「Nothing」と一致するもの

vol. 131 : 2022年1月、ニューヨークの現在 - ele-king

 前回のコラムを書いてから半年経った。以前のような、毎日バンドを見て、いろんな人にあって、旅をして、ショーをして、というエキサイティングな日々はなくなった。1年半続いた、失業保険もなくなった。かといって、仕事にすぐ戻る気もない。少し日本に行き、その後は、パンデミック以降にじょじょに増えだしたポップアップをやっている。毎日のようにいろんなバーや会場で、たこ焼きを焼きながら、そこで自分の作ったプロダクト、たこ焼きイヤリング、クロシェマスク、ヘッドバンド、ハット、フルーツ・ディッシュクロスから、酒粕を使ったスイーツやおかず系のもの、ハードコンブチャ、ジンジャービアなどを売っているのだ。パンデミックがはじまった頃、クオモ州知事の命令で、ドリンクを頼むときはフードもオーダーしなければならない、というルールができた。そのときに、私はいろんなバーからオファーを貰い、たこ焼きを焼きだしたのだが、そのルールがなくなったいまでもバーはこころよくポップアップをさせてくれている。

 2ヶ月前ぐらいまでは、ニューヨークはワクチン、ブースター接種も進み、感染者数も低いままで、そろそろ普通に戻れるのか、と淡い期待を抱いていた。が、1ヶ月前あたりからコロナ感染者が一気に急上昇。記録をどんどん更新し、気がつけば私の周りはほとんどがコロナに感染、5人に1人、ぐらいの状況である。昨日一緒にいた人が今日いきなり陽性だったと伝えられ、毎週のようにテストを受ける日々が続いている。
 私は去年の8月に、コロナに感染した(デルタ株だと思われる)。熱が39度ほど出て、それが4日ぐらい続き、ベッドから出ることができず、味覚も2、3日なくなった。ワクチンを2回受けた後で、まわりは誰も感染しなかったのに、という謎の感染だったのだが、抗体はできているようで、いまのところテストは毎回陰性である。
 そして、今回のコロナ急上昇。オミクロン株だが、コロナはじまって以来の感染者数を記録し、テストサイトは毎日行列。新年明けたいまは少し緩和したが、ホリディ前は、予約を取っていっても2時間寒いなかで待たされる始末。1日で出るはずの結果も3、4日かかり、その間はモヤモヤするばかり。コロナ感染が急上昇しはじめたのが12月上旬なので、そこからバラバラと、バーや会場も一時クローズ。ニューイヤーイヴのショーもほとんどがキャンセルか延期だった。私がポップアップをしているバーや会場はほとんどがクローズしなかった。お客さんは少なかったが、それでもやっぱりレストランやバーに来たい人はいるし、その人たちがプロダクトを買ってくれた。NYEはライヴショーでポップアップしたが、その日はラッキーなことに暖かく、外にステージやバーを作って、すべてを外で催した。いまならきっと無理だっただろう(現在マイナス)。

 今回の株の症状はマイルドで、そこまで心配ないということだが、やはりかかりたくはない。私も迷っていたブースターを年末に受けた。去年、レストランやバーは外のみだったが、現在、内側もワクチン証明を見せれば座れるのである。ただ、まわりでコロナにかかっている人はほとんどがブースターも受けている。ワクチン証明をレストランやバーで提示するのは意味があるのかな、と最近思う。なかで感染する可能性があっても、外で凍えながら座りたくはない。それが嫌な人はまずレストランに来ない。






Ian Wellman - ele-king

 イアン・ウェルマンは、カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とするサウンド・アーティスト、プロダクション・サウンド・ミキサー、フィールド・レコーディング・アーティストである。
 この『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、2021年12月に〈Room40〉からリリースされたウェルマンの新作だ。同レーベルからリリースされたロバート・ジェラルド・ピエトルスコ『Elegiya』と同じく薄暗い空気と微かな光のようなアンビエント・ドローン作品に仕上がっている。
 もちろん『Elegiya』と『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は異なる作品だ。シネマティックなムードは共通しているが、『Elegiya』は幽玄な質感のドローンであり、『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、ノイズ音楽や生体音響学などに影響を受けたというイアン・ウェルマンらしいノイジーなうごめきに満ちたアンビエント/ドローンである。
 ウェルマン本人のライナーによると「怒り、不安、希望の間で揺れ動き、通常はディストーションやノイズに変化し」「世界中で起きている出来事に意味を見出そうとする試み」であったという。加えて「行き詰まった人生に対する私自身のフラストレーションを癒す方法」でもあったとも書いている(https://ianwellman.bandcamp.com/album/on-the-darkest-day-you-took-my-hand-and-swore-it-will-be-okay)。不穏な社会や不安定な個人を反映するかのようなサウンドであるのはこういった背景があるからだろうか。
 インターネットや現実で引き起こされる多くの社会問題や社会情勢はアンビエント・ドローン作品のような抽象的な音楽にも深く影響を与える。つまり時代が暗ければサウンドの質感にダークなものが増えるというわけだ(反対に過剰に癒しを放つものも増えてくる)。社会の無意識を写す鏡のような現代アンビエントだ。ちなみに現代アンビエント・ドローンの名手とはいえばヤン・ノヴァクであり、彼の霧のような美麗ドローンをまず思い出すが(彼の音響は本当に美しい。まるで空気を浄化するようなアンビエントなのだ)、イアン・ウェルマンの諸作品は、ヤン・ノヴァクのアンビエントとは異なる魅力を発している。
 イアン・ウェルマンのアルバムを聴いていると、世界の不安や不穏をスキャンしたサウンズの波を感じてしまうのだ。彼は社会/世界、世界の変化や状況にとても敏感かつ鋭敏な感性を持っている音楽家なのだ。尖っていて不安定な感覚があるのだ。音もセンシティヴである。この感覚は精神の沈静を追求するアンビエントの音楽家の中では稀だ。不意にリリース・レーベル〈Room40〉を主宰するローレンス・イングリッシュの音楽性を思わせもする。
 2018年にヤン・ノヴァクが主宰する現代アンビエント・レーベルの名門〈Dragon's Eye Recordings〉からリリースした『Susan's Last Breath Became the Chill in the Air and the Fog Over the City's Night Sky』、2019年に同じく〈Room40〉からリリースした『Bioaccumulation』もそのような世界の不穏さを反映していたように思う。
 2021年にリリースした本作『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』では、これまで以上に、不穏なアンビエンスに聴こえた。やはりコロナ以降の世界の反映だからだろうか。

 アルバムには全13曲が収録されている。どの曲も微かなノイズが刺すように鳴り、一方で溶け合っていくような持続音を聴かせてくれる。しかもトラックには4分台の曲多い(1分ほどの曲もある)。この種のアンビエント作品は一曲が長いものが多いのだが、その点からしても異質な作風である。
 本作は長い音の持続にじっくりと耳を澄ますタイプの作品はなく、ノイズのフラグメンツ(断片の数々)を摂取するようなアルバムなのだ。この断片性は聴く物に独特の不安感(と心地よさ)を与えてくれる。
 じじつ、このアルバムを聴くと気候変化や社会問題、事件、事故などが混じり合った、いまこの時代特有の集合的無意識を聴取するような独特の不安感があるのだ。ほぼ同時期にリリースされた『I Watched The World Burn Without Leaving My Home』と合わせて聴くと、さらなる孤立感や時代の無意識を感じることができる。いわば「社会」「世界」に抵抗しつつ溶け合っていくような聴取体験があるのだ(『I Watched The World Burn Without Leaving My Home』はどうやら世界各地の火災問題を扱っているようだ)。ノイズという厳しい現実と平穏というアンビエントが交錯し、彼の音楽として総体を形作っている、とでもいうべきか。
 そう、『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、まさに心と体と世界の境界が融解/溶解するようなアンビエント/ドローンなのだ。1年のはじまりに(でなくとも良いのだが)心身を調律するように聴き込みたい。

Trilogies - Mars89 episode 1 - ele-king

 レコード店「Disc Shop Zero」の店主、飯島直樹氏が永眠してはや2年、今年の2月で3回忌を迎える。彼の功績に敬意を表しつつ、彼が志した低音の美学とその広大なヴィジョンを継承すべく、2月11日(金)渋谷のContact Tokyoにて、飯島氏がオーガナイーザーでもあったポッセ〈BS0〉がパーティを企画する。「Disc Shop Zero」に行ったことがない人も、ぜんぜんウェルカム。足を運んで、力強いベースを感じて欲しい。

年明けのダンス・ミュージック5枚 - ele-king

 新年あけましておめでとうございます! 2022年も音楽についてたくさん書いていきたいと思います。2021年は、僕の力量不足ゆえ(単に怠けている日もある)に書けなかった作品がいくつもあった。今年は全て書く勢いでやるということで、そこを抱負に精進します。ということで新年一発目のサウンドパトロール、よろしくお願いします。


SW2 & Friends - Hither Green Glide / For The People | GD4YA

 EL-B の運営する〈GD4YA〉は、UKガラージのダークな側面を好む人ならチェックすべきレーベル。彼自身、90年代からいくつかのレーベル(Not On Label のホワイト盤も多数)からアングラでダークなUKガラージを提供してきたDJ。もちろん、〈GD4YA〉のサウンドはその焼き回しではなく、現代版へきちんとアップデートされており、さらにハズレもあまりないときた。今作は、〈Rhythm Section International〉などからリリースを重ねる FYIクリス、エズラ・コレクティヴの鍵盤奏者として知られるジョー・アーモン=ジョーンズなどが参加。あのダークなUKガラージの音(〈Tempa〉の『The Roots Of Dubstep』を聴くと良し)を踏襲しつつ、南ロンドンにおけるハウスとジャズの視点も加えている。かなり面白い。

Instinct – PAUSE LP | Instinct

 「UKガラージのダークな側面」なんて書いたので、こっちも紹介しないわけにはいかない。バーンスキ(Burnski)による、UKガラージ専用のインスティンクト名義でリリースされたフルレングス。連番でいくつかの12インチを出しており、それらをまとめたのが『PAUSE LP』。5番に当たる「Pstolwhip」は最高にオシャレなUKガラージで大好きだけど、今作には未収録……。流行り(?)の音数少なめでカラッと乾いた質感のUKガラージ・ビートがずっと続く、素敵な10曲入りLP。ベースは効いていてダークさはあるけど、なぜか凄くオシャレに聴こえる。個人的ベスト・トラックの “Apache” はサンプリングかと思うが、実弟によるヴォーカルのピッチをいじったもの。12インチの集成なのでそれぞれのツール感は否めないが、それでも聴きやすくまとまっていると感じた。

WILFY D & K–LONE - VITD004 | Vitamin D Records

 K-ローンといえば、ファクタと運営するロンドンは〈Wisdom Teeth〉でよく知られている。が、Wilfy D とコラボレーションした今作は、言ってしまえばらしくない、スイートでソウルフルなUKガラージに仕上がっている。“Str8 Up” なんて最高なチャラ系UKガラージでかなりのお気に入り。そもそも、90年代におけるUKガラージというジャンルにはかなり売れ線の曲もあって、そこそこチャラい側面があることを思い出させられる。ちなみに Wilfy D のほうは、自身の〈Vitamin D Records〉や〈Dansu Discs〉などでリリースしつつ、ブリストルのレコード店&レーベルの〈Idle Hands〉のスタッフとしても働いている模様。いま挙がったのは全てUKにおける現行のレーベルで、全てかっこいいので合わせてチェックしよう。

Joy Orbison - red velve7 | TOSS PORTAL

 2021年の個人的なハイライトのひとつ、それはジョイ・オービソンの『Still Slipping Vol.1』だった。本当にカッコ良かった。サウンドがカッコ良いのは当たり前だけど、何よりも「そこにい続けて……、もちろんいまもそこにいる」その姿勢がカッコ良いのだ。この曲は、ジョイ・Oによって突如ドロップされた未発表曲のうちのひとつ。ジャケは彼の祖母で、西ロンドンで音楽系のパブを祖父とふたりで経営していた方なのだそう。曲のリリースに際したインスタのポストによれば、「まだ始まったばかり」だと。これからも彼の動向には目が離せない。

Blawan - Woke Up Right Handed | XL Recordings

 相変わらず、〈XL〉のこのシリーズは良いリリースが多い。去年は LSDXOXO による猥雑なゲットー・ハウス「Dedicated 2 Disrespect」が最高だったし、その前だとジョンFMの「American Spirit EP」も良かった。そしてブラワンからの「Woke Up Right Handed」も、これまた半端じゃない一撃だった。数あるフライト(2019年は340回もあったそう!)に嫌気がさし、いまは拠点とするドイツで酪農により多くの時間を割いているそう。このEPから出てくる音がそんな生活から生み出されたものなんて……。“Under Belly” のホラーめいた異様なサウンドが酪農生活によるものだとは、にわかには信じかたいよね。

Ross From Friends - ele-king

 ローファイ・ハウス(≒ロウ・ハウス)なるタームが隆盛したのが 2010 年代。ハウスの四つ打ちは有しているものの、それはクラブでの使用を念頭に置いたものではなく、主なテリトリーはインターネット──とりわけ YouTube であった。そのメランコリックかつノスタルジックな雰囲気を携えた音楽は、どちらかといえばクラブに通いつめるパーティ・アニマルよりも、ベッドルームでひとり夜な夜な音楽をディグるナードたちを喜ばせた(そのどちらの属性にも当てはまる変わり者は別として)。90 年代におけるIDMがそうであったように、ローファイ・ハウスもダンスを契機としながら、機能性のみを追求したジャンルではなかったのだ。やがてときは経ち、そこに括られていた才能溢れる面々も、近年では、YouTube の縦横1280×720のサムネイル画像なんかには収まらない躍動を見せている。

 USの人気シットコム『フレンズ』の主要キャラクターからネーミングを拝借した、エセックス生まれのロス・フロム・フレンズことフェリックス・クラリー・ウェザオールもまた、そのひとりだろう。「ダーク、ムーディ、ノスタルジック&ヴァイヴスなクラブ・マテリアル」(実にローファイ・ハウスらしいワードが並ぶ、レーベル説明文による)に焦点を当てた、〈Lobster Thermin〉のサブ・レーベル〈Distant Hawaii〉からの “Talk To Me, You’ll Understand” の YouTube 再生回数はすでに800万を超える。聴けばおわかりの通り、背後にはノイズが流れ、ハイハットやスネアにはわずかな歪みが掛かり、そしてチョップされたヴォーカル・サンプルを主体とする、反復的な四つ打ちを有する構造……まさにローファイ・ハウスのお手本のような曲である。いやしかし同時に、このリリースからすでに何年もの月日が流れてもいるのだ。その間、彼はいくつかのEPをリリースしているし、フライング・ロータスと出会い〈Brainfeeder〉と契約し、1枚目のフルレングス・アルバム『Family Portrait』をドロップ。そしてブレイクした “Talk To Me, You’ll Understand” から数えておよそ5年。めくるめく変化し続け、それが今作の『Tread』に結実した。

 〈Brainfeeder〉からの2枚目のアルバムということもあり、過去にあったあのローファイ・ハウスの感触はすでに影を潜めている。まず感じたのは圧倒的に音が良い。もはや、ローファイではなくハイファイになっている。オープナーの “The Daisy” から早くもベスト・トラックと言いたくなってしまうクオリティで、近年のトレンドといえるUKガラージを拝借したサウンドに、ロス・フロム・フレンズによる複雑かつ緻密なアレンジメントが冴え渡る好トラックに。続く “Love Divide” や “Revellers” を聴けばより明らかに感じるが、リズム面ではダンス/クラブの作法を感じさせるものの、明らかに空間が広く感じられる奥行きと立体感を伴ったサウンド・デザインが施されており、これはゴリゴリの低音が効いたクラブのサウンドシステムよりも、質の良いスピーカーないしは細部まで聴き取れるヘッドホンで、じっくりゆっくり味わいたくなるような音楽だ。

 また、マッドリブにインスパイアされたという “A Brand New Start” は、クラシックなソウル/ジャズとモダンなエレクトロニックの邂逅といったところで、過去のサンプリングに新たな息吹がもたらされるこの上ない好例に思える。“Life In A Mind” は、パティ・レベルのヴォーカルをサンプリングした一発勝負かつアイデア勝利の面白い曲で、こちらも同様に彼の緻密なサウンドの調理が施されている。前者に関しては、一聴したとき、ふとカリブーの “Home” なんかを思い出した。そういう意味でも『Tread』において、彼の作る音楽はそれらUKのヴェテランたちにすら迫りつつあるとも感じさせる瞬間がある。

 ロス・フロム・フレンズは録音物としてのクオリティにとことんこだわり続けたのだろう。その絶え間ないプロセスの大きな一助となったのが、彼お手製の「Thresho」というプラグインで、これによって彼は Ableton 上で演奏したあらゆるものを簡単に保存できるようになり、より自由に音楽制作に没頭できたと語る。そのプラグインは無料で公開(https://thresho.rossfromfriends.net/)されており、それと合わせて、『Tread』の制作中に彼自身が録音した50GB(!)にも及ぶ使われなかった音の素材もダウンロード可能になっている。使われなかったものだけでも2000以上もの音の素材があるのだ。その事実だけで、彼が『Tread』を制作するべく、どれだけのスタジオ・ワークを積み重ねたのかは想像に難しくない。

 『Tread』はロス・フロム・フレンズの次の段階を示している。彼がローファイ・ハウスとタグ付けされたあの頃から比べると、その鳴っている音をはじめとしてあらゆることが変わっている(ちなみに、彼は父親になったそうです)。しかし彼が YouTube のサムネイルから飛び出そうとも、音がとんでもなくハイファイになろうとも、ヒップホップばりのサンプル・ヘヴィーな音楽を作ろうとも……色々なことが変わろうとも、あの頃、ロス・フロム・フレンズの音楽に興奮できたひとなら、このアルバムは必ず楽しめるに違いない。

編集後記(2021年12月31日) - ele-king

 ブラック・ミディブラック・カントリー、ニュー・ロードスクウィッドなど多くのインディ・バンドがエネルギッシュなアルバムを送り出す一方、ロレイン・ジェイムズアヤヤナ・ラッシュなど、エレクトロニック・ミュージックの側も負けじと数々の野心作を生み落とした2021年、個人的には「挑戦」の一年だった。
 ひとつは、夏の紙エレで日本のラップ/ヒップホップ特集号をつくったこと。ふだんその手の音楽ばかりを聴いているわけではないぼくにとって、これまで深くは考えてこなかった表現形態と向き合う良き機会となった。もうひとつは、臨増でメタヴァース特集号をつくったこと。これまたふだんテック系のイシューをメインに追いかけているわけではないぼくにとって、ヴァーチャル概念や身体性の再考など、新鮮な驚きの連続だった。
 と振り返ってみて気づいたのだが、ラップにせよメタヴァースにせよ、それら大部の背後には共通して「勝ち上がる/稼ぐ」というネオリベ的な価値観が横たわっている。その点にどう対峙するかにかんしてもまた試行錯誤の繰り返しだった。制作に協力してくださった方々、執筆陣、取材に応じてくださった皆さま、あらためてありがとうございました。
 とまれ、人間ってやつは得意なこと・好きなことばかりやっていても成長しない……いや、いかんな、これは「脱成長」と合わない考え方だ。2021年の大きなテーマのひとつは成長ではなく「持続可能性」だった。サステナビリティというやつである。わかる。続けられるか否かはとてもたいせつなことだ。

 後者の特集号をつくる過程で映画『竜とそばかすの姫』を観た。歌うことが好きだった主人公のすずは、じぶんを助けようとして母親が死んでしまったことがトラウマになり、うまく歌えなくなってしまっていた。過去と現在、田舎(リアル)とネットの対比、『美女と野獣』『時をかける少女』への(セルフ)オマージュなど、いろんな要素が盛りこまれた重層的な作品なのだけれど、メタヴァースという今日的な枷を外してみても、2021年のムードをみごとにとらえた映画だったように思う。
 劇中には「ジャスティス」なる集団が登場する。彼らは仮想世界の秩序を守るべく活動している組織で、同世界内で暴れまわる「竜」を追っている。リーダーの人物は相手のアヴァターを強制解除し「中の人」を白日のもとにさらすことのできるアイテムを持っている。いわゆる特定厨とSJWをかけあわせたような存在だ。マッチョな白人男性を想起させるいかにも「ヒーロー」なアヴァターを身にまとった彼には、「警察が必要だ」とのセリフが与えられている。
 ポイントは、彼が仮想世界=プラットフォームの運営者ではないところだろう。主人公や「竜」同様、いちユーザーにすぎない彼が(多数のスポンサーをバックにつけているとはいえ)独自に警察=国家の意志を内面化し、他人を追いこみ、狩ろうとするのだ。数年前話題になった、相模原殺傷事件の実行犯とおなじである。
 なぜひとは警察になりたがるのか? 『竜とそばかすの姫』が公開される四日前には、オリンピック開会式の音楽担当者が公表されている。ネットが普及する以前からあった問題とはいえ、2021年はあらためてその欲望の奇妙さについて考えさせられることになった。
 対照的なのが主人公のすずだ。彼女は告発もしなければ晒すこともせず、断罪もしない。物語の終盤、ある衝撃的な事実を突きとめたすずは、ふつうなら警察に通報しそうなものをそうはせず、わざわざみずからの足を使ってある人物に会いにいく。直接行動である。彼女を促したのは友情でもなければ恋でもない。ただたまたま出会うことになった気になる他人を助けたいという(無償の)行為が、結果的にじぶんを助けることにもなる──そんな相互扶助的な発想が『竜とそばかすの姫』の根幹を成しているのではないかと思う。
 もちろん、年末号で水越真紀さんが指摘しているように、そういうアクションは国家によって都合よく利用される可能性だってある。それでもぼくは、ミャンマーやらアフガニスタンやらオリンピックやら、とかく殺伐とした空気に覆われた2021年のなかにあって、すずの行動に素朴に勇気づけられたのだった。

 2021年、ele-king books は23冊の本を刊行した。2022年も多くの企画が控えている。引き続き時代を見すえた本をつくっていきたいと思っているので、楽しみに待っていてほしい。すずの気持ちを忘れず、がんばります。
 それでは、良いお年を。

You'll Never Get To Heaven - ele-king

 なぜ私たちが来たのか
 いつだってうまく思い出せない
 わからない
 私たちはなぜ来たのだろう
ブライアン・イーノ“バイ・ディス・リヴァー”

 “バイ・ディス・リヴァー”は、曲もいいが歌詞もいい。人生の真理だ。イーノが1977年にリリースした『ビフォア・アンド・アフター・サイエンス』の収録曲で、ドイツの電子音楽デュオ、クラスターとの共作としても知られているこの名曲をカヴァーしていのがアルヴァ・ノト&坂本龍一、マーティン・ゴア(デペッシュ・モード)、それからエレキングでお馴染みのイアン・F・マーティンと、ユール・ネヴァー・ゲット・トゥ・ヘヴン(以下、YNGTH)というシニカルな名前で活動するカナダの電子音楽デュオである。
 YNGTHは、2012年にデビューして以来、2014年にくだんのカヴァーをふくむシングルを1枚、それから2017年にセカンド・アルバムを出しているだけで、だからこの10年で本作を入れてわずか4作品しかないのだが寡作家というわけではない。メンバーのチャック・ブレイゼヴィックは、ドリームスプロテイション、スロー・アタック・アンサンブルというふたつのプロジェクトでも活動している。前者はエレクトロニック、後者はクラシカルで、両者ともに音数は少なく、ともに空間があり、とにかくドリーミーだ。要するにサウンドの指向性は、YNGTHとさほど変わらなかったりする。スタイルがアンビエントであろうとシンセポップであろうとクラシカルであろうと、彼らの音楽は蒸気であり、綿であり、夢のなか。「You'll Never Get To Heaven=決して天国へは行けない」というバンド名は、反語なのである。
 
 あてどなく歩き、ふと気がついたら川辺にいる。前に進めず立ち止まり、空を仰いで、どうしてここに来たのか理由が思い出せないことをそのとき知る——カフカめいた人生観を彷彿させるこれがイーノによるオリジナル版“バイ・ディス・リヴァー”だと言うのなら、YNGTHによるカヴァーは、川辺で立ち往生しながら別次元に入って気持ちよくなってしまっている。思い出せないことは快楽とでも言うかのように。そう、天国にしか行けない。
 もっとも、ドリーミーではあるが潔癖症的で、なるほど日本の「環境音楽」に影響を受けたという話も頷けなくもないのだが、かつては、彼らのサウンドからレイランド・カービー(ケアテイカー)めいた“幽霊たちのボールルーム”を引き出した人もいたのだった。たしかに、少し手を伸ばせばボーズ・オブ・カナダやブロードキャストにも届くのかもしれない。が、他方ではエリック・サティのカヴァーもしている彼らのアンビエントには上品な静寂があり、癒やしもあり、滲むように広がるアリス・ハンセンのささやき声は、彼らの美しい空間を演出する一要素として機能している。『降雪列車にあなたの月光帽子を振る』というタイトルはノスタルジーというよりはシュールであって、じっさいこれは詩的な音楽でもある。
 まあ、好きなように解釈すればいいだけの話だ。1年の終わりというのはとかく感傷的になりがちで、ひとりでこの音楽に浸るにはもってこいの時期だったりもする。いやー、なにかと疲れました。我々はyahooニュースやそのコメント欄や新聞の見出しのなかに生きているのではない。ときには休息、川辺に佇むことが必要なのだ。

断片化された生活のための音楽 - ele-king

※以下のイアン・F・マーティンによるコラム原稿は、web掲載した〈ラフトレード〉インタヴューと同様、別冊エレキング『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界』のなかの小特集「UKインディー・ロック/ポスト・パンク新世代」のために寄稿されたものである。今日の状況を知るうえでもシェアすべき原稿なので、ここに再掲載します。

Music for fragmented lives
断片化された生活のための音楽
イアン・F・マーティン(江口理恵・訳)
written by Ian F. Martin / translated by Rie Eguchi


ザ・スミスの再来とも言われ文学性が評価されているフォンテインズ D.C. by Vinters Pooneh Ghana

 UKは混乱した、幸せではない場所だ。貧困の拡大、ナショナリズムの高まり、ブレグジットから、選挙民が絶望しながら受け入れた狭量な保守主義まで、大量の新聞の見出しは何かがとんでもなく間違っていること、つまり、孤独な国がパニックに陥って自分自身を抱きしめ、粉々になり、断片となって崩れて行く様子をはっきりと示している。
 しかし、このような目に見える衰えの兆候の裏には、目に見えにくいたくさんの不安が隠れている。とくに若者にとっては劇場型のブレグジットによる玄関払いを喰らって、様々な機会が閉ざされるという感覚は、緊縮財政や21世紀の資本主義の不安定な労働条件のなかでもう長いこと続いてきたことだ。ミュージシャンたちにとっては業界が少数のデジタル・インフラの所有者たちのまわりで合体し、音楽がプレイリストのための、哀れなほどの報酬のコンテンツになり下がり、ブレグジットによって引き起こされた欧州ツアーへの財政的、官僚的な障壁もまた、閉ざされた扉のひとつだ。
 2019年9月、私はUKをエンド・オブ・ザ・ロード・フェスティヴァルのために訪れた。エンド・オブ・ザ・ロードは英国のインディーズ・フェスティヴァルの最高峰で、爽やかな、またはメランコリックなシンガーソングライターからアフロビート・オーケストラ、ジェンダーフルイドなグラム・エレクトロニカまで、様々なアーティストが出演する混沌とした世界のなかの芸術的でリベラルなバブルのような心地よさがある。しかし、2019年に印象に残ったのは様々なテントやステージから聴こえる音から立ち昇る怒りと、激しい無秩序ぶりだった。カナダのクラック・クラウド、アイルランドのフォンテインズD.C.から、ワイヤーのようなヴェテラン勢がエネルギーに満ちた音を立て、ビルジ・ポンプの粗い、惑わせるように旋回するリフ、Beak>のクラウトロック的なミニマリズム、そしてスリーフォード・モッズの意気揚々とした凱旋のヘッドライナー・セットなど、これらの、またこれ以外のアーティストたちの演奏もポスト・パンク的な緊張感と角のあるスレッド(糸)のようなものに貫かれていた。
 この日ラインナップされていた若手の有望株のなかでも、斜めからのポスト・パンク的なアプローチをする4つのバンド、ゴート・ガール、スクイッド、ブラック・ミディとブラック・カントリー・ニュー・ロードが話題になっていた。2年後、彼らが代表する奇妙で興味深い世代の新しいブリティッシュ・ミュージックが育ってきているが、彼らが実際に何を代表しているのかを特定するのは難しい。
 音楽史のなかで特定の時代に結びついたタームである、レンズの役割のようなポスト・パンクは、ここで起こっていることの幅を説明するには充分ではないように感じる。これらのバンドは少なくともブレヒトやワイルの伝統にまで遡る部分を持ち、エクスペリメンタル・ロック、No Wave、カンタベリーのサイケデリック・シーン、クラウトロックなど、すべての〝ポスト~〟のジャンル(ポスト・パンク、ポスト・ハードコア、ポスト・ロック)にまで貫かれ、同時にキャプテン・ビーフハート、ジズ・ヒート、ザ・カーディアックス、ライフ・ウィズアウト・ビルディングス他の挑戦的なインディヴィジュアルに活動するアーティストたちにも及んでいるのだ。
 しかし、ポスト・パンクをより抽象的に、パンクがイヤー・ゼロの基点からの短い爆発で残した断片をくし刺しにして繋ぎあわせる、音楽を取り戻すプロセスだと考えるならば、今の若いバンドたちは文化的な瓦礫をふるいにかけて規範を過激に覆された後にそれを理解しようとする点で、同じような立場にあるようだ。しかし、パンクの時代とは違い21世紀の文化的な混乱は、若者のカルチャーからではなく、政府と資本主義の構造そのものから来ており、ポスト・パンクや、〝ポスト・パンクド(嵌められた)〟の若いミュージシャンたちは、切断され、断片化された自分たちの置かれている環境下で、扇動者ではなく、犠牲者となっている。
 断片化された、断絶的な感覚は、多くの新しいブリティッシュ・ミュージックのなかから聴こえてくる。
 ブラック・ミディの音楽の突然の停止や開始、トーン・シフトの多用、1920年代から直近にいたるまでの100年にわたる時間軸から受けた影響などから、それを聴きとることができる。彼らは音楽業界が資金援助をするパフォーミング・アーツの専門学校、ブリット・スクールの卒業生で、学校が提供する施設で実験ができただけでなく、音楽史を学んだことで広い視野にたって音楽を探究する恩恵を受けている。バンド自身もこの背景が与えてくれた特権を痛感しているようで、自分たちが受けた音楽教育を遊び心と小さな喜びを感じながら活用している。
 ロンドンのバンド、ドライ・クリーニングの素晴らしいデビュー・アルバム『New Long Leg』には断絶を意味するような、もっとダウンビート(陰気)な感覚がある。控えめだが、微妙にゴツゴツした音をバックに、ヴォーカルのフローレンス・ショーが毎日を無為に過ごしている人の日常の疲れて断絶した、サンドイッチを食べる気力もない、何かを経験することに意義が感じられないという一連のスナップショットをため息交じりに歌う。シニフィアン(意味しているもの)とシニフィエ(意味されているもの)の間にある皮肉なギャップ──「あなたは、あれほど汚い裏庭をもつ歯医者を選ぶか?」とアルバムのタイトル・トラックで問いかけ、「選ばないと思う」と応えている。
 ブラック・ミディの折衷主義とドライ・クリーニングの倦怠感はまったくの別物に見えるかもしれないが、根無し草のような感覚を共有している。それは、どんなに教育を受けて意識を高めても、自分のしていることでは何も変わらないという無力感や権利の剥奪といった形をとることがあり、敗北の雰囲気のなかにも解放感が感じられたりする。誰も自分のしていることに関心がないのなら、やりたいことを好き勝手にやっていいという免罪符を持っているという感覚だ。
 やたらと個々のバンドの意図を決めつけたりするのは危険だが、リスナーとしてはこの世代のバンドの音楽の多くが英国の生活を貫く断絶感と共鳴しているように感じる。ゴート・ガールは政治的なものと生活での体験をさりげなく結び付け、スクイッドは無数の方向にむかって半狂乱で爆発し、シェイムは「自分のものではない世界」に向かって怒りを燃やし、優れたザ・クール・グリーンハウスは皮肉たっぷりの不条理な物語を延々と反復される2音のみのギター・ラインに乗せて表現している。それぞれのやり方で、世界を前にして笑ったらいいのか、泣いた方がいいのかがわからないリスナーの不安と心の急所に触れているのだ。


2021年はセカンド・アルバム『Drunk Tank Pink』も出したユーモアと勢いのシェイム by Sam Gregg

 これらのバンドはすべて、何らかの方法で自分たちを取り巻く断片的な世界を理解しようとしている。たとえ、その不条理さに浸って楽しむためだけであったとしても。多くの批評家がザ・フォールの影響の高まりを指摘しているが、それはある意味、ザ・クール・グリーンハウスのトム・グリーンハウスが2020年のDIY誌のインタビューで指摘したように、安易な比較ともいえる。「みんな自分たちをザ・フォールと比較するし、その理由もわからなくはない。それは妥当な比較だとは思うけれど、ザ・フォールはあまりにも多くのバンドに影響を与えてきた存在で、まるでラップのレコードをグランドマスター・フラッシュと比較するようなものだ。彼らはその道のゴッドファーザーだけど、ラップはとても豊潤な世界で、いまはみんながラップの要素を使ってたくさんのことをしているのが現実だ」
 彼の言うとおり、ザ・フォールの語りかけるようなヴォーカルと反復するクラウト=パンクのリズムは、本当にあらゆるクリエイティヴな方法で用いることのできるシンプルなツールである。ドライ・クリーニングやヤード・アクト、ドゥ・ナッシング、ガッド・ホイップとビリー・ノーメイツは皆、インディー系の言語を様々な方法で表現している。そしてこのラップとの比較が面白いのは、最近のインディー・ギター・バンドが注力していること、つまりヒップホップが伝統的に得意としてきた──人生における混乱を物語に織り交ぜて意味を持たせる──ことを表現するため、このゆるいヴォーカルの構造がじつにパワフルな方法になりうるからだ。ザ・クール・グリーンハウスはこれらの物語を音楽の中心に据えている。ブラック・カントリー・ニュー・ロードは、道にはぐれた生活のスナップショットを話し言葉による物語として、複雑で騒々しいマリアッチとスリント風のアレンジに織り込んでいるのだ。正式な意味での物語とは言えないかもしれないが、我々は皆、このような断片的な物語をソーシャル・メディアで創造し、フィードに流れてくるノイズを構造化された物語としてではなく、本能的に、感情の質感を読み取っている。
 物語は空間のなかにも存在する。「ブラック・ミディの前で、君に愛していると告げた」と、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのアイザック・ウッドは〝Track X〟のなかで情景を描写するように言っているが、冗談のようでありながら、おそらくライヴ会場などの物理的な空間の重要性についても言及しているのだ。断片的な命を一か所に集めて観客がシェアできる経験を創りだすと同時に、バンドたちが共に発展して繋がっていく場所のことを。ブラック・ミディやスクイッドの曲の多くは長尺で、8分強あるものが多い。これらのバンドは、分割してSPOTIFYのプレイリストに組み込まれるための最適さは持ち合わせていない。彼らは、一度の機会にすべてを体験するためにあるバンドなのだ。
 独立系の会場がバンドの成長に欠かせないインフラであるとすれば、レーベルもまた役割を担っている。ブラック・ミディ、ゴート・ガール、スクイッドにブラック・カントリー・ニュー・ロードは皆、〈Speedy Wunderground〉レーベルのプロデューサー、ダン・キャリーとの繋がりを持つ。自宅のスタジオで、1日で7インチ・レコードを録音し、ミキシングしてマスタリングするキャリーの作業工程は、自発的でエネルギーにあふれた時代感覚を捉えているし、シングルを非常に限定的にしかプレスしないというレーベルの抜け目のないポリシー(フラストレーションはたまりそうだが)が、〈Speedy Wunderground〉のリリースを期待の高まるイベントにしているのだ。キャリーのような人びとの重要性はカルチャーのなかのノイズをふるいにかけ、新しい、エキサイティングなものに焦点を当て、我々が断片的なもののまわりに物語を組み立てることが可能になることにある。〈Rough Trade〉、〈Warp〉、〈Ninja Tune〉や〈4AD〉のような、影響力があって、いまも独立系であり続けるレーベルの存在がこれらのバンドを次のレヴェルに押し上げて、彼らの物語をさらに幅広いところへ届けることを確約するのだ。
 これらのバンドはいずれも、いま、UKで騒がれている豊富な人材のそろった幅広いポスト・パンク層の表面をなぞっているに過ぎない。ガールズ・イン・シンセシスやEsの怒りに満ちたスラッシュから、ハンドル、スティル・ハウス・プランツの実験的ミニマリズム、薄汚れたインディ・アート・パンクのカレント・アフェアーズとウィッチング・ウェイヴズ、心にとり憑く崇高なナイトシフトまで、周囲の混乱や断絶、断片化にもかかわらず、いや、だからこそ、UKから驚くほど豊かな音楽的なクリエイティヴィティが生まれているのだ。
(初出:別冊エレキング『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界』2021年7月刊行)

Parris - ele-king

 まさに新機軸といった感じで、ここからいくつものビートの可能性が解き放たれ、新たなフロアの景色を見せてくれそうな、そんな気分になるエレクトロニック・ミュージックのアルバムだ。もしかしたら数年後に「あの曲が」というような感覚の作品になるかもしれない。DJカルチャー的な「流れ」も意識しながら、そのサウンドはツールの枠には収まらないオリジナリティに溢れている。ポスト・コロナにリリースされた多くのDJたちによる、レイドバックした「リスニング向け」のサウンドとは少々距離感のある、攻めたダンス・グルーヴの遊び心を隅々まで満足させてくれる、それでいて刺激的なリスニング体験を用意した、そんなアルバムでもある。

 ロンドン生まれ、ハックニーとトッテナムを行き来し育ったというドウェイン・パリス・ロビンソンのプロジェクト。ダブステップ~ベース・ミュージックのシーンに衝撃を受け、しかしシーンへの参入の当初は、どちらかといえば裏方で、2010年前後は、レコード店、BM Soho で働きながら、ベース・ミュージックの新たな波を用意したロンドンのレジェンダリーなパーティ《FWD>>》に足繁く通っていたそうだ。そのうちにダブステップの最重要レーベル〈TEMPA〉のスタッフとして2013年から4年間働きはじめる。スタッフをしながらも、WEN とともに〈TEMPA〉からのシングルでデビュー。その後はその折衷的なDJと決して多くないリリースながら、まさに旬の、テクノとベース・ミュージックにまたがる名門レーベルから作品をリリースすることによって評価をモノにしてきた。具体的に言えば〈Hemlock〉、〈The Trilogy Tapes〉、〈Idle Hands〉、〈Wisdom Teeth〉など、2010年代後半のUKを象徴するレーベルばかりだ。ダブのベースラインを基礎に、リズムの冒険によってシンプルにエレクトロニック・ミュージックとしてのうまみを追求しているといった印象がある。DJツールとしての、フォーマットによるある種の機能美と実験性と、ダンス・サウンドのふたつの側面から言えば、やはりジャンルに帰属しがちな前者よりは、折衷的かつ多様なスタイルで、後者に重きがある作品を作り続けている。だからといってDJカルチャーと距離を取った作品はほとんどないのも事実だ。そのへんもあり、それぞれのシングルはひとりの人間が作っているとは思えないほど多種多様な音楽性を持ち、それゆえにどこかミステリアスな魅力に溢れてさえいる。そしてそれは本作の多彩なサウンドと同様、根底で共鳴しながらバラバラながらもパリスというアーティスト象を作っているともいえる。

 最近のトピックでは、本作リリース・レーベルとなる〈can you feel the sun〉の立ち上げではないだろうか。共同設立人は、ファブリックのミックスCDのリリースやセカンド・アルバム『Arpo』の高い評価、同様のベース・ミュージックとテクノやハウスの汽水域から出てきた同世代のスター、コール・スーパーである。本作でもコラボレーターとして、そして彼のサポートも大きな要素となったようだ。

 こうしてベース・ミュージック・シーンの注目株として、じわりじわりとその評価をあげてきたパリスがリリースした『Soaked In Indigo Moonlight』。いや、しかし冒頭に書いたように新機軸の塊といった感じでとにかく刺激的な楽曲が続く。ポスト・ポスト・ダブステップなジェネレーションらしく、分厚いサブべースこそ、その世界の基底を定めるがごとくアルバム1枚を通して鳴り響いているがそのリズムは恐ろしく多様だ。Carmen Villain をフィーチャーした “Movements” では、ウェイトレスなグライムをどこかディープ・ハウス化したようなトラック、そして本作の外側でも一気にブレイクしそうなキラー・ポップ・トラック “Skater's World with Eden Samara” では、女性ヴォーカルを使ったアフロ・スウィングなダンスホールを、続く “Contorted Rubber”、もしくはIDM的な質感の “Sleepless Comfort” ではつんのめったジュークのグルーヴを、ジャングルを解体した “Crimson Kano” “Poison Pudding” といった楽曲たちが続く。こうした刺激的にもほどがあるリズムに対して、テクノ的な繊細なメロディを重ねていく。またリズム・アプローチ以外にもモンド~イージー・リスニング的な感覚をベース・ミュージックに落とし混んだ “Laufen in Birkencrocs” などなど、いやいちいち突っ込んでいると無限に書けてしまいそうなアイディアがそこかしこに点在している。

 本作を聴いて思い出したのは〈リフレックス〉の作品群だ。彼らが1990年代後半から2000年に用意した、テクノの可能性──アートでグリッジなエレクトロニカでも、ストイシズムが貫くミニマルなテクノでもない、ある種のポップさも内包し、DJカルチャーに刺激されたグルーヴを持ちつつ、それでいてベッドルームの自由さを謳歌するスタイルたち。それによって持ち込まれたテクノの多様さの可能性は後に考えれば非常に大きなものだったが、あの感覚と同じものが本作には息づいていると言えるのではないだろうか。と、書いていながら、“Poison Pudding” がプラグ(ルーク・ヴァイバート)の初期作に、“Laufen in Birkencrocs” はマイク&リッチーあたりの作品に聞こえて………。しかし、もちろん、そのサウンドはオマージュというには過ぎるほど、アップデートされた音像と刺激がある。本作にはエレクトロニック・ミュージックの遊戯性とDJカルチャーが生んだグルーヴの喜悦、その間で生き生きと作られたベッドルーム・テクノの新たな姿が描かれていると言えるだろう。


interview wuth Geoff Travis and Jeannette Lee - ele-king

 以下に掲載する記事は、2021年7月に刊行された別冊エレキング『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界』に掲載の、〈ラフ・トレード〉の創始者、ジェフ・トラヴィスと共同経営者ジャネット・リー(『フラワーズ・オブ・ロマンス』のジャケットで有名)、ふたりへのインタヴューです。現在のUKインディ・ロック・シーンに何が起きているのか、UKインディに起点を作った人物たちがそれをどう見ているのか、じつに興味深い内容なのでシェアしたい思い、ウェブで公開することにしました。
 〈ラフトレード〉については日本でも多くの音楽ファンがその名前と、だいたいの輪郭はわかっていると思う。しかしながらこのレーベルが、マルクス主義とフェミニズムを学んだ人物によって経営されていた話はあまり知られていない。このあたりの事情については、ele-king booksから刊行されたジェン・ペリー(ピッチフォークの編集者)が書いた『ザ・レインコーツ』に詳述されている。ま、とにかく、彼=ジェフ・トラヴィスには彼が望んでいる未来がありました。彼の志はおおよそ正しかったのですが、未来とは予想外の結果でもあります。さてさて、彼がポートベローに小さなレコ屋を開いてから45年、“UKインディ・ロック”はどこに向かってるのでしょうか。どうぞお楽しみください。


2021年はスリーフォード・モッズの素晴らしい『スペア・リブ』からはじまった。 by Alasdair McLellan

数多くのエキサイティングなバンドがいま浮上してきている、間違いなくそう思う。ただ、今回の違いと言えばおそらく、いま出てきている若いバンドの多くは本当に素晴らしいプレイヤーたちだ、ということでしょうね。テクニック面でとても秀でている。

ここ数年、日本から見て、UKのロック・シーンから活気が生まれているように感じます。スリーフォード・モッズのような年配もいますが、とくに若い世代から個性のあるバンドが何組も出てきて、このコロナ禍においてパワフルな作品を出しているように見えます。おふたりは70年代からずっとUKのロック・シーンの当事者であるわけですけど、いまぼくが言ったように、現在UKのロック・シーンは特別な状態にあると思いますか? 

ジャネット・リー(JL):ええ、数多くのエキサイティングなバンドがいま浮上してきている、間違いなくそう思う。ただ、今回の違いと言えばおそらく、いま出てきている若いバンドの多くは本当に素晴らしいプレイヤーたちだ、ということでしょうね。テクニック面でとても秀でている。若いバンドはたまに、数曲プレイできるようになり、髪型とルックスをかっこよくキメたらツアーに出てしまい、成長するのはそこから……ということもあるわけだけど(苦笑)、いま飛び出してきているバンドの多くは、テクニックの面ですでにとても優れていると思う。しかも彼らの多くはカレッジあるいは音楽校、たとえばブリット・スクールやギルドホール・カレッジ(ギルドホール音楽演劇学校)等に通った経験もあるから、ツアーに出る前に楽器演奏をしっかり学んでいる、という。いま起きていることの違いのひとつはそこだと、わたしは思う。

ジェフはいかがでしょう? ジャネットの意見に賛成でしょうか?

ジェフ・トラヴィス(GT):ああ、賛成。(苦笑)だから、わたしたちはいつだって意見が一致するんだ! 

JL:(笑)

GT:興味深いと思うのは我々が十代だった頃はいまのような音楽学校はなかったことでね。ブリティッシュ・ミュージック・シーンはある意味アート学校で生まれたようなものだ。実際に学生だった者だけではなく、アート校周辺に集まった連中も音楽をやっていた。それに、ピート・タウンゼントのように実際にアート学校に通った人びともいた。
 けれどもいまや、さまざまな音楽学校がそれに代わったわけだ。かつ、70年代には職がなければ失業手当の申し込みができ、政府からわずかのお金が給付された。飲食費に充てるのではなく家賃のためにね。
 ところが現在では、政府給付を受けるのははるかにむずかしくなっている。それに大学やカレッジといったアカデミックな道を望まない、あるいは義務教育以上に進学したくないキッズで、それでも音楽を本当に愛しているとか、何かをクリエイトするのが大好きという者たちは、先ほどジャネットが名前を挙げたような新たなタイプの音楽校に向かうわけだね。
 リヴァプールや南ロンドンをはじめ各地にそういった学校があり、彼らはそこに3年通ったり、専門校他の違ったタイプのカレッジに通い、音楽を学べる。実際、それが大きなサポートになっている。ミュージシャン同士がそうした学校で出会い、バンドを結成し、プロジェクトをやったり。たとえば、ミカ(・リーヴィ)の通った、キャンバーウェル(南ロンドン)にあるあの学校はなんだっけ? あるいは、ジョージア・エレリー(ブラック・カントリー・ニュー・ロード、およびジョックストラップ)が行ったのは……

JL:スレイド美術校? いや違う、ジョージア・エレリーが通ったのはギルドホール。

GT:ああ、ギルドホールか。ああいった面々は本当に才能あるミュージシャンであり、相当なカレッジに通ってね。

JL:でも、そればかりとは限らないし——

GT:たしかに、生まれつき才能のある者もいる。

JL:——ただ、彼らが基準を高く定めていく、と。

GT:ああ、レヴェルを上げる。違う世代ということだし、そこだね、70年代からの変化と言ったら。

JL:そう。

GT:思うに……それに70年代は、ある種60年代を引きずっていたとも言える。というわけで、カウンター・カルチャーの発想がいまよりももっと優勢だったのではないかな?

JL:(うなずいている)

GT:だから、若者はちゃんとした職に就こうとはしない、弁護士や医者になるつもりはない、といった調子で、親が子に望む生き方と逆の方向に向かったものだ。けれども、彼らはそういう考え方をしていないよね? いまのキッズは違う。

JL:ええ、それはない……。ということは、いまのキッズには反抗する対象があまりないということでしょうね、かつてのわたしたちと較べて(苦笑)。

GT:ああ。それにおそらく、まだ親と暮らしているだろうしね。

JL:でしょうね。

GT:なにせひとり暮らしをしようにも、家賃が高過ぎて無理だから。その違いは大きい。UKにおいて、音楽は歴史的に言っても、我々がいつだってかなり得意としてきたところでね。我々にいくらかでもある才能のうちのひとつだ。だからイングランドでは常に、新たな面白い音楽が生まれてくる。
 もっとも、ムーヴメントというのは正直、定義しにくいものでね。我々はその面は大概、社会学者やそれらについて書く音楽ジャーナリストの手に委ねておく。我々はとにかく、いま音楽をやっている人びとのなかで我々がベストだと思う者たち、我々全員がエキサイトさせられる連中を見つけようとするだけだ。
 とはいえ、うん、間違いなくひとつのムーヴメントがあるね。あの、歌うのではなくて、たとえばマーク・E・スミスやライフ・ウィズアウト・ビルディングスのスー(・トンプキンス)がやっていたような、歌詞を吐き捨てるごとくシャウトする一群の連中がいる。ドライ・クリーニングやヤード・アクト、スクイッドブラック・カントリー・ニュー・ロードといった連中、彼らがああいう風に「歌う」歌唱ではなく、「語る」調の歌唱をやっているのは興味深いことだ。

UKにおいて、音楽は歴史的に言っても、我々がいつだってかなり得意としてきたところでね。我々にいくらかでもある才能のうちのひとつだ。だからイングランドでは常に、新たな面白い音楽が生まれてくる。

これら新たなバンドがどんどん出てきているのには、何か社会/文化的なファクターがあると思いますか? それとも、じつはずっとこの手のバンドは存在し活動していて、シーンもあり、それがいまたまたメディアに発見され、脚光を浴びているのでしょうか? 

JL:新しいシーンはいつだって進行していると思う。常にね。そして、いつだってメディアがそれを取り上げ、命名するものだ、と。ただ、さっきも話したように、現在起きていること、おおまかに言えば南ロンドン&東ロンドン・シーンになるでしょうけど、それを他と区別している点は、新たなバンドのミュージシャンシップだと思っている。専門的な腕の良さ、彼らが技術的に非常に堪能であること、この新たな一群とこれまでとを画している違いはそこになるでしょうね。というのも、ほら、たとえばパンクの時代には、そこから離れていく動きがあったわけでしょう? 

たしかに。

JL:パンク以前は、人びとは技術的にとても達者だったし、(苦笑)ギターでえんえんとソロを弾いたり(苦笑)。そしてパンクが起こると、楽器が上手なのはまったくファッショナブルなことではなくなり、誰もそれをやりたがらないし、誰も聴きたがらなくなった。その側面は長い間失われていたけれども、こうしていま、人びとが再び音楽的な才能を高く評価する、そういうフェーズに入っているということだと思う。本当に、ちゃんと演奏ができる、という点をね。

GT:それもあるし、いま、ロンドンには非常に活況を呈しているジャズ・シーンもある。それは珍しいことでね。新世代の若い黒人のロンドン人たちが、ジャズを再び新しいものにするべく本当に努力を注ぎ込んでいる。それはずいぶん長い間目にしてこなかった動きだし、そこもまた、新しいバンドのいくつかのなかに入り込んでいる気がする。サキソフォンやホーン、ヴァイオリンなど、一般的なバンドでは耳にしないサウンドが聞こえるし、それも彼らにとってはノーマルな部分であって。そこはある意味興味深い。

たしかにジャズも勢いがありますし、新世代バンドのなかにはやや70年代のプログレが聞こえるものがあるのは、興味深いです。

JL:ブラック・ミディでしょ(笑)?

GT:ああ。

(笑)はい。なので、いまの世代は、パンクだ、プログレッシヴ・ロックだ、ヒッピー音楽だ、という風にジャンルを分け隔てて考えていない印象があります。影響の幅が非常に広いな、と。

GT:その通りだね。我々が本当に驚かされてきたのもそこで、たとえばブラック・ミディの3人と話すとする。で、彼らの音楽的知識、その幅、そして歴史的な理解は全ジャンルにわたるものであり、とにかく驚異的だね、本当に。わたし個人の体験から言っても、あの年齢で、あれだけさまざまな音楽や知名度の低いアーティストについて詳しい人びとに出会ったことはいままでなかった。ジャズ・ギタリスト、フォーク・ギタリスト、カントリー&ウェスタンのプレイヤー、ロカビリーのギター・プレイヤー等々。それはまあ、インターネットが人びとの音楽の聴き方の習慣を変え、あらゆるものへのアクセス路をもたらしたからに違いないだろうけれども。

JL:しかも、彼らは音楽学校に入るわけで。そこでも教育を受け、音楽史等について学ぶ。

GT:ああ、そうだね。にしても、彼らの音楽への造詣の深さ、あれにはただただ舌を巻くよ。

若手のシェイムをはじめ、ゴート・ガール、ドライ・クリーニング、スクイッド、ブラック・ミディ、ワーキング・メンズ・クラブ、ヤード・アクト、ザ・クール・グリーンハウス、コーティング、ブラック・カントリー・ニュー・ロード、ビリー・ノーメイツスリーフォード・モッズやアイドルズなどなど……彼らをポスト・パンクと括ることに関してはどう思われますか? 


ゴート・ガールの『On All Fours』もよく聴きました。 by Holly Whitaker

GT:ルイ・アームストロングはかつてこう言ったんだ、「音楽には良いものか、悪いものしか存在しない。わたしは良い類いの音楽をプレイする」とね。

JL:(笑)その通り。

(笑)ええ。

GT:いやもちろん、わたしも理解しているんだよ。ジャーナリストは数多くの原稿を文字で埋め、何かについて書かなくてはならないわけだし、物事をジャンルへとさらに細かく分け、そこに名前をつけようとするのは理にかなっている。けれども、ミュージシャンのほとんどはそれらのカテゴリーのなかに入れられるのが正直好きではないし、とくにジャンルに関して言えば、これらのバンドたちは、別の世代がやったのと同じようにカテゴリーを認識してはいない。非常に多様でメルティング・ポットな影響の数々が存在しているからね。ポップをやることも恐れないし、かと思えば次はフォーク、今度はソウル・ミュージックをプレイする、という具合だ。たとえばブラック・ミディは今日、ホール&オーツのカヴァーをやってね。

(笑)なんと!

GT:あれはまさか彼らから?と思わされた変化球だった(苦笑)。

JL:(笑)それに、彼らはブルース・スプリングスティーンの曲もカヴァーしたことがあって。あれにも――かなり驚かされたわね。でも、個人的に言えば、わたしはカテゴリーは別に気にしてはいない。とにかく、いいものか、そうではないか。何かしら胸を打つものか、あるいはそうではないか。それだけの話であって。わたしたちの心に響き感動させられるもの、わたしたちが惹き付けられるのはそれ。これまで、わたしたちが「あの新しいムーヴメントのなかから誰かと契約しなくてはらない」という風に考えたことは一度もなかったと思う。そうした考えは一切入り込まないし、とにかく本当に才能があるとわたしたちの見込んだ人びとと会ってみるし、その視点から物事を進めていくことにしているだけ。彼らをグループとして一緒にまとめているのは、新聞のほう(笑)。

(苦笑)はい、我々の側ですよね。承知しています。

GT:(笑)。

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若い子たちはスリーフォード・モッズにあこがれていると思う。ちょっとしたヒーローだし、若い人たちの見方もそれだと思う。彼は自分の考えをはっきり外に向けて出しているし、しかも人生経験もちゃんとある人だから。

多くの若いバンドが2018年あたりに登場していることで、ブレグジット以降のUKの社会/政治状況が間接的に影響を与えているという解釈がありますが、あなたがたはどう思われますか? 若者の多くは未来に不安を感じているでしょうし、とても不安定な状況なわけですが。

GT:そこは非常に大きい部分を占めていると思う。たとえばゴート・ガール、彼女たちの書くこと、プレイしている曲、何もかもがそうしたことによって形成されていると思うし、彼女たちは社会の崩壊や、現在の世界の状態を非常に強く意識している。というか実際彼らのほとんどは、いまどういうことになっているかについてかなり強い意識があると思う。これらのミュージシャンの多くが演奏している音楽は、必ずしもストレートにコマーシャルだとは言えない類いのものなわけで、そういうことをやるためには、実は本当にやりたい音楽を「自分たちはこう感じている」とプレイし、言いたいことを言うしかない。人がどう考えるだろうか?と気にするのはある種の検閲であり、忌まわしいことと言える。
だから、(商業的ではなく)やりたい音楽をやっているということは、彼らがはただ単に保守的に順応するのではなく、いわば自分たち自身の道を進んでいる、その現れだね。ただ、いまの時代において、成功という概念はとても混乱させられるもので。

JL:そうね。

GT:やっていることを気に入ってくれるオーディエンスを見つけること、それがサクセスなんだろうね。かつ、音楽をプレイすることで生計を立てられる、それが多くのミュージシャンの夢だよ、実際。彼らがまず到達しようとする第一着陸地点がそこだろう。

JL:ええ。それにわたしは、このCOVIDのロックダウンやもろもろの後で、かなり大きなクリエイティヴィティの爆発が起こるんじゃないかと期待している。人びとは集まってクリエイトすることができずにいたし、おそらく彼らも、音楽を作りクリエイティヴでいるために何か別の方法を思いつかなければならなかったでしょうから。で、「必要は発明の母」なわけで、きっとここから何かが出てくると思う。大きな、クリエイティヴな爆発が起きるでしょうね。

シャバカ・ハッチングスの素晴らしい新作はロックダウン下で制作されたはずですし、おっしゃるように、今後UKからさらに多くの素晴らしい音楽が出てくるのを期待したいです。

JL:そうね。

〈ラフ・トレード〉では、ゴート・ガール、ブラック・ミディ(そしてスリーフォード・モッズ)を今回の特集のなかでフィーチャーさせてもらっています。どちらの新作も大好きなので、個別に話を訊かせてください。まずはゴート・ガール。このバンドこそぼくには70年代末の〈ラフ・トレード〉的な感性を彷彿させるものがあるように思います。ザ・レインコーツのような、独自の雑食性があって、しかも女性を売りにしない女性バンドです。

GT&JL:うんうん。

おふたりにとって、このバンドのどこが魅力ですか?

JL:彼女たちは……非常に音楽的だからだし、彼女たちの作っていた音楽をわたしたちが気に入ったのはもちろん、しかも彼女たちはとても意志の強い、興味深い、若い女性たちであって。彼女たちのような若い女性たち、強い心持ちがあり、自分たちが求めているのは何かをちゃんと知っている女性のグループと一緒に仕事できるというのは、わたしたちにとって非常に魅力的だった。というのも、ああいうグループは、決して多く存在しないから。

ええ、残念ながら。

JL:そう。だから、これまで彼女たちと一緒に仕事してこられて、こちらも非常に嬉しいし満足感がある。

ブラック・ミディはほとんどアート・ロックというか、なんでこんなバンドが現代に生まれたのか嬉しい驚きです。ブリット・スクールで結成されたのは知っていますが、だいたいダモ鈴木と共演していること自体が驚きです。彼らはいったい何者で、どんな影響があっていまのようなサウンドを作るにいたったのでしょう? 『Cavalcade』を聴いていると、エクスペリメンタルですが、XTCみたいなポップさもあるように思います。

JL:……(ジェフに向かって)この質問はあなたに譲る。

GT:(苦笑)えっ!

(笑)説明するのが楽ではないかもしれませんが。

GT:むずかしいね、というのも彼らは本当に風変わりで、とても型破りだから。たとえばジョーディ(・グリープ)、ギタリストでメインのシンガーのひとりである彼だけれども、彼は相当にエキセントリックなキャラクターだ。非常に個性的な人物だし、ああいう人間には滅多にお目にかからない。で、そこは本当に彼の魅力のひとつでもある。
まあ……我々はほかとはちょっと違う人びとを、普段出くわさないような人びとを常に讃えてきたよね。いい意味で、とは言えないような、やや興味深い人びとを。だがジョーディはとても教養があり、知識も豊富で、しかも実に素晴らしいミュージシャンだ。それに彼はとてもいい形で、自分のやっていることの本質を理解している、というのかな。彼は楽しいことをやりたい、スリリングかつ楽しいものにしたいんだ。それは非常にいい考え方だ(笑)。 

JL:たしかに。彼らのもっとも魅力的なところのひとつは、彼らには境界線が一切なさそうだ、ということで。とにかく彼らは、そのときそのときで自分たちの興味をそそることならなんだってやるし、自分たち自身を「我々はこういうバンドであり、やっているのはこういうこと」という風に見ていない。自分たちにとって興味深く、スリリングなものであれば音楽的にはなんだってやる。彼らは恐れを知らないわけ。

GT:しかも、それをやれるだけの能力も備えている。それは珍しいことだ(笑)。

JL:そう、そう。能力があり、恐れ知らず。彼らはほかの人間がどう考えるかあまり気にしていないし、自分たち自身を楽しませている。そこに、わたしたちは非常に魅力を感じる。

なるほど。でも、レーベルとしては、そんな風になんでもありで形容・分類できないバンドな、逆にマーケティングしにくいのではないか? とも思いますが。

GT:新しく、前代未聞ななにか、というね。それはその通りだし、だからこそエキサイティングなのであって。

JL:でも、その意見はおっしゃる通りで、彼らをマーケティングするのはとてもむずかしかったかもしれない。ところが実際はどうかと言えば、これまでわたしたちがしっかり付き合ってきたなかでも、彼らはもっともマーケティングしやすいバンドでね。なぜなら彼らには自分たちで考えてきたアイデアがあるから。自分たちをどう提示するかについて、本当にいいアイデアを持っている。その意味でもやっぱり、「境界線がない」という。彼らがとてもいい案を思いついてきて、こちらはそれらのアイデアをサポートしてきた。だからこれまでの彼らのマーケティングは、楽しかったとしか言いようがない。そもそもアイデアがちゃんとあるから、かなり楽にやれる、という。

質問にあった、ザ・フォールやパブリック・イメージのようなバンドは現在でも出てこれるか? に対するわたしの回答は、絶対に出てこれるだろう、そう思う。

今回我々が取り上げているような、ここ数年出て来たバンドのなかで、もっともいまの時代を言葉によって的確に表現できているバンドは何だと思いますか?

JL:それはもう、あなたが親であれば、彼らはあなたの子供であってみんな愛しいし、「この子」とひとつだけにスポットを当てるのはとてもむずかしい、というのがわたしの感覚であって(苦笑)。

(笑)すみません。

JL:(笑)でもまあ、スリーフォード・モッズには山ほどある。いまの世界の状況とUKの状況について、彼らには言いたいことがいくらでもある。だから、ある面では、たぶん彼らでしょうね。一方で、ゴート・ガールは、女たちにとって本当に大事なことを言葉にして歌っている。先ほど言ったように、ブラック・ミディは境界線も恐れも知らなくてアメイジングで――だから、この一組、という話ではない。そうやって選ぶのはこれからもないでしょうね。

GT:ああ。それに、我々全員が惚れ込んでいる、キャロライン(Caroline)という新人バンドもいる。8ピースのグループなんだが。

はい、知っています。

GT:うん。彼らのやっている音楽もわたしたちみんながとても、とても愛しているものだ。興味深いんだよ、あのバンドは共同し合い作業できる者たちによる一種の集団で、コミュナルな、恊働型でね。しかも8人と大規模なグループだから、その力学を見守るのも興味深い。それにこれらのグループはいずれも、もっとショウビズ的なロックンロールとしての価値も備えている。たとえばスリーフォード・モッズ、あるいはブラック・ミディの演奏を観に行くと、実際のイヴェントが、ショウとして、パフォーマンスとして、とにかくファンタスティックなんだ。それゆえに彼らのメッセージ、あるいは彼らの言わんとしていることに対して懐疑的になってしまうかもしれないが、とにかく素晴らしい一夜のエンタテインメントになってもいて。それもまた、彼らのやろうとしていることの一部なんだ。


内省的だった2021年に、場違いな騒々しさをもたらしたブラック・ミディ。

それではサウンドの面で、おふたりにとってもっとも斬新に感じるバンドはどれでしょうか?

GT:我々はいま、アイルランドのフォーク・ミュージックにとても入れ込んでいる。あの音楽は現在非常にいい状態にあるし、ランカム(Lankum)、リザ・オニール(Lisa O’neill)、 イェ・ヴァガボンズ(Ye Vagabonds)、ジョン・フランシス・フリン(John Francis Flynn)といった面々が大好きでね。新たな世代による伝統的なアイリッシュ・フォークの再解釈ぶり、あれはアイルランド音楽に久々に起きたもっともエキサイティングなことではないかと我々は思っている。実際、70年代初期以来のことだ。(※上記アクトはいずれも〈ラフ・トレード〉、もしくはジェフとジャネットが音楽ライターのティム・チッピングと始めたフォーク音楽を紹介するための傘下レーベル〈River Lea〉所属)

なるほど。

GT:それだけではなく、文学界も興味深くなっている。労働者階級や少数派文化の背景を持つ作家の作品がもっと出版されるようになっていて、それは出版界ではかなり久々のことであり、本当にエキサイティングな展開だ。他のレーベル所属アクトのライヴはあまり観に行かなくてね(苦笑)……

JL:ミカ・リーヴィ(Mica Levi/ミカチュー名義で〈ラフ・トレード〉から2009年にアルバム・デビュー)は、〈ラフ・トレード〉外ね。彼女も以前〈ラフ・トレード〉所属だったけれども、いまは自分自身で活動している。わたしたちは彼女が本当に大好きで。

同感です。最近はサントラ仕事を多くやってきましたよね。ものすごい才能の持ち主だと思います。

JL:ええ。彼女は本当にアメイジング。

いまの若いロック・バンドは、Z世代やミレニアルに属している子たちも少なくないと思うのですが、昔のロック・バンドのようにまずドラッグ(大麻は除く)はやらないし、酒に溺れることもないですし――

GT&JL:(苦笑)。

また、人種問題や環境問題、フェミニズムにも意識的だと人伝いに聞いています。おふたりから見てもそう思いますか? 70〜80年代のロックンロール・ピープルとは違う、と?

JL:間違いなくそう。わたしは確実に彼らから勉強させてもらっているから。彼らは食生活も健康的で、お酒も飲まないし、PC(政治的に正しい)でもあって(笑)。

(笑)口の悪いスリーフォード・モッズは除いて。

JL:(笑)その通り。ただ、あなたの言う通りで、若い人たちのアプローチの仕方は本当に違う。だから、むしろわたしたちの方が彼らから学べると思う(苦笑)。彼らの方が、かつてのわたしたちよりももっと妥当なルートをたどっている——というか、いまですらわたしたちはその面はダメかもしれない(笑)。

GT:フフフッ!

スリーフォード・モッズのようなバンドは、質問者のようなオヤジ世代にしたら堪らないバンドですが、UKの若い子たちはジェイソンのことをどう思っているのでしょうか? いまのバンドに彼らの影響はあると思いますか?

JL:若い子たちは彼にあこがれていると思う。彼はちょっとしたヒーローだし、若い人たちの見方もそれだと思う。彼は自分の考えをはっきり外に向けて出しているし、しかも人生経験もちゃんとある人だから。

階級闘争と文化闘争の問題についてはどう思われますか? つまり、いまのUKの文化、音楽はもちろんテレビ/映画界等の担い手から労働者階級が昔にくらべて激減し、文化が富裕層に乗っ取られているという話です。PiLやザ・フォールのようなバンドは現代では出にくい状況にあるという。

GT&JL:フム……(考えている)

ある意味、より複雑な状況のように思えます。たとえば先ほどおっしゃっていたように、いまバンドをやっている人びとにはカレッジやブリット・スクールに通った者もいて、親の学費負担もそれなりでしょうし。

GT:それは部分的には誤解だね。ブリット・スクールは実は学費を払わないで済む学校だから。

ああ、そうなんですか!

GT:あれは有料校ではないはずだし、それ自体があの学校の意義であって。入校するためにオーディションを受けるとはいえ、学費は払わないでいい。金持ちの子供のための、彼らが世に出る前に教養を積む学校だ、と思われているけれども実はその逆。才能さえあれば誰でも入校できるし、労働者階級の面々もブリット・スクールに通っている(※通訳より:ブリット・スクールに通ったことのある有名なアクトであるエイミー・ワインハウスもアデルも労働者階級なので、これは当方の理解不足です)。そこは思い違いだし、ブリット・スクールの側ももっとPRをやってその点をはっきりさせるべきだな。とはいえ、ファット・ホワイト・ファミリーのようなバンドもいるわけで……(ジャネットに向かって)彼らはどんな連中なんだい? 労働者階級?

(笑)。

JL:……(考えている)

GT:あれは、また別の系統だ。

JL:彼らは彼らだけの無比階級(笑)!

GT:そうだね、たしかに他にいない。彼らは違う感じだ。ただ、とりわけいまのロンドンのミュージシャンにとって、彼らは非常に影響力の大きいバンドでね。まあ、いろいろな人間が混じり合っていると思うし、労働者階級の面々にもいずれ、リッチな層と同じくらい、音楽界に入っていく可能性が訪れると思う。

JL:でもわたしは、いまは中流〜中流よりちょっと上の階級の人びとがバンドに多い、その意見は本当だと思う(笑)。それは本当にそうだと思うし。ただ、人生における何もかもがそうであるように、物事はさまざまなフェーズを潜っていくものであって。たとえば70年代には、お洒落で高そうな学校に通ったことがあってバンドをやっていると、あざ笑われることがかなり多かったと思う。
けれども、とにかくいまはもうそんなことはないし、もっと人びとが混ざり合っている。だから、そうした類いのタブーが消えたんだと思う。もっと混ぜこぜだし、いまはもっと、しっかり教育を受けた若者たちがバンド活動と音楽にのめり込んでいる、そういうものではないかと思うし、とにかく時代は変化している、ということなんでしょうね。ある意味、わたしたちは向上した、というか。

なるほど。そうしたタブーは逆差別にもなりますしね。中流やそれ以上の階級の人間であっても、音楽作りが好きでバンドをやりたければやっていいわけで。

JL:でも、スリーフォード・モッズ、間違いなく彼らは、そうしたバックグラウンドからは出て来ていないし。それに、質問にあった、ザ・フォールやパブリック・イメージのようなバンドは現在でも出てこれるか? に対するわたしの回答は、絶対に出てこれるだろう、そう思う。仮にわたしたちが明日彼らのライヴを観に行き、素晴らしかったら、その場で契約しているでしょうし。要は才能があるかないか、それだけの話だと思う。

1970年代末のポスト・パンク時代にはサッチャーという大きな敵がいましたが——

JL:(苦笑)ええ。

いま現在のロック・バンドにとって当時のサッチャーに匹敵するものとは何だと思いますか? 

GT:たぶん、内務大臣のプリティ・パテルは国でもっとも人気が低いんじゃない? 

なるほど。

GT:彼女は嫌悪の対象だ。けれども、現政府が若者たちの多くに対して発してきた嘘の山々、あれはとにかく過去に前例のないひどさという感じだ。いやおそらく、過去にも同じだけの嘘をつかれてきたんだろうが、かつては秘密のとばりにもっと隠されていたのが、いまやもっとあからさまになっている、ということなんだろうね。
で、先ほど君が言っていたように、いまの若者はもっと政治に関して意識的だし、この国でいま何が起きているかについてとても詳しい。気象変動をはじめとするさまざまな問題に対するアクションの欠如も知っているし、それを我々も過去数年起きてきた大規模なデモ行動の形で目にしてきたわけで。

BLM運動など、いろいろありますね。

GT:そう。とはいえ、君の指摘は正しいよ、マーガレット・サッチャーがある意味、若者を団結させた存在だった、というのはね。「この政府はうんざりだ」と彼らも思ったわけで(苦笑)。

JL:でも、あの頃も保守政権だったし、いまも保守政権なわけで。

GT:そうだね。憂鬱にさせられるのは、この保守党政府がしばらく長く続きそうな点で。そこは最悪だ。

政治・社会状況が困難であるほどアートは活発になると思うので、それを祈りましょう。でも、ということはボリス・ジョンソン首相はサッチャーほどの「敵」として見られてはいない?

GT:ああ、彼もそうだけれども、うん……

JL:……いまは、保守党全体がそういう感じで(苦笑)。

何人ものサッチャーから成り立つ政党、と。

JL:そう。だから、単純に「このひとりを敵視する」という象徴的な存在はいない。

GT:でもミュージシャンにとっては、ボリス・ジョンソンはミュージシャンがヴィザ無しで欧州に渡り、ライヴをやり、現地でお金を自由に使うのを許可する協定をEUとの間で締結しそこねた、という事実があるわけで。まだ駆け出しのバンドが外に出て行ってプレイするのは不可能な話だし、ミュージシャンには深刻だ。若いバンドに限らず誰であれ、欧州で演奏するのが以前よりもっとずっとむずかしくなっている。現政府のアートに対する感謝の念の欠如、そこにはただただ、ショックを受けるばかりだ。

それもありますが、まずはCOVID状況の克服が先決ですよね。それが起きればライヴ・セクターも回復するでしょう。音楽界にとってもまだまだ困難な時期は続きますが、〈ラフ・トレード〉の活況を祈っています。

GT&JL:ありがとう。

(初出:別冊エレキング『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界』2021年7月刊行)


(追記)
 ついでながら、ぼく(野田)が気に入っているのは、ドライ・クリーニングとブラック・ミディ、次点でスクイッドです。2021年の洋楽シーンは良い作品が多かった、それはたしかでしょう。が、コロナ禍ということがあってだいたいが内省的だった。そんななか、ブラック・ミディから聞こえる場違いな騒々しさとスクイッドの“Narrator”には元気をいただきました。
 というわけで、ブラック・ミディ、スクイッド、ブラック・カントリー・ニュー・ロードの最新インタヴュー掲載の紙エレキング「年間ベスト・アルバム号」、どうぞよろしくお願いします。(ロレイン・ジェイムズの本邦初インタヴューもありまっせ)

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