Home > Regulars > Tanz Tanz Berlin > #2:ダニエル・ベルとの対話
いまはレーベルすら介さずに個人がリリースできてしまうからね、デモがそのまま出てしまっているようなものも多い。さっきのコンピューターの話と重なるけど、何事も選択肢が増えれば増えるほど、クオリティは下がっていってしまうんだよ。
あなたの音楽を評価してくれるオーディエンスもヨーロッパのほうが多いんじゃないですか?
ベル:それはどうかな。たしかにUSは数で言ったら少ないけれど、とても熱心な人たちが多い。それにヨーロッパのように毎週大量のパーティがあるわけじゃないから、いいパーティーがあると本当に楽しみにしてくれる。それはそれでとてもいいものだよ。でもたしかに規模は小さいから、例えば2ヶ月アメリカに滞在して各都市でパーティをすると、1年間は次のオファーがない。それほどたくさんのクラブがあるわけじゃないし、お客さんがいるわけでもないからね。そこがヨーロッパとは違うね。
先ほどご自分でも触れていましたが、長いあいだプロダクションのほうはお休みしていますよね。いまはDJにフォーカスしようと考えているんですか?
ベル:そうだね、いまはDJにフォーカスしたいと思ってる。レコーディングしたい気持ちもすごくあるんだけど...... 曲の制作はずっと続けているんだけどね、レコードにしたいと思うほどきちんと完成させられたものがない(笑)。でもいつも新しい曲のアイディアはあるし、実際に作ってみてはいるんだ。ここ5年ほどはDJスケジュールをこなすのに忙しかったし、さっきも言ったように、DJとしてのベストを尽くしたいと思っているから、制作には集中できていない。それに、自分でレコードにしてもいいと思えるようなものが出来たときに限って、間違えてデータが消えてしまったり、スタジオの不具合があったり、何かハプニングが起こるんだ(笑)。僕、何かに呪われているみたい(笑)。
音楽的にはどういったものを制作しているんですか? 言葉で説明するのは難しいかもしれませんが。
ベル:うん、難しいな。ただ僕はいつもシンプルなものを作ろうとしている。複雑にならないように。その点ではいままで作って来たものと変わらないよ。そういう一貫性が僕にとっては大事だから。あとは、古い機材を中心に使っているかな。ドイツに来たばかりの頃は、ソフトウェアに凝った時期もあったんだけど、あるとき「あまり好きじゃないな」と気がついて(笑)。いまのほうがしっくり来ているね。これまで僕が作って来たものから飛躍のないものが作れるから。
ヴァイナルなんて時代遅れだという人もいるけど、僕が作りはじめた頃からすでに廃れたメディアだった。80年代後半には、すでにCDが主流になっていたからね。その頃からすでにカルトなものだったんだ。一部の人たちだけの、秘密の道具というかさ。とくにデトロイトでは、特別なものだった。レコードに関わっていることは、特別な世界に関わっていることだったんだ。
DJもヴァイナルでやっているんですよね? 他の手段を使おうと思ったことは?
ベル:試してみたことはあるよ。DJソフトが出てきたばかりの頃は試してみたし、実際に現場で使ってみたことも何度かある。でも結局は、あまり面白いと思えなかった。僕の好みの問題だね(笑)。DJにしても、制作にしても、コンピュータを使うと、あまりにもできることの選択肢が多すぎるんだ。僕の場合は、選択肢がある程度限られていたほうが、自由を感じる。だからいまは制作も少ない機材しか使っていない。その機材でできることを最大限に引き出したいと思う。ヴァイナルでDJするのも同じ理由だ。あとはヴァイナルの音がやはり好きだしね。それに、DJには他のDJがかけない曲、持っていない曲を「ディグる」という使命がある(笑)。それをやるにも、ヴァイナルの方が面白いものが発見できるよね。まだまだデジタル化されていない曲はたくさんあるから。
でも無数にあるデジタル・ファイルのなかからも、いい曲を「ディグる」ことは出来るんじゃないですか?
ベル:たしかに。でも、その二つを比較すると、やっぱりヴァイナルの方がより面白いものが発見出来るよ。デジタル・オンリーのリリースよりもね!
そうでしょうね(笑)。いまはヴァイナルにするコストが割高な分、ヴァイナルになる曲のクオリティーはかなり保たれていると思いますから、ヴァイナルを中心に聴いた方がいいものに出会えるかもしれません。
ベル:実際のところ、毎週リリースされるヴァイナルをチェックするだけでもすごい時間がかかるのに、それ以上聴くことはできないよ。デジタルはさらに量が多いし、それらをフィルターするものが何もない。かつてはデモをレーベルに送って、そこで認められたものがリリースされていたけど、いまはレーベルすら介さずに個人がリリースできてしまうからね、デモがそのまま出てしまっているようなものも多い。さっきのコンピューターの話と重なるけど、何事も選択肢が増えれば増えるほど、クオリティは下がっていってしまうんだよ。いまはヴァイナルなんて時代遅れだという人もいるけど、僕が作りはじめた頃からすでに廃れたメディアだった。80年代後半には、すでにCDが主流になっていたからね。その頃からすでにカルトなものだったんだ。一部の人たちだけの、秘密の道具というかさ。とくにデトロイトでは、特別なものだった。レコードに関わっていることは、特別な世界に関わっていることだったんだ。機材だってそうだよ、僕らが使っていたものなんて、既に誰も見向きもしないような時代遅れのものだった。今はみんなが大金を積んでそういう古い機材を買うけど、当時は捨てられてしまうようなものだったんだ。だからこの文化は常に、「古いものを使って新しいものを作り出す」ことが全てなんだよ。僕はその考え方が好きなんだ。そこに惹かれた。だから、それを変えることはないと思う。
最後に月並みな質問ですが、DJとして、いま面白いと思うアーティストやシーンはありますか?
ベル:こういう質問はいつも答えるのに困るんだよな。いま何か言っても、半年後には興味が無くなっていたりするから(笑)。でもね、実のところ10年前、15年前から買っているのと同じアーティストのレコードをいまも買っていることが多い。最近デトロイトの、すごいベテランの人たちがまたいい作品を出しているね。僕にとってはすごく嬉しいし、インスピレーションになる。僕のさらに上の年代の人たちが、いま素晴らしい作品を出している。
例えば?
ベル:デラーノ・スミスやノーム・タリーといった人たちだよ。彼らは僕が曲を作りはじめた頃から活躍していたオールドスクーラーだからね。
そういえば、少し前にデリック・メイにインタヴューしたときもデラーノの話をしていたんですよ。高校生のときに衝撃を受けたハイスクールDJだったって(笑)。私はわりと最近の人なのかと思っていたんですが。
ベル:そう思うのも無理はないよ。だって、僕も彼がレコードを出していたなんて記憶がない。多分、プロデュースは結構最近始めたことなんじゃないかな。でも素晴らしい。これほど長く音楽に関わっている彼らのような人たちが、いまとてもクリエイティブでユニークな作品を作っていることはとても励みになる。