「Nothing」と一致するもの

Ehiorobo - ele-king

 ソフィーラスティーで知られるフューチャー・ベースから分岐したバブルガム・ベースやカワイイ・フューチャー・ベースをメインにリリースする〈DESKPOP〉から2016年にデビューしたエヒオロボによるセカンド・フル(ほかミックステープ多数)。ニュージャージー育ちのナイジェリア系で、Seiho とはプリンスのトリビュート・カヴァーでタッグを組んだり、Tomggg との “Feel Ya” など日本のアンダーグラウンドにもすでに浸透しているプロデューサーである。とはいえ、『Joltjacket』からはこれまで日本に見せてきた顔とは少し異なる気配が漂い、レーベル・マナーに沿ってカワイイ・フューチャー・ベース全開だった『Limeade』から一転、完成に4年もかけたという『Joltjacket』にはもっと多種多様な音楽性が詰め込まれている。ブルックリンの実験的ソウル・シンガー、レイン(L’Rain)のセカンド・アルバム『Fatigue』(https://lrain.bandcamp.com/album/fatigue)にちょっと引きずられた感もあるけれど、全体にかなり破天荒で、とくに前半のポスト・ロックの導入は強引に耳を引っ張る。『Limeade』にはEDMをチープにしたような面も強くあったことを思うと、この変化はかなり大きく、「これはもうフューチャー・ベースではない!」といったカワイイ主義者の叫びがいまにも聞こえてきそう。確かにぜんぜんきゃりーがぱみゅってないし、カワイくもなんともない。レーベルも伝統と変化を等しく重んじるのがポリシーだという〈Grind Select〉に移り、デザインもカワイイは卒業。ちなみにテキサスのブラゾス(Braz_OS)とともに〈DESKPOP〉を運営するオハイオ(現ペンシルヴァニア)のフューチャー・ババが2015年にリリースした『Gamewave』がいまのところPCミュージックを抑えてヴェイパーウェイヴとバブルガム・ベースの接点に立つカワイイ・フューチャー・ベースの代表作とされている(https://floorbaba.bandcamp.com/album/gamewave)。

 冒頭からカッさばいてくる。ピタ『Get Out』が始まるのかと思ったらリズム・ギターだけで山下達郎ばりに歌い出す。途中からギターはソニック・ユースかダイナソーJr ばりに轟音を撒き散らし、ヴォーカルと演奏は分裂状態のまま曲は進む。基調はR&Bで、どの曲もこれまでと同じく丁寧に歌い上げながら、サウンドがとにかく荒々しい。時にリスナーを振り回すようなレインの疾走感もそうだけれど、2010年代のヒップスターR&BやサイケデリックR&Bとは明らかに手触りが異なり、どちらかというとクリッピングのようなミュジーク・コンクレート・ヒップホップをR&B化させたような感じだろうか。歌詞では♪愛が戦場なら君はバズーカ砲を手にしている~(“Fusion Bazooka”)とか、コーラスワークが冴える “Shit’s Creek” では♪ドアマットのように僕は精神を踏みつける~など日々の葛藤を洒落た言い回しで歌っている感じが多い(そういう意味では同じナイジェリア系のマイクに近い)。♪遺体安置所で過ごし、君の塊から記憶が霞んでいく~とか♪墓地でモノクロームに溶けていく~など複数の曲で親しかった人の死が示唆され、どの曲でもエヒオロボは暗闇に取り囲まれている。一方で、♪人生は豪華なものだ~とも歌い、さらに♪人生はバリー・マニロウのようにトロピカル~と、曲調も全体に暗いわけではない。コーネリアスのように明るく跳ね散らかす “Caramelized!” など、むしろ希望にあふれてもいるし、アルバムも終盤に差し掛かるとカワイイ・フューチャー・ベースのヴァイブスが戻ってくる。しかも、それがバカみたいに感じられることもなく、わりと普通に楽しい。♪君にケタミンは必要ない、ここに垂直のロールス・ロイスがある~というのはロード “Royals” に対する卑猥なアンサーだろうか。♪僕はもう戦いくない、争いはやめうようと君に言って欲しい~ ♪旅に行きたい~料理が好き~幸せが好き~好きな人のそばにいたい~と、FKAトゥイッグスの新作ミックステープとメッセージがほとんど同じ。

 ジェイ-Z が出てきた頃、よくこんなヘンなトラックの上でラップができるなと思ったものだけれど、エヒオロボの歌にもにたような違和感があり、それがとにかく楽しい。ほぼ全編スロッビン・グリッスルのようなトラックで攻めるワシントンのサーE.u+トゥース・クワイアやJペグ・マフィアなど奇天烈なトラックを売りにしているユニットはあれこれあるなか、ヴォーカルに力があって、トラックがどれだけ無茶苦茶でもきちんとヴォーカルに意識が向くようにつくられているのもいい。むしろ中盤は比較的大人しい展開で、いってみれば楽器演奏の比重を増したこともあり、音楽性の複雑なエモ・ラップをやってみたということなのだろう。


ニッポンカレーカルチャーガイド - ele-king

世界有数のカレー大国──ニッポンのカレーがこれ一冊でわかる!

欧風カレーにインドカレー、スリランカ、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、タイ等々の多様なルーツ
カレー麺にスープカレー、スパイスカレーにご当地カレーなどの日本独自カレーの数々

4,000軒以上のカレー店を食べ歩いた著者による「奥深きカレー文化」と200軒以上の「おすすめ店」のガイドブックが登場!!

目次

はじめに
第1章 日本カレーのパイオニアたち
第2章 洋風・欧風カレー
 老舗洋食系カレー/大衆洋食系カレー/欧風カレー/欧風カレー(ボンディ系)/フレンチカレー/カツカレー/ドライカレー
第3章 カレーライス
 大手チェーン系/東京カレーライス/東京カレーライス(喫茶店カレー)/関西カレーライス/金沢カレー/ご当地カレーライス/焼きカレー/ダムカレー
第4章 カレーパン
第5章 和カレー
 カレーうどん/カレーそば/カレー丼/スパイス和食
第6章 中華カレー
 中華カレー(咖喱飯)/中華カレー(ネオ中華カレー)/カレーラーメン/スパイスラーメン
第7章 世界のカレー
 インド料理のカレー/パキスタン料理のカレー/バングラデシュ料理のカレー/ネパール料理のカレー/スリランカ料理のカレー/ビリヤニ/タイ料理のカレー/その他の国のカレー
第8章 スープカレー
第9章 クラフトカレー(スパイスカレー)
 大阪スパイスカレー第1世代/大阪スパイスカレー第2世代/大阪スパイスカレー第3世代/大阪スパイスカレー第4世代以降/京都クラフトカレー/神戸クラフトカレー/関東クラフトカレー(老舗系/印度カレー)/関東クラフトカレー(新世代/スパイスカレー系)/九州クラフトカレー/名古屋クラフトカレー /静岡クラフトカレー/東北クラフトカレー
第10章 スパイス居酒屋&BAR
第11章 肉料理店のカレー
第12章 カレー・イノヴェイティブ
第13章 レトルトカレー
第14章 カレー+カルチャーイベント
おわりに

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
Yahoo!ショッピング
HMV
TOWER RECORDS
紀伊國屋書店
honto
e-hon
Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)

P-VINE OFFICIAL SHOP
◇SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
紀伊國屋書店
三省堂書店
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
旭屋書店
有隣堂
TSUTAYA
◇未来屋書店/アシーネ

Luke Wyatt & Dani Aphrodite - ele-king

 ファッション・ブランド〈C.E〉の2022年春夏コレクション(明日1月14日(金)ローンチ)を記念し、ヴィデオが公開されている。
 ディレクターを務めるのは、トーン・ホーク(Torn Hawk)名義で〈L.I.E.S.〉や〈Valcrond Video〉、〈Rush Hour〉といったレーベルから音楽作品を送り出してきたルーク・ワイヤット(Luke Wyatt)と、ヴィデオ・アーティストのダニ・アフロディーテ(Dani Aphrodite)。ディストピックでストレンジな雰囲気の映像に仕上がっている。
 音楽を担当しているのは、Rezzett としての活動でも知られ、アクトレスの〈Werkdiscs〉からアルバムを出している Lukid(2019年のシングル「Drip」も素晴らしい1枚でした)。ヴィジュアルも音も、要チェックです。

C.E Spring Summer 2022 Video
Video: Luke Wyatt and Dani Aphrodite
Music: Lukid
https://000.cavempt.com/

King Krule - ele-king

 歓声が聞こえる。それはいまとなっては少し現実感のない、どこか架空の世界の音のようにも聞こえる。

 年が明けて2022年、僕は時間に線が引かれて境目ができた後の世界から以前の世界を眺めている。2020年の半ばから配信ライヴを見る機会が増えて(チケットアプリ DICE を入れて初めて買ったものが会場に行くことのない配信ライヴのチケットだったというのはなんとも奇妙な話だ)歓声のないクリアな音を聞いていた。日本にいながらも三つの会場、ウィンドミル、ジョージ・タバーン、ギャラリーでおこなわれたインディペンデント・ヴェニュー・ウィーク2021を見ることができたのはある意味ではラッキーなことだったのかもしれない。元々はフェイマスとジャースキン・フェンドリクス(つまりブラック・カントリー・ニュー・ロードの“Track X”に登場する二組だ)が同じ日に見られると思いチケットを買ったのだけれど、いちばん印象に残ったのは彼らが出ていない二日目に出演していたドッグという名前のなんだかわからない形のギターを弾いていたなんだかわからないバンドだった。ここまで発表している音源はなし。当然こんな名前で見つかる情報もほとんどなし。その後なんとかインスタグラムのアカウントを見つけて記憶の中での再生を続けながらいまはその最初のリリースを楽しみに待っている。少々奇妙な形のこうした出会いができたのはストリーミング配信でイベントがおこなわれたからに他ならないだろう。望んでのことではなかったのかもしれないが、今日では配信ライヴの文化というものが形成されつつある。それはリアルのライヴの代替なのかもしれないけれど、リアルのライヴにはない側面もあって、それが適応を迫られた世界のメニューに載っている。2020年の上半期にあったような「しょうがない」という気持ちは「このようなやり方」という風に変わりいまではすっかり「そういうもの」として受け入れられているのだ。

 あぁしかし歓声が聞こえる。キング・クルールのライヴ・アルバム『You Heat Me Up, You Cool Me Down』を再生して最初に耳に入るのは歓声だ。キング・クルールことアーチー・マーシャルをステージに迎え入れる声。その声はその場の空気を具現化したもので、そこにいない僕らの感情を引っ張っていく。チューニングを合わせるみたいにしてパンデミック以前の会場の様子に思いを巡らしているうちにギターの音が聞こえてきて、アーチー・マーシャルがそこにいるということが示唆される。そうしてまた歓声。ズー・キッドを名乗っていた時代の古い曲 “Out Getting Ribs” からライヴがスタートし手拍子が起こる。16歳の少年アーチー・マーシャルが作った曲を25歳の父親になったアーチー・マーシャルが唄う。10年前には聞かれなかったサックスの音が響いて、それでなんだか時間の流れが見えたような気分になる。
 キング・クルール以降という言葉をしばしば見かけるようにキング・クルールの音楽がいまのロンドンのバンドに与えた影響は少なくない。ヒップホップに影響されたようなビートにジャジーなギター、ポスト・パンクの要素にダブ、言葉と感情を伝える独特なヴォーカル・スタイル、様々な要素が混じりあって作られるその空気にはサウス・ロンドンの音楽のほとんど全てがあって、その後に続くシーンのひな形になったといえるのかもしれない(もう少し付け加えるならキング・クルールもまた近年注目を集めるブリット・スクール出身だ。現在のような流れの、塊ではなく単体の兆しとして、それはキング・クルールの音楽の中にあったのかもしれない)。
 2013年の『6 Feet Beneath The Moon』、2017年の『The Ooz』、2020年の『Man Alive!』、三つのオリジナル・アルバムの中からまんべんなく曲が選ばれて、その全てが『Man Alive!』をリリースした直後の空気の中で調和する。このライヴ盤はヨーロッパの都市がロックダウンされる数週間前におこなわれたツアーの最初の数公演の中からセレクトされたもので、どこかの一夜がそのまま収められたものではないのだが、しかし上記の歓声を含め現実に起こった出来事を繋ぎ合わせ、意図してその後におこなわれるはずだったツアーの起きることのなかった架空の一夜を作り出しているように思えてならない。サックスが鳴り響く “Out Getting Ribs” の余韻から “Emergency Blimp” になだれ込む、その瞬間に僕はスリルを感じる。タイトなドラムは気持ちをせかしギターの音が不安を煽る。ここでのアーチー・マーシャルのヴォーカルはオリジナル・ヴァージョンとはまったく違うつばを吐きかけるような強烈な勢いと対処しきれない不安を吐き出すみたいな様相を呈していて、それがさらに不安を煽って加速させる。3rdアルバム『Man Alive!』に収録されている “Stoned Again” もやはりオリジナルとはまったく異なっているような印象で、より生々しくなった演奏と矢継ぎ早に荒々しく言葉を紡ぐアーチー・マーシャルのヴォーカルがジャジーなヒップホップを思わせ、荒れ狂うギターとサックスの音が感情の形を作っていく。

 キング・クルールの音楽はなんとも居心地が悪いものだ。都会的で暗く孤独で不安を煽るようなもので、スタイリッシュでモダンな音の裏に隠れた繊細な感情が作り込まれたオリジナル・アルバムからほころびてステージの上で漏れ出ている。ある種の見栄のような美意識と映画のサウンドトラックのような物語性を帯びた美しさ、その裏で牙が研がれ不安といら立ちが解放される、ステージ上で繰り広げられる崩しが入ったようなキング・クルールのそれがなんとも格好良く思わず憧れみたいな気持ちを抱いてしまう。居心地が悪くなるのは、それが共感し誰かとシェアするような感情ではなく個人の心の中にある孤独を投影したものだからなのかもしれない。孤独とは誰もいないということではなく、人びとの気配の中にあるものなのだ。

 そうしてこの架空の一夜は1stアルバムの最初の曲 “Easy Easy” で締められる。お約束のジョークのようなやりとり。最後の曲だとアーチー・マーシャルが静かに告げて歓声が起こりポーズだけの申し訳程度のブーイングがおこなわれる。この曲のキング・クルールはまるで10代の少年のように攻撃的でシンプルなギターの音を響かせ声を荒げている。それは在りし日の思い出のようでもあり、それと同時に飾らないアーチー・マーシャルのいま現在の姿のようでもある。手拍子が聞こえ、それがかき消され、アーチー・マーシャルの声に続くように観客の歌声が聞こえはじめる。バンドのサウンドが陰鬱さを塗りつぶすかのように激しさを増す。それは不安からの解放のようでもあって、この瞬間のカタルシスは観客の前でのステージでなければ得られない。人びとの心からの自然な反応、そのまとまった感情が空気を作り、それが追体験する者の心をも揺らすのだ。そうしてまた歓声。キング・クルールの気配が消えたステージを包み込むようにして拍手と歓声が鳴り響いて、そしてまるでその日が夢だったみたいに、フェードアウトして消えていく。歓声にはじまって歓声に終わる、ありえたかもしれない架空の一夜を描いたこのアルバムは、もしかしたら現実にあった夜よりもライヴというものを表現しているのかもしれない。キング・クルールのこのライヴ盤は、音楽というものがリリースされてそれでおしまいになるようなものではないと教えてくれるのだ。

dj honda × ill-bosstino - ele-king

 2021年の日本のヒップホップ・シーンの中でも、かなり攻めたリリースを行なってきた THA BLUE HERB 率いるレーベル、〈THA BLUE HERB RECORDINGS〉(以下、〈TBHR〉)。そのひとつが5月に発表された O.N.O の全曲プロデュースによる YOU THE ROCK★のアルバム『WILL NEVER DIE』で、YOU THE ROCK★と THA BLUE HERB との過去の歴史を知る人びとにとっては大きなサプライズであり、かつ内容的にも非常に充実した素晴らしい作品であった。その半年後にリリースされたのが、dj honda と ILL-BOSSTINO (以下、BOSS)という、世代を超えた2大巨頭のコラボーレーション・アルバム『KINGS CROSS』であり、個人的には『WILL NEVER DIE』以上のインパクトを与えてくれた作品となった。

 現在、共に札幌を拠点に活動している dj honda と BOSS であるが、それぞれ通ってきた道は全く異なる。80年代からDJとして活動を開始し、90年代半ばから2000年代にかけてはNYを拠点にメジャー・レーベルのもとでUSヒップホップの最前線にいた dj honda。一方で BOSS は O.N.O と共に結成した THA BLUE HERB の一員として、90年代の東京中心であった日本のヒップホップ・シーンの中で孤軍奮闘し、作品のリリースやライヴを重ねながら、いまやシーンの中で確固たる地位を確立している。それぞれ世界と日本を相手に戦ってきた彼らであるが、同じヒップホップというカテゴリーでありながら、これまでほとんど重なる部分がなかったというのが紛れもない事実だろう。正直なところ彼らのコラボレーションがどのような形になるのか個人的にも全く想像がつかなかったが、このアルバムを聞けば、そんな心配は一発で吹っ飛ばされる。90年代のUSのヒップホップを聞いて衝撃を受けた BOSS のラップと、90年代のUSヒップホップ・シーンのど真ん中にいた dj honda のサウンドの相性の良さというのは、冷静に考えれば当然のことなのかもしれないが、良い意味での驚きが本作には詰まっている。

 誤解を恐れずに言えば、dj honda は間違いなくヒップホップ・シーンのレジェンドであるが、彼のいまの活躍を知らない人にとってはすでに過去の人となっている。しかし、例えば2015年リリースの B.I.G. JOE とのジョイント・アルバム『UNFINISHED CONNECTION』や2018年リリースの紅桜とのジョイント・アルバム『DARK SIDE』を聞けば、プロデューサーとして彼がいまだに現役であることは明白だ。サンプリングによる90年代と同じプロダクション・スタイルを用いながら、サウンドのクオリティは完全にアップデートされており、何よりも彼のトラックに漂うどこか昭和を思わせるような空気感は B.I.G. JOE や紅桜、そして、もちろん BOSS のようなタイプの日本語ラップには見事なまでにハマる。いま現在も毎日スタジオにこもってトラックを作り続けているという dj honda であるが、バラエティに富んだ本作全16曲のトラックを耳にすれば、いまが彼にとっての全盛期にすら思える。

 そんな dj honda に対しての尊敬の念とある種の緊張感が BOSS のラップからは強く感じられる。dj honda のこれまでの活動の歴史を綴った “A.S.A.P.” などはその筆頭であるが、さらに BOSS 自身の過去にもリンクして、まるで初心に戻ったかのようにも感じられる瞬間も多々ある。かと思えば、“GOOD VIBES ONLY” のようなポジティヴなマインドを全開にした曲もあったりと、dj honda のトラックに誘発されるかのように、THA BLUE HERB や BOSS 自身のソロ・アルバムとも異なる視点や感情が存分に引き出されている。個人的には “REAL DEAL” のようなどストレートなヒップホップ・トラックであったり、逆に “'CAUSE I'M BLACK” や “SEE YOU THERE” のようなノスタルジー漂うトラックに乗った BOSS のラップも最高に痺れる。

 『WILL NEVER DIE』と同様に本作もサブスクでのリリースを一切行なっていないというのがまた〈TBHR〉らしいが、こんな最高なアルバムを聞き逃すのは本当に勿体ないと思う。

Billy Wooten - ele-king

 今回Pヴァインの「VINYL GOES AROUND」が手掛けるのは、かつてマッドリブを魅了した70年代インディアナポリスのヴィブラフォン奏者、ビリー・ウッテンのTシャツ。〈Stones Throw〉の名コンピ『The Funky 16 Corners』(2001)に収録されたことでも知られる代表曲 “In The Rain” と “Day Dreaming” をカップリングした7インチ付きセットも限定発売される。カラーリングやサイズなど詳細は下記より。

ジャズ・ファンからソウル/レアグルーヴ・ファンまで魅了するBilly Wooten率いる、The Wooden GrassのTシャツをVINYL GOES AROUND限定で販売。「In The Rain」の7インチもセットも。

ジャズ・ファンからソウル/レアグルーヴ・ファンまで魅了するBilly Wooten率いる、The Wooden Grassのライヴ・アルバムのジャケットのデザインを使用したTシャツを株式会社Pヴァインの新規事業・VINYL GOES AROUNDにて販売することが決定しました。

Billy WootenはGrant Greenの"Visions"や、Richard Evansの"Dealing With Hard Times"のレコーディングにも参加しているヴィブラフォン奏者であり、自身でもいくつかの名盤を残したインディアナポリスのアーティスト。ライヴ・アルバムの他にも貴重な彼の演奏写真もT シャツにして同時販売。また、彼の代表的曲、「In The Rain」の7インチを限定生産でセット販売いたします。

哀愁のあるヴィブラフォンの演奏と、歪んだオルガン、マシーンの様に一定に刻む強烈なビートが奏でるザ・ドラマティックスのカヴァー「In The Rain」はかつてMADLIBも自身の作品で使用した曲。中盤以降の盛り上がりと、後半の繰り返されるフレーズがまるでHIP HOP的なサウンドで、多くの人を虜にした70年代のジャズの名曲です。カップリングにはソウルの女王、アレサ・フランクリンの名曲、「Day Dreaming」を収録。疾走感ある曲で、激しく演奏するヴィブラフォンが強烈なジャズファンク。本作はスペシャル・エディットを加えて45回転での収録となります。

・BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS with IN THE RAIN 7inch 販売ページ
https://vga.p-vine.jp/exclusive

[商品情報①]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS A
カラー:BLACK / CHARCOAL / NAVY
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1012
価格:¥4,800(税抜)(税込:¥5,280)

[商品情報②]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS A with 7inch
カラー:BLACK / CHARCOAL / NAVY
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1013
価格:¥6,400(税抜)(税込:¥7,040)

[商品情報③]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS B
カラー:BLACK / WHITE / STONE BLUE
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1014
価格:¥4,800(税抜)(税込:¥5,280)

[商品情報④]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS B with 7inch
カラー:BLACK / WHITE / STONE BLUE
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1015
価格:¥6,400(税抜)(税込:¥7,040)

[商品情報⑤]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS C
カラー:BLACK / WHITE / MILITARY GREEN
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1016
価格:¥4,800(税抜)(税込:¥5,280)

[商品情報⑥]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS C with 7inch
カラー:BLACK / WHITE / MILITARY GREEN
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1017
価格:¥6,400(税抜)(税込:¥7,040)

※期間限定受注生産(~2022年2月7日まで)
※商品の発送は 2022年3月上旬ごろを予定しています。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※Tシャツのボディは ギルダン2000 6.0 オンス ウルトラコットン Tシャツになります。

DJ NOBU - ele-king

 パンデミック以降、海外のDJやアーティストの入国が困難になっているが、逆に言えば、国内の良いDJやアーティストのライヴを見れたりもする。コロナがなければ世界を飛び回っていたであろうDJ NOBUもそのひとり。1月の毎週金曜日はDJ NOBUのスペシャルな夜が待っています。

1/14(金)
Trilogies - DJ NOBU - episode 1
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Open 10PM
¥1000 Under 23 / Before 11PM ¥2000 Advance ¥3000 Door
【前売】 https://contacttokyo.zaiko.io/_buy/1rWT:Rx:70e21
【お得な3日通し券】https://eplus.jp/sf/detail/3555380001-P0030001P021001?P1=1221
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Studio:
DJ Nobu (Future Terror | Bitta)
Occa (Archive)

Contact:
Tasoko (DRED Records)
Yuzo Iwata (Butter Sessions | Sound Metaphors)
machìna
Qmico (QUALIA)
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『盟友との相乗効果が誘う次の深淵』

DJ Nobuが自身のパーティFuture TerrorやGONG、NTS Radioのプログラムで度々招いていたOccaがシリーズ第1回、Studio Xでの共演に決定した。札幌に拠点を置くOccaからも、自身のPrecious HallでのパーティArchivにDJ Nobuを招致しており、お互いに音楽の交差を重要視する関係にある。その相乗効果は、互いの刺激を深化から深化へと発展させる、エレクトロニックミュージックの更新と最深部の模索であり、オーディエンスの観点からみると、最高から次の最高への移行の連続が起こる狂気的なまでの高揚を目の当たりにすることになる。Contactフロアでも電子音楽の深化は絶え間なく、昨年、同じく沖縄をルーツにもつIORIが立ち上げた〈VISIONARY〉からのEPや、John Osbornが主宰する〈DRED Records〉からのアルバムなど制作面でも注目されるTasokoや、ベルリンでの滞在や海外レーベルからのリリース、Cocktail d’Amore等の著名なヴェニューに出演してきたYuzo Iwata。さらに、Bicepのトラック「Hawk」への参加や〈Tresor〉のコンピレーションへの楽曲提供をする、世界的なプロデューサーとなったmachìna、QUALIAを主催するQmicoなど、クリエイター気質のラインナップがメインフロアとは異なる色鮮やかさと疾走感をともなう緻密さでデザインされる。
Trilogies DJ Nobuは、モダンなサウンドと、アーバンなグルーヴが交錯する、ハイクオリティのダンスで開幕される。

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1/21(金)
Trilogies - DJ NOBU - episode 2
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Open 10PM
¥1000 Under 23 / Before 11PM ¥2000 Advance ¥3000 Door
【前売】 https://contacttokyo.zaiko.io/_item/345829
【お得な3日通し券】https://eplus.jp/sf/detail/3555380001-P0030001P021001?P1=1221
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Studio:
DJ Nobu (Future Terror | Bitta)
YAMA

Contact:
悪魔の沼
AKIRAM EN
0120
Torei (Set Fire To Me)
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『ダンスミュージックの理想郷の幻影』

第2夜の共演は、BOREDOMSの∈Y∋とともに伝説パーティeepのオーガナイズや、語り継がれるレジェンダリーパーティFLOWER OF LIFEへの出演、大阪のクラブ、聖地MACAOのクロージングパーティのトリを務めるなど、拠点の大阪はもちろん全国のパーティフリークスに、カルト的な人気を博すYAMAの登壇が決まった。Future Terrorを始め、CDリリース時のコメントの提供などDJ Nobuとは度々活動を共にしている。DJ Nobuとともにハウスセットでの共演というまたとない今回の機会は、紛れもなく何かが起こる儀式的なまでの危険で甘美な予感をほのめかしている。そのカルティックなフロアメイクはもう一方のフロアでも徹底されており、Contactに久しぶりの登場となる悪魔の沼や、AKIRAM ENによる、知覚とダンスの活性を誘う深いリスニング・デバイス。AI.UとEMARLE、双方の高い音楽性が深層で交わるDJユニット0120、そして、ビートや展開に対して他とは全く異なるイマジネーションを持つToreiなど、高い次元でのエクレクティックなサウンドの交錯が、アヴァンギャルドな情景を描く。
Trilogies DJ Nobu episode2はシリーズで最も現実から離れ、ダンスミュージック・ファンの理想に最も近づく可能性を秘めている。

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1/28(金)
Trilogies - DJ NOBU - episode 3
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Open 10PM
¥1000 Under 23 / Before 11PM ¥2000 Advance ¥3000 Door
【前売】 https://contacttokyo.zaiko.io/_item/345828
【お得な3日通し券】https://eplus.jp/sf/detail/3555380001-P0030001P021001?P1=1221
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Studio:
DJ Nobu (Future Terror | Bitta)
Kotsu (CYK | UNTITILED)

Contact:
Kabuto (DAZE OF PHAZE)
k_yam
Akie
discopants
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『DJ Nobuによる音楽の歓喜の解放』

シリーズ最終章、ワンフロア、ツーマンでは初となるCYK Kotsuとの共演は音楽の快楽を余すことなく味わう祝宴になりそうだ。2020年、拠点を京都に移してからもその活躍は全国に響いており、昨年末までに国内14都市からの招致を受けている。本来主体としていたハウスを概念として膨らませながらオーディエンスのハートに確実にヒットさせる卓越したスキルと発想は、DJ Nobuとのどのような化学反応を起こすか期待を抱かざるをえない。
Contactフロアには、スペシャリストKabutoを筆頭に繰り広げられる、国内テクノ/ハウスの、進化形でシーンの現到達点とも呼べるフロアデザインが施された。さらに、自身のパーティのREMEDYの卓越したキュレーションや、トラックのクオリティの高さ、DJでのイマジネーションの飛躍など層の厚い世代の中でも際立つk_yamがラインナップ。discopantsのハウスとエレクトロニクスの刺激的なクロスオーバーや、Akieのオルタナティブなハウスサウンドも、大阪の聖地newtone recordsの出身を感じさせる情感とエレクトロニクスの複層的な交わりをみせる。人の熱をもったファンクネスやUKマナーを独自のイメージで鳴らしてきたオリジナリティが、ダンスミュージックのハードリスナーをもノンストップで踊らせうるエレクトロニック・ジャーニーを展開させる。
Trilogies DJ Nobu 最終章は、episode 1, 2とはさらに違う面でのDJ Nobuの解放を味わう、音楽桃源郷で幕を閉じる。

どんぐりず - ele-king

 いまどんどん注目を集めている群馬は桐生の2人組、どんぐりず。その独創的な音楽を堪能する絶好の機会がやってきた。
 1月27日(木)東京・恵比寿 LIQUIDROOM と2月5日(土)大阪・味園ユニバースにて、「どんぐりず Presents "COME ON"」と題したライヴ・イヴェントが開催。福岡の新世代バンド yonawo と 神戸のラップ・デュオ Neibiss も出演する。これはマッチョな現行ラップ・シーンに風穴を開けるイヴェントになるかも!? 期待大です。

■東京
2022/1/27(木)
恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:どんぐりず / yonawo / Neibiss

■大阪
2022/2/5(土)
味園ユニバース
OPEN 17:00 / START 18:00
どんぐりず / yonawo / Neibiss

TICKET INFORMATION
https://www.creativeman.co.jp/event/dongurizu_2022/



どんぐりず
ラッパー森、トラックメイカー・プロデューサーのチョモからなる二人組ユニット。音源、映像、アートワークに至るまでセルフプロデュースを一貫。ウィットにあふれるグルーヴとディープなサウンドで中毒者を続出させている。



yonawo
荒谷翔大(Vo)、田中慧(Ba)、斉藤雄哉(Gt)、野元喬文(Dr)による福岡で結成された新世代バンド。
2018年に自主制作した2枚のEP「ijo」、「SHRIMP」はCDパッケージが入荷即完売。地元のカレッジチャートにもランクインし、早耳リスナーの間で謎の新アーティストとして話題に。2019年11月にAtlantic Japanよりメジャーデビュー。
2020年4月に初の全国流通盤となる6曲入りのミニアルバム「LOBSTER」をリリース。
そして、11月には、Paraviオリジナルドラマ「love⇄distance」主題歌オープニング曲「トキメキ」や、史上初となる福岡FM3局で同時パワープレイを獲得した「天神」を収録した待望の1stフルアルバム「明日は当然来ないでしょ」をリリース、全国5都市で開催された初のワンマンツアーは全公演チケット即完売。
2021年1月に配信シングル「ごきげんよう さようなら」、3月に配信シングル「浪漫」、5月に冨田恵一(冨田ラボ)プロデュースによる配信シングル「哀してる」を、7月に亀田誠治プロデュースによる「闇燦々」をリリース。そして、8月11日(水)には2ndフルアルバム「遙かいま」をリリースし、直後に「FUJI ROCK FESTIVAL ‘21」へ出演。また、メガネブランド「Zoff」の「Zoff CLASSIC Summer Collection」のモデルも務める。



Neibiss
兵庫・神戸を中心に活動するラッパー・hyunis1000とビートメイカー / DJ / ラッパー・ratiffによるヒップホップユニット

History of Fishmans - ele-king

 ドキュメンタリー映画が異例の大ヒットとなったフィッシュマンズ、20代の若者たちがフィッシュマンズのトートバックを持って歩いている姿を渋谷で見たときは、ちょっと上がりました。まさに「永遠のフィッシュマンズ」ですね。
 待っていた方も多いことでしょう。パンデミックの影響で、しばらくライヴのなかったフィッシュマンズですが、3月1日‏2日と恵比寿のリキッドルームにて2日間ライヴをやります。
 1日目は1991年〜1994年、2日目は1995年〜1998年と、歴史に即したライヴになるようです(要するに、『空中キャンプ』以前と以後ですね)。配信もあるので、お見逃しのないように。

Makaya McCraven - ele-king

 〈ブルーノート〉はジャズの名門レーベルであるが、まだサンプリングが社会的に認知の薄かった時代からサンプリングを認め、またそれを自社音源のPRにも積極的に利用してきたレーベルだ。最初に〈ブルーノート〉が音源の使用を許可してアルバム制作をおこなったのがUs3(アス・スリー)の『ハンド・オン・ザ・トーチ』(1993年)で、当時は『ブルー・ブレイク・ビーツ』などDJ向けのサンプリングに特化したコンピも多数リリースしていた。その後もいろいろなアーティストたちによって〈ブルーノート〉音源のリミックスも作られ、その中でも傑作に挙げられるのがマッドリブの『シェイズ・オブ・ブルー』(2003年)である。これなどはまさに『ブルー・ブレイク・ビーツ』に収められた楽曲が多数使われているのだが、マッドリブの場合は単にビートなどをサンプリングするのではなく、そこに自身で演奏した素材をミックスし、一種のカヴァーやリメイクのようにしていたことも評価を高めた要因である。また、その中にはアンドリュー・ヒルの “イルージョン” を用いた “アンドリュー・ヒル・ブレイクス” という楽曲があって、そこでは〈ブルーノート〉創始者であるアルフレッド・ライオンの夫人のルースのインタヴューも交えていた。マッドリブはたびたびこうした試みをおこなっているが、それはサンプリングに込められた彼のジャズに対する造詣の深さや愛情を物語る。

 マカヤ・マクレイヴンによる『ディサイファリング・ザ・メッセージ』も、マッドリブの『シェイズ・オブ・ブルー』に近い形でのリミックス/カヴァー・アルバムだ。『メッセージの解読』というタイトルどおりマカヤ・マクレイヴンが〈ブルーノート〉音源を読み解いたもので、単純に素材としてサンプリングするのではなく、自身で過去の〈ブルーノート〉の楽曲を研究し、それを自身の解釈を交えながら現在に再構築したものとなっている。
 マカヤと言えばギル・スコット・ヘロンをリミックス/リコンストラクトした『ウィ・アー・ニュー・アゲイン』(2020年)があるが、これはギル・スコット・ヘロンのヴォーカル・パートや元々の演奏などのテープ素材をもとに、サンプリングやエレクトロニック処理と自身によるインプロヴィゼイションを交えて再構築していったもので、ある意味でギル・スコット・ヘロン以上にギル・スコット・ヘロンらしい楽曲もあった。単なる楽曲のカヴァーやサンプリングを超え、ギル・スコット・ヘロンの精神性や世界観を表現した素晴らしい作品集であったが、『ディサイファリング・ザ・メッセージ』はそれを〈ブルーノート〉に置き換えたものとなっている。
 今回はマカヤひとりではなく、ジェフ・パーカー(ギター)を筆頭にジョエル・ロス(ビブラフォン)、マーキス・ヒル(トランペット)、グレッグ・ワード(アルト・サックス)、マット・ゴールド(ギター)、ジュニアス・ポール(ベース)、デシーン・ジョーンズ(テナー・サックス、フルート)が参加し、ときにバンド演奏に近い形で新たに弾き直したパートも交えている。マカヤはドラムのほかキーボード、ギター、ベース、パーカッションを演奏し、そしてサンプリングやビート・メイクをおこなう。

 タイトルにメッセージがあるように、アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの作品もやっていて、それに代表されるように1950年代後半から1960年代半ばくらいまでのハード・バップが中心となる構成だ。この時代はジャズ、そして〈ブルーノート〉にとっても黄金時代で、ホレス・シルヴァー、クリフォード・ブラウン、ケニー・ドーハム、ハンク・モブレー、デクスター・ゴードンといったスター・プレーヤーが活躍し、彼らの楽曲をマカヤは再構築している。主に1970年代のジャズ・ファンクが中心となっていたマッドリブの『シェイズ・オブ・ブルー』に対し、マカヤの『ディサイファリング・ザ・メッセージ』の相違性はこのあたりにあるだろう。ジャズ・ファンクはグルーヴ感のあるファンク・ビートを軸に、楽曲そのものが既にサンプリング向けの素材であるのだが、ハード・バップはプレイヤーのアドリブがより多く、インプロヴィゼイションやインタープレイに演奏の焦点があり、どちらかと言えばサンプリング向けの素材ではない。こうしたところからも、マカヤがありきたりの〈ブルーノート〉のカヴァー/リミックス・アルバムを作ろうとするのではなく、1950年代後半から1960年代半ば頃のジャズ・ミュージシャンの立場となり、当時彼らが何を想い、どのように感じて演奏していたか、それを自身に置き換えて表現したアルバムになっていると言える。

 たとえばアルバムの冒頭を飾る “ア・スライス・オブ・ザ・トップ” はもともとハンク・モブレーの音源なのだが、サンプリングや演奏そのものは比較的原曲に忠実で、音のバランスやミキシングを変えてエッジを際立たせている。そして、カフェ・ボヘミアでのアート・ブレイキーのMCをピッチを上げてサンプリングし、ライヴ感を創出している。マカヤならではの現代ジャズ的なセンスが感じられると共に、ハンク・モブレーやアート・ブレイキーの息吹がそのまま伝わってくるような楽曲で、そしてハード・バップの時代のジャズが持つライヴ感が込められている。観客の拍手が交えられたケニー・ドーハムの “サンセット” にしてもそうだが、当時のジャズの主流な鑑賞はジャズ・クラブで聴くもので、実際にレコードもそのライヴを実況録音したものが多かった。時代は変わって、いまのジャズのアルバムはスタジオに入って録音することが主流となっているが、こうしたライヴ仕立ての仕掛けも当時の時代背景を反映しており、細かなところも練り込んで作られていることがわかる。

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