「Nothing」と一致するもの

Ron Trent - ele-king

 彼が16歳のときに発表した “Altered States” は、いまなお色褪せぬエレクトロニック・ミュージックのクラシックだ。シカゴ・ディープ・ハウスの重要人物、ロン・トレントがなんと11年ぶりに新作『What Do The Stars Say To You』をリリースする。新名義「ウォーム(WARM)」の名のもと放たれる同作では、トレント自身によってプレイされたドラムやキーボード、ギターがエレクトロニクスと融合されているという。ゲストも豪華で、クルアンビンアジムスのふたり、ジャン=リュック・ポンティ、ジジ・マシンと、そうそうたる顔ぶれだ。さらにはフランソワ・ケヴォーキアンによってミックスされてもいるらしい。生ける伝説の現在を、この耳でたしかめたい。

Ron Trent, Francois Kevorkian
「ハウス・ミュージックの伝説」として第一線で活躍を続けるロン・トレント
11年ぶりの最新作を発表!!!
CDはフランソワ・ケヴォーキアンによる超スペシャル・ミックス音源!!!

クルアンビン、イヴァン・コンチ(アジムス)、
アレックス・マリェイロス(アジムス)、ジャン=リュック・ポンティ、
そしてジジ・マシンら超豪華ゲストが参加!!!

アーティストが監修を務めるオリジナル・コンピレーション・シリーズで人気を博す〈Late Night Tales〉から派生した姉妹レーベルで、第一弾アーティストのクルアンビンがいきなり世界的ブレイクを果たし、その独特の美学が評価を高めているレーベル〈Night Time Stories〉より「ハウス・ミュージックの伝説」として、さらには超一流のミュージシャン/ソングライター/プロデューサーとして第一線で活躍を続ける、ロン・トレントの最新アルバム『RON TRENT PRESENTS WARM: What do the stars say to you』が6/17にリリース! 現在、アルバムからクルアンビン参加の新曲のMVとアルバム・サンプラーが公開されている。

Ron Trent presents WARM - Flos Potentia (Sugar, Cotton, Tabacco) feat. Khruangbin (Official Video)
https://youtu.be/8dXR5B8GDuA

Ron Trent presents WARM - What do the stars say to you (Album Sampler)
https://youtu.be/0fU31j2S4hc

アルバムの参加ゲストとしては前述のクルアンビンに加えて、ブラジルの伝説的バンド、アジムスのドラマー、イヴァン・コンチとベーシストのアレックス・マリェイロス、フランスのジャズ/フュージョン界のスター、ジャン=リュック・ポンティ、そしてアンビエントのパイオニア、ジジ・マシンといった面々が名を連ねており、マスタリングはフランソワ・ケヴォーキアンが手がけた超豪華なコラボレーション作品となっている。

また、作品中ドラム、パーカッション、鍵盤、シンセ、ピアノ、ギターなどをロン自身が奏でており、生楽器とエレクトロニクスの調和がディープで陶酔的なサウンドを生み出している。ジャズ・ファンク、ポップ、ニュー・エイジ、ニューウェーブ、コズミック、バレアリック、サンバ、アフロビート、ラテンロック他……彼の飽くなき探究心で培われた音楽的豊かさが詰め込まれたキャリア最高傑作がここに誕生している。

本作はCDとLPで6/17にリリースされ、CDはフランソワ・ケヴォーキアンによるミックス音源となっており、5曲のボーナス・トラックが収録、更に国内流通仕様盤CDには解説が封入される。
また、LPにはアンミックス音源が収録され、通常のブラック・ヴァイナルと限定のホワイト・ヴァイナルで発売され、フランソワ・ケヴォーキアンによるミックス音源とアンミックス音源、両方のDLコードが付属する。

label: Night Time Stories / Beat Records
artist: Ron Trent, Francois Kevorkian
title: RON TRENT PRESENTS WARM: What do the stars say to you
release date: 2022.06.17

国内流通仕様盤CD BRALN68 定価 ¥2,100+税(税込 ¥2,310)
国内盤特典:解説封入

ご予約はこちら:
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12808

TRACKLISTING


CD tracklist
フランソワ・ケヴォーキアンによるミックス音源、5曲のボーナス・トラック入り
*がボーナストラック

01 Melt into you feat. Alex Malheiros (Azymuth)
02 Cool Water feat. Ivan Conti (Azymuth) and Lars Bartkuhn
03 Flos Potentia (Sugar, Cotton, Tabacco) feat. Khruangbin
04 The ride*
05 Cycle of Many
06 In the summer when we were young*
07 Flowers feat. Venecia
08 Sphere feat. Jean-Luc Ponty
09 Admira feat. Gigi Masin
10 Endless Love*
11 Rocking You*
12 WARM
13 On my way home
14 What do the stars say to you
15 Cool Water Interlude*


Vinyl tracklist
フランソワ・ケヴォーキアンによるミックス音源とアンミックス音源、両方のDLコードが付属

A1. Cool Water feat. Ivan Conti (Azymuth) and Lars Bartkuhn
A2. Cycle of Many
A3. Admira feat. Gigi Masin
A4. Flowers feat. Venecia
A5. Melt into you feat. Alex Malheiros (Azymuth)
B1. Flos Potentia (Sugar, Cotton, Tabacco) feat. Khruangbin
B2. Sphere feat. Jean-Luc Ponty
B3. WARM
B4. On my way home
B5. What do the stars say to you

Aldous Harding - ele-king

 オルダス・ハーディングの『Warm Chris』にはある種の魔法がかかっている。魔法がかかっていることにすら気がつかないようなそんな魔法、それは自然で美しく染みわたるようにして入ってくる。奇妙なことが起こっていても頭に疑問なんて思い浮かばない。ここで奏でられている音楽はとても自然で、軽やかで、力んだところがどこにもなく、これ見よがしなキメが作られることもない。いつの間にかそこにいて、その場所にいることが心地が良いことだと感じらるような特別な空間、それがこのアルバムのなかで展開されているのだ。

 ニュージーランド出身、現在ウェールズをベースに活動するオルダス・ハーディングはこのアルバム『Warm Chris』以前に3枚のアルバムを発表しておりいずれも高い評価を得てきた。自らが名乗る名前を冠した2014年の 1st アルバム『Aldous Harding』、〈4AD〉からリリースされた 2nd アルバム『Party』、2019年の 3rd 『Designer』、『Party』は2017年の〈ラフトレード〉の年間ベスト・アルバムに選出され、前作『Designer』はフォークを基調としたサウンドからさらに歩みを進めてアートをポップ・ミュージックと結びつけたような音楽性に変化し高まった期待を裏切ることなくさらなる評価を獲得した。
 2枚目のアルバムからはPJ・ハーヴェイでお馴染み、最近ではドライ・クリーニングとの仕事で知られるジョン・パリッシュがプロデュースを手がけており、この4枚目のアルバムにしても同じくジョン・パリッシュのプロデュースだ。相性の良さは言わずもがな。だかこの 4th アルバムは彼が手がけたオルダス・ハーディングのどのアルバムよりも柔らかく自然でまるで輪郭が消失したような力みのない美しさがある。余韻と隙間があって、リラックスしていて、どこからともなく香り立つ不穏な空気や奇妙なひねくれさえも地面をひとかきしたのちに整えられて決して強調されることはない(それらは不穏な余韻、あるいは姿を見せない何かの軌跡として曲の中に存在する)。オルダス・ハーディングの尖った部分、その芸術性はこれまでのどのアルバムよりも自然にクラシカルなポップ・ミュージックのフォーマットのなかに混ぜられ、ともすると地味に聞こえてしまうくらいに柔らかく穏やかに響く。このアルバムで奏でられている音楽は一聴して素晴らしいと声を大にして叫び出したくなるようなものではなく、聞いているうちに自然と染み込んでくるようなタイプのもので聞く度に違った箇所がお気に入りになる。それは多角的というよりかは多面的で、新たな意味がそこに付与されるのではなく、もともとそこにあったものの意味を理解するようになったという形で染み込んでくるのだ。

 あぁしかし聞けば聞くほどこのアルバムは声のアルバムだという気がしてくる。曲ごとその瞬間ごとに印象が変わる彼女の声、“Fever” ではニコのような低くくっきりとした声が聞こえてきて、“Warm Chris” や “Staring at The Henry Moore” のそれは都市に生きるヴァシュティ・バニヤンのような響きで、“Lawn” の彼女の声は60年代フランスのミュージカル映画のように軽やかで可愛らしくいたずら心が見え隠れする。そして “Leathery Whip” だ。どの曲でもそうなのだが特にこの曲のなかのオルダス・ハーディングは複数人いるような気がしてならない。ニコのように低く気怠げな声を発するオルダス・ハーディング、少し鼻にかかった幼い印象の声、その中間のニュートラルなイメージの声、それらの声が行き来して、ときおり重なり、そして完全に別の声として印象を変えた別人みたいなスリーフォード・モッズのジェイソン・ウィリアムソンの声が聞こえてくる。それはコーラスワークというよりも自分自身との共演と呼びたくなるようなもので、彼女ひとりで何役も演じているような、もしくはオルダス・ハーディングというひとりの人物を何人もの人間で演じているかのように感じさせる。

 あるいはそれは人間が持つ多面性の表れなのかもしれない。当たり前だが人間は複雑で単一の要素だけで成り立っているのではない。だから本来は簡単に理解できないもののはずなのに、指先ひとつで情報を手に入れられる時代の僕らはいともたやすく人間をキャラクターに仕立て上げてしまう。このタイプの人はこういう人、善人はおかしなことをするはずがなく、主張は終始一貫していてブレがない。人間は本来そういうものではないとわかっていながらも理解のためにわかりやすくされたそれを受け入れる。それゆえに大人っぽい人の持つ子供の部分というのは描けても大人っぽい部分と子供っぽい部分が混じり合い、両方が当たり前に存在しているという状態はなかなか思い描けない。そんな単純化の世界に浸かりきった頭にオルダス・ハーディングの音楽は再び複雑の味を思い出させてくれる。いたずらっぽい声に、理路整然とした低い声、そのどちらにもよらないニュートラルな歌声、それらがその時々で位置を変え混じり合い同時に存在し、カテゴライズの決めつけの世界から僕たちを解放してくれる。このアルバム以前から彼女は曲のなかで声色を使い分けていたが、この 4th アルバムではそれをより一層意識して推し進めているように思える。ここで響く彼女の声は単にキャラクターを演じわけたものではなくて人間のなかにある多面性が顕在化されたものなのだ。

 そしてそれをいたずらに強調しないというのがオルダス・ハーディングの素晴らしさだ。アーティスティックな主張を伝統的なポップ・ミュージックのフィールドで表現する。すべてが自然で心地よく、複雑さが音楽のなかに溶け込んでいく。すぐさまに答えを求めてしまうような時代において彼女の音楽は奇妙な優雅さをもって響く。実験的な試みをそうだと感じさせず心地よさをもたらす彼女の音楽、『Warm Chris』に時代を超越したような雰囲気を感じるのはそれがトレンドを追うような世界からかけ離れた場所から来ているからなのかもしれない。わかりやすさは複雑に混ぜられて、カテゴライズはゆるやかに形を失う。オルダス・ハーディングは優れた作家? 音楽家? それとも役者? プロフィール欄に書かれた肩書きに支配されてしまうような世界で、多面性が音楽のなかに溶け込んでいく。そうやって「感じとる」いう行為に心地よさと美しさをもたらす。オルダス・ハーディングの音楽には人間の複雑さが溶けている。そんなことを思い、彼女の出した4枚のアルバムの中でこのアルバムがいちばん好きかも知れないとぼんやりと考え、この心地の良い空間に浸かり続けている。それは複雑で自然で、混じり合っているものなのだ。

black midi - ele-king

 昨年意欲的なセカンド・アルバム『Cavalcade』を送り出したロンドンのバンド、ブラック・ミディ紙エレ最新号のインタヴューで「新しい実験をいくつかやってみた」「ポップな感じの曲を作って、その極論まで突き詰めてみた」「いままでで最高の作品になる」と次の作品について語っていた彼らだが、ついにそのサード・アルバムのリリースがアナウンスされた。題して『Hellfire』、7月15日発売。

 そしてさらに喜ぼう。コロナにより延期となっていた来日公演が、ようやく実現することになった。12月4日東京 SHIBUYA O-EAST、5日大阪 UMEDA CLUB QUATTRO、6日名古屋 NAGOYA THE BOTTOM LINE。前売券をお持ちの方など、詳しくは下記をご確認ください。

black midi
地獄の業火、環状高速道路M25、燃え盛る炎、27個の謎
一体我々はどこへ辿り着くのか.....
ブラック・ミディ最新アルバム『Hellfire』堂々完成。
延期となっていた来日公演も遂に実現!!

『Cavalcade』がドラマだとしたら、『Hellfire』は壮大なアクション映画のようだ - ジョーディ・グリープ

圧巻の演奏スキルと爆発的イマジネーションで次世代UKロック・シーンの中でも突出した存在感を放つカリスマ、ブラック・ミディが衝撃のセカンド・アルバム『Cavalcade』に続く最新アルバム『Hellfire』を7/15にリリース。同作からのリード・シングル「Welcome To Hell」が公開された。戦争の恐怖から闇堕ちした兵士を歌った楽曲はファンキーなギター・リフと破壊力抜群のホーン・セクションが目まぐるしく展開していくブラック・ミディらしいハードコアなプログレッシヴ・ロックで、オフィシャルMVは「Slow」のビデオも監督したグスタフ・ホルテナスが手掛けている。

black midi - Welcome To Hell
https://www.youtube.com/watch?v=Efmq_uXt1Rk

『Cavalcade』リリース後、ロックダウンが続くロンドンで制作されたアルバムは前作のメロディやハーモニーを踏襲しながら、1stアルバム『Schlagenheim』にあった性急で凶暴なバンド・アンサンブルが復活し、希薄になっていく現代社会の道徳を炙り出す様々なストーリーが一人称で語られていく一貫したコンセプトが敷かれている。またプロデュースはバンドの新たな代表曲としてリスナーに熱烈な支持を集めた「John L」を手掛けたマルタ・サローニを迎え、これまでにないほどブラック・ミディの音楽の領域の広さや力強さ、強力なプロダクションを見せつけている。

2022年7月15日(金)に世界同時発売される本作の日本盤CDおよびTシャツ付限定盤には解説および歌詞対訳が封入され、ボーナス・トラックとしてステューヴ・アルビニ録音によるライヴ音源を追加収録。アナログは通常/限定盤ともに初回生産分にはアルバム・アートワークを手がけたデヴィッド・ラドニックによる日本語帯付仕様でのリリースとなる。本日より各店にて随時予約がスタートする。


待望の来日公演の振替日程が決定!

black midi JAPAN TOUR 新日程
2022/12/4 (SUN) 東京 SHIBUYA O-EAST (1st SHOW / 2nd SHOW)
2022/12/5 (MON) 大阪 UMEDA CLUB QUATTRO
2022/12/6 (TUE) 名古屋 NAGOYA THE BOTTOM LINE

昨年9月に予定しており新規入国禁止措置により延期となっていたブラック・ミディのジャパンツアーの振替公演の日程が下記の通り確定しました。ご協力いただいた関係各位、とりわけ前売チケットをご購入いただき、振替日程の発表を長期間お待ちいただきましたお客様には厚く御礼申し上げます。

既にお持ちのチケットは対応する各都市の振替公演にそのまま有効となります。大切に保管していただくようお願い申し上げます。

新しい公演日程に都合がつかないお客様には、お買い求めになられたプレイガイドより払戻しいたします。払戻数が確定後、キャパ制限などの状況に応じた枚数の前売チケットの販売を再開する予定です。チケット購入を希望される方は新たな発表をお待ちください。
※チケット紛失等に関しましては対応致しかねますのでご注意下さい。

詳細はこちらから:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11891


label: BEAT RECORDS / ROUGH TRADE
artist: black midi
title: Hellfire
release date: 2022/07/15 FRI ON SALE

国内盤CD
解説書・歌詞対訳封入
RT0321CDJP ¥2,200+税


国内盤1CD+Tシャツ付き
サイズS・M・L・XL
¥6,200+税


輸入盤LP(限定レッド/初回限定日本語帯付仕様)
RT0321LPE 2,850+税


輸入盤LP(初回限定日本語帯付仕様)
RT0321LP 2,850+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12794

Tower Records: https://tower.jp/artist/discography/2729064

TRACKLISTING
01. Hellfire
02. Sugar/Tzu
03. Eat Men Eat
04. Welcome To Hell
05. Still
06. The Race Is About To Begin
07. Dangerous Liaisons
08. The Defence
09. 27 Questions
10. Sugar/Tzu (Live at Electrical Audio, Recorded by Steve Albini) *Bonus Track for Japan
11. Still (Live at Electrical Audio, Recorded by Steve Albini)
*Bonus Track for Japan

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO - ele-king

 巨匠ブライアン・イーノ(先日、初の公式ドキュメンタリー映画の制作がスタートしたことが明らかになりましたね)による音と光のインスタレーション、6月3日から8月21日まで京都にて開催される展覧会において、なんと、世界初公開となる作品が展示されることが明らかになった。その名も『Face to Face』。たしかに、初めて聞くタイトルだ。
 実在する21人の人物の顔写真がゆっくりと別の顔へと変化していく作品のようで、毎秒30人ずつ、計3万6千人以上の新しい顔が生み出されるという。イーノのライフワーク、「ジェネレイティヴ」の最新型だろう。これは気になります。
 同展覧会では他に、ヴィジュアル・アーティストとしてのイーノの代表作たる『77 Million Paintings』と『Light Boxes』、さらに日本初公開となる『The Ship』も展示される。
 また、同じタイミングで横尾忠則からコメントも到着。チケット情報ともども、下記よりご確認ください。

イーノを特集した別エレ最新号は5月25日発売です。そちらもぜひチェックを。

ブライアン・イーノによる音と光の展覧会
BRIAN ENO AMBIENT KYOTO

2022.6.3-8.21 @京都中央信用金庫

◉世界初公開作品含む全ラインナップを発表!
◉横尾忠則氏からのコメントが到着!
◉一般前売チケット販売開始!

ヴィジュアル・アートに革命をもたらした英国出身のアーティスト、ブライアン・イーノが、コロナ禍において、初となる大規模な展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」を、京都を舞台に2022年6月3日(金)より開催します。開幕を約1ヶ月後に控え、一般前売チケットの販売を開始すると共に、展覧会の全ラインナップと、横尾忠則氏から寄せられたコメントを公開しました。

今回発表された全ラインナップの注目点は、ブライアン・イーノの代表作3作品全てが一堂に会することと、世界初公開作品となる『Face to Face』が展示されることです。築90年の歴史ある建物がまさにイーノのアートで彩られることになります。

ロキシー・ミュージックでのイーノのルックスとファッションは 美術を学んだ彼をやがて現代音楽の世界に接触するのではと予感 していたが、彼は磁石のようにあらゆる要素を肉体化していった。 ━━ 横尾忠則(美術家)

■■■ 展示作品について ■■■

全ラインナップ発表。
今回新たに発表されたのは、イーノの代表作のひとつ『Light Boxes』と、世界初公開作品『Face to Face』の2作品。

◆『Light Boxes』(『ライト・ボックス』)

光りながら常に新たな色彩の組み合わせへと変わってゆく、LED技術を駆使した光の作品。作品の表面下にあるボックスが照らされ、光の色の組み合わせがゆっくりと変化すると共に、作品に対する見方も変化し、流れるような光の魅惑的な世界に引き込まれます。

◆『Face to Face』(『フェイス・トゥ・フェイス』)
世界初公開作品。ランダムなパターンとその組み合わせによって、予期せぬアート作品を生み出す可能性を追求した作品。
この作品は、実在する21人の人物の顔をそれぞれ1枚の静止画に収めた小さな写真群から始まった。特殊なソフトウェアを使い、画像は1つの本物の顔から別の顔へと、ピクセル単位でゆっくりと変化していく。これが、実際には存在しなかった人々、中間的な人間など、一人一人の本物の顔の間に「新しい人間」の長い連鎖を生み出し、毎秒30人ずつ、36,000人以上の新しい顔を誕生させることができます。

■■■ チケット販売概要 ■■■

一般前売りチケット販売開始!
◉チケット購入サイト https://www.e-tix.jp/ambientkyoto/

◉チケット発売スケジュール
・一般前売チケット: 5月9日(月)~6月2日(木)
・一般チケット: 6月3日(金)~8月21日(日)
*前売チケット販売は、上記チケット購入サイトでのオンラインのみの取り扱いとなります。

◉チケット料金
[一般前売チケット]
平日: 一般(大人) ¥1,800 / 専 ・大学生 ¥1,300 / 中高生 ¥800
土日祝: 一般(大人) ¥2,000 / 専 ・大学生 ¥1,500 / 中高生 ¥1,000
[一般チケット]
平日: 一般(大人) ¥2,000 / 専 ・大学生 ¥1,500 / 中高生 ¥1,000
土日祝: 一般(大人) ¥2,200 / 専 ・大学生 ¥1,700 / 中高生 ¥1,200
*小学生以下無料

■■■ 開催概要 ■■■

タイトル:BRIAN ENO AMBIENT KYOTO (ブライアン・イーノ・アンビエント・キョウト)
会場:京都中央信用金庫 旧厚生センター
住所:京都市下京区中居町七条通烏丸西入113
会期:2022年6月3日(金)-8月21日(日)

*展覧会詳細は以下の公式ページにてご確認ください。

公式ホームページ https://ambientkyoto.com
Twitter https://twitter.com/ambientkyoto
Instagram https://www.instagram.com/ambientkyoto
Facebook https://www.facebook.com/ambientkyoto

Syd - ele-king

 想像してみてほしい。このミュージシャンは2017年にソロ・デビュー作『Fin』で称賛を浴び、母体であるジ・インターネットでは翌年『Hive Mind』をリリース。バンドでのツアーを成功のうちに終わらせ、評価を盤石のものとした。さて、2作目のソロ・アルバムの制作に着手しよう。情熱的な恋愛、自らが渦中にいるその恍惚としたクリエイティヴィティを作品にも投影するのだ。アルバム・タイトルは『In Love』でどうだろう。いかにも愛に満ちた作品ができ上がるはずだ。

 しかし、状況は一変する。2020年にパンデミックがはじまる。突如として大失恋を経験する。さて、制作は道半ば、『In Love』どころではない。この絶望のなかでどうやって創作活動に打ち込めばよいのだろう。もう投げ出したい。癒されたい。仕方ないので読書をしよう。エクササイズに打ち込もう。少しずつ、前に進んでいこう。そうやって、音楽をまた生み出していこう──。

 これはシドの身に降りかかった事実としての出来事であり、いかに今回の作品がパーソナルな苦しみのなかで感情のアップダウンに振り回されながらもなんとか完成を迎えた、苦難の末の産物かがわかるだろう。結局今作は『Broken Hearts Club』というタイトルに落ち着き、失恋にどっぷりと浸かったリリックやヴォーカルが随所で感じられる。けれども今作が興味深いのは、ただ内省に向かうだけでないその一歩先までもが表現されている点だ。つまり、シドは吹っ切れているのである。

 『Fin』で披露されたスタイリッシュでドープなトラップ~モダンR&Bの手つきは、今作ではあまり顔を覗かせることはない。戦略的にジ・インターネットとは異なるスタンスが宣言された前作と比較し、『Broken Hearts Club』ではもっとオーガニックで飾らないシドのグルーヴを聴くことができる。開き直ったとも言うべきこのパフォーマンスは、リスナーの期待を良い意味で裏切るだろう。実際、私も一聴してやや動揺し、その後すぐさま大笑いしてしまったのだ。R&Bシンガーにしては “歌い上げる” ことに禁欲的であり、渋く抑制された歌唱にそのアイデンティティを認識していた者も多いだろうに、今作ではとにかく感情の揺れが激しい。“CYBAH” のド派手にエコーするドラム──プリンスのような官能的なファンク・トラック!──へと絡みつく心地良くアトモスフィリックな歌。“Tie the Knot” のミニマルなビートにさりげなく添えられる控えめなフロウ。“Fast Car” の刻まれるダンサンブルなリズムに乗る爽やかな声。しかも、この曲は終盤に大仰なエレキギター・ソロが炸裂し、80’s モードが極まる。前作では絶対に聴けなかったであろう、ベタでストレートな芸当だ。

 ロドニー・ジャーキンスがプロデュースに入った “Control” はまさしくアリーヤやブランディを彷彿とさせるし、“Getting Late” は不穏な固いベースが敷かれたホラー・タッチを匂わせる。“Out Loud” の牧歌的でヘルシーな空気感はケラーニとの良き関係性が伝わってくるようだ。特筆すべきは “Goodbye My Love” で、「泣かずに歌えるようになるまで時間がかかった」と本人が述べるこの曲はもはや「歌が感情に乗っている」と称してよいくらいにエモーションが渦巻いている。

 散漫といえば散漫なのだが、それら激しい起伏を “アリ” にしてしまうシドの等身大の息づかいが作品全体を包みこみ、不思議な統率力を発揮している。技術やトレンドといった前作に投影されていた要素から一歩進み、キャラクターから醸し出される人間味が立っているからだろう。ゆえに、プロデューサー/シンガーとしてこれまでシドに抱かれていたエッジィなパブリック・イメージは、恐らく良い意味で更新/拡張されるに違いない。“Goodbye My Love” で「We had too put ourselves first for once(=私たちは一度だけ自分自身を優先しなければならなかった)」と歌うシドは、これまでで最も “自らのために” 『Broken Hearts Club』を作り上げ、歌っている。その身軽さは創作行為において尊ばれるものであり、事実 “Fast Car” で鳴る豪快なギター・ソロも、“Goodbye My Love” で音の波に耽溺する繊細な歌唱も全てがシドそのものであって、彼女はもう演じることを必要としていない。この素朴さこそがいまのシドの魅力なのだ。

 グループの中枢を担うこの人物の前進は、恐らくジ・インターネットにも新たなヴァイブスを与えるに違いない。難しい顔をして頭で考えて聴くよりも、音に身をゆだね、陽射しを浴びながら聴くべき作品であろう。将来ディスコグラフィを振り返った際に重要な分岐点になっているに違いない注目すべき新たな一手、その幸福で柔らかな揺らぎをつかむべく──。

[参考]
https://www.wmagazine.com/culture/syd-internet-broken-hearts-club-new-album-interview
https://uproxx.com/music/syd-interview-broken-hearts-club/

Undefined - ele-king

 こだま和文との共作10インチ「New Culture Days」(2018)や、ヤング・エコーライダー・シャフィークを迎えた「Three」(2019)などでじわじわと注目を集めてきた気鋭のダブ・ユニット、Undefined が初のフルレングスをリリースしている。
 元 HEAVYMANNERS で〈Newdubhall〉を運営するサハラと SOUL DIMENSION のオオクマから成るこのユニットは、オーセンティックなルーツ・サウンドもデジタル・サウンドも、さらにはテクノ以降のミニマル・ダブも踏まえたうえで新たなスタイルを探求しているチャレンジャーだ。
 待望のファースト・アルバムは8曲収録のLPに2曲入りの7インチが付属する仕様で、ポートランドの人気レーベル〈ZamZam Sounds〉傘下の〈Khaliphonic〉からのリリース。2022年、押さえておきたいダブ作品の筆頭になること間違いなしです。チェックしておきましょう。


artist : Undefined
title : Defined Riddim
label: ZamZam Sounds / Khaliphonic

[tracklist]

LP:
A1 Victims feat. Paul St. Hilaire
A2 Array
A3 After Effect
A4 Second Floor
B1 Mango Step
B2 Tech In Black
B3 Three feat. Rider Shafique
B4 Untitled

7”:
A Into The Light feat. Ras Dasher
B Into The Dub

Anteloper - ele-king

 昨年末、穏やかで美しい新作を送り出したトータスのジェフ・パーカー、彼がプロデュースを手がけたグループにアンテローパーなるユニットがいる。トランぺッターのジェイミー・ブランチとドラマーのジェイソン・ナザリーから成るこのデュオは、2018年にシカゴのレーベル〈International Anthem〉からファースト『Kudu』を発表。この6月には件のパーカー参加の新作『Pink Dolphins』が発売される予定なのだけれど、日本限定盤としてなんと、両作をカップリングした特別な1枚『Kudu + Pink Dolphins Special Edition』がリリースされることになった。エレクトロニクスも導入したエクスペリメンタルなジャズを一気に堪能する、絶好のチャンスである。まずは先行公開曲 “One Living Genus” を聴いてみて。

Anteloper
Kudu + Pink Dolphins Special Edition
発売日:【CD】2022/6/22

トランぺッターのジェイミー・ブランチとドラマーのジェイソン・ナザリーによる注目デュオ・プロジェクト、アンテローパー。ジェフ・パーカー・プロデュースによる最新作『Pink Dolphins』と、2018年に発表されたデビュー作『Kudu』を合わせたスペシャルエディションで、日本限定盤ハイレゾMQA対応仕様の2枚組CDでリリース!!

名門ニューイングランド音楽院で共にジャズを学んだジェイミー・ブランチとジェイソン・ナザリーは、アンテローパーではエレクトロニクスという共通言語も駆使する。さらに、『Pink Dolphins』ではジェフ・パーカーをプロデューサーに迎え、ビートのテクスチャーも加わった。これは、所謂エレクトリック・ジャズではなく、ハードコアの残響とコズミックなサウンドスケープとエレクトリック・マイルスが、無造作に生々しく繋がる真にリアルな音楽だ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

アルバムからの先行曲 “One Living Genus (Official Video)” のMVが公開されました!
https://www.youtube.com/watch?v=aJWpp0ULPNI

アーティスト:Anteloper(アンテローパー)
タイトル:Kudu + Pink Dolphins Special Edition
発売日:2022/06/22
価格:2,800円+税
レーベル:rings / International Anthem
品番:RINC88
フォーマット:2CD(MQA-CD/ボーナストラック収録予定)

* MQA-CDとは?
通常のCDプレーヤーで再生できるCDでありながら、MQAフォーマット対応機器で再生することにより、元となっているマスター・クオリティの音源により近い音をお楽しみいただけるCDです。

Official HP:https://www.ringstokyo.com/anteloper

B.B. King - ele-king

 〈Pヴァイン〉の「VINYL GOES AROUND」シリーズ、次なる新作はなんとブルースの王者、B・B・キング。1957年のファースト・アルバム『Singin' The Blues』と1960年作『The Great B.B.King』がオビ付きの180g重量盤としてリイシューされる。さらに、同2枚をモティーフにしたTシャツも限定販売。LPとのセットもあり。これまた見逃せないアイテムの登場だ。詳細は下記をチェック。

B.B.KINGのクラウン時代の人気作『Singin' The Blues』『The Great B.B.King』が帯付き重量盤仕様で待望のリイシュー! VINYL GOES AROUNDにてTシャツの限定販売も決定!

言わずと知れたブルースの王者、B.B.KING。彼がCrown Recordsに残したアルバムから、ファースト・アルバムにしてR&Bチャート5週連続1位に輝いたブルース史上最高の名盤の1つである『Singin' The Blues』と、傑作「Sweet Sixteen」を筆頭に脂ののった彼の演奏が詰まった『The Great B.B.King』を帯付き重量盤仕様でリイシューします。

そしてその2作品のジャケット・デザインを使用したTシャツをVINYL GOES AROUNDにて限定販売することも決定しました。

ブルースの神髄が存分に堪能できるB.B.の名作とその魂を込めたTシャツ、是非この機会にチェックしてください。

B.B.KING『Singin' The Blues』『The Great B.B.King』LP,T-Shirts 予約ページ
https://vga.p-vine.jp/exclusive/

[商品情報①]
アーティスト:B.B. KING
タイトル:Singin' The Blues
品番:PLP-7824
フォーマット:LP(180g重量盤)
価格:¥4,400(税込)(税抜:¥4,000)
発売日:2022年6月8日(水)
レーベル:P-VINE
★初回限定生産 ★帯付き

■トラックリスト
A1. Please Love Me
A2. You Upset Me Baby
A3. Every Day I Have The Blues
A4. Bad Luck
A5. 3 O'clock Blues
A6. Blind Love
B1. Woke Up This Morning
B2. You Know I Love You
B3. Sweet Little Angel
B4. Ten Long Years
B5. Did You Ever Love A Woman
B6. Crying Won't Help You

[商品情報②]
アーティスト:B.B. KING
タイトル:The Great B.B.King
品番:PLP-7825
フォーマット:LP(180g重量盤)
価格:¥4,400(税込)(税抜:¥4,000)
発売日:2022年6月8日(水)
レーベル:P-VINE
★初回限定生産 ★帯付き

■トラックリスト
A1. Sweet Sixteen (Pts 1&2)
A2. (I'm Gonna) Quit My Baby
A3. I Was Blind
A4. Just Sing The Blues (aka What Can I Do)
A5. Someday Baby (aka Some Day Somewhere)
B1. Sneakin' Around
B2. I Had A Woman (aka Ten Long Years)
B3. Be Careful With A Fool
B4. Whole Lotta' Love (aka Whole Lot Of Lovin')
B5. Days Of Old

[商品情報③]
アーティスト:B.B. KING
タイトル:Singin' The Blues Original T-Shirts
品番:VGA-1025
フォーマット:Tシャツ
カラー:BLACK / WHITE / SKY
サイズ:S M L XL 2XL
価格:¥5,280(税込)(税抜:¥4,800)
期間限定受注生産(~5月30日まで)

※受注期間が終了しましたら各デザイン一色のみの販売となります。
※商品の発送は 2022年7月上旬ごろを予定しています。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※Tシャツのボディはギルダン 2000 6.0オンス ウルトラコットン Tシャツになります。

[商品情報④]
アーティスト:B.B. KING
タイトル:Singin' The Blues Original T-Shirts + LP
品番:VGA-1026
フォーマット:Tシャツ+LP
Tシャツカラー:BLACK / WHITE / SKY
Tシャツサイズ:S M L XL 2XL
価格:¥9,350(税込)(税抜:¥8,500)
期間限定受注生産(~5月30日まで)

※Tシャツは受注期間が終了しましたら各デザイン一色のみの販売となります。
※商品の発送は2022年7月上旬ごろを予定しています。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※Tシャツのボディはギルダン 2000 6.0オンス ウルトラコットン Tシャツになります。

[商品情報⑤]
アーティスト:B.B. KING
タイトル:The Great B.B.King Original T-Shirts
品番:VGA-1027
フォーマット:Tシャツ
カラー:BLACK / NATURAL / SPORT GRAY
サイズ:S M L XL 2XL
価格:¥5,280(税込)(税抜:¥4,800)
期間限定受注生産(~5月30日まで)

※受注期間が終了しましたら各デザイン一色のみの販売となります。
※商品の発送は2022年7月上旬ごろを予定しています。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※Tシャツのボディはギルダン 2000 6.0オンス ウルトラコットン Tシャツになります。

[商品情報⑥]
アーティスト:B.B. KING
タイトル:The Great B.B.King Original T-Shirts + LP
品番:VGA-1028
フォーマット:Tシャツ+LP
Tシャツカラー: BLACK / NATURAL / SPORT GRAY
Tシャツサイズ:S M L XL 2XL
価格:¥9,350(税込)(税抜:¥8,500)
期間限定受注生産(〜5月30日まで)

※Tシャツは受注期間が終了しましたら各デザイン一色のみの販売となります。
※商品の発送は 2022年7月上旬ごろを予定しています。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※Tシャツのボディはギルダン 2000 6.0オンス ウルトラコットン Tシャツになります。

インフル病みのペトロフ家 - ele-king

 作中の現在時は2004年、ロシア連邦中部の大都市エカテリンブルクを舞台に、トロリーバスの通路中央に主人公ペトロフがたたずむ場面で幕をあける。自動車工のペトロフは目の下にクマをつくった生気のない表情でつねに咳きこんでおり、みかねた女性客が席をゆずろうと「ガン患者なのか」と声をかけると「インフルエンザだ」とかえす。女のもうしでを断ったペトロフがふらふらと車内前方に歩をすすめるとやおらバスは停車し、プロレスの覆面をかぶったテロリスト風の男が彼を車外につれだし銃を押しつけたかと思うと、目隠しのうえ両手を縛られた政治犯と思しき男女数名の銃殺刑の片棒をかつがされる、その一部始終を無表情の乗客がトロリーバスの熱でくもった窓ごしにながめている──ここで「Петровы в гриппе」なるロシア語のタイトルバック、英語では「Petrovs in The Flu」すなわち『インフル病みのペトロフ家』である。

 ここまで開始から5分もない。熱に浮かされたような矢継ぎ早の展開に観るものは眩暈をおぼえるが、語り口は場面転換しながら別々の空間を描くのではなく、時間と空間の継起をおりこんでいるので混乱をきたすほどではない。そのため作品全体を表層とは裏腹の明晰さが一貫するが、明晰夢なる用語が存在するように夢の夢たるはただ夢の切迫感に由来するのではなく、夢みていることを知りながらみる夢もある。『インフル病みのペトロフ家』をみるとはそのような状態であり、全体はいくつかの部分にわかれるのだが、それらは分節化し併存するというよりは、階層化したがいに嵌入しながらハレーションを生み出していく。
 監督は本作が2018年の『LETO ‒レト‒』以来となるキリル・セレブレンニコフ。ユダヤ人の父とウクライナ人の母をもち、モスクワの北東部ロストフに生まれたセレブレンニコフははじめ演劇分野で頭角をあらわし映画に進出したのは前世紀末。爾来演出家兼映画監督として活動するなかで10本ちかい作品を世におくりだしているが、2017年には国からの演劇予算の不正流用の疑いで自宅軟禁状態になった。一説によると、セレブレンニコフがロシアのジョージア、クリミアへの侵攻やLGBTへの抑圧を批判した咎ともいうが、『インフル病みのペトロフ家』はそのような状況下でアレクセイ・サリニコフの小説をもとに脚本を書きすすめることからはじまったのだという。

 先に述べたとおり、現在時は2004年である。そこに1976年と1990年代というふたつの時制が混入する。76年は1917年のロシア革命から60年の節目の年を目前にひかえた年であり90年代──というだけで具体的な設定はあきらかにされていない──はソヴィエト連邦が崩壊する十年紀である。主人公ペトロフは76年の時点で4歳なので72年生まれの私の同級生だが、それはさておき、日本では72年の2月に浅間山荘事件がおこり5月15日には沖縄が本土に復帰している、そのような時代背景のもと、76年のエカテリンブルクでは年の瀬の風物詩ヨールカ祭り──正教会の新年祭、もみの木を飾りつけ、サンタクロースを思わせるマロースおじいさんと雪むすめが子どもたちへ贈りものをとどける──が盛大に催されつつあり、お祭りにでかける内気な4歳のペトロフと母(父とともに家のなかではなぜか全裸)と、ヨールカ祭には欠かせないおじいさんや雪むすめやクマや雪だるまに扮した若い役者たちの人間模様と、おそらく当人たちの記憶にものこらないであろう、一瞬の交錯が76年の世界の主題となる。
 セレブレンニコフは4歳のペトロフと、主要人物のひとりである雪むすめ役のマリーナをきりかえすように描くなかで出来事の立体化をはかるのだが、そのさい各自の主観ショットに仕掛けをほどこし性格を描きわけている。たとえば4歳のペトロフの主観はローポジションの視点そのものに純化する(ペトロフの身体は消失する)が、マリーナの場合、視界に入る男性はなぜだか全裸になるといった具合に。ただし本作ではこれらの内面描写がなにを意味するか、説明らしい説明はない。ただそのようなものとして視覚化する。そのように考えると、ペトロフの両親ともに家のなかでつねに全裸なのはペトロフの目に映る影像として現象していただけなのかもしれない。そのような主観の歪みは妄想や狂気、ときにはオイディプス的な解釈も可能だろうし、事実彼らはそのようにふるまうが、おかしいのは人物だけではない。すべてが狂っており、狂気に染まった空気はあたかも感染するかのように、70年代、90年代、2000年代の時制の隔たりを浸食し『ペトロフ家』のすみずみに満ち満ちていく。
 たとえば2004年の世界におけるペトロフの離婚した元妻ペトロワは女性を抑圧する男性への暴力衝動がおさえられず、攻撃はときに殺人にエスカレートする。他方でペトロフ家の一粒種のセリョージャは口うるさい図書館司書の母よりも、マンガを描くのが趣味の父になついており、離婚したのちも父の訪問を心待ちにしている。ちなみに息子の名であるセリョージャは1990年代の世界で、偉大な作家の列に加わるべく、ペトロフの手により念願かなってピストル自殺を遂げる作家志望の友人の名をとっているので、父子関係はペトロフの幼少期ばかりか90年代をも反復している。当の息子は本作では数少ない穏当なキャラクターだが、ペトロフ家という空間に内在するかぎりその象徴体系は狂気におびやかされつづけるであろう。

 いうなれば『ペトロフ家』はイデオロギーと経済と軍事において異質さを無意識のように潜在させるロシア的空間における、その最小の構成単位である家族の物語であり、いかにハチャメチャであろうとも、というよりむしろ荒唐無稽であればあるほど、家族という閉域特有の切迫感が逆説的にうかびあがる。むろん映像表現でそれをなしえるのはメカニカルな撮影技法であり、なかでも長回し──90年代のパートでは複雑な場面転換と動きのあるまるまる18分を撮りきっている──移動ショットあるいはアクションなどは場面の転換と連結を担い、その滑らかさが『ペトロフ家』におけるイメージの跳躍台となっている。むろんミニチュアなどの小道具やアニメーションやロケーションや音楽も虚構のリアリティを下支えする重要な要素である。ことに前作となる2018年の『Leto-レト-』では80年代のソ連でTレックスやツェッペリンやデヴィッド・ボウイにいれあげる若者たちを描いたセレブレンニコフだけあって音楽の使い方ひとつとっても芸が細かい。一例をあげると、哲学者ヴィーチャ宅で友人イーゴリとペトロフとが酒盛りをする場面(時制は2004年)、政治や宗教に悪態をつきつづけるヴィーチャが手にしたカセットを小ぶりなデッキに入れてボタンを押すとニック・ケイヴとバッド・シーズの “Tupelo” がおごそかにながれはじめる。
 この曲は85年のセカンド『The Firstborn Is Dead』(〈Mute〉)の1曲目で、作中の会話でオーストラリアが話題になる(そしてそれは物語の重要な伏線となる)ことから豪州出身のニック・ケイヴを連想したと思しいが、ケイヴはじっさい旧共産圏で、ストーンズやヴェルヴェッツといったビッグネームにおとらぬ人気を誇っていた。いささか牽強付会だが、先日レヴューしたソニック・ユースがさきごろ Bandcamp に発表したライヴ音源『Live In Kyiv, Ukraine 1989』によせたコメントで、ウクライナ出身で多国籍ジプシー・パンクバンド「ゴーゴル・ボールデロ」をひきいるユージン・ハッツは以下のように述懐している。すなわち「ニック・ケイヴ、ノイバウテン、ピストルズ、ディスチャージにはなれっこだったけど、ソニック・ユースこそ僕らが必要としていた新しいビタミン剤だった」
 いうまでもなく1989年、ウクライナはいまだソヴィエト連邦に属していた。SYは前年にリリースした『Daydream Nation』の成功を受け、やはりまだソ連だった現リトアニアのヴィリニュスからレニングラード~モスクワを経てウクライナのキーウをめぐるツアーに出た。上の発言の主であるユージン・ハッツが足を運んだのは地元キーウの回でいかにペレストロイカ体制下だったとはいえ、殺気にちかい熱気に満ちた音源を耳にすればSYへの期待が尋常ならざるものなのがわかる。この時点でSYはすでにアングラの帝王というよりオルタナのモーセであり、同年ボン・ジョヴィらヘアメタル勢が大挙しておしよせたモスクワ・ミュージック・ピース・フェスティヴァルに共産圏における文化親善大使の座は奪われたものの、リスナーにもたらした影響において比較にならないほどの深度だった(なにせ、ハッツはSYのライヴをみてニューヨーク行きを決意したというのだから)。

 80年代前半のニック・ケイヴもおそらく似たような役割を担っていた。むろんそのような存在もやがてノスタルジーの対象にならないともかぎらない。事実『ペトロフ家』の字幕翻訳を担当した守屋愛がセレブレンニコフの発言を引くかたちで指摘するように本作をみた「ロシアの観客の感想は、昔を懐かしんでノスタルジーにひたり、共感するものがほとんど」だったという。彼らの感想はリアリティの傍証でもあるが、セレブレンニコフの語りはむろんまっとうなノスタルジーにとどまらない。ソクーロフ的長回しに、ブニュエル風の飛躍、クストリッツァ的群衆性、咳つながりで『ヴァンダの部屋』ならぬ『ペトロフ家』などといいだしたら、そいつの額に手をあて熱をたしかめたほうがよさそうだが、どんな妄言や妄想もトロリーバスさながら乗っけてしまう『インフル病みのペトロフ家』のバフチン的な、すなわちきわめてロシア的なカーニヴァル性はコロナが世界を覆い尽くしロシアがウクライナに侵攻した2022年を戯画化する娯楽作となった。

アンビエント・ミュージックの発案者
ポップと実験音楽を横断する希代の芸術家
巨匠ブライアン・イーノの全音楽キャリアを俯瞰する保存版

全音楽キャリアを俯瞰するディスクガイド、一挙60枚レヴュー!

非音楽家の誕生/オブスキュアの革命/サティ、ケージ、ライヒからイーノへ/ボウイのベルリン三部作/クラウトロックとのつながり/アンビエントの発案/トーキング・ヘッズとの蜜月/『No New York』の衝撃/ドゥーワップからヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ドナ・サマーまで/ポスト・パンク時代の門下生たち/ジョン・ハッセルとの絆/アフリカ音楽への熱狂/スターたちのプロデューサー/政治的アクティヴィストとして/ほか

執筆:野田努、小林拓音、松村正人、三田格、坂本麻里子、高橋智子、イアン・F・マーティン(Ian F. Martin)、ジェイムズ・ハッドフィールド(James Hadfield)、松山晋也、北中正和、篠原雅武、徳井直生、廣瀬豊、毛利嘉孝
翻訳:江口理恵
装丁:鈴木聖
菊判220×148mm/アジロ並製/256ページ

★6/3~8/21 京都にてブライアン・イーノによる音と光のインスタレーション展「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」開催!
https://ambientkyoto.com/

目次

■review
全キャリアを俯瞰するディスクガイド
──アルバムほか60枚一挙レヴュー

執筆:野田努、小林拓音、松村正人、坂本麻里子、三田格、高橋智子、イアン・F・マーティン、ジェイムズ・ハッドフィールド
翻訳:江口理恵

■column
私たちは遥か彼方へと進む船を夢見る、1000マイルもの彼方へ──蜘蛛と私、ブライアン・イーノ (イアン・F・マーティン/江口理恵訳)

非音楽家の誕生 (松村正人)
ロキシー・ミュージックという通過点 (野田努)
ワイアットとイーノ──その出会い、分離、そして再会 (野田努)
プログレッシヴ・ロックとのかかわり (松村正人)
イーノとジョン・ケイル (松村正人)
オブリーク・ストラテジーズとは (野田努)
オブスキュア・レコーズ (松山晋也)
サティ、ケージ、ライヒからイーノへ──アンビエント音楽への道のり (高橋智子)
ボウイのベルリン三部作 (野田努)
イーノとニューウェイヴ (三田格)
イーノと女性アーティストたち (三田格)
トーキング・ヘッズとの三部作──イーノがNYにいたことの歴史的重要性 (野田努)
『No New York』の衝撃とアート・リンゼイ (松村正人)
イーノが愛した大衆音楽──賛美歌からVU、ドゥーワップからPファンク、ドナ・サマーからベリアルまで (野田努)
ポスト・パンクとイーノの影響、その門下生たち (野田努)
イーノとジョン・ハッセル (松山晋也)
イーノとアフリカ音楽 (北中正和)
私のなかのイーノ、1973―1983 (廣瀬豊)
スターたちのプロデューサー──U2、ジェイムズ、コールドプレイらとの仕事 (ジェイムズ・ハッドフィールド/江口理恵訳)
ヴィデオ・アーティストとしてのイーノ (小林拓音)
テクノロジーがジェネレイティヴを実現する──ピーター・チルヴァースとの共同作業 (小林拓音)
日常の音楽、反意識の音楽 (三田格)
政治的アクティヴィストとしてのイーノ (毛利嘉孝)
ティモシー・モートンの思考におけるアンビエンスの二面性──穏やかさと空しさ (篠原雅武)

■interview
インスタレーション・アーティストとしてのイーノの魅力
──6月開催の「AMBIENT KYOTO」に向けて (徳井直生)

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
Yahoo!ショッピング
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