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interview with Jon Hopkins

interview with Jon Hopkins

美しき免疫体──ジョン・ホプキンス、インタヴュー

木津 毅    翻訳:Hikari Hakozaki   May 23,2014 UP

 アリス・シーボルド原作、ピーター・ジャクソン監督の映画作品『ラブリーボーン』は、14歳で殺された少女が天国から事件の顛末と家族の行く末を見守るといったもので、その天国で流れていたのが、ブライアン・イーノ、レオ・エイブラハム、そしてジョン・ホプキンスの共作によるスピリチュアルなアンビエントだった。何か禍々しいことが起きたとして、それはもう「済んでしまった」世界。そんな風景に、ブライアン・イーノの正統な後継者のひとりだと言っていいだろう……ジョン・ホプキンスの音響はよく映える。


Jon Hopkins
Immunity

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 南ロンドン出身で10代からのキャリアを誇るジョン・ホプキンス。名前が表に出てくるまではやや時間がかかったが、すでにそのサウンド構築において堂々たる風格を携えている。イーノとのいくつかの共作を経て、海外で昨年発表されたソロ・アルバム『イミュニティ』が高く評価されたのは、その研ぎ澄まされた工学的なサウンド・デザインによるものだろうが、それはどこか俗世間を超越するような聖性を帯びているように聴こえる。『ラブリーボーン』以外にも映画音楽を手がけているホプキンスだが、彼の音楽は世界が滅びてしまったあとの世界、そこで溢れる光とともに響くかのようなイメージ喚起力を持っている。
 アルバムはインダストリアルな風合いすらある攻撃的なビートを持ったテクノが並ぶ前半と、どこまでも静謐なアンビエントが聴ける後半にはっきりと分かれているが、その構成も含めて非常に緻密に完成されたものとなっている。間違っても「トラック集」といった雑多なものではなく、厳格な美意識によって統制されていることがわかる。イミュニティ……免疫、抗体、ひとを危害から庇護するもの。その音だけが聞こえる世界、だ。

■ジョン・ホプキンス(Jon Hopkins)
1999年に『Opalescent』でデビューし、コールドプレイ『美しき生命』への参加やブライアン・イーノとのコラボレーション、映画のサントラなど幅広く活動をつづけるロンドンのプロデューサー。通算4枚めとなるオリジナル・アルバム『イミュニティ』には、マーキュリー・プライズ2011にもノミネートされたスコティッシュ・シンガーソングライター、キング・クレオソートもゲスト・ヴォーカルとして加わり、名立たる音楽メディアが年間ベスト・アルバムとして挙げている。


新作『イミュニティ』は『インサイズ』から5年ぶりのソロ・アルバムとなりますが、その間、サウンドトラックやプロデュース、コラボレートなどさまざまなプロジェクトに関わっていましたよね。とくに映画音楽などは、あなたの音楽スタイルに非常に合っているように思えて、そういった方向に力を注ぐのかなとも思ったのですが、そうではなくてジョン・ホプキンス名義でソロ・アルバムを出そうと思ったモチヴェーション、入り口はどのようなものだったのでしょうか?

ジョン・ホプキンス(以下、JH):4年だよ。いや待った、そうだいまは5年経つね。ふたつのアルバムの間隔は4年のはずだよ。いずれにしろ、自分ではすごく長く感じるけどね(笑)。
 サウンドトラックを作るのは楽しいよ。ある意味ではアルバムを作るよりもラクだしね。自分のアルバムを作るときは新しいサウンドを生み出すために時間をかけて試行錯誤できるのに対して、映画音楽を作るときっていうのは、1ヶ月のあいだに24曲とかを書かなきゃいけないから、集中してかなりのスピードで仕事をこなさなきゃならないんだ。あまりいろいろ試している時間はなくて、20時間くらいずっと続けて作業をしたりするのはとても興味深い心理状態だよ。映画のサウンドトラックもこれからももっとやりたいと思っている。いままでやった3つの映画はどれもかなりタイトなもので、1ヶ月から1ヶ月半くらいのあいだに仕上げなきゃいけなかったから、ソロの活動が落ち着いたらもっと大きな映画の仕事もやって、オーケストラを使ったサウンドトラックとかもやってみたいね。いままでは自分ひとりでやるものばかりだったから、さらに手を広げて他の人たちといっしょにやってみるっていうのはいいアイデアだと思うんだ。
 ソロ・アルバムを作ろうと思ったっていうか、もともとアルバムを作ることはいつも最優先事項だったんだ。正直なところ、このアルバムの前はいまほどソロが上手くいっていなかったから……(笑)。もし2001年に最初のソロ・アルバムがヒットしていたら、こんなにいろいろなプロジェクトには関わらなかったんじゃないかと思うよ。だから、そうならなくてよかったと思っているんだ。おかげでいまはいろいろな選択肢ができたしね。最初にプロデュースやサウンドトラックの仕事をやりはじめたのは、それが必要だったからっていう部分が大きいよ。それが結果的にいい経験になったし楽しかったけれど。でもどれも、自分自身の作品を作る自由さや高揚感とか、自分自身の考えを思索する感覚とは比べ物にならないよ。それに、複数のプロジェクトを同時進行で進めるのは、何人もちがう自分がいるようで疲れる部分もあるんだ。

本作のリリースに際して、あなたはライヴを念頭に置いたと説明していました。たしかにこれまでもあなたの楽曲にはビートはありましたが、本作の、とくにアルバム前半においてのビートのパワフルさには驚かされます。何かきっかけはあったのでしょうか?

JH:いや、それはちょっとわからないな……。あまり作るトラックについて深く考察はしないんだ。作るときは直感に従っているからさ。年をとるにつれて、先にいろいろ考えたり計画しないほうがいいものができるってわかってきたからね。ここでこういう考えを表現しよう、とか考えはじめると、なんだか堅いものになってしまうから、たまたまそのときに浮かんできたビートがそのまま音楽に現れるっていうのが自然でいい方法だよ。それに、この一つ前のアルバム(『インサイズ』)のツアーをしていたときに、ヒプノティックでテクノ寄りの音楽に傾倒するようになったから、それも反映されていると思う。

この一つ前のアルバム(『インサイズ』)のツアーをしていたときに、ヒプノティックでテクノ寄りの音楽に傾倒するようになったから、それも反映されていると思う。

アルバムは前半と後半ではっきりとムードが分かれています。とくに、強いビートが続く“コライダー”から、“アバンドン・ウィンドウ”の最初のピアノの1音で見える景色をガラっと変えてしまう展開には引き込まれます。このような構成にしたのはなぜですか?

JH:ふたつのもののコントラストがリスナーに与える影響っていうものにすごく興味を惹かれるんだ。最初に、ほとんどやり過ぎなくらいにひとつのものを続けて、その後でそこから別なものへと解放するっていう風なものさ。“コライダー”なんてとくに、10分近くひとつのベース音が繰り返されるんだけど、あれはあえて長過ぎるくらいにしたんだ。そのあとに“アバンドン・ウィンドウ”のリズムのない、シンプルさによる解放感が来ることで、まさにまったくちがう場所に送られてしまったような感覚を生み出したかった。それに、どちらのトラックもある種の物悲しげな雰囲気があるけど、その物悲しさがそれぞれ真逆の方向性から来ていて、一方は終末感のある、エネルギーに溢れたもの、もう一方はアンビエントでメランコリックな、もの思わしげな悲しさになっている。ここがアルバムの重要な分水嶺になっているんだ。それに、こんな10分も続くテクノ・トラックのあとに5分のピアノ曲が入ってくるアルバムを他に知らないから、まだあまり誰も冒険してみたことのない領域なんじゃないかとも思ったんだ。

シングル2枚、“オープン・アイ・シグナル”、“ブリーズ・ディス・エア”がアルバム前半の強力なフックとなっています。これらではミニマル・テクノや2ステップ、あるいはダブステップに近いビートなどが聴けますが、あなたが最近肩入れしているクラブ・ミュージックのシーンはありますか? また、それがこのアルバムに影響したところはありますか?

JH:正直とくにないよ、そもそもクラブ自体、自分がプレイするとき以外に行くことはないからね。もちろんそういうときにクラブ・ミュージックには触れるし、そこでところどころ吸収するものはあるけど、僕はDJでもないし家でそういう音楽を聴くこともないんだ。もちろんプレイするためにクラブに通いつづける時期もあるけど、自分から積極的にクラブに行って遊んだりするタイプじゃないよ。

通訳:では、家では普段どんな音楽を聴くんですか?

JH:家で聴くのは、もっと歌っぽいものや昔のもの……昔のブライアン・イーノのアンビエントでリラックスできるような音楽とか、自分の作曲のモードから解放させてくれるようなものだね。残念なことだけど、ミュージシャンになってからは音楽の使い方が変わってしまうというか、音楽が新しいものを見つけるためのものじゃなくて、僕の場合は作曲から離れて、仕事モードから解放されるためのものになってしまった。バンドの音楽なんかも聴くよ。もちろん好きだからだけど、自分の音楽とちがうからっていう理由もある。

通訳:クラブに自ら行かない、というのも仕事モードから離れたいから?

JH:いや、必ずしもそういうわけじゃなくて、僕もいま34歳になって……べつに年齢がクラブに行かない理由になるわけじゃないけど、一晩中クラブに入り浸ったりする時期は過去10年間ほどで充分すぎるほどに経験したからさ。まあそれになんだかやっぱり、仕事場に来ているのに仕事してない、みたいな気分になるしね(笑)。歳を取るにつれて、もっとちがったものに興味が出てきたと思う。とはいえライヴをする上で、人々がどんなものを聴きたがっていて、どうすれば自分のセットを楽しみやすいものにするかを考えるためにもクラブに行くことは必要だし、そもそも僕はいまでも毎週クラブにいるよ(笑)。

質問作成:木津毅(2014年5月23日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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