするように長く聴き込んでいけるアルバムではないかと思う。エレクトロニカから器楽曲へ。その変化はいわば普遍的な音楽の希求であったのだ。

Theo Parrish - ele-king

 続々と20周年記念イベントが決定しているLIQUIDROOMから、またも嬉しいお知らせだ。8月2日(金)、セオ・パリッシュが登場、オープン・トゥ・ラストのロング・セットを披露する。昨年もすばらしいDJを体験させてくれたデトロイトのレジェンドだけれど、今回は10年前にパーティを実現できなかったLIQUIDROOMでの開催ということもあり、熱い想いのこもったパフォーマンスになるにちがいない。詳細は下記より。

セオ・パリッシュLIQUIDROOMに降臨!
オープンからラストまでのAll Night LongセットでLIQUIDROOMの20周年を祝う。

LIQUIDROOM 20th ANNIVERSARY
-Theo Parrish All Night Long-

202.08.02 friday midnight
LIQUIDROOM
open/start 24:00
TICKETS:¥6,000(1drink order別) / door¥7,000(1drink order別)
PRE-ORDER e+ 6/21(fri) 20:00~ 6/30(sun)23:59  7.6(sat)10:00~ ON SALE!
https://eplus.jp/sf/detail/4128980001-P0030001

セオ・パリッシュが、リキッドルーム20周年でプレイする理由。

セオ・パリッシュが音楽家としてのキャリアを開始した1996年から、もうすぐ30年。デトロイトのから発表したデビューEP『Baby Steps』では、ドナルド・バードなどをサンプリングした「Early Bird」など、ソウルフルなハウスミュージックを聴かせてくれた。しかし、1997年に自身のレーベル設立後から、独自性を発揮していく。イーブンキックといったダンスミュージックの骨格を残しながらも、まずは徹底的に楽曲から装飾を省き、テンポは概ねBPM110くらいにピッチダウン。「JB’s Edit」などに至っては、サンプリングしたホーンのフレーズの音が、意図的に割られている。常識外れな楽曲の数々に驚かされたものだった。しかし、楽曲の中心はドラムのシンコペーションとファンキーなベースラインが織りなす反復したリズムであったため、大きなサウンドシステムのクラブでプレイされることで威力を発揮。世界中で人気を獲得することになった。から発表された革新的なブラックミュージックの数々は、現在でも世界中のDJやプロデューサー、ビートメイカーへ大きな影響を与えている。また、今年スタートしたばかりのでは、王道キラーチューンをリエディット。キャッチーなフレーズを活かしながら、快楽的なフレーズを徹底的に反復させる。ここではで得た手法を使い、過去の楽曲を新しく蘇らせている。
伝統と革新。ディープなとアッパーなの楽曲は、一聴すると表裏一体のように感じるが、聴き込むほどに双方がマルチバースのように存在していることがわかる。2022年には再びアンビエント要素も包括し、実験性の高い『Cornbread & Cowrie Shells For Bertha』を。そして翌年にはシンガーのモーリサ・ローズの歌を全面にフィチャーした『Free Myself』(2023年)を発表。伝統と革新を行き来する創作が、30年近くも続けているのだ。
 DJプレイに関しても、筆者は作品に近い感想を持っている。黎明期のハウスミュージックに影響を受けた『Sketches』(2010年)発表時の来日パーティで、ダンスホールレゲエや80’sヒップホップがプレイされた。アルバムのイメージとはかけ離れているため、混乱した記憶がある。しかし、プレイに身を委ねてみると、プレイされている黎明期のダンスミュージックならでのラフで太いリズムが、『Sketches』のコンセプトに近いものだと理解することができた。
こう書いてみると、ある意味でセオ・パリッシュは、ファンの期待を裏切るDJに感じるかもしれない。しかし、本当のところは誠実で、ファン思いの人物である。2014年、リキッドルーム10周年記念パーティにて、バンドと共にステージへ立つ予定であったが、メンバーの都合でキャンセルになってしまった。観客の一人として、よくあるトラブルと承知した一方、リキッドルームのホームページには、公演中止のアナウンスと共に、セオ本人による丁寧な謝辞が掲載された。ファンへのお詫びと同時に、本人の無念さも記された真摯な文面は、今もはっきりと記憶に残っている。 
2014年から10年。リキッドルーム20周年記念のパーティで、セオ・パリッシュがオープンからラストまで単独でDJプレイをする。数々の歴史が詰まった会場で、一体どんなプレイを聴かせてくれるのか。新しい伝説の夜が、生まれそうな気がしてならない。

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ele-king vol.33 - ele-king

特集:日本が聴き逃した日本の音楽と出会うこと
第2特集:「和モノ」グレート・ディギング

高田みどり、本邦初ロング・インタヴュー
灰野敬二、Phew、畠山地平、蓮沼執太、角銅真実、BBBBBBB、ほか

CD時代のニューエイジ30選、ロンドンのリイシュー・レーベル〈Time Capsule〉、菊地雅章のアンビエント・アプローチ、日本のジャズ、ほか

菊判/160ページ

目次

特集:日本が聴き逃した日本の音楽と出会うこと

居心地のよい洞窟を求めて──高田みどり、インタヴュー(取材:高橋智子/写真:細倉真弓)

column この世のクズ(ジェイムズ・ハッドフィールド/江口理恵訳)
日本の音楽との出会い1 フュー、インタヴュー (取材:野田努/写真:細倉真弓)
column 日本の前衛音楽 誰のものでもない「私」による音楽 (高橋智子)
角銅真実と蓮沼執太が語る、日本の音楽の開拓者たち――武満徹から灰野敬二、細野晴臣、坂本龍一、吉村弘まで (取材:小林拓音/写真:小原泰広)
日本の音楽との出会い2 畠山地平、インタヴュー (取材:野田努)
column 日本独特のアンダーグラウンドにおける、コンピレーション・アルバムが語るもの (イアン・F・マーティン/江口理恵訳)
column Aubeの『Cardiac Strain』は過酷な日々のなかで私の心を癒す北極星だった (緊那羅:デジ・ラ/野田努訳)
column ジャズ・ピアニスト、菊地雅章の知られざるアンビエント作品群──共演者・菊地雅晃が語るその「情感」 (原雅明)
column 豊かだから音楽が栄えたのではなく、豊かさの予感として音楽が鳴っていた──80年代日本再訪、YMOからディップ・イン・ザ・プールまで (三田格)

第二特集:「和モノ」グレート・ディギング

CD時代のニューエイジ・ディスクガイド30──掘り起こされる90年代日本の「これからの名作」 (門脇綱生)
時を超える松﨑裕子のニューエイジ音楽──世界初CD化&LPでも再発されるレア盤『螺鈿の箱』の魅力について (デンシノオト)
菅谷昌弘が紡ぐ祈りのポスト・ミニマル・ミュージック――『Kankyō Ongaku』で注目を集めた作曲家の軌跡 (門脇綱生)
60~80年代、海外に進出した日本のジャズ・ミュージシャンたち (小川充)
〈イースト・ウィンド〉設立50周年──和ジャズが世界水準にあることを証明したレーベル (小川充)
いま気になっている和ジャズ──富樫雅彦『スピリチュアル・ネイチャー』を聴く (増村和彦)
「レコード好きにとって美味しいものでありたいんです」──ロンドンでリイシュー・レーベルを営むケイ鈴木に話を訊く (取材:野田努)
続・和レアリック (松本章太郎)

「灰野敬二」が生まれるまで──灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第4回 (文・写真:松山晋也)
ブライアン・イーノとホルガー・シューカイの共演ライヴがいま蘇る──90年代のイーノ、あるいは彼にとっての作品の価値とは (野田努×小林拓音)
VINYL GOES AROUND PRESENTS そこにレコードがあるから 第4回 コンピレーションの監修と『VINYL GOES AROUND PRESSING』始動!! (水谷聡男×山崎真央)

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