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Cornelius

Cornelius

2022.7.30@Fuji Rock Festival

文と写真:大久保祐子   Aug 05,2022 UP

 コーネリアスの “Audio Architecture”という曲には「Quiet!」という合図とともに静寂が訪れる瞬間がある。10秒ほどのその沈黙は自宅のステレオでかけ流していればさほど長くは感じない程度なのだが、ライヴで披露される際に目の前で音が止まった演奏をじっと眺めているとものすごく長く感じる。昨年夏のオリンピック開会式音楽担当の辞任騒動を受けてすべての活動を自粛していた小山田圭吾が、1年越しのフジ・ロック・フェスティバルのステージで復帰を果たしたことについて、その1年を早いと感じる人もいれば、長いと感じる人もいるだろう。少なくともこの日に苗場のホワイト・ステージ前に集まった人びとや、配信の開始を心待ちにしていた人びとにとっては、とてつもなく長く、厳しい1年だったはずだ。

 “Mic Check”からライヴははじまった。「あ、あ、あ、マイク・チェック、マイク・チェック、聞こえますか? 聞こえますか?」 。ユーモアに富んでいながら極めて内向的で孤立した『Fantasma』という作品を象徴するお馴染みのこの挨拶は、25年の時を経て、今夜はステージを覆う白い幕の向こうで待つ人びとへ呼びかけるための言葉に変わった。実は前回2020年1月にZepp Divercity Tokyoで行われたイベントに出演した際にもこの曲からはじまっているので、感情を上乗せしなければまったくいつも通りのコーネリアスの登場だったのかもしれない。それでも久しぶりのステージの1曲目を自身の代表作のオープニングを飾る曲でスタートさせたことで、基本に立ち返るような心意気と感じたのと同時に、開かないままの白い幕に映し出されるリニューアルされた映像は、新しい未来のはじまりを期待させるような高揚感に満ち溢れていた。4人のシルエットが浮かび上がり、頭上に現れた「CORNELIUS Thanksful To Be Here FUJI ROCK FESTIVAL」の文字を指差す。その動作を合図にカラフルで幻想的な照明と映像が音に合わせてぐるぐる交差して消えていくさまは、コーネリアスの音楽の魅力をこれ以上ないほど引き立てる素晴らしい演出だった。

 2曲目の“Point Of View Point”のイントロで、もしかすると今日は姿を見せずにこのままシルエットのみを照らし出した状態で演奏するのではないか? というこちらの不安を遮るかのようにサッと幕が開いて、コーネリアス・バンドが現れた。やっと現れた、と思うくらいその3分程度のオープニングが長く感じたのは、今まで待ち続けた時間の長さが加算されていたのかもしれない。久しぶりに姿を見せたコーネリアスは、いつものようにそのまま何も喋らずに“いつか/どこか”や“Drop”など、ライヴの定番曲を立て続けに披露していった。映像と音をシンクロさせた、無駄のないクールな演奏をしっかりと貫いていた。止まっていた時計がまた動き出すような感覚を肌で感じられた。

 いつもと同じクオリティ、何も衰えていない演奏を保っていたからこそ、サプライズが生きた。1度目は7月22日に配信リリースされたばかりの「変わる消える(feat.mei ehara)」を自ら歌ったこと。元々この曲は、昨年の7月7日にAmazon Musicのプロジェクトである短編映画の主題歌として限定配信されたもので、今回新たにコーネリアスの新曲として再配信している。「変わる 変わる 好きなものあるなら早く言わなきゃ 消える消える 好きな人いるなら会いに行かなきゃ 今 すぐ 早く 早く」。2021年にはすでに完成していたはずなのに2022年現在の閉鎖的な空気や喪失感を捉えるような、まるで予言めいた坂本慎太郎の歌詞が、どこをどう切ってもコーネリアスでしかない緻密なサウンド・デザインに新たな命を吹き込むように言葉を与え、メロディを動かしていく。mei eharaの心地よい歌声ももちろん素晴らしいけれど、この曲を小山田圭吾にも歌ってほしい、と密かに願っていた人は多かったはずだ。
 2番目のサプライズは、終盤にMETAFIVEの“環境と心理”を披露したことだった。METAFIVEは基本的に高橋幸宏とLEO今井がヴォーカルを取っていて、小山田圭吾はギタリストに徹していたが、2020年にリリースされた本人作のこの曲で初めてワンコーラスを歌っている。ただ、ライヴでは2020年の年越し配信ライヴ「KEEP ON FUJI ROCKIN' Ⅱ」と、昨年7月の騒動渦中に行われたMETAFIVEの無観客配信でしかまだ披露されていなかったため、人前で歌ったの今回が初めてだった。長らく発売中止のままだった2ndアルバム『METAATEM』がやっと今年9月に正式にリリースされることが決まったものの、残念ながらラスト・アルバムと発表されていることや、METAFIVEの一員としても出演予定だった昨年のフジロックのこのホワイト・ステージにて、メンバーの砂原良徳とLEO今井が特別編成でこの曲を含めたパフォーマンスをやりきったこと、それらを汲み取ったうえでの選曲だったのかもしれない。観客の期待に応えながら、やり残していたことを自らきちんと回収していく姿は、さすがプロフェッショナルだと感じた。

 それでもやはりいつもと違う部分はあった。序盤の歌声は以前より弱々しく、細く聴こえた。代わりにサポート・メンバーの3人がこの日は本当に頼もしかった。シンセと生のベースを使い分けるマルチプレーヤーの大野由美子は抜群のグルーヴを保ちつつ、コーラスでも時折歌を引っ張る場面があったし、飄々とした出で立ちのキーボードの堀江博久は、恒例の“Beep It”のカウベルタイムで強めに叩きすぎて腕を痛がる素振りを交えながら観客を笑わせる余裕を見せ、ドラムのあらきゆうこはさらにパワフルさを増しながら、曲に合わせて複雑でしなやかなリズムを築きあげている。サプライズの2曲以外は一見代わり映えのないセットリストに見えるけれど、曲によっては映像が大幅にリニューアルされ、アレンジにも細かい変化をつけていた。そしてサングラスの下の表情がずっと見えなかった小山田圭吾が、中盤の“Another View Point”から“Count Five or Six”、そして“I Hate Hate”へと繋がる、ほとんど歌の乗らないゴリゴリのバンド・サウンドの連続でギターに専念した瞬間、目に見えて生き生きとしはじめた様子がわかった。そこから次の曲に進むにつれて、声も少しずつ大きくなっていく。もしかするとこんなふうにライヴ感を出すコーネリアスを観たのは初めてかもしれない。いつどこで観ても一寸の狂いもなく完璧で、ショーと呼ぶにふさわしい近年のあの演奏にはない静かな熱を帯びていた。音楽に突き動かされながら演奏する、小山田圭吾という生身の人間の本来の姿をそこで垣間見た気がして、心を大きく揺さぶられた。

 世の中には言葉にならない感情を別のものや何かを動かすエネルギーに変換して人に与えられる才能を持った人がいて、コーネリアスは間違いなくその才能に長けた音楽家だと思う。最後に演奏した“あなたがいるなら”は、これまで何度も観てきたなかでもいちばん優しく、あたたかく響いていた。気のせいだとしてもいい。この日の復活までの長い時間を見守り、支え続けてきた大勢の人びとのすべての思いがたしかにその場所にあった。誰もがそれを見届けた特別な夜だった。

文と写真:大久保祐子