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Theo Parrish

Deep HouseExperimentalSoul

Theo Parrish

Wuddaji

Sound Signature

MIDORI AOYAMA   Dec 29,2020 UP
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E王

 セオ・パリッシュが6年ぶりにアルバムをリリースした。6年という月日は随分と待たせたなと思うかもしれないが、個人的にはあまりそう待った感覚はしなかった。前作『American Intelligence』もなかなかの衝撃的な内容だったし、何より曲数も多かったのもあって……消化するのにかなり時間がかかった記憶がある。
 14年以降は自身が追求していたライヴ・バンド「The Unit」のプロジェクトも一段落したが、拠点であるデトロイトのアーティストをフィーチャーした「Gentrified Love」シリーズで彼のミュージシャンやプロデューサーとのいわゆる「コラボレーション熱」がより一層加速しているように思えたし、レーベルも個人のリリースよりも後輩や仲間のリリースが目立った印象だ。ジオロジー「Moon Circuitry」やバイロン・ジ・アクエリアス「High Life EP」は彼らのキャリア出世作になったし、UKのベテラン、ディーゴ&カイディ、そしてシカゴの同胞スペクターのアルバムも手がける姿を見ると、自身が先陣を切ってシーンの成長を後押ししているような動きも感じられるくらいだった。

 さて、満を辞してリリースされたアルバム『Wuddaji』。とにかく目を引くのはこの不思議なアートワークだろう。何か等高線のようなものが切り貼りされたアートワークはセオ・パリッシュ自身がコラージュしたもの。LPの中に1枚のインサートが入っておりアートワークについても脚注があるのだが、どうやら「Idlewild(アイドルワイルド)」という地図を用いているのだ。
 脚注の中でこの場所はデトロイトから北西部に300キロほど、シカゴからは北東に450キロほど離れたミシガン湖に近い避暑地のような場所で、1912年以降「アフリカ系アメリカ人(African Americans)」の憩いの場として親しまれ、自然観察やスポーツ・レジャーだけでなく、アレサ・フランクリンやフォー・トップスらがライヴを行なったとも記されている。1964年にアメリカで起きた「公民権運動」の影響で一時利用が禁止される時期があったなどしたが、先祖代々この場所での思い出や記憶を語り継ぐ事で第五、第六世代になった家族たちが現在もこの地でヴァケーションを楽しんでいると綴られている。
 おそらくインサートに記されたアイドルワイルドはまさしくハウス・ミュージックのメタファー(比喩表現)だと推測できる。多くの「アフリカ系アメリカ人」にとって精神的、肉体的な癒しの存在であったり、そこで行なわれてきた様々なクリエイション、そして世代を超えても忘れ去られることなく脈々と紡がれる文脈も非常にシンパシーを感じるところがある。「歴史」とは? 「伝承」とは? 過去から現在まで続くストーリーをセオ・パリッシュ自身はこのアルバムを通してとても丁寧に伝えている。

 アルバム全9曲(E1. “Who Knew Kung Fu” はアナログのみ)を通して基本的に全曲「四つ打ち」をベースとした5分から10分のストイックで全く隙のないロング・トラックがびっしりと並んでいる。アートワークのコンセプトに引っ張られてか少し開放的でオーガニックな雰囲気を随所に感じつつも、相変わらずのセオ・パリッシュ節が随所で炸裂している。
 エレクトリック・ピアノの美しい旋律と共に淡々とトラックが進むA1. “Hambone Cappuccino”にはじまり、アルバムに先駆けて先行でリリースされたB. “This Is For You” ではアルバム唯一のヴォーカル・トラックとしてデトロイトのソウル・シンガー、モーリサ・ローズが力強くもどこか妖艶に歌い上げている。

 タイトル・トラックにもなっているC1. “Wuddaji” では激しいリズム・セッションを披露したかと思えば、続くC2. “Hennyweed Buckdance” ではジャジーなギターリフのようなサウンドがアルバムの音楽性をグッと高めているなど、どの曲も非常にミニマルで渋さもありつつも、サンプリング主体のトラックメイクから本格的なバンド制作や数多くのプロデューサーとのコラボレーションを経て進化~深化したセオ・パリッシュがプロデューサーとして新たなステージに到達した証拠だろう。

 アナログから、CD、カセットテープ、ストリーミングまで全てのフォーマットで積極的にリスナーに届ける気概も含め、アルバム全体のコンセプトやパッケージングまでディテールに拘っている部分はさすがの完成度。ハウスの偉大な先生が2020年に見せてくれた「プライド」に背筋がピンと伸びる。

MIDORI AOYAMA