「Nothing」と一致するもの

Common - ele-king

 デビューからすでに四半世紀以上のキャリアを重ねながら、いまなおヒップホップ・アーティストとして意欲的な作品をリリースし続けている Common。特に Karriem Riggins との強固なタッグによって制作された、2016年リリースの前作『Black America Again』以降の動きは凄まじく、『Black America Again』の延長として Karriem Riggins と Robert Glasper と組んだスーパーグループ、August Greene 名義でのアルバムも、昨年のUS音楽シーンを代表する素晴らしい出来であった。『Black America Again』は、大統領に就任したばかりのドナルド・トランプに対する強烈なメッセージが込められ、コンシャス・ラッパーとしての自らの姿勢を改めて提示した Common であったが、『Let Love』というアルバム・タイトルが示す通り、通算12作目となる本作のテーマはストレートに「愛」だ。

 前作同様に Karriem Riggins がメイン・プロデューサーを務めているが、アルバムの先行シングルであり実質上のメイン・トラックである“HER Love”のみ故 J Dilla がプロデューサーとしてクレジットされている。「her」を敢えて大文字で表記していることからも分かるように、この曲は Common のクラシック中のクラシック“I Used To Love H.E.R.”の続編(正確に言うと、2013年に発表された J.Period のプロデュースによる“The Next Chapter (Still Love H.E.R.)”に次ぐ続々編)となっており、今年亡くなった Nipsey Hussle を筆頭に Kendrick Lamar など様々なラッパーの名前を交えながら、ヒップホップに対する愛をラップしている。Common にとって、この曲に最もふさわしいプロデューサーが個人的にも関わりの深い J Dilla であることは間違いないが、J Dilla の未発表のビート集である『Dillatronic』からピックアップされたトラックが実に見事に曲のテーマともマッチしており、まるでこの曲のために作られたかのような錯覚すら覚える。

 サンプリングによって作られた“HER Love”に対して、Karriem Riggins が中心となって作られた他の曲はサンプリングと生楽器とのバランスが実に絶妙だ。『Black America Again』や August Greene の流れの延長上ではあるのだが、Common のラップとのコンビネーションも含めて、作品を追うごとにそのサウンドはより洗練されたものになっており、ヒップホップというアートフォームの中のひとつの方向性としては、究極の域にすら達しているようにも感じる。BJ The Chicago Kid や Swizz Beatz、Jill Scott、A-Trak などを含めて、有名無名揃ったゲスト・アーティストも見事なスパイスと機能し、ときにハードにソウルフルにスウィートに、アルバムのテーマ性をそれぞれの方法で表現豊かに膨らませている。

 本作を聴いて改めて思うのが、ラッパーとしての Common の絶対的な普遍性だ。おそらく、今から25年前にリリースされたセカンド・アルバム『Ressurrection』から、Common のラップのスタイルというものは大きくは変わってない。メッセージ性はより強くなってはいるが、コンシャスというベースの部分は同じで、さらにフロウに関しては Common が得意とするパターンというのはすでに初期の時点でほとんど完成していたようにも思う。しかし、本作のラップを聴いても、そこに古さは感じられず、より研ぎ澄まされたことによって、いまが彼にとっての最高点とすら感じられるから驚きだ。

 本来はユール・カルチャーであるヒップホップだが、ベテランである Common だからこそなしえる、新たな景色をこれからも見せてくれることを期待したい。

Fatima Al Qadiri - ele-king

 セネガル生まれ、クウェイト育ち、最近はベルリン在住だというファティマ・アル・カディリは、これまで〈Hyperdub〉から『Asiatisch』『Brute』「Shaneera」と立て続けに素晴らしい作品を送り出してきたプロデューサーである。架空のアジア、警察の暴力、アラブのクィアと、毎度しっかりテーマを練ってくるタイプのアーティストだが、その次なる一手はどうやらサウンドトラックのようだ。
 今回彼女がスコアを手がけたのは『Atlantics』という、今年のカンヌ国際映画祭でグランプリ(審査員特別賞)に輝いたフィルムで、建設労働者の青年に思いを寄せる少女の恋物語が描かれている。監督はセネガル系のマティ・ディオップで、今回が初の長編作品。ファティマによるサントラは11月15日に発売、映画のほうはネットフリックスにて11月29日より公開される。現在、同サントラより“Boys In The Mirror”が公開中。

Fatima Al Qadiri - Boys In The Mirror

Atlantics - Trailer

artist: Fatima Al Qadiri
title: Original Music From Atlantics
label: Milan / Sony Masterworks
release: 2019/11/15

tracklist:
01. Souleiman's Theme
02. Ada And Souleiman
03. Qasida Nightmare
04. Yelwa Procession
05. Wedding Interlude
06. 10-34 Reprise
07. Qasida - Sunset Fever 1
08. Alleil
09. Suñu Khalis
10. Qasida - Sunset Fever 2
11. Boys In The Mirror
12. Souleiman's Theme - Issa Against The Sun
13. Body Double

special talk - ele-king

 今週末の10月12日、渋谷 CONTACT にてジャイルス・ピーターソンの来日公演が開催される。もしかするとこれは今年もっとも重要なパーティになるかもしれない。ジャイルスのプレイが楽しみなのはもちろんではあるが、それ以上に注目すべきなのは、90年代から日本の音楽シーンを支え続け、昨年現行のUKジャズとリンクする新作を送り出した松浦俊夫と、日本の現状を変革しようと日々奮闘している Midori Aoyama、Masaki Tamura、Souta Raw ら TSUBAKI FM の面々との邂逅だ。さらに言えば、GONNO × MASUMURA も出演するし、Leo Gabriel や Mayu Amano ら20代の若い面々も集合する。ここには素晴らしい雑食があり……つまりこの夜は、いまUKでいちばんおもしろいサウンドが聴ける最大のチャンスであると同時に、ジャンルが細分化し、世代ごとに分断されてしまった日本の音楽シーンに一石を投じる一夜にもなるかもしれないのだ。20代も50代も交じり合う奇跡の時間──それは最高の瞬間だと、松浦は言う。というわけで、今回のイヴェントを企画することになった動機や意気込みについて、松浦と青山のふたりに語り合ってもらった。

[10月11日追記]
 10/12(土)開催予定だった《Gilles Peterson at Contact》は、台風19号の影響により、中止となりました。詳細はこちらをご確認ください。

いまの音楽を追わなくなった人がすごく多い。懐かしいものに帰ろうとしている傾向がある。90年代の音楽を聴きなおすことも大事だけど、いま自分たちが生きているなかで、日々たくさんのフレッシュな音楽が生まれていることは事実。 (松浦)

10月12日にジャイルス・ピーターソンの来日公演があります。松浦俊夫さんとともに青山さんたちも出演されます。自分たちの世代と松浦さんの世代を橋渡ししたいというような考えが青山さんにはあったんでしょうか?

Midori Aoyama(以下、青山):そうですね。松浦さんがジャイルスのパーティをオーガナイズすることを知ったので手をあげました。自分もジャイルスが紹介している音楽をかけているDJのひとりだし、ラジオもずっと聴いていますし。TSUBAKI FM というラジオをはじめて、いままでハウス・ミュージックをやっていたところから、少しずつ広がっていくのをこの2年間で肌で感じたんです。こういうタイミングがきて、自分のなかで「いまかな」と思って。もし縁があればおもしろいことができるんじゃないかなと思いました。

松浦俊夫(以下、松浦):もちろん青山さんのお名前は知っていましたけど、実は今回の件で初めてお会いしてお話したんですよね。

青山:以前何度かご挨拶だけはさせてもらったんですが、そのときは自分の音楽について話すということもなかったですし、松浦さんと深く時間をとって話すことはなかったので。この対談はお互いの考え方とか意見を交換する貴重な機会だと思っています。

松浦:日本ではジャンルとか世代が、いままでバラバラだったところがあって。シーンが細分化されて、それぞれがそれぞれの細かいところにいて、全体として勢いを失った印象です。UKのシーンのおかげかわかりませんが、またジャンルが関係ないところで音楽がひとつのところに寄ってきているのをここ何年か感じています。ジャンルとともに世代もつながっていることをヨーロッパには感じていたんですけど、日本では自分たちは自分たちみたいな感じなので、どうそこを突破していこうかなということを数年悩んでいたんです。青山さんみたいにある意味でアンビシャスがある人たちが日本にはちょっと少ないかなと。今回の企画はそれぞれの叶えたいこととともにシーンのことを考えてもっとジャンルと世代を関係なくつなげていこうというところでひとつになっているなと思います。今回一緒にやるという意義をそこにすごく感じています。

それぞれが叶えたいこととは?

松浦:世代を超えたいというところ。50歳を超えてクラブに来る人も当然いるけど、90年代にクラブだったり、音楽にどっぷりつかった生活をしていた人たちって、社会に出たり、家庭ができたりで、いまの音楽を追わなくなった人がすごく多い。懐かしいものに帰ろうとしている傾向がある。学生時代に聴いていた90年代の音楽を聴きなおすことも大事だけど、いま自分たちが生きているなかで、日々たくさんのフレッシュな音楽が生まれていることは事実。それを味わってもらうために自分はDJとして選曲家として、クラブやその他のメディアで活動をしているつもりです。
 さらに若い人たちにジョインしてもらうためにはある程度降りていかなきゃいけないなと思っている。自分はどんどん濃くしていきたいんだけど、これを薄めて若い人たちにつなげていくというのは、自分的には違うから、若い人も巻き込んでいくやり方がいいんじゃないかなって思います。それがうまくできているのがUKのシーン。そのスペシャリストがジャイルスなのかなという気がする。イギリスだけじゃなくて、ヨーロッパでも、自分が手掛けてない音楽も含めてひとつにまとめてくれる、それが彼の感覚のすごさですよね。これをなんで日本ではできないのかという葛藤があっただけに、今回こういう機会を作ってもらえたので彼の手を借りて、みなひとつにするチャンスだと思っています。

降りていくというのは、キャッチーな曲をかけるとか?

松浦:そういうことですね。これは音楽だけではないと思うけど、ちょっと難しくなると暗いとか。それは昔から変わらないですよね。かといってマイナーなことが格好いいかというとそうでもないと思う。誰も聴いたことがないプライヴェート・プレスで、アルバムで3000ドルくらいしますみたいなものでも、聴いてみると別にそんなすごいアルバムじゃない。そうではなくて、聴いたときに誰の何かわからないけど、これっていいよねということをシェアできるようにしなきゃいけない。ここ数年でイギリスのシーンが動き出したことでライヴ・ミュージックとしてミュージシャンが作る音楽とクラブで完結していたダンス・ミュージックが、やっと30年くらいかかってひとつになった。それは人力テクノとかではなくて、これこそオルタナティヴな音楽が生まれる瞬間なのかな。これは日本にも当然余波として来るべきですね。90年代のレアグルーヴだったり、アシッド・ジャズの流れで東京からいろんなユニットやバンドが出てきたように、東京からももっと出てくるタイミングじゃないかなと思っています。

パーティやDJを10年間くらい続けてきて同世代には広げ切ったという感じがあった。次何をするかとなったら、若い人と何かやるか、上の世代とやるしかない。松浦さんやジャイルスのお客さんにも自分たちのやっていること、自分の実力を証明したい。 (青山)

青山さんの野心は?

青山:僕と松浦さんって音楽的にリンクしてないって周りの人は思っている。これが伝わっていないことが自分のなかのジレンマです。松浦さんはジャズ、僕はハウスというイメージで完全に分かれている感じ。でも松浦さんがラジオで、僕が Eureka! でブッキングする外国人DJをプッシュしてくれていたことは知っていたし、ありがたいなと思っていました。
 パーティやDJを10年間くらい続けてきて同世代には広げ切った、自分のなかではつながれるところはほとんどつながった、やりたいクラブでも全部やったし、呼びたい海外DJも呼んだし、自分のやりたいパーティもやって、なんか終わったなという感じが正直あった。次何をするかとなったら、若い人と何かやるか、上の世代の人と何かやるしかない。世代、環境、性別、国とかを超えて何かもっと強く発信していかなきゃいけないなと思っていたんです。そのなかで自分がいまいちばんおもしろいなと思っているシーンはUKのジャズ・シーンだったり、UKのハウスだったりするんですね。だからこそ松浦さんとやるということはひとつのカギだったし、松浦さんやジャイルスのお客さんにも自分たちのやっていること、自分の実力を証明したいなと思っている。全然ダメじゃんと言われたらそこまでですけど(笑)。
 一回背伸びしてチャレンジするいいタイミングかなって思っています。いまの自分たちに何ができるのか。どういうものを知ってもらえるのかというのをこっちから表現して、松浦さんやジャイルスの世代のひとたちが、もっとこうしたほうがいいとか、こういうのが足りないと思ってくれるのならそれを取り入れて改善したい。最終的にはもともと自分が持っているハウスとかテクノのコミュニティにも刺さったらいいですね。そもそもジャイルスのイヴェントに自分たちが出てくるということ自体雰囲気的にハテナな人もいると思う。とくに今回のラインナップで言うと、Masaki (Tamura) 君とかは納得いくけど、Souta Raw はディスコだし、ジャイルスとどこがリンクするの? みたいな話になる。でもやっている本人たちはそんなことないんです。ジャイルスがかけているディスコとかファンクとか、彼が紹介しているハウスとかにすごくインスパイアされている。そこはもう少し目に見えるかたちで、身体で感じられるレヴェルで表現したいと思った。それが今回いちばんやりたいこと。

松浦:自分は意識していないけど、寄り付かせない何かをまとっている部分があると思うんです。だから、実際に大きな音で聴いてもらって、みんなが思っているジャズだけというイメージとは違うということをわかってもらえるといいですね。聴いたことない人たちにも、今回青山さんがお手伝いしてくださることによって集まってくれた人たちにも届けることができたらお互いに新しいお客さんを巻き込むことになる。これがうまくいけばその次もあるんじゃないかなって思う。

いまのUKでいちばんおもしろい音を聴けるチャンスですよね。UKのジャズのおもしろさは雑食性、ジャズの定義の緩さというか、新しいビートを取り入れることなわけですから、今回のパーティはまさにその雑食性を表現しているように思います。

松浦:そうだと思いますね。たぶんジャズをやろうとしてはいないんじゃないかな。ジャズというフォーマットのなかで勝負するのであればアメリカに行ってアメリカのなかでジャズをやると思う。新しいものを生み出すということのなかで、あえてジャズにしようとしていないのはたぶん意図的にやっているんじゃないかな。

アシッド・ジャズのときも、あれはジャズではないですよね。

松浦:また30年くらいたったときにやっていることは違うけど、ムードが近い雰囲気になってきているなと思いますね。ちょっと遅れて日本に届いてくる感じもあのときの感じに近い。やっとここで動くんじゃないかなという期待が今回のイヴェントにある。いちばん若い子だと Leo (Gabriel) 君ですね。

青山:あとは Mayu Amano ちゃんという一緒に TSUBAKI FM を運営してくれている彼女も20代前半ですし。

松浦:プレイする方も混ぜたいけど、お客さんにも混ざってほしいな。90年代に yellow というクラブがあて、21時オープンで5時まで Jazzin’(ジャジン)というレギュラーをやっていたんですけど、21時から0時くらいまでではサラリーマンとかOLの人たちでひと盛り上がりして、2時くらいから六本木の水商売の人がやってきてまた盛り上がるという二段階。それが交わる瞬間が0時から2時くらい。そのとき交じり合っている世代は50代から20まで。そういう景色を見るとやっぱり音楽ってすごいんだなって思いますよね。ジャンルとか、年齢みたいなものがぐちゃぐちゃになっていてみんな楽しそうにしている景色を見るのは最高の瞬間ですよ。

青山:yellow のときの状況はすごかったと思うんです。僕が20とかのときに最後の yellow に行っていたから僕のクラブの初期衝動はあの場所が大きい。自分でこういうパーティをつくりたいというイメージはけっきょく遊んだときのもの。年齢の垣根を越えている感じとか、熱量、あれが自分基準値になっている。

他のジャンルでも世代は固まっている気がしますね。

青山:だからこそ熱量のある空間をできる限りつくっていくというのが20代以上の世代の人たちがクラブとか音楽シーンに求められていることだと思うんです。そうやって下の世代に引き継いでいくことはすごく大事だと思う。
 松浦さんはご自分で発信している音楽とか、U.F.O.で昔やっていた曲とかが、いまの世代にまた伝わりはじめているなと感じることはありますか?

松浦:そうですね。なぜそうなったのかはわからないですけど。時代の周期みたいなものがあるのかな。その周期を見ながら、現在も新しいものをつくろうという気持ちは変えずにいきたいな。あと、自分で自分がやりたいことをできるような場を作るにはどうすればいいかということはつねに考えている。

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ジャンルとか、年齢みたいなものがぐちゃぐちゃになっていてみんな楽しそうにしている景色を見るのは最高の瞬間ですよ。 (松浦)

すごいなと思った最近のUKのジャズは?

青山:でもけっきょくヴェテランがいいなと思っちゃいますね。最近はカイディ・テイタムが好き。

松浦:アルバム単位というよりかは、自分の場合は曲単位で選んでいます。アシュリー・ヘンリーのアルバムとか、〈Sony〉が久々にああいうUKのアーティストを出してきたのはすごくおもしろい。ソランジュの曲をピアノでカヴァーしたり。ネリーヤ(Nérija)もそうだし。あとはポーランドのアーティストもすごくおもしろくなってきている。ジャズのなかでのせめぎあいではなくて、オルタナティヴ・ジャズのシーンみたいなものがあるとしたら、そのなかで勝負している感じが非常におもしろい。その方向性は人によってはアフロに寄ったり、カリビアンによったりする。ただストレートにどこかのジャンルに一直線に走っているわけではなくて、いろんな要素を加えながらそのアーティスト独自の表現を探そうとしているところがきっとおもしろいんだろうな。

イギリスにはジャイルスみたいな人が何人かいますよね。〈Honest Jon's〉みたいなレコード店だってそう。若い世代でいうと、ベンジー・Bがジャイルスの後継者になっている。イギリスにはこれがいい音楽だって言える目利きの文化みたいなものがありますよね。あとはブラック・ライヴズ・マターとか、人種暴動があったり、ヘイトクライムがあったりそういう世の中で、UKジャズが体現しているのは人種やジェンダーを超えたひとつのコミュニティ。それはいまの時代に説得力がある。

松浦:テロが起きたことと、コスモポリタンになったということがイギリスが強くひとつになれる理由なのかな。

やっぱり日本って借り物の印象がすごく強いと思います。どうしても外タレ崇拝みたいなところがある。ファッションもDJも全部そう。そこをまず変えていかなきゃいけないのかなという使命感があります。 (青山)

イギリスから音楽の文化が弱くなったように見えたためしがない。つねにみんな音楽が好きだし、いい曲が出れば「これいいよね」という会話が普通に成り立つような国だから。

松浦:アンダーグラウンドの場所が世の中にあるというのがすごいですよね。自分がいくつになっても自分の楽しみを続けていこうという姿勢は強いかな。

青山:イギリスって自国から生まれたものをすごく大事にする印象がある。やっぱり日本って借り物の印象がすごく強いと思います。どうしても外タレ崇拝みたいなところがある。ファッションもDJも全部そう。海外のカルチャーを受け入れてどう日本で消化させていくかということがこの20年~30年続いているなと思う。そこをまず変えていかなきゃいけないのかなという使命感があります。

松浦:そうですね。Worldwide FM をやっていて、日本の番組だから日本発の新しい音楽をできるだけ紹介したいし、ゲストも若い日本人の人を紹介したいんだけど、なかなか難しい。

青山:それは僕も正直ある。他のネットラジオなどを聴いていても、こんなに毎週毎月UKから新しいミュージシャンやアルバム、コンピレーションがガンガン出ているのに、日本からは1枚も出ない。もちろんアーティストのレヴェルの問題もありますけど、仕組み自体を変えないとダメだなと思う。UKが仕組みとしておもしろいのはジャイルスみたいな良い曲を判断してくれるキュレーターがいて、そういう音楽を発信するプラットフォームがあって、そこで曲を発信したいと思って作曲するアーティストが増えるという形で循環しているところ。ジャイルスだけじゃダメだし。アーティストがいるだけでもダメだし、ラジオがあるだけでもダメ。全部がはじめてひとつの輪になってグルーヴが生まれて、それがシーンになっていくと思うんですけど、日本にはそれがない。あるかもしれないけど、局地的だったたり、つながってない。そこをまずひとつにしていくという作業が次の10年で大事なのかなと思う。それを僕は TSUBAKI FM で体現したい。海外のラジオを日本でやろうとかということではなくて、日本オリジナルのブランドを作らないとどうにもならないなって。  さらにもうひとつはアーティストもレーベルも、ディストリビューションも日本になるといいですね。日本でプロモーションを世界に向けて発信して、世界で評価されるというところまでもっていきたい。それが次の日本の音楽シーンが目指す目標だと思う。それを目指すためのひとつのピースとして TSUBAKI FM だったり、もっとみんな真剣に考えて取り組まなきゃいけないなと思います。

松浦:それこそ90年代に『Multidirection』っていうのを2枚作りましたけど、そのくらい集めたくなるほど新しい音楽を生み出せる環境、インターナショナルで聴かせたいというものがもっと出てきてほしいな。もうちょっとグルーヴのある音楽で出てきてくれるといいな。でも巻き込んでいくしかないのかな。こういう音楽をつくっても出ていけるというふうに感じないとダメなのかな。

青山:そこはDJや僕らの仕事かもしれないですね。ここの曲のこういうところにグルーヴがあればかけられるんだよとか、使えるんだよなということを、アーティストに要求していく。日本にはレールもないし、アーティストに対して要求する人が全然いない。アーティストがこれが良いと思ったものをそのまま出しちゃっているから、そのアーティストの仲間は受け入れてくれるかもしれないけど、周りの人に伝わるかといったら伝わらないこともある。そこは第三者がディレクションをしてあげることでもっと深みがでると思う。なので、アーティストに対してDJとかプロモーターとかレーベルをやっている人が近づいて要求していくという作業も必要ですね。

松浦:流れができれば国内からも必然的に出しましょうという話になると思う。

青山:そういうことをやりたいという目標があるけど、それをちょっとずつ広げていくために今回のイヴェントはすごくいい機会です。松浦さんとお仕事ができただけで価値あることだと思う。

松浦:まだまだはじまったばかりだからね。僕にとっての大先輩、トランスミッション・バリケードというラジオをやられていたふたりと一緒にDJをやったとき、自分はここにいていいのかなくらいの緊張感があった。でも終わってから選曲がよかったと言ってもらえたので嬉しかったですね。この年でもまだ緊張感が生まれる先輩がいてよかったなと思う。逆にそういう関係性が世代を超えてできたらいいですね。年齢的に一回り以上年上の方でも新しい音楽を中心にプレイしようという意思が感じられたので、自分ももっとがんばらなきゃなと思いました。

(聞き手:野田努+小林拓音)

Gilles Peterson at Contact
2019年10月12日(土)

Studio X:
GILLES PETERSON (Brownswood Recordings | Worldwide FM | UK)
TOSHIO MATSUURA (TOSHIO MATSUURA GROUP | HEX)
GONNO x MASUMURA -LIVE-

Contact:
DJ KAWASAKI
SHACHO (SOIL&”PIMP”SESSIONS)
MASAKI TAMURA
SOUTA RAW
MIDORI AOYAMA

Foyer:
MIDO (Menace)
GOMEZ (Face to Face)
DJ EMERALD
LEO GABRIEL
MAYU AMANO

OPEN: 10PM
¥1000 Under 23
¥2500 Before 11PM / Early Bird
(LIMITED 100 e+ / Resident Advisor / clubbeia / iflyer)
¥2800 GH S Member I ¥3000 Advance
¥3300 With Flyer I ¥3800 Door

https://www.contacttokyo.com/schedule/gilles-peterson-at-contact/

Contact
東京都渋谷区道玄坂2-10-12 新大宗ビル4号館B2
Tel: 03-6427-8107
https://www.contacttokyo.com
You must be 20 and over with photo ID

第9回 銃口の前で踊り続ける - ele-king

 狂った夏が過ぎ、狂った秋が来た。私は人生で初めて「なぜ酌をしないのだ」と怒られ、動揺していた。
 酌をしろと叱ってきたのは私の恩師であった。恩師は自分に酒を注ぐように言ったのではなく、飲み会に同席していた別の人のグラスに自分の手が届かなかったので、私に注ぐよう指示をしたのだった。それを私が「絶対に酌をしないと決めているので」と言って断ると、冒頭の通りに怒ったのである。
 私は長いことこの先生にお世話になってきたが、怒られた経験はいっさいなかった。初めて怒られた驚きと、目上の人に強く何かを言われることへの単純な恐怖で、身体がうわっと固まった。酌はどうしてもしたくなかった。私は一滴も酒を飲まないし、飲み会は好きでも飲み会の規範はものすごく嫌いだ。どうして全員きっちり自分が飲みたいだけ自分で注がないのだろう? 注ぎ合いをやりたいならやりたい人どうしで勝手にすればいいが、コミュニケーションが飲酒量に影響する仕組みはどう考えてもよくない。その輪に加担させないでほしい。
 それに私は「女性が酒を注ぐ」表象になりたくない。酒飲みたちにとってはただ私が酒を注ぐのにちょうどいい場所にいただけであってジェンダーは関係ないのだと思われるのかもしれないが、私は自分の尊厳を傷つける文脈に自分から踏み入るような仕草は、意識できるかぎりにおいて絶対にしたくなかった。
 そういう思想を持ってはいたものの、私はほとんど反論できなかった。「なんで注がないの」と言われて「ジェンダーバイアスが……」と言ったところで「男女関係ないでしょう!」と言い切られ、それ以上喧嘩腰で話を続けるのも嫌だったので、私は黙って恩師から視線を逸らしたのである。勢いで泣きそうになったが、ここで泣くとよりいっそう面倒くさがられると予想されたのでどうにかこらえた。
 その間ずっと、「これってもしかして私が間違ってるのか?」と考えていた。目の前に怒っている人、それも普段怒らない恩師が怒ってそこに存在している状況は、はっきり言って怖いし気圧される。私は謝って酒を注ぐべきだったのだろうか? でも酌は絶対にしたくないし、「酌をすべき状況」が存在するとは全く思えない。焦った。自分が狂っているのか場が狂っているのかわからなくなる。混乱の一方で、私は別の人の言葉に自然な表情で相槌を打つことに腐心してもいた。機嫌の悪さを観測されるのも、それはそれで負けた気がして嫌だった。
 釈然としないまま帰りの電車に乗った。疲労したムードと弱い酒の匂いがただよう車内で日付を越した。最寄駅から家に向かってひとけのない道を行く。足取りは重い。
 「デューン」
 夜道で声を出す。最近やたらこういうことをやっている。飲み込めない現実があるとき、言語化しきれない何かを感じているときに、「デューン」「グワッ」「ウワーン」などとつぶやきながら手をわさわさ動かしたり虚空に向かってピースしたりする。あるいは道路をうねうね蛇行して歩いたりもする。誰も見ていない、耳をすませてもいない(と思いたい)のをいいことに、夜道の私は自由だ。それらのしぐさを繰り返すうちに、だんだん自分が何を感じていたのか理解できるようになってくる。意味のない言葉と意味のない動きによって、私は自分の腹の奥に溜まった違和感をじっくり腑分けしている。
 もしかしてこれは洗練されていないだけで、一種の「踊り」なのではないか、と気づいたのは、その翌日のことである。

 翌日に何をしたのか? 映画『永遠に僕のもの』(原題は「El Ángel」)を見た。1971年のブエノスアイレスを舞台に、カルリートスという17歳の少年が殺人や強盗を繰り返し、やがて破滅するまでを描いた物語だ。
 カルリートスは盗みの天才である。罪悪感を抱かずに何だって盗み出すし、盗品に対する執着もない。ただ押し入り、好きなだけ盗み、堂々と出てきて、盗んだものは他人にあげてしまう。もともとものが欲しくて盗んでいるわけではないのだ。カルリートスが窃盗を通じて求めていたのは、生の渇きを充足させてくれる何かであり、思うままに生きる自分を理解して人生を同道してくれる誰かだった。
 やがてカルリートスは通っている工業高校でラモンという青年に出会う。暴力的にちょっかいをかけたり盗品を贈ったりと、危なっかしい仕草で気を引こうとしてくるカルリートスをラモンは気に入り、ふたりはともに強盗に邁進することとなった。裏稼業を生業としているラモンの父母も加わって、盗みはより計画的で大規模なものに進化していくが、カルリートスの衝動はおさまらない。危険を冒して必要以上に盗み、殺さなくてもいい人を撃ってしまう。ラモン一家は大困惑だ。何がしたいんだこいつは! カルリートスはラモン一家に莫大な金をもたらしてくれる泥棒の天才だが、いつ何をしでかすかわからない制御不能の危険人物でもあった。
 このカルリートスと周囲の人間との「歩調の揃わなさ」こそが本題である。カルリートスはラモンに対して自分の無二の理解者になってくれるのではないかと期待していたが、ふたりの窃盗に対するスタンスはあまりにも異なっていた。「盗んでるんじゃない、生きてるんだ」というカルリートスのセリフが全てを物語っている。ひと財産築いたら裏稼業を畳みたいと考えているらしいラモンとは違い、カルリートスにとっては思うがままに奪うことそのものが生なのだ。そこに理由などない。自分が何を考えているのかもうまく言葉にできない子どもが、自分の衝動的な行動に命をかけることそのものを、シンプルに面白く思った、そればかりなのだ。「人のものをとってはいけない」やら「人を殺してはいけない」やら、「人間社会のしおり」なる冊子があったとしたら「はじめに」の次に書いてありそうな「ルール」を守る意味がわからなかっただけで。
 結局最後までこの溝が埋まることはない。いかに慕い続けていても思いは伝わらず、カルリートスは自分に同道できなかったラモンを車の事故に見せかけて殺してしまう。「マリリン・モンローみたいだ」と言われたこと、一度きりの短い抱擁、そして死の直前に眠るラモンのくちびるに指をつっこんだこと。ちょっとエロティックなだけのままならない思い出を抱えて、カルリートスは結局全て奪い去ったのだった。
 カルリートスはずっと孤独である。冒頭と最後、カルリートスはいずれも誰もいない家のど真ん中で踊っている。家といってもカルリートスの家ではなく他人の家だ。最初は盗みに入った無人の邸宅でレコードをかけながら、最後はかつてラモン一家が暮らしていた家──カルリートスがラモンを殺して以来、そこは廃墟と化している──のキッチンで、古びたラジカセをかけながら。曲は La Joven Guardia “El extraño de pelo largo”だ。思うがままに、しかし淡々と、カルリートスは自問自答するように踊っている。
 カルリートスは踊りながら、誰にも理解されなかった自分と自分を理解しなかった世界との距離を冷静に測っていたのだと思う。途方もない世界=敵を前にして、そのどうしようもなさに全身で浸かるのではなく、己の状態と立ち位置を手探りで考えていた。そりゃあ踊るよな。踊るしかない。現実という手に負えない泥をろくろにのせ、全身で迷いながらどうにか成形を図るとき、そのしぐさは間違いなく「踊り」なのだ。
 家の外を銃口が取り囲んでいる。

 ここ1ヶ月、世の中はいつも以上に狂っている。週刊ポストが韓国ヘイトを骨子にした特集を組み、内閣改造では女性蔑視発言やパワハラの実績ばかり立派な人たちが次々入閣し、文化庁が「表現の不自由展」を理由にあいちトリエンナーレへの交付金の給付取りやめを決定し、グレタ・トゥーンベリ氏の国連でのスピーチには「感情的だ」「大人に操られている」というダサい非難が集まり、日米貿易交渉では畜産関連の品目を中心に大幅な関税引き下げが決定された。その上これから消費税が上がる。明らかにおかしい。ここまでおかしいとわかっているのに、世の中はそのまま突き進んでいる。どうにか歯止めをかけなければならないと思いながら、ひとつの問題をじっくり考える暇もなく、また新しくクソみたいな状況が出現する。何か書かねばならないと思って Word を立ち上げたが、「殺してやる」と書いたきり続きが全く思い浮かばない。そういうことを連日繰り返していた。言葉がまるで出てこなかった。
 郵便受けに新聞が投函された音を聞きながら、こうこうとあかりをつけた部屋で、黙ってひとりでぐらぐらと揺れる。両腕をうねらせる。意味なく足踏みをする。この世に対する解像度が極端に下がった頭でこの世は敵だよなあ、最悪の敵だ、と思いつつ、それでもどうにか己の閾値を下げるための踊りだ。部屋の外側の時間の流れとは違う、他の誰とも共有していないリズムにひとり身を置くことで、落ち着きを取り戻す努力をする。私の時間は私のものだ。抵抗しなくては。できうる限り現実的に。

ジョン・ウィック:パラベラム - ele-king

 何年か後にはオタクの山ができていそうな映画である。いや、もうすでにできているかな。その山に登らず、どこに山があるのかだけを考えたい。山の一部をなしているのは『燃えよドラゴン』で、「鏡の部屋」って『ローマの休日』が起源かなーなどとも言い放ってはみたいけれど、返り討ちに会うのが関の山なので、黙って『徹子の部屋』でも観ていよう。今日のゲストは高嶋ちさ子かな……

 シリーズ3作目なので、これまでのあらましを多少は述べないといけないだろう。ニューヨーク中にいる殺し屋がジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス)を狙い、果たして彼らの手をすり抜けてアメリカから脱出できるのか……というところで『チャプター2』(17)は終わってしまい、そこからいきなり『パラベラム』は始まるし。こんなTVドラマのように続く映画もないぜとは思うものの、観てよかったなーと思うから『ジョン・ウィック』シリーズは侮れない。「ミレニアム」とか「メン・イン・ブラック」も全部観ちゃったけどさ。

 ジョン・ウィックは恋人を失い、彼女の死後に形見として子犬が届く。ガソリン・スタンドでガンをつけてきたチンピラたちがジョン・ウィックの家を襲い、犬を殺し、彼の愛車フォード・マスタングを奪っていく。殺し屋稼業から足を洗っていたジョン・ウィックは復讐のためにやむなくカム・バック。チンピラは実はロシアン・マフィアを牛耳るボスの息子で、ジョン・ウィックとロシアン・マフィアは全面戦争に突入していく。ハリウッドが遠ざかりつつあった暴力表現がこれでもかとテンコ盛りになっているだけでなく、復讐というモチーフや鬱蒼とした音楽の被せ方、そしてフィルターをかけっぱなしにした映像など、1作目は明らかに韓国ノワールの影響を感じさせる。ここ数年、ハリウッドの代わりにヴァイオレンスで客足を引きつけた韓国映画やスペイン映画が「ジョン・ウィック」シリーズの演出に大幅に取り入れられている。そこがまずは魅力。

 フォード・マスタングを取り戻すところから『チャプター2』は始まる。ジョン・ウィックが所属する組織には手厚い厚生施設が整い、ソムリエと呼ばれる武器調達係がいたりと、世界規模で行動がしやすくなっている代わりに「誓印」と呼ばれる「貸し・借り」のシステムが絶対の条件となっており(ほかにもヘンなルールがいっぱいあってこれがまた実に楽しい)、ジョン・ウィックはサンティーノ・ダントニオの依頼によって「主席連合」の次期代表に就任する予定のジアナ・ダントニオを暗殺しなければならなくなる。そして、ジョン・ウィックはローマに飛ぶ――

 とにかく暴力、暴力、暴力である。「パラベラム」というのは銃のことらしい。韓国映画『アシュラ』(16)はいくらなんでも人が死に過ぎると思ったけれど、これはそれ以上。ただし、毎回のようにクラブで銃撃戦があるにもかかわらず、一般の人には絶対に当たらず、関係者しか死なない。『パラベラム』ではそれがエスカレートして駅の構内や電車のなかでも撃ち合うのに通勤客はそれに気づかず、普通に歩いているだけだったり。ほとんどギャグである。暴力映画が好きな人には可視化されているけれど、観たくない人には見えないと、R指定という倫理コードそのものが映像化されているよう。

 目の前にジョン・ウィックが現れたことで、ジアナ・ダントニオは死期を悟り、自らバスタブのなかで手首を切る。ジョン・ウィックは死体に弾を撃ち込み、ローマから脱出する。ジアナ・ダントニオの暗殺依頼がバレると「主席連合」の時期代表に就任できないと判断したサンティーノ・ダントニオは口封じのためにジョン・ウィックに700万ドルの賞金をかけ、ニューヨーク中の殺し屋に始末させようとする。次から次へと殺し屋がジョン・ウィックを襲う――

『チャプター2』から『パラベラム』にかけて持続するテーマは、日本の忍者ものでいう「抜け忍」である。一度は組織から抜けることのできたジョン・ウィックが再度、組織から抜けるためにカサブランカへ飛び、砂漠のどこかにいるという組織のリーダーに会いに行くことが『パラベラム』の主要ストーリーをなしている。そのためにジョン・ウィックが様々なコネクションの助けを求め、その過程で「貸し・借り」が清算されたり、さらに増えたりする。そして、よくもまあ、これだけ新しいアイディアが思いつくよなと思うほど斬新なアクション・シーンが薄いストーリーの隙間をぎっしりと埋めていく。半端ではない量のガラスを割り、犬が走り、馬が走り、ビルから落ちても助かっている。そう、「ジョン・ウィック」シリーズのプロデューサーとディレクターは『マトリックス』(99)でスタントマンを務めていたチャド・スタエルスキとデヴィッド・リーチなのである。2人は『マトリックス』からインターネットや仮想空間というアイディアをすべて捨て去り、アクション・シーンだけで新たな世界観をつくりあげた。それどころではない。「ジョン・ウィック」シリーズにはインターネットを思わせる電子機器はまったく登場せず、電話は交換台で繋がれ、報酬は金貨でやりとりされている。最も驚いたのはジョン・ウィックに力を貸すバワリー・キング(ローレンス・フィッシュバーン)はインターネットより早いといって伝書鳩で情報を集めている(そんなバカな!)。キアヌ・リーヴスとローレンス・フィッシュバーンはちなみに『マトリックス』ではネオとモーフィアスを演じた救世主コンビ(大事なモノを本のなかに隠すというアイディアも持ち越されている)。

『マトリックス』はよくできた作品だった。インターネットの影響を、それが地球を覆い尽くす前に予見し、可能な限り悪い想像を巡らせたという意味ではなかなかのものであった。いま観ると『マトリックス』は陰謀論に取り憑かれたネット中毒者がくだらない正義感を振りかざして悦に入っているようにしか観えなかったりもするけれど、公開当時は、みんな、来るべき未来像として真剣に観ていたのである。しかし、そうした部分は時間の経過が古びさせたというか、過剰な思い込みは勝手に剥がれ落ちたというか、自然と真剣に観るようなものではなくなっていったのに対し、むしろスタエルスキ&リーチが問題にしたのはネット時代における身体性の定義であった。『マトリックス』にはインターネットに未来を感じていた者にとって、ある種のユートピアが描かれている場面も多く、たとえばネオは体を1ミリも動かさず、あらゆる格闘技を耳からの情報だけで身につけてしまう。そして、ストーリーのなかでは実際に優れた格闘家として振る舞い、『マトリックス』はある意味、アクション映画として成功した作品となった。ところが、本当に鍛えた体ではないために、空中に浮くときの筋肉の動きだとか、どこにも力が入っていない状態で無理な姿勢になったりと、いわば子どもが人形で遊んでいるようなぺらぺらの身体性しか画面には映し出されない。それこそ幽霊のような動きだし、アクションとしての説得力はないけれど、フリークスとしては面白いというような。『マトリックス』でスタントマンを務めていたスタエルスキ&リーチがそれに納得するはずはなかった。

 松本人志は格闘ゲームをやっていて、実際の自分がそんなに強いわけではないことに疑問を持ってジムで体を鍛えるようになったという。『マトリックス』から『ジョン・ウィック』に起きた変化もそれと同じことだろう。キアヌ・リーヴスが撮影の4ヶ月前から体づくりに取り組み、『パラベラム』では車に跳ねられるシーン以外はすべて自分でこなしたという撮影エピソードが売りになるのもインターネットによって萎縮した身体性やギーク・カルチャーが全般的に売りにならなくなってきたことを明瞭に表している(僕が最も感心したのは『パラベラム』のクライマックスは格闘シーンが長過ぎてジョン・ウィックの身体が疲れを表現していたところ)。いまから思えば三池崇史監督『クローズZERO』(07)とかギャレス・エヴァンス監督『ザ・レイド』(11)とか、最初から最後まで殴り合いしかない映画がなぜか面白かったのは、インターネットの普及によって劣化していた身体性が早くも氾濫を起こしていたからなのだろう。それを『マトリックス』を完全否定するというかたちで「ジョン・ウィック」シリーズが似たようなキャストで世界観ごと覆してしまったのである。「ジョン・ウィック」シリーズに与えられた設定も完全にファンタジーというか、マンガのような世界観なので、その対称性は歴然である。

 

『ジョン・ウィック:パラベラム』予告編

John Corbett - ele-king

 インプロって何? フリーって、自由? なんとなくはわかるけど、でもやっぱりよくわからない……そんなアナタに朗報だ。シカゴの音楽批評家にしてミュージシャン、ジョン・コルベットによる画期的な入門書が翻訳された。タイトルは『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』。直球である。
 また、今回の邦訳刊行を記念し、10月26日に国分寺M'sにてトーク・イベントが開催される。出演は、訳者の工藤遥、ele-kingでもおなじみの細田成嗣、そして若手批評家の仲山ひふみ。これはなかなか興味深い議論を聞くことができそうだ。お時間ある方はぜひ!

『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』
ジョン・コルベット著 工藤遥訳

●内容紹介

「前提とされている自分の役割は何なのか。そして自分がそれをしなかったらどうなるのか。」一部の先鋭的なミュージシャンにより、あらゆる前提がひっくり返された音楽=フリー・インプロヴィゼーション。好奇心溢れる全ての音楽ファンに捧げる画期的入門書、ついに邦訳!
【附録】即興音楽のさらなる探索のための書籍・録音作品リストを掲載(選書・選盤=細田成嗣)

●著者略歴

著者:ジョン・コルベット(John Corbett)
1963年生まれ。シカゴを拠点に活動する音楽批評家、ミュージシャン、プロデューサー、キュレーター。レーベル兼ギャラリー〈Corbett vs. Dempsey〉主宰。著書に、Extended Play: Sounding Off from John Cage to Dr. Funkenstein(1994年)、Microgroove: Forays into Other Music(2015年)、A Listener’s Guide to Free Improvisation(2016年)、Vinyl Freak: Love Letters to a Dying Medium(2017年)、Pick Up the Pieces: Excursions in Seventies Music(2019年)。

訳者:工藤 遥(くどう・はるか)
1986年生まれ。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了(音楽文化学)。研究領域はフリージャズ文化史、音盤蒐集学。

●推薦コメント

「くすっと笑えるユーモアと、音楽好きなら心当たりのあるちょっとした出来事を引用しながら、あなたを未知の世界に導いてくれる最高の即興音楽入門書にして、音楽と即興をめぐる好奇心と思考のガイドブック。即興音楽の根底にある様々な発想や思想が、この先の社会に大きな意味をもつと思っている私にとって、本書はヒントの宝庫でもあります。」
(大友良英/音楽家)

「ありそうでなかった、そして、こんな本が欲しかった、ユーモアとウィットとエスプリに富んだ即興音楽入門。コルベットの愛と悪戯心に満ち満ちた筆の運びは、さながらそれ自体が論述のインプロヴィゼーションのようだ。初心者のみならず、うるさ方の皆々様も必読!」
(佐々木敦/批評家)

「フリー・インプロヴィゼーションって何だろう。どう楽しんだらいいんだろう。こう思っている人には、本書は最高の手引書だ。即興音楽聴取をバード・ウォッチングになぞらえる本書は、私たちが通常「音楽」と考えている領域の外側に広大な音の世界が広がっていることをその聴き方とともに教えてくれる。本書が紹介する定番ツアーから始めるのもよし、いきなり未開の荒野に進むのもよし。即興音楽をあらゆる人に解放する画期的ガイドブック!」
(毛利嘉孝/社会学者)

●商品データ

出版社: カンパニー社
判型:小B6判(17.4 x 11.2 x 1.3 cm)
頁数:168ページ
定価:本体1600円+税
発売日:2019年9月27日
ISBN978-4910065007
https://p-minor.com/?pid=145692178


●刊行記念イベント

即興音楽の入門と応用──ジョン・コルベット『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』刊行記念

米国の音楽批評家/ミュージシャンであるジョン・コルベットによる即興音楽の画期的入門書『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』(工藤遥訳、カンパニー社)の邦訳版刊行を記念し、訳者でありカンパニー社代表でもある工藤遥さん、および批評誌『アーギュメンツ♯3』の共同編集人であり即興音楽とも関わりの深い哲学者レイ・ブラシエの訳書を準備している仲山ひふみさんとともに、即興音楽の入門と応用をめぐるトーク・イベントを開催します。前半は「入門編」として『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』のエッセンスを抽出し、訳者の裏話やコルベットが紹介している音源などを交えつつ、ときに聴かれることなく敬遠/称揚されてしまう即興音楽の「聴き方」を、聴くことの入門にまつわる様々な言説を踏まえながら紹介/検討します。後半では「応用編」として主に現代の即興音楽とその周辺の事例をピックアップしつつ、コルベットの「聴き方」はどこまで応用できるのか/他にも「聴き方」はないだろうか/そもそも聴取が中心であるべきなのか/音響以降の即興音楽をどのように考えられるのか/絶滅と共生の非人間中心主義的な哲学はどのように現代の即興音楽と関わるのか……といった議論へと向かいます。(細田成嗣)

出演:細田成嗣(ライター/音楽批評)、工藤遥(カンパニー社)、仲山ひふみ(批評家)
日時:10/26(土)19:30~
料金:チャージ1300円、別途1オーダー(学割:チャージ800円、別途1オーダー)
会場:ART×JAZZ「M’s」(エムズ)
   東京都国分寺市本町2-7-5赤星ビルB1F
   TEL:042-325-7767
   https://www.ms-artjazz.com/
フライヤーデザイン:内田涼

Alva Noto & Ryuichi Sakamoto - ele-king

 これまで幾度も共作・共演を重ね、昨年もライヴ盤『Glass』を発表しているアルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)と坂本龍一が、新たにライヴ・アルバムをリリースする。今回は2018年にシドニー・オペラハウスで録音されたもので、当日の即興や、イニャリトゥ『The Revenant』のテーマなど、これまでのふたりのコラボ曲によって構成されている。発売は11月15日。

[11月15日追記]
 上記ライヴ・アルバムの日本盤の発売が決定しました。発売は11月29日、リリース元は〈インパートメント〉です。詳細は下記をご確認ください。

日本盤情報

発売日:2019年11月29日(金)
品番:AMIP-0200
アーティスト:Alva Noto & Ryuichi Sakamoto
タイトル:‘TWO’ - live at Sydney Opera House
レーベル:NOTON
フォーマット:国内流通盤CD
本体価格:¥3,200+税

https://www.inpartmaint.com/site/28519/

 以下は当初の情報です。

Alva Noto & Ryuichi Sakamoto
TWO: Live at Sydney Opera House
NOTON
12" Vinyl Album / CD Album
Available 15 November 2019

Tracklist:

01. Inosc
02. Propho
03. Trioon II (Live)
04. Scape I
05. Berlin (Live)
06. Scape II
07. Morning (Live)
08. Iano (Live)
09. Emspac
10. Kizuna (Live)
11. Gitrac
12. Monomom
13. Panois
14. Naono (Live)
15. The Revenant Theme (Live)

https://noton.greedbag.com/buy/two-120/

Enrique Rodríguez - ele-king

 これはお宝発見かも。2017年にひっそりとリリースされたチリの若手ピアニスト、エンリケ・ロドリゲスのカセットテープが日本限定でCD化される。静かで落ち着いた佇まいのジャジーなサウンドで、ジジ・マシンあたりが好きな人にもおすすめ。なお2018年にアナログ盤化された際には300枚が即完売してしまったそうなので、今回のCDもお早めに。

ENRIQUE RODRIGUEZ
Lo que es

チリの首都サンティアゴで活動する弱冠20歳の若手ピアニスト、エンリケ・ロドリゲス。
2017年にカセットテープでひっそりとリリースされ、全く無名の新人ながらその恐るべき内容から、その後に発売された300枚限定アナログ盤も即完売したジャズ・アンビエント作品「Lo que es」が、日本限定盤としてCDリリースが決定!!

Official HP: https://www.djfunnel.com/enriquerodriguez

エンリケ・ロドリゲス、初のアルバム。18歳にして、全ての楽器をロドリゲス自身が全て演奏し、創り上げられた衝撃の作品。
フィジカル作品としては、既に入手困難のためCD化は正に待望とされていた1枚。ジャズやソウルにとどまらず、アンビエント、ポスト・クラシカル、サウンドトラック、インディーロック、ヒップホップなど様々な音楽からの影響が読み取れる。

同時にそれらをハイセンスにミックスさせている手腕と、18歳にしてここまでの完成度と世界観をつくり上げていることにただただ驚かされる。
日本にも入荷した本作のアナログ盤は再プレス盤も即完売し、高値で取引されている。チリから現れたこの若き才能が残した本作品を、一人でも多くの方に聴いて頂きたいと切に願う。

アーティスト : ENRIQUE RODRIGUEZ (エンリケ・ロドリゲス)
タイトル : Lo que es (ロ・ケ・エス)
発売日 : 2019/11/20
価格 : 2,400円+税
レーベル/品番 : astrollage (ASGE27)
フォーマット : CD (輸入盤CDは、ございません。)
バーコード : 4988044050815

Tracklist:
01. Lograr decidirnos
02. Esperar no es facil Dr.
03. Lo que somos
04. Ni siquiera se si quiero encontarte
05. Ambos
06. (entremedio)
07. Una pared
08. Mantener el arriba
09. Y no hay que olvidar
10. Chao
ボーナストラック追加予定

Abro - ele-king

 イスラエルのジャズ・シーンから新たな注目作の登場だ。昨年〈Stones Throw〉からアルバムをリリースしたバターリング・トリオのリジョイサーが「最も尊敬を受けるベーシスト」と太鼓判を押すギラッド・アブロ、その初のソロ・アルバムが11月13日に発売。リジョイサーのみならず、〈Blue Note〉からの作品でも知られるアヴィシャイ・コーエンやニタイ・ハーシュコヴィッツも参加しており、かの地のジャズの盛り上がりを伝えてくれる内容に仕上がっているようだ。

ABRO
LEAF BOY

イスラエルのジャズ・シーンを代表するベーシストとして、大きな信頼を集めるギラッド・アブロによるソロ・デビュー・アルバム!!
ニタイ・ハーシュコヴィッツやアミール・ブレスラー、バターリング・トリオのリジョイサーやケレン・ダンもサポートした、素晴らしい技術と才能が溢れた傑作!!

Official HP: https://www.ringstokyo.com/abro

バターリング・トリオのリジョイサーが「イスラエルのジャズ・シーンで最も尊敬を受けるベーシストだ」と紹介して、ギラッド・アブロを聴かせてくれた。一聴してすぐに惹き付けられた。その音楽がようやくフル・アルバムで届けられた。
ニタイ・ハーシュコヴィッツやアミール・ブレスラーもサポートした本作は、リジョイサーとイスラエルの新世代ジャズ・ミュージシャンのコレクティヴ、Time Grove からの最新の、そして飛びきりの一枚! (原 雅明 rings プロデューサー)

アーティスト : ABRO (アブロ)
タイ トル : LEAF BOY (リーフ・ボーイ)
発売日 : 2019/11/13
価格 : 2,450円+税
レーベル/品番 : rings (RINC60)
フォーマット : CD (輸入盤CDは、ございません。)
バーコード : 4988044050648

Tracklist :
01. Leaf Boy
02. Meantime Springtime
03. Honey Bee feat. KerenDun
04. Much Love To Give feat. Sefi Zisling
05. Angels feat. Karolina
06. I Won't Live Alone
07. Did Our Best
08. Always Here feat. Echo
09. Parenthood Galore feat. Rejoicer
10. Spam Day
11. Guessing Game
& Bonus Track 追加予定

Carpainter - ele-king

 は、早い。今年2月にEP「Declare Vicrory」をリリースしたばかりだというのに、もう新作である。きたる11月13日、日本のみならず世界じゅうから高い評価を得ている〈TREKKIE TRAX〉から、Carpainter の3枚目のアルバムが発売される。タイトルは『Future Legacy』。彼特有のアップリフティングな感覚、デトロイト由来の豊かでメロディアスなシンセ遣いはそのままに、ストイックにミニマルを追求。先行シングルの“O.V.E.R”では初めて女性ヴォーカルをフィーチャーするなど、新たな試みも。要チェックですぞ。

Carpainter - Future Legacy

Carpainter の 3rd アルバム『Future Legacy』が2019年11月13日に〈TREKKIE TRAX〉よりリリース決定。
Carpainter 初の女性ヴォーカル「Utae」を迎えたリード・トラック「Carpainter - O.V.E.R feat. Utae」を始め、2019年2月にリリースした「Daclare Victory」で提示したジャパニーズ・テクノへの回帰と、テクノ・ブレイクス・レイヴといった様々なダンス・ミュージックを Carpainter が再構築し、独自の世界観に落とし込んだ「ジャパニーズテクノ・リヴァイヴァル」とも言えるアルバム!

Cover Desigin : Tomoki Yonezawa
Director : Tomoki Yonezawa
Publish: TREKKIE TRAX
TRC-009
2019/11/13
2000yen

Track list:
01. Re Genesis
02. Mission Accepted
03. Chaos Or Order
04. Rush
05. Salvo Fire
06. Code My Mind
07. Tiger & Dragon
08. Sylenth Warrior
09. Onslaught
10. Declare Victory
11. Eve (Interlude)
12. Re Incarnation
13. Fountain Corridor
14. O.V.E.R feat. Utae

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