「Nothing」と一致するもの

Marihiko Hara - ele-king

 旅は情け人は心。去る6月に3年ぶりのアルバム『PASSION』をリリースした京都の作曲家、原摩利彦だが、同作から新たに “Via Muzio Clementi” のMVが公開されている。
 映像には1968年に撮影された素材が用いられており、ノスタルジーを誘う当時のローマやロンドン、パリ、ベルリンなどの風景は、旅することの困難な現在、彼方への想像力を大いにかきたててくれる。アルバムを〆る同曲の美しいピアノとも相性抜群です。

原 摩利彦
1968年に撮影された世界の風景映像を用いた
MV「Via Muzio Clementi」を公開。
原の祖父母が8mmフィルムに収めた旅の記録。
好評発売中の最新作『PASSION』に収録!

京都を拠点に国内外問わずポスト・クラシカルから音響的なサウンド・スケープまで、舞台・ファインアート・映画音楽など、幅広く活躍する音楽家、原摩利彦。6月にリリースされた最新作『PASSION』より、原の祖父母が1968年に海外旅行にでかけた際、8mmフィルムに残した世界各国の風景の映像を合わせた「Via Muzio Clementi」のMVが公開された。

原 摩利彦|Marihiko Hara - Via Muzio Clementi
https://www.youtube.com/watch?v=0z5bQerLCCc&feature=youtu.be

 曲名の由来となっているローマなど各国の都市を移動していく映像からは、当時の人々の飾りのないあたたかな日常が垣間見られる。そして一つ一つの風景を逃さないようカメラを構えていたであろう祖父母の感情まで感じられることができる。

ーーーMV 《Via Muzio Clementi》に寄せてーーー

 幼少の頃、祖母はリビングの壁にミノルタ社の小さな映写機でスライドフィルムを投影して、海外の風景を何度か見せてくれた。これらのフィルムは祖父母が1968年に海外旅行にでかけた際に撮影したもので、医師だった祖父の視察旅行でもあったらしく、医療施設の写真も何点かある。フィルムの入った箱には鉛筆で訪れた地名————モスコー、ロンドン、パリ、ベルリン、ローマ、ナポリ、コペンハーゲン、アムステルダム、ジュネーブ、ニューヨーク、ロス、ホノルル————が書かれていた。

 昨年、KYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭2019)のアソシエイテッド・プログラムで何十点かのフィルムと、私が近年録音した音の旅の記録をミックスした展覧会を開いた。壁に投影した写真は、1968年の世界への窓のような気がして「Window」の語源の「Wind Eye」という言葉をタイトルにつけた。この展覧会の準備中に見つけた8mmフィルムをデジタル化して、初めて私は祖父の動いている姿を見た。どうやらライカのカメラは主に祖母が、8mmカメラは祖父が撮影していたようだ。生涯で一度だけの大旅行を少しでも多く残しておきたいと思ったのだろう。

 この曲は、アルバム『PASSION』の仕上げを兼ねて2019年夏に滞在したローマのアパートで作曲した。タイトルはそのまま滞在地のムツィオ・クレメンティ通り(「Via Muzio Clementi」)としている。風でゆれる白いカーテンと外光の差し込む落ち着いた部屋で仕事をして、史跡をめぐり、おいしいものを食べるという幸せな時間を過ごした。

 今年の夏は旅に出ることは叶わなかったが、半世紀前の旅の記録と旅の途中で作った音楽を合わせることができた。次の旅にでられるまで、去年はいなかった新しい家族とともにゆっくり待とうと思っている。

原 摩利彦

 本楽曲を収録する待望のソロ作品『PASSION』は、好評発売中! 心に沁みる叙情的な響きの中に地下水脈のように流れる「強さ」を感じさせる、原の音世界がぎゅっと詰まった全15曲を収録。マスタリングエンジニアには原も敬愛する故ヨハン・ヨハンソンが残した名盤『オルフェ』を手がけた名手フランチェスコ・ドナデッロを迎えており、作品の音にさらなる深みを与えている。また、購入特典として録り下ろしのスコット・ウォーカーの名曲「Farmer In The City」カヴァー音源をプレゼント。

森山未來出演のMV「Passion」公開中。
https://www.youtube.com/watch?v=1FeL0js8nB0

京都ロームシアターで行われた単独公演「FOR A SILENT SPACE」より、全4本のパフォーマンス映像が公開中!
https://www.youtube.com/watch?v=O2SOwZX_Bsk&list=PL6G4a22hEl9mivtKUdgCkLGb7nxZaozdl&index=2&t=0s

label: Beat Records
artist: 原 摩利彦
title: PASSION
release date: 2020.06.05 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-619 ¥2,400+税
購入特典:「Scott Walker - Farmer In The City (Covered by Marihiko Hara)」CDR

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10963

【発売中!】
https://song.link/marihikohara
TRACKLISTING:
01. Passion
02. Fontana
03. Midi
04. Desierto
05. Nocturne
06. After Rain
07. Inscape
08. Desire
09. 65290
10. Vibe
11. Landkarte
12. Stella
13. Meridian
14. Confession
15. Via Muzio Clementi

 電子音楽の銀河系のずっと隅っこの広大な闇の彼方に、しかしひとつだけ眩く星があるとしたらそれがシルヴァー・アップルズだ。それは幻想的でありながら、牧歌的だった。90年代にシルヴァー・アップルズが広く再発見されたとき、時代の異端児による隠れ名盤というのも気が引けるほど、リスナーは至福の宇宙旅行──夢のようなオプティミズムに喜びを覚えていた。あのころはソニック・ブームが率先して、それを当時のサイケデリック・ロックの文脈に当てはめもしているが、やはりシルヴァー・アップルズの銀紙に包まれた1968年のファースト・アルバムがはなつ微笑ましいまでの異彩は、あの1枚にしかないものだった。

 それはまだ電子音が装飾的ないしはノベルティ的にしか使用されない時代において、楽曲における中央にその響きを持ってくるという、いわばもっとも初期型のエレクトロ・ポップであり、初期型のスペース・ロックでもあった。
 自家製の電子機材を手にしたシメオン・コックスがドラマーのダニー・テイラーといっしょに録音したアルバムには、この時代のロック・バンドの常識ではあり得ないことがふたつあった。ひとつはギター・サウンドがないこと。もうひとつはバックの演奏は電子音とドラムのみという構成だったこと。ものごとの価値観が大きく揺れていた1968年、舞台はボヘミアンたちのメッカたるニューヨークのイーストヴィレッジだったとはいえ、クワフトワークとスーサイドが生まれる2年以上前のことだ(シメオン・コックスは当時、ジミ・ヘンドリックスとセッションもしている)。

 わずか2枚のアルバムを残して解散し、長らくは歴史から消えたシルヴァー・アップルズだが、80年代後半のスペースメン3以降のサイケデリック・リヴァイヴァルのなかで再発見され、あるいはディープ・リスナーでもあるヤン富田の紹介によって日本でも広く知られるようになった。スペースメン3解散後のソニック・ブームによるバンド、スペクトラムは、1996年にシルヴァー・アップルズのセカンド・アルバム『Contact』の収録曲“A Pox On You”をカヴァーすると、1999年には復活したシルヴァー・アップルズ(シメオン・コックス)との共作によるアルバム『A Lake Of Teardrops』も発表している。他に例えばステレオラブも明かに影響を受けているし、ファンのひとりだったアンドリュー・ウェザオールは復活後(そして最後のアルバムとなった『Clinging To A Dream』収録)の曲“The Edge of Wonder”のリミックスを手掛けている。
 シメオン・コックスが永眠したのは去る9月8日、82歳だった。コズミックでありながら、どこかほのぼの系でもあった彼の音楽は、ふだんは荒んだ心でもあっても、それが開かれたときに素晴らしい旅を約束してくれる。この先も変わることはないだろう。

Special Interest - ele-king

 パンクの時代だ。酔狂なのはスリーフォード・モッズムーア・ジュエリーぐらいだと思ったら大間違い。まずはニューオリンズの4人組、スペシャル・インタレストからいこう。いまもっともラディカルなバンドのひとつ、彼らは・彼女らは……、喩えるなら、そう、ストーンウォールの暴動・ミーツ・CRASS・ミーツ・レイヴカルチャー・ミーツ・ロングホットサマー。え、そこまで言えるのかと、まあたしかに箱庭的なポップスやニューエイジに慣れ老化した耳には刺激が強すぎるかもしれないけれど、このきつい時代をギリギリのところでなんとか生きている人、あるいはまた、音楽が矮小化される以前の記憶をお持ちの方には待ち望んでいたもののひとつだろう。彼らはぶっ飛んでいて、大きい。
 とはいえ、スペシャル・インタレストは過去のいかなるラディカルたちとも違っている。2018年のデビュー・アルバムの1曲目、“Young, Gifted, Black, in Leather” が、その曲名からわかるようにニーナ・シモンの魂(=反白人至上主義/『別冊ブラック・パワー特集』を参照)にリンクしながら、彼らはパラダイス・ガラージにおけるアナーキーな夜の女王たちにも通じている。
 “Disco”と名がつく曲がすでに3つもあるこのバンドは、パンクであり快楽主義者だ。つまりヴォーカリストのアリ・ログアウト(この社会からログアウトする──素晴らしい芸名!)という強烈な個は、インダストリル・ハードコア・サウンドと同化して、激怒と愉楽を両立してみせている。ログアウトはすべて──人種、ジェンダー、再開発、貧困──に怒っているが、と同時にどこかでふざけてもいるのだ。
 「私は街が滅びるのを見る/ガラクラからそびえ立つ、ケバケバしい高級マンション」“All Tomorrow's Carry”
 「急速に崩壊する甘く腐った臭い/クソが私の1日を強いる」“With Love”
 「ソドミー・イン・LSD! ソドミー・イン・LSD!」“Disco Ⅲ”
 荒々しく、野暮ったいハードコア・テクノ的なトラックもログアウトのパンク・ヴォーカルによって鮮度を取り戻し、そして間違いなく、スペシャル・インタレストがいま重要なバンドのひとつであり、『The Passion Of(の情熱)』が重要作であることをわからせている。まずはさあ、ログアウトだ。


Bob Vylan

PunkGrime

Bob Vylan

We Live Here

Venn Records


bandcamp

 さて、“イングランズ・ドリーミング”とはセックス・ピストルズの“ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン”の歌詞の一節(イギリスが夢見ているようではno future)だが、いまや“イングランズ・エンディング”だと。スリーフォード・モッズとバッド・ブレインズとの出会い、グライム・ミーツ・パンクなどと説明されるロンドンの2人組、ボブ・ヴィレイン(ボブ・ヴィランではない)の登場。本作『We Live Here』はセカンド・アルバムで、タイトル曲はボブ・ディランが17分もある例のシングル曲を発表したときにリリースしたとか。
 “Lynch Your Leaders”(リーダーをリンチにしろ)とか、直球で威勢のいい曲が並んでいるが、なかには自助(セルフ・ヘルプ)をうながす“Save Yourself”なんて曲もある。彼らが非白人の移民であることも大きいのだろう。少なくとも福祉国家たるイングランドに彼らはいないようだ。まあ、日本も自助社会に向かっているよね。ちなみに、魅力的な曲のひとつである表題曲の“We Live Here”は、次のようなナレーションではじまる。「ここは美しい場所だった/あんたらがここに来るまでは」


 君はアフリカからグラインドコアやスピード・メタルが生まれるなんて、想像できるだろうか。ウガンダのレーベル〈Nyege Nyege Tape〉からケニヤのナイロビのメタル・シーンで活動する2人(Martin Khanja、Sam Karugu )によるバンド、Dumaのファースト・アルバムは、驚くべきことに90年代半ばぐらいのボアダムスを彷彿させる。いったいこれは何なのか……アフリカだというのに(いや、だからこそ?)凍てつくような、とんでもないカオスが広がっている。そんな彼らが影響を受けたバンドは、スロッビング・グリッスル、ブラック・フラッグ、マイナー・スレット、カート・コベイン、XXXテンタシオン、ボブ・マーリー……、そしてなんとDJスコッチ・エッグ(インタヴューで、彼のことは神だと言っている。おそるべしスコッチ・エッグ)。
...

WATERFALL - ele-king

 ハウスやテクノが好きなファッション・ブランドの〈WATERFALL〉が吉祥寺PARCOの4Fでポップアップショップを現在展開しています。10/3(土)までの開催なので、近くに行ったら寄ってみよう。ちなみに「ELECTRIC FLOWER SOUND」のロンTがいま女子に受けているそうです!

Oscar Jerome - ele-king

 サウス・ロンドンのジャズ・シーンでは、ジャズだけでなく他の分野のミュージシャンとの交流もいろいろあり、たとえばシンガー・ソングライターやラッパーとのコラボも頻繁におこなわれる。今年リリースされたトム・ミッシュとユセフ・デイズのアルバム『ワット・カインダ・ミュージック』などが代表例だが、オスカー・ジェロームもそうしたジャズと他分野の境界線にいるアーティストだ。オスカー・ジェロームはギタリストであり、アフロ・バンドのココロコのメンバーとして知られる。ジョー・アーモン・ジョーンズとは学生時代からの友人で、『イディオム』(2017年)や『スターティング・トゥデイ』(2018年)などの作品でも演奏している。サウス・ロンドンのギタリストではマンスール・ブラウンやシャーリー・テテなどもいるが、テクニカルなプレイでギターの可能性を追求するマンスール・ブラウンに対し、オスカー・ジェロームはシンガー・ソングライターとしての立ち位置に重きを置くギタリストであり、どちらかと言えばトム・ミッシュに近いスタンスかもしれない。

 最初にオスカーがソロEPをリリースしたのは2016年のことで、ジョー・アーモン・ジョーンズ、ヌバイア(ヌビア)・ガルシアモーゼス・ボイドらと共演するものの、“ギヴ・バック・ワット・ユー・ストール・フロム・ミー” のようなヒップホップ・ソウルも披露していた。ギル・スコット・ヘロンとモス・デフを足して2で割ったような印象で、トム・ミッシュやロイル・カーナーなど同世代のアーティストに通じる作品だった。2018年の “ホエア・アー・ユー・ブランチズ?” はさらにアコースティックな要素が強く、アフリカ音楽の要素を感じさせる点は彼の参加するココロコにも通じるところだった。この曲が収録されたEPではウー・ルー(最近ではザラ・マクファーレンのアルバム『ソングス・オブ・アンノウン・タン』をプロデュースしていた)をプロデューサーに迎え、ポッピー・アジュダーなどさらに多彩な面々と共演している。そのほかではヒドゥン・スフィアーズのディープ・ハウス系トラックにも参加するなど、いろいろ幅広い活躍を見せていた。

 アルバムとしては2019年に『ライヴ・イン・アムステルダム』を発表し、これは文字通りオランダでのライヴ録音で、“ギヴ・バック・ワット・ユー・ストール・フロム・ミー” や “ドゥ・ユー・リアリー”など、これまでシングルやEPで発表してきた曲を演奏していた。そしてこの度リリースした『ブレス・ディープ』は、初めてのスタジオ・アルバムとなる。ミュージシャンにはジョー・アーモン・ジョーンズなどこれまでのEPやライヴ盤でも演奏してきた面々に加え、ココロコのメンバーからディラン・ジョーンズ、トム・スキナー、トム・ドライスラー、ファーガス・アイルランド、サム・ジョーンズ、ベン・ハウク、ブラザー・ポートレイトらサウス・ロンドン勢、さらに先日ニュー・アルバムをリリースしたばかりのシンガー・ソングライターのリアン・ラ・ハヴァスまで参加する。リアンのアルバムにはブルーノ・メジャーも参加していたが、プロデューサーのベニ・ジャイルズとエンジニアのロバート・ウィルクスがオスカーのアルバムとも共通していて、いろいろな繋がりが見えてくる。

 収録曲は “ギヴ・バック・ワット・ユー・ストール・フロム・ミー” をテンポ・アップして再演し、“グラヴィテイト” は『ライヴ・イン・アムステルダム』でもやっていたナンバーだが、ほかは全て新曲となっている。“サン・フォー・サムワン” はファンク調のトラックだが、レゲエやダブから来たレイド・バックしたフィーリングと風変わりなリズムがアクセントとなっている。オスカーの歌もちょっとスティングを感じさせるところがある。“ユア・セイント” はアコースティック・ギターの弾き語りではじまり、やや調子外れの歌はキング・クルールやプーマ・ブルーを彷彿とさせる。途中からリズム・セクションが入ってくるが、演奏はココロコのメンバーが中心となっていて、アフリカ音楽からの影響も感じさせる曲だ。“コイ・ムーン” にもムビラやカリンバ(親指ピアノ)のような音色が流れ、アフリカ的なムードを感じさせる。こうしたムードは、ほかのR&Bアーティストやシンガー・ソングライターにはないオスカー独自のテイストと言える。

 ジャズ・ファンクとブロークンビーツが混ざったような “グラヴィテイト” はベン・ハウクとの共作で、いまのサウス・ロンドンらしいクロスオーヴァーな魅力に溢れたクラブ・トラック。インストの “ファッキン・ハッピー・デイズン・ザット” はギタリストとしてのオスカーを映し、ジャズとファンクとブルースとカリプソが一緒になったような曲になっている。そしてリアン・ラ・ハヴァスとのデュエットで聴かせるオーガニック・ソウルの “タイムレス”、バックはファーガス・アイルランドのベースのみというシンプルなギターの弾き語り曲 “ジョイ・イズ・ユー” と、アルバムの最後はフォーク・シンガーとしてのオスカーの魅力が詰まった曲で締めくくられる。ジャズ、ソウル、フォーク、アフロなどの中間点に位置するシンガー・ソングライター、それがオスカー・ジェロームである。

みぃなとルーチ - ele-king

 みぃなとルーチの初めてのアルバム『Long time no sea』は、ギター~バンドサウンドを軸としたフォーキーな雰囲気に仕上げられている。“Wild is the wind” や “Tonight is the night” のささやかな祝祭感は聴き手を朗らかな気分にさせるかもしれないが、プロデューサーのクロネコは今回、みぃなの魅力を最大限引き出すべく、ムームやヨ・ラ・テンゴを参照したという。ソロ名義ということでみぃな本人が作曲しているからだろう、聴きやすさはそのままに、曲の構成やメロディの進行などはバンド時代よりも自由度が高まっている。

 みぃなは2011年にさよならポニーテールのメイン・ヴォーカリストとしてデビューしている。同バンドはネット~SNSでの活動に軸足を置くポップ・グループで、ギターポップからディスコまでさまざまなスタイルにチャレンジ。耳なじみのあるメロディと学園生活のノスタルジーに満ちた歌詞で人気を博してきた。甘酸っぱかったりさわやかだったり、一聴する限りでは無難な音楽に聞こえてしまうかもしれないが、注意深く聴くといろんな要素が意図的に仕込まれていることがわかる。
 この深読みにも対応した音楽、キャラクターの設定やネットを前提とした活動のあり方などは、かつて「ポストYouTube」を掲げ、「メタ」や「フラット」といったタームの飛び交う時代に擡頭してきた、相対性理論の文脈に連なるものとも考えられるかもしれない。ただし、決定的に異なっている点もある。相対性理論は表に姿をあらわしているが、さよならポニーテールは全員が顔を出していない。各人の素性も伏せられており、メンバー同士でさえ互いのことを知らないという。
 この匿名性こそがさよポニ最大の特徴だろう。彼らが正体を明かさないのは、クロネコによれば、純粋に作品世界を堪能してほしいのに加え、現実の消費のスピードとは異なる時間軸で作品をつくりたい、との理由による。スター性が発揮される場で勝負をしたくないがゆえに、いっさいライヴもやらない。そのスタンスは、今回のみぃなのソロ・アルバムにも引き継がれている。たとえば、ぎりぎりまで感情を抑えた歌唱法。これもきっとスター性を回避するために編み出された手法なのだろう。

 今回は作詞を本人が手がけているところもポイントで、弾き語りスタイルの “Joy and Jubilee” を筆頭に、先行配信曲 “Sea song” や “More you becomes you” では、(最新作『来るべき世界』以前の)さよポニを特徴づけていた「失われた青春」や「かつての恋」とは対照的に、「忘れること」(ないしは「思い出すこと」と「忘れること」との葛藤)が随所に織り込まれている。
 各曲のタイトルはすべて彼女の好きなアーティストの曲名からとられているので、気になる方は調べてみることをおすすめするが、都会と自然が対比される “Amelia” や兵士についての弾き語り “Arms dealer” (初回限定盤のみ収録)なんかも独特の余韻を与えてくれて味わい深く、みぃな(というキャラクター)が新たな段階へと進んでいることを教えてくれる。

 匿名性にこだわる彼らの音楽は、おなじSNS文化でも、視覚的主張の激しいインスタではなく、ツイッターとの親和性が高い音楽と言えるだろう。もし、SNSはやっているけれどセルフィーでナルシーなタイムラインにはどうにもなじめないというひとがいたら、ぜひこのみぃなのアルバムを聴いてみてほしい。フォーキーなアレンジとフラットな歌声が、ネット回覧中のいらいらや複雑な感情、日常の不安などを、かわりに引き受けてくれるような感覚を味わうことができるかもしれないから。

New Order - ele-king

 UKはマンチェスターのロック・バンド、ニュー・オーダーがライブ盤以来の作品を発表、スタジオ録音の曲としては2015年の『ミュージック・コンプリート』以来となる新曲「Be a Rebel」を本日9月8日リリースするそうだ。
 ニュー・オーダーの往年の名曲“ラヴ・ヴィジランティス”を彷彿させるメロウなギター・ポップ・サウンドで、しかもニュー・オーダーにしては珍しく直球な、「反逆者になろう」と繰り返される歌詞には、ますます厳しくなっていくこの時代へのメッセージが歌われている。所属する〈ミュート〉のツイッターによると、UK時間の7:45am - 8am(日本時間の15時45分~)からBBCRadio2でお披露目があるとのこと。ぜひぜひチェックを。なお、フィジカルのリリースは11月になる。

BES & ISSUGI - ele-king

 1曲目 “Welcome 2 PurpleSide” のリリックにある「我らブーンバップの猛者」というラインが物語るように、日本のブーンバップ・ヒップホップ代表格とも言える、BES と ISSUGI によるジョイント・アルバム第二弾。SCARS および SWANKY SWIPE としての活躍でも知られる BES と、片や MONJU、SICK TEAM として数々の作品を残してきた ISSUGI のふたりは、それぞれソロでもアルバムをリリースし、さらに ISSUGI に関しては 16FLIP の名でプロデューサーとしても活躍するなど、いま現在の東京のヒップホップ・シーンのなかで大きな存在感を示している。ちなみにブーンバップ・ヒップホップとは、主に80年代、90年代のNYヒップホップの基盤となっているサウンドであるが、そこに2000年以降の東京のストリートの空気感をリリックとサウンドに注入して作り上げられるのが、彼ら流の東京ブーンバップのスタイルだ。

 本作には、NYを拠点に D.I.T.C. 関連の作品も手がける Gwop Sullivan を筆頭に、前作『VIRIDIAN SHOOT』から引き続き、DJ Scratch NiceGradis Nice、16FLIP がトラックを手がけ、加えて Fitz Ambro$e、Endrun、ベイエリアから DJ Fresh と、日米から多彩なメンツがプロデューサーとして参加。音の流れとしては前作と地続きであるが、感覚的にはより広がりのある厚みのあるトラックが揃い、シンプルに言って凄まじく格好良い。そこに乗る BES と ISSUGI のコンビネーションも鉄壁の安定感で、力強くグルーヴを引っ張る BES と、変幻自在にフロウを変化させてグルーヴを操る ISSUGI と、実に対照的なスタイルで交互にマイクを回し、ヒリヒリした極上の刺激を与えてくれる。

 アルバム・タイトルにある「Purple」の意味はオフィシャルでは明らかにはされていないが、リリックのなかに時おり出てくるいくつかのワードから想像することは可能だろう。ストリートで展開されるノンフィクションとフィクションが入り混じった彼らのリリックの世界観は、ブーンバップのオリジネイターである90年前後のNYヒップホップで描かれていた世界観とも強くリンクする。例えば、アルバム後半部分の非常にインパクトの強い “Skit” から “Inner Trial” の流れのなかにある不穏な空気や、MONJU の仙人掌、Mr.PUG をゲストに迎えた “Trap to Trap” でのネガティヴな出来事も、彼らの高いスキルによって極上のエンターテイメントに仕上げられ、ヒップホップだからこそのアートが表現されている。曲の流れやスキットやインタールードの使い方も実に巧みで、ラストの “BoomBap pt2” もしっかりと続編を期待させてくれる。良い意味で、日本のヒップホップ・シーンの正統な進化を感じさせてくれる傑作だ。

ギャングスタ・ラップの常識が満載!

世界中で最も聴かれ、影響力のある音楽
ギャングスタ・ラップの主要アーティストとヒット曲、定番アルバムがひと目でわかる、唯一の専門ディスクガイド本。

スクーリー・D、NWA、2パックから、ケンドリック・ラマー、YG、ミーゴスまで。
600曲・600枚、オールカラーで紹介!

著者は『シティ・ソウル ディスクガイド』の小渕晃。

小渕 晃 (こぶち あきら)
TOWER RECORDS アルバイト、CISCO 勤務を経て、1996年から2010年まで月刊誌『bmr (ブラック・ミュージック・リヴュー)』編集、後に編集長。現在はフリーのライター、編集者。
著書
HIP HOP definitive 1974-2017』(ele-king books)
『シティ・ソウル ディスクガイド』(DU BOOKS)

Contents

はじめに

Chapter 1
Birth of Gangsta Rap ギャングスタ・ラップのはじまり

シングル・ジャケット・ギャラリー vol 1

Chapter 2
Westside アメリカ西海岸のギャングスタ・ラップ

Part 1 1987-1992 ギャングスタ・ラップの台頭
Part 2 1992-1998 Gファンクのブーム
Part 3 1999-2011 ウェッサイ・ファンクの進化
Part 4 2012- 西海岸ギャングスタ・ラップの新時代

コラム
ギャングスタ・ラップの生まれる大きな要因となった、ブラックパンサー党の話。~ゲットーにおける自衛と、地域主義、助け合いのはじまり~ (文・野田努)

Chapter 3
South アメリカ南部のギャングスタ・ラップ

Part 1 1989-1992 サウス・シーンの勃興
Part 2 1992-1996 Gファンク時代のサウス・シーン
Part 3 1996-2011 バウンス、クランク、そしてトラップの時代へ
Part 4 2004-2009 Hタウン・ファンクのブーム
Part 5 2012- サウス・シーンの新時代

シングル・ジャケット・ギャラリー vol 2

Chapter 4
Midwest アメリカ中西部のギャングスタ・ラップ

Part 1 1991-2011 ミッドウェスト・シーンのはじまりと発展
Part 2 2012- ドリルと、90年代スタイルの継承

シングル・ジャケット・ギャラリー vol 3

Chapter 5
Eastcoast アメリカ東海岸のギャングスタ・ラップ

featuring Nate Dogg ネイト・ドッグ客演曲リスト

インデックス

おわりに

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧

amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
HMV
TOWER RECORDS
disk union
紀伊國屋書店
honto
e-hon
Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)

全国実店舗の在庫状況

紀伊國屋書店
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア

 NYでは COVID-19の検査を無料で受けることができるので、私はアンチボディを1回、PCR検査を3回受けた。最初に受けたPCRは陽性と出たと前回のこのコラムで書いたが、その2日後に受けた検査では陰性と出た。
 こういったミスはよくあるという。私のまわりでも、症状のあった人が陰性で、まったく症状はないが陽性と出た人がいる。抗体も3ヶ月で消えるとのことなので、頻繁に受ける方がいいらしいが……

 仕事も再開されないので、8月は日本に行った。日本の空港では乗客すべてに唾液検査があり、テスト結果が出るまで空港を出られない。公共交通機関は使えないし、結果が陰性でも、2週間の自粛生活を強いされる。毎日電話で体調や家族に具合の悪い人は出ていないかをチェックされる。NYに戻ってきたときは、空港では検査どころか税関検査もされなかった。何事もなくNYに入れる。もちろん2週間の自粛生活もなし。8/31のNY州の死者は1人、NY市は6人と、COVID19の死者数は減り、感染者数はNY州は656人、NY市は268人。かなり減ってはいるが空港がこんな対処ではまた増えそうだ。

 いままで後ろのドアから乗っていたバスが、前からの乗車になり、料金も取りはじめた。まだ在宅ワークが多いので、地下鉄はいつもの50%ぐらいの乗車率。レストラン、バーなどでハングアウトしていても、人々はマスクをしている。
 NYのバーは、7/17からドリンクオーダーの際には食べ物も一緒にオーダーしなければならないルールができた。サラダ、ウィング、ホットドッグなどは大丈夫で、チップス、キャンディ、ナッツはだめ。ブルックリンではキッチン装備のバーが少ない。先日、シークレット・プロジェクト・ロボットがやっているバー、ハッピーファン・ハイダウェイに行ったらマルちゃんのインスタントラーメンが一袋出てきた(どうやって食べろ、と)。レベッカズに行くと食パンにチーズを挟んだ冷たいチーズサンドが出てきた。ほかにもカップラーメン、ポップタート、餃子など、お腹がすいていなくてもドリンクを頼むとフードがもれなくついてくる。その辺をうろうろしないで椅子に座らせようという意図なのだが……。
https://bushwickdaily.com/



 以前は朝の5時までオープンしていたバーが11時に閉まるので、NYの夜は早く終了するのかと思えばテイクアウトして公園などでたむろする人が増えている。女子にとってはトイレ問題と蚊が多いのが難点。
 8/21にはブルックリンを代表をするクィアーバーのハウス・オブ・イエスがリカーライセンスを取り上げられクローズした。近くのシスターレストランのファラフェル・レストランからフードをオーダーするシステムを取っていたからである。早く問題を解決して、再オープンしてほしい。

 パンデミックでクローズしたレストラン、バーは数知れない。そのなかのひとつ、レズビアン・カップルがやっているウィリアムスバーグのトロフィーバーが、8/30に13年の歴史に幕を閉じた。ブルックリンのヒップスターたち、クリエイティヴな人たちが集まるバーで、ここで出会ったカップルは数知れない。フレンドリーなバーで、フードも美味しく値段もリーズナブルだった。いまどきチーズバーガー+フライが$8だ。最後の日には、懐かしいたくさんの人が別れをいうためにやってきた。オハイオから10時間かけてやってきたファンもいた。最後はスタッフ全員にドリンク、ピザ、そして最後のバースデーケーキを振る舞い、別れを惜しみながら、エアハグでなく本当のハグをした。https://trophybar.com

 チャイナタウンには、このパンダミックのなかカラオケレストランがオープンした。で、行ってみたらすでにカラオケは市に取り上げられたらしい。そりゃそうですよね。料理はオーナーの出身地、北海道を代表するメニューで、ジンギスカンが食べられるのはNYでもここしかないかも。ドリンクには酎ハイ、ウーロンハイ、ハイボールなど日本の居酒屋で見られるメニューがずらりと並んでいた。https://www.drclarkhouse.com/

 こんな感じで、音楽ショーはまだまだだがアウトドアダイニング事情は工夫を凝らして、楽しみを作っている。今年はサマーフェスも祭りも野外映画もない。9月に入れば学校もオープンする。パンデミックのなか、この先の毎日の生活はどう変わるのだろうか。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972